※基本的に(その正しい姿や伝承は)普通の王国民ではまず知りえません。また、知ったとしても慎重な扱いが必要になることでしょう。チァベ・コィキ・ミレヱについて言及する際はこのような前提があるということをご理解いただければと思います。また、チァベ・コィキ・ミレヱやその分身などの存在をPCとして登録すること、またロールプレイ内でNPCとして登場させることは原則禁止です。
チァベ・コィキ・ミレヱは、マグメール王国建国の際にマグメール初代国王(プロアルケー・ビュトス・プロパトール)と“盟約”を結んだとされるミレー族の伝説上の首長である。“天猫”、“盟約の猫王”などの異称を持ち、ナルラート朝以前のミレー族(特に猫の特徴を持つ種族)の間では祖神として信仰され、非常な尊崇を集めていた。
容貌は非常に美しく、幼い少女の姿であったとされているが、その齢は数百を超えていたとも、天地草昧のときから生きていたともいう。星の光のような煌めきを持つ瞳と、絹のごとき白雪の毛並み(白い髪のこと)を持つと神話中で表現されている。猫のような耳と尻尾を持ち、は非常に立派なものであったことから、当時のミレー族の憧れであった。
神話の登場人物らしく、非常に優れた身体能力を持ち、魔力は非常に強く、あらゆる奇跡を成したという伝承も存在する。絶世の美しさでありながらも武勇に優れ、マグメールの地に現れた様々な邪悪と戦ったことを伝える歌がナルラート朝以前のミレー族の間には広く伝わっていた。特に“暗黒星雲の猫”と呼ばれる邪悪の存在との戦いが有名である。
ミレー族はマグメール王国のような王政を敷いたことはないものの、チァベ・コィキ・ミレヱは実質的にはミレー族の王であったと言えるだろう。なお、チァベ・コィキ・ミレヱの神話は“天猫”、“星猫”の神話としてシェンヤン帝国にも伝わっている。
主にナルラート朝において改変される以前のマグメール王国の建国神話に登場する。マグメールに国となるべき地を求めてやってきた“諸王”とマグメール初代国王と協力し、マグメールの地を侵していた邪神を打ち破ると、マグメール初代国王と“盟約”を結び、“盟約の璽”をマグメール初代国王に奉り、マグメールの地の一部を譲り渡した。これが現在のマグメール王国の起源となる。そして、融和の証としてマグメール初代国王とチァベ・コィキ・ミレヱは婚姻したとされるが、初代国王との間には子孫を残さなかった。また、チァベ・コィキ・ミレヱが初代国王の后となったわけでもなかったという。
チァベ・コィキ・ミレヱとマグメール初代国王が結んだ“盟約”の内容は、「互いにそれぞれの国を侵さぬこと、そして再び悪しき神が現れたときに民族の壁を越えて共闘すること」というものである。王国側では時代を経るごとにこの“盟約”は意識されなくなってきたものの、建国神話の中の“盟約”であることからないがしろにはされず、ミレー族の国を侵さぬようにと伝統的に不干渉が続いた。そして、この“盟約”はナルラート王によって破壊されることになる。チァベ・コィキ・ミレヱの神話は後述するように徹底的に隠滅されることとなった。
現在、この伝説上のミレーの名を知るものは、ミレー族・王国民含め王国内にほとんど存在しない。ナルラート朝における国史の改竄の際に、チァベ・コィキ・ミレヱの存在は抹消されたためである。この改竄の有り様は非常に徹底しており、現在では王国内の如何なる書物を紐解いてもこの名を見ることは不可能であると言っても過言ではない。かつてマグメール王国とミレー族の神話を語り継いできた王城の語り部の古老たちは、異端の手先であるとのことで捕縛され、ほぼ例外なく処刑された。
チァベ・コィキ・ミレヱに纏わる記述の改竄に加わった史官たちも、一人の例外もなくナルラート王によって生き埋めの刑に処されている。故に、この改竄の事実を知るものは国民内からほぼ一掃された。初代マグメール国王がミレー族の首長と“盟約”を結び、更には婚姻していたなどという歴史(あるいは神話)は、ミレー族奴隷化政策を実行するナルラート朝において許されるものではなかったのである。上記のような処刑の記録は残されていない。
ナルラート朝において改変された神話では、ミレー族はマグメールの地にて邪神を信仰し、悪逆の限りを尽くしていた邪なる民である。ミレー族は初代マグメール王により邪神が討伐されると共に降伏し、初代マグメール王の大いなる慈悲により赦され、永久にマグメール王国に服属し、奴隷となることとなったと伝えられる。そこにチァベ・コィキ・ミレヱの名はない。かつて存在した神話は捏造され、王国の国土全体への「精神制御」「記憶改変」の魔術さえも行使されてチァベ・コィキ・ミレヱの神話は闇へと葬られた。
ナルラート朝以後の王国においても、ナルラート朝ほどの苛烈なものではなかったもののミレー族奴隷化政策は続行され、ナルラート朝の神話はまさしく王国の正統なる神話となったのであった。そして、先代王の御世よりミレー族奴隷化政策は苛烈さを再び取り戻すこととなる。
ミレー族の側でも、チァベ・コィキ・ミレヱの名を出すことはナルラート王による処刑という非常な危険を招くこととなったため、ナルラート王の崩御以後もその名は自然と語られなくなり、奴隷化政策が推し進められると共にその名はミレー族の間でも忘れさられることとなった。現在もこの伝説上のミレーの名を知るものはごく少数のミレー族のみである。
しかし、近年ではこの状況が変わりつつある。ここ5年ほど前から“星の聖猫派”と呼ばれるミレー族の過激派集団が王国内に出没し、王国への反抗と称して、主に貴族や王族を対象とするテロ行為を繰り返している。その“星の聖猫派”が主神としてチァベ・コィキ・ミレヱの名を声高に叫んでいるため、その名は王国内でも再び認知され始めている。ただし、過激派の祭る異端の神として。
このミレー族の過激派は、チァベ・コィキ・ミレヱの名を守り続けたためにナルラート朝において非常に迫害された支族の末裔で構成されている。幾多の迫害と王国への恩讐の念により、チァベ・コィキ・ミレヱの神話は著しく変貌を遂げており、“星の聖猫派”の中では、星辰の正しき日にチァベ・コィキ・ミレヱは星より来臨し、“黒の王”の国を白光によって焼き尽くし、チァベ・コィキ・ミレヱの子(“星の聖猫派”のミレー族のこと)の魂を肉体の牢獄から解放し、アイオーンの住まう真なる世界(プレーローマ)に引き上げると信じられている。“星の聖猫派”がミレー族終末派と呼ばれる所以である。
既に王国民はもちろんのこと、ミレー族でもその名と存在は忘れ去られていたため、チァベ・コィキ・ミレヱは双方から過激派の尊崇する異端の神の名として蔑まれている。
“星の聖猫派”の存在はミレー族の立場を更に悪くする存在だと言えるだろう。ただし、一部のミレー族の間では彼らの行動と信仰を評価する向きもある。
なお、かつて存在した神話中において、初代マグメール王の崩御を看取った後のチァベ・コィキ・ミレヱは深き森に去ったとされ、その消息を明らかにしない。マグメール王国建国語も、ミレー族に冥助を与え続け、旧き邪神が甦った際に再び姿を現すと予言されていたものの、ナルラート朝以後はその予言も忘却の彼方へと消えた。“星の聖猫派”はその予言を曲解する者たちである。
ナルラート朝の知られざる記録として、とある“聖猫の精霊”がナルラート王の率いる魔人たちによって捕らえられ、星の彼方へと連れ去られた。そして、渾沌の化身に犯され続け、闇に転じ、“ウルタール”と呼ばれる闇の猫になったというものがある。“星の聖猫派”はどのような経緯からかこの記録を知っており、“ウルタール”こそがチァベ・コィキ・ミレヱその人であるとする。今は闇の者に穢されているものの、星辰が正しき時にアイオーンと共に地上に帰還し、悪しき王国を滅亡させると“星の聖猫派”の間では信じられている。