2024/08/11 のログ
ご案内:「奴隷闘技場(過激描写注意」に宿儺姫さんが現れました。
宿儺姫 >  
とある人間の商人のツテを使い、時折闘技場に現れる女鬼。
立場は当然、奴隷を装って。
さしたる生涯にもならぬ手枷足枷をつけた浅黒肌の鬼は威風堂々、闘技場の中心で飼い慣らされたオーク戦士との戦いを繰り広げていた。

──流石に強い。

野生の豚鬼とは明らかに勝手が違う。
闘技場で一応以上の仕事を熟し、相応の装備を飼い主に与えられているのだ。
無骨な大剣の一撃を剛脚の蹴りにて迎え撃ち、吹き飛びすらしない様子にその筋肉の塊の様な巨躯の膂力をも思い知る。

「呵々、さぞ多くの奴隷女をこの場で喰って来たのじゃろうなあ!!」

しかし相手が強ければ強い程に燃えるのもこの女鬼。
獰猛な笑みを浮かべ、躊躇することなく飛びかかる───。

鋼の如き肢体と剛剣が撃ち合う光景は、その後の展開も含め客を沸き立たせるに十分なものだったが──。

残念ながら観客の期待をよそに、その場に大の字で倒れたのはオークの戦士だった。

宿儺姫 >  
巨大なブレストプレートを嵐の様な乱撃で砕き、剥き出しになった胸部へと渾身の前蹴り。
オークの頑丈な胸骨が圧し折れる音と共に、血泡を噴いて巨躯の戦士は昏倒したのだった。

「我を喰らうには少しばかり力が足りなんだな」

仁王立ちで言葉を投げかける勝者たる女鬼も無傷ではない。
そもそもが防御も厭わず殴る蹴る砕くの猪突猛進、肉を切らせて骨を断つを地でゆくこの鬼が無傷であることが珍しい。
纏った襤褸が裂け、元より高い肌面積が更に増えているが、そこから覗くのは女戦士もかくやという肢体である。

観客の期待はそんな女が無様に叩き潰される様だったのだろうが、生憎とそうはならず。

「くく、よい熱気と殺気。やはり此処は良い、血の匂いが濃ゆいぞ」

降りかかるブーイングを他所に、闘争欲求をガンガンに満たす女鬼であった。

宿儺姫 >  
「さて、次は───?」

腕に覚えのある戦士か、傭兵か。
娯楽に投げ込まれる奴隷か。
それとも奴隷を蹂躙するために子飼いにされた魔物か。

いずれも命、あるいは尊厳を賭け襲ってくる。

血生臭いこの場は実に心地が良い。

闘技場の中央にどっかりと腰を降ろし、一旦落ち着いた空気が再び闘争の気配に震えるのを待つ──。

宿儺姫 >  
ただただ奴隷女などを凌辱するために複数の魔物と戦わされる。などといった催しも珍しくはない。
先ほどのオーク戦士なども十二分に奴隷戦士を嬲る力は有していた。
それを力で下して見せた女鬼にどんな連中が充てがわれるのか、それも興味の尽きないところではあるが。

闘技場の運営をする男が渋々投げ渡した水薬をまるで酒を呷るかのように飲み干し、準備も万全。

大量の魔物を投げ込まれるのもそれはそれで良いが、可能ならば野太く強い一対一が望ましい。

女鬼は丸腰、徒手空拳。
されど相手が武装していようがそれはそれで構わぬ。
むしろそれでちょうどよいハンデだ。
それだけ、己の持つ肉体強度と力には自信がある。

それが過信か妄信か、正しく信ずるものであるかは、どの道正面衝突することになるだろう相手次第ではあるが。

宿儺姫 >  
漸く、場が動く。
どんな対戦カードになるかと観客が固唾を呑む中、現れたのは──。

「…ほう。どういうつもりじゃな」

武装した、子鬼(ゴブリン)の群れ。

先立って叩き潰したオーク戦士よりも明らかに劣る対戦者。
観客席も、どよめきだつ。

「──たかだか子鬼どもが群れさせて、我をどうこう出来ると思っているのなら片腹痛い」

女鬼は不機嫌を顕にする。
そもそも、このような矮小な雑魚を小"鬼"などと呼び称することがまず気に入らない。

胡座をかいた座り姿から立ち上がれば、既に女鬼は臨戦態勢。
先ほどのオーク戦士との死闘からまだ熱冷めやらぬといった様相である。

「蹴散らしてくれるぞ」

獣の如く笑みを浮かべ、女鬼は先手をとり、子鬼の群れへと飛び込んでゆく。

宿儺姫 >  
剣や盾、胸当て程度で武装していようと子鬼は子鬼。
圧倒的なフィジカルから成る、鬼が吹き荒らす暴撃の嵐に太刀打ち出来るべくもない。
観客席からも嘆息が漏れる。数で圧倒するにも、子鬼では役不足であるのは傍目に見ても明らかだった。

無論、女鬼の攻撃姿勢からすれば無傷では済まない。
鋭い刀剣が浅く腹を斬りつけ、槍の切っ先がその肩口を掠める。
しかしそれらも子鬼程度の力では、薄く肌を裂く程度のもの。
強靭なる鬼の筋繊維を貫く様な攻撃は一打としてなく、ただただ飛び込み、暴れまわる鬼に駆逐されてゆく──。

さしたる番狂わせもなく大方片付いた、といった頃合い。

ドッ……。

背後からの衝撃に、女鬼の身体が揺れる。
確かな痛み、鬼の背を貫いたのは、鋼鉄製の矢───。

「…その様な玩具も使えたか」

片手を背にやり、矢を引き抜き、圧し曲げ捨てる。
刹那、振り返り飛びかかった鬼の剛脚一閃。弓を構えた子鬼は壁に強烈に叩きつけられ絶命する。

ご案内:「奴隷闘技場(過激描写注意」に羅獄さんが現れました。
羅獄 > 「―――くはは、小妖程度ではまるで相手にもならんのう。」

雌鬼にとっては、まだまだ鮮明に覚えの在る声が響くであろう
両掌を叩いて送る賛辞は、まるで観客席に居座った観客の一、のよう
実際、声が飛んだのは闘技場の一番前列、柵に寄り掛かるような形で
大瓢箪の酒をぐびりと流し込みながらの声故、間違っても居ない

向こうが此方に気付くか如何かは判らぬが、もし振り向く様な刹那が在れば
ひらひらと瓢箪ごと、片腕を振って見せるであろう
祭り事や宴を好む者も多い鬼であれば、居る事自体は不思議では無い
――当たり前の様に客席へと混ざって居る、と言う、点を除けば。)

「じゃがの、流石に無策であの小妖が、ぬしへ宛がわれた訳でもなかろ。」

(まるで雌鬼の奮闘と蹂躙を見物するかのように
ガヤへと混じって独り言を零せば、口元に愉快気な弧を描く

闘技者をけしかける側にも其れなりの自尊心と意地が在ろう
此れで終わりとは思えぬ。 ……きっと、何か仕込みが在るであろう。
正攻法でどうにもならぬ相手ならば、手段なぞ選ばぬのがこう言った手合いの常なのだ)。

宿儺姫 > 「小"鬼"なぞと呼ぶのも痴がましいわ」

最後の一匹を縊り殺し、放り捨てる。

──と、観客席から聞こえる、耳慣れた声。

「ほう…? やけにデカい客がおるな」

大方の観客の予想通り、荒ぶる鬼に蹴散らされたゴブリンの転がる闘技場から、女鬼が鋭い射抜く様な視線を雄の鬼へと向ける。

「呵々。斯様な雑魚どもでは熱も冷めようというもの───」

つまらぬ戦いであったと嘯く女鬼の膝が、がくんと揺れる。

「──、ぬ…!?」

瞬間身体の自由が効かなく成った女鬼の、落ちた視界の先には圧し曲げられた、小鬼の放った矢が落ちている。

「───なるほど、毒の類か」

やってくれる。
確かに、被弾なぞ意にも介さぬ鬼相手には有効な手段だろう。

つまりは小鬼どもは先兵。
女鬼を叩き潰し凌辱すべき本命はこの後に現れる…といった寸法なのだろう。

羅獄 > 鬼としての本性を現して居なければ、山の様に巨躯の輩は他にも居る
だが、己が周りに自然と人が寄ろうとせず、僅かな空間が出来て仕舞って居る辺り
周囲の人間も、多少なりと感じ入るものが在るのだろう
人の言葉でそれは、嫌な予感、であったり、虫の知らせ、なぞと言う感覚的な物だが

視線の先、雌鬼の膝が崩れる。 ――凡そ予想通り、矢尻に毒が仕込まれて居たか。
被弾上等な雌鬼の姿勢を看破しての戦法ならば、的確だ
小妖達で相手が終わりであるとの告知もされて居ないのだから
殲滅される事を見越した上での、いやがらせ、と言う辺りこの闘技場の性悪さも知れる

――故郷にも、強者同士が相対する場は存在した。
だが、其処には曲がりなりにも、強者同士の誉れと言う物が存在したと言うのに。

「まぁ、郷に入っては郷に従えじゃの。 知らんで舞台に登った訳でも無かろ。」

(告げた辺りで、門戸が開く。
中から、数人がかりで引き摺られるようにして運ばれてきたのは、檻
その檻の鍵が、外されると同時に、運び込んで来た男達は急いでその場から避難する
――一拍置いて、檻の扉が開き。 中から現れたのは。

薬物を投与されたのか、其れとも何らかの術によるものかは、知らぬ事。
だが明らかに、人間の其れを離れ、異形に為り掛けて居る男であった
正気は感じられぬ。 最早、人間としての真っ当な理性は壊され切って居るのであろう
戦闘本能と、生殖本能にすら境界線が存在して居ない――文字通りの、狂戦士。
其れは、凌辱するも嬲り殺すも、何方だって構いはしないと言う観客への意趣か。)

「………さて、如何なるかのう?」

宿儺姫 >  
どうやら熱毒の類か。
麻痺毒でなければ四肢の自由は効く。
視界が熱に歪み、正常なバランスが保てぬ。

しかし、其れはやってくる。
哀れな奴隷戦士の成れの果てか、はたまた。

「くく、なぁに…少々深く酔った程度のものじゃな…!!」

己の拳を嗤う膝へと叩きつける。
滲むように薄れる感覚をそれで取り戻し、仁王立つ──。

彼の戦力は…見目では測れぬ。
人間の範疇を超えているのか、否か。
どちらにせよ、不気味にも思える。

毒による霍乱もあってか、普段であれば勇み先手をと往く女鬼もまずは足元を固めたのだろう。

──まぁ悪趣味なこの闘技場のこと、勝算と観客が悦ぶ様な絵面を期待しての投入には違いあるまい。

羅獄 > 「タガを外されて居る……と言うだけでも無さそうじゃのー。
随分とヒトから外れとる。 何じゃあの歪な腕の筋よ、真っ当に鍛えたなら、嗚呼はなるまいて。」

呆れ半分、感心半分と言った語調。
其れでも、雌鬼が万全であったならば、他に余程の隠し玉までもなくば
雌鬼が膂力で負ける、なぞと言う事には為らぬであろうが
果たして、今であったなら如何であろう。

熱毒は出力を奪う、死にはしなくとも、毒が効くのであれば純粋に力を落とすであろうし
雌鬼の場合、反射神経と判断に影響が出れば、其方の方が厄介であろうか
――闘技場に、主催からの告知が差し挟まれる。 此れが、めいんいべんと、となる様だ。
俄然、怒号の様に観客の声が鳴り響く中、少々五月蠅そうに眉を顰めては。

「……まぁ、そうじゃの。 七難八苦を望むぬしには、丁度良い位じゃろて。」

再び、口元に弧を描く。 この場合、もし肩入れするとすれば当然。
柵から僅か身を乗り出せば、雌鬼へと向かって、観客の怒号の中に己が声を混ぜ込むのだ

「―――片付けて見せい、山の娘よ! 思い通りになって遣らぬ事ほど、愉快な物もあるまい!」

(この場に居る誰しもが、雌鬼の敗北を望んで居るであろう
そして何より、その敗北を疑っても居ない物が大多数で在ろう
だが――なればこそ、その気勢を削ぎ、絶望を与え全てを喰らい尽くすのが
我らが鬼、と言う物だ

狂戦士が動き出す、見えているのか居ないのか分からぬ其の瞳が
されど、確かに雌鬼を捕らえたなら。
其の瞬間、其の巨体とは思えぬ俊敏さで、真っ直ぐに鬼の前まで詰める
余りにも太い其の両腕で、雌鬼を頭上から叩き潰さんと、二振りの剣を振り下ろせば

其の瞬間、観客の多数が、鬼娘の三枚おろしを想起した、筈だ)。

宿儺姫 >  
雄の目前で張り切る雌…となるつもりは毛頭ないが。
思わぬ観客がいたものだと、数度地を蹴り、足元の感覚を確かめる。

視界が熱に歪み、地に脚がつかぬ感覚も残る。
耳に聞こえるは観客の怒号と、羅獄の鬼の野太き檄。

「云われるまでもないわあ!!」

咆哮が如くその言葉に応え、全身に力を漲らせる。
熱毒に奪われた力は大きい、されどその筋骨を隆起させ──

「(ッ、存外、疾い…!!)」

一瞬で眼の前に現れ、振り下ろされし双剣。
反応が遅れるも下がりはしない。前へと更に踏み出し、剣を握る幽鬼の両腕を女鬼の両手が掴み、留めんとする──。

「っぐ、ぬ…ッッ」

女鬼の堅牢な腹が折り畳まれ、屈強な両の脚の支えが揺らぐ。

「──何をされて、おるのかは知らんが…ッ!! な、なかなかの、腕力(かいなぢから)……!!」

牙を食い縛るも湧いて出る力は本来の数割、といったところ。
それでも真正面から力で負けるなぞ鬼の名折れ、押し潰されそうになる身体を扛重機が如く両脚に力を漲らせ、持ち上げ───

「───把ぁ゛ッッ!!!」

無理やりに身体を起こし、双剣の降り下ろしを真っ向から跳ねのけて見せる。
──呼気は荒く、汗粒が無数に滲む様子は、観客に未だその期待を募らせる一報ではあろうが。

羅獄 > 「―――ほぉ、矢張り人の枠は完全に飛び出しておるのう。」

其れは、本来人の身体の耐久力では、耐え切れぬ程の膂力
自らの動きで、自らが壊れて仕舞い兼ねぬものであろう
だが――幽鬼は壊れぬ、壊れぬ様な処置を施されて居るのだろう
少なくとも、自壊を待つと言う手が取れぬのは見て取れる

強烈な、その重さだけで圧殺せんとするような一撃を、されど耐える雌鬼も流石
真っ当に力が振るえぬであろう中で、其れでも、正面切っての戦いから逃げぬのは
まさに鬼の矜持と言った所であろう、そんな様を、上機嫌に眺めて居る雄鬼はと言えば
傍から見れば、雌鬼の苦戦を愉しんで居る一人にしか見えぬのだろうが。

「しかし、毒が効いて仕舞うのは惜しまれるのう。
絡め手に弱いのは、如何にも付け込まれる隙になろうに。」

腕を跳ね上げられた幽鬼が、今度は大振りに剣を横へ薙ぐ
両方の剣を交差させ、胴体を断たんとする一閃は、決して神速の早さこそ無いが
大振りと言えど其の膂力が変わる訳では無い、まともに喰らえば
今の雌鬼では、只では済むまい

――だが、其の一閃で知れる事も在る
幽鬼は幽鬼、其処に、磨き抜かれた戦技が存在しないのだ
圧倒的な膂力で振り回す剣は、其れだけで脅威でしか無かろうが
逆に言えば、防御なぞ何も考慮して居ない――或いは、出来ない
獲物を持って居るか否かと言う差は在れど、其れはまるで
雌鬼の、普段の其の戦いぶりと、よく似ている、と。

「――――……ふむ、意外と儲けものかも知れん。」

(其処に気付けば、弱みを見出す事も出来よう。 そして、何より。
雌鬼自身の弱みが何処に在るのかも――自覚、出来るやも知れぬ、と)。

宿儺姫 >  
己の弱点など委細承知。
弱点につけ込まれようとも、それを補って余りある力で捻じ伏せ、砕き殺す。
それが女鬼の、在る意味雄よりも雄々しき矜持。
受けきれず滅びる、己の力が及ばぬならそれまで。
最早死生観なぞ在る筈もない。
そういった気性が、麗しく生まれ落ちた夜叉姫をここまでの戦鬼へと変えたのだ。

「肉は斬らせてやる──骨をもらうぞ!!」

大振り。
そう見て取った女鬼が咆える。
避ける、受けるなど完全に考慮の外。
狂戦士たる幽鬼とさして変わらぬ…否、むしろ正気で同じことをする女鬼が狂(おか)しい

胴体を断たんとする一閃なぞ眼中になし。
その刃が胴へと食い込み、堅牢なる肋、筋骨を断ち臓腑へと迫る刹那。
剣を薙ぎ払い、がら空きになった、その喉笛を鬼の爪が斬り裂く。
例えそこが鋼に覆われていようと首の骨ごと抉ってみせただろう、渾身の一撃。

「───、…」

ギリ、と牙を噛み締める。
赤黒い血が口元から溢れる。僅かな、臓腑も裂かれたか。
首をもぎ落として尚その斬撃が止まらなかったのであれば、あるいはその強固な鬼の背骨すら断ち切り胴を両断されていてもおかしくはなかった。

「ふ…狙うのであれば首じゃったな。
 もっとも、首も過去には断たれたことがあったがな」

血を吐き零しながら嗤う貌は、狂気の一言。
その身を裂かれようと死ぬことはあるまい。といった様な異次元の過信による肉斬骨断を完遂する。

羅獄 > 「――――……くく…くはは…!
よい、其れもまた答えよのう。 山の娘よ。」

此処に居る誰しもが狂って居る。 ――観客も、己も、そして二人の闘士も。
ならば、最も狂って居る者こそが、自らの望む物を掴み取るのは道理でも在ろう
まぁ、されど視点を変えて、鬼、としてであれば
其の狂いは寧ろ上等、当然の物であり――正気、と評する事も出来るのだが

一瞬、歓声が一気に盛り上がる
刃が、雌鬼の胴体を捕らえたと確信したのだろう歓喜の声は
されど、其の後に訪れた異変によって、ゆっくりと鎮まって行く
口笛を鳴らした。 雌鬼の其の意気を、迫力を、称賛する様に。

強くなる為の術は一つではない。
技を磨き、研鑽を積み、膂力では足りぬ部分を埋める事もまた一つの手管だ
だが、其の道を自ら放り投げ、鬼としての矜持のみに全てを捧げる様な
其の、刹那の往き方に。 感じ入るものが、無い筈もない。 同じ、鬼であれば。

「―――――――……む?」

人の枠は超えても、人の理からは逃れられなかった幽鬼が
血を噴き上げながら、崩れ落ちて行く
雌鬼の脇腹に、僅か食い込んで居た刃もまた、ゆっくりと床に落下した、其の際

開け放たれて居た闘技場の扉向こうから、脈絡無く影が飛び出す
生物では無い、無機質な金属光沢を放つ体躯。 この国の言葉では、ごーれむ、なぞと呼ばれる其れが
戦いを終えた雌鬼に向けて真っ直ぐに駆け、其の腕を振るわんとする
此の儘では終われぬと、幽鬼を飼って居た者が、せめてその命奪わんとして放ったのか
其の辺りの裏事情は、己なぞが知る由もない、が

――其れは、無粋であろう。 大将首を取ったならば、戦は終わらねばならぬ。

「―――――――……やあれ、山の娘。 癪かも知れんが、手を出すぞ。」

――客席から、何かが、跳んだ。
砲弾の如き速度で、横合いから魔導人形へと突っ込んだそれが
人形を蹴りで弾き飛ばした代わりに、舞台上へと乱入する
大瓢箪の酒を、がぶがぶと咽頭に流し込めば、熱毒と傷を抱えた雌鬼の前へと立ち

――其の体躯を、ひょい、と抱え上げんとするだろう

「……さて、では行こうぞ。 良き戦いぶりを見せてもろうた。」

宿儺姫 >  
鮮血を拭き上げ、崩れ落ちる幽鬼。
実際のところ、際どい攻防であった。
鬼の堅牢なる骨格が僅かにでもその刃を留めていなければ、胴体を斬り放され転がっているのは自分やもしれぬ。
それで肉体が滅びるとまでは思わぬも、敗北は敗北となろう。

紙一重、それを制した女鬼は、やれやれと熱毒に侵された身をその場に下ろそうとした、刹那。

轟音と共に迫った魔導人形。
奴隷の凌辱劇を提供するためには手段は選ばぬと理解ってはいたが、もう一枚手あったか、と。
やや反応が遅れるも、迎え撃たんとした、その時。

観客席から飛来した何かがゴーレムを蹴り飛ばし、眼の前へと降り立っていた。

その巨躯を見紛う筈もなかろうが、やや疲労感を感じる重い吐息を吐きながら。

「なぜ貴様が斯様な場所におるのやら。
 無用な手助けであるぞ羅獄童子。あのような人形程度──」

口上を述べる最中、ふわりと自身の身体に浮遊感を感じる。
人間よりも遥かに重い目方だというのに、軽々と持ち上げる同族の雄に、大きく溜息を吐くばかりである。

「…少々調子が悪い故、貴様を蹴り倒すのは後々にしてやろう」

徐々に薄らいではいるものの、熱毒に蝕まれたまま勝てる相手でもないことは女鬼も流石に理解していた。

羅獄 > 「おう、癪であろうのう。
じゃが、わしにも許容出来る事と出来ん事が在る。
あれをどうにかした後で、二体目、三体目が居らんとも限らぬからのう。」

人資源で在れば、其の内尽きるであろう
だが、作りものであるならば、後控えが居ても不思議は無い
潰せるだけ潰して、自らが潰えるなら其れ迄、と雌鬼が言うなら、手を出すべきでは無いのであろう
だが、己とて惜しいのだ。 最早逢う事すら稀な同胞、下らぬ人間の意地で持って行かれては困る。

「今の主が傷物でなければ、この場で殴り合っても良かったがのう?
臓腑が零れ落ちる手前のぬしでは、のう?」

其れとも、傷から臓腑を探られたいか、なぞと
そんな戯言を発して、くかかと笑って見せた後

「確り捕まっておれよ。 嗚呼、落とし物には注意せい。」

――一拍遅れて状況を制しようと、わらわらと有象無象が飛び出してくる中
雌鬼を抱えたまま、床が砕けん程の脚力で、宙に蹴り出す
人波の薄い方を、鹿の如くに駆け上がっては、客席の一番上から外へと踊り出し

警備が集って来るよりも早く、街の外へと駆け抜けて行く
――途中、唯一追いすがって来たのは、かの魔導人形で在ろう
既にぼろぼろでは在るが、自らの背中へと迫るならば――

「――――ほれ、後始末じゃぞ。」

トドメの一撃を、笑いながら雌鬼へと任せて

――さて、後は。
適当に街の外、どこぞの森の中にでも入り込んで、捲いて仕舞うのだ
人の身ではそう易々と踏み込めぬ森の奥なら、一休みにも丁度良かろう

宿儺姫 >  
「手負いの雌など相手にせぬと。舐められたものよな」

嘆息と共に言葉の刃を散らしてみるも、効く手合ではなかろう。
しかしそれはそれとして、癪には障る。
故に追いすがる魔導人形には申し訳ないが、憂さ晴らしになってもらう。

熱毒が僅かに薄らいだとはいえ、受けた傷も塞がりつつあるとはいえ、
筋骨隆起する剛脚一閃。豪快にその胴を破断させ物言わぬ鉄屑へと変えるには一撃で十分。

とはいえその一撃で目一杯。
再び乱れ荒い息遣いのままに、雄に身を任せることとなろう。