2025/04/20 のログ
ご案内:「イフレーア・カルネテル邸 私室」にアイシャさんが現れました。
アイシャ > 【お約束待機中】
ご案内:「イフレーア・カルネテル邸 私室」にプシュケさんが現れました。
アイシャ > 「もっと早くに渡そうと思ってのに、こんなに遅くなっちゃうなんて。
我ながら本当に駄目よねえ…」

次女の私室は、王女の私室としてはかなりシンプルな装いになっている。
もちろん飾り棚の金彩や鏡台のあしらいなどは上質なものなのだが、華やかさや豪華というよりも、木目の美しさなどが際立つ、何らかの形で過去から引き継がれてきたものを大事に使っているというのが全体的な印象だ。
服も家具も、きちんと手入れをして長く使う、という部屋の主の主義を如実に表している。

そんな部屋のソファは勿論長年きちんと手入れをされてきた木目と飾り彫りの美しいもの。
だが、統一されたデザインのテーブルの上に置かれているいくつかの箱は随分と真新しく、何なら綺羅やかなリボンまで結ばれているものもある。
それから何やら大きな箱が一つ、立派なホールケーキでも入っていそうな大きさだが甘い香りの擦る気配はない。

「アスティ…は、多分まだ研究中よね。
プティが帰ってきたら、部屋で待っているから着替えたら来て欲しいって伝えてくれる?
あ、あと、お茶とお菓子もよ。
この前厨房に届けた苺が未だあるなら、それもつけてね。
お願いよ」

侍女に声を掛けて、下の妹へ向けた伝言を一つ。
それからお茶とお菓子の依頼も忘れない。
女同士の会話にはお茶と甘いものは欠かせない。
先日自分の聊か旺盛な食欲を恥じたこともすっかり忘れた姉は改めて机の上の箱たちを見やった後、一番大きな箱のふたを開けて中身を確認すればちょっとだけ肩を竦めた。

プシュケ > アイシャが侍女にそう指示をしてからさほど時がたたない頃に、扉がノックされる。
入室の許可を向ければ、扉が開いて先ほどの侍女と数人のメイド達の姿。

『アイシャ様、プシュケ様がお戻りになられました。先にお茶とお菓子の準備を、と申しつけられましたため、お持ちいたしました。』

そう告げて、侍女をメイド達がアフタヌーンティーの準備を仕上げていく。
この後で、部屋を辞するからと言う理由で扉は開いたまま。
その開いたままの扉から小さい影が室内へと忍び込む姿を部屋の主は認められたかどうか。

どちらにしても、お茶の準備を終えた侍女たちは、もうしばらくお待ちを、と告げて部屋を出ていく。

気付いていたとすれば、アイシャの座るソファの後ろにいることに気付けるだろうし、
気付いていないとすれば、末子であり、きょうだいの中でも類を見ないアグレッシブであり、何よりも、家族に対しては悪戯好きの末妹が奇襲でアイシャの両眼を両手でふさぐことだろう。

アイシャ > 大きな箱の中身を見下ろしながら、何やらぶつぶつとつぶやいていた次女の顔をあげるのは侍女の声。
もちろん、準備が先にできていることは何ら問題がないので迅速かつ丁寧に茶話の準備がされていくのを歓迎した。
今は、準備が完了したかどうかよりも箱の中身に思考が向かっていたこともあって、小柄な妹が侍女たちのさざめく陰に隠れて忍び込んでいたかも気づきはしない。

「わかったわ、ありがとう」

もう少し、というからにはそう長くない時間のうちに来るのだろう。
アフタヌーンティーの準備をして見送る部屋の主は気も漫ろ。
腰掛けるソファの真後ろに妹がいることも気づきはしていない。
だから、視界を塞ぐ手が伸びてきた瞬間、驚きは身を固くしたと同時、木箱の蓋がぱたんと割合大きな音をたてて閉まる。

これは朧気ながら幼少の織にも理解したことだが、視界が突然暗くなった瞬間というのは声が出ないものらしい。
見えていたものが見えなくなり、その理由がわからなくなった恐怖で叫び声が出る。
ここは自分の部屋だが、先程メイドたちは部屋の扉を開けたままにしていた。
でも邸内の、それも部屋の内は一番安全だと思われる場所。
誰が、いつ、どこから?
咄嗟に上手く吸い込めなくなった息を思い出すことができたのは、自分の視界を遮っている掌が少なくとも自分よりも小さいことに気づいたからだ。
ゆっくりと深く息を吐き出して、振り返りながら妹の手を押し上げようとする時には蒼を通り越して白くなりかけた肌の上にも血色が戻り始めるか。

「プティ。
もう、びっくりさせないで」

振り返った先に居るのが妹であることをきちんと確認してから改めて息をゆっくり吐きだし、自分の隣に招くよう布張りの座面の上をポンポンと手で軽く叩いて示した。

プシュケ > 悪戯で、両手で姉の両眼を隠した時の反応。それを見て、気付いた。
なので、声をかけずにいて、自分であることに気が付いた姉が振り返った時には、少しバツが悪そうな苦笑めいた笑顔を見せていた。

「ごめんなさい、アイシャ姉さま。
姉さまには、前からいきなり抱きつくことにするわ。」

びっくりさせることはやめるつもりがない、と暗に伝えるものの、
見えない所からいきなりびっくりはさせない、と言う約束。
彼女の小さい頃の出来事を、人づてに聞いたことを思い出したためだった。

一旦ソファ越しに軽く姉の頬に自分の頬を触れさせて、姉の頭を抱き寄せるように両腕を回してから、
隣へ招く所作を見せた姉の隣へと移動して、ちょこん、と座る。

「それにしても、アイシャ姉さまとお茶をするのも久しぶり。
姉さまのペールシルバーも、相変わらず鮮やかで……あら?」

座った後で、アイシャを見つめながらにこやかに告げる言葉。
末妹は家族を色で伝えることがよくあって、アイシャには昔からペールシルバーと告げていたが、その言葉が途中で止まる。
不思議そうにしばし姉の顔を見つめてから、猫のように身をすり寄らせて、スンスン、としばし鼻を鳴らした後で、悪戯っぽい笑顔が浮かぶ。

「あらあら、姉様。レオ兄さまとだいぶ仲良しに?
姉さまのペールシルバーに、レオ兄さまのシャトルーズグリーンが仄かに感じるもの。
でも、それは素敵なことだと私、思うわ。」

末娘の瞳には、常人とは違うものが見えている。
それは家族であれば皆知っていること。
故に、不思議と物事を言い当てることもままあるが、相手の秘密を他の家族であっても他人の前で口にすることはないからその不思議な力も愛されているのかもしれない。

アイシャ > 「怒ってないわ、でも、できれば今回っきりにしてね。
それに前からなら、わたしもプティのことぎゅって出来るから嬉しい」

悪戯好きの妹が、子供らしいちょっとした出来心で思いついたのだということは理解できる。
だから、頬が重なる柔らかさに嫌悪もないし、抱き寄せるような仕草にも拒否はない。
横に招いているのだから、怒っていないこともその仕草で伝わるだろう。
その招きに応じるように横に座った妹の瞳がこちらを見つめてくるのを彼女同様に久しぶりに感じながら、用意して貰った紅茶をティーカップに注いで妹の前へ。
それから自分のカップにも注いで、ちょうどポットを置いた頃合い。

「そうね、プティが学校に行くようになったから、なかなか時間が合わなかったものね、……?」

ペールシルバー、昔から告げられるその色名。
髪も瞳も銀なので、その印象なのかとおぼろげに思っていたのだが、仔猫の様にすり寄ってくる様に何かあったのだろうかと首を捻る。
普段からつけているのも、今つけているのも、上の妹が自分に合わせて作ってくれた菫香なので、彼女にだって馴染み深い香りの筈だ。
それとも何か違う香りが移っているのだろうかと首を捻って自分の手を口元辺りまで寄せたところで、妹の口からこぼれ落ちた発言に一瞬頭が真っ白になったあと、首元まで真っ赤に染まる。
それはもう、ぶわっと、まるで花が咲くかのような勢い。

「え?え??
ちょ、ちょっと待って?!

………シルバーに…グリーン?
なんで…?」

口を噤んで受け流すだけの技量など姉にはない。
妹が何らかの感覚を色でつかんでいることは昔から理解しているし、自分も常人の目には見えない意思たちと交信することがあるから同じようなものだろうとは思っていたのだが、改めてその力を理解すると驚きでしかないし、何ならちょっと恥ずかしい。
紅くなった頬を掌で隠すようにしながら、恐る恐る聞いてしまう。

「…見たら、わかってしまうもの?
プティだからわかるの?」

プシュケ > 「うん、後ろから目を隠したり、体を揺らしたりするのは今回限りにするわ。
アイシャ姉さまには前から攻めるの。」

こくこく頷いて、姉の言葉に同意する。

そうこうしていれば、自分の言葉に動揺したような反応を見せる姉の様子にくすくすっと楽しげな笑いがこぼれる。
暫し姉の様子が落ち着くまで静かに待って、顔を両手で隠しながら、向けてくる問いかけに、唇にちょん、と右手の人差し指を当てて考えるような仕草を見せてから

「たぶん……他に気付いている人はいないと思う。
母様は察しがいいから、使用人たちの情報から姉さまにカマをかけてくるかもしれないけれど、知ってはいないはず。

今の姉さまの状況だったら、私だからわかる、が正しいかな。」

特に言葉を選ぶ様子もなく、感覚のままに紡ぐ妹。
双子の姉とはそういう点は正反対だ。
思慮深く、考えてから言葉を紡ぐ双子の姉と、伝わるかどうかもあまり意識せずに感覚のままに紡ぐ妹。

「私には物の価値が見えると思われているけれど、人や物の色が見えるだけ。
見える色が価値を示してくれるから、美術品の鑑定にも使えているけれど。

アイシャ姉さまは、基本、ホワイトよりのシルバー。精霊たちに愛されている姉さまだもの、色がつかないのも当然よね。
ホワイトじゃなくてシルバーなのは、きっと精霊たちのおくりものかしら?
でも、姉様はアスティと仲良しで、アスティからもらった色の菫色が常に重なっているからペールシルバーに見えるの。

そんな姉様にシャトルーズグリーンの気配をうっすらと感じて。
気のせいかな?と思ったけど、やっぱり感じる。
そして、その色を持っていて、アイシャ姉さまと関われる人、と考えたら、レオ兄さま。
レオ兄さまは、シャトルーズグリーンに、時として黒や紺がうっすら混ざる人。
でも、最近は混ざる色が少なくなってるなぁと思っていたの。
それは、姉様のシルバーの影響だったのね。」

傍から聞けば電波っぽく聞こえる言葉だけれど、少なくともプシュケの世界はそのように見えているらしい。

アイシャ > 「攻め…?」

はて。首が疑問にシンプルに横に傾いた。
学校で何か流行っている表現なのだろうかと首を捻って、そこで終わった。
だが、続く言葉には気が気ではない。

「母さま?!
えっ、あっ……あー…」

一度は落ち着きかけたものが、また再発。
今度はどちらかと言えば不安のほうが強いのだろうか、最早言葉にすらならなかった。
それでも妹がきちんと説明してくれるので、戦々恐々としながらも聞くことはやめない。
まるで、次の頁で何が起きてしまうのかを不安な気持ちで読み進めるサスペンスのようだ。

「精霊たちが良くしてくれると、色がつかないの?
シルバーに菫色…シャルトリューズグリーン…。
なんだかプティの世界はとっても彩鮮やかなのねぇ、凄い。
わたしもちょっとだけ見てみたいわ」

言い当てられたことはさておいて、シンプルに感動したのだろう。
妹の中にある世界の広さと色彩に素直に感心の声をあげてしまった。
落ち着くために紅茶を一口飲んだところで、はた、と思い出したようにカップをソーサーの上に戻す。

「そ、そうだわ。
彩の話ももっと聞いてみたいんだけど、プティにお願いしたいことと、渡したいものがあったから来てもらったのよ!
忘れちゃうところだったじゃない、もう」

自分のうっかり具合にに呆れるような声を出しながらも、机の上の小箱たちを引き寄せてから咳払い。

「この前、レオンハルト兄さまに旅行に連れてってもらったでしょう。
すっかり遅くなってしまったのだけど、その時のお土産を渡したくて。
本当はアスティにも渡したいのだけど、今はほら、研究に集中してるから邪魔するのも悪いかしらと思って」

金縁に濃い碧のリボンがかかった箱は手のひらに乗る程度。
開けば金に螺鈿細工と小さな真珠で作られた花の髪飾り。
真珠も螺鈿もほんのりとピンクがかった色味が可愛らしいものだ。

「公のところにつけていくにはちょっと難しいと思うけれど、アスティとお出かけすると時にでもつけて貰えたらと思って、選んでみたの」

当世屈指の審美眼を持つ妹への贈り物として選ぶにはちょっと勇気がいったけれど、可愛いと素直に思えたからその気持ちだけでも汲んでもらえたらと思うのは姉の甘えだろうか。

プシュケ > 母親は気が付くかも、の部分で再発した姉の様子。
暫し見つめてから、フォロー、という訳でもないが言葉を紡ぐ。

「母様は、それはそれで祝福はしてくれると思うの。
だって、母様自身が子供とそう言うの楽しんじゃうんだもの。
自分はいいけど、アイシャ姉さまはダメと言う人ではないわ。

それに、母様自身はそうじゃないか、と思っているだけだから、姉様に自白させようとカマをかけて来るかなって。
バレても怒られるわけじゃないし、気にしなくていいんじゃないかしら。

だって、後悔しているわけじゃないんでしょう?」

姉の色は鮮やかだ。
つまり、その事実を喜んでいるという事。
ならば、母も祝福しないことはないだろうという話。

もちろん、妹の頭の中には、将来の婚姻とかそういうことは全く入っていないのだが。

「特定の精霊に良くされていると色がつくわ。炎なら赤、水なら青みたいに。
でも、姉様は精霊全部に良くされるから、白。
特定の精霊の色がついたら、他の精霊が嫉妬してしまうもの。

そうね、みんなこういう風に見えていると思っていたけど、私だけと知ってからは、嬉しくて、誇らしくて、少し寂しい。」

そんな会話の中で、姉が変えてきた話題。
目を瞬かせて聞いていれば、旅行のお土産を渡してくれるということらしく。

「まあ、それは素敵。この箱の中身?なにかしら……」

そのまま受け取って、開いて中を見れば、目を瞬かせ、口元笑みに綻んで。
ただ、少しだけ首をかしげて、じーっとそれらを見つめていたが、納得したように何度かうんうん、と頷いた。

「ありがとう、姉様。
そんなことはないわ。これは公の席につけて行っても引けを取るようなものではないわ。

流石に、この価値を分かる人は数えるほどしかいないかもしれないけれど、それでもこれらはとても素晴らしいものだわ!」

確かに、真珠と螺鈿となれば、宝石をふんだんに使ったアクセサリーに比べて見劣りすると思われるだろう。
だが、これらのものの価値は、分かるものであればわかること。
だからこそ、自信をもって公の場につけていけばよいとも思った。

もしかしたら、自分が堂々をつけていくことで、真珠や螺鈿のトレンドが生まれるかもしれないけれど、そういうトレンドのアクセサリーとこれらは全く違うものなのだから。

アイシャ > 「……それは、そうかもしれないけれど…。
こう……なんて言うのかしら、察されるって言うのも、まあ恥ずかしいのだけど、自白…じはく…ぅぅ…」

自身の中で整理しきれてない葛藤は、呻きのかたちになる。
けれど、確認するような妹の言葉に迷わず首を縦に振った。
将来的な如何がどうであろうとも、後悔なんて、実際一時たりもしたことはないのだから。

「勿論、わたしは後悔したことないけれど。
…プティは、そういう風に思うことがあるの?」

尤も、自分の情報源はすぐ上の兄だけなので、実際にこの奔放な妹が誰とどんな関係を持っているかまでははっきりと把握していない。
彼女の性格を考えるとあまり気に病むようなこともなさそうな気もしている。
だが、妹を取り巻く環境に興味は持ってしまうのはやはり倒錯した恋愛小説の読み過ぎなのかもしれず。

「そうなのね、…?
でも……そうすると、わたしの色に、えっと…シャルトリューズグリーン?が、混ざるのは精霊質的にはいいのかしら。
精霊同士の嫉妬はあっても、人への嫉妬というのはないの?」

妹の色彩感覚を疑うわけではないが、実際に仄かに混ざっているというのならそれらは精霊たちにどう判断されているのだろう。
自分で掘り返すのも何だか恥ずかしい気がするが、不思議に思う好奇心にはやはり勝てない。

けれど箱が開いてからは、暫く緊張の面持ち。
自分ではかわいいと思ったし、似合うと思ったから買い求めたのだけれど贈る相手が相手だけにやっぱりどこか緊張してしまう。
けれど、返ってきた評価に漸く胸を撫で下ろすことができた。

「本当に?ああ、よかったぁ…。
もう、プティのお眼鏡に適わなかったらどうしようかと思ってたの。

アスティにもね、少しだけ違うんだけど同じものを用意してあるの。
良かったら、見てみる?」

下の妹から上の妹に渡してもらうことも考えたが、自分が買ってきたものだからやっぱり自分で渡したい。
けれど、折角なら二つ揃っているところも久しぶりに見たくなってしまった。
同じ箱、けれどかかったリボンは淡い碧。
一度丁寧に結んだそれを解いて開ければ形は同じだけれど使われている金はほんのりとピンクがかっていて、螺鈿と真珠はシャンパンゴールドに近い色味を帯びている。
二つが並べば丁度相互補完のような色あいだ。

「ふふ、やっぱり並ぶともっとかわいいわ。
アスティにも近いうちに渡しておくから、二人で着けたら見せに来てね?」

かわいい二人が、お揃いのものをつけていたらもっとかわいい。
妹たちが可愛くて仕方ない姉には、この先の楽しみを一つ増えたわけだ。

プシュケ > 「母さまの性格からしたら、レオ兄さまが絡んでいて尻尾が出るとは思わないから、アイシャ姉さまから自白させようとすると思うわ。
母さまは、知りたがりだもの。」

恐らく家族で最も賢いであろう母親。
だからこそ、知りたがるんじゃないかと言う予測。
もしかしたら、子供たちのやることだからと放置してくれるかもしれないけれど、
姉のためには最悪の心構えをしてもらった方がいいだろうという妹のお節介。

「私も後悔はしたことはないわ。
人を見る目には自信があるもの。

……でも、なんてへたっぴ、ってがっかりすることはあるかも。」

奔放に体を重ねる末娘は、人として失敗したことはないと告げた。
代わりに、性的に下手な相手を引くことはあるとも。
そんな回答が、姉の読みすぎの恋愛小説めいた世界をほのめかせ、更に気にさせてしまうかもしれないけれど、妹はそんなことはつゆ知らず。

「私は精霊が見えたりお話しできたりしないから、正確にはわからないけれど、きっと問題ないのではないかしら。
好きな人が愛している人を祝福したいと思うのは普通でしょう?
私の感覚だけど、姉さまと精霊は好き同士。姉さまとレオ兄さまは、愛し合っている。
姉さまを交わりたいと思うような精霊じゃなければ嫉妬しないと思うわ。」

もし、精霊が姉を子を為したいと思ってそれができるのだとしたら、嫉妬するかもしれないけれど、
そんな話は聞いたことがないから大丈夫じゃないかな、と。
この辺りは完全に感覚の話だった。

暫し確認していたのは、この真珠と螺鈿の出どころの話。
これらは元々水の色を持つものだが、プシュケが見たこともないほどに強い強い水の色が見えた。
これが精霊に愛された姉のお土産と言うのだから、恐らくは、そういうことなのだろう。

自分の考えが正しければ、これ以上に貴重なものは存在しない。
きっとその価値を知れるのは、姉と同じ精霊に愛されたものか、精霊に近い妖精族くらいだろう。
そして、なにより姉が心から送ってくれたものなのだ。
これがうれしくないはずもない。

「まあ、アスティにも! もちろん見たいわ。是非見せて!」

双子の姉にもと耳にすれば目をキラキラさせてみたい見たいとおねだりを。
そして、二つ並ぶことでほわ、と表情穏やかに緩んで。

「これは素敵ね。とっても素敵。
ええ、もちろん。アスティと私が二人で着けて、アイシャ姉さまに絶対にお見せするわ!
双子がお姉様のふたごのお土産アクセサリーをつけて可愛くなっている所、きっとお姉様を蕩けさせてしまうかもしれないわ。」

アスティも自分も可愛いと自認している末妹は自信たっぷりにそう告げた。
そのあとで、ふと何かに気付いたかのように少し考えてから、姉の瞳を覗き込むように視線を向けてから

「ところで、お姉様ご自身の分はお持ちじゃないの?
お持ちだったら、三姉妹揃っても素敵だと思うのだけれど。」

アイシャ > 「そうよね…。
やっぱり、わたしよね…」

兄の一芸に起因する生業を想えば、圧倒的にこちらをつつくほうが襤褸は出すだろうし、そも母から見れば文字通り赤子の手を捻るようなものに違いない。
後悔はやはりしたことがないらしい言葉を素直に受け入れて納得する。
けれど続いた言葉に思わず銀の双眸をまあるくしてしまった。
少し赤くなった顔で思案するような顔をしたけれど、最後には苦笑になってしまうか。

「…でも、あんまり羽目を外し過ぎないようにはしてほしいわ。
プティ自身がいいと思うなら、勿論わたしが口を出す事じゃないかもしれないけれど」

きっと、世渡り上手な妹のことだから余計な心配だろう。
けれど少しは姉らしく妹の心配をさせてほしいのだ。
かわいい妹には、昔の自分のような怖い目には合ってほしくない。

「わたしと…?
……そんな風に思うことって、あるのかしら」

わかる?と尋ねる声をテーブルの上へと徐に投げるのは、低く飾られた花瓶の陰にこっそり焼き菓子の上を飾る砂糖菓子を貰ってしまおうとする花の精がいたから。
見つかったことでぴゃっと花瓶の中の花に隠れてしまったから、そういうことも今のところはなさそうだとばかりに妹へと肩を竦めて見せた。
見えないものが見えて、聞こえない声が聞こえる。
この感覚を人には伝えづらいというのは、やはりこちらも同じだった。

妹たちへの土産物は、自分だけでは上手く見つけられなかったから"囁き"を頼りに探したところもある。
もちろん、美術的な感覚は妹ほど持ち合わせていないからその"囁き"と直感で選んだことには違いがないが、まさかその囁きが妹には色で捉えられているとは思いもせず。

「ね、とってもかわいいでしょう。
ふふ、気に入って貰えたみたいで嬉しい。
二人が私をとろとろにしてくれるのを待っているわ!」

自信たっぷりに告げてくれる妹の声は非常に頼もしくもある。
きっと上の妹が躊躇することがあったとしても、下の妹が連れてきてくれることに違いない。
一度は開いたアスティへの土産を再び包みなおしていれば、自分へと話の矛先が向かうと視線が少しばかり泳いでしまった。

「わたしは、髪質的に重いアクセサリーはつけられないから、髪飾り以外で何かと思ったのだけど
…その、沢山お土産を貰いすぎて…どうしようか迷ってしまって。
それに、姉さまと母さまへのお土産も悩みすぎてしまって選べなかったのよね。

プティにお願いしたいと思って来てもらったのは、お土産を渡したかったのもあるのだけど」

妹が部屋に来るまで膝の上に乗っていた大きな木の箱の蓋を、妹に中身が見えるように開けば現れる海賊の財宝もかくやとばかりの海の精霊達からの土産物。
上質な珊瑚であったり、大粒の真珠や橄欖石に、翡翠、ちょっと変わった匂いがするけれど貴重らしい石のような何か。
それ以外にも古い時代の金貨だったり、海に何らかの理由で沈んでいたのだろう貴金属類がもう無分別に箱の中に納められていた。

「母さまや姉さまに似合いそうなものが、この中にあるかしら。
何か良さそうなものを見繕って、作ってもらおうかと思っているの。
だから、プティに選んでほしくって」

プシュケ > 「もし、姉さまが母さまをびっくりさせたいと思うなら、カマをかけてきたな、と思ったときに姉さまから言ってしまうのもいいかもしれないわ。

それはそれで、母さまが目を丸くする様が思い浮かぶけれど。」

ちょっとした冗句めかした口調で告げた言葉。
少なくとも母親は悩む話ではない、と言う意図を伝えるために。

「それは、うん。姉さまがそうおっしゃるのなら。
相手は選んでるけど、もう少し深く選ぶことにするわ。」

心配してくれているのが分かるからこそ、心配をかけすぎないようにとそう言葉にした。
流石に、やらないようにするとは言えないけれど。
敢えて、交渉事のためにそうすることはあるのだから。

「人間にも色々いるのだから、精霊にもいろいろいるのではないかしら。
いや、私が適当に考えていることだから、そもそもそういうことはないのかもしれないけれど。」

感覚で適当に話を紡いでしまうから、こんな風に色々な方へと飛んで行ってしまうのだが、時々これが真実を射抜くから馬鹿に出来ない。
とはいえ、真実かどうかなど、後になってようやくわかることではあるのだけれど。

双子で絶対見せに来ると告げ、姉はどうなのだと問うたあと。
他にもお願いごとがあると言われてその話を聞いていれば、目の前に現れた大きな木箱。
そして、その箱のふたを開けた中には

「…………これは確かに凄いわ。
姉さまは本当に精霊に好かれているのね。」

これらから、母や姉に似合いそうなものを、と言われれば、箱の中身をあれこれ触りながら見つめ、時々取り出して見比べたりしながらそれなりに時間をかけて、

「うん。アイシャ姉さまにはこれが一番いいと思う。」

母親や上の姉よりも先に、目の前の姉に似合うものとして差し出したものは、橄欖石。

「これをブローチにしてみるのはどうかしら。
アイシャ姉さまの好きな服の色と考えても似合うと思うし、何よりも……『素敵な緑』だもの。」

にっこり笑顔でそんな評を伝える。
そのあとで、母に、上の姉にも見繕い、母には古代の金貨と貴金属を、加工せずにそのままプレゼントした方が良いと告げ、
上の姉には珊瑚のいくつか形の良いものを見繕って、ベルトのバックルにしてみてはどうかと提案した。

アイシャ > 「…そんな勇気、わたしにあるかしら」

今だ、というタイミングを自分が図れるかどうかも自信がない。
それよりも先にやっぱり襤褸が出てしまう気がする。

少し出しゃばりすぎたかもしれないと思ったが、妹は理解はしてくれているらしい。
けれど、心配し過ぎて不足になる事はないと思った。
かわいい大事な妹だ、姉はいつも幸せであってほしいのだ。

「それは勿論わたしもそう思うわ。
わたしよりも精霊に詳しい誰かを探してみないと、詳しい話は聞けないかもしれないわね」

会話もできるしお願い事もできるけれど、その実学問的なことやその生態に関してはまだまだ学びが足りない自覚がある。
大概のことを感覚で捉えて上手くやっていける妹の在り方に感嘆するけれど、自分には真似できないのだからやはりこちらは地道に進んでいくしかなさそうだ。

「もうね、驚いちゃうでしょう?
これでも、あんまりにも粒が小さい真珠や翡翠とか、なんかちょっとこの変わった石…?みたいなものも、少しは向こうで売ってお土産代の足しにしてきたのよ。
なのにこれだけあるんだもの、持って帰ってくるのだって大変だったんだから」

特に高く売れた謎の石が、拳大の大きさ程度でも莫大な富を生む幻の香料だとは知りもしない。
母や上の妹の研究材料になればと思って持って帰ってきたものなので、目利きの妹による鑑定が終わればそれらも二人のもとに土産と一緒に届けられることになる。

「ブローチなら着けやすくっていいわね。
どんなデザインに作ってもらおうかしら…って、もう、プティったら!」

素敵な緑、と強調したのは再び登場した妹の悪戯心からだろう。
けれど、差し出された石を受け取って照明の灯にかざしてみれば大粒の石が齎す若草のような色が銀色にも心地よく光る。
それから姉の為に選ばれた珊瑚と、母の為に選んだ金貨や貴金属をより分けてもまだ箱の中にはみっしりと詰まっていた。

「…プティは、この中に何かほしいものある?
何なら、アスティとお揃いを増やす材料にしてもいいわよ。
こんなに管理しきれないし、少しだけ手元に残したら、後は手放そうかと思ってるの。
幾ら私の部屋で保管するにしても、あまり価値が解らない私が持っているよりはわかる人に持っていてもらうほうがいいと思うの」

まだまだ箱の中に彼女の興味を引いたり交渉の材料にできそうなものはあるだろうか。
時間はたっぷりあるのだからとお茶と焼き菓子を間に交えながらゆっくり選んでもらうことにしよう。

暫くの後には、妹たちにおくった髪飾りの花と同じ姿になるように仕立てられた橄欖石のブローチが、時折夜会に挑む姉の胸元を華々しく飾るようになったとか───。

プシュケ > 勇気の有無については、姉の考える領域だ。
そのため、そこはニコニコ笑顔を向けるだけで終わっておいた。
否定もしないし肯定もしない。つまり、あとは姉が考えて決めることだと。

「それはそうかも。
私達はそれぞれの一芸に当たる部分には強いけれど、それ以外の部分は普通の人と変わらないもの。
聞いてみてもいいかもしれないわ。」

姉の言葉を肯定する。
感覚だけで理解できるまでにいくつものトライ&エラーが存在するのだ。
そして、それを説明することは難しい。
自分にしか見えないモノを伝えることは難しいのだから。
そういう意味で同志とも言える姉だからこそ、話したという部分もあるのだけれど。

「こんな大きな箱にこんなにたくさん。
本当に姉さまがすかれているのが良く分かるね。
きっと姉さまならきちんと持って帰ってくれると信じていたのかもしれないわ」

そんな言葉を向けているけれど、悪戯めいた言葉に笑顔を向けたりしていたが、
他にも何か欲しいもの、と言われて少し考える。

「……姉さまが欲しいものだけ抜いてもらって、それ以外は全部持って行ってしまってもいい?
私は魔術的な部分はからきしだから、母さまと一緒に吟味したいかも。
とても貴重なものだし、母さまが欲しいと感じるものと、私の『眼』が一緒になったものなら役に立つと思うし。
だから、姉さまともっともっとお話をしたいわ。

例えば、旅行の時のお話をもう少し、とか。」

箱の中身は後回し。今は姉との楽しい時間を楽しむのだ、と宣言し、まだまだたっぷりと、色々な話をしていくのだ。
ここからは、姉妹2人きり、楽しい時間を過ごすため、笑いが絶えないお茶会だったろうけれど、それはとても素敵な時間であった。

ご案内:「イフレーア・カルネテル邸 私室」からアイシャさんが去りました。
ご案内:「イフレーア・カルネテル邸 私室」からプシュケさんが去りました。