2024/08/02 のログ
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
フィリ > 「正直その通りだと思われます―― 私達、皆。生まれてこの方、国や街に包まれて、誰かと共に在りまして――とても、とても。
過酷で孤独な自然の掟、等という物に。触れる機会も無ぃ、訳ですし…はぃ。
とはぃぇそれが悪ぃ事、では在り得ませんし。折角得たのなら良ぃ――のでは、なぃかと。それこそ楽しぃ事、美味しぃ物…他にも、色々。
積み重ねられてきた文化無くして。そして、誰かと共に在らずしては――きっと。味わぇなぃ代物、なのかと?」

嵐で流され無人島に漂着し、一からあれこれ作り上げてのサバイバル――物語としてはちょくちょく存在するが。
その辺から知識だけは得ていても、実践する事が出来るかどうかは。また別問題だ。
特に――どうしようもないのは、孤独、だと思う。技術でどうにか出来るのは自分自身の事だけ…独りである事を耐えられるとは思えない。
単独棲息が当然の野生動物と。社会性の群が必然と化した人間は。やはり全くの別物なのだろう。

…どっちもどっち。そんな言葉にも。ふと思い浮かべてしまうのだ。
同好の士やら何やら。同じくする者が居るからこそ、良い物をより良く感じられる。共有というのは大事な事だ。
勿論少女に酒の味は分からないのだが――これは。何にだって当て嵌まるのではなかろうか。

「――はぃ。独りでは自ずと。出来る事も、する事も…したぃ事すら限られてくると。思われ、ます。
ですので当面ぉ世話になりますが……笠木様一人で頑張らなければ、とはならなぃよぅに。それこそ足は引っ張らなぃ程度には。
…そぅ、考ぇてぉりますので。私自身の望みとしましても。

それも含めて、今は――  ん、ん  ――駆除、しなくては。ならなぃのです――ね」

知りたいなら。出来るようになりたいなら。何であれ――師が着いていてくれる今が好機。
最終的、と言われると。この先混血種の寿命がどれだけの長さなのかも分からないし、そも、成長速度も判例が無いのだが。
年月が掛かる事は必然として――寧ろ、どこら辺を目的、目標とするか。
流石に彼に追い付けと言われると。自分にとっては烏滸がましい、と首を振るだろうし。なら叔母のように…と言われても。違う意味で果てしない気がする。
一先ず。彼の言う通り、背中を預けて貰える位。それこそ少女を護る事まで含め、彼一人に背負わせてしまわずに済む位。
今の処は、それが目標で良いだろう。…勿論それだけでも。随分と高い目安ではあるのだが。

さて。だからこそ今この時も、生き延びなければならないのだ。
…切り替えるかのような。一呼吸、二呼吸、置いて。正面の存在を見つめ直し――言い直そう。
これは「駆除」なのだ。そうせねばならない存在なのだ、冒険者が出張りどうにかせねばならないような対象なのだ、と。
きちんと言葉に変え、自分自身に言い聞かせ。さもなければつい…仮初めでも血を同じくする者として。身体が勝手に力を抜いてしまいそうだから。

前を見据え。意識を集中。そうする事でどうにかこうにか――不可視の風も、漠然と把握出来るようになってくる。
彼が打ち払ってくれる為、少女の所まで飛んでくる事はないものの。お陰で視る――感じる、事に集中出来た。
思えば。より竜の血濃く、風に親しむ叔母は。常々こういう世界を捉えているのかもしれない。
例え出所や性質は別物でも。其処に竜の力と呼ぶべき何かが介在しているのなら……感じ取る事は出来るのだ、と。それは新たな見地だろうか。

フィリ > ――振り被る。轟々と荒ぶ風の余波に巻かれつつも。
嘗て、彼の者やこの地の竜が争った――それが神の使いであるというのなら。
この鎚は真逆。奇しくも神官だった者が繰るのと同じ、魔に由来する物である。
それを察してか、いや、単純に力の減衰を感じてか。眼前の忍へと集中されていた攻撃の意思が、此方へも枝分かれした。

自立したかの如くに力を振るう魔導書と、それによって肥大化していく死人の肉体。
何処まで人の身が竜のそれへと近付く事が出来るのか、限界を示し――或いは越えるかの如き勢いで。
骨と皮ばかりでありながら、その何れもが何処までも伸張し、拡張され、原型を失って…四つ足を。翼を尾を。顎を。形作っていく。
見上げる程の存在へと成り果てていく死者の威容を。だが少女は見ているのかいないのか。

「『………嗚呼。嗚呼、申し訳在りません。何度でも言葉にしますが――差し上げる事は、出来無ぃのです。

 これよりは。 …私が、貴方を、喰らいます』。」

今少女が視ているのは。嘗て神殿であった竜の巣その物へと、山から集う精気の流れ。
言うなれば局所的に構築された、竜脈、という代物と言っても良いだろう。
この一箇所へと山その物の力が集まってくる為、幾重もの魔術が行使され、そして死者は生き長らえ――姿形すら変えていく。
だからその流れが乱れてしまえば。全てに支障が起きて狂うのは、「目に見えていた」。

既に彼は構えている。備えられた屠竜の刃は、更に赤々と輝きを増し、唸りすら聞こえそうな程。
ならばもう後は。竜の骸、眠る其処に向かう力の流れへ、思い切り――魔鎚を振り下ろすだけだ。

瞬間。叩き付けられた地面は、自然の精気を大いに乱した。
高い所から低い所へと向かう如く、当然の形で存在していた流れが決潰し。別方向へ一気に流出してしまうのだ。
――魔を喰らう、鎚。どれだけ喰らえば限界なのか。また、限界まで啜ればどうなるか。少女にも誰にも分からないが――それでも。
山の力、そのなるたけを。一時的なりとも、死者の元には届けまい、と。

影時 > 「……そうなるよなァ。そうでなきゃ、書に親しむなんか其れ以前のコトになっちまう。
 あー、ごく一部の例外はひとまず置いておいて、だ。
 最初から諸々あってその恩恵に預かってる以上、その悉くを否定するのは馬鹿らしいし、粋じゃねぇ。
 であるなら、そうそう。時折弁えた振りをしながら、愉しんで嗜む位が丁度良い位だろうさ」
  
己を高めるために如何なる艱難辛苦を欲し挑む――という生き方を否定はしない。
とはいえ、最初から身の回りにあって無条件に甘受出来る諸々を否定するのは、どうだろうか。
正直、良い生き方であるとは思えない。身の回りの恵みによって、活かされ、育てられたのならば猶更に。
過酷にして残酷な自然の掟に染まれるごく一部の例は兎も角として、文明に染まっている以上、今ある悉くを愉しむに限る。
それが誰か共有できる家族、友人等の他者があれば、愉しみは喜びさえも伴うことだろう。
ただ、欲とは厄介で過剰になり過ぎると、竜でもその身を苛みかねない気がしてならない。

――ちょっとは手を止め、足を停め、振り返り見て、節度という二文字を思い出す。

それが出来るなら、そうそう過剰になり過ぎることもあるまい。多分、きっと。

「然り然り。――俺は多くになれるが独りだ。独りが基準になる以上、出来ることも為せることも我が身のみが基準になる。
 だが、フィリお嬢様。お前さんはそうじゃない。
 雇われ人にして師たる俺を使える。その建前がなくとも、俺はお前さんを好いてる者として、望む限り助けてるとも。

 さて、何にしてもまずはアレを。そう、あれをな。……排除する」

分身の術とは頭数を増せるのは間違いないが、此処の分身は独立していない。本体は一人であるというセオリーを脱しえない。
だが、弟子たちはどうだろうか。独りだろうか? 否。否である。独りではない。
家族があり。今ここに師たる己が居る。己が気紛れに引っ張ることもあるが、学びを得るに辺り如何様にできる権利を持つ。
雇われ人でなくとも、こうして見知り、情も交わしていれば余計に力を貸さない理由がない。
そうだそうだ、とばかりに襟巻の中に頭を突っ込んだ、二匹の毛玉たちが手の代わりに二本の尻尾を出して振ってみせる。
危ない時でなければ、飛び出してひっついたりしただろうが、何分ここは修羅場だ。親分の指示が絶対となる。
静かに言葉を紡ぎ、左手で取り出すものを胴鎧に貼り付ける。
ぺたん、と鎧に貼り付けるのは呪符だ。それは分身一体を生成するのに必要な氣量とほぼ同量を、鎧の材質から引き出して放出する。

……何の為に? 少女が振るう魔槌。それが引き起こす魔力収奪の権能から、自分の被害を抑えるためだ。
鞄の中に隠れていない二匹の小動物たちを守るためであり、続いて行う必殺の一撃のため、敵への目くらましでもある。
氣を吸い上げた鎧から引き出され、放出される氣は集束せず、さながらオーラの靄のように気配を隠す。槌が食らうものに直ぐに混じり、消えるものだが――。

NPC > 竜になりかわろうとする死者が、震える。戦慄く。
その震えは嚇怒とも憤怒とも、死して尚精魂を奮わすものであり、化身によるものである。
死霊魔法(ネクロマンシー)の奥義のひとつとして、巨大な竜の死骸を不死者に変え、使役する――というものがあるが、この化身はそれに近い。
乾いた木乃伊のような肉体が、何の理不尽か。増大し増強し膨張し、竜の血肉をカタチ作ろうとする歪んだ奇跡。

『おお、おお、変現の書よ。猛き風の肉身をなぞれ、我に力を。剛力を。利力を。超力を――!』

ばさばさとページをはばたかすように捲れる魔導書に、死者が何かを掲げてみせる。
小さな鱗状の紅い結晶体は、竜の眷属たる少女にはどこか馴染みのある気配するかもしれない。
一部の竜が体内で生成する分泌物だ。オーブやら竜玉、竜珠などとも呼ばれる、竜の魔力が籠ったもの。
竜の死骸を喰らい、信仰対象でもあったものになりかわろうとしたのは、ご神体として奉納されていたものから、力を引き出したかったのだろうか。
だが、そう都合よくはいかない。自然力の化身たる竜もどきになろうとしたところで、そもそもの自然力を乱し、喰らうものがある。

『――、ちか、が、失せる! 抜ける、馬鹿な、これは、あっては、ならぬ……!!』

魔槌が、審判の場で静謐を告げるガベルの如く地面に叩きつけられる。ごぅん、と。ごぉ、んと。
魔力の流れを乱し、あらぬ方向へ押し流してゆく。それが半端に竜になりかけていた死体の動きを止め、痙攣させる。
しかもかの槌は、叔母の血を吸ったことで、竜に対する特効も秘めている。故にこそ、流れが乱れた自然力に引っ張られて、喚起しようとした竜の力も魔力も、死者から失せて、消えてゆく。そこに。

影時 > 「――我が(ワザ)を見よ」

自然力、自然の精気、魔力の流れが乱れ、失せ、放散された氣が虚ろを埋めるように生じる。
洞窟の天頂、明り取りのように差し込む僅かな光がおぼろげになりつつも、彼我の影を落とす。
そこに男の声が響く。気配を減じ、滅し、その繰り返しの果てに正体を隠した忍びの声。

「影渡りて影落とす。臥したる者に影は無し。
        ……――而して我、影を喰らう者也」

身を低く構えた忍びが逆手に構えた右手の刀を、体躯の影に隠すように擡げる。
この術に大仰な印を組む動作、喚起の身振りは要らない。幾度もなく繰り返し、限りなく熟達した奥義。
普段使いの忍術とは違う。五行回しと嘯く環境操作を手妻と云うなら、これは問答無用の殺し技だ。

『が、ぁ――……』
   「忍び秘術・影渡り――此れにて御免」

ふっ、と。足元の僅かな影に溶けるようにして忍びの姿が失せ、次の瞬間。
半端に竜に変態した死体、竜の心臓があると思われる箇所を死体の懐、その陰に生じた赤いハガネが貫き、赤黒い体液を噴出させる。
影から影へと渡り、飛び移る秘術。その名も影渡り。名が体を表すなら、これこそが忍びの名の由来。
距離は限られるが相互に影が生じているなら、遅滞なく死角に侵入し、急所に刃を突き立てる。
それも竜を屠る刃となれば、効果は覿面。竜としての肉体、強度、命運、命脈、その他諸々――悉くを殺し、屠る。

フィリ > 「まぁ――折角有る物や得た物でしたら。使わなぃのは勿体なぃ……とも。言ぅべき、なのでしょぅか。
折角それ等を作り上げて来て下さった先人の方々に対しても。些か失礼に当たる…と思われまして。
……どの程度まで嗜むのが、ぉ酒とぃぅ物の愉しみ方なのか、は――経験が無ぃのですが。
少なくとも、そぅ仰る…とぃぅ事は大丈夫なのでしょぅ。笠木様も…ラファルちゃん様も」

偶には自然に触れてみる。そういう話なら、何ら問題はないだろう。
寧ろ今回、山を登って遺跡までやって来た、自分達の道程も。その範疇に含まれているかもしれない。
自然が絶対とは言えなくなってしまったのが人間だが。大事であるという事もまた確かだ。…水。空気。その他諸々。生物である限り必須なのだし。
なので、何事も節度や加減が大事である、という考え方は。愉しみ方だけでなく、万物に当て嵌めて然るべきなのだろう。

…愉しむという方については、さて、どうなのか。
酒精の分解量だの、自身の限界を知らぬ者でもない限りは。弁える、という事も意識しているに違いない――
少なくとも少女の周りに居る者達については。皆そうなのだろう、と信じる事にした。
実際酔っ払った所を人間に退治された同族、というのも。取り敢えず過去数世代程は聞いた事もない、のだし。
その上で――残された警句を忘れさえしなければ。菓子で釣れる叔母だって、酒で身を崩す事は無いのだろう…共に嗜む師の方も。
そして、先達二人が態度で見せてくれるなら。今後お相伴に預かる少女も、身の程を弁える事を学べる筈だから。

「…ぬぅ。申し訳ぁりませんが、それには少々。同意しかねるのです――私。
笠木様につきましても、ぉ一人の場合は多々有れ、少なくとも……この国に来られて後は。
…ぉ母様その他と関わられ、学院に関わられ、今は決して。独りと称するべきではなぃ――と思われ、まして。
はぃ。は――ぃ、そぅなのです。笠木様の好かれる方、笠木様を好かれる方、それは。少なくなぃ筈、なのでして――  こほ、ん。

少なくとも今この場も。微力ながら。 …今の私の目標。それを目指させていただきますので――っ」

一人。独り。同音異義語という奴に、これ程の例はないだろう。
かつて故郷に在った頃の彼が。どのような人間関係の中に居たのか。少女には知る由はない。
知り得ているのは今現在。何処までもこの国の中に限られるが――だからこそ、主張したい。彼に、独りという言葉など似合わないと。
実際彼が孤独という意味で、独りという言い方をした訳ではない。その位は承知しているものの。それでも大事な事だからこそ。

…使う者使われる者。助ける者助けられる者。支える者支えられる者。その他、関係性は他種多様。
勿論好いている者好かれる者も有り、その中だけでも幾つもの意味合いが有りそうだが――其処は、置いておこう。
日頃の少女の性格からすると、あれこれ話が拗れてしまいそうなので。
今は――今大事なのは。この先目指す、背を任される位の能力、を。この場この状況なら、発揮出来るという事だ。

――補助。或いは妨害。
矢面に立って迫る攻撃を防いでいる彼だが。正直この玄室とも呼べる場所に在る死人の魔力は、土地その物から引き出されているに等しい。
人間一人が使いこなせる程の量とも思えないのだが、其処は魔本が作用しているのか、或いは――仮初めでも竜の身が、器となっているのだろうか。
そんな魔力量によって幾らでも放たれるであろう攻撃と。ますます人外と化していく骸の耐久性。
多くの人間にとっては並々ならぬ難度の、竜殺し、と近似した状況に――少女だから、一石を投じ得る。
どれ程その姿形が人を超越しようとも、全ては術の産物だ。どんな奇跡も代償が必要で、それは土地からの恩恵である。

彼と共に此方へ合図を送ってくる、二匹の尻尾を知ってか知らずか…或いは。知らずとも信じてか。
飛び交う刃と刃の合間。死者の意識の分散と、肉体変異に伴う――確かな、隙。
それを決して見逃さぬ様、力と気配を辿り巡った少女の意識が、改めて前へと向けられて。

フィリ > 「 『――はぃ。元々その力はきっと。本来の竜様が集わせてぃた物なのでしょぅ。 …貴方様の物、ではなく』」

骸であれば等しく統べるのが、死霊魔法であるというのなら。竜の骸すらもその範疇と言えるのか。
本来の亡骸から零れ落ちたのか、死者が手にしているのは、竜種の身に宿される結晶だ。
未だ年若く、それ以前に人の血の方が濃い少女には無縁の代物なのだろうが――それが、何であるのか、という事位は良く解る。
序でを言えば、それが取り出された瞬間。刃が唸った。鎚が吠えた。屠竜の刃に次いで、竜に抗う力を…恐らくは主たる少女以外へは向けるだろう、鎚もだ。
それこそが竜にならんとする死者に、肉体を構築し得るだけの情報を与えている、謂わば龍という生物に関する情報体であるというのなら。
其処に籠もるのもまた、竜脈に凝縮され、竜の力へと醸成されてきた山の力に他ならない。

全ては、繋がっている。嘗てこの地に生きた竜は、山に親しみ、其処に暮らす人々と連なり、それ等を護るべく力を振るった。
人々は信仰という形で。山々は精気を循環させ。竜へと力を、命を与えて来たのだろう。
山に流れる水が麓まで流れ落ち。何れ雨となって再度山に還る、永遠の循環…めいた力の在り様は。一人の死者によって大きく歪められているのだが…
其処に一点を穿つのだ。吸い上げられた力は幾許の間、鎚に集って零と化し。
加算と減算が釣り合った無の瞬間を経たかと思えば、気圧に任せ吸い出される如く。死者へのそれとは違う流れの道筋を見出して――溢れる。
堰き止められた泉が溢れるかの如く、死者へ、本へ、結晶へと集約されていた力が。悪意持つ刃とは異なる、本来の風となって吹き荒れ、噴き出し――
轟々と荒んで内から外へ。玄室の無から形となって外へと放出されていく、その間に――

全ては。終わっていた。


「    ―――― 。  」

何かを言う事は出来無かった。例え口にしたとしても掻き消されていたのだろうが。
零の瞬間。その合間に、眼前に在った筈の姿を見失った。
…いや、決して目を離していなかった筈なのに。それでも尚、彼の姿は消えたのだ。

気が付いた時には膨れ上がりつつあった死者の肉体、その異形の中枢に。彼の一閃が突き立てられていた。
あらゆる魔力、霊力、自然の精力が掻き消えていた数瞬にこそ放たれた…死者の意識からも、少女の知覚からも外れての、忍の一撃。
当然それは、魔術では在り得ない。人が、人を。或いはそれ以上の者すらも。必ず、殺し得る、技。きっとそういう物であり。

……きっと極々僅かな。だが少女にとっては酷く長い瞬間を経て。
風音が戻り一気に荒れ狂い始めたかと思えば――元来そうであるべきだった、かの如く。
半端に竜の性質を得てしまったが故、屠られる事となった死者の肉体は。解れ塵の如くに吹き流されていくのだろう。