2023/09/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にマーシュさんが現れました。
■ヴァン > 銀髪の男は普段と装いを異にしていた。
トレードマークともいえるバンダナはなく、代わりに中折れ帽を被っている。そして黒眼鏡。
服装はあまり変わっていないが、ジャケットを脱いでおり長袖の黒シャツだけ。
髪がほとんど隠れていることから、ぱっと見ただけでは図書館の司書をしている神殿騎士だとは気付かないだろう。ちょっとした変装。
そもそものきっかけは、職場の同僚から街で見かけたという声を聞くことが増えたからだ。理由ははっきりしている。
ほぼ確実に同行者の存在を挙げ、同僚がニヨニヨするからだ。
気になってその同行者に尋ねたら、同じ状況のようだった。やましいことをしている訳ではないが、面倒といえば面倒だ。
男だけが変装しても意味がない。相手の変装を少しだけ手伝っている。いつもの服も着崩すだけでだいぶ印象が変わる。
「……と。普段と勝手が違うけど、歩けるかな?」
比較的羞恥心の高い娘だ。普段よりボタン1つ多く外すだけでも抵抗がありそうだが……。
『ザ・タバーン』を出る際に女店主が2人に向けた視線は「またなんかやっとる」といったもの。歩きながらサインを伝える。
「耐えられそうになかったら、俺を呼ぶ時に『様』をつけてシャツの袖を掴んで。そうしたら人のいない所にいって、身なりを整えよう」
■マーシュ > ───個人的には私服に変わるだけでも普段の装いとはだいぶ変わる。
だからと言って知り合いの目をごまかすに至る、には難しかったらしい。
───己の場合は同僚と街で会うことはあまりないからいいとしても。相手の言葉に耳を傾けてその提案の結果、今に至る、というか。
相手の提案に従って、多少髪型を弄る。前髪を横に流し、ふわりと編み込んだ髪を胸前に流す形は、多少なりとも女の印象を変えるだろう。
衣服は常のままだが、いつもよりボタンを一つ二つ──外すのにも葛藤はあったのだが。……普段と違うことをすることに楽しげな様子についほだされたのが良くなかった、と今は若干思っている。
「──────……なん、とか」
問いかけに若干の間。少し気になるのか襟元を弄りつつ。
ぎこちない動きなのはボタンダウンのスリットがいつもより深くなっているから。普段より慎重に足を踏み出し。
──見知りの酒場の女店主の視線についてはいつものこと。そのこと自体もやや、くすぐったさは感じるが──今はそれよりも別のことに気を取られてもいて。
「…………、それは、いつもの、では……んん、………はい」
普段己が相手を呼ぶとき──というよりは誰かに呼びかけるときは自然とそう呼んでしまう癖の様なものを合図にされたことにちょっと戸惑う。
………わずかに眉じりを下げて、頷く。
普段の居住まいや挙措を封じられたことへのくすぐったさのようにも映る表情で。
「今日はどちらへ?」
ややぎこちないながらも歩きながら。当初の予定とは多少変わったことを耳にしていたので、それを素直に問うた。
■ヴァン > 襟元やスカートのスリットの深さはより、普段の修道女のイメージからは遠い。変装としては効果的だろう。
様付けと、袖をひくこと。この2つが同時に行われたら速やかに移動することになる。
変装をしているとはいえ、我慢するにも限度があるだろう。
歩きながら、どこへ向かうか言ってなかったなと思い至る。
向かう方向は学院や王城がある富裕地区に近いエリア。やや派手な格好は人目を引くようで、周囲の人達と目が合う機会が増える。
話をしていればそこまで気にならないだろう、と。普段なら名前を呼ぶのにそうしないのは、変装を意識してか。
「芝居って見た事あるかい?劇作家の新作が始まってるんだ。ダイラスを舞台にしているとか」
聖都では聖歌を合唱したり、フレスコ画を鑑賞したりといった形で芸術に親しむ機会はあったかもしれない。
吟遊詩人や芝居といった世俗の娯楽には疎そうだな、と隣を歩む女性を眺める。
「結構人気があるらしい。欲しい人は発売前から何時間も並んだり、人を雇って並ばせたり。
生活が厳しい人は前日から並んで、チケットを買えなかった人に高く売るっていう噂も聞いたことがあるな」
他人事のように話しているが、男も人を雇って――正確には、借金の利子代わりに並ばせている。
だめもとで並ばせたのだが、うまくチケットを得られたので急遽予定を変えたというわけだ。
歩いているうちに、小さな劇場へとたどりつく。100人も入ったら満席になってしまうような、だが小綺麗な所だ。
ちょうど開場したようで、人がどんどんと入口に吸い込まれていく。
■マーシュ > 己の纏うものは普段とそう変わりはしないのに。少し手を入れるだけで──ずいぶんと変わったように感じる。
いつもと敢えて変えた髪型なんかがきになるのもあったが。
示された合図について、少し目元を染めたままの様子で軽く顎を引く。
「あなたの……そういう姿も見慣れないから少し不思議な感じがしますね……」
行き交う人の視線から逃げるためかあるいは己自身の羞恥をごまかす為か、あるいはその両方。言葉を交わすことでそういったことから己の意識を散らしながら。
歩く速度はややゆったりとしたそれ。
己が問うたことに対して与えられた答えに対して、ゆるく双眸を瞬かせた。
観劇は確かにしたことがない。場合によっては演目が奉じられることもあるが──それは己たちに向けてのことではないし。
思いがけなかったのか暫く黙ってから、首を横に振った。
音楽や、壮麗な建築を彩る芸術家たちのいきづかいは普段接する場所で目にすることはあるが。
「ダイラスが、舞台?」
題材を聞いても、たどたどしく鸚鵡に紡ぐ程度の反応。大きな歓楽街を有する貿易都市、というのはだれしも耳にしたことはあるが。
「それは───大変ですね。……そのチケットもそのようにして、ですか?」
じ、と相手を見やる。時折贅沢なお金の使い方をするのは知っているから、今更だけれど。
一緒に楽しむために用意してくれたものを否定したり、無碍にするつもりはなかった。
ただ相手が並んで買ったのなら、言葉通りに大変だっただろうなと思うわけで──労いめいた言葉の一つでも返せたらよかった。
道理で歩を進める先が、富裕地区に向かっているのだとも納得はできた。
繁華街の様な猥雑さというよりは、それよりはやや格式を上げた賑やかさが連なる区画。
劇場の前は、そうやって観劇に訪れただろう人波がそれなりに多くある。
会場にあわせて賑やかに足を踏み入れて行く人々を眺めて、やや立ちすくんだ。
■ヴァン > これまではほとんど名前に様付けか、あるいは名前をそのまま呼ぶことが多かった。
二人称で呼ばれることに新鮮さを感じる。
「黒眼鏡も帽子も普段使わないな、確かに。騎士の仕事の時にゴーグルをかけることは多いが。
そうだ。この黒眼鏡、使ってみるかい?目許が隠れると安心できるかもしれない」
ただ見られていても自分が気付かなければ羞恥は感じない。では何をもって見られていると感じるのか。
視線が重なることはその1つと言える。つまり――相手が己の視線を認識できない黒眼鏡があれば羞恥心は薄れるだろう、という理屈だ。
やや屁理屈のような気もするが、男はその考えに自信を持っているようだ。
「そう、ダイラス。詳しくは知らないけどね。悲劇ではない、と言ってたから喜劇よりなのかな?
いや――販売が始まる日は仕事があったから、人に頼んだ。
昼に図書館抜け出して買いに行くってのも考えたんだが、もしそうしてたら売り切れてただろう」
歩調をあわせゆったりとした動きをしながら、問いに答える。
ある程度人の波が落ち着いてから、マーシュの右手をとって劇場内に。チケットを見せ、もぎる。
「席は……あのあたりか。っと、失礼。通らせてください」
ちょうど中央の座席。芝居小屋でよくある長椅子を区切ったタイプではない。
席が1つ1つ設えてあり、全て背凭れがついている。人の前を通る時が少し面倒だが、落ち着いて芝居を楽しめそうだ。
やがて幕があがる。『ダイラスの商人』という題名。
■マーシュ > 変装しているから、名を呼んだらあまり意味がない。一応考えたうえでの呼び方だけれど……あまりそういった呼びかけをしないのも事実だ。
相手を、相手として認識しているから、その名前を呼ぶ……というのは敬称をつけようとそうでなかろうと変わらないのかもしれない。
なんだかおもしろがっている様子だから、それはそれで楽しそうだなと思いながら。
「……ん、でも、怪しさが増すような……?」
興味はあるから貸してもらおうか惑う。相手の格好だと違和感がなくても、己だとどうだろう。
一度かしてもらって、着けて──納得したら返すかもしれない。
───己の羞恥のありかがどのあたりにあるか、というのをよくわかっているだろうにと展開される理屈にちょっとジト目。
それなら結局相手が黒眼鏡をつけていた方がきっと安心できる気がした。
「───悲劇じゃないなら、少し安心できますね。物語でも悲しい終わりよりは、嬉しいですから。
なるほど?……では、チケットを取ってくださった方にお礼をお願いします。
人気みたいですね、人が……多くて少し酔いそうですが」
人混みが苦手というわけでもないけれど、ある程度狭い中にひしめき合っているのは少し緊張する。
こちらの歩調にあわせた移動。手を取られるまま物珍しそうに劇場の内装を見やった。
「────」
ほぼ席の埋まっている劇場、まだ人の動きはある中で示されている席がほぼ中央なのは、チケットを取った人のタイミングが絶妙だったのかどうか。
若干の気まずさは感じるものの、相手に倣って少し頭を下げて通り抜け。
とはいえ席に落ち着いてしまえば、あとは観劇を楽しむだけ。視線は幕の下ろされた舞台上へ。
開演の合図とともに幕が引き上げられ──、舞台上に演者が佇む。
ダイラスを舞台にした物語を、まずは語り手がそのあらましを紡ぎ始め───自然と観客たちのさざ波めいたざわめきも凪いだ水面のように静かなものへと変わっていった。
■ヴァン > 「色っぽさが増すかもしれないな」
冗談めかして言いながら、黒眼鏡を貸す。
「主人公側にとって喜劇でも、敵役にとって悲劇ということもある。同じ内容を視点を変えて作った脚本、というのもあるようだ。
劇場内は座席の空間が――礼拝堂以上には空いているから、大丈夫じゃないかな」
劇場内の前、飲食物や物販スペースは結構な人混みだった。
開演前に芝居を十分楽しむために用事を済ませておく者や、飲み物を買い求める者などが多い。
裕福な平民や下級貴族が主な客層のようだ。
あらすじはこんなところだ。
ある貧乏令嬢が結婚するために親友の女貿易商に金を借りに行く。女貿易商の船は出払っており手持ちに十分な金がない。
親友のために商売敵の金貸しに金を借りる。その際、女貿易商は返済日を超えたら処女膜を破ってもよいという契約を結んでしまう……。
隣に座る男は真面目な視線で芝居を鑑賞している。サングラスは渡したままなのか胸ポケットにしまったのか、とにかくしていない。
左手はマーシュの右手に軽く添えられ、離れる様子はなさそうだ。
他の客と同じように忍び笑いをしたり、息を呑んだり。その反応は手を通じて伝わるだろう。
劇は終盤へ向かう。女貿易商の船が嵐に遭い返済が滞ったことを理由に金貸しは訴えを起こす。
裁判では令嬢の婚約者が変装して判事となり、こう判決を下す。「金貸しは女貿易商の処女膜を破ってよいが、血一滴流してはならぬ」。
その後何やかんやで大団円となり、舞台は終わる。
劇が終わった後も役者の挨拶などがあり、拍手をもって応じる。
全て終わった後、満足そうな表情を浮かべつつ席を立ち、手を差し伸べる。
「芝居を小説にしたものを売っているらしいから買おうと思うんだが、いいかな?」
■マーシュ > 「それは、ないです──」
揶揄いじみた言葉を柔らかく否定して、貸してもらったそれをつける。視界が暗く変じるのは──不思議な感覚。
本来なら強すぎる光などから目を守るためのものなのかな、と推察できた。これから劇場の中に入るのなら、必要ではないのかもしれない。
「物語だと一方的な視点になりますけど、……相手側の視点もあるのは興味深いです
………それなりに長時間過ごすようですし、そうでないと居心地が悪そうですね」
飲食物の販売も人気だ。
この演劇の一幕の時間にもよるけれど、先に腹を満たしておくか、あるいは軽食類の持ち込みもできるのかもしれない。
楽しそうな人々の様子を眺めるのに、少し状況を忘れて表情が緩む。
ひとまずは満足したので、眼鏡は外して返却。
視界が急に明るくなったようにも感じて、違和感に少々瞬きを繰り返した。
席に着き、幕が上がれば皆視線はそちらへと向けられる。
それは女も例外ではない。傍らの相手もそうだろう。
隣り合った座席だからか、自然と添えられたままの手に気が付くとわずかに視線を泳がせもしたが。
舞台に視線を誘導するために絞られた照明、芝居にあわせて湧き上がる小さな歓声など。
そういったものにこちらもまた視線がとられてゆく。
内容は、王国らしい物語の組み立てだ。
軽妙な語り口と脚本だから、とはいえ現実にそういった身の上に置かれる女性は少なくはないのかもしれない。
───もっと穏やかな内容でもよかったんですが…!と思うものの、えてして市民の娯楽というのはある程度刺激が強いものなのかもしれない。
際どいセリフ回しなどには若干狼狽えて、重なった手を軽く握りこんだ。
───結局最中はこちらも舞台に見入っていることの方が多かったかと思う。
物語が幕を閉じて。役者たちの挨拶に観客たちの拍手が彩る。
己もそんな一人だ。
全てが終わった後、満足そうな表情でこちらに手を差し伸べる相手に応じながらきっとこちらも少し頬を高揚させていたと思う。
先に立つ相手の言葉には、特に何も思うことなく頷いた。
「はい、………初めて劇というものを観ましたが…素敵でしたね」
■ヴァン > 劇は最近の世相を反映するものが多い。
この国は戦争続きだが、大人数が蠢く戦場は舞台と相性が悪い。
選ばれるのは都市……マグメール、ダイラス、そしてヤルダバオートだろうか。
金貸しが屈折した愛情を女貿易商に向けているくだりも面白い。金貸しはこの一座の看板役者であるイケメンが担っている。
際どいセリフもイケメンがいえば許されることに若干苦笑しつつも、観客からの評価は総じてよさそうだ。
「そうだな。娯楽としての小説を人が演じる。忠実に再現しようとする脚本家もいれば、独自に解釈する者もいる。
登場人物に命を吹き込む役者達、場所を整える大道具……多くの人が携わっている。よい娯楽だと思う」
中身をよく知らない芝居に人をつれていくのは結構な博打なのだが、今回はいい結果になった。
大なり小なり、劇は色々な所でやっている。平民向けの所や、少し足を伸ばして農村の近く。
一緒に見に行く、というのは外出の口実としてとてもよさそうだ。
飲食物を販売するブースは閉まっていた。
対して物販の方は本にポスター、芝居で使われた小道具を模したもの……色々なものが販売されている。
芝居の出来のよさに興奮し、満足している客たちは販売物を気前よく買っていく。チケットだけでは利幅が少ないことを知っているのだろう。
そんな人々でごった返す中、物販の列に2人は並んでいる。男は両手をポケットに入れて、感想を話している。
どこからか羽虫の鳴くような音が聞こえる。舞台では魔導機械を使った演出もされていたので、その音だろうか。
音は断続的にするが、人混みのざわめきに紛れ、よほど意識しないと聞こえないだろう。
■マーシュ > 脚本の良し悪しは、正直分からない。
虚構の中で、それでもそれに見入ったり、感情移入したり。
あるいは劇場の観客たちの感情のうねりのようなもの、が身近で感じられるというのが強いのかもしれない
そこに何らかの意図が織り込まれているのかもしれないが──
ひとまず今は、そんな初めての経験の熱、という方が強かった。
劇団の役者自体についてるファンもいるのだろう。いわゆる悪役に部類する金貸し役の役者にも声援が送られていた。
むしろ多かったほどに。
「同じ脚本でもきっと演じる人が違ったらまた違った反応になるんでしょうね
……初めてでしたけれど、見る側も同じ舞台を作り上げているのかな、と。時折観劇についてお話しされる婦人もいらっしゃいますから勉強になりました」
彼女がどのような物語を好むかは己は知る由はないが。
舞台の良さ、熱といったものは今回のものでも十分知ることができたんじゃないかと、身の裡で感じたままの言葉を紡ぐ。
舞台が終わった後の劇場内は、開演前とはまた様子を違え。
そこでしか手に入らないらしい絵姿や、冊子など。劇団や、役者の活動を支えるための物販の方が盛んになっている。
終幕後の感情のままに思い思いに、あるいは土産話用にと気に入った品を手にしている人々の間にいたのだけれど。
「──………、……」
それは甘えるような仕草にも見えたのかもしれない。袖口というよりは、相手の肘にする、と腕を絡めるようなそんな仕草で。
そのまま少し俯き加減に額を寄せる。
恋人同士が見せる仕草としてならごく自然なそれ。
■ヴァン > 「そうだなぁ……今回は女貿易商と金貸し、令嬢が主役だからね。この顔ぶれが変わるだけで呼べるお客さんも変わると思う。
見る側も――あぁ。観劇のファンは特定の一座とか、特定の役者が好きという人もいる。今回の劇作家も人気があるからね」
趣味の世界は奥が深く、一度はまるとなかなか抜け出せない。
彼女が言った婦人がどのような人物かはわからないが、共通の話題を持つ、ということは良いことといえる。
列を進み、目移りしそうな中当初の予定通り本だけを購入した。複数買っているのは自分用と図書館用だろう。
腕を絡め、身を寄せてくる相手の頭を愛おしそうに軽く撫でる。セットした髪が崩れないように、あくまで軽く。
「次はどこに行こう? お茶でも飲んで一旦休憩する?
あるいは――そうだな。多分、カジノも行ったことはないだろう? 雰囲気を楽しむのも悪くないと思う。昼間ならまだ健全だし」
初めての観劇で少し疲れがでたのかもしれない。短いとはいえ、1時間以上はあった。座って何か飲んで休むのもいい。
半個室というのか、カーテンで区切られているから誰かに見られることもない。
一方で、少し富裕地区に入った所に昼間から遊べるカジノがあることも思い出す。
簡単なカードとルーレット、あとはダイスを使うささやかなものだが、未経験者にはそれくらいでちょうどいいだろう。
買い物を終え、劇場を出てどちらに向かうべきか、それぞれの方向を見遣った後に意見を求めるため女の顔を見た。
返事を聞いたならば彼女が頽れないように、ゆっくりとエスコートしながら歩む。
■マーシュ > 「先ほどおっしゃっていた、様な別の視点というのも興味が出ましたね」
人物描写が巧みだったからか。そういった楽しみもある。それぞれが独立してきちんと描かれているからなのだろう。
礼拝堂に訪れる婦人だが、さほど込み入ったことは話した覚えはない。
それは誰に対してもそう、といえるけれど──。でもそうしたことも話題の入り口としては悪くないのかもしれない。
好きなことについて教えてくれる表情はやはり生き生きとしていたのを思い出す。
列を待つ間、そうして言葉を、時に仕草をまじえ。目的の小説を購入し終えて満足げな相手に軽く頷く。
珍しくおのずから、といえばいいのか……そんな態度を見せた己に対して軽く触れる手のひらに少し目を伏せた。
「……、───ん、……そうですね。
………────……夜は不健全だと言っているようなものでしょう?それ」
カジノについての評価に対してはふ、と、呼気が抜ける。柔らかそうな笑みでもあるし、けれど少し困ったような。
寄り添ったまま一拍呼吸を置いてから──。
「…………………ヴァン様」
こそ、と小さく囁く言葉を耳に届けて、軽く袖口を引っ張る。
覗きこまれた表情は、少し目元当たりの熱を強くしていた。
お茶も、カジノも、どちらもこのまま向かったとしてもおかしくはないし。
普段とは違うことを体験させてくれる気遣いも届いている。だからこんなに早く音を上げてしまうのは、とも思ったけれども。
■ヴァン > 「そりゃ、夜はみんな酒が入ってギャンブルするからね。
昼間にやる遊びとは訳が違うよ」
昼間にカジノにいるのは、手持ちの小銭で遊ぶ者達ばかりだ。手を付けてはいけない金に手をつけた連中は夜に来る。
イカサマや暴力、恫喝が行われる場所は健全とは言えまい。どんな聖人君子も負ければ豹変する。
様をつけて呼ばれて、袖口を引っ張られた。意外そうな表情を浮かべる。
「……さて、と。どうしたものか」
右手を伸ばし、愛でるように頬を指先でなぞる。どこに向かうのが適切か――。
撫でた指先はゆっくりと下り、首筋のチョーカーに沿って指が添えられる。その存在をしっかり伝えようとするように。
「すぐそこの劇場の横にある、人が通らない裏路地。あの角の突き当りにある半個室の喫茶店。
富裕地区に――これを手に入れた場所がある。ここからなら5分くらいか。どこに行けばいい?俺を引っ張っていってくれ」
ポケットに手をつっこむと、決めるのは己ではないとばかりに言い放つ。
どこか潤んだように見える瞳に目を細めながら、返答を待つ。
微細な音がどこかから聞こえる。通行人が「虫か?もう秋なのに……」と言い、手で空を払いながら周囲を見渡した。
■マーシュ > 「……遊び、………業の深いお話ですね」
果たして今、己とどちらが業が深いのか否か、と柔く考える。──まだ考える余裕があるというか。
それだってじりじりと削り取られて行っている最中ではあったが。
昼と夜、様子を違えるとはいえ、そんな場所を垣間見てしまってもいいのかと思わなくもないが──
割と平気で出入りしていそうな相手が、こちらの言葉に意外そうな表情を向けるのに少し視線を逸らす。
気恥ずかしさめいたそんな色。
「───……、…………」
頬をなぞられると幽かに目を細める。
宿っている熱を探られるようなくすぐったさと共に。
首筋に飾られたチョーカーまでたどり着いた指がその境界をなぞるのにわずかに喉を上下させた。
「………、………そうです、ね」
いくつか挙げられた候補に対して、暫く惑う。
そんな余裕もしばらくしたら、軽く肩を震わせて、一瞬呼気を詰めた。
こちらを見つめる眼差しに、ゆるく瞼をおろして視線を切る代わりに絡めた腕に力を籠める。
その肩口に額を預けて、少し呼吸を整えてから。
ゆる、と手を引く形で歩き出す。
「………手に入れた場所で、お願いします」
どこだかは何となく覚えてるが、ここからの道筋はよくわからない、どこの路地に向かえばいいのかを伺うように視線を向けた。
──少し頬の色味が濃くなってはいたが。
■ヴァン > いくつか挙げた候補は、後者になればなるほど距離は伸びるが人目からも離れる。
おそらく最後を選ぶだろうが――。
絡められた腕を抑える力が強くなった。告げられたのは予想通りの場所。
「ここからだとそこの十字路を曲がれば噴水広場が見えてくるから……」
言葉で示し、手を引かれながら平民地区を抜けていく。
■マーシュ > 「────はい。……ヴァンは路地裏の方が好きなのは知ってますけど」
それは小さな意趣返しになったのかどうか。ならないだろうな、と思いながら眉じりを下げた笑みを小さく浮かべ。
いわれた通りに十字路を曲がって、一度平民地区を抜けた道を、ゆっくりとした歩調で抜けてゆく。
手を引くために絡めた指の熱が、じわりと上がるのだけは自覚して──。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からマーシュさんが去りました。
ご案内:「人気の無い通り」にタン・フィールさんが現れました。
■タン・フィール > 閑静な住宅街…として繁栄を見せる前に、此処を取り締まる貴族や富裕層の汚職が発覚したために宙ぶらりんとなった人気の無い通り。
立ち並ぶ建造物はほとんど空き家で見た目ほど住人はおらず、市場までも遠いため、物静かな景観となっていた。
「う~~~~んしょっ…ぅん、っしょっ…!
…ううぅん、なかなか、お店をたてるのにイイところないなぁ…」
そんな街の通りを、縦にも横にも1メートルを超えるような大きな旅用リュックを背負って歩むのは、
裸に桃色シャツという出で立ちのなんとも無用心な格好の小さな薬師の子。
普段の住居とし、店舗ともしている折りたたみ式テントと薬屋としての商品・器具の一式をぱんぱんに詰めたかばんを背負って、
テントを設置するのに最適そうな空き地や、許可を貰えそうな私有地を探し回っていた。
これまで居座っていた空き地に買い手が付いたために、移動せざるを得なくなったため。
王都の外では、街道や野原、ダンジョン前などにも店を開くたくましさを持ち合わせてはいるが、
コンパクトとはいえ道具一式を小さく幼い体に背負っての大移動はさすがに重労働で。
「どこか空き地でもあれば―――っと、ぅ、ぅあっ!?」
華奢な足が歩行の疲れでもつれ、かくん、と膝から力が抜けてしまうと同時に、
ぼすんっ!と背にしたリュックが重力に負け、石畳の地面に落ちる。
後に倒れかかる事になったが、幸いなことにリュックがクッションとなって後頭部の強打には至らなかった。
「う~~~っ…ちょっとでも休まなきゃ…かなぁ。」
小さな薬師は転倒…というには深刻さが足りない間の抜けた仰向け姿で、シャツの裾から生脚とお尻、そしてちらりと男の子の象徴が覗いてしまうのも気づかず、
背負ったリュックに地面に縫い付けられたように起き上がるのも面倒で、しばらく呆然と空を眺めていた。
ご案内:「人気の無い通り」にマツリカさんが現れました。
■マツリカ > 学び舎の教師にお使いを頼まれての帰り道。何やら怪しい色々の発注を終えて、少女はようやっと余暇を手に入れた。
朝食の後に呼び出されて、それから王都の中を巡り歩いて、半日以上を他人に使い潰された後のなけなしの自由時間である。
さて、何をしたものか。いくつかのプランを組み立てながら歩みを進める。気もそぞろな歩みの先は、閑静な住宅街だった。
しんと静かなその通りは、色々と曰くがついてしまった結果、住まう者も居ない空き家の連なりと成り果てている様で、
往来に人気もなく、遠くから微かに大通りの喧騒が聞こえてくる程度。人の営みの気配そのものが、ポッカリと欠けている。
無論、少女もうっかり辿り着いてしまっただけで、この様な場所には用事もなかったのだが――。
「……なんですかね、あれ?」
大通りへの近道を探しながら彷徨ったその先に、何やら不思議なものがあった。
視界の先、通りの片隅を埋めるそれは、旅用の背嚢だろうか。何やらみっちりと物が詰まっている。
こんな場所に置き忘れだろうか。気になってしげしげと観察していると、どうやら上から人の足が垂れ下がっている。
「亀、みたいなものでしょうか」
遠巻きに観察してみた所だと、どうやら起き上がるつもりも無いようで、何やら空を見るばかり。
そして、時折風が吹けば、シャツが捲れてその中身――何故か肌色の面積が多め――がちらりと見える。
長さや雰囲気から推測するに、上に乗っているのは成人ではなく子供に近いのではなかろうか。だとすれば。
「……失礼ながらそこのお方、起き上がれなくなっていたりはしませんか?」
助けが必要かは分からないが、この状況を無視して踵を返したり、横を通るのも気が引ける。
要らなければそんな答えが返ってくるだろうから、と声をかけてみることにする。
■タン・フィール > 寂れた景観の通りを、冷たさを含んだ風が吹きぬけていく。
それが長時間歩行で火照った身体を都合よく冷ましていることも、幼子がすぐさま飛び起きなかった理由のひとつなのかもしれない。
ふぁさ、ふぁさ、とつややかな黒髪が風でなびくなか、その風に乗るかのように聞こえて来る声に、ぱちくりと赤い目を開いて瞬かせ。
「ぅ~~~……ぁっと、ここ、こんにちはっ。
その、つい転んじゃって、荷物、重いから…起き上がるのおっくうだなぁって、ちょっとボーッとしちゃってた。」
吹き抜ける風は桃色シャツの裾をたびたび捲りあげて肌色面積を惜しげもなく晒してしまうが、
誰にも見られていないだろうという無意識化での無頓着と、確実に側にいる誰かの前では、流石に幼子も意識はするようで。
「ふんっ…!っしょ! ぁ、ぁあれ?…よっし… いよいっしょ……! あれ、ぁれ…っ??」
あわてて起き上がろう……と半身を起こすが、1m四方を超え、10キロではきかない重さのリュックは、
仰向けで背負ったまま腹筋運動で起き上がるには幼子には酷な重量だったようで。
「………あのぅ、すみませんっ……起き上がるの、手伝ってもらってもいいでしょか……っ」
泣く泣く、情けなく、手をパーに開いて降参のポーズ。
まだ視認も禄にできない誰か……少なくとも、女性であることは把握しているその誰かに助けを求めて。
■マツリカ > どうしてこんな場所にいるのか、どうして肌着を着けてないのか、等と気になることもあるが、一旦置いておくこととして、
少年と思しき高めの声が返ってくるのを確かに聞くと、申し出には了承を返しつつ状況の再確認を開始する。
何やらみっちりと色々詰め込まれている背嚢は、近寄って持ち上げてみようとしたが彼込みだと当然持ち上がらない。
これは確実に無理だと確信できるズシリとした重量。であれば、方針としては上でなく横方向。転がす形にシフトして。
「では、足側を下に出来るように転がしますので、怪我しない様に気をつけて着地してください」
背嚢の上部――丁度彼の頭が乗る方は、辛うじて僅かに持ち上がる。これを斜め上に押し上げればどうにかなるだろう。
それで駄目なら人を呼んでくるしかないのだが、この格好の彼を不特定多数の晒し者にするのも酷な選択肢な気がして。
更に少しばかり時間をかけて試行錯誤。体重の掛け方などを工夫して、より上手く持ち上がる方式を探り当ててから。
「っと、こうするのが良さそうですね。それでは、行きますよ、せーのっ……!」
しゃがみこんで体のバネを効かせながら、思い切りぐいと背嚢を斜め上へと持ち上げて、転がそうと試みる。
彼が同時に上手いこと起き上がろうとしてくれるならば、どうにか起き上がることも出来そうだがどうだろうか。
全てが無事に上手くいくか、或いは背嚢が破けてしまう等のアクシデントがあるか、神の振る賽の目や如何に。
■タン・フィール > 諸々の疑問が浮かんで然りの状況と光景のなか、ひとまず少年にとっての窮地を救ってくれることに了承を得れば、
素直で無邪気でまっすぐなお礼の言葉が口をついてでてくる。
「ぅっ…うんっ…!ありがとうっ……っ!
えぇっと……りょーかいっ! せーの、で…だねっ。」
背嚢の上部へと移動する親切なお姉さん。
提案されたこの状況を脱する案には、幼子も適していると思えたのか、彼女の試行錯誤中、邪魔にならない程度に背嚢の上で前後に、上下に揺らめいて、
息を合わせて転がるタイミングを見計らう。
「う…ぅんっ……!それじゃ…せーのっ……!」
背にした背嚢が重力に逆らって斜め上に浮き上がる感覚。
声の主が常人を超える膂力を持たない限りは長続きしないであろうその一瞬の隙に、
幼子は先程までは何度繰り返しても無駄だった腹筋運動を懇親の力を込め、バネを活かして起き上がる動作を取り……
びり、ぶちちぶっ。
背嚢の中身に尖ったモノがあったのが災いしてか、摩擦で布地が裂ける音。
引き換えに幼子はごろりと不格好な振り子運動で半身が起き上がることが叶い、
その反動が残っているうちに膝に力を込めてシュタっと立ち上がる。
嬉しそうにその場で足踏みを2~3度行った後、くるりと振り返って
「わっ……っとっととっ。 立ち上がれたーっ!
本当にありがとう、お姉ちゃん!
えぇと……その制服、コクマー・ラジエル学院のひと?」
と、ぺこりと行儀よくお辞儀をして相手の姿をまじまじと見つめ、その見覚えのある制服に興味を惹かれたのか質問を重ねつつ、
空いた背嚢の穴からは薬瓶が数本カラカラと床に落ち、
さらには何やら妖しげなトカゲ類の足の干物のようなもの――おそらくは、背嚢のダメージの主犯――が飛び出している。
「ボクは、タン。 タン・フィールっていうの。
王都のいろんな所でテントを張っておくすり屋さんをしていて、
…今日はなかなかいい空き地が見つからなくって、こまっていたの。」
と丁寧に自己紹介する間にも気づかぬうちに背嚢からはぞろぞろと不思議グッズがこぼれ落ちている。
一般的なキズぐすり、ビーカー、木のコップ、何かの花を乾燥させたもの、エトセトラ。
■マツリカ > 掛け声とともに息を合わせて、共同作業を試みること数回。反動など目視すれば、どうにか背嚢はごろりと転がる。
だが、同時にその耐久限界も来ていた様で、彼が起き上がることに成功した対価は、背嚢がぱっくり破けることだった。
大体七割程の高さの部分で真一文字にパックリと横に裂けてしまった背嚢は、それより上に仕舞っていたものを吐き出し落とす。
それは、石畳に落ちながらも運良く割れなかった薬瓶の類であったり、その材料と思しき様々な素材であったりと様々で。
どうやら彼は薬師であるらしい。とはいえこの荷物の多さは、その矮躯からすると無茶なのではと思える程だった。
「あらら、リュックが裂けてしまいましたね……いえいえ、たまたま通りがかっただけなので、お気になさらず。
――あぁ、えぇと、そうですよ。王立学院の生徒です。まぁ、制服着てますから分かりやすいですよね」
彼の問いには首肯を返しつつ、触れても問題なさそうな物を選り分けて、いくつか拾い上げることにする。
例えば密閉されている薬瓶や木製のコップ、空っぽの器具の類をとりあえずすんなりと抱えられるだけ抱えて。
薬の材料の様に専門的な知識が必要そうと判断したものについては彼に任せるつもりで、手早く片付ける。
「薬師のタン君ですか。私はマツリカと言います。よろしくお願いしますね?
っとと、他になにか鞄の類は持ち合わせてますか?あれば、仕舞うの手伝いますよ。
……ふむ、空き地の心当たりはないですが、ここだとお客さんも居ない雰囲気ですよ」
なければどうにか抱えていくしかないかしら、と苦笑しながらのお手伝い。
なんだかんだでおせっかいな少女は、彼の周りでちょこまかとできる限りの原状復帰に務めるだろう。
物によっては彼に判断を仰ぎながらのお片付け。素手で触れたら不味そうなものは、ハンカチや制服の裾も使って。
夏服の上衣を摘み上げる形で袋代わりにして運ぶなどすれば、下腹部に刻まれた赤紫の文様がちらりと見えたり見えなかったりもして。
ほんの少しばかり羞恥心も疼くが、それより今は彼の助けになること優先。下に兄弟姉妹が居たから、案外面倒見は良い少女である。
「ふぅ、私には何に使うか想像も出来ない色々がありますねぇ」
彼の手元に渡すにしろ、破けた背嚢に上手いこと片付け直すにしろ、楽しみながら彼の手伝いにあくせく動いて。
とりあえず路上に落ちたものを片付け終えれば、一段落と言うことで落ち着くことになるだろうか。
■タン・フィール > 「ぇえ?…ぁ、ホントだっ……結構つかいこんでたから……
あ、わわっ、そんな、落ちたのまで……いいのにっ。
……ありがとうっ マツリカおねえちゃん。」
と、裂けた背嚢とそこからこぼれ落ちた中身を指摘されて幼子が慌てて気づくや否や、
それを拾い上げてくれる相手にますます重ねて礼を申し述べながら、
幼子はこれ以上中身が零れ出さぬよう背嚢をそっ……と下ろし、
触っても差し支えないものはそのまま受け取って、素手のまま触ると痒みや痺れなどを起こす可能性のあるものは、彼女が事前にそうしていたように布類を使って触るよう指示して、ひとまず背嚢の中にもどしていく。
その中には、桃色や紫色の薬瓶も点在していて、殴り書きの文字で「麻痺毒」「媚薬」「肉体変化」と描かれた品も数点あり、そのあどけない容姿が売りつけてるとは思えない商品名がちらほら。
「ぅうん、予備のカバンとかは無いかな。
素材のお花摘み用の手提げのバスケットがあるから、いくつかコッチに入れて……
あとは、かばんに幾つか詰め込み直して、こぼれないようにこうするとか…かな?
それでも少し入り切らないんだけど……。」
数点の品物を背嚢を180度位置替え、胸とお腹で抱え込むようにして、裂け目がこれ以上広がらないように歩いてみるのを試す。
不格好ではあるが、なんとか零さずに歩むこと自体はできそうで。
「ぅん、このあたりだとマツリカおねえちゃんとしか合わなかったから、この先の道に移動しよっかなって。
もうちょっと行ったところが開けた場所になってるみたいだから、
そこなら空き地、ありそうだし。」
と、指差す先は徒歩数分の距離。
確かに建物のシルエットが薄まり、木々や空き地が増えてきそうな通りの先。
「ぅん、キズぐすりに毒消しに魔力補填剤……。
あとは、えっちなコトに使うおくすりとか、いろいろだよーっ
ほら、お姉ちゃんが手に持ってる桃色の瓶も、嗅ぐだけでえっちな気持ちになっちゃうおくすりだし。」
と、あっけらかんと答えて見せる。
その視線はちょっとだけいたずらっぽく、長いまつ毛の赤い目が細まっていた。
どういうものかは判別できなかったが、ちら、とみえた彼女の下腹部の文様、その色合いやデザインを見て、(えっちな柄だなぁ)との想いが脳裏を掠めたのがきっかけで、
けろりと言ってのけたことに対して相手がどう反応するか、少し楽しむように伺って。