2021/04/17 のログ
ソラム > 「これくらいで、いいかな」

そう言って手に持つ純白のエストックを振るい、刃についた血を振り落としているのは、12、3歳ほどに見える小柄な体格の少女。
群青色のコートを羽織り、背中には彼女の身の丈ほど大きく、漆黒の刃が煌めくバスタードソード。
彼女の周りには狼が2、3匹転がっていた。どの個体も事切れ、辺りには血の水溜りがいくつができていた。

「.....此処って、種は色々居て、いいね」

血を落とし、ピカピカになったエストックを腰の鞘に収めると、軽く息を吐く。後はこれを運ぶだけ。
彼女は小ぶりなナイフを取り出すと、狼の部位を切り出し、袋へと詰めていく。
その作業が終われば、一旦休憩とその場に腰を下ろすだろうか。

ネメシス > 「「副団長、人がいますぜ。」」

先行する一騎が狼の死体をばらしている何者かの姿を見つけ、声を挙げる。
その一騎は槍を片手で構えつつ、騎士たちの合流まで遠巻きに狼を解体し終えたらしき相手を監視する。

「なんだか凄い臭いがするわね。
こんな時間に狩りでもやってるわけ?」

数分ほどして到着した白銀の騎士は鼻につく臭いに眉を潜める。
騎士の周囲を守る部下達もどうようの感想のようだ。

ネメシス > 「「あれ、どっかいきやしたぜ?」

居たはずの狩人?はいつの間にか姿を消して。
騎士団は気を取り直してその場を後にする。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からネメシスさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 冒険者は全ての責任を自身で担う個人事業主でありながら、
依頼を受ける際には一時的にせよ、継続的にせよ、徒党を組む事が多くある。
得意分野の役割分担による効率化に加え、生存率を格段に向上させる事が出来る為だ。
尤も、それは飽く迄も、経験や才能が近しい者達が組んだ場合の恩恵となる。
熟練が足手纏いの新米と組めば、当然、効率も生存率もへったくれもありはしない。

その不公平感を解消する唯一無二で、一番分かり易い方法が金、即ち、報酬の取り分だ。
他人の足を引っ張る半人前には、文字通り、半額の報酬しか支払われず、
熟練者や特殊技能持ちには二人前として、1.5倍や2倍の報酬を分捕る者も存在する。
そして、半人前同様、報酬の分け前を減らされる事が多いのが女性冒険者である。
これは差別等ではなく筋骨隆々の女ならば別だが、怪我を負った際に背負ってくれる男と、
まともに担いで走れない女、どちらと組みたいかと言えば常識的に前者であり、需要が減れば値が変わる。
だが、そんな女冒険者でも等分の、或いは、それ以上の好条件の分け前を得る方法もあり――――。

「――――さて、飯も喰ったし、明日も早いし、……そろそろ良いか?」

夜更けの森の中、焚き火に当たりながら、革袋の酒を呷っていた中年冒険者が傍らの女に声を掛ける。
相手は高額報酬の魔物退治の依頼を受ける際に分け前の等分を約束して一時的にパーティを組んだ女冒険者。
その条件は、疲労やストレスを体で癒す事、即ち冒険中に肉体関係を結ぶという極ありふれたもので。

トーラス > そのまま、夜が更けていき――――
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ―――死にたいなんて、一度も思ったことはない。少なくとも本気で思ったことなど。
 むしろ、死にたくないとそれしか思えない――

 のに。

 何故今、およそ助けも期待できない樹海の奥で血を流して満身創痍で勝てない敵と対峙しているというのか。
 
   オークが出る、とは納得ずくだ。だが、変異種だとまでは。
 親が狩られたかどうかで、まだ幼生のオークが縄張りから弾かれて人里まで迷い出てきたという。それを駆除するというパーティクエストであった。
 幼体であれば、討伐の難易度はさほど高くもない。3人もいれば充分多いくらいだ。と編成された剣士と弓士と回復術師の俄かパーティ。朝方に落ち合い昼日中の樹海の奥、オークの出没地点に辿り着いたまでは良かった。
 けれど、まさか幼体とは思えぬ膂力と幼体ならではの素早さ、成体以上の知能、刃物のように鍛えた爪といったオークに、口先だけの腕なし前衛が瞬殺されて首が転がり。そこからすべてが狂うなんて予測は……していなかった。
  
 まだ経験の浅い15歳の女弓士は恐慌状態に陥り矢を乱射して悲鳴を上げて一目散に逃亡した。
 
 乱れ飛ぶ矢をかわして身を伏せたもので逃げ遅れ――その後は弄ぶように顔と云わず腕と云わず足と云わず胴と云わず全身に鋭く手入れした爪で裂傷を刻まれ、出血で貧血状態で生殺しに遭いながら今に至る。

 対峙した魔物が、確かな知性――悪知恵と云えるもの、を宿した双眸を可笑し気に光らせ逃がす気も殺す気も生かす気もない、玩具を見る眼差しでこちらを観察していた。

「――ッ! ………っ動きも、お見通しって訳……?」

 ワンステップで跳躍、肉薄しスタッフを得物としてオークの右脇を狙ってスイングするが見切ったように軽くかわされる。まるで格闘術を覚えた野生動物のように厄介な動き。力が足りない分スピードと急所を突く攻撃で魔物と渡り合っていた特攻型ヒーラーには相性最悪な相手だ。

ティアフェル >  死ぬかもしれない――
          死にたくない、死にたくない、死にたくない!

 生地を裂いて流れ出た血が白衣を赤く染める。真っ赤に、まるで血で彩られていない場所を失くすように魔物の爪が白衣の胸元を大きく裂いた。辛うじて直撃をかわして、鎖骨辺りでぱっくりと切り裂かれ傷口と肌が露出する。

「っ、死にたく、ない……死にたくない、死にたくない、死にたくない……」

 零れる声は念仏ように胸中を吐露していた。頭の中にはそれしかない、それで一杯に渦巻いて埋め尽くされている。
       死にたくない。

「まだっ……死にたくない…、の…!」

 慟哭にも似た声で叫びながら、また迫るオークの爪を避けてその顔面にスタッフを叩き込み。

「あんたが…、あんたが死んで…! あんたが死んでよ……! お願い、お願いお願いお願い――」

 オークにヒットし鼻っ柱を叩き折る鈍い衝撃が腕に伝う。そのまま連続して二打三打四打と振り被った――

「死ん、で……ッ――あ゛っぐ……」 

 しかし殴打ラッシュは敵わず、三打でスタッフの先は握り取られ。そのまま咄嗟に得物を離せずに魔物の膂力でスタッフごと地面に叩き伏せられて、っかは、と喀血しながら沈んだ。

「死にたくないいやだやめてよお願いやめてやめてやめてやめてえぇぇえええぇぇ!!」

 獰猛に目を光らすオークに組み伏せられてまだ小柄な、己とそう変わらぬ身の丈のその手に首をつかまれへし折ろうとする動きに引き裂かれるような断末の叫びが、

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にミシェルさんが現れました。
ミシェル > オークから聞こえた。その指先を見れば、
ティアフェルを掴もうとしたそれは無残に反対側にへし折れているのがわかるだろう。

「はーい、そこまでだよ」

オークの背後から声が聞こえてくる。
そこには小ぶりなタクトを構えた男装の麗人の姿。
彼女が杖を上に振ると、オークの体は宙高く浮き上がる。

「まぁ死んでいても研究材料にはなるか。危険だしね」

そう言い短く呪文を唱えると、強く鋭い風が吹き、オークの首をすっぱりと切断した。
重力に従って落ちる首と、浮いたままびくびくと痙攣する体。
女魔術師が杖を下ろすと、オークの体も静かに地面に落ちる。

女魔術師は視線をティアフェルのほうに向けると、つかつかとそちらに歩み寄る。
そして、にこやかな顔で片手を差し伸べた。

「大丈夫かい仔猫ちゃん?僕はエタンダル家のミシェル。宮廷勤めの魔術師だ」

ティアフェル > 「―――?!」

 悲鳴の尾がまだ谺する中、めき、と鈍く骨が折れる音が耳障りに鳴っていた。一瞬自分の首がへし折られた音かと卒倒しかけるが――、

「……っは……?」

 第三者の声。逃げた弓士、死んだと思われていた剣士――首をふっ飛ばされてそれは無い――一瞬、連れだって来た仲間か、と錯覚したが、そんな訳もない。実際に違う。
 声が響いたかどうかと云う内に身体の上から浮かび上がる小柄なオークの幼体。
 何が起こったか分からず瞠目しながら唖然とそれを見上げ。

「…………」

 なにやらマッドなことを独白する女性の声と泣き別れるオークの首と胴。ぴしゃ、と跳ね跳んだ血しぶきが頬に掛かって、ただでさえ血染めで絶句するヒーラーを更に赤くした。

「ぇ……? え? あ……は……? ま、じゅ……魔術、師……?」

 しばし軽く錯乱していたが、一応は冒険者の端くれ。事態を飲み込むのは一般人よりもはるかに早く、我に返るのもまた。
 差し伸べられた手を反射的に取ろうと伸ばしかけたが……血に酷く汚れていることに気づき、相手の白い手を赤く汚してしまうのにも躊躇われて、伸ばしかけた手をそっと触れるか触れないかくらいの近さにして一見、その手を取った様にしてよろり、とふらつきがちに立ち上がり。

「仔猫ちゃんは、通りすがりの魔術師ミシェルさんのお陰様で、辛うじて無事、かな……?
 ああ……でもこっちはもう……駄目だ……即死してる……」

 真っ先に屠殺されてしまった、剣士の転がった首を見下ろして苦く痛々しく表情を崩した。

ミシェル > 「……はぁ、別に汚れちゃ駄目な服で外を出歩くほど世間知らずでも無いのだけどね」

ミシェルは胸元からハンカチを取り出すと、彼女の頬を拭いた後差し出した。
そして、こちらも仲間であったろう剣士の首を見てため息をつく。

「不幸だったね、こんなところで。冒険者かな?それともコイツを討伐しに来たのか」

まだびくびくと体を震わせながら、首から血を吹き出し続けるオークの死骸。
生命力が強いのか、首が無いのに今にも起き上がって襲い掛かってきそうだ。

ミシェルはティアフェルのほうに視線を戻すと、またにこりと微笑んだ。

「君、怪我はあるかい?魔法が使えるようだけど回復術は使えるかな?」

なんなら僕がかけようかと笑いかけるが、どうも目の前の相手が回復術士だと目星はついているらしい。
回復を待ってから、ミシェルは話を続ける。

「君、その剣士と二人で来たのかい?それはちょっと無謀に思えるけど…。
仲間とはぐれたなら、一緒に探してあげよう」

ティアフェル >  彼女の手を汚してしまうことに遠慮したことを察した言葉に、軽く眉を下げて微苦笑気味の表情を浮かべ。

「――だって、あなたは貴族なんでしょう?」

 平民が汚すには躊躇われる。けれど、ハンカチで拭われた頬。その上でそれを差し出され。若干気後れしたようにぱちくりと瞬いて、おずおずと受け取って、ありがとう、と少し不器用に口にした。そのハンカチを受け取った手が小さく震えていることに気づいてまた、苦笑いを零した。さすがに危機が去ったからといってすぐに身体は冷静に戻ってくれるという訳ではないらしい。

「随分、変わった人なのね――え? ええ、そう……こいつを殺すつもりが殺されてしまったわ――オークの成体とも渡り合える、なんて吹かしていたのにね……この人も」

 大口を叩いてオークの幼体ごとき敵ではないと剣士が息巻いていたのはほんの数10分前のことだ。
 首を断たれてもなお、まだ蠢くオークの死骸から自然距離を取って。

「うん、大丈夫よ。服は直せないけど――怪我なら自分でできるから。どうもありがとう。助かったわ」

 笑みかけるそちらに、まだ少しぎこちなかったが笑みを返して、スタッフを握り直すと己へ向けて詠唱ののち暖色の光を生み出し、回復術を施した。血や土で汚れところどころ裂けた衣服までは直せないが、傷痕は粗方塞いで、ほう、と息を吐き出した。

「オークの幼体という話だから本来普通の幼体なら二人でも充分間に合うレベルなのよ。変異種という情報がなかったのが悲劇でした。
 ――でも、弓士が一緒だったの。15歳くらいの女の子……あっちの方へ逃げていったんだけど……」

 矢を乱射して逃げ去って行った街道の方向を指差す。しかし、彼女は今頃運よく他の冒険者パーティと遭遇して身柄を保護されていたのだが、それは魔術師でもない自分にはもちろん分からない。