2018/11/06 のログ
■ルシアン > ひとしきり喜べば、それなりに落ち着いてきたのか…今度はこちらが気恥ずかしく。
いつの間にやら女の子の手まで取ってしまっていた。慌てて、ぱっと手を離してみたりして。
「……ぁ。えーと……す、すまない。
とにかく、感謝するよ。詳しい事も相談をしないといけないし、何より本当に受けてもらえるか、一度来てもらえると良いんだけど…」
はー、と一度大きく呼吸をして、何とか落ち着いて。
一応、此方は雇用主の立場。それなりにしっかりとしていなくては。
それに、とても真面目そうなこの子であれば、そんなに大きな問題もないだろう…と思っていた、のだけれど。
「……? んー………そう、だね…」
急に様子が変わり、何処か腰が引けてしまっている少女。
――「訳アリ」なのは相手も同じという事、だろうか。
僅かの間、思案するように言葉を切って。だけどその間は長くもなく。
「いや、構わない。此方としたら、手伝ってくれる人が来てくれることが一番だからね。
こっちの仕事をしている中で、必要になったなら伝えてくれれば、それで問題は無いよ
勿論、この事で給金が変わったりすることも無い。これは約束するよ」
折角のつながりを、此処で切ってしまいたくはない、という気持ちも一つ。
それ以上に、今までの話の中でもこの少女の人の好さは伝わってきて。
そんな少女が口を噤むことを、無理に聞き出す必要もないだろう…とりあえず、だが。そんな判断。
■サーラ > 気恥ずかしいのは、此方も同様だった。
ぶんぶん振られていた手が離されると、もごもごと口の中で、
「いえ」「平気です」と呟きながら、自由になった両手でたガウンの生地を手持ち無沙汰に掴む。
相手の立場に立てば、勿論、得体の知れない人間は雇えないだろう。
其れは勿論分かるのだが、けれども――――。
多分、沈黙の時間は然程長くなかったのだろう。
己にとっては永遠とも感じられていたけれど―――ともかく、も。
「ほ、―――――ほんとう、ですか?」
がば、と振り仰いだ己の目には、薄っすらと涙すら滲んでいた。
学生であるというだけで、仕事の口は実際、かなり限られてくるのだ。
だから、折角決まりそうになった仕事を、諦めるのは辛かった。
今度己の方が、彼の手を取って握りそうな勢いで詰め寄って。
「あ、あの、もし……もし、ご迷惑、おかけするようなことに、なったら、
其の時は、どうぞ、クビに、してくださ、い。
………其れで、あの…今夜は、もう、遅いので……」
勤め先への御挨拶は、また、近いうちに改めて。
遠慮がちにそう申し出をして、もう一度、深々と頭を下げた。
■ルシアン > 「あー…最後にも一つだけ。
仕事を受けてくれるのは、すごく嬉しい。だけどね?
迷惑を掛けたらクビにしてくれていい、何て言うのはちょっと謙遜しすぎだよ?
『私に任せてください!なんだって完璧にやります!!』くらい言ってくれて良いんだからさ。ね?」
理由は分からないけれど、半ば涙目になっているように見える少女の姿から、何かあるのだろうとは分かった。
それが何かは勿論、分からないのだけど…ちょっと冗談っぽく、軽い調子で声をかけて笑いかける。
真面目で、真剣に取り組んでくれるのは勿論嬉しい。だけど気負い過ぎるのも良くない、と。
「ん、そうだね。僕もそろそろ戻らないといけない時間だ。
ええと…それじゃあ、また連絡させてもらうけど、良いかな?
…はい、これ、僕の連絡先と、孤児院の場所だから」
夜も更け、此方としても時間はそろそろ良い頃で。
締まっていた手帳を取り出せば一枚やぶり取り、連絡先を書きつけて少女に手渡した。
■サーラ > 「え、……あ、えっと、あの……ご、ごめんなさ、い」
謙遜してし過ぎるということは、己の場合、無い、ような気もするのだった。
何しろ、学び舎でも頻繁に、お勉強以外のことではポンコツ、であると言われつけている。
だから結局また、慌てて頭を下げてしまったの、だが。
其れでも、雇って貰えそうだと思えば―――――彼から連絡先の記された紙片を受け取ると、
嬉しそうに頬を染めて、丁寧に折り畳んだ其れを懐へ仕舞い。
「学校の予定が立ち次第、ご連絡、させて頂きますね。
其れじゃあ、……おやすみなさい、ルシアンさん」
ぺこ、ん。
此度は幾らか元気良く、挨拶と共に頭を下げて。
掲示板の前から去っていく己の足取りは、此処へ来た時とはまるで違う、
弾んだものになっていたという―――――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からサーラさんが去りました。
■ルシアン > 「うん、ありがとう。会えてうれしかった。
それじゃあ、おやすみなさい?」
ひらり、と手を振って見送ったあと。
自身も、ゆっくりと帰路につき。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からルシアンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > 夕食をとったあとは自由に寛げる時間だったはず。だけど商品を手入れするための道具が切れてしまっていた今日は、すっかり暗くなった時間から外出しなければならなくなってしまった。
閉店前の道具屋に駆け込んで目的のものは無事手に入れられた。あとはあまり遅くなる前に帰ろうとしていたけれど、小走りで大通りを横切る途中、運悪く三人組の男性に掴まってしまった。
力尽くで連れ去られるような事態にはなっていない。しかし強引な誘いを振りきれなくて、気がつけばどこかのお店を囲う塀を背にして取り囲まれていた。
「い、急いで、います……だから、ごめんなさい……」
小さい声は彼らに届いているだろうか。お酒を一杯付き合ってくれるだけでいいと、しつこく誘いかけられる会話の流れは変わらない。困り顔で鞄を抱いて、あたりを見回す。助けを求めたいけれど、知らない人に呼びかけるのも、それで目立ってしまうのもためらわれて口をつぐんだ。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にレオンハルトさんが現れました。
■レオンハルト > 「おやおや、ずいぶん戻りが遅いと思って来てみれば、なんとも妙な事になっているようだね。」
窮地に陥った少女へと向けられたのは、朗々と響く男の美声。
拍車の音も高らかに、街灯が作る長駆の影が少女を囲む無頼漢に伸し掛かる。
欠片の気負いも見せぬまま、ゆったりとした歩調で近付いた長身の青年は顎を持ち上げたまま「―――失礼。」なんて言葉と共に男の包囲網へと分け入り、少女の腰にするりと腕を回して抱き寄せた。
細身に見えて意外に逞しい胸板で彼女の体躯を受け止めながら、逆手はさり気なく腰の長剣の柄に添えられている。
「――――それで、僕の彼女が君たちに何か失礼でも働いてしまったかな?」
切れ長の瞳が平然と嘘を述べつつ、男達の顔を睥睨する。
薄い唇に冷笑を浮かべるその様子は、どこから見ても高位貴族の傲岸さを感じさせる事だろう。
■ミンティ >
こうやって絡んでくる前にも酒場で飲んできたのだろう、三人組のどちらを向いても漂ってくるお酒のにおいで頭がくらくらする。取り囲まれているだけで酔ってしまいそうだと思うけれど、口と鼻を押さえる仕草に難癖をつけられても困るから、じっと息をつめているしかない。
もういっそ、とりあえず近くの酒場まで付き合うように話をあわせて、隙を見て逃げた方がいいのかもしれない。連れていかれた先で器用に立ち回る自信は微塵もないけど…。
「……っ?へ、あ、…え、ひとちが」
悶々と考えこんでいるところ、急に長身の男性が割って入ってきたから、ますます狼狽した。腰を抱き寄せられて、彼女だなんて言われて、とっさに人違いじゃないかと口にしかけた。
最後まで言いきる前に口をつぐんだのがよかったというより、小さい声が相変わらず聞き取られていないだけだろう。
それにしても三人組は疑いの目を向けていたけれど、彼の身なりや、長い剣を携えている事に怯んだ様子で、悪態をつきながら去っていく。
「……あ、あの、ありがとう…ございます。おかげさまで…助かりました…」
ひとまず危機を脱せて、ほっと息を吐いた。腰を抱かれたままなのが居心地悪くて小さく身動ぎしながらだけれど、頭を下げてお礼を言う。
■レオンハルト > 思わず零しそうになったのだろう、あまりに素直でアドリブの効かない少女の言葉に、救いの手を差し伸べた青年も一瞬ぎょっと眉を跳ねさせた。
しかしてすぐに苦笑の笑みを広げれば、切れ長の双眸は改めて男達に向けられる。
少女が頬を寄せることとなった男の胸板。
そこから伝わる鼓動は欠片の緊張も感じていない、平素そのものの脈動を刻んでいた。
香る匂いとて男達のそれとはまるで異なる、汗臭さなど欠片も存在しない、何かしらの香水をを薄く纏った品の良いフレグランス。
そうしてしばしのやり取りの後に男達が去るのなら、彼らの背から外した蒼眼を下方に向けて、小さな身体をますます縮めて礼を言う少女に改めて言葉を掛けようか。
「―――正直は美徳ではあるけどね、君、もう少し利口に立ち回るべきではないかな。先の言葉には正直肝が冷えたよ。」
咎めるような言葉ではあるが、その唇に浮かぶのはくつくつと小さく噴き出すような意地の悪い笑み。
先の男達に向けていた冷笑とは異なる、暖かみのある笑みだった。
しかし、居心地悪そうな少女に気付きつつも、腰に回した腕を解かぬ辺り、この青年貴族とて無害ではない。
むしろ、先の男達の方が余程に――――いや、流石にそれはなかろう。多分。
■ミンティ >
三人組が去った事には安堵したものの、まだ落ち着けない状況は続いている。お酒のにおいが遠ざかったかわりに、今度は品のいい香水の香りが鼻をくすぐる。それ自体は嫌いなものではなく好ましいくらいだったけれど、こんな往来で男性の腕に抱かれている状況だと、嗅ぎ慣れなさの方が先にきてしまう。
さすがに恩人を突き放すわけにもいかないし、突き放そうとしたところで自分の細腕にそれができるかもあやしい。おとなしく抱かれたまま、今度はどう切り抜けたらいいのかと視線をさまよわせる。
「……すみ、ません。…はい、ご迷惑を…おかけしてしまう、ところでした」
たしかに男性の言うとおりだったから反論のしようもない。頭でどれだけ思考を重ねても実践まで回せない不器用さは自覚しているから、自分の情けなさに溜息が落ちた。
それからふと気がつく。このままどうにか彼の腕から逃れて一人で帰路についたとして、もしまたあの三人組に出くわしてしまったらどうなるか。騙したと因縁をつけられても、おかしな話ではない。
「あの……せっかく助けていただいて、
その……これ以上、お手間をかけてしまうのは、…申し訳ないのですが…」
三人組とばったり再会しないようなところまでついてきてもらえないかと頼みたいけど、初対面の男性にお願いするには抵抗もある。結局また歯切れが悪くなり、ぼそぼそと聞き取りにくく小声になって。
■レオンハルト > 「―――――ふむ、僕はこう見えて案外忙しくてね、今は特に急いでいるのだが……。」
男の腕に抱かれたまま、なんとも申し訳無さげに言葉を紡ぐ娘の様子に、青年貴族はなんとなく彼女の言いたいことを察して考え込む。
怜悧さと精悍さの同居する彫りの深い美貌が、少しばかり困った様に眉根を寄せて、蒼瞳を脇へと逸らす。とはいえ……。
「―――…ま、仕方ないね。中途半端な救いの手が、逆に君の立場を悪くしてもつまらない。」
再び浮かべた苦笑が力の抜けたため息を零した後、改めて少女に碧眼を向けた。
意地悪く少女を捉えていた細腕を解き
「レディ、このまま君の家までエスコートすることを許して頂きたいのだが、どうだろう?」
芝居がかった笑みと共に、長駆を折って少女に向けるボウアンドスクレイプが、続けて彼女に腕を差し出してみせた。
■ミンティ >
「……いえ、あの、すみません。……お急ぎでしたら…」
こちらの考えを伝えきるより先に意図が伝わると、いささか驚いて目を丸くした。そんなに頼りなげな顔をしていただろうかと片手を頬に添えて考えこむ。
言いたい事をくんでもらったうえで多忙を理由にされたら、おとなしく引き下がる意思を見せたけれど……笑顔を浮かべての了承には、正直なところほっとした。
「あのっ、お時間…厳しいよう、でしたら。……ち、近くまで…でも、だいじょうぶなので。
すみません。……こちらこそ、…お願い、します」
流麗な仕草でのお辞儀に、頬をうすく染めて、ぴしっと背筋を伸ばした。そういった作法くらいは本で読むなりして知ってはいるけれど、とっさに実践できるものでもなく、とにかく頭を深く下げ返すくらいしかできなかった。
それから、そろそろと手を差し伸べてみて。
■レオンハルト > あぁ、思っていた通り、この平民はなんとも愛らしい。
忙しさを理由に少女の危地を見過ごしたりしなかった先程の自分を褒めてやりたい。
「いや、構わないよ。君の様に愛らしい小鳥を助ける事は、男にとっては何にも代えがたい喜びなのだからね。」
歯の浮くようなセリフをさらりと吐いて、ひょいと伸ばした細腕が長い指先で熱を帯びた少女の頬を淡く擽る。
そうして、恐る恐る添えられた少女の手を、しなやかに鍛え上げられた細腕で支えれば
「では、レディ。参りましょうか?」
芝居がかった薄笑みのままに小さく頷き、少女の先導を促そう。
そして彼女が第一歩を踏み出したなら、こちらはその歩調に合わせて腰位置の高い長脚を酷くゆったり進ませながらニヤリと微笑み問いかける。
「――――…それで? 平民が貴族の時間をこれほどまでに消費させたのだから、返礼にはさぞ期待してもいいのだろうね?」
■ミンティ >
自分に向けられたものとは思えない台詞にまた目を丸くする。演劇の舞台上でしか聞かないような言葉の選び方に気恥ずかしくなって、頬を染める赤色が増すのがわかり、顔を伏せた。
「で、では、よろしくお願い、します」
せめて相手の所作に応じられるようにと考えれば考えるほど、こちらの動作はぎくしゃくしてしまう。伸ばした手に男性の腕が触れただけでも、びくんと震えるほど。
しかし細身に見えて逞しい腕の感触には、ほっとするところもあった。この男性が一緒なら、また絡まれるような事態にはならないだろう。
すこしずつ緊張もほぐれてきて、歩きはじめた直後、頭の上から降ってくるような声にはきょとんとまばたきをして。
先ほどとは雰囲気が変わったような態度に呆気にとられる。平民の自分が貴族にできる返礼なんて思い浮かぶはずもない。お金なら相手の方が多く持っているだろうし、手料理なんかで返そうにも、貴族の舌にあうものが作れる自信もない。
「……え?…えっと…、すみません。…お返しは、できたらと思うのですが…
……どういったものでしたら、それに見合うのか……わたしには、わからなくて……」
■レオンハルト > ―――あぁ、本当に可愛らしい。ついつい戯れに手折りたくなってしまう。
先程投げた問いかけは、青年貴族の嗜虐を歓喜するそうした可愛らしさが招いた物だった。
実の所は大した何かを期待しての問いでは無い。
日頃の青年貴族であれば、身分の差やら先刻の恩やら言い募り、純朴そうな少女に夜伽の相手を強要し、その羞恥と悦楽をたっぷりと味わった事だろう。
しかし、今宵は他の娘の家からの帰り道。
存外、淫乱気味であった娘にたっぷり搾り取られた直後の邂逅。
纏う香水もその娘の残り香を誤魔化すために付けた物である。
色を好む性質ではあれ、更なるお代わりを所望する程飢えてはいない。
にもかかわらず、意地の悪い問いかけを向けるのは、傍らを歩く気の弱そうな少女にはついつい弄りたくなる様な可愛らしさがあったがため。
故に、高みから少女を見下ろすその顔には、揶揄いの色を多分に含んだ笑みが浮かんでいるのだが、いかにも初な少女がそれに気付くかどうか。
「――――ふむ、そうだね。確かに金銭など差し出されては興醒めだし……そうだ、こんなのはどうかな? 君が一晩、僕の夜伽の相手をするというのは。」
今にも溢れそうになる忍び笑いを喉の奥にて噛み殺し、いかにも貴族然とした表情を維持しながら少女の切り返しを待つ。
■ミンティ > なんとなく頭によぎりはしたものの深く考えないようにした返礼の手段が男性の側から口にされると、肩をびくつかせ、不安を隠しきれない顔を上げた。
この国で生まれ育った女として、そういう話にまったく接さない事もない。だけど免疫が備わるかといったら人それぞれだろう。そして自分は、まだ慣れないままでいる。
相手の笑顔がどういったものかを読み取る余裕もないため、足を前に進めながらおろおろするばかり。どんな断り方なら気分を悪くさせずに話を流せるだろうと考えているうちに視線は地面に落ちていく。
「……このとおり…地味な女です。お楽しみいただける自信が…ありません」
貴族相手に差し出す事そのものを拒む勇気はなかった。自分の身が貴族の時間とつりあうものと言いきれる自信もないから、小さな声でそう返すのが精一杯。
■レオンハルト > ―――あぁ、困っている。これは酷く困っているなぁ。今は必至でどうやって断ればいいか考えている所かな。それとも、覚悟でも決めている所なんだろうか。
俯いた少女のつむじを見下ろす貴族の口元が、今にも噴き出さんばかりに小さくヒクつく。
そしてどうにか返した彼女の言葉は、貴族の強要を断りきれない弱々しい物にすぎなくて
「ふん、それを決めるのは君ではなく、この私だ。お前は黙ってその身を――――……ッく、…くくっ、ぷ、く……ぷはッ。 くはははははははっ!」
ついに耐えられなくなった。
一度噴き出した笑い声は、品も保てず平民街の夜の静寂に響き渡る。
長駆を折り、切れ長の目尻に涙すら滲ませての大笑いは、必至で答えを絞り出した少女に対して失礼極まる物だろう。
それが分かっていても、とても我慢出来る物では無かった。
「いや、いや、すまない。すまなかったね。先程の言葉は冗談だ。いくら何でも、あの程度のチンピラを追い散らして、夜の散歩に付き合った程度で君の純潔を頂くというのは貰いすぎというものだ。貴族とて、中には平等な取引を知る物がいるのだよ、レディ。」
曲げた指先で目尻の涙を拭い去り、笑みの消え残る白皙を少女に向ける。
そして無造作に伸ばした腕が意外に大きく硬い剣ダコを有した手の平で、小さな頭部のピンクの髪を少し雑にわしわし撫でる。
■ミンティ >
断りきれず流されるままなんて珍しくはない。けれど拘束されているわけでもないのに逃げ出しもしないのが情けなくて、暗い顔になってしまう。いくじなしだと自分を罵る言葉で胸が一杯になりそうだった。
そんな感情をかかえながら相手の返答を聞いていたから、とつぜん笑い出された時には、きっと間抜けな顔をしてしまったに違いない。
「え…………?」
からかわれたのだと自覚するのに、結構時間がかかる。ぽかんと口を開けたまま、撫でられる頭が左右に揺れる。思考までぐらぐらしてしまう気がして、よけいに考えがまとまらなくなった。
「……差し上げる純潔もありませんから、冗談で安心しました」
やっとの事でからかわれていると理解すると、ふてくされた表情になるのが自覚できた。せめてもの意趣返しのつもりで返した台詞も、直後になにを言ってるんだと思えてしまうものだったから、一人でますます悔しさを募らせる。
口でどう言ってもかなわないような気がして、長身の男性を精一杯恨めしげに睨んでおいた。危ないところを助けてもらった立場なのにと思ったけれど、表情はなかなか戻ってくれない。
■レオンハルト > 冗談と告げたこちらに返されるのは、若干の不機嫌を滲ませた声音であった。
その内容、てっきり処女であると思いこんでいた相手が既に男を知っていた事には少々の驚きを覚えつつも、膨れた頬には再び「ぶふっ」と噴き出してしまう。
小さな背丈が持ち上げる半眼がますます笑いの発作を誘発させて、青年貴族は今一度笑い声を響かせる事となった。
「はぁ……はぁ……いや、重ね重ねすまなかった。謝罪しよう。だからほら、機嫌を直しておくれ。」
膨れた頬を指先でふにふに摘みつつ、笑いの残滓がこびり付く顔にて一応の謝罪を少女に向ける。
「それから一つ言っておこう。私は処女に拘泥する程つまらぬ男ではない。例えこの身が君の何人目であろうとも、些かも変わらぬ態度で君の身体を楽しむよ。――――それより、ほら。君の家はまだなのかい? 僕との散歩が楽しくて、ついつい行き過ぎてしまうなんて言うのも仕方が無いとは思うがね。」
彼女に支払って貰おうと思っている物は、既に心に決めてある。それは別れ際、最も強く印象に残るタイミングで、と考えている優男は残りの道程を確認する。
■ミンティ > なにを言っても笑われてしまう気がしたから、黙って睨んでいるのが一番いいかもしれない。そう思っていたら、やっぱりふきだされてしまって、眉の根元が寄っていく。悔しくて文句の一つも言いたいのに言葉が出てこない、そんな自分にもやきもきした。
「……恥ずかしい事をしなくて済むのに、機嫌を悪くはしません。
楽しまれるのも困りますから、そのままずっと、冗談のままでいてください」
すっかり臍を曲げた台詞ばかり口をついた。頬をつっつかれても意固地になって、ふてくされた表情を続けたまま歩く。
こんな風にはっきりとものを言うのは、ひさしぶりな気がした。それが年上なら尚更、地位も上の相手になんて、とても見せられる態度じゃない。ふとそんな事に気がついて、いつの間にか緊張も抜けていた自分が意外で、ぱちぱちとまばたきをする。
商店街の裏手に進み、もうそろそろ任されたお店兼自宅が見えてきそうなところまで来て、仕方ないと言うように、やっと表情を崩して。
「ここまでで、結構です。……もう、すぐそこ、なので」
指差した方向には古物商の看板を掲げた小さなお店。これだけ近い距離で、またおかしな人たちに絡まれる事もないだろうから、あらためて感謝を伝えようとして。
■レオンハルト > 「くっくっ、存外連れない台詞を口にするんだな、君は。」
膨れたままの少女の顔に、こちらの笑みは深まるばかり。
先程の小動物めいておどおどする様にも嗜虐を煽られる愛らしさを感じたが、今のようにいくらか緊張の解けた態度にも先とは異なる魅力があった。
そんな少女との散歩の時間が、止まる歩みに閉幕の訪れを匂わせる。
「そうか――――では……。」
エスコートの腕を解き、改めて礼でも告げようとしたのだろう正面から向き合った少女の言葉を遮るように
「――――別れの前にもう一つ、今宵の対価を頂こう。」
静かに響くテノールヴォイスがゆっくりと優雅な所作で腰を折り、プラチナブロンドの前髪をサラリと揺らして涼やかな美貌を近付ける。
長い睫毛をゆっくり落とし、高い鼻梁を彼女の鼻先に寄せながら
「――――…こちらも初めて、という事は無いのだろう?」
問いかけが擽る愛らしい唇を、返答も聞かぬまま強引に奪う。
するりと伸ばした細腕が、華奢な腰を抱き、うなじに差し込む指先が、少女の頭部を固定する。
男と女、二人の唇が重なると同時に差し向けた舌がぬるりと彼女の唇間に潜り込む。
深追いをするつもりはない。
その口腔が閉ざされているのならば、軽く歯列を撫でてそれで終い。
その先への侵入が果たされたのだとしても、口腔奥で縮こまっているであろう小舌をちょんとつついて撤退する心算である。
無論、口付けそのものを拒むというならそれも別に構いはしない。
その際は、背けた顔の頬にでも、唇を触れさせ離れるのみだ。
■ミンティ >
「……無礼は、その、お詫び…します。
ですが……こんな顔をさせたのも、言わせたのも、あなたです」
貴族を相手にして生意気ばかり言い続けているのは気がひける。けれどあとあとになって、立場を利用した仕返しを企てるような人物でもないと思う。我に返ってからも余計な一言を付け足してしまったのも、彼が持つ安心感のせいだったのか。
自分の中に答えがないまま、向かい合う場所に立ち、頭を下げようとする。
「今日は、あの…、え?」
お礼を言いかけて口を半開きにしたまま、うなじに触れた硬い手のひらの感触に目を丸くした。
見上げるほど高い長身がこちらに向けて迫ってくる。細身ながらも逞しそうな肉体を、ついぼーっと見つめてしまっていた。やがて目の前が男性の姿でいっぱいになって、気がつくと唇を重ねられていた。
あまりに自然な動作で口づけられたせいで、また理解が遅れてしまう。濡れたものが舌先をつっつく感触のくすぐったさに肩を震えさせ、頬がすこしずつ熱くなってくる。
「……ありがとうございます」
なにをされたかを理解したころには、触れていた唇はもう離れていた。まだ感触が残っているような気がする口元に手を添えながら、呆気にとられた顔で、キスの直前に言うつもりだった台詞を発した。
すぐに、これだとまるで口づけられた事にお礼を言ったみたいだと気づき、顔が真っ赤になった。
「……たす、助けてくださった事、と、お、送ってくださった事……です…!」
今さらもう遅いけれど弾かれたような動きで飛びすさる。感謝の理由をどもりがちに付け加えて、恥ずかしさに耐えられずに踵を返した。
お店まで駆けて戻る途中で別れの挨拶をしていない事に気づいて悩む。どうしようか迷ったけれど、なにも言わずに別れる不躾さを自分が許せず、足をとめて振り返った。
「おやすみなさい」と口にして、小さな動きで手を振る。声は届かなかったかもしれないけれど、その場で一礼をして、今度こそお店に帰ろうと歩きはじめた。途中で何回か振り返り、男性がまだそこにいたのなら、ぺこりと頭を下げるのを繰り返したかもしれず…。
■レオンハルト > 別に咎める意図があったわけではない。
最初の竦んだ印象からは、いくらか外れた言葉の流れに素直な驚きが口を付いて出ただけの事。それとて、彼女の警戒が解けた結果なのだと思えば、そこに不満など覚えようはずも無い。
ともあれ、別れの際の企みが、見事彼女の唇を奪ったのなら、触れた舌から伝わる甘みに薄笑みを浮かべて――――カッ、……シャン。
反撃の間を与えぬ素早さで、しかして優雅な足取りで、するりと離す彼我の間合い。石畳に打ち付けられた踵の音が、拍車と共に密やかに響いた。
そうして悠然と折った腰が揶揄いを多分に含んだ、ボウアンドスクレイプを少女に向ける。
ひらひらと動く細腕の動きは、精悍な美貌に浮かぶ意地の悪い笑みと共に、後に思い出した彼女の苛立ちを誘う事だろう―――と考えての事だったのだが…。
「――――――……っ。」
予想外の切り返しに虚をつかれた。
揶揄いの礼の最中、整った容貌に驚きを浮かべて止まった長駆が、続く言葉と飛び退く動きにこちらもようやく時間を取り戻す。
「――――くっく、つくづく可愛らしい平民だったな。」
小さくなる後ろ姿を笑みの滲んだ顔で見送り、こちらもまた踵を返して帰路につく。
屋敷に戻れば、口うるさいメイド長からのお叱りが待っている事だろうが、今宵の邂逅にはそれに見合う価値があった。
故に、長脚が刻む足音も上機嫌なリズムを刻む物となったのだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からレオンハルトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > 宿屋や酒場が多いあたりで開かれた行商人のバザール。他国の品物も多く並べた露店の前をうろうろと歩き回っている間に、空はすこしずつ紺色に染まってきていた。
今日の探し物は冬用の外套。今まで使っていたものが古くなってしまったから、普段使いもできるものを安く探せないかと思っていたけれど、異国風の刺繍がされたものもあったりして目移りしてしまう。
きれいなものほど、やっぱり値段も高くなる。財布の中に入れてあるお金を数えて小さく溜息を吐いた。諦めきれずに手触りを確かめさせてもらい、身にまとわせてもらったりして、悩む時間は続く。
「えと……」
生活費の一部を切り詰めたら手が届かない値段でもないと、指折り数えて計算する。とはいえ自分が身につけるものに高いお金を支払うのも贅沢な気がして踏ん切りがつかない。
■ミンティ > 悩みに悩んでから、自分の足元をじっと見つめた。靴もそろそろ買い換えるつもりだったけれど、こっちはしばらく履いていてもいいかもしれない。履き慣れた分だけ足にもよく合ってくれているから、大事に手入れしていれば、まだもちそうだし、靴の買い替えを先送りにしたら、外套にちょっとくらい奮発するだけの余裕もできる。
念のため傷んでいるところはないか確かめようと、片足ずつ交互に持ち上げて靴を観察する。やっぱり多少傷みがわかるところもあるけど、履いていてみっともないほどじゃないかもしれない。
「わ」
そんな風に靴をいろんな角度から見つめていたら、片足立ちのバランスを崩して身体がぐらつく。まだ支払いをしていない外套を羽織ったままだから、さすがにひやりとした。
■ミンティ > 踏みとどまって、靴に問題ないのも確認し終えて、ふっと息をこぼした。
このまま帰っても後悔しそうだったから、外套は買ってしまおうと決める。決めたけど、まだすこしの間はどの色、どんな柄のものにしようか迷っていたようだけど…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からミンティさんが去りました。