――「まれびとの国」
そう呼ばれる国があった。
それは、様々な国と繋がり、多くの客人(まれびと)が訪れる国であるためか。
それとも、この土地に先住していた者たちによって称されたためか。
いつしかその国は「まれびとの国」と呼ばれるようになっていた。
その正しき名は、「マグメール王国」といった。
妖精たちが歌い、永遠の若さと豊かさを保つという理想郷、その名が「マグメール」であった。
神代の昔に彼方の地からこの土地を訪れ、国を建国した“諸王”とそれに随従した人々は、土地の豊かさゆえにこの地を彼の「マグメール」であると呼んだ。
そして、自らの国を「マグメール王国」と称したのであった。
楽しき都、喜びヶ原――それが、この国に冠せられた名であった。
人間だけではなく、様々な種族もこの国に住み、この地上の楽園が築かれた。
しかし、それも遥か神代の昔のことである。
この地は、神に見放されたのだ。
剣と魔法。
人と魔物。
民と王。
戦争と平和。
このマグメール王国は、乱れていた。
王城では、王族による王位継承権の争いが繰り広げられていた。
そのために、政治はおろそかになり、役人たちも腐敗した者が増えて行った。
都の治安は一部を除いて悪化しつつあった。
国境付近では先王が起こした他国との戦争が今も続く。
さらには、北方の大地より「魔族」の軍団が現れ、王国に迫りつつあった。
これらの戦火に巻き込まれ、略奪などに遭う村々も数多い。
先祖代々この土地に住み続けていた先住民の「ミレー族」は王国の奴隷として扱われていた。
労働力としてだけではなく、性的な奴隷として扱われる者も少なくなかった。
先住民だけではない。冒険者、一般市民、さらには王族までもが奴隷となることもある。
その多くは、女性である。
王族や貴族であれば、政治闘争での敗北や、政敵の策略によって。
騎士や戦士は、戦争に負け、捕虜となったことによって。
一般市民や冒険者などであれば、暴漢や魔物、腐敗した役人によって。
都や村、郊外に広がる遺跡や迷宮にて、様々な身分の男や魔族、魔物によって、
凌辱され、辱められることは、決してありえないことではないのである。
これらの倫理の崩壊は、「魔族」と呼ばれる者たちの到来によるものであった。
彼らの邪気は、この国を静かに狂わせていた。
しかし、それを知るものは多くない。
かつて理想郷と呼ばれたこの国は、名ばかりのものとなってしまっていた。
それでもなお、「まれびとの国」らしく、この国を訪れるものは未だ多い。
この国はこの有様に成り果てても、巨大な国の力はかろうじて保てていたためだ。
それでも、この国を訪れる客たちは、かつての姿との違いに驚く事だろう。
今日もまた、この王国で、様々な存在の思惑が交差していく――