2024/03/04 のログ
ご案内:「王都富裕地区 とある貴族邸宅」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。
ご案内:「王都富裕地区 とある貴族邸宅」にイーヴィアさんが現れました。
■メイラ・ダンタリオ >
王都マグメール 富裕地区
“とある貴族の邸宅”にて。
正午
メイラは戦場以外の時間 王都に居る間は一人彷徨うように歩くこともあれば
討伐隊に交じり近隣の事柄を片付け、王城内で問題を起こすこともある。
ただ、外に出ているばかりではない。
戦場以外の時間にたっぷりと身を浸すように自身の住まう邸宅にいることも勿論あった。
規模や外見など、どう表現したらいいかわからないだろう
魔族混ざりの人間の家など 人数も 寿命も 家がそれに馴染むにはどうなっているのかなど。
「―――。」
普段と変わらない一張羅姿。
黒い衣に白のネクタイ。
下半身は乗馬を意識してか中性的な姿を取っている。
両手に手袋の様にはめられた丈の短いガントレットは、黒鉄で包まれた鋭利な指先を帯びていた。
その指先が、剛力で引き絞るのは鉄弓。
弩ではなく弓 硬く重く張りがある弦は金属性か 将又、魔獣の筋を用いた弦か。
胸元はよく見れば簡素な黒い胸当てをつけている。
弦との接触を回避するためだろう。
矢の先は 板金を丸太に巻き付け、強引に“鉄の紐”で捩じり留めたもの。
鎧と肉を模しているのか、固定されたそれに対し、数度弓を構えて引けば
―――“『ッ!!』”―――
―――“『ッ!!』”―――
―――“『ッ!!』”―――
弓から解き放たれた重い鉄の一条が、深々と突き刺さり、丸太の筋に沿い破砕されるものの
それは巻鉄によって崩れを防いでとどまっている。
ウッドストーブの出来損ないのようになっているだろう内部を見ながら、メイラは遠距離に対する意識。
己の呼び名である 怪力令嬢 に活かす方向を見出しているらしい。
鉄弓がいくもはずれて向こう側へ転げ、刺さり、抉れている。
「―――弓手も、手元に強力なのを置いておくべきでしたわね。
わたくしの眼で見ていると、どうにも近くの子ばかりですもの。」
そう言って、ギザ歯は閉じてへの字になっている。
■イーヴィア > (――其の邸宅に、来客と言う物はどれだけ訪れる物だろう
虎穴に入る豪胆さが要るのは、在る意味では間違いあるまい
まぁ、身の錆に覚えが在る物ならば特に、と言う所だが
屋敷の使用人に案内される儘、進む廊下は歪さを見る
恐らくは、改築に改築を重ねて居るのだろう
其の用途が知れぬ階段、何処にも繋がらぬ廊下
壁の継ぎ目が、本来ならば隠す所を、敢えて見せつける様に見て取れる等
――建物其の物が、"継ぎ接ぎの怪物"で在るかの様に。)
「……此処で良いのか?」
(使用人が、ふと足を止めた。
聞こえてくるのは、弓を射る音か。 鋭く風を切り、的を貫く其れ
まるで砲弾が突き刺さって居るかの如き、破砕音が其処に伴うなら
如何なる強力が其れを射て居るのかが、言われずとも想起出来よう
――使用人の片腕が、示す其の先へと自らの足で歩み進めば
何やら少しばかり不満げな令嬢の其の背に、声を掛けた。)
「――――……イーヴィア・ヴァルケス。 参上致しました。」
(――うやうやしく、一礼と、向ける挨拶
けれど、其の声音がほんの少しだけ、不真面目に――
――明らかにワザとらしく、そんな言葉遣いをしているのは、聞き取れるだろう
単なるお遊びの戯言、顔を上げれば、其の口元にほんの僅か弧を描き
仰々しい態度を早々に緩めた。)
「……、…随分と、えぐい壊れ方をするもんだ。
弓矢とは思えねぇなァ。」
(背に負った白木の箱。 微かに、檜の香りが部屋へ漂うやも知れぬ)。
■メイラ・ダンタリオ >
ウッドストーブ。
丸太を縦に割り続け、側面を繋ぎ合わせて中心に空洞を持たせる形で繋ぎ直す。
そうすることで火を落とし、燃やしたそれは正に丸太のストーブとなるサバイバルウッドだ。
メイラは、丸太に巻き付けた巻鉄の中を覗けば貫かれた衝撃で幾つも割れて崩れそうになりながら。
しかし巻かれた鉄と捩じり留める鉄の紐で形を保ったままのそれを見る。
ガゴッ と強引に引き抜いた貫通性能のみを持たせた涙型の矢じり。
数人をまとめて屠るのなら貫くしかないものの、逆を言えば引き裂くように片側を狙うのならば
これが爪型の刃を含ませることで首や腕 ガワを狙って負傷する形を狙えばいい。
殺し続けるより怪我をさせ続ける方が厄介なこともある。
恐ろしいまでのチキン戦法を試す素振りを見せるのは、やはりアスピダという山間部における
どこまでもどこまでも終わらない果てと エイコーンに構い続けたくない心の現れだろう。
クルリと片手の指が、軽々と総鉄製の矢を廻していると掛かる声。
声は友人 しかしとってつけたような言い回しとまるで呼びつけたような言葉に、メイラは振り返るまで
その表情は半信半疑だったという。
「―――……?
イーヴィア・ヴァルケス?」
アスピダ以来か 鎧のメンテナンス もしくは愛刀の一件がない限り関わることが今は薄い。
メイラ・ダンタリオの数少ない純粋な友人である。
表情に悪戯めいたものを感じれば、眉を持ち上げてギザ歯を見せる形で三日月を描く。
イーヴィアからは肩の持ち上がりがスッと抜けていくのが見えただろうシルエット。
互いに目が合えば自然と距離は縮まづ。
イーヴィアは白木の箱を手にしているものの、突然の登場だった。
メイラは総鉄矢をザクリと刺すように真っ直ぐに固定してしまうのなら、空いている手。
右手をガントレットのまま互いに握手を交わした。
赤毛 逞しい腕 変わりない様子。
カー・テシーすら省いたメイラのそれは、恰好を崩しているのも同義か。
余程心を許しているらしい。
「ごきげんよう、イーヴィア。
冬前の忌々しい山以来ですわね。」
メイラを形作る一部を担うのが目の前の男だった。
再会を喜びながらも、わざわざ邸宅に居る時を伺ってきたのか。
手紙を寄越さずに来る辺り、様子を見ていたと察せれる。
「わたくし、というよりもわたくしと同じ性質の者らが使えるような武器はいくつもありますわ。
ダンタリオですもの。 その力で引けて打てれば、人の規格はこんなものでしょう。」
ドワーフの斧と同じですわ、と一撃に全てを賭けた断撃に例えている。
左手に携えたままの鉄弓 そのままでも武具にできそうなそれを、ずっしりと目の前で持ち上げて見せ。
「ドワーフ製の弓と、どちらが強いのでしょうね。
―――ん。」
メイラは、鼻に香る落ち着いた香木の香り。
水浴び場でよく香るそれと同じ箱を赤い瞳が見やれば、イーヴィアに視線を合わせつつも
しかし結末を急くような真似はしない。
鉄弓を刺し、胸当てを外して鉄弓に掛けてしまえば右肩を廻そうか。
「とりあえず、一献付き合いなさいな。」
そう言って手拍子を数度。
手の成る音ではなく金属製の音だったものの、扉の場所に居た案内の者が出ずる。
「“虎骨”を此処に。
それ以外は必要ありませんわ。」
従者に対する態度。
それは貴族らしいものであり、一礼した従者が下がる。
鍛練場にある腰かけ場に二人は歩き、腰を下ろすところには愛刀が二つ。
イーヴィアが良く知る“二代饕徹”
そして相手が作刀した“大脇差 窮奇”が安置されている。
程なくして、シェンヤン焼きされた角ばった焼き物の大瓶
中身は葡萄酒のものが静かに運ばれると、それをメイラ自身で。
封を剥がし、入り口のコルクをナイフで切り落とし、オープナー型の捻りで開ける。
同じシェンヤン塗りのぐい吞みに、自ら注ぐ。
甘口の香りが広がっていながら、瓶の中身は葡萄酒の高さが低くなった。
虎骨の頭が、数本覗いているのが中身が当たる音と注ぐ口から見えるだろうか。
素焼きの酒壺や樽ではなくシェンヤン製は珍しいだろう。
硝子と同じように酒の味を変えない為の代物だろうか。
「はい、乾杯。」
カチンと互いに縁を当てて飲み干すと、甘い上等なまろみ。
渋さが無い葡萄酒は上等な代物だろう。
中身の骨は、と聞かれれば、虎の骨と答え男に好い希少酒だと言った。
「中々いいものでしょう?
骨漬けなんて聞こえは悪くても、馬鹿貴族共が羨ましがる品ですのよ?」
ニッコリと笑めば、冬の寒い時期に訪れたイーヴィアに火を灯す心使いか。
この酒を出しても惜しくはないと、現れている。
■イーヴィア > (――恐らく。 手紙は使用人までで止まって居るのだろう。
そも、常に屋敷に居る訳では無い相手だ、連絡をしたとて何時会えるかは判らぬ
当人とは知る仲とは言えど、使用人とはまた別だ
自らが使える主に僅かでも危険が及ばぬよう、検閲なりを挟むのは
当然と言えば当然だろうから、納得もするが
――此方を振り返った際の、何処か疑わしそうな視線が面白くて
つい、失礼ながらに、くつくつと喉奥で笑ってしまったのは
なんと無し、其処に愛嬌と言う物を感じて仕舞ったからだろう。)
「そうで御座いますよ、メイラ・ダンタリオ様。
―――……やめとこう、むず痒くなっちまう。
依頼以外じゃ、そう顔を合わせる事も無いからな、久方ぶりだ。」
(元気であったか、とは聞かぬ。 元気で無い事の方が希少であろうし
そうでなかったとしたら、大概何かしらへの不満を抱えているのだろう
体調の問題、に関わる事は――想像も出来ない
差し出された掌に、己も又片手を差し出し握手を交わせば
――鍛冶屋としては、其の鉄弓に目を引かれて仕舞うのは
職業病と言っても、大体差し支えない所だ。)
「……在る意味専用の弓だからな。 色んな所を度外視してりゃ
一応は万人が撃てる想定のドワーフ印とは、比べても仕方ねぇさ。
……ただ、張り合えってんなら考えるぜ。」
(そも、目の前の女の様な、規格外の怪力を前提に弓を作る事がそう無い
ドワーフの弓も、一般的な逸れ、を想定するなら、其の貫通力は比べ物にはなるまい
――だが、敢えて作れと言われれば、張り合う事は叶うだろう
其れだけの自負は存在するし、挑む気概は在る。鍛冶屋としての自尊心も。
――だが、今回の用事はまた、別だ。 故に、気は引かれるが一旦さておこう
案内される儘、腰掛場へと進めば、背負った白木の箱を
己と、相手との間へ下ろしつつ、ぐい飲みを受け取る
どんな時で在れ、酒と言われたら断らぬのがドワーフだ
遠慮などせぬ、有難く頂こう。)
「乾杯だ、良い酒じゃあねぇか。
ま、貴族ってのは珍しい物を欲しがるもんだからな…其れがなんだろうとよ。
それに、そうだな…、…うまい酒に見合う話は、持って来た心算だ。」
(継がれた酒を、ぐいと煽る。 ――咽頭を流れ落ちて行く酒精は、何事にも変え難い。
寒い中、足を運んだ苦労が報われると言う物だ。 ――苦労、と言うのも変だが。
何せここに足を運んだのは他でも無い、己の用事で在るが故に。)
「――――……ちょいと、献上品だ。
色々と理由があってな。 ……御前さんしか、当てがなくてよう。」
(目前の、白木の箱。 其れこそが今回の、用事だ)。
■メイラ・ダンタリオ >
場所が、場所のせいだったのか。
多少遊び心を持たせたやり取りと、本当にイーヴィアか、と一瞬疑った貌
それがツボだったように笑う仕草。
普段には無いやり取りを挟んでの挨拶と再会の喜び。
そして滋養の酒を訪れた歓迎の印に注いで、干す。
此処までのやり取りはいつものこと。
虎骨酒はドワーフの好みそうな蒸留とは違い、むしろ人間が好みそうな代物だ。
タイガーワインと呼べば噂は聞いたことがある者が大概のもの好きな酒。
メイラも、甘口のそれを簡単に干すには舌に合うせいだろう。
店に赴いた時の土産はイーヴィアに寄り、歓迎の酒はメイラに寄っている。
そんな二人の杯がこの紫色の酒を乾かした後。
献上品として持ってきたというそれは仰々しい。
古めかしくはない新造の箱。
「わたくしに。しか?」
先ほどの鉄弓の例ではないが。
メイラのような気質に合わせた武具を持ち込んだのかと思えば少し違う様子。
メイラの為に作ったのではなく、行く先がメイラくらいしか思い浮かばなかったというような態度。
自身の顎先にその鉄の指先を添えて撫で。
「珍しいことを言いますのね、イーヴィア。」
この作は、誰かの為を考えずに打たれたいわば規格外らしい。
誰かが先なのではない この武具が、先だったのだ。
それ故の結果だろう。
白木の箱を撫で、そっと開けると鞘袋に包まれたものが一条伸びている。
丁寧にされている辺り、作としては認めているのだろう。
だが、それよりもまず眉を顰めたのは更に意外だったこと。
「…、…刀?」
そう、イーヴィアは刀を持ち込んだのだ。
二代饕徹という愛刀を携えるメイラは、戦場武具に関しても愛用品がある為か
イーヴィアに武具を頼むことは現状ほぼ無い。
故に鎧こそが今でも互いの最もつながりのある代物である。
あれ以上を求めることが無かったからと言ってもいい。
あの刀工に挑戦している風にも見えず、鞘袋を掴むとずっしりと来る独特な刀の重量。
「…、…満足のいく刀ができたけれど、わたくしくらいにしか行く充てがないだなんて。」
性格上、そういった一目惚れや飛びつく客には渡したくはないらしい。
扱い切れないと踏んでいるようで、惜しみ無いのが顔に出ている。
鞘袋を紐解くと、バサリと柄頭から柄 そして鯉口付近の鞘の色まで半ばがゆっくりと脱げた。
―――その全貌とは。
■イーヴィア > (勿論酒にも好みは在る、酒精が強く辛口
けれど、酒精であれば大抵の物は歓迎すべきだろう
甘口の酒にも、相応の楽しみを見出せる口では在るのだから
滋強剤として用いられる事も在る其の酒を、己も知って居るし
中々手に入る物で無いとも判って居る故に、堪能させて貰うのだ
――時は過ぎて。 目前に置きたるは白木の箱
行く当てなく、と作者たる己に言わしめるのは、一振りの刀
全身は凡そ2尺と少し、平均的な厚みをした刀身は、浅めの反り
小板目の肌に、厚い地沸が層をなし、直刃の刃紋は明るく湾れ乱れ
深めの匂口は、くっきりと其の紋を明かりに照らし出す
美濃型、葵木瓜の鉄鍔は、金蓮花図の装飾としてだけでなく、鍛え上げられた鍛鋼
握柄には鮫革の地と白の摘巻。太めの握りで、指から抜け辛く収まり易かろうか
黒漆に塗られた鉄鞘は、穏やかな照り出しが施され、鞘裏に蓮葉図の小柄が添えられる
握り込めば、指へと艶やかに吸い付く質感すら与えるだろうか
――総じて、其れは刀で在る。 見よう見まねの刀もどきでは無い
刀の製法を忠実に再現し、其処に自らの技法を無理無く混ぜ込んだ
渾身の、一振り ――見る者が見れば、そう、理解出来るであろうか。)
「―――――……習作として、武器を鍛つ事は今でも在ってな。
刀って物の本質を、俺なりに追求した挙句の渾身作が其れだ。
……だが、何も考えずに打ったせいか、気難しい事この上ない刀に為っちまった。」
(――誰かのためにではなく、ただ、己が感じる儘に、赴く儘に鍛ったモノ
依頼されたものであれば、其の者の癖や鍛え方、戦いの型や素質を鑑みて
武具を、依頼者に寄せていくのだが。 ――このひと振りに、其れは無い。
誰かの為では無いが故に、誰に靡くとも知れぬ刃を
そこいらの、凡百の冒険者達に渡す事は出来ず
かと言って、壁の花として飾り付ける為にだけ、眠らせて置く事は不本意
――結果。 あるいは、目の前の、この怪力令嬢であるならば
唯一、"認めさせる"事が適うやも知れぬと、当てにしたのだ。)
「……以前に御前さんに鍛った刀は、云わば忠犬みたいな物だ。
けど、こいつは違う。 相応の技量が必要だ、下手すりゃじゃじゃ馬だよ。」
(――だが、其れでも。 もし、女が其処に、興味を持つのなら。
携えてはみないか、と。 ――そう、提案するのだ)。
■メイラ・ダンタリオ >
脱げた先で眼を惹いたのは柄頭。
そして鍔だ。
「あら、雅な鍔ですわね。
本当に渾身といった雰囲気ですわ。」
イーヴィアは実戦的な物を取り入れるせいか、紋様といったものよりも厚みや形状を意識する。
派手や華美といった造形美よりも、実用性を求める機能美。
其処に普段目が往く反面、鎧の細やかな部位は竜を彷彿とさせるものが隠れていたりする。
鍔は蓮の花が細かく描かれ、差し込まれている小刀は蓮の葉か。
刀身だけではなく鍔と鞘 柄にまで意識を全て注いだのだとわかる。
おまけに柄頭は、と眺め。
「四凶ですわね。
―――確か檮杌」
四聖とは真逆の四凶
その一つを務める随一の戦闘狂。
荒野を荒らしまわりながら高貴な血の果てというそれは、メイラのよう。
眼で 貴方、本当にわたくしを意識しませんでしたの? と語る。
無知で阿呆な考えなしの反面流罪となった場所でその禍々しさから他の悪しき相手にすら
退ける力を持たせるそれは、二代饕徹の在り方と似通った。
あれも全てを貪るだけでありながら、最後には魔ですら貪る様を何度もメイラに見せている。
どちらも役割を果たしているのだから矛盾めいた代物である。
「刀として渾身に打ったせいで、刀が相手を選ぶようになったと?」
気難しいじゃじゃ馬だと述べるそれ。
饕徹とは真逆らしい。 あれは全てを斬る勢いにあるせいで持ち主すら巻き込み兼ねない。
だからどちらの意味でも妖刀として振る舞えている。
鞘は、黒い照り出しになっていて午後の明かりを反射している。
「柄まで上級階級ですわね。
貴方の所に行く機会が増えますわよ。」
白い柄。
それは実戦的には使えるものの、汚れやすくなるせいか頻繁に取り換えることになる。
故に裕福な家でしか扱えない糸の色だ。
白い糸柄を用いる者は、本当に達者な者か手入れが頻繁でも困らない者だけ。
張り切り過ぎて、行く先が本当にメイラ向けである。
「…、…。」
鞘まで脱ぎ終わり、箱の中に納めると、抜いた先。
反射して刀身の光がメイラの貌に斜線を引いた。
瞬きせず、刀身を見ると刀身は浅めに仕上がり、握りが太めなのはその握力を充分に伝える為か。
「饕徹は自分勝手だったけれど、この子は何もしないといった感じですわ。
なんというか―――やることは全てやってあるから、自分で結果を出せというか。」
そっぽ向かれているという雰囲気。
異様な雰囲気はない直刃の刃文。
造りはいい 魂も入っている。
しかしただ黙って見下ろしているだけなのだ。
刀身を持ち上げて眺めているメイラと目が合っているのに何も言ってくれないみたい。
無口で頑固で、職人気質というか
やれるもんならやってみろというか。
「来なさいな。」
イーヴィアと、互いにもう一杯ずつ注いで杯を開けると、舌を濡らしてから別の場。
この場の一角にある丸太を一つ置き、更にその上に一つ建てた。
「饕徹の斬れ味は異常ですわ。
受け止めたいだけも斬れてしまう辺り素人好きともいえる。」
腰に二刀 大刀二つを差し込んでメイラは二代饕徹を抜く。
そして、片手で持ち上げるとこともなげに袈裟に ブンッ と振った。
それだけで、丸太の上に無造作に置かれた丸太を節目に逆らい、斬り落とすにまで至る。
転がるそれを後目に、納刀する際、つまらなさげにヂンッと納まる音。
武器が優秀過ぎることは良くないという物の、その見境無しな所を好んでいるせいか、メイラはなにも顔に浮かべない。
「この子の場合だと。」
同じように無造作に振った。
すると、丸太は叩きつけられるまま転がり、当然のように落ちてしまう。
「ふん。」
刀に対し、剣豪や達人というわけでもないメイラでありながら、上等だと言うように
再度片手にままでも、今度は“真面目に振った”。
「―――シッ。」
斬り落とされた丸田。
車線を描いて楕円の角を造り、転がっている。
「確かに厄介者ですわね。
鈍ら扱いされてもおかしくありませんわよ。」
そう言って、再度丸太を数本立て直し、両手で握り直して袈裟や唐竹を試す。
両手で握り、上段からの斬りつけは全て切断に至っているものの、変なことをしたらすぐにへそを曲げそうだ。
「場が場なら、巡って巡って気に入った持ち主の所に行くのでしょうね。」
無銘の鍛冶師の業物が、所者に安く売り渡したら後に、質に流され
それが目利きの眼に留まり高値がついたり、良き使い手に巡り合った話を思い出す。
「お高く留まりやがって、上等ですわ。
わたくしの腰に縋らせてみせますわ。」
ッ、と風切り音すらない、空を切った一振りの後
鞘に納めたそれは チィィ―――ンッと満足気に音を伸ばして収まっている。
「―――それで?
このお高く留まった刀の銘は?」
メイラは、その柄頭 檮杌 の造形を撫でながら猪牙をなぞる。
振り返りながらに収まる灰色毛と白毛の二本の柄は、互いに並ぶとメイラの腰にしっくり収まっていて
その赤毛の逞しい丈夫は、その腰に二刀収まったメイラの全身像を瞳に収めた。
■イーヴィア > 「……影響が無かったとは言わんさ、何せ前の作は御前さんが携えてるからな。」
(だが、其れはあくまでデザインの部分にだけだ
饕餮の飾りがあつらえられたのも、決して初めから目の前の女に献上する目的ではない
――すべて、結果的にそうなった、と言うのは本当の事だ
西洋剣は、装飾過多であると、儀礼剣となる風土がある
だが、刀の場合は、元より其の美術的価値と、実用性とが共存をする物
他の作が手を抜いて居た訳では無い、ただ、刀と言う物の本質を追い求めた際
其処にもまた、手を入れるのが本来、当然なのであろうと言う結論が在った
結局、力とは使い道次第だ。 本来其処に善も悪もありはしない
ならば、善悪では測れぬ目の前の女が、其れを携えた時如何なるか
純粋な、力と言う物が形を成した時、如何なるかを
鍛冶屋としては、見て見たくなるのは当然の帰結だろう。)
「……鍛った俺様が言うのも何だが、な。
間違い無く、俺様渾身の作だってぇのによ。
俺が振るうと、仕方ねぇなって感じでしか応えてくれねぇのさ。」
(――まるで、鍛ち手で在るからこそ、親であるからこそ
少しばかり甘くしてくれているような感覚、と言うべきだろうか
理解者では在れど、己に出来たのは其れを生み出す所まで
真に使いこなせる者は、少なくとも己では無いのだ
――振るわれた刃が、丸太に刃すら通さなかった一度目
ただ、闇雲に振るうだけでは、決して応えてはくれぬ其の刃が
二度目の一閃にて漸く、一度目が嘘の様に、鋭く丸太を両断するなら
――嗚呼、理解するのだ。 其れでもまだ、先が在る、と。)
「……御前さんの腕が。 業が積み上がれば其の分、其れも応えてくれるだろうさ。
達人ってだけなら他にも居るだろう。 放って置けば、そう言う使い手を好みそうだ、が。
……其れじゃあ、何時になるやら、だろ?」
(幾ら己と言えど。 死んだ後では、其の光景は愉しめまい
故に託すのだ。 初めから十全で無くとも、予感させる其の先を。
下手をすれば、饕餮よりも余程、感情の見え易い刀で在ろう
だが、女がその刀を、如何やら預かると言う心算らしいなら
――口端を吊り上げ、僅かに顔を擡げて見せ。)
「埿中真改 ―――其れが、この刀の銘だ。」
(泥中に咲く花の如く。 何物にも染まらぬ、唯一の。
蓮華座に佇む其の貴人は、ただ、使い手たる女を静かに見定める
――金はとらぬ。 己は、唯其れを見届ける事が出来ただけで、十分だ
暫しの間、酒精が尽きるまでの間は、静かに刀について
教えるべきことを、告げるべきことを言葉とし
そして、其れを残して、いつしか去って行くのだ
まるで、鍛冶屋の本懐を果たしたと、満足げな背中で――)。
ご案内:「王都富裕地区 とある貴族邸宅」からメイラ・ダンタリオさんが去りました。
ご案内:「王都富裕地区 とある貴族邸宅」からイーヴィアさんが去りました。