2023/12/04 のログ
レイ・L・アイリス >  
彼女の言葉にふ、と笑みを浮かべて表情を崩した。
威風堂々とした立ち振舞から一変し、柔らかな雰囲気だ。

「そう言うなら、アナタも畏まらないでくれ。
 私はマグ・メールから見ればよそ者だし、既に"卿"と呼ばれる立場でもない。」

「今はただの自由騎士の一人だ。気軽にレイと呼んでくれ。」

亡国の立場も肩書も、この地では何の意味をなさない事を知っている。
元より立場を固執する訳でもない。状況はともかく、お固く話される立場でもない。
レイなりの気遣い。緊張状態でも、せめてもののリラックスになればいいと微笑んだのだ。

それでもきっちり締める所はしっかりしている。
彼女の話に耳を傾ければ凛とした表情に戻り、思案顔。
騎士である以上、話には聞いていたが思ったよりも戦況は硬直しているようだ。
単純に王国側の士気の問題もありそうだが、相手の戦力も侮れない。
長期的に見れば、王国側の勝ちは見えそうではある。
ただ、戦とは最終的には消耗合戦。時間をかければどうなるかなど、火を見るより明らかだ。
民を憂いるレイにとっては、その"後"の皺寄せが民に行かないか心配で仕方なかった。

「相手の戦力もさることながら、我々の方も寄せ集めか。
 黎明騎士団(わたしたち)はともかく、傭兵団や冒険者は大丈夫なのか……?」

何よりもそれが"まともではない"人種ならば士気に関わる。
少なくとも、ヨハンナの口ぶりはそういうものだ。
ちょっとした士気の緩みで、兵隊が瓦解するなど存外簡単なことだ。
訝しげに目を細めるレイの表情は険しいものだった。

「……エイコーン、か。どんな代物にもよるが、寄せ集めだけでなんとかなるものなのか?」

それほど手こずる戦力と成ればこそ、"寄せ集め"でどうにかなるのかの不安は聞いて然るべきことだ。

ヨハンナ > 「……ではレイ団長と呼びましょう」

そう言うヨハンナの様子も、口調も変わりはない。
それが素なのか、あるいは何事にも動じないのか。
レイと同年代であろう女騎士団長はポーカーフェイスのままだ。

「大丈夫ですよ、傭兵(彼ら)は誠実に金を払えば誠実に仕事をします。
貴族の騎士のように政争に振り回されたり、変な大義や信念で戦いを放棄することもない」

自身もその貴族の騎士であるはずなのだが、ヨハンナは淡々と述べる。
実際、彼女の騎士団も傭兵を補助に雇うことは多いのだ。
冒険者とはあまり縁が無いが、彼らも金を払えば仕事はしてくれる。

「しかしエイコーンは……倒せる者もいますが、基本的には蹴散らされないのでやっとです。
ですが、王国正規軍にとって貴重な時間を稼いでくれます。
連中がエイコーンを戦わせて休んでいる間、我々も傭兵や冒険者を戦わせて休みが取れる」

最終的には、軍の戦力で打ち倒す必要がありますが、と付け加えるヨハンナ。
そして、図面上の駒の一つを指す。戦線より少し離れた、後方の駒。

「現在我々熾天使騎士団は予備兵力として動いています。
前線に強力な敵兵力、それこそエイコーンのようなものが現れた場合に急行し、
それを討ち取る。つまりは火消しです」

ヨハンナは、レイを見据える。

「黎明騎士団にもこれと似た任務を任せたいのですが…用意できる戦力はどれぐらいでしょうか?」

レイ・L・アイリス >  
「ああ、好きなように呼んでくれ。」

随分と生真面目な女性のようだ。少なくともレイにはそう見えただろう。
彼女のような騎士がまだ王都にいると言うだけで、十分な報酬には成り得るだろう。

「言うべきことには一理ある。まともな傭兵ならそうだろうな。
 ……いや、それでも腐っている連中よりはマシか。難しいところだな。」

しかし、それは裏を返せば"報酬次第では寝返りかねない事"。
大義や信念を抱かない、理由なき強さ。
傭兵の事を完全に信用していない訳では無いが、全てを任せるのは難しい。
忠言一つと思ったが、そこは敢えて口にしなかった。
ただでさえ緊迫している中、わざわざその代表の士気を下げる真似は握手だろう。
一応、今が上手く回っているのなら今はそれでいい。静かに首を振れば、くすんだ金髪がざんばらに揺れる。

「そうだな。事実そういう意味では、我々がこうして話している余裕もあるというわけだ。」

盤上に視線を下ろせば、ふむ、と頷き一思案。

「"火消し"か。体よく言えばだが、貧乏くじだな。」

なんて、思わず苦笑してしまった。
恐らく自分たち以外にも兵力はあるだろうが、こういう役割を任されるという事は、そういうことだろう。

「戦力で言えば遊撃として私、魔術師が二人、騎馬が三人、重騎士が一人。
 数で言えば少数だが、"精鋭"と思ってくれても構わない。」

驕りではなく自信だ。
少なくとも未だに誇りを失わず、自由騎士として尚今あることが何よりの証明だ。
見据える瞳を、見返す黄の双眸。思わずふ、と微笑んだ。

「大丈夫だ、ヨハンナ殿。確かに、クセの強い連中だが我等が役に立つ事は証明する。
 それに、我等に気遣いは無用だ。民を守るためなら、如何なる時も生命を賭けよう。」

それが、聖騎士としての誓いだから。

ヨハンナ > 「…大丈夫ですよ。敵の主力も傭兵、敵が用意できる報酬で雇える分は既に雇われています。
そもそも彼らも商売です。いくら高額の報酬を吊り下げられたとて明日の無い雇い主に付く連中はいません。
それに、裏切っているのは傭兵だけではないでしょう?」

レイの言わんとしたことを察したのか、ヨハンナは語る。
クシフォスとその配下の騎士団。名の知れた騎士であった彼は何があったのか、今は血の旅団の一員だ。
エイコーンの出現以来クシフォスは姿を見せず、配下の騎士の活動も減っているが、それでも未だに最大の脅威である。

「……貴女のような騎士は、困難な状況に置かれることこそ誉に思うと考えていましたが。
まぁ、その認識でも間違ってはいません。我々寄せ集めは貧乏くじを引かされ続けている」

ヨハンナは初めてため息をつき、感情らしいものを滲ませた。
時には冒険者等とも共闘し、エイコーンを倒す。誉はあるが大変な任務だ。

「七名ですか…十名は欲しかったですが、仕方ありませんね。
我々からも補助の兵を出しましょう。石弓兵(クロスボウマン)あたりがいいでしょうか」

ヨハンナの熾天使騎士団は現在、細かな部隊に分かれ冒険者や傭兵と混成部隊を編成して任務に当たっているものが多い。
勿論、状況が変われば集結し、重騎兵隊として働くのであるが、
強いとはいえ少数で神出鬼没のエイコーンに対しては大きな部隊では対処が遅れてしまうのだ。

「それに、一度は私も同行しましょう。貴女の騎士団の戦いぶりを見ておきたいです」

レイ・L・アイリス >  
「────御尤もだな。すまない、気を使わせた。」

今回の騒動で波乱を巻き起こしてる渦中の人物。
厳格なる騎士が如何なる理由で裏切ったかは想像に尽くしがたい。
ただ、レイ自身は"さもありなん"と思うほどには、マグ・メールに見切りをつけていた。
少なくとも、この国に捧げる誉れなどありはしないのだろう、と。

「生憎、我々は死地に向かい、御印を立てるなどと言う事は言わない。
 我等黎明騎士は、弱き者を護ることが誉れなんだ。この戦だって、その過程に過ぎないんだ。」

騎士である以上、栄誉ある誉れであることは理解している。
ただ、それ以上にその本質を見失ってはいけないのだ。
聖騎士は盾であり、戦を蹴散らす剣ではない。
護るべき背中に危機が迫っているのであれば、如何なる相手を選ばないと言うだけだ。
ほんの少し微笑みながら、静かに首を振った。

「人数が少ないことは謝るが、気遣いは不要だ。
 その戦力は、ヨハンナ殿の部隊として使ってくれ。」

飽くまで黎明騎士団として雇われるのであれば、騎士団のみでやってのける。
決してそれは驕りではなく、確かにレイ自身にはそう言い切れる自身があるようだ。
彼女の言葉にはほんの少し困ったように眉を下げ、小首をかしげた。

「他人に見せるようなものでもないが…そうだな、ヨハンナ殿が失望しないようには戦ってみせるさ。」

ヨハンナ > レイの謝罪に、ヨハンナは頷く。
彼女は高潔なのだろう。高潔故に、高潔でない者のことは分からない。
傭兵は確かに欲深く、粗暴で、柄が悪い。だが分かりやすい目的で動いている。
むしろ、金銭以外のものを求めて戦う者のほうが容易く離反するものなのかもしれない。

「成程…。この戦いは内戦です。長引けば国は疲弊し、勝利したとしても立て直すのは容易ではない。
敵は血の旅団だけではありません。タナール方面では魔族との戦いが続いています。
ハテグもまた不穏です。……ここだけの話ですが、敵は北方帝国(シェンヤン)と繋がっている可能性があります」

今は違うとはいえ元は王国で戦っていたレイである。
知らせても大丈夫だと判断したヨハンナは、エイコーンにまつわるきな臭い疑惑を口にする。
もしも血の旅団の蜂起が敵の策略であれば、それを鎮圧した後が本格的な戦いの始まりかもしれないのだ。

「ふむ、では派遣するのは伝令だけにしましょう。情報のやり取りは重要になりますから。
それと…同行は個人的興味もあってのことです。貴女の噂は聞いていましたが、戦っているところを直接見た事はありませんでしたから」

彼女は元王国軍。当然、王国騎士のいくらかには名が知れている。
今回ヨハンナにレイを紹介したのも、かつての戦友の一人だという。

「それでは、特に他に無ければ、貴女方の為のテントを設営しましょう。
食料、飲料、馬の飼料、その他の物資も我々が提供します。
雇用主としての責任ですからお気になさらず」

ヨハンナはテーブルを回り込み、レイの方へと歩いてくる。

レイ・L・アイリス >  
「それは此方も危惧している。早急に討伐は必要だと思って入るが……成る程。
 マグ・メールを疲弊させるために、か……もし、事実だとしたら、なんとも言えない虚しさだ……。」

何方も此方も、我欲めいた気持ちで国を疲弊させている。
末端まで流れる血液という人も徐々に腐り、何方もいずれ腐り落ちる。
小さな花にも名前はあるというのに、只々憤りを感じるしかなかった。
険しく眉間にシワを寄せるも、一つ深呼吸。この怒りは、此処にいる誰にもぶつけるべきものではない。
今はただ、此れは自らの原動力として飲み下し、薪とするのみだ。

「……噂?ふふ、王国騎士に不義理を働いた曰く付き騎士団、とかか?
 確かに一度は流れ着いた身、この国に忠誠を捧げようとは思ったが……。」

「……我等の求める正義は、其処にはなかった。まぁ、どんな噂だろうと私は気にしない。
 私が黎明騎士団になった時から、選んだ道には間違いはないと思っているからな。」

自嘲気味に微笑むレイはそれでも尚、現役騎士に面と向かって言ってのけた。
確かに元は流れ着いたこの土地に忠誠を捧げる事も考えた。
だが、既に腐敗しきっていたこの国に、騎士団に求める正義は存在しなかった。
悔しい話だが、亡国の騎士団にそこまでの政治力はない。それを得る頃には、きっとマグ・メールは滅んでいる。
ならばせめて、主なき騎士団として民を護るのみだ。その行動に、一点の雲は無い。
そうでなくては、今の今まで黎明騎士団にはいられない。
柔い口調ではあるが、確固たる信念がそこにある。

「ああ、設営は我等も手伝おう。自分たちのテントだからな。
 ……戦前だ。それは受けさせてもらうよ。ありがとう、ヨハンナ殿。」

ヨハンナ > レイが王国の正規騎士団を離れた理由を、ヨハンナは目を瞑って聞いていたが、
やがて、静かに語り始める。

「我々貴族は王国、王族の臣下ですが…大抵の場合、領民に責任を負う領地の主でもあります。
故に、王国が我々に不義理を働くなら、我々もまた領民を守るために遠慮なく王国に不義理を働く。
……王国が仕えるのに値しないものであれば、貴女が王国を見限るのも当然でしょう。
もっと言えば貴女には王国を出ていく選択肢も、王国の敵対国に仕える選択肢もあった。
でも貴女はそうしていない。今も王国の民の為に働いている。それは誇るべきことです」

レイの行動に対する、己なりの評価を述べる。
シビアな貴族世界由来の価値観は、義理人情とは程遠いもの。
それでも、己より弱い者を守ろうと言う意志は変わらない。
レイのそれは幅広く、ヨハンナのそれは己の領地に限定されるだけだ。

「いえ、大丈夫ですよ。旅路でお疲れでしょう?我々にも誇りというものがあります。
……それより、仮設ですが魔導機械を利用した浴場も設置してあります。後で如何ですか?」

移動式の野戦浴場は、熾天使騎士団の自慢の一つ。
これから共に戦うことになる黎明騎士団に対し、彼らの盛大なもてなしが今、始まろうとしていた…。

ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」近郊の野営地」からレイ・L・アイリスさんが去りました。
ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」近郊の野営地」からヨハンナさんが去りました。