2018/11/06 のログ
■エフル > 「…………で、でも悪い人じゃないです。
悪い人なら、ここでそんな事言わないですもん……
本当に悪い人なら、「俺も好きだよー」とか言って、私を拐って売り飛ばしたりするんです……
だから、クレスさんは……」
言い含めるような優しい声音に、「わたし」の胸がずきりと痛む。
きっと今、ひどい顔をしているから。だから、卑怯だけれどクレスさんの顔を見てお話することはできない。
「クレスさんがどんな風にお仕事してるのかは、知ってます。
見たことはないですけど、知ってます。それでも、わたしは、クレスさんにひどいことをされた人が"わたしじゃない"から、
だから好きなままだったんです。ひどい人でも、わたしには優しい人だから……」
だから。クレスさんの袖を掴む指先が白むほど、手に力が入る。
その先を言わないで、と引き止めるように。
だけれど、紡がれた言葉は否、だった。
胸が痛くて、目から涙がぽろぽろと落ちる。
「一緒になれなくても不幸です……」
生まれる前から「好き」だった、「このエフル」の存在意義が揺らぐ痛み。
「クレスさんがどんなに悪いことをしても、わたしはクレスさんを嫌いになんかなりません。なれません……」
悪事を明かした時、その声はごろつきのような悪事自慢ではなく、悲しむような色を帯びていたから。
「本当は、受け入れて、抱きしめてほしかったです。
でも、ワガママは言いません……クレスさんがわたしを受け入れなくてもいいです。でも、ずっと好きで居させてください……」
何度もつかえて、絞り出すような声で最後のお願いを。
■クレス・ローベルク > 「……売り飛ばしたりなんか、する訳ないじゃないか」
本当に。本当に、嬉しかったのだ。
例え、それが自分を釣るための疑似餌であっても。偽物であっても。自分の一番つらかった時に、『一緒に居た』と言ってくれた人が現れた事が。孤独だった時に、そんな娘が居て、ましてそれが自分を好きだと言ってくれたのだ。
それを売り飛ばすなんて、考えもつかないことだった。
「……俺は……」
泣いているのだと、腕から感じる熱い湿りで解る。
そう、きっと、彼女は自分を好きであり続ける。
それが"エフル"だからなのか、"彼女"だからなのかは解らないが。
だとしたら、どうなのだ。今、此処で突き放すことは、本当に彼女の為なのか。
「俺は……!」
それを思った時、男はエフルを抱きしめていた。
本当にそう思ったのか、それともそれを言い訳にしてでも、彼女を離したくなかったのか。真心なのか、偽善なのか。だが、どちらにせよ、彼女を抱きしめてしまったのは事実で。
「ごめん……ごめんよ……!本当に、ごめん……それでも……俺は……君と一緒に居たいって、そう思ってしまう……。本当に……ごめん……!」
告白を受け入れているのに、謝っているのは自分で。
彼女の制服を、背中ごと掴む様にして。
まるで、悪い事をして叱られる子供のように、男は泣いていた。
■エフル > 「クレス……さん?」
葛藤するような声に、彼を苦しめるひどくズルいことをしてしまった後ろめたさを感じて、一層胸が締め付けられる。
わたしのことを考え、気を使ってくれたクレスさんの優しさを無下にするズルいお願い。
だから、きっと嫌われるのだと思っていた、のに――
「……クレ、スさん。今、そういうことを言うと、わたし本気にしますよ……?」
恋した人の体温を全身で感じる。
制服が皺になりそうなくらい強く抱きしめられて、肩がじんわりと暖かいのは、クレスさんの声が何度も引っかかっているのは。
「わたし、意地でも不幸にはなりません。
クレスさんの側につきまとって、クレスさんがいるから幸せだって言い続けます。
……え、へへ。泣かないでくださいよ、私がクレスさんをいじめた、みたいじゃないですか……」
拒まれた悲しさから受け止めてもらった嬉しさに、冷たい涙が暖かくなる。
真っ赤に泣きはらした顔でクレスさんの顔を見上げて、くしゃりと下手くそな笑顔で応えて。
仮に過去が偽物でも、今このとき彼のことが大好きだというのは事実なのだから、
これからもずっと好きであり続けると示すように、その唇に涙味のファーストキスを――
■クレス・ローベルク > 「良いよ、本気にして良い。ずっと、一緒に居てくれるなら……」
抱きしめた小さな肩を、離さない様に抱きしめて。
得た気持ちは、潰れてしまいそうな程の罪悪感と、おかしくなりそうな幸福感。
ごちゃまぜになったそれらに流されないように。エフルの肩をより一層強く抱いて。
「うん、お願いだ。君は不幸にならないでくれ。君だけは。
幸せに、なってくれ。俺の――隣で」
そう言って、差し出された唇にキスをする。
陵辱の時偶にやるような、激しい物じゃなくて、舌も入れない、子供のような、愛しむだけのやさしいキス。
彼女を悲しませないとは、決して言えない自分だから。
このキスだけは、ただ愛の為に、彼女に捧げた。
■エフル > 「クレスさんがどこに行っても、ずっと一緒に居ます……
離れろって言っても聞かないんですから。わたし、クレスさん曰く「芯が強い」ヒロインに似てるらしいですしっ」
腕を掴んでいた手を背中に回して、しっかりと抱き合う。
"ずっとずっと好きだった"人に想いを受け止めてもらえた、その幸せに声を震わせる。
絶対に離れない、どこにも行かないと安心させるようにぴたりと寄り添って。
「はい……一足とびのプロポーズですか?」
くすっと、涙を拭って微笑む。
ずっと一緒に居てほしい。隣で幸せになって欲しい。
まるで結婚を申し込むときの決まり文句で、それがおかしくて笑う。
でも、本当にプロポーズだったらいいのにな、と胸の奥で少しだけそれが錯覚でないことを願って。
そして正真正銘、この世に生まれて初めてのキスを交わす。
胸がじんわりと暖かくなるような、触れ合うだけのキス。
お互いの心を交わすように、目を瞑って唇を重ね、幸せに身を委ねる。
「……キスまで、しちゃいました」
首元まで真っ赤にして照れながら、クレスさんの胸に頬を押し付けるように、ぎゅっと抱きしめる。
■クレス・ローベルク > 「はは、さっきはなんとなくだったけど、今じゃ本当にそう言わざえないや」
涙を拭って落ち着いたのか、そんな軽口を言い合って。
それでも、もう一つの手は、前よりかはゆるく、しかし離さず。
ぴたりと寄り添う彼女を、閉じ込めるように。
「はは、俺は好きな人はとことんまで好きになるから。だから、君が良ければ、今からでもダイラスまで攫って、一緒に住んでもいいぐらいだよ」
勿論、彼女にも王都での生活がある。自分にもダイラスでの生活がある。でも、それさえ無ければ、知り合いの貴族の置き手紙も何もかも無視して、彼は本当に彼女をダイラスまで連れて行っただろう。
でも、それはまた、少し先の話。
だから、それを証明する意味でも、キスをして。
「……キスしちゃったなあ」
もう戻れない、という言葉が脳裏をよぎるも、それを本望だ、という言葉で打ち消して。エフルの頭をゆっくり撫でる。そして、あー、と言葉を漏らした。
「その、何だ。君と一緒に居たいというのは本心なんだけどね。その……此処で君を抱きしめるのは、流石に照れが入るなー……なんて……」
考えてみれば、此処は城の庭園だ。何時、誰が来てもおかしくはない。
人前で人を犯す仕事をしているとはいえ、絶賛恋愛中の自分を見られるのは流石に恥ずかしい。
それに何より、恋をしている彼女の顔は綺麗で、それを人に見られるのも嫌だった。
「……富裕地区に、行きつけの宿があるんだけど、そっちに行かない?いや、変な意味じゃなくてね!人前よりかはましかな、って」
■エフル > 「拐って……やっぱりクレスさんってわるい人ですっ」
くすくす、と冗談めかして笑う。
攫うならお店のマスターと先輩たちと、それから大家さんにもご挨拶が済んでからにしてくださいねと、それ自体はむしろ望むように。
そのくらいダイラスと王都の距離は離れているから。
クレスさんに通ってもらうのも、自分が通うのも大変なら、一緒に住めばいいのだと頷く。
でも、それもお世話になった人への義理を果たしてから。
キスを約束代わりに、一緒に過ごす未来を誓う。
「……へっ。あっ、あ、あはは……そ、そうですね!」
言われて辺りを見回せば、今は誰も居ないとはいえ公共の庭園で、そして自分は配達に来た店の制服のままだ。
仕事をサボって恋愛に現を抜かしていると思われたら――事実そうなのだけれど――マスターにも迷惑がかかるかも知れない。
それに、クレスさんにも。
「そっ、そうしましょうっ。あっ、でもその前に一回お店に寄ってバスケット戻して制服着替えて、それから早退の届けを……」
わたわたと配達用のバスケットを引っ掴んで、それでもクレスさんから離れようとはせず、庭園を出る準備を整える。
■クレス・ローベルク > 「あっ、そういえば君仕事中だったね!?うん、一旦平民地区に戻って……流石に今日挨拶するのは急だし、そうなると俺はカフェに行かない方が良いか……」
思い切り抱きしめてシャツに皺を作ってしまったし、何よりエフルと一緒に行くと、変に自爆して付き合った事がバレてしまいそうだ。自分はそれで良いが、エフルが自分たちの関係を話すには、心の準備が必要だろうと、そう思い。
「それじゃあ、住所と簡単な地図を書くから、諸々終わったらそこにおいで。それまでに俺はチェックイン済ませて、部屋に居るから」
手帳をやぶいてメモを作って、そこにさらさらと住所と地図を書いて渡す。富裕地区の中でも値が張る所だが、秘密と部屋の中の音は守られる宿である。
ご案内:「王都マグメール 王城」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」からエフルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にノワールさんが現れました。
■ノワール > 大理石をグリー部で打ち鳴らしながら歩く。
常にフル装備でいる女にとって、大理石は非常にいい音がする楽器のようなものだった。
要は片側には誰もいない、副団長は妹とともに家に帰っている。
他の団員も、今は別の取引現場での監視に向かっているので、実質残っているのは女一人。
執務室までの道のりを歩きながら、少しだけいらだったように。
がシャン、と大きな音を立てて、グリーブを踏み鳴らした。
「(結局体のいい当て馬か……。まったく、舐められたものだ。
また私達のいないときに大口の取引をするようだが…悪いがそうはいかんぞ。)」
貴族の阿呆どもからの依頼だった。
第七のが訓練で動けないので、現在タナール砦の防衛、および奪還は各騎士団がたらいまわしで行っている。
次回、その役目を12師団、つまり女の師団に依頼してきた。
だが、もともと12師団は戦闘を想定していない。
唯一、人並み以上に戦闘ができるのは団長と副団長の身であり、とてもではないが魔族との戦闘ができる部隊ではない。
それをわかっているはずなのに、貴族はこちらに防衛を投げてきた。
要は、この舞台をどうにかして壊滅させたいと。
そういう意図が見えているからこそ、女は苛立たしく地面の大理石を踏み鳴らしていた。
「(悪いが…貴様らの思うようにするつもりはないぞ、阿呆どもが…。)」
■ノワール > 「(さて……まずはあれに手紙を出さないとな…。
まったく、知り合っておいて本当に良かったよ。)」
フルフェイスの奥で、女はほくそ笑む。
まさか視察だけで済ませたなどという、戯言を信じてくれるなんて思っていなかったから。
こちらが第七の将軍と顔見知りなのは、どうやら貴族の中では腐りあった者同士をつなげれば、早く腐敗するというもの。
それを実践しただけのようだが。
「(あいにくと、こっちは腐るような根性はしてないんだよ…。)」
女は心の中で相互ちながら、私室へと戻った。
侍女がいないので、自分でお茶の準備をして。
羊皮紙に文字を描き、それを第七の部屋へと押しこんでおいた。
ご案内:「王都マグメール 王城」からノワールさんが去りました。