2024/05/07 のログ
■キュリアス > 「うん、僕ちゃんはご主人様はいるにゃ。
でもご主人様とはもう何千年も会ってないからにゃあ」
冗談のような単位が口から出るが、ここまで奇怪な生き物なのだ。
それが噓ではないと証明することはできないし、そもそも友人にこの猫の話をしても信じてくれるかすら怪しいだろう。
前足で軽く首輪を引っ掻いたあと、プシュケのことを見上げる。
「ありがとうにゃ~。今日プシュケちゃんに会えたのはすごくいい縁だにゃ~。
うーん。思うというより、それが僕ちゃんなんだにゃ。
とにかく、満たされてる人がいると僕ちゃんも満たされるんだにゃあ。
満たされてない人に導かれて、僕ちゃんは誰かと出会うんだにゃ~」
意味深なことを話している。その言葉は要領を得ないが。
どうやらキュリアス自身もしっかりと認識できているわけでもなさそうで。
それ以上を理解しようとしていないだけかもしれない。
だが、考え方自体はプシュケが思っているものと同じなのは間違いないだろう。
「僕ちゃんが欲しい時。猫の手を借りたいと思った時。
僕ちゃんは来るにゃ。そう強く願えば、すぐに駆け付けられるにゃ。
プシュケちゃんが呼んでくれたらいつだって。僕ちゃんのおうちは、みんなの心の中にあるにゃ」
というと、首から今度はプシュケの頭のてっぺんに登る。
その視界にゆらゆらと尻尾が見せられて、ふさふさとした感触が微かに頬を掠る。
「だから、いつだって寂しい時は呼んでくれにゃ。
猫ちゃんは気まぐれだけど、だからこそ受けた分は忘れたりしないにゃ。
あったかいひとは、大好きにゃ。冷たい人も、別に嫌いじゃないにゃ。
満たされない人の元に来るのが僕ちゃんの役割だにゃ」
■プシュケ > 「うん、やっぱりそうだよね。立派な首輪がついているし……何千年?!」
突拍子もない単位の時間がキュリアスの口から漏れて、流石に素っ頓狂な声を上げるが、
改めてキュリアスを見つめると、それが嘘ではないことが知れるから、
自分の『瞳』に信頼を持っているため、それは真実なのだと受け入れた。
満たされているの話題について、ふわっとしていてはっきりとはわからなかったが、
何となくお互いの感覚は一致しているようにも感じられて。
ならばそれでいいのだろうとこちらも受け入れる。
「心の中におうちがある、かぁ……
分かったような分からないようなだけれど、
言いたいことはわかった、かな。
……でもね、そういう話を聞けば聞くほど、キュリアスは猫じゃないよなぁと思っちゃう。
ま、正体が何かなんてどうでもいい話なんだけどね。
……そっか。猫じゃなくて、キュリアスなんだって私は思うことにするよ。」
そして、そんな不思議な存在だからこそ、猫じゃないと改めて口にするものの、
別に正体を知りたいとか、知ろうとしているわけではないことも口にする。
その上で、種族猫、ではなくて、種族含めてキュリアスと認識するとも付け加えた。
「うん、どうしてそうなるかはわからないけど、キュリアスにそうすれば会えるっていうのはわかったよ。
キュリアスに会いたいときには、どこかで心の中でキュリアスのことを呼べばいいんだね。」
■キュリアス > 「僕ちゃんもキュリアスを説明するなんて出来ないから助かるにゃ。
あ、でもそう考えると僕ちゃんってなんだろう?分かってるのにわかってない気がするにゃ。
でも自分で自分を知る事なんて誰も出来ないから答えられにゃいにゃ。
むむむ……うん。僕ちゃんはキュリアス。プシュケちゃんと同じように考えることにするにゃ」
ぴょん、と彼女の頭から飛び降りて、ぶるると全身を震わせる。
そのまま「ふああ」と大きなあくびをして、目を擦り始めた。
少女の瞳を見上げながら、言葉を連ねて。
「そうだにゃ。僕ちゃんはいつだってその人の心の中にいるにゃ。
必ず役に立つとは言わないけど、何かできる時だってあるにゃ。
満たされない心を満たすのは得意にゃ。だからプシュケちゃん」
四足歩行は歩く姿は、本当に所作だけは本物の猫のはずだが。
やはりその外見で猫ではないと思ってしまうのは当然だろう。
少女の瞳にも、そう写っているのだから。
「なんでもいいにゃ。何か今、満たされないことはないかにゃ?
家族のこと、自分のこと、人生のこと、欲望のこと。
なにか欲しいものや、見たいものや、感じたいもの。
友達になってくれるにゃら、僕ちゃんはプシュケちゃんの為になんでもやりたいにゃ。
そうして満たされることなら、本当になんでもにゃ」
満面の笑みは美しく、プシュケの無垢な心を映し出しているかのようで。
そんなプシュケの為に力になりたいという言葉には、きっと噓はない。
それは『瞳』を使わなくてもわかるだろう。
■プシュケ > 「そうだね。それでいいんじゃないかな。
多分私も人間、って言われたとして、人間ってなんだろう?ってなったら答えられない気がするし。」
そんなわけで、キュリアスは猫かどうか論争は棚上げ。
キュリアスはキュリアスでお互い落ち着くことになった。
そして、何か満たされないことがあるかと聞いてくるキュリアス。
少し考えたが、特に今の今ではあまり思いつかなかった。
「そうだなぁ……今の今でぱっと思いつくことはあまりないかも。
強いてあげれば、学院に行かなくちゃならないこと位かなぁ。
学院行かなくてよければ、もっと家族と一緒にいられるのにって。」
結局は、それ位のものしか出てこなかった。
とはいえ、キュリアスが言わんとしていることは伝わったから
「でも、今がそうなだけで、いつもいつも満たされてるわけじゃないことは私自身わかっているから、心で何かが欲しくって、それがすぐ満たされない時には、キュリアスを呼ぶね。
多分、きっと、そういうことなんだと思ったんだ。」
あってるかな?と小さく首をかしげて付け加えた。
■キュリアス > 特にはなさそうだというプシュケの様子に、キュリアスは首をかしげる。
「う~ん?でも、僕ちゃんの事を見つけられたのならそう言う事だと思ったんだけど……。
でも、多分寂しい気持ちがあったから僕ちゃんの事をきっと見つけられたんだにゃ」
そう告げると、プシュケの瞳から顔を逸らして。
「うん。そういう時は、多分僕ちゃんからプシュケちゃんのことを見つけに行くことになると思うにゃ。
それに、きっとまだ気づいていないだけだと思うにゃ。
今はそうでも、その内わかるだろうし。僕ちゃんは気長に待つにゃ」
大きく首を傾げたプシュケに、一度頷いて。
ぴょん、ぴょん、とまた先ほど寝ていた木の上に登っていくと。
そこからしばらくがさがさと聞こえて。ぴょん、とまたそこからキュリアスが落ちてくる。
今度はさっきみたいに無様に落ちるわけではなく、羽のようにふわりと着地して。
その口には、真っ赤に成っているリンゴが咥えられていた。
「とりあえず、一番食べ頃のリンゴあげるにゃあ。
お茶菓子でお腹いっぱいにゃら、明日のアップルパイにでもするといいにゃ。
学院はいろいろ、一人でやらないといけないこともあるから大変だろうにゃあ。
幸せな家族なら、余計に離れるのも嫌だろうからにゃ。気持ちは分からなくても、心はわかるにゃ。
寂しさを埋めたい。温もりが欲しい。そんな簡単な時でも、僕ちゃんは来るから安心してにゃ」
そうリンゴを置いてから、プシュケの足首にもう一度首を擦り付けて。
■プシュケ > 「寂しい気持ちが全くない人間はいないんだと思うの。
だから、偶然キュリアスがそういう部分で私を見つけたのかもしれないし、
もしかしたら私がまだ理解していない何かがあるのかもしれない。
うん。そうだね。気長に待ってくれればうれしいかな。」
そんな会話のあとで、木の上へと昇っていくキュリアス。
暫し下から見上げていれば、リンゴの実を取って降りてくる。
そのリンゴの実を受け取って、足元に身をこすりつけるキュリアスに網を向ければ、そっと手を伸ばして
「うん、良い香りのリンゴありがとう。
いいものをもらったから、とりあえず一緒においで。
お友達を部屋に招くのも、良くある話だよね。」
キュリアスなりのおもてなしをもらったと認識した少女は、
今度は自分がちょっとしたおもてなしをと思った様子。
故に手を伸ばして、キュリアスが受け入れてまた方や首や頭の上に載ってくるのなら、
そのまま一度家へと戻ろうと。
そのあとは、室内で今しばらく楽しい歓談が続くことだろう。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からプシュケさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からキュリアスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区『BAR アメジストセージ』」にレアルナさんが現れました。
■レアルナ > 【待ち合わせ待機です】
ご案内:「王都マグメール 富裕地区『BAR アメジストセージ』」にコルボさんが現れました。
■レアルナ > 「ふふっ。
ご主人様との相性が良すぎたのかもしれませんね」
眼の前の男はおそらく呆れているのだろう。
さすがに人前で遠隔プレイはやりすぎたかもしれない。
自分でも洗脳されることに興奮してしまうというのはおかしな性癖だと思う。
ご主人様も自分に対してもっと主体的に動ける影としての働きを期待しているフシがある。
それに応えたい気持ちがあるのは確かだがもう一方で操り人形にされたいという欲求があった。
甘いカクテルで唇を湿らせると小さく吐息をつく。
「洗脳される前の私の復元ですか…
それにしても
『本当の私ってどういう人だったのでしょう?』
と貴方に聞くのもおかしな話ですね」
くすっと笑ってグラスを置いた。
明らかに狂っているのだろう。
尊厳を破壊されて操り人形にされたと自覚しているにも関わらずご主人様を恨まないどころか依存してしまっている。
価値観や行動原理から変えられてしまったのだろう。
「ともかくそれがご主人様のご意思なのであれば私は従います。
今度、消えてしまった私がどんなエルフだったのか教えて下さいね」
平気でこんな言葉が出てしまう。
私がご主人様に売り渡したお姉様は私ほど自我が残らず本当に操り人形になってしまった。
お姉様の状態には羨望を感じることもあるがご主人様はお姉様をあまり評価していない。
単純な魔力だけならお姉様のほうが自分よりも大きい。
であれば、やはりご主人様が必要としているのは主体的に動ける影なのだろう。
きっと尖兵なら既に間に合っているのだ。
「あ、自己洗脳オナニーですか?
そうですよ、もっとご主人様に忠実なお人形になれるようにオナニーしながら自己催眠を重ねるんです。
とても気持ちが良くって癖になるんですよ。
けど、そうですね…せめて隙がなくなるように暗示の内容を工夫してみますね」
オナニーの感覚を思い出しそうになって身体を震わせる。
こんなお店の中で濡れてしまうわけにはいかないので下半身に力を入れて我慢をした。
眼の前の男は案外自分のことを心配してくれているのかもしれないと少し好感を抱く。
「そうですね…
ご主人様は私に気を使ってくださっているのか乱交のときは綺麗な女性や可愛い女の子を集めてくださいますね。
別に男性がダメというわけではないのですが…ふふっ。
あ、ご主人様が他の方となさっていても私は構いませんよ?
操り人形がご主人様を専有するなどあってはならないことですから」
またうっかり惚気けてしまった。
眼の前の男にこれ以上呆れられないように気を取り直して話を続ける。
ご主人様の寵を得ることを餌に男は自分を釣ってきた。
このエルフの女はその誘惑にはめっぽう弱い。
「ご主人様が必要とするくらいのスキルがそう簡単に身につくとは思いませんが…
何事も始めてみないとわかりませんよね」
知識を詰め込むだけであればそう難しいことではない。
しかし諜報に関わるスキルは知識だけの範疇に収まるものではない。
感覚を研ぎ澄ますことも知識を知恵として運用することも経験の量も求められる。
幸いなことに人間観察は元々好きだったので、人から情報を読み取る技術であれば比較的習得しやすいかもしれない。
「コルボ様に基礎だけでも訓練していただいてよろしいでしょうか?」
エルフと違って人間はあまり長く生きられない。
のんびり構えていたら教えてもらいたくても教えてもらえなくなってしまう。
増してや彼は……
「ご主人様に万が一が起きる可能性を潰すためには、貴方が倒さなければならない敵をよく知らなければなりません。
私がさせていただいたのは占いであって予言ではありませんので…見えたのはイメージだけです。
よろしければ貴方の敵について教えて下さいませんか?」
ご主人様と彼の間のことであれば干渉するべきではないと思っていたが、自分が動くことでご主人様を守ることができるのであれば話は別だ。
彼には好感を感じるもののご主人様と比べることなどできるはずもない。
策を講じて件の敵を出し抜くのであればそれが何者なのかをまずは知る必要がある。
「胸については……そのうち考えるといたしまして」
こほん。また咳払いをした。
「では件の氏族を消すにあたり男性の尖兵を何名か選りすぐっておつけいたしましょう。
捨て駒にするのであればその方が気が楽です。
何にせよ権益についてはお任せいたしますね。
ご主人様もそのあたりはさほど興味を感じておられないようでしたので」
得られたものはすべて眼の前の男が利用するのであればそうさせれば良い。
彼が志を遂げるために使うのであれば最終的にはご主人様の利益となるのだ。
「学院というのはコクマー・ラジエル学院のことでしょうか?
そうですね……これまでは無用な摩擦が起きないように接触を避けていましたが…
何か学院に入り込める理由があるなら覗いてみるのも面白いかもしれませんね」
あまり先生のようなお仕事には向いていないかもしれませんが、と付け加えて小さく舌を出した。
講師として入ってしまうと人前で魔術を晒してしまう機会があるかもしれない。
安全を期するなら魔力は可能な限り秘匿するべきものだ。
もし入り込むなら非常勤の事務方などの目立たない職種の方が良いだろう。
「では件の家に侵入するときには相談させていただきますね。
実地で訓練するのも悪くはないでしょうし貴方の支援があれば危険も和らぐかと思います」
占ったとおりなら、彼の支援を受けることができるのはあと数年しかない。
であれば技術を吸収できるうちに吸収してしまう必要がある。
正直なところ世界の行先にはさほどの興味もなかった。
ご主人様に支配されることはとても気持ちが良いことだし操り人形で遊ぶのは好きだが、政治に関わることにはさほど魅力を感じないのだ。
■コルボ > 「実際今までいなかったからな、ここまでの相手って。
レアルナだって”商品”見てたら同じようなのがいないの気づいてるだろ。」
人格を残す。それは洗脳する者にとっては技量が試される反面、
非常にリスクが伴う。
スルーシャという女はリスクに非常に敏感な女。
諜報員だというのに最も情報が集まる王城と学院を行動範囲から外すほどに。
……レアルナも尖兵をそこに送り込むことはあれ、レアルナ自身は近づかぬよう厳に仰せつかってもいるだろう。
「……そう言う言葉が出てくる時点で、レアルナは今が一番幸せなんだろうな。
多分、スルーシャの中じゃあいつがそう望んでたら少なからず片鱗でも、
お前の頭の中に望んで浮かんできそうなもんだ。あいつにとって洗脳とは、
支配ってのはそういうもんだ。
……でも、今のお前さんはご主人様の意に反してそれが浮かんでこない。
よっぽど、満たされてなかったことを自覚したのか、
己を砕いてまで尽くしたいと思っちまったのか。
……だから、今のままでもいいんじゃないか?
あいつが望んでる昔のレアルナって、全部欲しいって愛情表現なんだろうしな。
だからもっと、別の形で応えてやればそのうち言わなくなるだろうさ。」
主の望み。貴女の望み。その両方を別の形で満たす落としどころだとそう告げる。
主は独占欲を際限なく膨らませ、人形は束縛願望を無限に広げていく。
であれば、別の形の幸せもいずれ見出せるだろうと。
狂っている。そんなことは些細なことで。大事なのは、満たされることであろうと。
その愛を、狂気を男は全て肯定してカクテルを飲み干して次を頼み。
「ただ、しいて言うなら、普通のエルフだったな。
むしろ、だ。消えてしまったっていうより、内側にそんな滅茶苦茶な欲望抱えてたことを知らなかったレアルナ、ってのが
昔のレアルナだったんじゃないのか?」
つまり、記憶を消去して再洗脳される。無垢なままで染め直される。
主の欲望を満たす為に、記憶を消して、何度も、何度も、様々な手管で支配される。
それは期せずして、貴女の奥に秘める強い欲望と男の見解は一致していて。
欲望。その赴くままに魔力で凌駕する姉でさえ成し得ぬ戦果を挙げる貴女を見据えて。
「なんていうか、聞いてるとレアルナの場合の洗脳の結果って、
恋は盲目ってやつとあんま大差ない感じだな。
……そう言う意味じゃ常にレアルナはスルーシャにとって初心なエルフ、なのか。
そういうのが好きなのかあいつ。
自己暗示、洗脳の応用で武術の達人がやるようなルーティンを
苦も無く安定してレアルナは自分に仕込めるだろうからな。
考え方ひとつで隙どころか無意識の反応で戦果はいくらでもあげられるだろうよ」
心配はしている。同胞として。
男にとって魔性であろうが、洗脳された魔将であろうが関係ない。
友好的であれば、有能であれば、かつて持ち得ていた情を以て接しもする。
男にとって、誰であろうと”怨敵”以外は皆味方になりうるのだから。
「なぁーに言ってんだ。レアルナがスルーシャの嗜好をそっちに偏らせてんだろうが。
だったらそのまま甘えちまえ。あいつお前の積極性が欲しいんだろ?
だったら、丁度いいじゃねえか。
欲望を少し押し付ければ、残りの人形としてのお前を今までの倍可愛がってもらえると思ったら
投資に対してのリターンはデカいって感じだろ?」
需要に対して少し供給するだけで大きな見返りがある。
洗脳された相手に、無粋な言い方ではあるかと少し唸ってしまう有様で。
「さっきも言ったけど、今のレアルナは他の奴にない強みで自己洗脳がある。
それをお互い話し合って運用の方向性を掴めば基礎どころじゃないビジョンはあるよ。
最初っから、今のお前は熟練の達人が編み上げる精神性をいくらでも作り出せるアドバンテージがあるんだ。
……もしかすると例のブレードダンサー。あいつ自身の好みもあるんだろうが、
レアルナにそういうスタイルを確立させる為のモデルケースとしても狙ったのかもな」
経緯は明かさないにしろ、ご主人様の洗脳を受けて逃れたという男。
故にこそ、ご主人様の手管を詳しくその身に覚えていて、一つの可能性を見出す。
レアルナもまたご主人様の外法、人間を呪具に変えてまとわせる魔装……。
そうでなくても人形同士で精神をリンクさせる術がある。
男から学ぶのは技術そのものもだが、何よりご主人様に匹敵する分析能力と、
危険を回避する為の心構えであろうと接触しているうちに分かるだろう。
危険回避。それは伝統を重んじ忌避と隔絶を種族性とするエルフには、
少し学ぶだけで本能がすぐに取り入れてしまう事にもなるだろう。
「……敵については、今度別の場所で話すよ。
ただ、一つ言えるのは文献がないってことだけだな。」
ここでは話せない。だが、協力できるなら願ってもないと、
後日人のいない場所で話すことを告げる。
文献がない、エルフが知らぬ。だが、警戒心と分析に長けた二人が共通して
利害を越えてでも危険性を感じている敵の存在を。
「お前ちゃんと自我あるっぽくない?」
欲望に素直だなーほんと、などと思ってしまう。そも、欲望を持つなど人形には不可能なのだ。
そう言う意味ではレアルナはきちんと、それもしっかりとしたベクトルの人格を持っている。
だからこそ、破滅願望にも似て、その自我を塗り潰されるだけの洗脳と支配を欲する願望があるのだろうと。
「了解だ。じゃあ良いように動かせてもらうよ。
そっち方面の利害は、じゃあこっちで調整するかな。
あいつにゃあっち方面から交易で得てた材料を格安で確保できるようになるって伝えておいてくれ。」
表向きの調停と勢力の調整はこちらの仕事。
裏向きの制圧と勢力の殲滅はそちらの仕事。
後に、男から学ぶ情報分析を持ち得れば、男が大きく仕事をするわりには、
ご主人様を含めた多方面に利益が行くようにして、何より己には
個人として得るには大きいが、成果全体で見れば微々たる対価しか得ていないと分かるだろう。
まるで、生きているうちに遺産の分配をしているように。
「なら、動いてみるか。スルーシャに洗脳をし直してもらって、
表向きには洗脳の魔力を今までより隠蔽できるように検討してもらっといてくれ。
今のままでも大丈夫だと思うが、学院の対魔族と魔族の術への結界は強いからな。
念には念を入れた方が良い。
……スルーシャにまた洗脳してもらえる良い口実だろ?」
滅茶苦茶餌をぶら下げて来る。男の交渉術が対立や駆け引きではなく、
懐に潜り込んでひたすらに相手へメリットを提示するスタイルで。
それは同時に、敵意を抱かなければ、レアルナの洗脳も看破されにくいだろうと。
「ああ。少し練習と検討、打ち合わせをすれば大丈夫なだけの材料はレアルナには揃ってるからな。
お前自身が大船だ。しっかり練習台相手にスルーシャのご褒美目当てに愉しめ。」
たった数年。だが貴女に必要なことを教えるのは十分だと。
ご主人様と似た堅実さと立ち位置で、考え方も視点も逆。
だからこそ、ご主人様にないアプローチで貴女の進化の道を指し示す。
もちろんそれを果たせばご主人様にどんなふうに”滅茶苦茶に壊してもらえるのか”まで
明確に提示してしまう悪い先生だった。
■レアルナ > 「そうですね……。
少なくとも喜んで洗脳される子は見たことないです。
私も多分はじめて洗脳されたときは嫌がっていると思いますけど…」
カクテルの入ったグラスを指で撫でながら薄靄がかかったような記憶を探る。
ご主人様と出会う前の記憶は残っているが、普通ならあるべき記憶に結びついた感情が欠落している。
反対にご主人様と出会ってからの記憶はご主人様への執着とも言えそうな思慕で塗りたくられていた。
「そうですね……幸せですよ。
ご主人様に常に管理されていると思うと濡れちゃいそうになりますし。
確かに、元々の気質をあまり思い出せないのは洗脳だけのせいではないのかもしれませんね。
ご主人様に尽くしたいと思っているのは洗脳のせいだと思いますけど…こうして幸せなら無理をして思い出す必要はありませんよね。
それに必要ならご主人様がふさわしい人格を植えつけてくださるでしょうし…
っはぁ…♡」
新しい人格を植えつけられることを想像してしまって股間がまた熱くなった。
勃起した乳首がドレスの裏地にこすれてくすぐったい。
性感を酔いでごまかそうとグラスをつまんでカクテルを喉に流し込んだ。
「ん……♡」
独占欲は人が誰しも持っている欲望だが自分にはそれが薄い。
それよりもご主人様の好きなように扱われたい。
男に遅れて自分も新しいカクテルをオーダーした。
「そうですね…元々支配されたいという欲望を持っていたのかもしれません。
そうでなければもっとご主人様の支配に抵抗していたのだろうと思いますし、心の何処かに引っかかりが残っている気がします」
洗脳されて支配される。
ご主人様に好きなように染め直される。
そんな欲求があったからこそご主人様の魔力がこの身体に深く定着しているのだろう。
魔力の相性というよりも潜在意識が持っていた欲求があったからこそ深く支配されている。
これは他の誰かに捕まって別の洗脳を受けやすいということでもあるが、それはそれで楽しめそうでもある。
今のご主人様なら他の誰かに奪われた自分を取り戻しに再洗脳してくれるかもしれない。
とても興奮する。
「あははっ、恋ですか?
う~ん、元々私にはお姉様がいたわけですし、そうなる下地はあったのだと思います。
けど、私の自己洗脳は武術の達人の鍛錬みたいな高尚なものではありませんよ」
くすくすと笑って新しく出てきたグラスに口をつける。
少し強めの酒精が舌の上で蕩けていく。
「どうなのでしょう?
魔術的な隙であれば結界を厳しくするなりアイテムで補助をするなりして小さくすることはできると思います。
性格の隙も自己洗脳をすることによって少しずつ小さくしていけるかもしれません。
けど、私の洗脳されたい願望から生じる隙は埋めるのが難しいですね」
グラスを置くと男の目を見つめる。
考えてみれば男性とこうして友好的に会話をするのは久しぶりかもしれない。
冒険者であった頃は確か男性の仲間もいたはずだ。
その頃の記憶からは感情が欠落してしまっているので好意を抱いていたのかは覚えていないが。
「あはははっ、ご主人様の嗜好は私のせいですか?
それはとても嬉しいですし、甘えたいとは思っていますけど。
もっと、欲望をぶつけても良いんでしょうか?」
欲望をぶつけるとしたらもっと深く洗脳して欲しいということになる。
しかし、これ以上どこをどう洗脳すれば良いのかご主人様も困ってしまうかもしれない。
「ふふっ。
投資はお金だけです。
ご主人様に甘えるのは私がご主人様が大好きだからですよ」
たぶんそこに損得勘定はない。
ご主人様に愛されるのは嬉しいがご主人様を独占したいかといえばそういうわけでは無い。
自分のせいでご主人様が動きづらくなってしまうようではいけないと思っている。
「何を言ってるんですか。
諜報ってそんな精神性だけで済む話ではありませんよ。
そんなことを言ってしまっては世界中のスカウトやシーフたちに抗議されます。
……あの子についてはご主人様の気まぐれだと思いますよ?
戦場でたまたま見つけたと聞いていますし」
ただ、ご主人様の外法の一つを使えば確かに手っ取り早い技術の習得もできるだろう。
スキルドレインとでも呼ぶのだろうか。
古い魔導書で犠牲者から刈り取った頭だけを生かして外部記憶ファミリアを作った妖術師の記録を読んだ記憶がある。
男の“怨敵”の話はここではできないようだ。
もしかしたら話題にしただけで何かが起きる類の存在なのかもしれない。
だとすれば話をするときも厳重な結界を張っておく必要があるだろう。
「ええ、文献が残っているのであれば私も少しは聞いているでしょうから」
世界中の魔術に通じていると自惚れるつもりはないが、男に刻まれていた印は知っている魔術のどれとも異質な何かだった。
記録に残っていないのであればご主人様が手を焼くのも頷ける。
「自我が消えているわけではないですよ。
元の自我を覚えていないだけです……多分」
もちろんそうである自信はない。
この自我がご主人様が一から創造した限りなく都合が良いものである可能性も捨てきれない。
もしそうだとしたら……興奮する!
また股間が濡れそうになってぎゅっと股の間に力を入れて我慢をした。
「ええ、そちらはよろしくお願いします。
成功のお知らせをお待ちしておりますね。
ご主人様にはそのようにお伝えしておきます……いえ、もう伝わっているかと思います」
そう言うと長い耳から下げたアクセサリをひと無でした。
交易で得られる材料は多岐にわたるものだろう。
詳しくはないが砂漠の国でしか得られない産物も多々あるはずだ。
それこそ新しい奴隷も。
「ええ、承知しました。
ご主人様にお願いして調整していただきます。
やはり学院の結界は強固なのですね……」
ご主人様に新たな洗脳を受けられると思うとドキドキしてくる。
どこまで心と身体を弄ってもらえるのだろう?
また濡れそうになるのを下半身に力を入れて我慢する。
結界の内部に入り込むために魔真珠を除去せざるを得ない可能性があるが……
それがご主人様と相談しよう。
「ええ、よろしくお願いします、先生♡
しっかり訓練してご主人様に喜んでいただかないとです」
人間にとっての数年とエルフにとっての数年は等価ではない。
とはいえ、普通はノウハウが隠匿されている諜報関連のスキルを熟練者から学ぶ機会は貴重だ。
チートの手段も無いわけではない。
大きな右目を軽く閉じた。
■コルボ > 「……レアルナの場合、その当時の記憶さえ喜んで受け入れたって自分で改竄してるまであるからな……。」
初対面だったのに大分分かって来た。というかブレない。一貫性しかないこのエルフ。
こんな清々しいまでに潔くエッチに洗脳されることがあるのかと思うほどに。
それは裏を返せば、それまでの人生に自身が満たされていなかったという証左でもあるのだろうが。
「お前興奮するのはいいけどここで俺とお前が変な噂立ってスルーシャに恨まれるの俺のほうだからな?
……お前にゃ何の問題もないのか……。」
同性愛者とこうして関わることは多々あるが、ここまで目の前で惚気られるのも中々ない。
だがそれで悪い印象を抱いてるわけではない。
この洗脳も、自身が望むままに己自身を洗脳した結果。
ならば、少なくとも不幸ではないのだから。
「そこなんだよなぁ……。
世間的には洗脳は悪しき、歪めて原型を残さないものだけど、
レアルナの場合は自分を洗脳した結果、望む形になった結果が
スルーシャの望みでもあるからなぁ。
こういうケースは出会い方が違うだけで、恋愛カウントでいいのかねもう……。」
依存性のない恋愛など、極論ないのだとすれば、たどった道の違い程度でしかないのだろうかと。
レアルナが言う通り抵抗が幾ばくか残る。それがエルフ相手なら尚更。
洗脳に置いて海千山千百戦錬磨のスルーシャと言えど容易にいかなかった筈だと。
その考察はお互いに一致していて、だからこそ、満たされる形がそれしかないのであれば、
これは最適解であったのだろうと。
男の考察が、倫理観や常識に囚われない、観察する者の本質だけを見据えて、
是とする姿勢は、どちらかといえばエルフや人ならざる者の見識に近く。
だが、どう見ても人。欺いてるのではない、魔力を見れば一目瞭然。
膨大な、それこそご主人様を遥かに凌駕する魔力は感じられる男。
だが、それが外に漏れ出ることはない。よく見据えれば見える程度。
それほどに、男は己で行使できないほどに、魔力をほとんど行使できない。
まるで、贄になる為に生まれてきたかのような性質を見るだろう。
「……あ、これから潜入とか仕事する時は無理して誰かに捕まって洗脳されて
スルーシャにまた洗脳してもらえるような状況作るなよ」
滅茶苦茶見てる。もうお前の性癖大体わかったぞって目で見てる。
洗脳を性癖扱い。
「達人そのもの、と言わなくても、疑似的なことはできるよ。
レアルナみたいに主への忠誠、己への洗脳、強化された魔力経路。
少し上げるだけでも再現するメソッドは組める。
……それに、その下地に、スルーシャから上乗せされる魔装の類はもらってるだろ?」
魔真珠だとは思っていないが、それなりの魔具を与えられてまで洗脳されているだろうと。
それは言い方を変えれば、スルーシャとの絆を力に変えられるとも言える。
「そこまでできるなら後は”小さくても自分が対処をしない、相手に見られてる隙がある”って前提を持てば隙はなくなるよ。
スルーシャ見てみろ。あいつびっくりするぐらい小さな隙も警戒してるだろ。
だから学院もこれまでは対策なしに近づくなって言ってたろうし」
友好的、好感を持てるどころか、洗脳された今の貴女、闇に染まり切った貴女の全てを肯定した上で
短所を、長所を挙げて運用の別の可能性を提示していく。
敵対するはずのご主人様と性癖についてだけは見解が一致する辺り、ご主人様と同等に好色なのは明白。
だが、濡れた恍惚を、尖り切った蕾へ向けるのはそう言う視線ではなく、
どちらかと言えば主が貴女の身を案じて立ち回るに近く、
周囲へ牽制するように一瞥を向ける程度。
貴女の狂おしい忠誠への敬意が見えて。
「その辺がパラドックスになってるというか……。
あいつはレアルナにもっと求めて欲しい。
レアルナはあいつにもっと染め堕として欲しい。
矛盾してるっちゃしてるけど、しっかり伝えて、だけじゃ今まで通りか。
……よし。レアルナ、何か洗脳するのに使う強度の高い薬あるか?
お前が望みそうなベクトルに堕ちそうなの。
れしぴ出来てて材料集めるのきついなら、あいつに内緒で俺等で集めて、
レアルナがあいつとセックスする時に目の前で飲んで見せるのはどうだ?
仕込みと行動で意思表示。スルーシャに頷かせるだけの身を捧げる意思表示を
具体的な形で見せてみるんだ。」
夜の営みで妻が夫の前で媚薬を呑んで見せるかのような挑発行為。
スルーシャの行動がある種の奥手。良く堕ち染まった貴女への敬意が邪魔しているなら、
それを越えるだけの誘惑を洗脳の分野で見せてみては、と。
「……出来るさ。ただのチンピラだった俺が今こうして、考え方ひとつ変えるだけで、
お前のご主人様と立ち回れるだけに変わっちまったんだからな。
スカウトもシーフも”個人を自覚したまま”だから抜け出せないだけだ。
それを捨てた俺も、主の為に洗脳で生まれた自我と喪失を両立できるお前も性質は近いんだよ。」
ひたりと、言葉に生まれるのは虚無。
精神性だけで。そう否定した貴女の魔力を増大させたのも、
他の尖兵よりもはるかに凌駕する、時に主さえ凌駕する功績を残しているのは、
洗脳という形で精神性を変えたことで立ち回れている。
少なくとも、目の前の凡人は主と渡り合えるほどに”精神性を歪め尽くした末に変わり果てた”のだと。
己を捨てて尚、知性を、思考を保持できる矛盾。
目の前の男にご主人様の洗脳が通用するはずがない。
目の前の男も貴女同様に自己洗脳を常に、それも執念だけで繰り返していて。
「ま、話は半分程度にしといて。使えるもんは持ってけって話だよ。
少なくともレアルナはスルーシャ絡むとモチベーションお化けになりそうだからな。
そう言う意味じゃそこいらの対価がせいぜい金銭のスカウトやシーフじゃ届かない速度で化けるよ。」
と、虚無を生めるように男の言葉へ人間性が生まれていく。
人は極限まで心を絞り込めば、己さえも歪められる。
男が貴女に教えようとする潜入術は遺跡や魔物ではなく、対人特化。
どこまでも己の形を変えられる"精神性の変化であろうと。
「レアルナはこう、その興奮してるのが一番の隙だって考えた方がいいぞー……?」
手に取るように興奮してるのが分かるのは同類だからか。
偽の記憶を植え付けられて一から歪められてるまで考えてたりするのかなーなどと。
「あいつそこらへんはほんと合理的だからな……。
なんならレアルナ帰ったら手駒の手配終わってるまでありそうだな。
俺も今日は帰ったら夜更かしして準備ぐらいはしとくか……。」
目の前の人形と同期しているご主人様のことを告げられて、
こと己にはないマルチタスクの強みを生かして手札を切る仇敵を思い返して。
ならば、相応にこちらも応える必要があろうかと。
「そうだな。そこはむしろどういう手段か、は、レアルナ自身が潜入して情報集めるほうがいいかもな。
少なくとも魔族や侵入者に特化してる節はある。
エルフで、正規に手続きして学院で仕事するなら、レアルナは滅多なことでは
標的になることはないだろうさ。」
場が不利なようで、有利な部分もある。全てを把握して自分に最適な立ち回りを模索する。
学院はレアルナにとっては脅威、からまさに学び舎となるのだと。
「ま、レアルナは優秀な諜報員の要素揃ってるし手札増やしてるからな。
俺を先生扱いするのもすぐ終わるだろうさ。
……レアルナとスルーシャは俺と違って一人じゃないからな。
二人で幸せになることだけ考えて頑張れよ。」
と、歪んだ欲望で己を洗脳し尽くしたエルフへそう告げてグラスを傾けて
祝福の乾杯を求めるのは、
貴女とは真逆に、失い歪んだ末に己を執念で染め尽くし歪み作り変えた男が忘れて行った願いを託すための儀礼。
洗脳された者が不幸になると確定しているのではないのだと、二人で証明するための誓い。