2015/10/25 のログ
イルミ > 「あはは……えっと、こちらこそ、ありがとうございます」

月光茸を受け取りながら、困ったような笑顔を浮かべる。媚薬、惚れ薬の類は実は今まで作ったことはなかったけれど、これを機に試してみてもいいかもしれない。自分の出自が出自だからか、無意識にそういったものを避けていたかもしれないから。しかし、月光茸よりも嬉しかったのは彼があからさまなまでに喜んでいたことで、

「……あの、ついでと言ってはなんなんですけど……撫でて、いいですか?」

恐る恐るとではあるが、思いきって尋ねてみる。「好奇心猫を殺す」なんて冗談めかして言ったのを聞いて、恐らく彼は猫扱いされるのを嫌がったりはしていないんだろう、と思ったのがそのきっかけになった。

ケイシー(猫妖精) > 「ん?ん〜、いやまぁ、構わねえよ?どうせ…」

 多少の接触魔法なら、対処出来る自信はある。
こちらもついでだ、少しばかり『年齢』を頂いておくか。
心の中でそうひとりごち、撫でやすいよう帽子を脱ぐ。

「…いや、どうせ酒場で冒険者連中に撫で回されてるからな。
ああでも、毛を逆撫でするのは勘弁な。あれ結構、嫌な気分になるからさ」

 止め止めとは言ったものの、この少女?はここで、何をしていたのだろう。
そういえばこのところ、夜中の街道に色白で黒い髪の少女がうろついているなんて話も耳にする。
この、背の低い…今の自分よりは高いが、この少女がそうなのだろうか?

イルミ > 「わかりました……えっと、そ、それでは、失礼して……」

何故か妙に緊張してしまっているのを自覚しながら、そっと手を伸ばす。何故突然撫でたい等と言い出してしまったのか、と自問してみるが、そんなことはわかりきっている。目の前に猫がいるからだ。それ以上でも以下でもない。

「はふ……」

その頭に手を置くと、感嘆したような吐息を漏らす。柔らかい毛の感触は思っていたよりもずっと心地いい。いいなぁ、猫。飼いたいなぁ、猫。魔女と言えば猫だ。黒いやつなら最高だけど、可愛ければ何でもいい。猫は使い魔としても便利だと言う話を聞くけど、そんなこともどうだっていい。
なでなで、もふもふ。しばらくの間、いや、彼が抵抗しなければずっとでもこうして撫でていられるかもしれない。

ケイシー(猫妖精) > 接触。直接触れていないよりも、接触しての方が魔力の通りは良い。
実際、幾つかの魔法の中には対象に触れる事が前提とされている物も少なくない。

 少女が接触している所から、(恐らくはイルミ自身としては無意識に)「魅了」の魔力がうっすらと入り込んでくる。
(ははぁ、やっぱりコイツが例のうろつき少女か?どっちにしろ…)
今のこの位ならば、充分レジスト出来る。多少本格的にかけて来られても、師匠が百年かけ彼に浸透させた魅了を、そう簡単に上書きは出来ないだろう。

 もちろん、実際のところイルミの側にケイシーを虜にしようという魂胆はなかったのだが…
一切抵抗をせず、撫で回したいようにさせる。わざと半眼になり、とろーんとした表情を作る。
イルミが魅了をしてきたと捉え、ちょっとかかったフリだ。

イルミ > しばらく撫でていると、彼のまぶたが少しずつ降りてきたのに気づいた。猫はやはり撫でられると気持ちいいものなんだろうか、と思うと同時に、自分の手で猫(のような生き物)を可愛がれているという実感が湧いてきて嬉しくなってきた。頭ばかりを撫でていた手が次第に背中の方にも伸びる。
実のところ、猫を飼いたいとは前々から思っていたのだけど、実際に手で触れたのはこれが初めてで、

「ぎゅー……」

テンションが上がってきたせいか、わざわざ口で擬音を表現しながら彼の身体を抱き寄せた。少し前の自分ならはしたない行為だと思っていただろうけれど、もはや手つきにはほとんど遠慮がなく、彼が力を抜いたままならその身体を自分の胸に押し付けてしまうかもしれない。

ケイシー(猫妖精) > むぎゅー。

 猫はイルミのされるにまかせている。三角帽子にマント姿の二人がひっつき合うシルエットは、はたから見れば山猫の頭のように見えたかもしれない。
猫の顔がイルミの体躯に似つかわしくない程ゆたかな乳房に押し付けられる。

 体温。柔らかな感触。微かな乳の香り。
彼が普通の少年ならばもうそれだけで興奮してこようものだが、幸い?ケイシーは少々ズレていた。
猫の姿をしている時は彼の感覚は猫に近かったし、猫は乳房が大きくなる生き物ではない。

 ただ、暖かい。身体を密着させて居る状態も、落ち着く。
半眼で作っていた表情だったのだが、些か本当に眠たくなってきてしまった。
瞼が閉じ、呼吸が落ち着いてくる。

 駄目だ。寝ちゃ駄目だ。でもなんか、心地いいな。
毛布に包まってウトウトしている時のような心地よさだ。

イルミ > さすがに抱き締めてしまったのはマズかったかな?という微妙な後悔は少し遅れてやってきた。しかし、腕の中の彼は相変わらずの無抵抗で、何か指摘してくるような一言もない。
つまり、もっと撫でていい。

「かわいいなぁ……♪」

こんな機会はしばらくないかもしれない、という気持ちが自制心の利きを悪くしていた。ほとんど欲望丸出しのまま、彼の背中を撫で続ける。なるほど、何かを可愛がるというのは自分が心地よいだけではなく、相手も心地よくさせなければならないのか。
彼の体温を包み込むようにして感じながら、愛しさが抑えきれなくなって頬擦りすらする。

ケイシー(猫妖精) > サキュバスであるイルミにとっては、もしかすると性的な交わりを抜きに
こうも誰かを抱きしめつづけるという行為は、とても貴重な経験だったかもしれない。

 猫妖精も、「そろそろいい?」等と咎めるような事を口にせず、イルミの胸元に丸い頭を乗せる姿勢ですっかり落ち着いてしまっている。
呼吸はゆっくりで、今にも眠ってしまいそうな雰囲気だが、時折尻尾が揺れるのをみると完全に寝入ってしまった訳ではないようだ。

「ん…」

 頬ずりをされれば、少し薄目を開けて猫の方も頭をすり寄せる。
眼を閉じた猫の表情は微笑んでいるようにも見え、余程猫ギライでもなければなんとはなしに幸せな気分になってくるだろう。

 時折モゴモゴと口が動くが、何かを言いたい訳ではない。猫が夢うつつの状態でよくする動作だ。
彼を使い魔にしてしまえば、好きな時に好きなだけ、こうして柔らかな毛並みを堪能出来るかもしれない。

 イルミは普段の、性的な事とは別の欲求に。
ケイシーはこの寒空の下で、思いもかけず居心地の良い寝場所に。
二人とも、思わぬ形での快楽に陥いっていた。

 互いの体温が、互いを深まる秋夜の気温から守っている。

イルミ > 普通なら、夜の闇の中、道の端でこうやって落ち着くことはかなり難しいはず。それが出来ているのは、それだけ猫を可愛がるという行為に憧れていたというのもあるけれど、サキュバスが夜に生きる種族であることも大きい。それは猫にしても同じなのかな、とぼんやりと考えながら、

「……ん……」

口許から息を吐きながら、もう一度頬擦りする。
心地いい。自分が人間ならよかったのに、と思ったことは、今まで一度や二度ではなかったけれど、今ならハッキリ、サキュバスでよかったと思える。

(ねこ、いいなぁ)

なんとなく、ぼんやりと「猫が好き」と思っていた自分の嗜好が、いつの間にか「猫最高!」というレベルまで振り切れたのを自覚するともういちど頬擦りした。

ケイシー(猫妖精) > 頬ずりに無意識に頭をすりつけ返す。

「…んお。悪りぃ、暖かくてちょっとマジでうとうとしてたわ。
あんま遅くならねえうちに、そろそろ月下貴人摘んで帰るかな」

 眼をなんどか開け閉じし、抱っこされたままの姿勢でイルミの顔を覗き込む。
どれくらい、こうしていただろうか。
何時までもこうしている訳にいかない。

イルミ > 「あっ……そ、そうですね、ごめんなさい」

こっちもこのまま眠ってしまいそうになっていた。いくらなんでもそれはまずい。……とは思いつつ、身体を離す手つきは明らかに未練タラタラで……

「……そうだ、えと……この先、街道沿いに、私のお店があるんです。また機会があったら、寄ってみてください。占いくらいなら、サービスしますから」

宣伝ついでに、また会う口実をつけようとする。自分の家ならもっと遠慮なくもふもふできるかもしれない。そう思えばこの口惜しさにも耐えられそうだった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からイルミさんが去りました。
ケイシー(猫妖精) > 「んは、商売敵とは思ってたけどあの店の人かよ。
んじゃ、隙を見て覗く位するかね。それじゃ!」

手早く月下貴人の周りを掘り、丁寧に採取すると、猫はマントをコウモリの翼に変え夜の闇に消えて行った。

 またいずれ出会う事もあるだろう。互いのぬくもりが残るうちに、寒空の中二人はそれぞれの家路についたのだった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からケイシー(猫妖精)さんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にアルバトロスさんが現れました。
アルバトロス > (遺跡で謎の武器を手に入れた男は、あれから王都で情報を集めていた。鍛冶屋、酒場、武器屋など…特別な身分で無いと出入り出来ない所意外には顔を出したつもり。だが、これと言って有力な情報を掴むことができなかった。)

「…別の街へ向かうべきなのだろうか。それとも、古代時代に詳しい奴に話を聞くべきなのだろうか。」

(所謂、手詰まり状態。王都から出て街道を歩いてはいるものの、何処に向かえば良いのかも分かっていなかった。いっそのこと、魔族の国にでも向かうべきかとも思っていた)

アルバトロス > 「…別の街へ向かうか。」

(そのまま、街道を歩いていくのだった)

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアルバトロスさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にレインさんが現れました。
レイン > 特別、周囲に警戒を払うといったことはしない。
獣なら逃げ出すことが出来るし、人間なら首を落とすことだって出来る。
故に、街道を歩く姿はどこまでもマイペース。
今のところは耳や尻尾を仕舞いこんでいる為、其方での心配もない。

「―――面白くはないな」

今日は依頼も請負っていない、フリーの日。
人と会わず、一人思いを巡らす――とは大切なことなのだろうが、如何せん暇である。
何か面白いことは無いかと求めてしまう始末。

レイン > 「……町に帰って、観察でもしていようか…」

暇になった時すること。人間観察は矢張り飽きないものがあった。
そんなことを呟きながら、とん、と人気も無い街道の中頃で立ち止まる。
周囲を見渡し、誰もいないことを知る。

「それもいいかな。…それがいい」

呟けば踵を返す。今来た道を再び辿り始めて。

レイン > あとは緩やかな歩調で、道を辿るだけ。
道中何が起こるでもなく、王都への帰路につく―――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からレインさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にシャロンさんが現れました。
シャロン > ――秋の宵はよく冷える。バトルドレスの上に外套に包まりながら、小さな影が街道を歩く。松明の火に照らされた金髪は赤みを帯びた輝きを見せ、闇の中に流れるように揺れている。腰には二本の長剣。剣術の心得や見識がある者なら、その剣が細身であることから刺突用の物か、或いは双剣使い用の物なのだろうと分かるかもしれない。深い青を湛えた瞳は、宵闇の向こうを見やる。魔物が居るかどうか、と言う事で行われる基本任務――定期巡回である。神官として、騎士として、サボるということなど知らないからか、律儀に周囲を警戒しながら、小さな影は歩みを進めた。

「――今の所は異常無し、ですね。魔族の者も安息日くらいは休むのでしょうか?」

世界を作る時に神が給うた、とかいう安息日。町の酒場等は賑わいも一入だろう。とは言え、それも小さな影たる少女には関係ないことだった。休みなどもらえずとも気分転換は知っているし、職務を厭うたこともない。若干職務中毒気味である少女は腰に下げた小さな革袋から干し肉を取り出すと、齧りながら先へ行く。

(……最近、温かいものを食べていないですね。こう寒いと、ぬくもりが恋しいですが)

吹き付ける風の強さに、外套を目深にかぶる。寒さは心を荒ませるから、暖かくせねば。吐く息は僅かに白く、冬の予感を漂わせている。塩っ辛い、と内心小さく不満を零しながら、夜警に当たる。帰ったらホットミルクが飲みたい、と少しだけ贅沢を思いながら。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にワルセイ・イダーヤさんが現れました。
ワルセイ・イダーヤ > ハァ……ハァ……ハァ……

(秋の宵の道、その道を血まみれの男が足を引きずりながら歩く。その姿は異様そのもの。全身黒づくめの旧時代の貴族風の服そうは夜に隠れており、だが、男の赤黒い血で染まっている。男の息は荒く、何か、戦闘でもしたかのよう)

……っく、俺としたことが。まさか魔族に出会うとはなぁ…

(男は白い溜息を吐き、息も絶え絶えて歩く。この男、この道向こうの街で医者として治療活動をし、その帰りにこの道を歩いていたのだが。魔物か魔族かわからないが、そういった類のものに襲われたのだ。)

……っふ、っくそ、もう、歩けんか。

(そう呟いて、がくり、と膝を折る。そして、冷たい地面にバタリと仰向けに倒れて…)

あぁ、こんなところで死ぬのか…俺は……

(まだ、やり残したことがある。こんなところでは死ねない。その執念だけで目を見開いて、息をする。)

……っげほ、ごほ……?

(そして、男の耳は、何者かの足音を拾って…)

シャロン > 宵闇の中、進む先に何かの気配を感じ取る。魔物か、はたまた魔族か、或いは民間人かもしれない。まずは耳を潜めて、いつでもかけられる用意をする。僅かに聞き取れた言葉は、苦悶の様子が見て取れる。これはいけない。そう思った瞬間、少女の体は駆け出していた。石畳を軽く蹴り、龍の加護により目の前の空間を清め、加速の法術を敷く。まず右足を乗せ、変わる速度には落ち着いて左足を出すことで答えた。刹那、その身は掻き消えるようにして疾風を纏う。声と気配が近づいてくれば、息を吸い、大きく一声。其れは魔族や魔物を牽制し、民であるなら安堵させるための一手。

「――そちらにおられるのは何方様ですか?こちらは神殿より参りました騎士の一人に御座います。お気が確かであるならばご返事ください!」

やがて駆けていく先に見えるのは、血まみれの男の姿。呼吸の間隔と強さに急患であると悟る。――ただの法術では間に合いそうにない。断ずれば、躊躇いなく腰の後ろに指した短剣を引きぬき、掌を浅く斬りつける。湧きだした真紅を手元に貯め、法術による聖別を一度。後に、そのまま男に駆け寄って、傷の近くに跪く。手の中の血をその身に振りまき、傷を癒やすための媒介にするのだ。目下、男のものであろう赤黒い血液と、自身の鮮血が交じる。血液の塗布を確認すると同時、指は空に紋章を刻んだ。神への祈りを示す紋章――法術の予備動作。同時、振りまいた血が淡く輝いて、傷ついた男の体を癒し始める。効果の程は相手の魔術に対する耐性次第だが、大まかに見積もっても死を回避することは出来るはずだった。

ワルセイ・イダーヤ > ……っ…うぅ……

(男は、死後の世界に足を踏み入れそうになっていた瞬間、女の声が周囲に響き渡り……ほうっ…っと安堵の息を漏らす。人の声に安堵するなど何十年ぶりであろうか。)

あぁ……こ……ちだ…

(息も絶え絶えに男は女の声に返す。そして女騎士が駆けよってこれば、ふっと安堵が深まる。そして、女騎士が自身に血を振りまき、何か、法術であろうか。それを発動させれば、男の体はみるみる回復していって……)

……っぐ、うぅ…

(だが、いくら肉体の傷が消えたところで、痛みまでは急には消えず、男は、血まみれになったカバンに手を伸ばせば、痛み止めの薬を飲む)

…ッふう…た、助かった。さすがの俺も死ぬかと思ったぞ…

(そう言いながら男は手を握り、開く。どうやらかなり完全に回復しているようだ。)

……助かった。礼を言うぞ。神殿の女騎士よ。

(男は上半身を起き上がらせ、自分を助けてくれた女騎士に向きあう。)

そなたが来なければ、志半ばで死ぬところだった…深く、礼を言う。

(そういって、男は旧時代の貴族がしていた感謝の礼をして)

シャロン > 治癒の際に行った仕草から、男が医者なのだという見当をつける。薬物の類は魔族もよく使うものだから、神聖騎士の座学で学んだ記憶がある。彼が服用したのもかすかに感じた匂いなどから痛み止めだろうと類推した。――とは言え、これも龍としての身体強化が前提での判断。常人であればわからぬ物だ。男の声が力強くなってきたのを確かめると、そっと手の中の傷を意識する。類まれな治癒力は傷を忽ちに塞いで、綺麗な掌を取り戻した。男の言葉には頷いて。

「その様ですね。貴方様へと導いてくださった神に感謝いたします」

一つ、失われそうな命を救うことが出来た。その礼を兼ねての祈りを捧げる。胸元に下げたシンボルを両手で握り、少しの黙祷。後に目を開くと、懐から取り出すのは水の入った革袋。水筒にしてはやや小さめだが、少女の矮躯にはその大きさが丁度良くて。中の水を探索用に備えていた器に注ぐと、男へと差し出しながら。

「こちらを。まずは人心地つくのがよろしいでしょう。――貴方様の事は、私が町まで送り届けます故、ご安心ください」

笑顔を向ける。齢にして14ともなれば、まだあどけなさの残る頃だろう。そして、男の体を軽く目視で診察。傷が癒えていることを確認すると、後は彼のペースで移動する為に思考をシフト。周囲の警戒に意識を割り振る。彼の示す貴族の礼には、少しばかり照れながら。

「いえ、礼には及びません。私は神聖騎士の名の下、当然の事を為したまでです。貴方様の幸運は、私ではなく神の御業でありますから」

だから、自らではなく神への感謝を。というニュアンスをにじませながら、少女は恐縮して頭を下げる。それは、従来の神殿騎士には似つかわない清廉さかも知れない。其れも全て、少女が皆を救いたいという意志を胸に秘めているからの事だった。

ワルセイ・イダーヤ > ……あぁ、ありがとう……―――――

(男は水を手に取れば、少しずつ飲んで。少女のあどけない笑顔を、ふっと優しく見やって……つい、女騎士に対し妹の名前を呼んでしまって、慌てて取り繕う。)

……あ、ああ。すまん。ちょうど、そなたは俺の妹の見た目の年齢そっくりだったから、妹の名を呼んでしまった。……俺の名はワルセイという。もう間違えぬよう、そなたの名を聞きたい。

(そう、少女の名前を聞いて。そして……神の御業という言葉を聞いた瞬間、しかめっ面を深めて。)

……すまぬ。そなたが神を信じるのを否定するわけではないが…俺は、神には祈らぬし、神に助けてもらおうなどとは思わぬ…むしろ、このメダルのように、神を呪っているがためな。

(そう言って、逆さ十字に蛇が巻き付いた、邪悪な雰囲気のメダルを握って)

……なぜなら、俺より優先して救うべき者を、神は救ってくれなかったゆえに…

(その瞳には、怒りと、悲しみのこもった炎が燃えていて…)

……っふ、こんな神を呪う男にあまり関わると、そなたも神に見はなされてしまうぞ?俺はもう大丈夫だから…っく…

(そう言って立ち上がろうとすると、ふらりと立ちくらみで膝をついて)

シャロン > 「……?――えー、と……お人違い、ですよ?」

紡がれた名には、首を傾げる。其れは少なくとも自身の名ではなかったし、或いは知っている名前でもなかった。故にやんわりと訂正。彼も取り繕うようであったから深くは問わなかった。やがて語られる理由には納得すると、誰何の言葉にも素直に返す。

「妹様、でしたか。であれば仕方ないことですね。――私はシャロン。シャロン・アルコットと申します。ワルセイ様ですね、心に留めておきましょう」

そして捧げた祈りだが、其れは男の信ずる所ではない様子。――であれば異教徒かとも思えるのだが、少女は神殿騎士にしては珍しく、相手の信教については気にしていない。否、正確には"たとえ神を信じていなくても、救うべき者は救う"という信条に則って行動しているのである。相手が悪逆を働く者であれば容赦をするつもりもないが、そうでないならば対話を試みる。或いは其れで相容れなくとも、その生命に危険があれば其れを払うものとなる。其れが少女の根幹であり、"幼き聖女"と呼ばれる所以だった。

「――神は万能では有りますが、故に平等ではないですからね。私は、神に対して盲目的ではないつもりです。故にその言葉を、信念を、正すような事はできません」

皆それぞれの来歴が有り、それ故に信じるところの違いはある。其れは少女も生きる中で理解していた。――アイオーン神の加護を持ち、ヤルダバオート神を信じる。そんな特異な身の上も相互理解を考える助けになっているのだろう。故に、男の言葉に彼の身内などの不幸を想起しながら、あえて問うまいと心にしまい。

「大丈夫です。神に見放されたところで、その時は私の持てるもので、可能な限りに手を差し伸べるまでですから。――ワルセイ様、あまり無茶はなさいません様に。頼りないかもしれませんが肩を貸します故、お掴まりください」

ゆっくりと立ち上がると、立ち眩みの気配を見せる男を支えて、そっと肩を寄せる。彼が捕まってくれるならば、そのままゆっくりと、町への道のりを歩み始める。――まだ町まではそれなりに距離がある。気をつけて進まねば、と気を引き締めながら、石畳を踏みしめた。

ワルセイ・イダーヤ > シャロン……か。シャロン、そなた、変わりものだとか言われぬか?

(男は、自分は神を呪っていると言っているのに、それすら受け入れる少女。その姿に、男は眩しいものでも見るかのように目を細める)

……だが、そなたのような聖職者こそ、真の聖職者なのかもしれぬなぁ……無論、聖職者に真も何もないのだろうがな…

(そう言って。男は、シャロンが肩を差し出してくれれば、そっと肩に手を回し…だが、男にもプライドはあるため、あまり体重はかけず、ステッキに力を込めて、できるだけ自分の力だけで立ち上がり少女と共に歩みを進める)

……ところで、そなたの治療法術、血を使うとは珍しいな。そなたの血は何か特別なのかね?

(歩いている途中、ふと気になったことを聞いてみる。思えば、掌の傷ももうない。この少女は只者ではないというのはわかるが、研究者として、医者として興味深いので聞いてみて)

……あぁ、無論、言いづらかったらいい。別に、そなたの種族には関係なく、そなたは俺の命の恩人ゆえな。

(そう言いつつ、ゆっくりと歩いて。)

シャロン > 「……言われますね。其れを嫌って私を汚そうとする者なども居りますから。今の所は皆返り討ちでしたけれども」

神を呪っているとしても、その彼すらも救う。其れが本当にあるべき神なのではないかと少女は考えている。万能であるならば"救う救わないの序列など付けず、救いの手を差し伸べるべき"なのだ。そして、主たる神がそうできないのであれば、"神に変わって自身が、神のあるべき行いを、振る舞いをなせばいい"のである。故に少女は神を心から信じながら、髪ができぬことに自ら手を伸ばすのだ。其れも勿論、"神様はきっと、他に成すべきことがあるから手を差し伸べられない場所があるのだろう"という好意的解釈の上でだった。

「――いえ、私などまだまだ……ですが、その言葉は、その、嬉しく思います」

はにかみ笑う姿は歳相応。あまり見せない顔ではあるが、まだまだ内面は幼い少女だった。男の気遣いには重心の位置などから気づきながらも、其れを口にだすようなことはしない。彼なりに気を使ってくれているのだろう、と言う事で素直に受け取っておく。歩く最中の問いかけには、わずかに答えにくそうに口籠る。しかし、少しの後にゆっくりと。

「……お医者様の様ですから、龍の血の効能はご存知かと思います。私は、龍と人間の間の子供ですから、完全な龍の血ほどではありませんが、その力を引き出すことが出来まして……先ほどのワルセイ様と同じような急患を助けるために、癒しの術の媒介にしているんです――その、これは出来れば、秘密でお願いしますね?」

竜と人の混ざり者、ということがバレれば少なくとも神殿は黙っていないことだろう。良いところで血液を目当てに幽閉、悪い予想では意志を封じられての道具扱いすら予想できる。それでも神聖騎士を名乗るのは、母の思い出の残る場所を味わいたかったからと、真の意味で神の僕として腕をふるいたいから。それでも少女が語ったのは、無用な勘ぐりを避けるため。これで秘密裏に調査をされたりするほうが、情報の持ち主が分からずに困るのだ。故に自ら秘密を明かして、ついで秘密にすることを願うのである。

ワルセイ・イダーヤ > ……そうか。龍と人との……

(男は、少女の複雑な生い立ちに深く同情する。ハーフというのは、いつの世だって弾かれ者なのだから。そして、秘密にしてくれといわれれば)

……無論だ。別に言う相手もおらぬしな。

(そう言って、口約束上だけだが、男は死んでも口に出すことはないであろう。……だが、龍の血……もしかしたら、妹の助けになるかもしれない…だが、命を救ってくれた少女まで道具に使うほど、男は非情になり切れず……そして、しばらく無言の時間が過ぎて、道向こうに薄っすらと街の明かりが見えてきて)

ふぅ…やっと到着したな。……なあ、シャロンよ。俺はお主に礼がしたい。そなたに命を救われっぱなしでは、俺の男しての矜持が許さん。…たとえ、神の導き出会っても、俺を実際に救ってくれたのはお主だしな。

(そう言って、男は一枚の地図を手渡す)

……この地図に書いてある場所に、俺のアジトがある。もしよかったら、来てはくれぬか?…もっとも、薬草茶くらいしか馳走できるものはないが……それに、そなたが秘密を明かしてくれたように、俺も、自分の罪を、そなたに聞いてもらいたいのでな。

(結局は自己中心的な考えなのだが、このままお別れというのは少し寂しいかと思い、提案し……)

では、な。そなたの未来に、幸多からん事を…その……神にでも祈っておこう。

(そう言って、男は少女からはなれていく。少女が男のアジトに来るかどうかは、また、別のお話しで…)

シャロン > 「……えぇ、生まれに誇りを持ってはおりますが、大きな声で言うのが得というわけでもありません故」

同情や嫌悪、好奇が大半だが、少女自身はこの血を、この体を、誇りに思っている。母も自分を愛してくれているからこそ、敢えて別れて人里に残したのだろうと言う確信すらある。その全てが少女に芯を与え、真っ直ぐな性根を作っている。だから少女が希望するのは、男が自らの出生を秘密にしてくれることだけ。そして、予感ではあるが彼が話すことはなさそうで。其れならばこれ以上とやかくいうこともなく、ただそっと彼の身を支えて歩くのみ。やがて見えてくる明かりを遠目に、僅かに安堵の溜息をつく。少女も流石に、男を守りながら魔族と戦うのは不安があったものだから、無事に町へと辿りつけたのは実に喜ばしいことだった。

「――お礼、ですか。ワルセイ様がそうおっしゃるのであれば、私は受けないわけにいきませんね。いずれ折を見て、必ずや訪れましょう。シャロンの名のもとに誓います」

彼にとっては、神よりも自分の名のほうがよっぽど信じられるだろうと考え、己の誇りたる名前の元に誓約する。彼から受け取った紙片――アジトへの地図も一度目を通し、大切にしまう。大体の位置は頭の中に入れた。後はこれをひみつのまま伏せておくのみ。罪を話したいというのであれば、聞くのが少女の勤めだろう。いつになるかは分からないが、彼との邂逅はまたありそうで。

「えぇ、それでは、またいずれ。――もし今後市街を訪れる際に、頼る護衛がいないようであれば声をかけると良いでしょう。手が空いていれば、その身を守る一助にはなります故」

丁寧に一礼して少女もまた、自らの寝床としている宿へと戻っていく。報告には問題なしと記しながら、夜は少しずつ更けていく――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からワルセイ・イダーヤさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からシャロンさんが去りました。