2015/10/26 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”内大通り」にマユズミさんが現れました。
マユズミ > 「夕刻過ぎ ハイブラゼール内の大通り」

人も増え、賑わいを見せ始めた大通りをふらふらとやや覚束ない足取りで歩く。
歩く度に黒く長い髪はその安定感の無い歩きに揺れていた。
酷い話でもう夕刻を越えて夜になろうとしていた。
彼女が覚醒して動ける様になったのはつい先ほどの事であり、どうにかのろのろと宿屋を出てふらついていた。

「……まだ入ってる気がする」

下腹部を軽く抑え呻く。
昨日散々と早朝近くにまで及んだ行為の代償だろう。
彼女が覚束ないのはそのせいであって。
大よそ剣士と思えぬ無防備さである。

マユズミ > 手持ちの路銀やら何やら色々と要素が重なって一日身体を売った訳だったが。
とりあえず当面の路銀確保にはなった、のだと思う。

「こういうコトの相場って幾らぐらいなモンなのかなあ」

割に合ってるのか合っていないのか。
判断は付きかねた。
私的には稼げれば何でもよかったと言えばよかったのでそこまで気にしないのではあるが。
やはり「己の価値」と言うものは少なからず気になるというもので。
昨日一夜を共にした彼から貰った金が入った懐にある路銀袋を軽く見つめ。
やはりふらふらと大通りを歩く。

マユズミ > そうしてふらっと娼館前に通り過ぎようとし。

「……」

ふと、立ち止まった。
今も入り口前では客引きの男性が通り過ぎる往来客を前に文句を唱えながら、客引きを行っていた。
ふら、と近づけば。

「あ、いや。別に入る訳じゃ……女性好きもいる?小さい子が好きな子も……?」

ヒク、と目を細めれば、客引きの男性は危険を察知したのか、そそくさと彼女を離れ他の客引きへ戻って行った。
ふん、と軽く息を吐き看板を眺める。
これを見れば大体一度辺りだの見れるだろう、と。
そういう目的で。

「む……」

じい、と看板を眺める。
基本料金が設定されていてまずその料金がかかり。
そこに娼婦の人気によって追加料金、という感じのようで。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”内大通り」にクロウさんが現れました。
マユズミ > そこから店へ払う手数料だのなんだのを色々とあるだろうから手取りとしてはなど計算すれば。
大よそ、昨夜払ってもらった分は相当に弾んでくれていたんだな、と。
少しだけ嬉しくなる。
やはり、悪い気はしないもので。

そうしている内に、客引きの男性が再度近寄ってくる。
鬱陶しそうに見れば、さっきとは違う様相で。

「いや、だから興味ないって。……ぇ?働く?」

どくん、と心臓が跳ね上がる。
昨日の行為を思い出し、動悸が速くなって行くのを務めて冷静にバレないよう一睨みし、追い返すと言う手段を取った。

「……離れよう」

ぼそりと呟きまたふらふらと娼館から離れた。
動悸が速くなるのが抑えられない。

クロウ > 通りが騒めいた。
刃傷沙汰があったらしい。少女が脚を止める娼館のある通りだ。
見れば、娼館より10数メートルの処で、どうも錯乱した男が腰のカットラスを振り回して、立ちんぼの娼婦に斬りかかりすぐさま抑えられたようであった。

「剣呑剣呑。」

そしてそんな騒ぎの中を、男がゆっくりと通り抜けてきた。
かつ、かつ、かつ、かつ、と。
革のブーツの靴底を鳴らしながら、ゆったりとした足取りで。男に気付いた幾人かの荒くれが、気さくに声をかけて来る。
同様に、幾人かの娼婦や店の男らしき者達も声をかけてくるが、こちらはそこまで気さくでもない。親しげなのだが、僅かに怯えを孕んでいるのだ。
それは、娼館から去る少女の進行方向。
ちょうど彼女とすれ違う動き。
何もなければすれ違ってしまう、か。
だが、「何もなく」はなかった。

「お嬢さん。」

すれ違う瞬間、男が立ち止まって彼女に声をかけたから。

マユズミ > ばくんばくんと未だ打つ鼓動。
ふー、と息を吐く。
何はともあれ、明日には此処を発とう。
路銀で王都は目指せるはずだ。
そう、考えゆっくり、さっきよりかは若干確かな歩幅を踏もうとして。

「っ―――?」

静まりかけた鼓動がまた少しだけ速度を早く刻む。
知り合いなど居ないこの街で話しかけられると思っていなかったからで。
すれ違おうとした男性に声を掛けられそちらを見る。
明らかに、この辺りの海賊、と言わんとする風貌。

「……何か?」

30cmはあろう体躯の違いに軽く見上げながら答えた。
若干の警戒心と共に。

クロウ > 彼女がこちらを見る。
男は、それからゆっくりと彼女に視線を向ける。
大きな眼の中の蒼い瞳が、じぃっと彼女の瞳を覗き込む。蒼いその瞳はしかし、まるで暗い暗い深い深い深海から彼女を見つめているようで。

「この街で、そんなに心を乱していては付け込まれるぞ。」

低い声。しゃがれてはいない。だが、よく通る訳でもない。
だと言うのに、くぐもってもいない。
不思議な声だった。
往来の真ん中で立ち止まっているのだ。誰かがぶつかりそうなものだが、不思議と他の通行人たちは彼らなどいないかのように、しかし彼らの脇をすり抜けて歩き去って行く。

「何をそんなに、心を乱している?」

声は楽しそうだった。
そしてどこか、オカシかった。
狂っている、と言う表現が、やはり的確。
しかしそれは男自身の狂気と言うよりも、彼女の中にある狂気を呼び起こそうとするかのような声だ。
誰の中にある、破滅的な願望。想像。そうしたものを煽り、ありありと脳裏に想起させようとするような。
そして今この場においては、その「誰」とは彼女だ。東洋の武器を携えた小さな少女。
男の狂気が彼女を蝕もうと迫っている。

マユズミ > 視線が交差する。

蒼い瞳。
それは何か奥底から擡げてくる「何か」を想起させて。
ぞくっ、と身震いがする。
神経が教える。
警鐘を鳴らす。
「コイツは危険だ」と。

目の前の男から声が紡がれた。
何のことは無い、特にどうと言うものでもない。
それでも、男の紡ぐ声に心臓は先ほどよりも強く鼓動を刻み、離れろ、離れろ、離れろ、危険だ、危険だ、と一心に持ち主に語りかける。
ごくり、と喉が鳴った。

「別に……私……は」

口と、思考と心はまだ別で。
口は否定し。
心は警鐘を慣らし。
思考は―――。
己の淫らな姿をありありと想像し始めていた。

「―――っ」

たまらず思考を中断しようとするがそれは止まらず、ただ歯を軋ませる。

クロウ > それは、ヒトが、人間ではなく魔族でもなく、理性持つ「ヒト」が手にしたもっとも原始的な呪術。呪詛。
言葉。
コトダマという術や思想の根源的な考え方にして、それよりも原始的なもの。
男は彼女を見つめる。見つめる。
それはもう一つの呪詛。
視線。瞳とは深いものだ。その奥には、膨大な情報をやり取りする脳というバケモノが控えているのだから。

「別に、私は?」

問いかける。その声は、いやにはっきりと彼女の脳内に響く。
既に、繁華街の喧騒は遠い。二人とも、一歩もその場から動いていないのに。
だと言うのに、男の声だけが、彼女にはハッキリと聞こえる。

「そうか。君は、娼婦になりたいのかな?」

言葉。
彼女の中の淫らな想像を汲み取ったかのような。否、実際汲み取ったのか。
男の力は相手の心を読む……ではなく、「狂気を観る」。
誰の心の中にも狂気がある。誰でもちらりと、常軌を逸した思想や行動を想像する事はある。一笑に付し、決して選択も実行もされないのが常だが、それでも確かに、ある。
男の言葉で、ちらとでもそれを想像すれば、それはもはや男の術中。

男はその想像に、ほんの少し手を添えるだけだ。

「男に媚びて、その雌を差し出して、日銭を得る。
白痴のように腰を振り、涎を垂らしながら、快楽に浸って……そして、金銭を得る。
蕩けるような日々。男が、お前を求めて来る。ただ雌であるというだけで、お前を認める。気持ちよくしてくれた上、金銭をくれる。
何も考えなくていい。何も、何も。
そんな破滅的な日々が―――どうしようもなく魅力的だ。」

男は言葉紡ぐ。
声は響く。それでも、彼女の中の狂気は彼女のものだ。
男は見ようと目を凝らす、彼女の中の狂気に。破滅的想像に。

マユズミ > 娼婦になりたい―――?

その問いに抵抗する意志と芽生えた狂気とが脳内で争う。


(違う!)
(――違わない。)

言霊と視線。

(――想像しなかった事は無い。
 何故なら、昨日そう、つい昨日同じことをしたじゃないか。)

(あれは、その場の雰囲気に飲まれて―――)
(――あれだけ嬉しそうに腰を振ったのに?)

「ぁ……」

既に夕刻も過ぎ、最もこの界隈が栄える時間だというのに。
何故誰も居ないのか。
何故、この男の声しか聞こえないのか。

言霊に乗せられて視線に乗せられて。
思考は狂気に押し潰されて行く。

「わた……し……」

潰れる、潰される。
想像は止まらず、妄想は加速し。
己が媚びた笑みを浮かべ、跨り、快楽を貪る姿。
無理やり押さえつけられ、汚されている、犯されているにも関わらず媚びた笑みで嬉しそうに受け入れる姿。
ただ男の術中に嵌る。
眼から意志が少しずつ削げていく。

クロウ > 「そうか。お前はもう、身体を売ったのか。
―――なら心配するな。貴様はもう、立派な娼婦だ。」

ひと際はっきりと、彼女の中にその声は響いた。

彼女の瞳から削げる意志。
まだ、こんなものでは足りない。
狂気とはそんな生易しいものではない。
一度狂気に侵されれば、もはやそれは連鎖的に脳内へと広がっていく。
悪い想像が悪い想像を連鎖して引き起こし、どんどん悪循環していくのと同じだ。
そして、それは悪意ある第三者の手が添えられれば、尚の事凶悪に思考の主に牙を剥く。

「君はもう、立派な売女だ。
いや、そんな風に媚びた眼をして、押さえつけられ、尊厳を踏みにじられ、雌と言う誇り高い役割を売り物にし、それを悦んでいるのはもう、売女と言うにも浅ましい。
雌豚だ。
貴様はその実、金銭などどうでもいい。どうでもいいのだ。
それを言い訳にただ……溺れたいのだ。肉の快楽に。そして、戦などない、剣などない、誰も殺さない、ただ気持ちの良い世界に。
そうだ、だから貴様は―――、」

声が続く。彼女の中で。
狂気は狂気を生む。しかし、男の言葉はその空隙に滑り込んでくる。
或いは本来はそうではなかったかも知れない狂気的な思想を、あたかも彼女の元来抱いていた狂気であるかのように、彼女へと擦り込む。
無論、もとよりそうした狂気を内包していた可能性も否めないが。
そして男は言葉をつづけた。
魔法の言葉を。

「ここにこうしているのだ。」

気付けば彼女は、ベッドに組み伏せられていた。
後頭部を押さえつけられ、顎をベッドに押し付けられる形。
高く突き出した尻は見ず知らずの男の方へと差し出され、そしてその膣には深々と男の肉棒が突き刺さる。そして、何度も何度も何度も何度も、彼女の最奥を犯す。
それは、彼女が想像した、夢想した、彼女の姿そのもの。
浴びせかけられる罵倒すらも、一言一句違える事なく。

マユズミ > 滑り込む言葉は狂気を増幅させてゆく。
娼婦、売女、雌豚。

彼女は無縁だと思っていたもの。
―――その実無縁でもなかったもの。

昨日のあの行為は気持ちよく無かった?
そんなはずはない。
快楽を貪ったのだ。
最初はともかく後は自分からも。
媚びた顔をし、嬌声をあげ、愛撫に、貫かれる己にただ欲望にままに。

聞こえる声はもはや内側から。
男の声なのか自らの声なのか。
わからない―――。

世界が暗転する。

「ぇ―――?」

気づけば、裸で、尻を突出し、頭をベッドに押し付けられ、犯される自分。

「なぁ……んぁっ♥」

状況を理解する前に突き抜ける快楽が身体を駆け巡って。
既に発情しきっていて。
乱暴な突き上げに蜜と涎をだらしなく垂らす。
夢なのか現実なのかわからない。
ただ快楽と想像した姿がそこにあって。

「あは、あはは―――♥」

笑う。
遠くから「おい、こいつ壊れたぞ」みたいな声が聞こえたがもう気にならない。

クロウ > 本来、幻と現実に境などない。
現実が幻でないと断言する手段を、誰も持たないのだから。
だから今彼女が置かれているこの現実は、幻かも知れない。
しかしそれは同じだけ、現実である可能性を孕んでいる。
彼女がどちらを選択するか。それだけの違いでしかないのだ。
そう、これは現実なのだ。彼女の狂気に侵された、現実。

「よく似合っている。それが望みだったのだろう?」

気付けば、ベッドの脇に男が立っていた。
深く深くフードをかぶり、その貌は陰へと沈んでいる。
彼女を犯す男達は、傍らにたたずむその怪しい男を気にするそぶりも見せない。
しかし、彼女には確かに見えているし、その声が聞こえている。

「堂に入ったものだ。実に、幸せそうだ。そんなに幸せそうな雌の貌は、そうそう拝めるものではない。
これからは、綺麗な服を着せてもらえるだろう。掌の剣ダコも消えて、柔らかい女の手になっていく。大きな乳房も、もっともっと育ててもらえるだろうな。淫らな身体になっていくぞ。
見ろ、お前の腹を。剣士として引き締まったものではない……鍛錬を怠れば、ほら、すぐにそのザマだ。
だがそれでいいのだ。すぐにその腹の内には誰のとも知れぬ仔ができる。
否、もうできているかも知れないな。……ふふ、それも違う、もうできているな。
そうして毎晩、毎晩毎晩毎晩毎晩……いやいや、毎日、昼夜を問わず男の肉棒を受け入れ続け、子宮を差し出し続ければ、それが必定。
ふふ、知っているぞ。それでもお前は幸せだ。
例え父親のわからぬ仔でも、その腹の子は貴様の「女」の証。
幸せだなぁ?」

快楽に壊れ、狂気に身を任せる彼女に男は告げる。
男の言葉を受け、彼女がそんな己を想像すれば、それは現実となる。
全裸だった身体を飾る、紐とレースの美しく淫らな下着。ベッド脇には、可愛らしくも美しいドレスが脱ぎ散らかされている。そしてそれらを、悦んで自ら身に纏った記憶。己に入れあげた客から、様々なアクセサリと共にそれを受け取った記憶。
そして淫らに育つ乳房。肥満とはいかずとも、決して鍛えられているとは言い難い程度に柔らかくなる腹。そして、その内に宿る生命までも。
彼女が思い描けば、それはすべて狂気の名の元に、ここに顕現する。
それは、或いは彼女が本来夢想していたのとは違うにせよ、明確な「女の幸せ」であろう。
―――だが男は、さらなる狂気を彼女に齎す。

「みんな死んでしまったのに。」

その一言が彼女に何を想起させるのかは、問うまでもないか。

マユズミ > そうだ、あれから。
自ら娼館へ戻って―――。
働くと伝え。
働き。
快楽と賃金を貪り。
気づけば刀は何処に仕舞ったのか忘れて。
煌びやかなドレス、アクセサリー。
贔屓にしている男から全部貢がれて、嬉しそうに。
抱かれ続け、気付けば胸はもっと育ち、その胸すら己のどうぐで。
誰のかわからない子もいて。
それでもこの快楽は止めれなくて。
歯止めが効かなくて。

それは確かに夢想した世界。
戦う必要も無い。
しあわせなせかい。

幸せそうにねっとりとした笑いを讃えながら、身重な身体で腰を振り。
貪る快楽。
―――ああ。
なんて優しい世界。

「―――ぇ」

――皆死んでしまったのに――

その言霊が。
鍵。
ぞくりと背筋が凍らせていく。
違う。

「違う……違う……皆、私は……っ」

覚醒しようとして。
顕現しかけていた狂気は己を貫いていて。

「違っ♥私、こんなん……じゃぁ♥」

快楽がこれが現実だと言い。
痛む心がこれは佞言だと言う。
鬩ぎ合う心は、結果彼女の心を確実に壊す。
鬩ぎ合う故に。


だが鮮烈とはいえ数日の事と。
血が滲み、凄惨とすら思える今までの事。
重きが大きいのはどちらであったか。

軋んだ心は軋んだまま、それを。

―――壊した。

気づけば喧噪。
辺りは騒がしく、先ほどまでの大通りの風景。
動悸はその負担の表れで。
汗が滴る。

「―――は、あ」

息を吐いた。

クロウ > ヒトの心は弱くて脆い。
同時に、強くて逞しい。
弱さと強さは決して相容れぬものではなく、確実にヒトの心に同居する。
そして、そうであるが故に狂気を生む。

目前の彼女が、帰って来た。

男は嗤う。
それでいい。
しかし、しかしだ。

先ほどまでのそれは、幻ではない。
言葉遊びではない。
幻ではないのだ。
彼女の狂気が現実を蝕んだ、確実な現実。

現実と現実は地続きだ。
彼女は選んだ。これまであった、耐えがたきに耐え、忍びがたきを忍んだ現実の延長を。
己の現実として。
しかし、しかしだ。

彼女は一度身を任せたのだ。
一時とは言え、その大切な大切な信念を、過去を、放棄する道を選んだ。
ではそれを思い出させたのは何だったのか。

狂気を操る男の言葉に相違ない。

現実は地続きだ。
狂気は、振り払える。しかし決して、失われる事は、ない。

喧騒あふれる世界を取り戻し、落ち着いたなら。
彼女は知覚する、己の身体が重い事に。

「どうかしたかな?お嬢さん。そんなに息を荒げて。―――お胎の子に障ると大変だぞ?」

帰って来た。
もし彼女がそう認識しているなら、それは大きな誤りだという事だ。
帰るも何も、彼女の現実は一つだけだ。
現実は、地続きだ。
見下ろせばいい。そこには証がある。彼女が現実を生きた証が。
父親の分からぬ、大きな大きな臨月の腹が。

狂気は彼女を、決して逃がさない。

マユズミ > 戻ってきた。
一時とはいえ。
軋み、罅の入る心は壮絶なまでに彼女から体力と気力を奪って行った。
喉が鳴る。
唇が乾燥してカサと音を立てた気がした。

―――それでも狂気は終わらない。

戻ってきた?
違う「戻らされた」。
あの時あの一言さえなければ。
確実に彼女はあのげんじつを現実にしただろう。
だが。
そうはならなかった。

結局、男のいいように、されているだけ。
もがかされ、心を砕かれ、戻らされた。
そう、全部男の言葉一つだ。

全てそれが切欠。

―――ならば断つ。

刀を持つ腕がぎしり、と音を立て、同時に殺気。
その殺気は大よそ、素人目にもわかる程の強烈さで。
次の瞬間には男の首は抜刀と共に胴体から分かれている―――はずであった。

だが、がくん、と身体が重くなる。
殺気が薄れる。
上手く身体が動かせない―――。

―――お胎の子に障ると大変だぞ?

聞くな。
取り合うな。
また、認識させられる。
無論、彼女の抵抗力で、その狂気に抵抗できるほど。
現実は甘くない。

「や……め」

ずっしりと、己の腹に確かに別の存在感。
それは紛れも無く―――彼女が宿した新たな生命で。

       きょうき  
逃れようも無いげんじつがまた始まる。

クロウ > 放たれた強烈な殺気が、周囲に伝播する。
当然、人通りの多い通りだけに、騒めきは大きくなった。
『何だ何だ、また刃傷か!?』
と、声が聞こえる。

しかし、そうはならない。

男は嗤っている。
先ほどベッドの脇に現れた時とは違い、フードは被っていない。

狂気は麻薬と同じだ。
一度身を任せれば、確実に精神はそれを覚えてしまう。その破滅的な快楽を、覚えてしまう。
耐える事はできるだろう。
打ち払う事もできるだろう。
だが決して、消す事だけは、なかった事にだけは、できない。

「興奮しているようだ。だが、興奮はよくないぞ。……ほら見ろ、お胎の仔が驚いて出て来ようとしている。」

彼女自身が放った殺気。
そしてその殺気の主の大きな腹が、人々の注目を集める。
人だかりが、できる。
そんな中で男が放った言葉。
理解すれば、もう終わりだ。

彼女の下腹部に走るのは、これまでどんな戦場でも、修練でも、決して体験した事のない激痛。
精神構造上、雄では決して耐えられないとまで言われる、世界に存在する究極の痛みだ。
それは、陣痛と、呼ばれる痛みだ。

彼女の胎の内に巣食った、異形の生命が外へ這い出そうとする証。
しかし彼女は覚えている。
現実としてそれを覚えている。
彼女は強請ったのだ。甘い声で、自らの子宮に胤を。孕ませて、と、甘い甘い雌の声で、見ず知らずの男達に。
その結果できた、まぎれもない彼女の子供。
それは幻ではない。現実なのである。

それが今、産まれて来ようとしている。
彼女を、母親にしてくれようとしている。

多くの、多くのヒトが見守る中で。)

マユズミ > 理解が追いつく。
追いついてしまう。

―――刹那、激痛。

「っ……あっ……ぎっ」

がくん、周囲の視線が集まるその場にのたうち廻る。
今まで経験の無い痛み。
声にならない声を上げる。
拭き出す冷や汗。
周りの目など気にせず声をあげる。
それによって更に集まる人目。
自分から何か別のモノが生まれ出ようとする感覚。
それはとても神聖な儀式だ。
新たな生命の誕生と言う。
それが誰の子かわからぬといえ。

(―――望んだのでしょう?)
(母親になりたいと)

間違いは無い。
女だ。
親に―――母親になりたい気持ちはある。
それは彼女にとっては。
当たり前であるし、誇るべき事。

そう、だからこれは望むべき―――違うんだ。
涙が流れる。

また、軋ませられる。
まるで何処まで壊れれるのか。

    マユズミ
どこまで彼 女で居られるのか、試されてるように。

激痛と何かを生み出す感覚に抗い、覚束ない手つきで刀を持つ手に力を入れた。
この状況に於いても持たれた刀。
周囲にまたどよめきが起きる。

泣く。
涙は止まらない。
ほんとうかもしれない、かりそめなのかもしれない。

―――ごめん、ね。

生まれるはずだったいのちをこの場で断つ事を。
背負うから。
刀を逆手に持てば。


己が腹に突き刺した。

クロウ > 【内容過激化につき、ルーム移動。】
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”内大通り」からクロウさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”内大通り」からマユズミさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にシャロンさんが現れました。
シャロン > 薄暗い中に様々な色の光が舞い散る中、少女は白い手をラシャの上に伸ばす。指先にはチップが1枚。そっと置くのはディーラーたる男の目の前。今日は"貴族令嬢"という身分を借りての潜入任務――という体のいいの厄介払い。要は普段通りの仕事をさせないという思惑が見えていた。とは言え、仕事は仕事。受けた以上、半端な出来は許されない。故にまずは喧騒の中に紛れ込み、情報収集と洒落こんだ次第。配られる5枚のカード。配役は――無役。故に少女は、世間知らずのように笑顔を浮かべる。

「ふふっ、それじゃぁ……上乗せはこのくらいかしら?」

差し出すチップは10枚単位で3本――30枚分。これだけでも平民なら一週間は暮らせるはずの額を平然と動かしながら、自身に都合のいいように貴族令嬢を演じてみせる。思惑通りに降りてくれるなら、この上ない僥倖で。周囲の様子を確かめながら、チップの動きを楽しむ。今宵の手持ちはまだまだ余裕もあるものだから、少しは息抜きを興じるのも悪く無いと思いながら。

シャロン > 一戦目はどうやら無難に降りてくれた様子。それなりの掛け金が手元に戻ってくる。その様子に嬉しさをにじませながら、次の勝負が始まる。手の内を見ると、3が3枚にJが2枚のフルハウス。それなりの強手であれば、駆け引きを味わう種にする。チップを互いに重ねに重ね、積み上げた額は先の倍。どうやら相手の手も相応に良い様子。分水嶺にも思える量のチップを超えたなら、後は決戦の火蓋を切るべき時。相手の差し出すチップの量を見て、同じ量だけ前に置き。

「ふふ、強気ですのね?でも私のほうが強いですわよ?――同意(コール)致しますわ♪」

さぁ、次の勝負はどうなるか。ショウダウン――掛け声とともに手札を開く。勝負の行方やいかに。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にハスタさんが現れました。
ハスタ > 少女の御相手はと言えば、何かよく分からないが何処かイケてない服装の、しかしながらまぁまぁ裕福そうでガタイの良いおっさんだった。このおっさん、ずっとニヤニヤと言う具合に笑っているのだが、流石に一発目で負けを喰らった時には鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。この女の子、やりよる。ポーカーフェイスなんて世間では言うが、役無しに負かされるだなんて、勝負しておけばよかった。一応5と5でワンペアあったんだが。もう騙されるまい。今日の御相手は世間知らずの箱入り娘の御嬢ちゃんでもなければ、勝負を知らない金づるでもなかったのだ。

だが、二戦目の勝負が来た時、このおっさんは負ける気がしないと言った風にまた笑い始めたわけで。

「はははは!嬢ちゃんも良い威勢だな。…しっかぁし!フォウ、オブ…アッカインド。これで、さっきの負け分は取り返したな。寧ろお釣りが返ってくるか?」

滅茶苦茶楽しそうに笑い飛ばした。その声はそこそこ五月蠅く響く。それから物凄いだっさいキメ顔で、スペード、ハート、ダイアの6と、ジョーカーが一枚。後はオマケと言った具合にダイアのクイーンを含んだその手札を大きなその手で振りかざして、指差して、ニタニタ笑った。6のフォーカード。役では勝ってはいる。そして、勝ったことがさも当然であると言いつつも極々楽し気に何度も何度も頷いて笑う。

シャロン > ショウダウン――そして2人の手札が広がる。目の前にあるのはフォー・オブ・アカインド。自らの手の内にあるフルハウスよりは随分上等な手。なお、もし仮に彼がこれをフルハウスだといったとしても、ハイカードがクイーンである彼の勝利。残念ながら完敗である。先ほどまでに稼いだ分を全て持ってかれてしまった気がするが――。

「あら、お上手ですわね。ではこちらを。代金はこれであっておりますわよね?」

運が悪かった、とはこのことだ。とは言え彼のかけたチップを見る限り払えない額面ではないはず。故にそっとチップを差し出す。負けは素直に認めるものだと、少女は知っているのだから。そして再びカクテルを少し。ノンアルコールの程よく苦味のある甘い液体を楽しみながら、続けるの?という表情を彼に向ける。続けるならばこのまま三回戦目が始まるが、果たして――?

ハスタ > 「ああ、それで結構だ。」

これまた極々楽しそうにと言った具合に手を叩いて頷く。チップを此方に貰えれば最初の負けも帳消しで、勿論、賭け事自体を楽しみに来た彼に、いいえと答える選択肢などなかった。くく、と口の何処を隠しているやらわからない仕草と共に隠される事が別になかった笑みを漏らす。三戦目の始まりを互いに了承すれば、さてまたカードが配られたり、チップが積まれたりするわけなのだが。ハートの2,ダイアの2,スペードの5,ダイアの5,ダイアの7―――悪くない。

「ははっ、悪いがこの勝負も貰ったぞ。ビッド、60枚。」

かしゃこん。小気味の良い音が鳴るだろうか。一体ゴルドに換算したら幾等になるのか、少なくとも豪遊と言える額ではあることは確かで。

シャロン > どうやら三度目もするらしい。ならばと少女は素直に頷き、ディーラーが笑顔でカードを配る。素早い手つきで置かれる5枚。そっと見やればスペードとハートの3、クラブとダイアの7でできたツーペアにスペードの8が1枚。――欲張ればストレート、堅実に行けばフルハウスも見える。ならば、勝負をしないという選択肢はなくて。奇しくも相手と同じような手札構成になったのは、神の思し召しなのだろう。1枚をディーラーに差し出し、他4枚をホールド。ディーラーが配る1枚を見る。――残念ながらスペードのA。ツーペアから伸びることはなかった。それでも。

「――剛毅ですわね。其れだと私はチップが足りなくなってしまいますが……貴方様は私が降りるのを望まないでしょう?其れならば、全額はここに置かせていただきますが、其れでよろしくて?」

置かれるチップは50枚。彼ほどではないにしろ、少女が出すには多すぎる金額だった。其れこそ貴族令嬢の豪遊とでも言うべきチップ達は、実を言えば少女が騎士団で稼いだ日銭。持っていかれると少し悲しい思いをすることにはなるが、この雰囲気で降りるというのは周囲の客が許さない。――なれば受けるより他はなく、すべてをかけて、カードを机の上に置いた。彼が其れに同意すれば、勝負は履行となるが――。

ハスタ > この組で勝てると思っていた。一応はと言った具合にダイアの7をディーラーに手渡して変えるだけ変えたが、帰ってきたスペードのクイーンがのっぺりとした笑顔を此方に向けるのみだった。…まぁ、こんなもんでいいか。多分勝てるだろう。

「ん?そうだなぁ、勝負から逃げるなんざ、男のする事じゃねぇぜ?…そいつで結構だ。」

ま、一回目はおじさんが降りたけどな!と後から付け加えて何が面白いのかまた笑った。足りないのは、たった十枚。さりとて十枚。一枚どれくらいになるものか。

「んじゃ、ショウダウンといっきましょーう!てっててーん。ツーペアーっ!」

そうして、勝負が履行される。絶対に勝てると確信した表情。そして勝ったと決めてかかる身振り手振り。そうしてイカしてないおっさんがイカしてない表情で「ah…」と、何処から出しているのかも分からない声を出しながら、格好つけた反動で所謂死んだ目を晒すのであった。ざわめく観客に指をさして笑われたり、下品な男だとか思われて居る気がする。


「ハハッ…この世は無情だ。そうは思わんかい?」

臂を机にガン、と置き据えながら大きな手でその顔を覆って。露骨にガッカリした風に芝居がかった声色で聞いてみた。実際はこの男、別段苦しんでいるわけでも悲しんでいるわけでもない。四度目するかい?っていうかしてくれ。と言った具合に指と指の間から視線を覗かせて目で聞いた。まだニヤついている。

シャロン > ――どうやらこの男は賭博というものが心の底から好きらしい。オーバーなリアクションもそう思えばそれなりに似合っているような気もする。とは言え困ったのは少女の方。勝負を続けるのは構わないのだが、如何せん目立ちたくないのだ。一応潜入任務に赴いている身。さて、どうしたものか。とは言え、別のことを考えていて勝てるほど柔い相手でないのも事実。向き直ると、稼いだチップを積み立てて。

「いいでしょう。後2回お受け致します――5回勝負で切りが良いでしょう?それにこれで1勝2敗――貴方様が2度勝てば勝ち抜け、1度でも負ければ私の価値ということで。ふふ、賭博がお好きなようですし、心躍っているのではなくて?」

嘆いているようでその実、笑っているのも見抜いている。同じように微笑みを返すと、4戦目の支度を始める。相手はチップの枚数も実力も底知れないが、こちらは少なめのチップで頑張るのみ。配られたカードは5/7/8/9/Jで8以外はすべてスペード。8はハートという有様。――ストレートかフラッシュか、それだけが問題で。悩んだすえに抜き取るのはハートの8。確率としてはそちらのほうが高いから、と交換を試みる。やってきたのはスペードの10。フラッシュになるのであれば、2回めのベットでは小気味よく。

「……ならばここは多めにかけますわ♪」

差し出したチップの棒は6本。先ほど稼いだ分全額。半分以上を一度にベットする戦略だ。男に勝負での負けを匂わせながら、微笑む。無論、勝負とは別に掛け金は動くわけで、最後に金を持たないものが最終的な敗者になるわけだが、何よりも勝負を早く抜けるという目標のほうが大切だった。

ハスタ > 「ほう?そうだな、おじさん賭け事は大好きなんだ。何よりも、こう、楽しいって感じがするだろう?フォーオブアカインドが揃った時なんかもう最高だったな。今日は来てるって思ったね。」

また幾度となく頷きながら、ニヤニヤ笑う。そう、このおっさん。ガタイが良い故に一言一言がデカくて五月蠅いのである。他人の注目を集めるのも無理はないだろうに。彼女の言葉に頷きながら、またカードが配られる。

「おいおい?嬢ちゃん。そりゃあねえぜ、あれだろう?何だかんだ理由付けて、おじさんと遊ぶのがヤンなっちゃったんじゃなーいのぉ?止めないけどさぁ、おじさん寂しいなぁ。これは何としても負けらんないねぇ!んんん…んん…?」

一方的な被害妄想をぶつけながら、口の先をとんがらせる。ハートの3、ダイアの3、クローバーの3、またジョーカーと、ハートのエース。なんだこれは。やっぱり今日は来ているのか。思わず手札を二度見した。ジョーカーさんありがとう。部下とババ抜きした日にはその舌を出した間抜け面を拳で射貫こうかと思ったが、今後はこのカードに忠誠を誓おう。これ変えなくても良いんじゃないか。ってか変えなくてもいいだろ。いや、強いて変えるならハートのエースなんだが、もう一枚3がくるわけでもなかろう。だが、これなら間違いなく勝てる。そう確信した。

「レイズ。120枚。ヒャッハァ!燃えてきたねぇ!楽しくなってきたねぇ!!」

躊躇いもなく、彼女の差し出したその倍のチップを叩きつけた。文字通り、ドカン!と。それはもう仰々しい素振りだった。彼女が仄かに滲ませた勝負への自信等、全く気にしてはいない。一応エースをディーラーに渡して変えてもらった、クローバーのエースが返ってきた。

シャロン > 「其れは良かったですわね。私は安定していますが、運の上下がない分平凡な手にまとまってしまうのが常ですわね――」

基本的に運がいい分、爆発的な火力がないのが問題。今回もそう。フラッシュやフルハウスは結構な確率で来るのにそれ以上となると中々困ったことになる。そして目の前、勝負を決めに来た様子で120枚のレイズ。――上乗せするにはチップが足りず、困ったなぁ、と苦笑して

「70枚ほど足りなくなってしまうのですが……では、全額で」

売られた勝負だから、というのが一つ、もう一つはこれでようやく勝負に蹴りがつくと感じたから。自分が勝っても相手が勝っても、この場は終わってしまうのだ。そして差し出すチップ50枚。最後にカードを表にすると、フォー・オブ・アカインドとフラッシュの勝負。残念ながら少女の負けが確定した瞬間で。

「……70枚、どうしたらいいでしょう?」

流石に困った、と先程までのお嬢様然とした口調ではなく素の口調で、冷や汗をかきながら男に問うてみる。

ハスタ > 「ah!」というこれまた何処から出しているのか正体不明の昂ぶった声が上がった。

「…はっ!やーぁりぃ!おじさん勝っちゃったぁっ!」

親指を立ててにったりと笑った。声が低くなければ、このガタイでなければ。それは楽しむ少年の表情宛らであったろうに。しかし、このおっさんが思わずシャウトするのだから迷惑極まりない。

「ううん。…どうすれば、いいんだろうねぇ?おっじさん分っかんないなぁ。」

取り敢えずと言った具合に110枚のチップをかっぱらう。作らない、素が出た口調に、分かっている癖に分からないフリをして「はってなぁ」と首をかしげる。傾げるのだが然し、やっぱりニヤついている。わざとやっているのがまるわかりの素振り。からかっている。

シャロン > 「……仕方ありませんね、負けは負けですし、貴方の希望を一つ叶える、で如何でしょうか?生憎と、金銭では贖えませんので其れ以外で」

これもまた運命ということだろう。或いはもしかしたら自身を嫌う者達に図られたのかもしれないが、その真相は闇の中。だれも知らないことである。110枚のチップを払い、そして無一文。――王都の銀行にはまだチップにして500は下らぬ程度の金が眠っているのだが、それは王都での話。ここ、港湾都市では全くもって意味が無い。故に少女から言えることは、お金以外の何かで持って行けということになる。身分を明かしたくないからか、自身の龍の血を対価に出来ないのが一番痛かったりするのは秘密だ。

「――早くしないと逃げてしまいますよ?小さな鳥は臆病ですから」

捕まえるなら今のうち。観念している時でなければ少女を捕まえることは出来ないだろう。なにせ、銀の短剣を隠し持っているがゆえに、魔族であれ人間であれ、対峙する自信はあるのだから。――とはいえ、聖女の称号に誓って、物騒を起こす気はないのだけれど。