2023/12/02 のログ
ご案内:「南方の島」にジギィさんが現れました。
ご案内:「南方の島」に影時さんが現れました。
■ジギィ > 依頼は所謂好事家のものだった。
『虹色に輝く青い美しい鳥の羽が欲しい』
依頼書には羽自体の詳細が事細かに記載されていたが、如何せん何処の、何の鳥かという情報は全くなし。
正に雲を掴むような話で報酬も上の下くらい。他のギルドで他の依頼書に埋もれていたのを掘り起こしたのと、たまたまその羽に心当たりがあったのと
最後は南方への憧れしかなかったかもしれない。物好きそうな知り合いを(まだ見ぬ南国のイメージを盛りに盛って)誘って、王都からは遙か南にある島に、旅人の姿が二人ある。
大小の島が連なった地域はそれぞれの島にそれぞれの生態があった。
緑滴る森とマングローブで作られたものあり
まるで遮るもののない平坦な草原と、疎らなヤシの木だけがあるものあり
そして、聳える火山と疎らな草木で作られたものもあり
ひとつひとつ、干潮時に現れる砂浜を辿って、或いは誰かが誂えた桟橋を辿って、または急ごしらえの丸木舟をつくって
漸くたどり着いた、目的の島、の一つ手前。
「やーんもー、絶景過ぎない?」
岩の目立つ草木が疎らな島の、山に連なる丘に立ったエルフが黄色い声を上げる。
相変わらずの長袖長ズボンのブーツ姿だが、流石に腕まくりはしているし額に汗も光る。気候はこの地域にしては低いほうなのだろう。それでも王都での初夏に近い気温で、背負ったリュックの背中は実は汗びっしょりだ。
このエルフにとって大小様々な島が連なるような地形も初めてだったが、草木が疎らな場所もあまり馴染みが無い。
そして何よりも馴染みが無いのが
島々を取り巻く青い海と珊瑚礁と、白い砂浜。
道中で通り過ぎたマングローブの森も、時間が許すなら1月は滞在したいところだった。
「ねーカゲトキさん
ちょっと海辺寄って行かない?目的の島はもう隣だしさー、汗もちょっと掻いたしさー」
エルフは連れを振り返って言うと、早速海辺へ向かって下り始める。
貧弱ながらも緑の下栄えで覆われた地面は柔らかく、歩くには少々不安定だったがエルフはもう慣れたようで
編み込んで背中に垂らした紅茶色のくせ毛を揺らしながら、リュックを背負ったまま器用に滑るように降りていく。
砂浜から丘の上まで遮るものが無く渡って来る潮風は、穏やかな波音も一緒につれて来る。青い空も白い陽光も、王都とひと繋ぎの世界とは思えない光景だ。
魔法で同じ光景を再現した施設があるとか聞いたことはあるが、少なくともエルフは訪れたことが無いらしい。
大いにはしゃぐ様子は止めても聞かない、というより『一応聞いたけど止めはしない』という風だ。
視線を移せば藪の間を駆ける鳥の姿があって、エルフと競争をしている様に見えなくもなかった。
丘から見下ろす海は青く澄んで、珊瑚礁がくろく海中の中の森の様に広がっているのが遠目でも解る。
更に近寄れば、南国特有の色とりどりの魚も確認できそうだ。
■影時 > ――その依頼自体は特に珍しい、というほとではないだろう。
特定の何やらが欲しい、入用であるという蒐集依頼とは錬金術師や薬師から始まり、金持ちの好事家まで、依頼元の幅は広い。
依頼主も蒐集対象も含めてピンキリあるその手の仕事で、きっと多くが口を揃えて云うことが一つあるだろう。
蒐集対象は、しっかりと定義し、明確にしてもらいたいということ。
いざ死ぬような目に遭って漸く依頼通りの品を持ち帰ってきたと思えば、対象の品ではなかった悲劇はきっと数多い。
せめて今回はそんな面倒はないだろうか。避け得るだろうか。そんなことを思いながら、知り合いに誘われて向かった先とは。
「……暦は一応冬の筈、なンだがなぁ……」
王都からはるか南、南方の島。数々の島が連なり、まるで島ごとに独立した生態を抱えているとも地域の島の一つに、その姿はあった。
原住民とは明らかに見えない黒色基調の上下に、柿渋色の羽織を重ねた装束の男だ。
肌の色の濃さを除けば、原住民に僅かに似た顔立ちかもしれないが、立ち振る舞いの悉くが同行者も含め、この地の出ではないことは明瞭だ。
だが、似たような地域を旅し、通り過ぎた経験はあるのだろう。
気温が高く、湿度もある地となれば、身に着けた装いや武具類の取捨選択も慣れているというもの。
一先ず出番のない胴鎧と首に巻いた襟巻、そして刀を外し、腰裏の雑嚢ににゅるんと詰め込んでしまえば、それだけで身軽になれる。
丘の上を走り抜ける風が頬を撫でれば、それだけで身を軽くするよりもずっと涼しく思える中。
「眺めは確かに、良いなぁ……。
心得たが、あんまり急かしてくれンなよ。島は逃げねぇからな?」
同行者に応えつつ、肩上に掴まっている二匹の毛玉たちを見遣る。
茶黒の毛並みのシマリスとモモンガだ。冬毛のもこもこ振りに暑さが堪えないか心配だったが、一応は大丈夫そうでほっと息を吐く。
だが、毛布代わりとも云える襟巻がないせいか、掴まるところが少なそうなのがちょっと気にかかるらしい。
まずかったら鞄に隠れてとけ?と声をかけつつ、先ゆく姿に応えては少し遅れて丘を下り始めよう。
数日前の寒空の下とは違い、ここは生命に満ち溢れている。蔓草の繁茂が時折天然のトラップになるが、それを踏み越えて前へ。
こういう環境を再現する魔法の施設のいくつかは覚えがあっても、実際を知っていれば、駄目だ。物足りない。
一歩進めば風が。さらに進めば波の音が誘う。
青空は寒風の憂いもなく、陽光は暦も知らずに燦々と熱烈に恵みをもたらす。
そんな島々を囲う海もまた青く、透明度の高い海は余人の目を十二分に引き付けるだろう。それは男もまた、例外ではない。
■ジギィ > 「ひゃ―――っほ――――――っ」
エルフの声は間延びした様に辺りに響く。
侘しげな丘を下りきってしまえば、そこは一面白い砂浜だ。細かな砂はフカフカで、ブーツでのはじめの一歩が文字通り沈み込む。
おっとっと、とたたらを踏む足もまた砂に取られて、ぽんぽんと跳ねるのは踊るようにも見える。エルフは器用にその間にリュックを(投げ)降ろし、ブーツを脱いで、ウエストポーチも外し
それらを点々と砂浜の上に残しながら青い海へと駆けていく。
渡って来る潮風は、温度だけでなく香りも王都と違うものだと思う。
エルフは波打ち際まで来るとズボンのすそをまくり上げて、躊躇なく澄んだ波へ踏み込んだ。
少し深い所へ行くだけで、小さな小魚の影が足の合間を擦り抜けていく。
海の水自体はほんの少しだけ冷たく、火照った身体には丁度いい。
「ねーねーねーカゲトキさん、早くおいでよー
多分まるちゃんたちもちょっと一息付けるよ。冷たくて気持ちいいよー」
エルフは若草色の瞳を好奇心に光らせながら連れを振り返って、一つに編んだ紅茶色のくせ毛がぶんと宙に舞う勢いでまた海に向き直る。何となく、水平線に向かってただいまーとでも言うように万歳してしまうのは何故なのか。確実に森で生まれたエルフでも、海に連なる記憶が身体に刻まれているのかもしれない。
そのエルフが点々と残して行った荷物の一つ、ポーチがごそごそと動いて鶏の卵大のものがもぞもぞと出て来る。
陽光にきらきらと光を照り返すのは、宝石と鉱石でできたコガモだ。いつもすぐに卵に戻りたがるくせに、こちらも海に惹かれて出てきたのか。
よちよちと白い浜の上をエルフを追いかけるように波打ち際に行くのを、後から来る彼からは確認できるだろう。
そうして気付くだろう。
身体が鉱石で出来たこのイキモノが浮くはずもなく、海に入ったのなら、そのまま海底散歩に突入してしまうだろうことを。
更によくよく見たら解るだろう
何故か、海底散歩を予測した様にシュノーケリングの装備一式を纏っているのを。
海底散歩が実現してしまえば、海底の砂に或いは珊瑚の合間に、このイキモノを見つけ出すのは至難の業だ。
魚影を追いかけて、波と足の指の合間を抜ける砂の感触にはしゃぐエルフはまだ気づいていない。
―――――そのエルフが点々と残して行った荷物の傍に、ヒト型の砂が盛り上がっていることも。
陽光に白く輝く砂浜は起伏が掴みづらい。更には波打ち際には流れ着いた椰子の実やら紅い珊瑚の欠片やら螺鈿に輝く貝殻やら落ちたヤシの葉やら蟹やらが蠢いて、視線は自ずとそちらへと誘われるようになっている。
慌ててコガモを止めようとするものだあれば、盛大に踏んづけるか躓くことになるかもしれない。
だまし絵のような風景はいっそ、眺めるものに値するものだけれど――――果たして。
■影時 > 「一気に駆け抜けちまいやがって。まァ……分からンでも、ねぇなぁおい。さぁてお前ら、掴まってろよ」
丘を駆け下ってしまうエルフに、黒装束の男もまた続く。
身軽さの点と言えばこの男もまた、先ゆく姿に負けるものではない。肩上の二匹にそう呼びかければ、ぎゅっと。二匹が爪を立てる。
それを確かめればスピードを上げる。前傾姿勢で足だけを動かすような走法で走り抜け、砂浜の上でブレーキをかける。
細かな砂を蹴立て、両足の跡を轍よろしくつけて、ききぃと止まってゆく姿と荷物を捨て、ブーツを脱ぎ捨てて走る姿と。
二者それぞれ違う姿が、この砂浜に生じる。見やる海辺の景色を男はどこか、懐かしげな眼差しを向け遣って。
「そうしてェとこだが、ちょっと待ってろ。
潮が満ちたら沈みそうなトコに荷物やら放り出すと、あとが大変面倒なんだぞ……、と、ン? なんだ、ぴー助。そのナリはよう」
前に似たような風景見たよなぁ、と。かつての旅の経路を思い返すのもつかの間。
波打ち際のエルフというキャッチコピーがそのまんまで似合いそうな、そんな連れの言葉に返す。
長居はしないかもしれないが、一応荷物は纏めておくに越したことは無い。ブーツもまた然り。
腰に手を当て、全くと息を吐き、点々と残された荷物たちを拾いに歩きだせば、何やら動くものが一つ。出てきたのだ。
砂地の中からではない。ぽいとされたポーチの中から、よちよちと出てくるのは宝石と鉱石から生まれたちっちゃなコガモだ。
注意を引くのは、何やら潜水するぞ!と云わんばかりの装備一式も纏っているという有様である。
(石から生まれたならそりゃ沈むよなだからそういうカッコだろうがいやいやちょっと待て何処で覚えた?)
……という一瞬当惑した男の思考を読んだのかどうか、もそもそと肩上に掴まっていた二匹の毛玉が下りてゆく。
海は泳げないけれども、波打ち際を歩く程度には海に慣れているらしい二匹が、コガモの方に走り寄ってゆく様を見て。
「――ぬおっ!?」
と。つい、視線を外していたのか悪かったのかどうか。
リュックサックを拾い、近場のヤシの木の下にでも置こうと思ったところに砂を踏み締める靴先に引っかかるものがある。
砂浜は色々なものが隠れている。流木に珊瑚の欠片。虹色を湛えた貝殻に小さな生き物やら何やら。
陽光の照り返しと相俟って、幻惑しそうな風景の中に思わぬものが隠れ、埋もれているらしい。
片手にリュックを持って、少し重心が偏っていた処に爪先が引っかかれば、さしもの男も大きく姿勢を崩しかける。
咄嗟に腕を打ち振って踏鞴を踏み、踏み止まれば足元に何かあることを察し、怪訝に眉を歪める。――何だこれは、と。
■ジギィ > 「あっはっはっはっは んわーくすぐったい!
ちょっとちょっとカゲトキさん、爪先をつついて来る魚が居るよー ひゃー黄色いのに大きいのと小さいのが居る!親子かなあー」
エルフと違ってスマートに砂浜に降り立った彼を差し置いて、バシャバシャ波を跳ね上げながら珊瑚の森へ近寄っていたらしいエルフがまたはしゃいだ声をあげる。一人でも十分楽しいが、楽しさを分け合える相手が居ればなお楽しい。
それを彼に分けようとエルフが振り返って―――その瞳が点になる。それは彼に寄り添っていた冬毛の毛玉たちがコガモに走り寄らんと彼の肩から滑り降りて行った時だったか。
いつのねぼすけの、あのこが じぶんからポシェットから這い出すなんて!
…ン?何か恰好変じゃない?
わーっていうか、あのこ海入っちゃダメじゃん!砂に潜っちゃうじゃん!
はしゃいだ気持ちに火照っていた頬からすうーと温度が抜けていくような感覚。
バシャバシャ波を跳ね上げながらエルフも潜水準備万端なコガモの方へと移動を開始する。慣れない裸足に砂を踏む感触と波にちょっとてこずりながら。
だもので、彼が何か声を上げた瞬間は漸く水際に足を降ろした所だった。
エルフが怪訝な顔で彼のほうを見遣ると、彼自身も怪訝な顔で足元を見つめている。
陽光降り注ぐ景色の中、白い砂浜に埋もれた異変を見付けるのは大変難しい。なので、彼が躓きかけたそれがもぞもぞと動き出すと、まるで白い砂から黒い影がにじみ出てきたように見えたかもしれない。
『……う ぅ、 あぁ』
上体を起こした影は、どうやらヒトらしかった。
両腕を上げて伸びをする様はまるで寝起きのそれと一緒。
エルフよりも黒に近い肌色に、真っ黒でカールしている髪は砂に塗れて尚艶々と光を放って、ぱちぱち瞬く瞳は深緑色。
今やはっきりと白い砂浜から身を起こしたその姿は、どうやら華奢な身体の13,4再の少年の様だった。
少年は寝起きの瞳でぐるりを見渡して、ごく近くの彼に気付くとそちらを見上げる。
陽光が眩しいのだろう、一度目を細めて、それから何故かにっこりと彼に微笑みかけた。
彼が宗教美術を観た事があるなら、『天使像』を連想したかもしれない。
更によくよく見ると、少年は背中に何かを背負っているようだったが、さておきその天使像な美少年は彼に向って口を開く。
『やあ… お告げ通りですね。
こんにちは旅の方。お急ぎですか?お茶を飲みませんか?』
身体はあちこち砂まみれ。だけれど少年の肌は妙に艶めかしい。
『……それとも、ボクにしますか?』
ぽっ
黒い肌でも解る擬音付きで、少年が両手を自分の頬に当てる。いやんやん、と身体をねじる姿は『はずかしいけどまんざらでもない』を完璧に体現した仕草だ。
彼の眼の前、その少年の向こうに
連れのエルフが素足で砂浜を踏みしめて立っている。両腕にはコガモと、相変わらずの冬毛で文字通りの毛玉と化してしまいそうな二匹。
その若草色の瞳が語るところは…
『―――――ナルホド、そう言う趣味だったのね…』
■影時 > 「ははは、こういう海は初めてか。初めてっぽいな、お前さん。
潜ってみるだけでも結構、退屈しねェと思うぞ? 俺が見慣れてンのは青い魚だが、ここらのは不思議と色とりどりなんだよなぁ」
濡れるのはどうも職業柄、色々と悩む。
手甲や魔法でがちがちに保護された鞄等は良いが、身のそこかしこに忍ばせた鉄具の類は塩水を浴びると錆びる。
錆びたものはコガモのごはんにしても良いのかもしれないが、泳ぐなら諸々と身支度を整えたい。
その分、この海を泳いで得られる感動は実に格別だろう。
この時期、故郷では寒々しい海とこの南の島の海が繋がっていると誰が思うだろう。この己ですら思わなかった。
食べられるのかどうか。否、食べるには惜しさすら覚える極彩色の魚が棲む珊瑚礁は、そこすらもまた、彩りがある。
ここが楽園か、と思うものもきっといる。否、此処には此処なりの苦楽があるのだろうが、それでも。
さて、そんな楽園の海に入ってみたいと思ったのか。心躍ったのか。
よちよち歩きのコガモがキメッキメの装備で海に進む様に、先輩分の毛玉たちが羽織をはためかせて走り寄る。
“ここから先はあぶねえでやんすよー”とか、“あっしらと遊ぼうぜー”とか言うのか。
前足を出してコガモを制止したり、ぐるぐると走り回って誘ったりと注意を引くのに忙しい。
親分の仕事についてきて、水遊びの経験を得ても海は危ない、泳げないと体験したからこそ、なのだろう。
しかし、そんなちっちゃな和む風景とは別に問題なのが――
「あー……――ドコノドチラサマデ?」
何故こんなトコに居るのか?そもそも、どこのどちらさまであろうか?
つい、一歩。後ずさりしつつ、身を横たえていた砂浜から身を起こす姿を見遣る。思いっきり怪訝な顔で見つめる。
身の色は声をかける男のそれに色合いは似る。否、それは服ではない。肌の色である。
この辺りに住まう原住民のそれ通りで良いのかどうか、マグメールからの船便の船着き場の情景を思い返しつつ、見上げる眼差しを見据える。
背に何かあるような様が気にかかるが、容姿自体は整っている。
長居は出来なかったが、宗教画やらステンドグラスなどの題材にされている何かにも、似ていないだろうか。
それ程の容姿が放つ眼差しと笑みだけで、きっと稼げそうとも思いつつ聞こえる言葉に思わず。
「――するかァ!?
それと、お前らそーゆー眼で見ンな! そう思ってンのか!!?」
そう、思わず。間髪入れずに背筋を震わせつつ叫び返さずにはいられない。
ツッ込む前に非常に気になる言葉も聞こえたはずなのだが、何故そうなるのか。天然ボケなのかいやいやはたまた。
叫びつつ、感じる視線に顔を起こせば、連れのエルフと抱えられたコガモと毛玉コンビたちが放つ目が見える。
顔を押さえつつ、くらりと。その場にしゃがみ込まずにはいられない。