2023/09/30 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から八蛟さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に影時さんが現れました。
■影時 > ――この頃になると、出歩くことがある。
冒険者という生業をやり始めて、それなりに経っていれば人の生き死によく遭う。
救うこともあれば看取ることもある。
看取れれば良いとして、救出依頼を受諾して赴いた先には、ほんの僅かな生の痕跡しか無かった、ということもある。
切り取れる遺髪を除き、持ち帰れないような遺体については止むを得ず埋葬することも多い。
カタチばかりとはいえ、石を積んだり木の枝を立てて作った墓標を巡り歩くのは――。
「…………功徳になンのかどうか、分かったもんじゃぁ無いなぁ」
――と。街道から離れた山中、雑草が生い茂る山の中腹にて零す男の姿が在る。
ぼつぼつと顔を出す白い岩の一つに座し、腰から外した刀を肩に立てかけながら、盃を呷る。
朝にふらりと出かけ、覚えている限りの墓標に手を合わせていれば、時は既に夜。
傍らに置いた背負子と括りつけられた籠の中身は、干し肉と干し果実の包みと酒瓶しか残っていない。
否、“しか”というのは語弊があるか。
岩肌の上で走り回ったり、ごろ寝する小動物たちが集めたどんぐりや花の種も入っている。
「とは云え、多少は善いと思えるコトした後に呑む酒というのは、悪くない」
そんな小動物達を傍に置きつつ、空を仰ぐ。
寒々しい位に澄んだ大気の中、良く晴れた夜空には白く白く。丸く輝く月がある。
丸い団子でも拵え、ススキでも飾りたくなる気持ちになるが、生憎と持ち合わせがない。
今丁度あるのは、呑み始めたばかりの酒位なものだ。
蒸留され、研ぎ澄まされた酒精が程よく喉を刺激し、臓腑に落ちる感覚が快い。
■影時 > 酒杯自体の大きさが小さいとなれば、自ずと瓶から注ぐ回数も多くなる。
買い求めた酒の謳い文句は、ドワーフ仕込みの火酒、生命の水、やら云う類であったろうか。
冷やされり、温めとはいえ素朴に醸造された麦酒の味わいも良いが、こういう喉を焼く程の強い酒も良い。
値は勿論張るが、薬研や調剤をする際、強い酒を溶剤にすることもある。
だから、必要経費とすることもできる反面、呑み過ぎると差し障りが出てくる。難しいものだ。
「……あー。この辺りは昔戦場になった、とも聞いたか」
墓参りめいた行脚を終えれば、あとは王都まで走って戻るだけ――だが。
だが、ふと、思い出したことがある。
砦が建っていたのかどうかは、分からない。だが、何処か整然と並んだような岩の群れは城址のそれを思わせる。
まさかなァ?と思いながら、月を肴に呑む手を止めて周囲を見回す。
掘らなくとも髑髏が草に埋もれていた、というのも昨今珍しい類ではない。
■影時 > 「……諸々纏めて、鎮めたりできる徳も何も無ぇぞう? 仮にそうだとしても、化けて出てくれンな」
死人は語らない。死人に口なし。だがしかし、時に死者は地から這い出て闊歩する。
それが如何なる所以もしくは術の仕業かどうかは、色々だ。色々ある。
冒険者の依頼の中には、大量のアンデッドを掃討する、片づけるというものもある。
物理的に骸を損壊するのではなく、忍術で吹き飛ばすでもなく、浄化して鎮めるのは己にも出来ない。
特に今の装いと装備の場合、大立ち回りに欠かせない火薬やら術符やらの持ち合わせがない。
片目を眇め、拡がる雑草の海を眺め遣りながらぼつと零し、背負子の籠の中に手を突っ込む。
「ン? ああ、お前らの蓄えは盗らねェよ」
それを自分たちの蓄えを盗られる、と思ったのか。
走り回ってた小動物のうち、シマリスが男の肩上に攀じ登り、尻尾を大きく振り回してみせる。
盗らんと云いつつ、掴み出すのは出立時より残っている包みの一つだ。
見覚えがあるものと思い出したのか、ほっとする気配と共に尻尾を降ろす姿がぢぃと己を見る。
「……仕方ねえな。ほれ、ヒテンも喰うだろう?」
包みの中はリンゴや棗を干したドライフルーツや、干し肉だ。
その前者については、子分たる小動物たちも好みらしい。分けられた干し果実をそれぞれが抱え、齧ってゆく。
もしゃもしゃと歯を立てる姿を眺め遣りつつ、干し肉を齧り、酒を呷る。