2024/11/05 のログ
■モルガナ > その一瞬に眉をひそめて、肩を竦める仕草をして返す。
侮蔑を向けられたとしてそれが相手の感情の全てと思うほど浅慮でもなく。
「知らずに知るを伝えるのは知識欲の果てにあるものではありませんのね?
ナルラート王の? この国の礎を作ったお方じゃありませんの。
邪教を駆逐し、実力ある者を本来よく取り立てておられた方。
むしろあの時代より今が腐敗している、という認識はありましてよ?」
認識の違いは理解している。だがその娘から、己を叱咤するほどの娘から、
時代の流れが、停滞した貴方と違い着実に積み重ねてきた悪意、策謀、宿業が形としてそこにあって。
悪徳が支配している国と分からず、腐敗を蹴り落として不動に位置する者。
……ただし、それは上辺だけのこと。
知識だけでは届かない隠された慟哭。
娘の出自。
……全部知っている。ナルラート王の思想も、その業も。
その王から連なる悪行。それによって生み出されて、道具となるしか出来なかった令嬢が、
不死者の見通す光景を、選んだうえで立ち止まった者さえ羨ましく思い。
冷たく石ころのように視線を一瞬送られた娘。
だがこの国は、不死者が思うほどに腐敗に満ち、業に満ちているが故に、
目の前の”石ころ”のような人の道から外れた扱いの果ての産物が数多く既に広がっていることに気づくだろうか。
もはや善良さえ、この国は悪徳に蝕まれている。
無知なふりをして、己の出自を受け入れたつもりになって、故に抜けだせず、故に抗い、もがき、
だからこそ、抗うだけの力が、知恵が、憤りがあるというのに妻の愛を忘れかけていた者への憤りが沸いたことを。
「ならいいですわ。立ち止まってるの、それだけ諦めてるようなそぶりをしておいて人を見捨てられないお人よしにはらしくありませんもの。」
だからこそ、進んでいることを感じ取られれば、何故か自分のことのように嬉しくもなる。
それがある種の呪いとも思わずに。
「あら? ミナスジェイラスの長女は代々人を見る目はありましてよ?
代々違わず長女が領主に、次女が剣を、三女が書を取るが習わしですもの」
長い時代、違わずに”都合よく三姉妹が生まれ、都合よく席に収まり、都合よく功績を成している”
そんな家の長女なのだと笑って見せる。
「だからちゃぁんと……私は”好ましい男性”を見ているつもりですわ」
貴方が席に着けば、己も席に着いて茶会にあやかり、あ、持ち合わせですけれど、と
味も両立した貴族御用達の焼き菓子の保存食を出して不死者に勧めながら
「……私は、私が選べる範囲で、出来る範囲で常に毎日選択してるだけですわ。
しない言い訳を探すより、抱いた行う理由に従う。それが人というものですもの」
……ともすれば、貴方は見ないふりをしているだけなのだろうか。
見つめていれば、気づくだろうか。
娘が人の心を殊更に掲げようとすることを。人として在ることを求めていることを。
放っておけば、これはいずれ誰かの餌食となって食い散らかされるだけだと。
■”徒花”ジョー >
不死者の瞳は、人より良くモノを見る。
この国には確かにまだ善良な者々が残っている。
だがそれは、所詮何時か食いつぶされていくものだ。
不死者は、この国に未来があるなどと、微塵も思っていない。
翠の双眸を静かに閉じ、錆びついた記憶を呼び起こす──────……。
「……お前は、俺が超越者がどうか問うたな?
そうだな。何も感じさせずにお前達を無かったことにも出来るだろう。
お前達を魂だけの存在に変えることも……黄泉返りも、時を遡る事も……」
「その気になれば、たかが国一つ滅ぼす事も出来るかもしれない」
全知全能と宣うつもりは毛頭ない。
知識も未だこの世界に散見し、総てを能を覚えたつもりはない。
可能かどうかはさておき、ジョーは決して嘘など吐かない。
口に出してしまえば脅し文句としてもチンケな事だ。
だが、その程度の力は持っている。しない理由は、単純明快。
「だが、意味のないことはしない。
お前らを消す事に意味も意義も感じない。
仮に王都を、大陸一つを綺麗さっぱりさせたとして、
それは再開でも初めからにはならない。
"国"は、"人"があってこそ成り立つのだ。お前に説く事ではないかもしれないが、
それほどまでに腐敗が進んだ以上、それはただ、滅ぼすだけだ。……この廃村事な」
血の一人も残さず殺す。
では、その後はどうする。新たな血液を何処で出す?
作ることは可能だ。だが、ジョーは人の上に立つことも、
国を統治することも決してしない。人並みにいる、世捨て人。
人である以上、それ以上の事などするはずもない。
そんな不条理な事が許されるのは、正しく神の所業。
人は、神にだと成れやしない。成ってはいけない。
少なくともジョーはそう考える。
「……そうだ。それほどの力程度持っている。
そんな俺だって、妻を蘇らせようとした。だが、しなかった。
彼女がそれを望まなかった。……死者との対話で、確かにそう望んだ」
「生者と死者は、本来交わるべきではない。
摂理を曲げようとすることを良しとしない。
……彼女がそう言ったから、それに従ったまで」
自らの道理も、何もかをも捨ててまで歩もうとしたが、
幸は不幸か、ジョーの妻はそれを望まぬほど善良であった。
そう、その善良さが在ったからこそ、こうして世捨て人と成り果てた。
……そんな善良な妻が許しているにも関わらず、彼女の前に、
叱咤した通りの事を直接言われたにも関わらず、未だ自罰を止める事もなかった。
その善良さに触れたがゆえに、腐った土地に残っている。
それと同時に、同じことを言った彼女の善良さを、気にかけていた。
「──────…そう思いたいなら、それでいい。人には選択の自由がある。
誰もが同じだ。手の届く範囲で、選べる選択をする。生きるというのは、そういう事だ」
「……うんざりする程にな」
善良の道を歩むことも、悪道に染まることも、留まることも、逃げることも自由。
だから彼女の選択を否定しない。そういうものだと知っているから。
ゆるりと目を開けば、僅かに口元に笑みを浮かべた。
その笑みは、一種の諦めに近しいものでもあった。
灰色の記憶とは別の、色鮮やかな現在。
もう、潮時なのかもしれない──────……。
「俺は、お前よりも広い範囲に手が届く。
さて、"好ましい男性"、か……お前が俺の何に、
そこまでの事を見出したかは知らんが……お前の善良さが、
このまま何者かの食い物になるのは、好ましいとは思わない」
勧められた焼き菓子を摘めば、パキリ、と独りでに砕けていく。
「……いっそ、全てを連れ去ってしまおうか、と言ったらどうする?」
■モルガナ > 「それでも、その力を奮うか、は別でしょう?
多分出来ますわ貴方は。けれどしない。だって、」
長閑な風景を見る。多分、はたしていれば人は逃げ延びてここまで来ている筈だ。
今日探索した遺跡だって誰かの住処になっているはずだ。
それを一度でも行使した爪痕が存在しない。
だからこの国は昨日までと変わらない。
だから彼は時を遡ることも、黄泉返りも、国討ちもしていない。
やれるなら、ここに妻がいるはずだから。
何でもできる全能は、何も成し得ないときほど、その力が代償を求めるように重くのしかかってくる。
それを目の前の令嬢は知っていた。
誰よりもそう言う力を欲して逃げ出したいのだから。
「では聞きますけど……、この村を葬ってまで、引導を渡すだけの価値がこの国にありまして?」
超越”者”であろうとも何”者”に過ぎない。
権能然とした力を持ったから心まで、知識まで、魂まで昇華されるわけではない。
なら、人が、長い年月を積み重ねて守り続けたものを捨てるだけの価値が、この国にまだあるのかと。
貴方ほどのお人よしが手を血に染めるだけの価値がこの国にあるのかと。
「多分ジョーは知識欲はありますけれど、一つ所を見つめすぎると視野狭窄になるきらいがありましてよ?
……確かにこの村はもう人がいなくて、奥様もおられないけれど、
貴方がずっと残し続けたものが、遺し続けた意味が、時間が、どれほど美しくて貴いか、
ちゃんと見る必要もあると思いますわ。
貴方が不死者で、知識を蓄えて、長い間歩み続けて、
それは貴方にとって残酷なことなのかもしれないけど、今を生きてる者が、
ここに至って目を奪われるものを、貴方は遺しているのですから」
そんなに腐ってるなら、わざわざ潰す価値はあるのかと思う。
他にも国があるのだから、人の流れが正しく巡る別の土地に移ればいいと。
ナルラート王が後世の王に遺した負の資金源はそう呟いて。
「ええ。私は今日も明日も、ちゃんと選んでちゃんと行動しますわ。
けれど、ええ、そうですわね……。」
自分は貴族だ。それで女騎士。そう選んだ。領主をもっと相応しい”妹”に譲って騎士になる選択もした。
だから救われてはいけない、守られてはいけない、自分が誰よりも先頭に立たなければならない。
「連れ去ってもらえるなら、もしかしたら、そのほうが二人とも幸せになれるのかもしれませんわねぇ」
そう言って微笑むのは、対して自嘲。
逃げられないのだと。妹は血もつがなっていないが同じ境遇の元にある残された人質もいる。
どこまでも、黒王の負の遺産は代々、鉱山となる娘達を絡め取り、搾取し、餌食にしてきたことが
調べれば不死者であれば突き止められるだろう。
かの時代より今に至るまで、代々三人の娘を餌食とし、その餌食を紡ぎ出す為に
代々何十人もの娘を餌食にしてきたことを。
だから、心が呪われているのだ。
だから、連れ去るには、呪縛を砕かなければならない。
この国の腐敗の深さが、己の思う以上に唾棄すべきものだと、貴方は新たな”知識”を得ることになるだろうか。
■”徒花”ジョー >
「……そういうお前は人の話を聞かないな。
まぁいい。いや、わかっていたと言うべきか……。
"きかん坊"で頭でっかちなご令嬢……妻とは大違いだ」
言われずとも理解している事だ。
そういう話をしたばかりだと言うのに、全く。
なんだか話していて妙におかしく感じてきた。
酷く滑稽な気もしてきて、同時に愛玩具のような愛着も沸いてきた。
気持ちは理解する。好きになるほど、そのものを自分好みにしたくなる。
意識か無意識、そう口を挟みたくのも理解出来る。
「残念だが、お前が思うよりも広い視野も持っている。
足元もお前よりは余程見えている。……囀りだけなら、可愛いものだ」
だが大笑いするほどの悪趣味でもない。
傍観者を罪だと思うことは微塵もないが、成る程。
あの悪王の残した負の遺産。
自分も囚われているのだ。何かに囚われてるのはおかしくはない。
人間という生物、心があるからこそそうなる。
それは時に呪いというらしい。どうやら、
互いに呪われていると考えれば何ともおかしい話だ。
口元が笑みを浮かべ、肩を竦める。
「……さて、そうか。……なるほどな。
だが俺は、"届く範囲"には手を伸ばしてしまうらしい。
何処の誰に影響されたかは知らんが……少しは考えておくか」
「今時、家の一つや二つ消える事など、この国では不思議ではない」
ただ振る舞うだけなら愚者の行いだ。
ただ、旅立ちを決めたのであれば意味もある。
形は違えど、余程目の前の負の遺産に気をかけてしまったようだ。
……誰かに救われたものは、誰かを救いたくなる。
「(妻は……これも見越していたのか……?)」
因果な話だ。
茶菓子を軽く齧れば、溜息。
残した味覚も、未だ人に固執している証でもある。
「……休憩が終われば少しはお前も身の振り方を考えておけ。
俺も少しばかり、"準備"をしなければいけないからな……」
一つ、久しぶりに"大仕事"に取り掛かろう。
悠久の地よりて、本来変わりようのない歴史が動こうとしていた。
超越者が浮かべる笑みは楽しげだ。人の刻む歴史の一つ。
此れはきっと歴史の本筋では起こり得ない出来事だ。
それが至る日が何時かはわからない。
今はただ、この止まった世界の中、静かな時を過ごすのみであった。
■モルガナ > 「あら、粛々と後ろをついて歩く貞操な方が好みでして?」
妻を追っているわけではない。そも、そう言う感情なのだろうかと思いもする。
だからこそ、せめて、ここでは自分らしくであろうとする。
無垢であろうとする。
自分はそんな存在ではないのに。
「それはそうでしょう。囀って踊って見せるのが若さの特権ですもの。
無知を恥じ続けて何も学ばず、何も得ないのは知識欲の不死者様からしてどう思われまして?
貴族だからとて、泥をかぶるを悪いと思うわけではありませんのよ?」
……多分気づいているのだろう。お互いがお互いを見ている理由の根幹を。
人は誰しもそうなのかもしれない。それは人の域だけは越えられない超越者も同じなのだと思えば、
ようやく親近感を覚えもする。
そこで、憧憬を抱いていたのだと、自覚もする。
「……届く範囲に手を伸ばすのは”人”の特権ですわよ。
ただ……、あの家は”ナルラート王の時代からの財源”ですわよ。」
古来より宝には番人が存在する。それが分からない超越者ではないだろうとは思いながら
秘匿の一端を口にもする。
出来るのだろうかと思う。
アレはきっと人が生み出したものだ。けれど、人が届くものなのか。
アレは積み重なった負。
超越者はこれまで、彷徨い続けてこの村に縛られ続けていた。
その差がどうでるのか。
「……たまには、待つのもいいかもしれませんわね。
その時の支度だけは、想いを馳せる分には、悪くないかもしれません。」
朽ち果てた紙片として、時間の果てに消えていく結末。
そう言う選択をした。
相手は動き出した。自分の為に。
だから、自分も動こうと、頭を下げて、令嬢は日常に戻っていく。
ご案内:「喜びヶ原-Alter memory-」から”徒花”ジョーさんが去りました。
ご案内:「喜びヶ原-Alter memory-」からモルガナさんが去りました。
ご案内:「無名の迷宮」にヴァーゲストさんが現れました。
ご案内:「無名の迷宮」にドリィさんが現れました。
■ヴァーゲスト > 秘密なのか、秘密なのか、……さらりと答えて欲しかったのだが、秘密らしい。
不覚にもハートマークが浮かぶような物言いに、くっ、と何とも言えぬ表情になる。
(多少なら)何でも許してしまいそうになる男の性(さが)をぐっとこらえながら、
彼女が指先で指先で摘まみ上げている魔石へと隻眼の眼を移し、「アッ」と小さな声。
魔石には覚えがある、確かバカ高くて希少な魔石、欲しかったけどオークションで逃した奴。
「秘密じゃなくて、相棒って答えてほしかったなぁー……なんて………なぁ……。」
バカ正直に答えを求めたのだが、続いた言葉には希望を抱き、安堵を覚えかけたのだが、
『なるべく』と口にしたことが悪かったか、相棒の夕暮れ色の瞳に睨まれて、
艶めいた唇が尖ると、言葉を知り窄みにして……「次はキヲツケマス」と小さな声でポソり。
まあ、その怒ったような拗ねたような顔が笑みに戻ると、改めて安堵するのだが。
――…信じてはいたけど、信じてはいたけどな。
という事で交渉成立。
多少取り分が減ることが確定したが、とにかく良し。
相棒とパチンッと掌を合わせて、交渉成立に答えると一応『切り札』の準備をしながら、
蹲り早速解除をしてくれる相棒の様子に隻眼の視線を落とす。
足の裏と床の隙間。
石を差し入れられるタイミングをじっと見つめ、隙間に石を入れやすいように体重を移動し、
最後に石が入れ替わる瞬間を見届けてから、足の裏をゆっくりと床から剥がして……。
解除完了である。
少なくとも天井からパラパラと小石とか砂利が落ちてきて、天井がじわじわと降りて来ている、
その事実を抜きにすればである。
「……なんかよー……天井、下がってきてないか?」
二重の罠(トラップ)
解除した事がスイッチだったのか、それとも時間制限があったのか不明であるが、
踏んだトラップとは別に天井が壁を削りながら降りてきている。
幸いな事に下がる速度はじわじわと遅く、逃げるに十分な時間は取れる速度。
なのであわてず、まず蹲っている相棒に確認をとる、罠発動してないか?と。
■ドリィ > 「そこはぁー…困難を乗り越えるごとに、絆を深めていきましょ?」
秘密♡ ではあるけれども、こんな貴重な魔石を使ってあげちゃうのだから、
そこは大目に見て欲しいところだ。
慎重に魔石を設置し、指より 呪(スペル)を口中にて唱えては指を離す。
途端、置かれた小さな魔石が男一人の重量を帯び、床を押し沈ませることをする。
一度指から離れたそれは、もう女の力では持ちあがらぬだろう。
流石、効果は覿面。男が靴底を退かしたとて罠はそれ以上を発動させることはなく。
───…けれども。
ふと女が、その面を上向ける。聴覚が礫の剥落音を、捉えたから。
岩天井が微々たる擦過に天井を狭める気配はまるで、気のせいと断じてしまいそうな緩慢さ。
しかしながら─確かにじわじわと、ほんの僅かずつ降りてくる気配に、
男からの一言が向けられれば。女は、片眉を動かして、困ったように笑った。
「───…ンー… これはー…… 」
逃げましょ、と告げるが早いか、否。片足の踵を浮かせ、爪先に力を込めるがもっと早かった。
後ろ脚が、地面をバネ仕掛け宜敷く蹴伸ばす瞬発力にて── 脱兎。
大丈夫。相棒だって、もうボタンを踏んでる必要はないのだし。
とりま、一秒でも早く逃げるが勝ち、と。お先、とばかりに女は駆けた。
■ヴァーゲスト > ――脱兎、見事な脱兎。
困難を乗り越えて絆を深めるを詳しく聞くよりも早く、
スペルを魅力的な唇で紡ぐ姿を己の脳裏に刻むよりも早く、
下がり迫りつつある天井から文字通り跳ねるように離れた女の瞬発力には、
思わずと「ヒュー!」と口笛を吹く。
けども、慌てて意識を天井の罠へと戻すと気が付く、
今はそれどころでは状況であると。
女の瞬発力と後ろ姿に見惚れ続ける前に、小石と砂利をまき散らし、
今や砂埃を落としながら落下速度を速めていく罠に、
「っと、それどころじゃねぇな!!」
と一声吠えて文句をつけると、ググッと床を思いきり踏みしめ、女ほどではないがそれなりの速度で駆け出すと、
その瞬間に天井が物凄い速度で通路へと落ちる。
ズドンッッ!!
緩慢な落下から急な下降。
凄まじい轟音とともに落ちた天井は通路を塞ぐ。
――…まるでその罠は最初からそれが目的だったといわんばかりに。
「で、落ちてきた天井で退路を断たれたわけだが。
どうする兎さん?……も、何も道が塞がっちまって進むしかねぇんだがよ。」
砂煙が落ち着くタイミングで、先に脱兎が避難した相棒に声をかけながら、
隻眼の視線を背後にも向けずに視線を女に向けたまま、
利き手の親指でぐいぐいと天井…最早岩壁を指して、
おどけた様子で首をかしげて見せる。
相棒に聞くだけ聞いたが戻るのは難しく、退路を断たれた今進むしかない。
地図にあるかないかはわからないが別の出口を探すか、
最下層に地上までのポータルがあることを祈るばかり。
■ドリィ > 背後から暢気にして場違いな口笛をはたして女が聴いたかどうか、さて。
湿った床をブーツの先端の僅かな接点にて蹴り弾き、跳躍でも成す軽けさに女は先を駆けた。
男は──…まがりなりにも歴戦の賞金稼ぎ。まあ、大丈夫な筈。
案の定、背後より程なく追従する足音と───…ゴ、ゥゥン ッ。
重量感満載の落下音と閉塞の気配。立ちのぼる砂埃に、爪先は、た、とんッ。小さくステップを踏むかに歩を緩め。
振り返る。───駆け抜けた筈の路は、すっかりと天井にプレスされ、岩壁を築いていた。
場に蟠る黴臭い粉塵に、軽く柳眉を顰めてから。
「あらまぁ、通路がすっかりなくなっちゃって。
これじゃ、忘れものがあっても取りに戻れやしないわ。」
碧眼の男の言葉に、女が肩を竦めた。こういうとき、軽妙な男の口振りは好ましいもので。
手許の地図に、小さく墨鉛で×を印した。
「熱烈な歓迎も受けちゃったしぃー… これは御招待に甘えるしか?」
こんなにも返したくないなんて待遇されちゃ、進むしかないだろう。
地図に印された三叉路は程なくだ。その路の一つに昇降機らしいマーキングはあるが、
流石に怖じ気づいて買えるには尚早というもので。