2015/11/22 のログ
魔王サタン > 続く問題は眷属の軍団編成。
血気盛んな若い者を中核に、率いるのは彼らの上位存在に任せるとして、問題は規模だ。
幾ら上位存在の者達と言えど、常に流動的な戦場に置いて少数では彼らの負担も増えるが、多数を連れて万が一の場合は種の存続は勿論だが士気にも関る。悩ましい。

そんな悩みを抱いている際に屋敷の扉を叩く音が執務室にも届いた。
元々大きくはない屋敷故に、その音は割と鮮明に。
眷属従者が一礼し、執務室の扉を開けて部屋を後にする。
かの者は扉をノックした相手の顔を確認し、入国している事が確認取れれば、同じ魔王と呼ばれる身故に敬意を表し、館への来訪を歓迎するだろう。

そして、更に続く今度は大罪に連なる魔王の来訪に、流石の従者も一度目を丸くして驚きを示せば、彼もまた『憤怒』の魔王の館への来訪を許可をされるのだろう。

従者は『サタン様は執務室にいらっしゃいます故、そちらにてご面会い頂けますでしょうか。』と、二人の魔王に館の主が居る部屋の場所を説明すれば、大慌てにて屋敷の使用人達にもてなしの準備をするよう指示するのだった。
そして
あれ?『酔狂』の魔王様の入国許可取れてたっけ?と従者は後々確認を忘れて居た事思い出し、自らの主に謝罪せねばならぬのだがそれは別のお話。

自らも席を立ち、執務机の前に腰を掛けてカクリと天井を見上げる。
悩ましい案件からか、やはり堅物の表情は厳しく眉間には皺も寄り、近寄り難い雰囲気はムンムンだろう。

館の中へと通された二人の客人が扉をノックしたのなら彼は適当に「入るがよい。」と聊かドスが効いた声で招き入れるはずで。

マーラ・パーピーヤス > ノックをして、どんな反応が返ってくるか…そんな事を考えているも、意外な事に予想外の反応が背後から起こった。
気配を感じてかくん、と小首を傾げて後ろを振り返るのと、言葉をかけられ肩を叩かれたのは同時だった。
びくーっと吃驚して肩を跳ねさせながら、視線が向けられた先に見えたのは…今まさに用事がありここに来た魔王と同じ、大罪に所属する魔王。

「あわ、わわっ…ハ、ハスタ様っ!?な、ななな、なんでこんな場所にいらっしゃるなのですかっ!?
あ、あぅ、私は…そのあの、サタン様にちょっとだけ…ちょーっとだけ、その、お願いがあってやってきたのですよ」

あたふたしながら、両手をぶんぶんっと振りながら、なんとか答える少女。
それはもう当然だ、ただでさえ普通に話すのもそう得意でないのにこんな不意打ちをされたのだから。

入国手続き、徒歩でしか移動手段の無い少女には当たり前のように必要な手続き、当然それは済ませてあるだろう。
とはいえ一応は少女も立場上は魔王、立場だけで考えるのならば本来不要ではあるのだが…
普段が普段である、どうとも扱いはそこまで持ち上げられるような事は無い。まぁ、少女もそれに慣れているのだけど。

ともあれ、どうやら憤怒の魔王の元へは通して貰えたらしい。
ぺこり、と律儀に従者に頭を下げながら、執務室の前に…こんこん、と再びノック。
「入るがよい」の言葉が奥から聞こえれば、そっと扉を開いて中に入るのであった。

「あ、あのあの、失礼しますなのです」

入れば再びぺこり、頭を下げた。
後ろから酔狂の魔王も来ているだろう、そそくさと退く様に横にずれて場所を空ける。

魔王ハスター > 「はぁい、皆大好きハスタさんです!知られてるなんて、おじさん嬉しいなぁ。
おじさんはですね。サタンきゅんと遊びに来ました。あとは…酒ですかね。酒。
可愛い御嬢ちゃん、御嬢ちゃんの名前は、な・あ・に?
まぁー…可愛らしいったらありゃしない。お持ち帰りして愛でたいね。
…んでま、なんでサタンきゅんの方に御願いに行くのぉ?おじさんの方があんなおこりんぼさんより、
楽しく気持ち良くえっちにお願い事を叶えてあげられるんだけど?」

で、まぁ肩にポン、と置いた手を、彼女が震えたりするのも動じずに彼女の首周りに手を回そうとして、
饒舌舌を回しながらエロオヤジさながらの何か絡み付く様なニヤけた視線を向けて(本人曰く)甘い声で囁く。
小動物めいた一挙一動やらたどたどしい仕草やらはおっさんも大好物であった。
そして平常通りおっさんは変態であった。

連れていかれるその時も、彼女が拒まないのであれば、嗜み程度にセクハラ行為を仕掛けようとする。
他人の領地、他人の屋敷でも自重はなかった。

このおっさん、当たり前だが入国許可なんてまるっきり。
「ちょっくらサタンきゅんとこへ遊びに行ってくるわ~」のノリで転移魔法をバッシュンと飛ばして、
それからお散歩テンションでこの洋館の前に立ったんだから当たり前。

「アッハッハッハ!出迎えお疲れちゃんっ。どうどう、サタンきゅん元気してる?」

つまりこのおっさん、堂々の不法入国者である。
因みにおっさんの領地は彼の厳しい入国審査とは対極で完全にザル。
そもそも魔術的に入りにくい場所ではあるし、本拠地は秘匿しているのだが。それは横に置いておく。
従者らしい魔族に馴れ馴れしく軽い口を叩けばひらっと手を振って。
しかしながら、ただただ遊びに来ただけなのに入れてくれるとは、魔王や『大罪』と言う肩書とは大した効力だとおっさんは感慨にふけった。

それから、彼の居る場所、執務室前へと向かうのだろう。
ともあれ、ココココココンッ!と無駄に洗練された手の動きで彼の執務室の扉を1秒に5,6回くらい叩く。
少女に続いて。

「おっじゃましまーっす。ヒャッハァ!相変わらず気難しい顔してんなぁ!
お久しぶりー、サタンきゅん、あー…元気じゃなさそうねぇ?どったの。」

『憤怒』と銘打たれた彼が醸し出す独特の威圧感を台無しにするハイテンション。
頭を下げる少女を横に場所を譲られたおっさんはそこを通過して執務机の前へと。

「秋刀魚の骨でもノドに詰まらせた?それとも二日酔い?」

座れとも言われていないのにさっさと自分用の豪華な椅子を何処かから取り出したかその場で作ったのか。
王城の王族が座りそうな無駄に豪華な金と赤が主張の座り心地の良さそうな椅子がその場に出てきた。
執務机を隔てて此方側にそれを置き据えて、勝手に彼の対面の御前へ着席すれば談話のモードに。

「…あ、キミも座る?」

後ろ目で少女を見遣れば隣にもう一個無駄に豪華な椅子を用意した。

魔王サタン > 自らの領地の入国審査の厳しさまでまるでこの堅物な主の性格を現しているかの様だった。

執務室の扉が一度、そして秒間5.6回の狂った連打に
『憤怒』の魔王は嫌な予感を感じた。
そして開いた扉から入ってくる少女とがたいの良い同僚魔王の姿を目にする。
性格な部分も有るのだろう。幾分か昔に邂逅していたらしい魔王の少女の名をこの男は忘れては居なかった。

「――…よく来たのであるな、マーラ・パーピーヤスよ、歓迎しよう。
あと……それと、ハスターもまぁ、久しいのであるな。」
久しぶりの同僚の扱いはまるでオマケのようだ。雑じゃない?と突っ込まれても恐らくこれがこの男の『酔狂』の魔王に対する基本スタンスなのだろう。
多分、付き合うと凄く疲れる気がする。とはこの魔王の談。

勝手に落ち着いた室内には浮いたような豪奢な椅子を取り出し寛ぐ魔王は好き勝手にさせるとして、もう一人の魔王の用件は確認せねばなるまいと、腰掛けた執務机より身を離せば、再び自らの執務席に腰を下ろし。

「して、此度の来訪。用件は何用であるか?」
客人の前であれば、一度寄せて居た眉間の皺も解いて問い尋ねよう。


「……秋刀魚でも酒でも無いが、まぁ、うちの眷属で聊か面倒な案件があるだけだ。
それにしてもハスターよ。お前にしては人間にしてやられるとは珍しいのではないか?確かお主、ボードゲームのようなものは得意だったはずであるが…。艦隊とてチェスの駒と然程変わらぬと思うのだが。」

先ほど気にしていた彼の艦隊が敗れたと言う話をふと思い出してふってしまう魔王。
自身もチェスでは彼には勝てた記憶はない。
頭脳労働派だったはずの彼が敗れるとはと、ふと抱いた疑問を素直に問いかけてしまい。

もう一つ、少女のために用意された無駄に豪華な椅子。
腰掛けるの躊躇うようならば、片手を伸ばし、寛ぐがよいとの仕草にて促そう。

マーラ・パーピーヤス > 「えとえと、一応はその…同じ魔王の方としては、知らないと悪いかと思いましてなのですね…?
そ、そうなのですか?あの、遠いところをお疲れ様なのですよ。
わ、私は、えっと…えっとー………マ、マーラと申します、なのです、よ?
それがその、南方で何かあるのを最近知りましてですね…い、一応、向かった方が、と思ったのです。
お、お手伝いくらいは、出来ますので…はわっ!?ふ、ふふ、普通にお願いしますなのですよっ!?」

何とか問われた言葉に答えていく、自分の名前を名乗る時だけはちょっとだけ言いよどんだりしたけれど。
そして、それはもうあっさりと伸びるその手は首に回される訳で。
手が回されたり、視線を向けられ囁かれたりすれば、その度にぴくっと体が震えたりしていた。
こちらもこちらで平常通りの怯えっぷりである。

もちろんの事、セクハラ行為に対する抵抗なんてものはじっと耐えるくらいしかしない少女。
到着するまではきっとその手の中で震え続けていたはずで。

「は、はいなのです、ありがとう御座いますです。
あ、その…今、南方で大きな動きが、その、あるみたいなのをつい先日知りまして、ですね。
数名の魔王様も、えと、向かってるようで…わ、私もお手伝いくらいはと思ったのです。
で、ですね………ご、ご存知かと思うですが、私は転送とか苦手でして、出来ればお願いしたいかと思ったのですよ」

入った時には見えていた眉間の皺が解かれれば、ほっと胸を撫で下ろす。ちょっと安心したようだ。
ついさっき酔狂の魔王に伝えた事を、目の前にする憤怒の魔王にも説明をした。
ティルヒアへ向かうのに自分では転送能力なんて無いから転送をして欲しい、と。

そして、なにやら自分の為に用意される豪華な椅子。
予想通りというか何というか、やはり場所が場所だけにかなり躊躇っている様子。
促される言葉をかけられれば、そこでやっと「で、ではその、失礼しまして…です」と、呟きながらそっと腰かけるのであった。

魔王ハスター > 付き合うと疲れる。それは間違いではないというか、大正解である。
常に常人には理解しがたいテンションで一定しているおっさんの事だ。
彼のお堅い性格もあって、おっさんのテンションや言っていることは『憤怒』にはあまり理解できないだろうし、
多分しようともしないのだろう。
しかし、それでもこのおっさんのテンションに付いていかないながら、
ちゃんと挨拶はしてくれるし、ちゃんと聞いたことには答えてくれるのだから、『憤怒』の彼は人が良い。

「…まぁ、久しいのであるなって?!もっとさぁ、ヒャッハァ!お久しぶりー!とかない訳?
ああ、何かこの子ねぇ、サタンきゅんに御願いがあるんだって。やったね!」

二人の間に横槍を一切躊躇なく投げ入れるのも、おっさんのやり方。

「ほっほう?眷属ねぇ。サタンきゅんとこは気性が荒い奴から気高い奴まで。大変よね。」

何となく、察しはする。良い濁した辺りで別に此方に相談するわけでもなければ、
つまりこれ以上ずけずけと聞きさがることでもないだろう。
彼は竜や天馬等、神話で語られる神獣の様な者を眷属に従えている。
その強さ故に高ぶる者、驕る者も多く。『憤怒』の傍ら『傲慢』な影も見え隠れしているとおっさんは思う。

敗北の一件について聞かれれば、執務机に広げられた一番上の書類を手に取って裏返して、
これまた何処かから取り出した鉛筆を片手に白紙に何かを書き始める。
重要書類だったらウインクして謝る所存。

「んー…それなんだけどね。艦隊戦しようと思ったら、艦隊戦じゃなくされてたのね…。
それと、おじさんが使った艦艇は安物の試製品ばっかりだったからってのもある。
装甲が薄く、魔法防御がザルだったの。この時代の連中は空母なんて知らないだろうって思って機動部隊作ったんだけど…ダメだったわ。
要はポーンやナイトだけでルークやクイーンの棲み処に突っ込んじゃったわけね。
そりゃあどうしようも無いって話。…んー、もうちょっと強力な魔導艦艇持ってった方が良かったかしら…。」

痛手を食った言い訳を論いながら、
カキカキ、と当初南海に向かった艦隊編成をかき上げて、彼に見せよう。
巡洋戦艦一隻、小型航空母艦四隻と、駆逐艦七隻に、おっさんらしく無駄に豪華な特殊防空駆逐艦一隻。
モノクロだが、やたらと絵が上手い。
おっさんはこの良いガタイでありながら、その見た目に反して頭脳派で魔法使いで博識なのは良く知られている。
ただ、幾等チェスに強くても、盤上にある駒が最初から小駒しかなければ、勝てない。

「あと、戦略面の奇想天外さだね。連中、高速艦艇で体当たりして旗艦に乗り上げてくるんだから。
正直ありえないっしょ?こっちは艦隊戦しようってのに、揚陸強襲してくるんだから。
…でも大丈夫よ。ちゃんとティルヒア北部に残存艦隊で侵略して停泊してるから。」

色々と流れる様に言い訳を述べる。だが、結局ちゃんとやる事はやったらしい。

「まぁ、何だ。ティルヒアのレストランの食べ物やお酒も美味しいから、観光に行ってみるのも良いと思うよ。
…まー。もう落ち着いてご飯が食べられる店舗なんてなさそうだけど。
街も大分荒れててね。彼方此方殺し合い犯し合い。視察したところ、だったけど。…人間界って怖いねぇ?」

一つ自分の事情を語ればふぅーと、大きく息を吐いて伸びをした後、それとなく世間話を始めた。
おどける様にヤレヤレと肩を竦めてニヤける。

散々セクハラをしかけた少女が隣に座れば。

「成程ねぇ、彼女良い子よね。っていうか、御二人さん、知り合い?」

横と前に視線を交互に遣りながら、御互い名前を知っている二人を見遣って。

「でもさぁ、アレって…ただの享楽だし…マーラたんが無理すると来ないと思うけどなぁ。
暇ならどう?こう…南方でさ、戦車乗り回したりとか、それとか大きな艦船に乗ってみたりとか。
何も転送だけに拘っちゃダメよ。…あ、ついでにその椅子はあげるね。おじさんからのプレゼントー!」

そもそも彼女は憤怒の魔王に相談しに来たと言うのにアレコレよこから口出しする。
丁度艦艇に余りが出てきたし、正直もう使わない機動部隊の余りなので娯楽用の艦艇に改装しようかとも思っているのだとか。

魔王サタン > 彼女が領地を持たない魔王であり、徒歩を主として世界を廻っているらしい事位までは一応覚えているような気がする。
肘掛に両腕を置き、椅子の背凭れに身を預け双眸の視線は少女に対しまっすぐに向けられ、来訪の用件に対しては言い終えるまでは一言も発せず。

しかし、手伝いをと述べる少女の言葉に対しては僅かに考え込むように一度双眸を閉じて。

「――…なるほど。まぁ、転移魔法でお主を南方に送る事位は容易い事だ。別に構わん。
だが、一つ問うのだがお主はかの地にて他の魔王の何を手伝うのだ?
別に我も、恐らくハスターも奴らの騒乱など享楽の一つでしかない。
お主がわざわざかの地にて危険に身を晒す必要は無いと思うのだが…。」

別に魔王とは自由な身だ。何処へ行こうと何をしようと誰にも咎められる事はない。
ただ『手伝い』と言う漠然とした言葉にはふと疑問を抱き問い返す事とした。

そしてこの二人の魔王の温度差たるやひどいものである。
「これが我の性分故にな。お前のようなハイテンションは中々我には難しい。」

横槍にはもうそれなりに付き合い長い故か慣れてしまった。
ノらずに応えるも、こちらもまたよく知っているように自らの眷属を評する彼の言葉に間違いは無く。

「……うむ、まぁ、若い連中は暴れたい盛りのよう故にな、一応彼らのガス抜きがてらに南方に向うつもりだ。一戦遊ばせれば満足もするだろうよ。」

『傲慢』の影が見隠れするのははてさてこの魔王の様々な言伝えのせいか、性分が影響したか。
とりあえず今は編成に頭を悩ませているとだけ伝えた。

それなりに重要な書類だった気もするが、彼の筆が走り出せばもうその内容については再度従者に確認することで諦めよう。

彼が破られた艦隊戦についての背景や流れを口答にて伝え聞けば、ふむと肘掛に付いた両腕を軽く組み、ごつい見た目からは想像しにくい多才さの一つの画力を眺めつつ頷く。

「……侮った。と言うわけでは無いだろうが
主にしては珍しいな。多少の不利であれば楽しむ方だとも思ったが。しかし…どうもその奇策を打った相手というのは気になるな。」

一応王国側に賭けている二人の魔王だ。
王国が疲弊するのは構わないが敗れては後々が面倒だ。
ティルヒア側に制海権を奪わせない為にも彼を退かせた相手に対しては相応の手を打つべきだろうかと考える。
海竜の数もさほど多いわけではないが、制空権であれば自らの眷属が後れを取る事はないだろう。
酔狂の魔王が作り上げた航空戦隊ほどではないが、赤竜を始め黒竜に亜竜と強力な個体は多い。
ガス抜きの件も含めて、この魔王は南海に赴く事を決めた様子。

彼のセクハラについてはもう目を瞑る方向で決めた。
過剰過ぎるならば相応のツッコミはするけれども。
疲れはするが、なんやかんやで彼の過剰過ぎるテンションは場を明るくする力があるのだと、逆に堅物系魔王は感じて居た。

マーラ・パーピーヤス > 酔狂の魔王に関して考えれば、そういえば不思議と彼の領地でお泊まりをした事が無かった。
たまたまそういった機会が無かったか、それがどうしてなのかという理由までは分からない。
ふと、そんな事を考えていた。

入ってきてここまで一緒に居ただけで、なんとなくの範囲で性格は把握した、と思っていた。
ともあれば、今まであのテンションで居た陽気な魔王がどこか知的な発言を憤怒の魔王としているのを見れば…
外面も伴ってか悪い悪いと思っているも、何か似合わない、とか失礼な事を思ってしまった。
ぶんぶんっと首を振って慌ててその考えを振り払う。
…傍から見ると何をしているんだろう?と思われるかもしれない。

「あ、えと…私、領地とかないのですよ。
ですから、その、色んな方達にお世話になってましてですね?サ、サタン様にもお世話になった事があるのです」

やっとセクハラの手から開放されて隣に座れば、向けられる言葉に少し困った様な苦笑いを浮かべて答える。
はふ、ゆっくりと整える呼吸、ちょっと頬が赤い。

「きょ、享楽だったですか!?…あぅ…気配があっちに行ったりこっちに行ったりしてたから、てっきり…なのですよ。
うぅ、ど、どうしたらいいのですかね?そ、そうなると、行ったら逆に迷惑になっちゃうかもなのですし…
あ、あのあの、私ではこんな大きな物を持ち運びとか…その、ちょっと、辛いかな、って…思うのです、よ」

そう、情報がほとんど入ってこない少女には、この慌しく動いたりしていた理由がただの余興の一部なんて事は知らなかった。
その話を聞けば、なんだか頑張ろうとか考えていた事自体が恥ずかしく思えたか、かくん、と項垂れた。
そして、徒歩で移動をする上に領地も無い少女にとっては、このプレゼントはかなり考えさせられる物な気はする。
それでも無碍に断るのは悪いかな?って思ってる訳で、本当に…こう、本当に申し訳無さそうに上目使いで見上げながら言葉を紡ぐ。

心配事が一つ消えた、そうなると心にゆとりが出来て、また別の心配事が浮かび始める。
なんだかわざわざ相手に気を使わせてしまい、申し訳ないな、という気持ちである。
はふ、と小さく溜息をつきながらも現状をちゃんと理解しようと考え、ちらちらと横から覗くように見詰め、2人の魔王の会話を椅子に座って大人しく聞き始めた。

魔王ハスター > 「…相変わらず。だけど、魔王ってのは本来そうあるもんなんだろうね。」

荘厳、威圧感。そんな言葉が似つかわしい。おっさんの軽いテンションとはまるで違った、
重くも、拒絶感のない王らしさ。享楽主義の軽々しいおっさんとはかけ離れている。
…のだが、御互い温度もテンションもズレながらも、きちんと会話が成立しているのは、
偏に彼の人の良さや、或いは真面目、真面さが功を成しているからだろうか。

「…んー、成程ね。了解了解。人間共も結構本気みたいだからさー、遊ぶ気分でいっちゃダメよ。
半端な編隊じゃあ、負ける。連中ようわからんが、ドラゴン殺しに長けた部隊まであるんだってね。」

まあそんなもの魔王たる彼は恐れるでもないだろうし、
彼の眷属もそんな人間が作った軟弱な部隊に引けを取ることなんてないだろうけれど。
こうして一枚の重要書類が人知れず棄却されてしまう。
『憤怒』サタンは、人が良い上に、普段は『憤怒』の影すら見えない程に穏やかであり面倒見が良い。
そして、人の事を良く見て、知っている。マーラの事もそうであったように。

「お褒めに与っておじさん嬉しいよ。
いやぁ、正味侮ってたかもね。旧式艦艇と見てたし、何より航空母艦がなかったからアウトレンジで一方的にボコれるかなぁと。
そう思ってたら向こうの艦艇が瞬間移動したみたいに高速移動して体当たりしてきたのよね。
…印象的だったのは黒い服に軍刀の女、水上戦闘機の爆撃魔法を斬り裂いてた。
こっちの旗艦に乗り上げられたんで、自爆させたんだけどねぇ。
…けど、あんまり効力はなかったみたい。イヤなもんだね。
安物試製艦艇の司令官ごっこ遊びだと、本物には全く勝てない。」

絵に描いた巡洋戦艦に大きくバッテンを描くと、残りの幾つかの艦艇にも、装甲が剥げた様な絵を描き足したり、被害状況を白紙に再現する。
確かに不利も楽しむのだが、相手のやり方が奇特過ぎた。
少しだけ不機嫌そうに自身を引かせた連中について述べる。

「艦隊戦やろうと思ってたら、揚陸戦されるんだもん…ねぇ。」

流石に勝っても負けても楽しむおっさんもこれは結構嫌だったらしい。
呆れた具合に、それでもいつものニヤけは止まらず肩を竦めて露骨に大きなため息を吐いた。
敗因はそれだったと言いたげで。

「あーあー、あの艦隊なら、多分大丈夫よ。連中風魔法と水魔法くらいしか持ってない魔導艦艇だし、
水上戦力には竜に対して強いのもなかったみたいだから。まぁ見ての所、だけどね。
…陸上戦力は知らないよ。」

彼も同じく海戦や空戦を選びそうだと思った。狼はさておき、
一番気性が荒くて、若く活気あふれるのは竜。暴れたい盛りなのは概ねその辺だと察しているので、
程々にアドバイス。
因みに賭け事に負けてホストになる事は寧ろおっさんとしては歓迎だった。
しかしながら、堅物で仕事の忙しい『憤怒』の彼からして見れば、それは享楽と言うよりも、
面倒な事、の一つに見えているのだろうか。

「まぁ、お互い王国側にかけてるけど緩くやりましょうや。
あー…そだそだ。最近チェスっていえば最近それに似た異国のボードゲームに将棋ってものがあったんだけど。
今度やってみない?何か楽しいよ?」

新しいボードゲームの御誘いも兼ねつつ。また世間話に逆戻り。

何だかたどたどしく震えたり首を振ったりしている少女に横目を向ければ、これまたニヤける。
おっさんの屋敷や領地は、少々魔法で時空が歪んだところにあって、
場所を知っていないと踏み入れる事が出来ない様になっている。
といっても、中位魔族程度の者が意識して調べれば普通に見つかる。…それでも、出入り口は隠されているけれど。

「んん、行っても行かなくてもいいんじゃないかなぁ。
どうせ人間がドンパチやってるだけなんだし。楽しめればそれでOK、それ以上の事は必要ないっ。」

項垂れた少女の頭を当然の如く同僚の目の前でナデナデしながら、自身の見解を述べる。
何やら自信が持てないらしいので頭やら背中やらを撫でたり、優しくぽんぽんってしたり。
ガタイが良いにもかかわらず、ソフトなタッチ。優しいといっても体にベタベタ触る事は十分セクハラなのだが。

「…あー、そんな目で見られたらおじさん照れちゃうわー。分かりました分かりました。
そうだったね、転移魔法が使えないからここに来たんだった。
じゃあこれは代わりにサタンきゅんにあげますから。この御屋敷に置いていっていいですよ。」

勝手に話を進めてそこに落ち着けた。人の家に上がり込んで勝手なものである。
『憤怒』の彼の嫌な予感は、きっと当たっているのだろうか。

魔王サタン > 酔狂の魔王は言う。
人間がドンパチしているだけの場所でしかなく、醜悪な行為もそれこそ多数行われているのだろう。
そうしたものも『見聞』としてかの地へ赴こうとするのなら止めはしない。全てはこの少女次第だと、自らは特に何も言わずに判断させる事にした。
望むのであれば、南方への転移については明日にでも送れるよう準備をするだろう。

「王国側の第七師団とやら以外に、ティルヒアにもそのような輩共がいるか。であれば、我らも本気で潰すつもりで当らねばならんか。
忠告感謝する、ハスター。」

彼をして注意を促すのであれば、戦力の編成はやはり見直し、確実な物とする必要があるだろう。自らの眷属の力に対し信頼を欠けさせたは無い。
だが、戦場に絶対に負けないという便利な力はない。油断したら負ける。
それは彼の描く絵の内容が雄弁に語っているだろう。
悩ましい。けれど、同僚魔王の忠告であれば受け容れるだけの度量は持っているつもりではあるし、その人柄はともかく彼の見聞きし感じた言葉であれば、信頼も信用もしている。
なんだかんだ言いつつも、この魔王二人はバランスがよいのかもしれない。

「…そこまで『酔狂』の魔王の機嫌を損ねさせた連中であるなら、我の相手にとっても不足は無い。
まぁ……とりあえず、我でよければ酒の相手くらいは付き合うとしよう。それとマーラ、お主も出来れば付き合うと良い。今宵の滞在する部屋も何ならば用意させておくゆえにな。」

酔狂の魔王の不機嫌そうな姿というのもあまり見た記憶は無いような気がする。
彼は大体がハイテンションであった気がするし、女がいれば大体が変態だった気がする。
故に珍しい様には、この固い魔王なりに感じるものもあったのだろうか。
男同士と言えば大体は酒か拳で語り合うのだろうが、頭脳派の魔王は多分殴れば死ぬ。生き返るけど死ぬ。わけのわからないループが繰り返されそうで、この魔王は酒を選んだ。そして久しぶりに屋敷を訪れた旅する魔王にも、宿を用意する旨と酒の席への同席を頼んだ。

「ふむ……将棋、であるか。チェスでも勝てた記憶は無いが…負けっぱなしというのも我の性には合わぬ。よかろう、今度一勝負するとしようか。」

多分勝ち星を上げる事は難しいだろうが、娯楽や享楽を愛する魔王達だ。ゲームがあり勝負ならば割と脳筋なこの魔王は受ける事にした。
ただ、この豪奢な椅子は問答無用に酔狂の魔王に持ち帰らせることにしよう。
屋敷の雰囲気に合わない。そんな理由で十分である。

とりあえずは、執務机の上に置いたハンドベルを左右軽く振り従者を呼べば、扉をノックし入室してくる彼に、高級な部類にはいる酒の銘柄とつまみを用意するように命じた。

マーラ・パーピーヤス > 「そ、そうなのですね…心配しなくて良さそうなので、ちょっとだけ安心したのです。
私は、その…直接なのは苦手なので、その、様子見だけにしておくのですよ」

どちらかといえば、争いの多い場に行かずに済むというのが一番安心した理由なのかもしれない。
それはともあれ、優しくされればそういった安心感もあってか大人しく触れられている少女。
触れる事に相手がどう思っているかは知らないが、少女はそこまで気にしなくなっているらしい。
撫でられたりすれば気持ち良さそうに目を閉じた。
…まぁ、正直には普通に気持ちいい事は好きではあるのだし。

「あ、えとえと…はい、ですので…その、あの、すいませんなのです」

憤怒の方に椅子が丸投げされた。
もう1度だけ、申し訳なさそうにそちらへと視線を向けるのであった。

「わ、わわわ、私もなのですかっ!?え、えとえと、わ、分かったのです。
はぅ…何から何まで本当にありがとう御座いますなのですよ」

お酒の話が出ている時点で、ちょっと惹かれていたのは秘密にしていた。
その席を共にというお誘いならば、喜んで参加するのである。
実のところお酒にはかなり強く、酔えば一転猫のように甘える事になるのだが…それはまだ誰も知らない。
お酒だけでなく宿も、そんな至れり尽くせりな話に、反射的に深々と頭を下げた。

2人の話を聞いている内に、南方の事は少しは気になってくる。
まだ魔王の誰かがそちらに留まるのなら、ご一緒して貰って観光するのも良いのかな?と思い出していた。
どちらにしても、知らない土地で1人で行動はしない方向性には変わらないらしい。

魔王ハスター > 「んー第七師団も厄介だけどねぇ…。でも竜よりも、対人面だね。そこまで対魔族に特化してるわけじゃなさそう。
後アフリークって荒野…まぁ、おじさんの勝手な憶測だけど、もしやるならあそこだけは選ばない方が良いと思う。」

ああいう特異な地形の場所には、その土地を活かした部隊がきっとでずっぱっている。
頭脳派のおっさんとしては実際に行ったことも会ったこともないけれど、ああいう偏屈で入り組んだ地形には、
そういう人間の部隊が付き物だと勝手な予測を立てていた。
如何に強大な部隊でも、気象や地形の力には抗えない。閑話ではあるが、それらの自然の力に神の力と同一視されることもある程だとかで。

「アッハッハッハ!本気度マックス『憤怒』軍が本気でやったらそりゃ間違いなく勝てるわ。どういたしまして。」

そもそも、その領主が単体で国一つ滅ぼせるだけの戦力を持っている。
だが、それだけではなく、その領主は王としても有能で、眷属を上手く書類を手配して纏めても居る。
おっさんの勝っても負けても楽しむ享楽集団国家とは、本気の度合いも力の入れようも違うだろう。

享楽的で、いつもニヤけていて、楽しそうだと思ったら何でもやるおっさんだった。
だけど、今回はそうではなかったのだ。
やろうと思って居た艦隊戦ごっこが、完全にできなかった。その上に幾等安物でも旗艦を壊されたのだ。
これで機嫌よくいられるなら、そいつは相当なマゾヒストだとおっさんは思う。
そして、艦隊を並べながらも揚陸戦を選んだ相手は…と、幾等でも言い訳が出てくる。

因みにおっさんはサタンに殴られたら間違いなくその肉体が爆ぜ吹っ飛んで死ぬだろう。
お互い良いガタイはしているけれど、腕力で『憤怒』に右に出る者などいない。
少なくとも、『酔狂』のおっさんがそう思うくらい、彼の硬くも壮絶な腕力は筆舌に尽くしがたい位のパワーを持っている。
…まあ殴られても蘇るのだが。もう一回殴られたらまた死ぬわけで。

「ほーう、成程気前が良いねぇ。よっしゃ、一緒に酒と洒落込みましょうか。
じゃあおじさんも今度良いお酒振る舞いますよ。…人間界の高級な酒っていうのも、割と乙なもんよ。
うん、将棋ね。最近覚えたてだから、サタンきゅんにも勝つチャンスはあるよー。」

おっさんは脳味噌が計算機みたいになっている。盤上に並べられた駒の動きを完全に計算して、
パターンを覚えて、一手一手常に最善手を打ちながら、無駄口を叩いて相手のミスをそれとなく誘うアリジゴクの様な遊戯を行う。
ことある事に彼にチェス等のボードゲームを持ちかければ、毎度こうして勝負であれば、と、受けて立ってくれるのだ。
ただ、あんまり誘いすぎると流石にイヤそうな顔はするのだが、例え何度負かそうとも、
ボードゲームの事で『憤怒』が怒り狂うこともなく、これも互い、一種の享楽として楽しんでいるのだと、おっさんの方は思っている。
して、おっさんは良く笑い、常に機嫌が良く変態だけれど、
対して『憤怒』の彼の方が笑う所は、あまり見たことがないと逆に思っても居る。また、『憤怒』なのに怒るところもなのだが。
いつも何だか機嫌が悪そうに顰め面という印象。決して付き合いが悪い人柄ではないのだが。
…そんな事を思っているうちに、酒の用意がされるらしい、手回しの良い事。

「おやおやぁ。マーラたんカワイイですねぇ。子猫ちゃんみたいですわ。
この子と同じ部屋におじさんもお泊りして行こうかなぁ。」

背中をさすりながら傍迷惑な呟きを溢し。
自身はといえば、謙虚な彼女の横で偉そうにこんな風にふんぞり返っている。
暇だったからという理由でいきなり彼の館に来て、ちゃんと取り合ってくれることは愚か、
お酒まで用意してくれると言うのに。

「んー…。様子見だけ、それが賢明じゃあないかな。
女王が気ぃ狂って乱政してるって話だしね。同じ王としてもああはなりたくないよねぇ。」

若干遠い目になりながら、それとなくだけ行かない方が良い事を仄めかす。
おっさんは人間に対しては腐れ外道だけれど、同じ魔の者には意外と面倒見が良い。
ただ、やっぱりヘンタイで人間にも魔族にもセクハラをやめるわけではないので、
こうして彼女が気弱なのを良い事に体をペタペタ触りまくっているわけだが。

「ううん、そういえば、マーラたんのスリーサイズとかどうなってんの?」

まぁつまり、おっさんは何処へ行っても変態だと言う事でこの一件は締め括られよう。
拒まれないならいよいよお腹に手を回して、御触りの本番を始めようとしている。
…信頼を共に置く同僚の前で。

魔王サタン > 戦略眼の冴えや部隊運用手腕では恐らく彼には適わないだろうとは思う。
元より自らの眷属はその数と力の暴力による蹂躙戦術が基本だ。
地上戦においても狼達による数の暴力は出来るだろうが、選ばない方が良いというのなら、わざわざその忠告を無視する必要は無い。
狼達は聊か暴れる場所が足りず不満かもしれないが、今回は我慢してもらおう。言い聞かせるのも眷属を束ねる者の仕事故に。

まぁ、元より享楽だ。
とりあえず戦場に憤怒の魔王と眷属の名を轟かせれば、一応今の賭けも干渉したという記録は残るだろう。
それでよいと、彼の告げる忠告に『ふむ。』と頷きで応えた。
狂乱の女王とやらは幾分か気になるものの、狂った王を認め乱政を敷き狂う国であるのなら、遅かれ早かれ滅亡するだろう。位には認識を改めた。
そして、様子見だけでもと南方へ向おうとする少女には、当初の願い通り明日、転移できるように、酒を運ばせるついでに、従者へと伝えておいた。

「構わん。客人を持成すのは館の主の務めだ。
遠慮せずに呑んで楽しむが良い。」
少女の酒癖までは流石に知りえない。
男二人に少女一人の中どのようになるかはこの三魔王だけが知りえるだろうが、多分酔狂の王に預けるような気がする憤怒の魔王であった。

さて、難しい話はここで仕舞いにしようと、肘掛椅子より立ち上がれば、豪奢な椅子二つ並び座る彼らの前へと向かい酒宴へとしゃれ込む事にしよう。

従者がまずは数本のボトルとグラス、氷の入ったアイスベールとアイストング、マドラーを盆の上載せて戻ってくる。

もう一人の従者はそれらを置くガラス製のテーブルを3人の前へと音を立てずに置けば、彼らの手で着々と酒の席は用意されていくだろう。

「ふむ……人間界の酒か。時折王都に入る際は味わうが安酒の方が多いな。『酔狂』の魔王が選ぶ酒であれば、良いものだろうしな。
次の将棋の勝負の際には馳走させてもらおう。」

テーブルの上に置かれた銘柄は何をもって選んだのか『the・魔王』なるアルコール度数も魔王級の高さを誇る酒。

『呑めばどんな酒豪な悪魔も一撃ノックダウン!強い酒を求める貴方!この魔王の一撃受けられるかな!?』

なんて馬鹿な煽り文句の入ったラベルまで貼られている始末。

「……なんだ?この酒は…。」
少なくとも普段自らが味わう銘柄にはこんなもの無かったはずだ。
チラリ、従者へと視線を向ければ

『魔王という銘柄でした故、お館様と皆々様には相応しいかと思いまして。』

彼は清々しい位自信満々に言ってのけた。

はてさて、こんな感じで今宵は三人の魔王による酒宴がこの静かな館で繰り広げられたのだろう。
魔王による乱痴気騒ぎはどのようなものであったか、それを語る者が果たしているのか。
全てはこの魔王達次第なのであった――。

マーラ・パーピーヤス > 「わ、私はその、そこまで可愛いかどうかは…あの、なんとも…言えないのですよ。
え、えと…そ、それはその、サタン様に…お伺いしませんと、なのですが…」

椅子に座って大人しく撫でられ続けながらも、こう、あたふたとまたしだす。
どうやら外見を褒められるのはあんまり慣れてないようだ?
同じ部屋に…に関してはさすがに自分も部屋を与えられてる身、ちらりと憤怒の魔王へと視線を向けた。
ここでOKが出れば少女は特に強く意見も言わず受け入れてしまうだろう。

触れる手が止まらないのは、やはり拒否はせず受けてしまっている。
困った様な表情は浮かべているものの、そこまで嫌がる理由もないからで。

「ど、どうなのでしょうですかね?
は、はわわわっ…ハ、ハスタ様、手っ…手がっ、なのですよっ…」

言われて首を傾げる、どうやら計った事はないらしい。
触れた感じだと、身長の割にはそれなりに出ているところは出てるかもしれない。
あくまでも身長の割に、であってそこまで大きいという訳でもない。
そして手の動きが怪しくなれば、びくっ、と小さく体が揺れて硬直してしまう。
視線が横と前を行ったり来たり、反応をとても気にしているようだ。

「えと、ではでは、その、ありがたく…なのです」

どこかこう、目を輝かせてその光景を見詰めている少女の姿。
見た目とは裏腹に酒好きであるが、あんまりこういった席には積極的に参加しないのだ。
しかし、今回は自分もお誘いを受けた1人、遠慮する事こそ失礼である…と思いたい。

「な、なんとも凄そうな名前なのですね…」

横からちらっと銘柄を見て呟く、とはいえ、興味の沸いた瞳はそのまま向けられている。
酔狂の魔王に触れられて体をもぞもぞさせながら、なのだけど。
さて、これから起こる出来事はどんなものなのか…それを知るのは当事者と、その従者のみである。

魔王ハスター > 「……おほん。楽しい酒宴の始まりですまないけど、少しだけ席を外させてちょーだい。」

戦略についてとか、艦艇についてとか、少女の行方についてとか。
色々と話し合った結果概ね事はまとまった。
しかし、何でも南方に停泊させた部隊が思わぬ被害を浴びたそうな。
立ち上がって、一度執務室から外へ出れば、念話の通信魔法を繋げる。

「…ああ、ドルフきゅん?ハスタさんだけど。はーいい?…艦隊が?
へぇ…それは…面白そうだね。残存戦力の報告を―――あー、そんなに?
やばくない?それ。…んー…これは、改めて見る必要がありそうだな…っと。」

向こう側では若干だけ焦燥した声で部下の獣人が連絡を寄越していた。
南方からの神々しい咆哮は、果たしてどこまで飛んで行ったのやら。地を揺るがす如く咆哮が呻くのは、いつになることやら。
先んじて派遣したおっさんの艦艇は、龍と称された何かに一瞬で半数以上を撃沈されたらしい。
面白い物が見れそうだと笑い、そして…程なく戻ってくる。

「…失礼。じゃあ酒を楽しみましょうか。
あー…南方に行くならあれだ、おじさんも近々いくかもしれんね…いまさっき、用事が出来た。」

『憤怒』の名前で勘違いされやすいけれど、彼の酒宴は結構上品なものだと思う。
改めて豪華な椅子に腰を落ち着ければ。いつも通りのニヤけ顔を晒して、酒宴の用意をしてくれた彼の眷属に、
軽くながらも頭を下げれば、さて、酒にと溺れていこうではないか。

「んー…王都じゃなくって、湾港の方のハイブラゼールっていうとこ。
ま、今度楽しみにしてなさい。あー…良かったらマーラたんも来ない?」

ナンパさながら、この屈強な男二人の中に居る魔王少女にセクハラ行為をしながら御誘い。

「あー…分からないかー、じゃあおじさんがバストサイズだけ図ってあげますよ。
手が…んん?手がどうしたのかな?おじさん分かんなーい。」

おっさんは調子に乗る。
流石に(本人基準で)行き過ぎはしないが、それでも結構な御触りをするのであって。
当然と言うか、手の動きは常々怪しい。触れた感じだと…並み。貧ではないようだと推測する。

「ンー…こりゃあ81だね。サタンきゅんはどれくらいだと思う?」

適度に厭らしい話を振りながら。

「アッハッハッハ…彼のノリ、とても良いね。―――キミ、名前は?」

セクハラを片手に、もう片手にはグラスに。おっさんは『the・魔王』というデザインもアルコールも激しそうなそれを見て大笑い。
さて、三人の魔王がどこまで酒宴を楽しむのか。おっさんのセクハラが何処まで行くか、
それから、行き過ぎたセクハラに『憤怒』のツッコミが見れるのか。
二人の男と一人の少女、魔王同士で集った密やかな偶然の重なった邂逅の行方は―――。

ご案内:「魔族の国/領地内にある屋敷」から魔王サタンさんが去りました。
ご案内:「魔族の国/領地内にある屋敷」から魔王ハスターさんが去りました。
ご案内:「魔族の国/領地内にある屋敷」からマーラ・パーピーヤスさんが去りました。