2024/09/02 のログ
■影時 > 全て切り捨てて静かになれば、がちゃり、と。何処か惜しそうな響きと共に扉が開く。
さらなる気配と脅威の予兆は今のところない、だろうか。
そう思いつつ血振りのように刀を振るい、羽織の袖で刃を拭って鞘に納めよう。
「この部屋の護衛で間違いないとは思うが、嗚呼、あったあった」
警戒がてら、部屋を見回せば、奥まったところに窪みを見つける。そこには大体宝箱が無造作に安置されている。
蓋付きの施錠されたごついチェストだ。誰かが配置したのか、それとも、魔物たちがそうしたのか。
その真相はわからない。だが、遺跡で見つかったり手に入ったりするものは、大体箱に放り込まれているもの。
見つけた箱の傍に寄れば、手慣れた風情で見回し、背後までしっかり確かめて違和感の有無を確かめる。
箱を開けるにあたり、どれだけ警戒しても無駄ということはない。そこからが鍵開けの技量の見せ所と云う奴だ。
「……ここを、これで、ああして、と」
羽織の内側から鍵開け道具を取り出し、広げて掛かること暫し。僅かな軋みと共に開く箱の中身を改めよう。
底に積もった金銀の古銭に宝石、あとは、一振りの古びた剣。
怪しい気配はない。錆ついている様子もない。鍔を押し、刃の状態を一瞥すれば見える刃の鍛えは
「まぁまぁ、ってトコかね……」
知己が刀鍛冶であり、その仕事の凄さを幾つも見ていれば目も肥えるというもの。
刀と剣の作り方、鍛え方の違いこそあれ、氣を流すまでもなく出来栄えも自ずと見える。
悪くはないが、際立って良い、という程でもない。つまりは普通。だが、初心者が使うには、十分過ぎる出来ではあるだろうか。
そんな感想を得つつ、取り出した大判の布袋に剣を含め、見つけたものを掻き集めて放り込む。
その袋を腰裏の雑嚢へと、押し込んでゆく。魔法仕立ての雑嚢の口はそれよりも大きい筈のものを、にゅっと呑み込む。
一丁上がり、とばかりに手を叩く。余力はある。先に進むか、否か。思案どころだ。
■影時 > 「……これ以上は、危ういな。多分あと1、2回の食事で地上だと一日くらいは過ぎててもおかしかな無ぇ」
迷宮探索で悩み処がひとつ、ある。地上での時間経過、日数経過を確かめるのが難しいということだ。
古からの作法も含め色々と考案はされていたが、正確に測る、と云うのは実は結構難しい。
何せ、迷宮の種類、特色等によっては、階層自体が異空間であるせいで、時間経過の勢いが地上と乖離している場合もあり得る。
まだ食料の消耗具合、はたまた規則正しく燃えるように工夫した蝋燭を火時計と成す方が、かえって正確であることも珍しくない。
魔法の鞄は種類によるが、非常に大量の物資を詰め込めるのはいい。だが、それも塩梅を考えないとまずい。
予め分量を定め、購入しておいた食料と水はおよそ2日分。万一の際の非常食もあるにはあるが、手を付けるのは余程の時位だ。
「戻るか。戻って報告と、あとは鑑定を頼みに行くか……」
決断すれば行動は早い。くるりと踵を返し、周囲の変化も含めて気を配りながら進行経路を逆にたどる。
時折足を停め、記した地図との整合性を計り、再確認しながら地上を目指そう。
帰還を果たせばギルドに報告がてら地図を提出し、馴染みの商会に発見物の鑑定を頼み――。
ご案内:「無名遺跡」から影時さんが去りました。