2024/07/06 のログ
影時 > 「――ま、食料はあれだ。差し入れ含め、そうそう困ることが無さそうなのは有難ぇや。
 迷宮含め、行った先での現地調達が当てになンねぇことも珍しくない。
 
 ……――居るのかねぇ。一人居るのは間違いないだろうが、取り敢えず戻ったらやることは決まったか。
 柄が悪いような空気のさわりを楽しむなら、冒険者の酒場を覗いてみるのがきっと手っ取り早い」
 
旅先の不便を愉しむのも旅の醍醐味と云う人間は少なくないが、それも限度がある。
艱難を嗜むのと、望まぬ不便や厄介を噛み締めるのは同じではない。後者はどちらかといえば災難とも言える。
その点、収納に困らず、さらに新鮮さを損なわないような保存が出来る収容空間は、どれだけの意味を持つのか。
地味だが、メリットは大きい。余りに大きい。
保存食の類は一時の飢えを凌ぐためであり、常食するには偏りも出てくる。育ち盛りの将来ある子供にそんなことは避けたい。
――だが、仮に。例えば己の雑嚢と王都のトゥルネソル家の倉庫との接続が断たれるような非常事態が起きたら?
そんな非常時については、致し方ない。覚悟を決めてもらうしかない。

そんな覚悟を抱いてくれるかどうかは分からないが、ノリがいいのか。人まねをする毛玉たちはお気楽なものだ。
お洒落な小動物達は、親分が講談師のようないでたちになったら、似たような服と座布団の類も一緒に強請るに違いない。
親分が正座する座布団に、小さな座布団二つ並べてちょんと座る二匹の小動物の有様も、見られることだろう。
顔を肩上にちらちらと向け遣れば、左右で腕組みしてみせる毛玉たちと目が合う。
てへっとばかりに顔を傾げる姿にと吐息すれば、ひとまず棚上げにしておこうと。漫談やら講談の沙汰について、一端思考を纏める。
取り敢えず、無事に帰還したら遣ることは決まった。社会勉強がてら酒場で一杯。それが良い。

「経験は幾らでも積むべき、とはいえ、だ。無理をさせるために連れてきたワケじゃ無ぇからな。
 ……色々あるな。君主(ろぉど)だか王者(ちゃんぷ)とか俗に呼ぶらしいが、特異な個体が小鬼の中にも出てくる。
 個体としては、さっきの奴らと比較にならンのはもちろんだが、頭が回る。悪知恵が働く。それが何よりも面倒だ。
 
 ――嗚呼、そういう見方も出来るか……」
 
守るべき者が居るから強くなる――という考え方を一概に否定はしないが、そんな訳があるかと思うこともある。
必要な時に必要な分の力を出せなければ、元も子もない。
死闘を愛好していても、いざという時に用を成せないのなら、忍びとしても無用が過ぎる。
楽しみとシゴトの両用で運用する武の力は、必要な時に正しく運用できてこそ、真に武力足り得る。
さて、そんな忍びの者も課した、または課された忍務を果たすにあたり、嗜好とは別に無用な戦いを好まない。
避けられるべき戦いは避けるべきであり、先手を打って発見した難敵は気づかれるまえに掃討する。口にする俗称のモノはその一例だ。
魔法を使い、群れを従える統率力、人質やら思いもよらないニンゲンのカリカチュアのような奇行等、厄介事が多い。
言葉にする以上に心底面倒なのだろう。肩を大きく上下させ、覆面の下で大きく零す溜息は重い。

――考えれば気が重くなるのは、他にもある。
例えるなら熱線で溶断したような痕跡は、いつぞやの巨大機械等がやってきた類のそれにもよく似る。
真逆、同様の戦力でもこの場に展開したのだろうか? 可能性は皆無とは言い難い。
最終的にこの場は誰も残らなかったか、生き残りはやむなく山を下りたのだろう。

「必要に迫られて慣れ、適用する。それを繰り返して進化を果たす――と。その点、竜も人間も、魔物すらも変わりはないわな。
 竜とヒトの関係は場所によってそれぞれだろうが、俺は共存、という言葉の方を推したいねぇ。そんな印象を抱いたよ」
 
他に竜種の知り合いが出来たとしたら、よくよく観察してしまうことだろう。
今の少女と、弟子含めた縁者たちのコミュニティ、関係性を様々に見る機会が多ければ、おのずと興味が湧く。
知り得る限りでは契った相手も純血の竜ではない。さらに異種との交配、混血、ハイブリットが進んでいる傾向が見える。
この地では、どうだったのだろう。恐らく化物に供儀、人身御供を捧げるような――ことはなかったのだろう。
持ちつ持たれつ。永きを生きられる竜と弱き人は、お互いの領分を尊重し合うように在ったのだろう。それが――。

「……――祈りを受けて開く扉、と云うのも珍しくない仕掛けとは聞くが、なぁ。だが、これは……」

そんな竜とヒトが会し、語らう場でもあったのだろうか。如何なる意図の仕組み、仕掛けかは知る由もない。
だが、迷宮探索者でもある身として仕組みの一例を知る。石板の上に乗り、特定の所作や思念を注ぐことで作動するギミック。
念には念を入れて、分身を生成して行うことで対処を計ったが、恐らくは此れだけでは足りない。
最終的な決め手は、篭められた感情。そしてこれは若しかすると、少女の身に流れる竜の血によるものか。その奥に在るのは。

NPC > 『奥の寝所に身を横たえ、幾星霜。
 ……かつての主、猛き風とも違う血の匂い。来たれ、竜の乙女よ』
 
そして、風が戦ぐ。開かれた壁、扉を通じて大気が流れる。生じるのは乾いた匂い。だが、死を漂わす生気の薄い気配。
開かれた空間の奥、壁面に仕掛けられた松明に続けざまに火が灯り、闇を払う。
奥の院は竜の寝床でもあったのだろう。自然の洞窟そのままのでこぼこさが生じる光の中に垣間見える。
光が落ちる奥に、うずくまるものがある。身を起こすものがある。
金色の光が星のように向こうに光る中、白く見えるのは――骨の色。朽ちて骨身を晒す巨大な竜のもの。

それを背に立つ影が、詞の主である。

修行僧の如く、薄汚れ、そこかしこがほつれたローブを身に纏う痩躯。
死人の肌にしか見えないが、奇妙な精気を湛えた竜眼を向け、片手に分厚い書を持つ。

『我はドラーゲ。かつてこの里を束ねた神官の成れの果てである』

――と、こう名乗る。
 

フィリ > 「はぃ。何せもぅ食とぃぅのは――あらゆる生命にとって、欠かせなぃ重大事項です。人にとっても、こぅ、三大欲求と準えられてぃる…のです。
……切っても切り離せなぃ代物ですし、それを断たれるのは何としても、避けなくてはと。
現地調達―― …余所の土地で、初めて見る食材に挑戦…位なら。まだ気が楽なのですが。

…きっと、はぃ、同じ一人を想像してぃると思われつつ…
酒場。 …ぇぇ、っと……アルコールの、ご相伴には預かれなぃのですが。それ以外で宜しければ…?」

旅先、位で済むのなら。まだマシである。それこそ先のダイラス行にて、あれこれと港で食材を買い込んだ時のような。
どれだけ珍しい代物であろうと、店舗にそれ等であれば――ある程度。食べられるようにする事前提の、謂わば保証付きなのだから。
その点在野の代物は加工にも知識が要るし、それどころか適切な処理をして尚、味にも安全面にも確実な保証が無い。
だからこそ携帯可能な保存食という物が、長い年月発展し続け、今尚多用されている訳で。
…それよりも更により良い形で栄養補給が出来、ちゃんと腹も膨れる。自分達はどれだけ恵まれている事か。
――確かに。何らかの魔術的トラブル等で、空間的な接点が断たれてしまう。その可能性も零ではないので、努々過信は出来ないが。
ただ、そうした事態を想像すると。というより、その結果何を食べなくてはいけないのかを考えると、思わず足が止まりそうなので。
今は思索も後回しにしている少女であった。

…実際今も。小さな衣をびしっとキメている二匹である。同じようないでたちも、得意気に着こなしてみせるのだろう。
一人と二匹の語り。或いは――…宴会芸めいた物になるのではないか。ついそんな想像をしてしまう辺り。少女も段々叔母の事を言えなくなりつつあるような。
さて、どうやら。帰るまでが依頼というが、帰った後についてももう一つ。予定が定まったようである。
平民地区にでも行けば、ギルド近辺には幾らでも。冒険者達が足繁く通う酒場の類が在る事だろう。
学生として校則は守っているのか、それとも両親による賜物か。酒場とはいえ酒の類はきっちりと遠慮しておこう。
その分、懸案の食の方へ拘る事になるのか。…雰囲気、場、に流され酔わされ。それどころでなくなる可能性も高そうだが。

「何事も勉強なのでしょぅから。 …戦ぃ方、とぃぅ物も。……見て学ぶには難しぃのですが――笠木様の。
せめてそぅした心構ぇに関しましては。参考にさせてぃただれば、と。思ぅの…です。
矢張り知恵の回るとぃぅのは。本当に、恐ぃ――のでしょぅか。ぃえ、悪知恵、なのです ね。何処までも。

――……はぃ。可能性は幾つも…幾つも、想像出来るのです、が。
結局の所私達は……後から。あれこれと考ぇてぃる、だけで。結果は変わらなぃ――」

自分の命が掛かるから。もしくは自分と同じ位大事な命が掛かるから。踏ん張りが利くという事位は有るのかも知れないが。
無理を承知で限界を越えて力を発揮するというのも、また。あまり宜しくない。過度な力の負担、後から来るしっぺ返しがどれだけ怖い事か。
かといって。だから常日頃つるまず、仲良くせず。孤高を決め込み独りで戦うを良しとする――というのも、また違う気がする。
万一動けなくなった時、一人きりではどうしようもない。此方に護る余裕が無くても、彼方は何かしら手を貸してくれるかもしれない。
誰に邪魔されるでもない、一対一、命懸けのタイマン勝負にこそ意義を見出す…といった。これまた少年達が好きそうな発想の下、闘い続けるのなら仕方ないが。
現実には彼だってこうして。いつかそんな機会をと願いつつも、日々、仕事や依頼という物には手を抜かずに居る。
寧ろ大多数の冒険者、もとい、人間は皆。理想を抱き夢想に憧れ、それでも現実と折り合いを付けている事だろう。

――そう。現実を甘く見てはいけない。
今回のような小鬼ですら、なまじ現実を舐めて掛かった場合、特異な個体によって。どんな目に遭うか。
…人の道具を流用する程度の”知恵”ではなく。あくまでも”悪知恵”と言い切る彼の物言いに。
どれだけ空恐ろしい事柄が繰り広げてきたのやら…と。つい、肩を抱くようにして。背筋を這い上がって来る悪寒を耐えながら。

それでも。回廊に残った痕は更に、更に。それこそ一人どころか、人だろうと小鬼だろうと束を成しても尚敵わない――大規模な、力の痕。
竜と争った何かの形跡だとしても。世の中在り得ない話ではないだろう。
御使いを模した、どころか。少女が産まれるより前の話だが、戦場で神その物を見た――というまことしやかな噂だって。この国には伝わっているのだから。
せめて。屋内に残る黒く掠れた血の痕、が。全ての民ではなく。残り、去った者達も居てくれた事を。祈らずには居られない。

「共存。…してぃる、つもりです。私も――母様等も、きっと。
…昔々の竜種の中には、それを良くない傾向だと。忌み嫌う方も居られるらしいのですが……
此処に居られた方々なら。人も、竜も、きっと。…判っていただけたのだと――思われます。ぃぇ、思ぃたぃ…のでしょぅか」

絵画からの想像。それがなるたけ良い方に、好意的に、解釈しての物であるという事は。念頭から忘れずにおく。
より詳しく知る事が出来ないか。そう思うからこそ、窟内に残った壁画の方も。観察してみたいとは思うのだが。
残念ながら――吹き曝しではない屋内にも拘わらず。損傷という意味では、寧ろ此方の方が酷いようだ。
物理的な損壊は少ないのだとしても。やはり…表面から付着した、痕が問題。壁画を傷付けずそれ等を取り払うのは。きちんとした道具や技術が必要だろう。
結局、新たな情報が有るのだとすれば、それは――

「…私、初めて。はぃ。…実際にこぅしたギミックとぃぅのは。初めて体験ぃたします…が。
ずっと生きてぃたのも驚きですし、加えて―― 誰が。 受け取って、下さったのでしょぅか…?」

それが在るのであろう、奥への扉が開かれていく。
思えば探索を始めた最初辺り。ダンジョンマスターとでも呼ぶべき愉快犯が居るのなら、どんな仕掛けを施しているか、と話していたが。
よもやこうした、れっきとした形で、昔の仕掛けが現存していたのは。想定外である。
然るべき位置に、それぞれ人の重みを感じて動く、機構的な仕掛け。それと同時に――いや、それ以上に此方が本命か。
捧げられた感情を読み取る、実態の無い意思を読み取る――それは。果たして仕掛けとして残し得るものなのか。
思えば先程の探知魔法も有る。術理に秀でた何者かが。今も尚其処には居るのではないか、そんな少女の想像は……

フィリ >    最初。呆気に取られる――場、に。飲まれるしかなかった。

吹き込む流れに反し。自然に灯されていく火。…いや、そんな物ではなく、結果として浮かび上がるもの。
巨大な―― 其処は墓所だ。或いは納骨堂とでも呼ぶべきか。そんな想像が出て来てしまう程圧倒的な。大きな、大きな――骨が其処には坐していた。
鎮座し、肉という肉、生という生が失せて尚。訪れた者を睥睨せんばかりの威容。それがきっと、嘗て此処を塒とし、ヒトと関わっていた竜その物。

――初めはその骨が語ったか、と思えた。が、視界の動きで目線は落ちて…声の主を見出した。
ヒト、に見える。だがどれだけの年月此処に在ったのかを考えれば…純粋な人間とは言えないのだろう。
まして、唇ではなく。声ならざる声にて、此方へと語り掛けてくる様も見れば。

踏み入った所で気圧され止まり。後から追い付いて来てくれるであろう彼を、二匹の先輩達を、少しだけ見つめ――そっと息を吐く。
二度。三度。深呼吸を重ね………少女は。言葉を選ぶ。

「ぁ … 『 …丁重な、ぉ出迎…ぇ。ありがとう御座います。 ……私は。 …私は、少しだけ竜の血を持っています。
――Firirius=C=Tournesol。 ……フィリ、で。ぉ願ぃ致しま――す』」

それで、届くのだろうか。普段意図して使おうとしない言詞である故に…少々。教科書例文じみてしまっているが。

フィリ > 【継続いたします】
ご案内:「山窟寺院跡」からフィリさんが去りました。
ご案内:「山窟寺院跡」から影時さんが去りました。