2019/02/08 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にエーシアさんが現れました。
エーシア > 【夜】

「んん~~」

思い切り伸び。
ぎちぎちと身体が軋むのを感じながら浴槽から立ちこめる湯気を一身に浴びる。

中途半端な地位の為、言う事を全く聞かない下とただ命令するだけの上との板挟みにあった遠征もやっと終わりを告げ、久しぶりのオフ、と言う訳であった。

滅多に来ないのだが纏まった休暇となったため、宿も取って数日の休暇を満喫するつもりだ。
日頃の疲れとストレスを発散するのだからたまには奮発しても罰はあたるまい。

宿を取り、簡単な夕食を食べ、念願の入浴。
時間もやや遅いのか、場所が奥まっているのもあってか人の気配はほとんどしない、現時点では貸切、のようなものであった。

「よっ……と」

ちゃぽん、と足の先を湯へと付ければじんわりと湯の熱さが足先から伝わる。
タオルを近くのザルへ入れて裸になればそのまま全身を温泉へと浸した。

「あー……」

ぼやぁ、と心身が暖まりふやける感覚。
入浴自体久々だった為、その気持ち良さもまた格別であった。

エーシア > じくじくと日頃の全身にある生傷が染みていくがそれもまた一つの醍醐味、というものであろう。
ばっさりとない片腕の付け根もやや痛みを発するが今更なので気にしない。
使える片手で全身を揉み解す。


「ほんっと人遣い荒いんだから……」

叩き上げの為、結局身分としては平民の為いいようにこき使われる立場なだけに使い捨てられても構わない、そんな扱いではあるが。
生きていられる分だけマシではある、と自分に言い聞かせる。
盗賊なりになるというのも一つであったが、事と成り行きと言うものはわからないものだ。

湯船で身体を伸ばし身体を湯へと預けてゆらゆらと揺られながら。
ああでもこの休暇が終わればまたあの生活かあ、と温かさでふやけて胡乱になった頭で想像する。

「……」

何となく、そんな胡乱な状況でも現実に引き戻されそうだったのでぷるぷると首を振り、顔へ湯をばしゃばしゃとかけながらその考えを脇へと追いやった。

エーシア > とにかくこの後(後過ぎると仕事になる)ので楽しみを考えようとする。

あがればとりあえず酒場へと繰り出して美味しいものを食べる。
今日ぐらいは勿論奮発するつもりではある。
 
……そう言いながら毎度後々の事を考えてしまい、若干抑え目にオーダーするのも何時もの事ではあった。
この辺りはどうやっても貧乏性が抜けないが、毎回決意だけはする。
決意だけは。

その後は部屋に入って寝酒をちびちびとやりつつ、だらだらと過ごして次の適当に起きればまた風呂。
そして更にご飯。

「……後は……」

結局ご飯と風呂しかなかった。
賭け事もあるのであろうが幾ら贅沢をすると言っても瞬間的に素寒貧へと蹴落とされる可能性を考えると流石に行こうとは思えなかった。

勿論節度を持って行けばいいのだろうが節度を持てる奴が賭け事に行けるとは思わない。
そして勝てるとは思わない。
あそこはそういう場所なんだから、と適当に思う。

ならその賭け事に使おうと思った分、他の娯楽に使うのが数倍はマシというものだ。

まあ、飯にありつけて風呂も入れるのだからいい身分だ、とも思いつつ。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 最近、色々と仕事が立て込んでいた。
剣闘士、つまり戦う仕事である以上は、長期に渡って疲労を身体に残したくはない。
そんな訳で、休暇を取って温泉に入ることにした。
男湯と書かれた暖簾を潜り、中にはいると、

「ん……先客か」

湯気でよく見えないが、どうやら先客が居るようだ。
自分も身体を簡単に洗って、仲良くなれば良い話し相手になるだろうと思い、先客と同じ湯船に入る。
遠目で見ると良く見えなかったが、近くで見れば、その顔は判別できた。
しかしそれは、

「……女の子?」

少し意外そうに目を見開く男。
流石にいきなり女性の裸を見た程度で驚く程初心ではないが、何で居るのだろうと首を傾げた。

エーシア > 「……はぁ~~」

難しい事はいいや、と思考を放棄しただただ湯船につかる快楽と幸運に身を任せていれば。

ひたひたと人の近づく気配を感じるが何のことはない。
今の今まで他に誰もいなかったのが不思議なぐらいだ。

大分ぼんやりと既に茹ってしまっているが挨拶ぐらいはしないと失礼か。
そう思い閉じていた目を開ければ。

「……えっ」

目の前にいるのはどう考えても男性な訳で。

「あれっ?」

茹って胡乱な思考が結論を出そうとするが状況が上手く把握できず。

「ええっ」

ざば、と慌てて湯船から立ち上がってしまう。
巻いてきたバスタオルは勿論ザルへ置いてしまっているので意味が無い所か無駄に裸体と隻腕を晒すことになるのだが。

「あれ、ここっておんな……?」

女湯じゃ、と言おうと思うが混乱して最後まで言えていない。

クレス・ローベルク > 先ほどまで何やらリラックスしていた少女が、急に慌てだしたのを見て、男は少し悪い事をした気になる。
これが媚薬風呂などなら、いっそ女を手篭めにしたのだが、しかし今の彼女は明らかに温泉を楽しんでいた。
ある意味目的を同じにする者を、こうまで混乱させたとなると、流石に罪悪感の方が強い。

「いやまあ、ちょっとお待ちよそこの女の子。
良く考えれば、この旅館、何の前触れもなく媚薬風呂とかやり始めるし、男湯と女湯を入れ替えるぐらい――」

普通、と言いかけた途端、ざばあ、とお湯から立ち上がった彼女の、全身が見えた。
年齡は解らないが、身長としては小柄な方。しかし、肉感としては柔らかそうで。
顔立ちも整っているし、混乱して揺れる彼女の蒼の目は、無造作に纏められた茶色の髪とのコントラスト。
よく見れば隻腕なのが少しアンバランスだが、それもまた、少女特有の危うさを――
などと品評している場合じゃなくて。

「……その、非常に眼福なんだけど、丸見えだからさ。
君にそんなつもりがなければ、隠したほうが良いと思うんだけど……」

正直、ムラっと来たが、流石にこんな場所でいきなりおっ始めるほど非常識でもない。
取り敢えずは紳士的に、そう勧めてみる。

エーシア > 男に声をかけられればその内容が少し頭に入る度、散り散りになっていた思考が少しずつ収束を初める。

元々この旅館も色々とウワサのある場所であって。
それこそ言うように男湯と女湯がまだ中に入湯客が居るにも関わらず変わる事も少なくはないと。

「あー……あー」

少しだけ納得したように声を上げる。
とはいえ今まで一度も当たった事が無かったため、まさか目の当たりにするとは思っていなかったのだ。

「心臓に悪い……」

はあ、と混乱で揺れていた瞳は何時もの調子の―――温泉を楽しんでいた時と言うよりかは平素、お仕事中の若干やる気が無さそうに見えるジト目へと変化して。

そうして更に告げられる事を頭が理解し。
隻腕故、隠し切れていない肢体を殿方へ晒していると。
勿論、慌てなければ男社会に席を置いているようなものなので、言う程には慌てないし娼婦の真似事だってしている。
が。
既にこの痴態というか、体たらくを見られてしまっていたので。
若干顔を赤らめながらゆっくりと湯船へと戻っていく。
ちゃぷん、と申し訳なさそうな小さな音を出して。

「あ、いや……はは」

取り繕う様に苦笑をしつつ。

「いや、ええ失礼しました」

こほんと、一つ咳払いをして。
湯気と湯で恐らく見えないとは思いつつも一応片腕で胸やら脚はしっかりと閉じつつ。

クレス・ローベルク > 「あー、もしかして今までそういうのに出会わなかった子か。
何というか、それはまた災難だったね……」

同情の目線を送りつつ、彼女が水音を立てて湯船に戻っていくのを見守る。
本来、見守るのも男としてはおかしいが、しかしあちらも、裸を見られた事自体はそこまで気にしていないらしいので、何だかなあなあで彼女と対面してしまっている。

「それにしても、いい湯だねえ。
結構何回か使ってるけど、こういう女の子とのハプニングを除いても、此処のお風呂が一番質が安定してる気がするよ」

あまつさえ、先程まで裸を見ていた女の子に話しかけてくる。
尤も、これは男からすれば、お互い黙ってしまうと気まずくて、とてもリラックスどころでは無いからだが。
少女からすれば、いい迷惑かもしれない。

「所で、ぱっと見た感じ、結構鍛えてる人だよね?
もしかして、戦闘系のお仕事の人?冒険者の人かな……?」

と、世間話のようにそんな事を聞いてみたり。

エーシア > 「えぇ……初めてですね」

そして彼女も彼女で男との会話に興じはじめた。
そもそもここは既に男湯になっており、下手をすればこの後悲惨な目に遭わないでもない、という事にまでまだ気が廻らなかったようで。
―――十分、思考が廻り切っていないと言う証であった。

「そうですね。ここでゆっくりするのは―――楽しみです」

ふう、と少し息を吐く。
クレスよりも長く入っているせいもあろう、火照った顔はどことなく艶を帯びていて。
ともすれば劣情を催されかねない、そんな貌。
本人からすれば、単に息を吐いたつもりなのだろうが。

「ああ。使い潰しの騎士団員ってトコです」

ぱちゃ、と片手で肩に湯をあてがいながら、特に隠す事でも無いのでそう正直に答えた。

「そちらさんも、そういうのでしょう?」

そう言いながら初めてまともに男の顔を見た。
温和そうとパッと見では判断出来る。
湯の下ではあるので体つきなどは判断しかねるが。
恐らく相当鍛えてはいるのかな、などとぼんやり考えた。

クレス・ローベルク > 会話のキャッチボールができた事に、男は意外を感じる。
迷惑そうに話を切り上げられるか、或いは先に上がってしまうか。
あまりに彼女の邪魔になるようなら、いっそこちらから出ていってしまおうかとも考えたが。
この娘、何か全体的に危機感が薄い。

「(意外と寛容――っていうか、頭が少し茹だってるのか?)」

考えてみれば、少なくとも自分よりは長く風呂に入ってるのだ。
その可能性もなくはない。
取り敢えず、話を続けつつ、もしいい機会があれば性的にリラックスするのも良いかもと思い始める。

「騎士か。普段仕事でそういうのも相手するけど、大抵ちゃんと訓練してるから厄介なんだよなあ、と」

こちらの職を聞かれて、そういえば未だ名乗ってなかったなと思う。
勿論、行きずりの仲だ。別に名前など知らなくても良いのだろうが――職業柄、自分の名前を覚えてもらえる事に、損はないので。

「俺は、ダイラス剣闘士をやってるんだ。名前はクレス・ローベルク。
こんな所で名前を売るのも何だけど、なんかの縁と思って覚えてくれ。
……ちなみに、君の名前は?」

エーシア > 「(あれ……やっぱぼーっとするかな)」

実際彼女は把握していなかったし実際どうなのかはわからない。
長い時間でのぼせかけているのか―――はたまた「そういう効能」の湯に何時の間にか変わっていたのかも知れない。
ただ一つ事実なのは男湯に変わってもそのまま会話を男性と続けてしまっている程度には、判断がついていないと言う事で。

「そういう……真面目に訓練してる正規なのとは大分扱い、違いますけどね」

会話を続ける。
続ける度にどんどんとぼんやりしてきているような、とどこか他人事のように思いながら。

知る必要もないし、教える必要も無いはずではある。
だが名乗られたので名乗らなければ、なんてぼんやりと。

「エーシア。エーシア・トルットですよ」

律儀に名乗りかえせばふう、とまた一つ息を吐いて縁へともたれ掛かりながら。

クレス・ローベルク > 「(あ、これはもう確定で頭茹だってるわ)」

だとすれば、これはもう据え膳なのでは?と男の方も考え始める。
そして、チャンスがあるとわかれば、勃つ物も勃ってしまうのが男の性。
ぼんやりと、中空を見ている彼女と会話を続けつつ、

「ああ、所謂叩き上げか。俺としてはそっちのが気安いけど、大変なんだろうなあ。
……エーシアちゃんね、うん、いい名前だ。……あー、所で」

と、此処で少し声を潜める。
別に恥という概念があるわけではないが、まあ気分の問題として。

「悪いんだけど、その、君の裸を見た時、少し興奮しちゃって……
その、ちょっと収まりがつかないんだ。
このまま外に出て他の女の子を見たら、抑えきれなくなるかもだし……ちょっと鎮めてもらえない……かな?」

責任転嫁。しかも露骨に他の女性を盾に使う。
普通なら、こんな誘い方、通るはずもないが。
今茹だってる状態の娘なら、或いは通るのでは、とそんな最低な思惑で、彼女を誘ってみる。

エーシア > 「まぁ……そうですね。何処まで行っても御貴族様には逆らえないし上にはなれませんので」

今までの苦労を思えば若干目を据わらせて。
とにかく面倒くさい事を押しつけるわ、そもそも捨て駒扱いにされるわとロクな事は無かったのである。
ふう、とまたさっきまでとは違う息を吐き出して。

「……はい?」

名前を呼ばれ素直に答えを返した。
そして。

「……なるほど」

普通に考えればとんでもない要求であるし、ここでエーシアが事に及ばなかった場合、他の女子が歯牙かかるという、どう結論付けても一蹴以外の選択肢はない。
―――はずなのだ。
だが既に出来上がってしまった頭はそんな簡単な判断すらもなあなあにしてしまう。
後はほんのすこし、己で興奮した、と言われて満更でもなくて。

「―――ふうん……」

ゆっくりと細められた目がクレスを見定める。
別に、行きずりでの行為に忌諱も何も無いし。
そしてクレスは別に見た目も悪くない。
そしてふと、そういえば風呂と飯以外にも―――そういうコトもあったな、なんてちょっと前の事を思い出しながら。

「えぇ~それって騎士様にお勤めを果たせ、ってそういうコト言ってます?」

さっきまでの事務的というか淡々とした声から一転して媚びるような甘ったるい声。
縁にもたれ掛かっているのを男にもたれ掛かりなおしながら。
これも生きる為に身に着けた所作ではあった。
胡乱な頭でもその術は身体に染み付いている。
男の身体に触れるか触れないかで指を這わせていった。

「まぁ―――別にやぶさかじゃないんですけど」

既に身体は男に預けられて、至近距離で肢体は隠そうともせず。
勿体付けるのは代価を要求しているのか。
それとも焦れた男に無理やりに襲われ犯されたいのか。
そんな選択を男に迫りながら。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からクレス・ローベルクさんが去りました。
エーシア > (中断です)
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からエーシアさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にカインさんが現れました。
カイン > 「ふぅ。真昼間から温泉に入るってのは中々贅沢だな」

宿の一つにあるに設えられた露天風呂、
大きな湯船の中に1人身を浸して心底しみじみと言った調子の声を出す男。
今日は休みと決め込んでの散歩の途中、軽く立ち寄ったのが午前中。
しかしながら一度風呂に入ってしまえば中々出る踏ん切りがつかず、
宿を取ったのがつい先ごろの事である。
上機嫌な声を上げ、ふと何かを手で持ち上げるような仕草をしたところではたと気づいて手を止め。

「おっと、酒は流石に持ってきてないからな。
 癖になるくらいまでここで酒飲んでるってのも大概だな」

我ながらと苦笑いめいた表情でぼやいて手をひらひらと湯の中で振り。

カイン > 「…これ以上はさすがにやめておいたほうがいいな。
 また今度入りに来るか」

体がずいぶんと温まったことを確かめるように体をほぐし、
立ち上がった後にその場を後にしていくのだった。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からカインさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場「露天風呂」」にシシィさんが現れました。
シシィ > ──ちゃぷ、と小さく湯の跳ねる音が響く。
屋内の大浴場ではなく、屋外にある露天風呂。
とはいえ囲いや目隠しとして自然物を配し、風呂は覗けぬようになっているのだが。

夜の冷たさと、湯の熱で、湯けむりが視界を奪う中、先人のない湯を一人楽しんでいるのは異郷異貌の女だ。

湯船に腰までを浸かり、出入り口に背を向ける形で半身浴。
長い髪は項を見せる形に結い上げられ、湯につからぬ配慮を。
蜜色の肌に滑らせるように、かけ流しの湯を手で掬って肩にかけていた。

さあさあと流れ込む湯の音と、そうやって己が立てる小さな湯の音が耳に心地よく響く。

この地に訪れるようになって覚えた娯楽は、寒い夜でも体を心から温めてくれる。

「───…一応女湯でした、よね」

己が入浴に訪れたときは、混浴にはなっていなかったはずだ。
そんな記憶を手繰りながら───独り言ちる。

透明な湯が濁ることもある不思議なこの宿では気にしても詮無いことだとわかってはいても、人並みには羞恥心を抱えているが故の呟きは、誰に聞かせることもなく溶けてゆき、女自身もまた、ゆるりと身を湯の中に沈めていった。

「ン、ん……───」

肩まで浸かって、外気で冷えた肌にじわりと伝わる温もりに、小さく声を上げた。
ぴりりと感じる熱さは、屋内の大浴場とはまた違う。
立ち上って藍色の空に溶けてゆく湯気を見送りながら、気持ちよさそうな溜息を吐き出した。

シシィ > 「───♪」
満たされた湯が、溢れ流れてゆくのはもったいなくも、この上もなく贅沢だ。
煮たようなことは水游場を訪れた時も思ったことではあったけれど。

両手でお湯をすくい、差し上げると、手首側から溢れて肘へと伝う。
さらりとした湯が流れる感触を楽しみながら、外気に触れているはずの頬も湯の熱で温まってほのぼのと朱がさしている。
──まあ、元の肌色のせいでそうとはわからないのだけれど。

肩口まで湯に浸かり、足を延ばす。
跳ね上げるほどではなく、湯をかき混ぜるようにゆら、ゆら。

余人がいないからできることではあるのだけれど。

ご案内:「九頭龍の水浴び場「露天風呂」」にアルクロゥさんが現れました。
アルクロゥ > 冬の寒い1日だったが夜になると冷え込みは一層厳しく、こんな日に露天風呂を利用しようと思う者も少ないだろう。
自分も屋内の、それも混浴の浴場で温まろうと水浴び場へ訪れたのだが、その通路の途中で露天風呂へと向かう褐色の肌の女を見かけたのは少し前のことだった。
彼女が角を曲がり脱衣場の方へ姿のを消してから後をつけると、通路の掃除をしていた奴隷娘を見つけて悪い笑みを浮かべる。
その少女に何事か話を持ちかけて、銀貨を数枚手渡すと彼女は頷いて道を開けてくれた。

悠々と歩いて自分も脱衣場に入った後、その少女は周囲に誰もいないのを確かめて女湯の札を外して代わりに閉鎖の札を掲げるのだった。

脱衣場では丁寧に脱ぎ置かれていた女の衣服を眺めつつ、妙な相手ではないか確かめる意味もあり軽く物色してから自分も服を脱いで露天風呂へと入っていった。

露天風呂の床は冷たく特に最初は背筋が縮みあがりそうになるが、その凍てつくような空気のおかげで夜空を見上げれば澄んで星がひときわ美しく輝いており、あたりを漂う薄っすらと白い湯けむりが幻想的な風情を見せている。

その奥には微かな水音と人の気配が感じられ、真っ直ぐそこへ向かって歩いていく。
一人のつもりで好きに寛いでいた女の様子を面白そうに笑いながら何気ない振りで声をかけた。

「おや、おかしいな。今夜は貸し切りだったはずなのに。誰かが気を利かして呼んでくれた女かな?」

そう言いながら、裸の姿のまま自分も遠慮なく湯の中に入り、彼女の方へと近づいていこうとする。

シシィ > ゆったりと寛いでいたところに、己からは死角となる背後からの声に、ぱしゃん、と湯が大きめに音を立てて跳ねた。

「────……、おや」

彼の行った行為を知る由もない。
己が足を踏み入れた時は確かに女湯だったのだと告げて、どうなるだろう?

かけられた声音、それから湯をかき分ける音に、僅かに身を浮かせた。

背後へと振り返るように、身を返し、視線を向ける。
当然己も、相手も裸だ。
羞恥がないわけではないが───、こういった手合いの前で恥じらうのも癪。己の羞恥心を隠すように一度視線を伏せ、それから改めて柔らかな笑顔を向ける。

「面白い御冗談を、私は単にこの宿に逗留しているもの、ですよ。浴場が変わるのはこの宿ではよくある手違いでしょう……」

かがめた身を立ち上がらせる。ざば、と湯が流れる音が響き。
申し訳程度に白い麻布を己の肌に絡ませつつ、近寄ってくるならすれ違うような動きを見せながら。

「けれど見知らぬ方のご不興を買いたくはありませんし、お邪魔であればお暇しようかと思いますけれど?」

しれ、と言葉を交わしすり抜けようと試みた。

アルクロゥ > 後ろ向いていた女が振り返れば自然と目が合う。
肌の色は違っても若く瑞々しく濡れた背中や、女性らしい小柄で丸みを帯びた肩が美しくて眼を細める。

向けられた異人の笑顔はなんだか異質で掴み所がなく妖艶なようにも感じられる。
もっと慌てるなり恥ずかしがるなりするかと思っていたが、騒がれないならかえって都合よくそのまますぐ傍まで近づいた。

「何の手違いで紛れ込んだかは知らないが、少なくとも貸切の今ここにいるという事はその身も私の預かりにして構わないのではないかな?」

彼女の笑顔は一見柔らかいが、そう簡単にはいかない芯の強さを感じさせるもので、自分も試すように意地悪く言って笑う。
そして彼女が湯に波紋を描きながら近ずく自分とすれ違いに通り過ぎようとすると、その手首を掴んで引き止めようと腕を伸ばした。

「まあまあ、元々ここは公衆の憩い場なのだから露天風呂を独り占めしようなどと心の狭い事は言わないさ。せっかくここで会えたのも何かの縁だ、見たところ君もまだ来たばかりのようだしもう少し温まっていったらどうだ。まあ、冬の寒さが好きな手合いなら無理に引き止めもしないが」

実際にこんな場所で騒ぎを起こすつもりもないので、彼女がそのまま逃げようと思えば簡単に男の手も振りほどけるだろう。

シシィ > 「───」

己が見せた余裕と、言葉でうまく煙に巻かれてくれればよかったのだけれど。
向けられる深紅の双眸、その奥の感情は読みづらいが───手首を捕まえられると少し引っ張られたようになり、彼我の間で湯が波立ち、波紋を立てた。

試すような言葉に、困った、と眉尻を下げてみせ。

「悪意はない、と思っていただければ幸いですけれど───」

ただ、確かにまだここには来たばかりで、男の言葉にも思うところはある。
どうするべきか、と上がるために絡みつけた麻布の胸元を抑えなおし。

「───寒いのは苦手です。…………そうですね、お言葉に甘えて、隅をお借りできるのでしたら──?」

冬の空は空気が澄んで、星空もまた夏とは違った風情を見せている。

たなびく湯気に身を晒すのは、短時間ならいいが、長時間はごめん被りたい。
先ほどまで温まっていた体が夜気に冷え始めているのを感じて。
向けられた提案に乗る形。少し強張っていた体から力を抜いて。
それほど強くも掴まれていなかった手首を己の側に引き寄せ、視線を緩く外す。
脱衣所のほうに視線を向けるも、確かに人の気配はなく。

「ここはよくご利用に?」

差し当っては見知らぬ相手にあたりさわりのない言葉を向けつつ、湯の中に戻ろうと身を沈め

お互い素肌だ、この夜気は堪えるだろうし、と、視線を向けた。

アルクロゥ > 彼女の手首を掴んだのは反射的にだったが、しなやかで柔らかな感触とともに、女らしいかすかな甘い匂いに異国の刺激的な香りも含まれているような気がした。
そして腕の細さからは、やはりまだ温まり切っていない冷えた部分も感じられ、それが小動物を手の中で守ってやりたくなるような庇護欲をそそる。

もっとも、それ以上に胸元の麻布を直す仕草や、そこに淡く透けて見える肌に自然と抱く下心もあり、彼女の警戒心が強ければそちらの方がさきに気づかれてしまうかもしれない。

「初対面の娘に悪意を向けられた所で、実害がなければ気にはしないさ」

むしろ悪意を向けられるとしたらこの国でありがちな身勝手で傲慢なケダモノ男の所業ゆえなので、そこからさらに逆恨みするような事はない。
不敵に笑いながら軽く首を振った。

彼女の強張りが少し解けるのを感じるとこちらも手の力を緩めるが、なかなすぐには離そうとせず、むしろ彼女の反応を伺いながらあわよくば自分の方へ引き寄せようとしつつ、問いかけに答える。

「この近くに住んでいるから、ここも時々は利用する。そう言えば自己紹介もしていなかったな、街で錬金術師をしているアルクロゥという者だ」

そう言いながら彼女が身体を湯に沈めようとすると、自分もその隣で一緒に浸かっていく。
完全に今来たばかりで初めて湯に入る身には、外の冷たさに対して相対的にお湯の温度が熱く感じられ、肌が痺れるような感触。
それでも温かな熱が身体中にじわりと伝わってくるのが心地よく、思わず年寄りじみたため息を漏らしてしまいそうになるのだった。

そして男の視線は自然とちらちら彼女の肩や胸元、湯の中の脚に興味ありげに向けられる。
お湯の中でこっそりと手を伸ばすと、彼女の手の甲に触れようとしつつ。

シシィ > 「………ただの小娘とも限りませんが」

柔らかな印象は変えぬままの言葉ゆえに、それは単なる讒言に過ぎない。
実際己はただの人間で異能も持たず、もっぱら庇護される立場にある人間ではあったが。

───彼の視線の先。
まあ互いに性が違えばどこに向けられるか、というのは自然な成り行きというか。さすがにこの距離であれば、彼の目線の動きはいやでもわかる。
それが故に湯に体を沈めてしまいたかった、というのもあって、だが。

手首を引き戻す際に感じた抵抗に緩く双眸をしばたたかせる。
結局そう互いの距離を引き離すことには成功せず、隣り合った位置に腰を下ろすことになり──。

「シシィと申します。……小さく商いをさせていただいてます。──錬金術、ですか。ではお薬などを?」

互いのことを探る様な言葉は、このような状況であれば当然か。
錬金術、と聞くと興味をそそられたように言葉を返す。

己はすでに湯に体が馴染んでいたからそれ程ではないが、先ほどまで夜気に晒されていた彼が、湯の熱に身じろぐのに緩く笑みを浮かべて。

湯は濁ってはおらず、透明だが、ゆらりと揺れる水面の歪んだ鏡像では、己の体の線を視認するのは難しいだろう。
それでも少し体を小さく折りたたむようにして自衛しつつ、ではあるが。

「──、どうかなさいましたか……?」

湯の中、手の甲に触れる刺激に、傍らの相手に視線を向ける。
する、と逃がすのはやはり警戒心が強いことを伝えるような、そんな淡い、で。
ただ忌避する風情もなく言葉を交わすのを楽しむ風でもある。