2024/07/05 のログ
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
フィリ > 「…ぅぅ。ぉ気持ちは大変にぁりがたく…けれど、こぅ、その。私は遠慮させてぃただければ、とー…はぃ。
し、知ってはぉります、ので。……なので…すが…流石に。 …其処までの覚悟は、どぅにも、決められそぅに――なく。

ぇぇこぅ、それこそ、笠木様のぉ国――の。言葉を学んで、読ませてぃただぃて、でもなければ。でしょぅか。
…流石に、何と申しますか…漫談?講談?まで、してぃただくと…ぃぅのも。何と言ぃますか、想像出来ません…し」

必須の講義でなければ、まだ、やめておきたい。硬い決意。なまじ先んじて、やろうと思えば出来るのだ、という理解だけは有り。想像出来てしまう分。余計に腰も退けるのか。
勿論――是々非々言っている状況ではなく。他にやむを得なくなる、という事態になれば。流石に口にせざるを得ないだろう。
だが逆を言うとその位に追い詰められなくては。少なくとも見た目その侭なビジュアルの虫類からは。全力で逃亡する筈である。
思い切り加工され、それこそ目で見て判らなくなるような物なら…どうにか、こうにか。というのが。現状の塩梅だろう。
…つい先程。命を賭ける事、命を奪う事――戦う、という行為に挑んだ際よりも。少女にとっては大いなる覚悟と決意を求められてしまう。そんな事柄である、らしい。

その次位に覚悟を求められるであろう異国の御仁との邂逅。
舞台上の演劇、というのも。異国のそれを、この国で披露してくれるような団体は。なかなかに居なさそうであるし…居たとしても。あくまで舞踊等だろう。
逆に、そういった口調が絡んで来る芸能、というと。所謂笑いを一席的な講談という奴なのだが――
何でも出来そうなイメージの有る、目の前の彼が。派手な衣装を着込んで、扇子片手に一席吟じる姿というのは…見たいような。見たくないような。
そうなって来ると確かに。言語として、文化として、べらんめぇの事を考えつつある少女だが。寧ろ必要なのは、それと類似した会話の雰囲気という物だろう。
別の言語であろうと、荒っぽい、とでも言えそうな丁々発止のやり取りを。直に聴いておくというのは。あくまで馴れる事が目安なら…この国でも可能な筈。
本格的に何処ぞの工房、工蔽、等に赴くだけでなく――その前に。例えば酒場等で行われるやりとりに触れるだけでも。前準備、のその亦前準備程度には。なるのかも…しれない。

「先程も…決して油断してはぃけなかったのでしょぅ――はぃ。
ぃぇ勿論。笠木様の実力を信じてぉりますが。それでも、こぅ……私も何かをする以上、とぃぅ事で。
実際に笠木様も。……特異な個体等は居なぃ、と見なした上でも。決して、手を抜ぃて等は居られなかった――そぅ思われるの、です。

――――……此方まで来ても。 …ヒト、同士で…の範疇には。どぅにも収まりそぅになぃと――思われ、まして」

先程の小鬼達を少しばかり思い返す。
必死だったので、細かく覚えている――とは言えないが。人間とは違う、だが野生の獣ともまた違う…本当に。それこそ魔物、としか言えない、存在だった。
強い弱いで判断するよりも。寧ろそうした違和感、異物感…決定的に「異なる」という概念自体が。魔物の恐ろしさなのかもしれない。
それはきっと、どれだけ経験や鍛錬を重ね、強くなった人間にとっても。否寧ろ人としての歩みを経れば経る程。拭う事の出来ない、異種への恐れとなってへばり付き続けるのだろう。

…この地の竜は、どうだったのか。恐れではなく畏れだったのだろうか。
少なくとも圧倒的に違い過ぎる異生物との間で。それでも一定のコミュニケーションが成立していたのは確かであり…
先程の絵画。彫像。その辺りに触れていた段階では。決して悪からずと思える雰囲気を有していたのだが。

更に先へと進むにつれて散見出来るようになってきた、過日の破壊痕。それを見ていると些か当時への想いが揺らぎそうになる。
この風のように大きな、自然の力が吹き荒れた痕。人が振るったにしては強過ぎる程の、何もかもが灼かれた痕。
そんな事を行えたとすれば、矢張り――竜の力によるものなのだと。考えるのが自然だろう。
果たしてその力は、何処へと向けられたのか。外敵か、魔物か、それとも。
幾許かずつ言葉を飲み込むようになっていくのも。これでは仕方無いという物だろうか。

「実際――それは否定出来なぃと、言ぃますか。 明確に人と交わ――こほん、人と竜、双方の間に生まれて。最初から、人の社会で育った個体…は。
決して多くなぃと思われます。それこそ母様達位しか思ぃつけなぃと言ぃますか。
結局、ぇぇ、生まれも育ちも郷に従ってぉりますと。やはり影響が大きぃと思われますので……私達の世代ともなれば、尚更に。

……ぁ伽噺でぁれば、良かったのですが。 …本当は恐ぃ童話とぃかず。子供向けにナーフしてぃただけてぉりましたら…本当に」

少女だって知っている。世の中の物語、その須くが「めでたしめでたし」で終わる訳ではないのだと。
子供に向けられた童話や昔話ですらそうであり、教訓を含むような物語であれば、脅し半分の悲劇も散見され。
対象年齢の上がった文学の社会には、一つのジャンルとして悲劇が存在し。生々しく現実を、歴史を記した書物となれば、容赦なくそれ等の事実も突き付けてくる。

戦いの痕跡は。少女が先程迄思い描いていた、むかしむかしを。めでたしめでたしを。徐々に胸の内から削り取っていく。
独り言めいた彼の言葉を拾うなら――建物に残った力の痕は。その場を破壊する為に振るわれたのではない、のかもしれないが。
果たしてそれも何処まで救いになるのやら。
…もう一つ可能性も考えてしまうのだ。この地で崇められた竜の力が、外敵に対し振るわれたというのなら、それはそれで。
人と人の争いには収まらない、力を振るわざるを得ない、もっと恐ろしい何かこそが。この地の暮らしを奪い、人々を去らせたのではないかと。
――では。竜に匹敵する程に恐ろしい、何が現れたのか。

風の痕。炎の痕。一個体による物なのか、はたまた力のぶつかり合った痕跡なのか。
それ等の名残を経て、吹き荒ぶ風を抜け。再び山肌へと到り。入口としてしっかりと人の手が加わった洞内へ。
実際中に入ってみれば。全てが人の手による掘削ではなく、あくまで既に存在していた空洞を。後から補強した物であるらしい。
岩肌の残る天井や壁。対して入口や、地面――人が触れ人が踏み締めるであろう辺りは。人に合わせ加工されている。
そんな人が暮らすには、先の建造物達と比べ広すぎて。ならばもっと大きな存在の住処であったか――それと接触する為の場だったのか。
といった可能性を思うのは。奥まった所に鎮座した像が。やはり先程の物同様、竜…めいた意匠の代物だったからである。

大きな大きな像。それもまた力を感じれば、何かしらの変化を生じさせるのだろうか。…光る程度なら良いが、もっと別の何かが起きるのか。
足元に、さも――此処に立て、此処にて祈れ、そう思わす意匠の存在する事もあり。自然と三角形の中央に足を進めつつ――

さて。本当は此処で。保護者として同伴する彼に、ちゃんと事前の確認をするべきだった筈だ。
しかし良からぬ過去――正確には、良き過去の終焉をを想像してしまい。争いの痕に打ちのめされ。先程自分の経験した争いを思い返し。
……つまる所、酷く遅れた今更になって。少女の思考能力は、キャパの限界を迎えつつあったらしい。
洞内を探っているであろう彼へと声を掛ける事なく。きゅ、と手の内の小さな像を抱き直して…目を閉じた。

良い、悪い、どちらだろう。ただこのグチャグチャと絡み合っていく、処理しきれなくなりつつある感情を。小さな像から大きな像。その繋がりへと載せるように。

影時 > 「ん、然様か。――まァそれも良し、だ。気乗りしないのも理由に事足りる。
 ……だが、あー。漫談やら講談の真似をってなると、流石に難しいな。
 都合よく原書だから、“あれんじ”できそうなネタやらありゃ良いンだが……さてはて」
 
勿論、必須ではない。爬虫類の肉はまだともかく、昆虫食が流行らない理由は色々ある。
だが何よりも先んじて出る事項は間違いなく、原形、もとは何であったか、という想像が先立つことによる忌避感だ。
これがまた馬鹿にならない。何故か。
認識を塗り固めた常識の壁に挑むことも去ることながら、食することによるリスクを想起させるから、という識者の説を思い出す。
十分に火を通していない肉を食べると腹を壊す、という次元の話にもきっと近い。
元の形もわからない位に加工されたモノを食べるにしても、由来を知っていれば止むを得ない事情があっても、二の足を踏む。
それでいい。そう思うことに何の誤りがあるだろう。己の中の酔狂とて、無理強いを是とする理由にはならない。

そうだよなぁ、といわんばかりの気軽い表情で数度頷けば、続く言葉に考え込む。肩上の二匹がマネする気配を感じつつ思考を巡らせる。
芸能の類に詳しくはない――ワケではないが、造詣の浅深が色々ある。茶の湯や能の類は兎角、漫談の類は、さて。
下手に考えるより、肝心の御仁を直接引き連れてきた方が良い気さえするのは、大鉈を振るい過ぎる所業だろう。
それよりももっとソフトに、穏便にとなると、嗚呼。いかにもな荒くれが集う酒場の類が手っ取り早くもあるのだろうか。
一仕事を終えた後は、ギルドに報告を済ませて酒場で一杯、というのが冒険者の日常だが。連れて行くのも一興、か?

「そりゃそうだ。激しい戦いは愉しいが、俺一人の命だけで済む……――ような生き方は最早出来ねェからなあ。
 フィリに、おっと。お前らもそうだな?ヒテンにスクナの生命も預かってるだろう? 
 であるなら、手抜き一つも出来やしねェよ。殊に人間のようなマネをする手合いなら、尚のことだ。
 
 ……――竜には竜をぶつけたのか、それとも他の得体のしれン何かをぶつけたのか。
 が、恐らくこの地勢なら、飛べる類に相違なかろうよ。ここらは大勢をぶつけるには都合が悪過ぎる」

時折、あらゆる手加減をかなぐり捨てて力と力をぶつけ合う死闘に焦がれ、欲する衝動に駆られる。
今の指南役、講師、家庭教師に飽いたわけではない。一種の悪癖、悪い病気のようなものだ。
さながら武人のように、一線を超え過ぎないための歯止めと云えるのが、生命を預かっているという認識、心構えだ。
引き連れている少女に加え、飼っているのか飼われてやっているのか偶に分からなくなる毛玉たちの存在も、歯止め足り得る。
素人を冒険に引き出していれば、そうすることに伴う諸々の責任が己が認識を引き締める。
屯していた魔物の悪質さも加われば、過保護とは云わなくとも、大人げない位に敵を念入りに掃討するのも自然なことと云える。

(…………こっちの宗教、宗門に対してよくよく考えりゃ、いまいち知識が足りねぇか)

さて、言葉を交わしながら進めば思いを馳せる事物が増えてくる。
年月という風雨で文字通りに洗われても、そこかしこに残る古戦場としての名残。砕き、灼くチカラの応酬の痕。
大きく焼き払う息吹が竜のチカラなら、薙ぎ払うように奔ったかの如き曲線の痕跡は、攻め手たちの仕業かどうか。
歩くなか、壁だけが一部よく残った石造の民家と思われる名残を横目にする。
すぱっと両断されたような壁の切断面は、竜の吐息とは別の高熱源の仕業――のようにも見える。
そうしたチカラの源泉、イメージはこの国の宗教の何やらに語られ、伝えられたりしていないだろうか?そんな思いにもかられる。

「……否定もしようも、むつかしいわなァ。
 俺も竜について知ってるコトは多くないとはいえ、トゥルネソルの家と同じ例は聞いたコトがねぇやな。
 郷に入っては郷に従えというなら、そりゃ染まるだろうさ。俺だってまた然りだ。
 
 さて、――フィリお嬢様。ここは、この地はきっと、そうはならなかった場所、なんだろう。めでたく、終わらなかった」
 
ははは、と。かの家の特色、特徴性は当事者本人から見ても、かなり変わっている。ユニークな類だ。
血の交わりによって生まれ落ち、人界に染まったものは――多いとは言い難い。だが、きっと染まりは速い。
藍より出でて藍より青しの諺を持ち出すには聊か違うかもしれないが、親たる竜よりも子の方が無垢な分だけ馴染みが深くなろう。
余所者である自分ですら、この地の気風に染まったと思える事柄も幾つかあれば、余計にそう思う。
だが、そんな感慨に耽る時間ももう少ない。
石造りの匠の技で入口や内部を補強がてら飾り、整えた礼拝堂――とも思える位に広く、天井が高い空間。
壁のそこかしこに残された赤黒いシミやら焼き付きは、壁画らしい顔料の鮮やかさも辛うじて垣間見える。きっと、先刻見かけたような壁画の類もあったのだろう。

「……――お?」

色々な思い、複雑な感情を小さな像に乗せて、篭めて――注いだから、だろうか。
奥の像の前にはめられた石板が震え、微かに光を放つ。その情景に少し腕組、考え込む。特定の人数が乗ることで作動する仕掛け、ではあるまいか?
そう思えば、忍び装束の男は印を組み、念と氣を走らせて身体の輪郭をおぼろにする。
おぼろにさせるのは、術者に重なるように生じた幻像故に。幻像が左右に進み出れば、術者と寸分たがわない分身の実像が成る。
一人と二体の男の姿が、足音も静かに石板の上に乗り、跪きながら片手で拝む仕草を見せる。すると、ご、ごごご、と、奥で軋むような音が響き出す。
胸像の背後となる壁、薄汚れ、焦げた箇所も多く見えるそれが左右に開き、奥の院のような空間を見せるのだ。

『――来たれ。』

と。誰ともつかぬ、声のような音と共に。

フィリ > 「は――ぃ。……それはまぁ、その、抜き差しならなぃ余程の状況――でぁるなら、ともぁれ。
先ずはそぅならなぃ様最善を尽くせましたらと――幸ぃ、ぇぇ、我々の場合。こぅぃった場所でも、食料に困るとぃぅのは…無くて、すみそぅなので。
――実際に、ぉ出来になるか否かより。…先ず似合ぅかどぅかと言ぃますか――はぃ。見たがる方も、ぉられるのかもですが」

そう。後学の為に知っておく――ならともあれ。リスク云々踏まえ、それでも敢えて食さねばならない状況…に。陥らない事が第一だ。
その点自分達は恵まれていると思う。収納具合のお陰で、本来担げる限界以上の荷物を準備出来るのだ。その中に糧食が入るなら、餓える…事は無いだろう。
後は山中、森林、等ならともあれ。人跡未踏の洞窟やらになってくると、果たして…見た目はともあれ食べられない事もない、等という生き物すら怪しい。
見た事もない生き物だが、多分火を通しさえすれば、喰えない事は無いだろう――そんな生兵法は。間違い無く危険。
…と、まぁ。その辺全て。少女の捏ねくり回す理屈である。世の中どうあっても万が一というのは在り得るので。
もし本当の本当に、虫でも良いから口にしなければならない、というのっぴきならない状況に陥ったなら――さて。今回決めきれない覚悟が、どうなる事か。

その辺についても大いに尊敬すべきであろう二匹の先輩が、考え込む素振り…は。彼の物を真似ているらしい。
実際彼が今のような素振りに、身振り手振りも加え。面白可笑しい語り口でお笑いを一席。…想像したいような、したくないような。
普段から慣れ親しみ、遠慮の無い叔母等であれば。面白がって見物したがるのだろうか。それともきちんと座って講談を聴くなどしないのか。
ついついそんな想像をしてしまいつつ…ともあれ、今後を考えるに。
彼以外の、現役の冒険者が集うような場所というのは。悪い判断ではないと思う。
…よしんばガラの悪い連中でも居るのだとしても。彼が居れば危険はない…筈なのだし。

「…守ってぃただける、とぃぃますか。その対象と考ぇてぃただけるのは――大変に、はぃ、有難く。
けれど、その――真似といぅのもなかなか。…先程のよぅな、はともあれ。…中にはもっと。人に近ぃ物といったのも。存在するのでしょぅか。

…もしくは。竜が出張らなぃとぃけない程の。何かに見舞われたのか。
何かしらの勢力とは限らず、偶発的な――そぅ。自然の驚異のよぅな。突発的な。
それこそ先程の小鬼達…に例ぇると、規模が違ぃ過ぎますが。野生の脅威が現れたのかも、ですし…――」

護る者が居てこそ強くなれる――等というのは、あくまでも熱血な英雄譚の中の話である。
現実には警戒せねばならない事が増える。手も足も生やせないから足りなくなる。下手に辺り一面薙ぎ払ったりしたら大惨事だ。
殺伐とした戦やそれ以外の…あまり表沙汰に出来無いような争いも経験してきたであろう、彼にとっては。
やはり本当は単独で動く方がやり易いだろうし、全力だって出し易いのだろう。そう思う。
だからこそ、敢えて。今自分達に関わってくれる、この国に来てからなのだろう今の在り方が。どれだけ有難いのか、折に触れ再認識させられる。
つくづく頭が下がりつつ――も。興味が頭を擡げる辺りが、少女の側の本当の在り方だ。
自分達混血竜含め。人そっくりな者であれば、人と同じ暮らしも生き方も出来るのだろうが。…真似る、というのは。どの辺りまでなのか。
何なら一定の魔術すら修める鬼も居る。そんな脅しつけるような事柄を、講義の中で聞かされなどしていると。
実体験の有りそうな者に問うてみるのは、強ち間違ってはいない筈。

――強い力。大きな破壊。爪痕…と呼ぶのなら、惨状という意味だけでなく。物理的に、恐ろしく大きく削り取られた、実際の爪による痕すらも有る。
竜と竜。竜と魔物。それとも――また別の、何か。
比較的最近にも、天の使いを模したかのような、巨大な機械が暴れ回った…そんな噂話が飛び交った。
遠い過去にも似たような事は…無かったとは決して言い切れないだろう。
勿論、可能性として模索するように。この世界、強力な存在は決して、竜だけとは限らない。
何はともあれ、強く大きな何者かが。この地に望まれざる破壊をもたらした。その事だけはもう。確信する他ないのではなかろうか。

――勝敗はともあれ。生活が立ち行かなくなった、という公算は大きいだろう。
奥へ向かう程、まともな形を残した建物が減っていく。壊れ瓦礫と化したその中で、風雨にさらされて尚生きていける程――人間は強くない。
そして、共存する者達が居なくなってしまえば――人以外が此処に留まる理由も、また…

「基本、どんな生き物も。環境の中で変化して…進化してぃく物、なのです。
……姿を、形を変ぇる。周囲に適応してぃく。これは立派な変化でぁり進化でぁると。私としては…思われまして。はぃ。
それこそ我々の場合も。始めは真似っこだったのかも、なのですが…… ぅん、そぅ……はぃ…

我々とは違ぅ形で。けれどちゃんと、此処には。適応と適材が存在出来てぃたとぃぅ事なのでしょぅが――
本当に。何が、どぅ、なってしまったのでしょぅか――」

自分達から見ても。実際変わっているのだろう…と。否定出来ない。母達程、ヒトという種に馴染んだ竜種は聞かないと思う。
…正確に言うと人間限定という訳でもなく、亜人でも何なら魔族でも、人型で女性型なら大半…という気がするのは、さて置き。
ともあれそんな者達に影響され、集う者が存在し、其処から発生した次の世代達は。更なる混血というか、ハイブリッドというか。
その地で生まれた者にとっては、その風土特質こそが、生まれた折から触れる物。言ってしまえば、当たり前、と呼ぶべき視点。
寧ろ今になって。人間と関わるな、古式ゆかしき竜種らしく生きろ、などと言われたら。先ず無理だと思う。

…此処に居たのは、混じりっ気なし、純粋な竜、なのだろう。
人の姿へ転じる、化ける、という事も……変わらぬ姿で食事を共にして居たらしい図柄を思うに。無かったのだろう。
それでも確かに在ったのだろう繋がり、夢の残滓。
人の目線の高さでうっすらと残る壁画の名残は。それだけ長い事、多くの者が、此処に通う事を当然としていたのだろうと。
しかし表の瓦礫とは異なり。暴風による、文字通りの風化が無い場所だからか。此処に来てから急に見受けられるようになった、生々しい痕が壁画を覆う。

あぁきっと。外での争いを恐れ、避け、多くの者が此処に逃げ込み祈りを捧げ――けれど、助からなかったのだろう。
畏れられ、祈られて、頼られた存在は。彼等守れる程の余裕を残せていなかったのだろうか。
やるせなくて。もどかしくて。…もしかすると悔しくて。だから、像へと載せた思いは。決して信仰とは呼べないような感情だったのかもしれないが。
ともあれそれは何かしらの作用を。小さな像を介してか、この場へともたらしたようである。

「………? ぅっぁ、わ、 ……わ…!?」

伏した目線の先。足元でも。像と同質の光が奔り、反射的に顔を上げて。
今更我に返ったかのように彼の方へと振り返ってみれば…以前と同じ。彼の姿は一人から二人、そして三人へ。
大凡意図を察し改めて前を向くと同時、三つに別たれた彼が三角形、それぞれの頂点に立った所で。がこんと踏まれた岩が軋んだか、嵌ったか。
その上で――少女よりも余程、祈る、かのように見える仕草に合わせるかの如く。
大きな方の像の後方。何かしらの仕掛けが在ったのだろう、それまで壁面にしか見えなかったその場所が。扉の如く大きく開き――

「 ――! 、笠木、さま、今の声……!」

嗚呼。思わずその空間に飛び込んでしまった。
…声ならぬ声。人語ではなく、だが理解出来てしまう、意味を持った言詞。
そういったものを、少女は、身を以て知っている――故に。