2024/08/24 のログ
ヴァーゲスト > 黄昏時、逢魔が時、色々言い方はあるらしい。
対峙する相手の顔が見辛い時間、昼と夜との狭間の時間。
我がパトロン様はその時こそ都合が良いとの事らしく、護衛である自分に金を握らせて我先にと祭りへと繰り出したらしい。

らしいというのは、護衛対象の男との待ち合わせ場所に足を運んだら、何時雇ったかわからぬパトロンの男の代理人という人間に硬貨の詰まった革袋を渡されて説明を受けただけで、詳しいことは全くわからない。

――…兎も角、本日の仕事はキャンセルとなった。
マア、祭りを楽しむだけの予算も十分にありじゃあ暇を潰すかと、迷うことなく陶器の瓶に入ったエールを買ったまではよかったのだが、祭りって事でどこも座れる場所がない。

「あー……宿に戻るにも……。」

宿に戻るにも護衛対象のパトロンの男が鍵を持っている。
どうせ宿に泊まらずどこかの教会を視察する癖に、鍵を持っているのはそのパトロンの男、で、仕方なく目についた教会に足を運ぶ。

本当なら神聖な場所で酒をあおるなんてダメだろう。
まあ今日は祭りだから神様も見逃してくれるだろう、と、その教会の扉を古傷だらけの利き手の甲でゴンゴンとノックする。

「えー…誰かいるか?いないよなー?いるかー?」

返答が無いことを祈りながら。
少し枯れた低い声色で誰ぞかいるか尋ねる。
いないなら喜んで扉を蹴り開けてここを酒場とさせてもらおうか。

ナラン > 「―――……」

何しろ仕事を終えた後のこと。少女に頼まれたことを成すことに全く苦は無かったがいささかくたびれていたらしい。
女は鐘楼の手すりにもたれて外を眺めていたつもりが、頬杖をついてうとうとし始めていた。

鐘楼を抱えた尖塔は入り口からかなりの距離がある。女が起きていて入り口を見下ろしていれば人影に気づいたかもしれないが
訪いを告げるノックも風に吹き散らされてしまって外からも内からも女がいる場所までは届かなかった。

教会の扉は常として開かれている。
正面扉から中に入ればすぐに礼拝堂だろう。蝋燭の明りが点々と灯されてはいるが、告解の部屋も人気はなく、今はしんと静まり返っている。
入ったところで、しんとした静寂が侵入者を迎えるだろう。
鐘楼へ向かうには礼拝堂の奥の階段から向かう必要がある。見つけるのは困難ではないが、聳えるように見える長い螺旋階段は初見のものを怯ませるに十分、かもしれない。

ヴァーゲスト > (返答ナシっと……。
 暫く滞在するから出来れば厄介事は避けたいからな。)

教会の扉をノックした結果、誰からも返答がないとわかればこれ幸いと、口端の片側を釣り上げてクッと少々苦み含んだ笑みを浮かべ、教会の扉を出来る限りそーっと開けて身体を教会の中へと滑り込ませると、後ろ手で扉を閉める。

隻眼の眼、その黒い眼には扉を開けた事で入り込んで空気に揺らめく蝋燭の火、その蝋燭を支える燭台、凛と静寂に包まれた空気に少々気圧されるが、首を左右にコキと捻ってから興味なしと視線を外し、酒を飲むのによさそうな場所を探して視線を教会の中へと巡らせた。

隻眼の眼が視線がピタっと礼拝堂の奥で止まる。
そこに上に上がる階段が見える。
つまり其処から高い場所に行けるか、あるいは神父や関係者が休む部屋が有るはずだ。

「酒を飲むのに神様の前ってのもアレだ。
 悪いが部屋を借りるか、見晴らしのいい場所を借りますよっと……。」

独り言。
どうせ誰も聞いちゃいない。
愚痴るように言葉を吐きながら、階段に向かい、そこから礼拝堂よりも雰囲気のある長いらせん階段を上り始める。

カツカツカツと、足音を消すこともせず足音を響かせる。
誰かいればそれはそれでって感じで遠慮もなく、多少小走りのリズムで、らせん階段を一段一段上がっていけば鐘楼までたどり着くだろう。

――…その先に誰かいるとも知らずに。

ナラン > 時折つよくひゅうと吹く風は、夏の終わりを告げるように少しだけ冷たい。
吹かれた拍子にシスターベールがばさりと顔に掛かって、流石に意識を取り戻した女は持たれていた姿勢から背筋を伸ばす。
瞳をこすりながら改めて街を見渡す、―――と、祭りの会場の方から光が打ちあがるのが見える。何事かと女が目を見張っていると、それは夜空に光の花を開かせた。
それから遅れて、ドン、と肌を震わせる音。

「…花火」

見るのは初めてではないが、経験は少ない。
2番手があるのではないかと思わず手すりから身を乗り出す様に見ていると――――

「!――――…」

背後からの音に素早く振り返る。まだ少し遠い、しかし確実に近づいてくる、迷いの無い足音だ。
固い靴音からして件の少女や、他のシスターとは思えない。
吹き抜けの鐘楼に隠れる場所などない。出来るとしたら、できるだけ闇の濃い場所に身をひそめることだろうが
万が一教会の関係者であれば、それは不自然な行動のようにも思える。

結局女は、足音と相対するように手すりに背を預けて訪問者を待つことにした。
片手はそっと背中側に回して、帯の後ろにさしてある、短剣の感触を確かめる。

上ってきた相手には、月光を背にして佇む女がすぐ目に入るだろう。明りを背後にして、表情までは読めないかもしれない。気配を読めるなら、殺気までとはいかないあふれる警戒心は感じられる筈だ。

ヴァーゲスト > 賞金稼ぎや護衛なんて仕事をしていると、他者が警戒する感触はそれとなくだが察知出来る――…筈なのだが、それを感じる前に聴覚に響くは空気を震わす炸裂音に、眉間に皺を寄せ顔を顰める。

花火。
祭りだからそりゃあるだろう。
あると思っていたが、薄暗い螺旋階段を上っている最中では花火が打ちあがる予兆も感じれず、不意打ち気味の音は不愉快で、意識は全部花火の音に持っていかれ、鐘楼まで階段を上った先に見えた人影に遅れて気が付いた。

誰かいたか?
誰だ?関係者か?
と、考えが頭の中を巡る前に隻眼の眼に映る夜空を照らす月を背負い佇む人影に言葉を漏らす。

「……月の女神?」

と、気取った言葉を並べたつもりはない。
だが、月の輝きを背にして佇む女の姿に先ほどまでのしかめっ面を溶かして呆けた表情を浮かべて、そんな言葉を吐いた後に、……黄昏時は終わりを告げて、もう花火が輝く夜だったことに気が付いた。

隻眼、逆光で女神?さんの表情は読めない。
だが、そんな言葉が出るほどに息を飲むほどに美しく見えた女に隻眼の眼は吸い寄せられたように離せない。

後にあふれるこちらを警戒する気配に、慌てて両手をあげて、悪い侵入者じゃないぞ、とアピールする事となる。
――…で、両手を挙げたことで、陶器の酒瓶が、落ち、幸い割れることはなかったが、代わりにコロコロとらせん階段を転がり落ちていくこととなる。

ナラン > 上ってきた相手は上背のある男。
衣服からして教会の関係者ではない―――少なくとも解りやすく『そう』ではない。
それを見止めると同時に女の警戒心が膨れ上がる。後ろに回していた手に力がこもったところで

「……―――っ」

相手から聞こえてきた言葉に目を丸くする。シスターの服を纏っているからだろうか。それとも。
月光を背にした側の女には相手の姿はつぶさに見える。市井の人間ではない。おそらくは街の外から来た冒険者か何かだ。そんな相手が、なぜ教会へ?しかも、こんな尖塔まで?

一瞬あっけに取られた思考がまた警戒心を纏い始める。隻眼の相手を鳶色の瞳で見据えたまま、じり、と腰を落とし始める。

――――と

「――――!っ …」

相手が両手を挙げたのと同時、ドン、と今度は近くから響く音。狩りで鍛えられた女の視線の動きは、階段を落ちていくそれが何であったか捉えるには十分だった。

くすくす、と少し構えた姿勢のまま肩を揺らし始めると、背中に回していた手を口元に当てる。
ごめんなさい、と口元を押さえたまま言った後、微笑みをたたえた表情で男に向き直った。

「…すみません、お祭りの今日に教会へ来る方がいるとは思わなくて。
 …告解に来ていただいた…わけではないですよね?
 だとしたら、申し訳ないのですけれど」

背筋を伸ばして、降ろした両手を前で組んで見せる。こちらも何もしない証。
目が慣れてくれば、相手からも向かい合っているのは只の人間だと解るだろう。…纏っている服に、聊か無理をさせている部分はあるものの。

風に乗って、花火のものだろう、火薬の匂いが少し漂ってくる。よくよく耳をすませば、とぎれとぎれに音楽も聞こえてくる。

ヴァーゲスト > どうしたものか、どうしようか、やっちまった。
頭の中を駆け巡るのは自分の口から出た気取った言葉への後悔と、誰かが居ると思わずズケズケと教会に入り込んでしまった事への懺悔と、陶器の酒瓶をもっていた筈の利き手がやけに軽い事への嘆き、他、諸々である。

ただ幸いな事に隻眼に映る月明かりを背負う人影から警戒の色は解けたようで、それだけが救いではあるが、らせん階段を下って行ったお酒は登ってくることはないだろう。

近くで花火のはぜる音ともに陶器が割れる音も聞こえた。
救い難し、掬い難し、という奴なのかもしれない。
気を取り直して女神もかくやという美人さんの方に意識を向け、にぃ、と口の片隅を持ち上げて笑みを返してから、もちあげていた腕を下ろし、下ろす間際に酒瓶が手持ち無沙汰になった手を自分のあご先に添えて。

んっ、と咳払い。

「悪い、誰もいないと思ってお邪魔をさせてもらった。
 何、告解に来たわけではなくてだ、そのなんだ……用件は今しがた済んだところだ。」

言葉を終えたところで隻眼の眼を自分の肩越しに螺旋階段にチラリと向けた後に少々大げさな溜息を吐き出し、自分もなるべく身に着けている武器から手を遠ざけて、敵対も何もするつもりがないことを重ねてアピールしながら、代わりに遠慮も配慮のかけらもない視線を目の前の美人さんに向ける。

「……アンタ、失礼名前を知らないもんでアンタ呼ばわりしちまうが、アンタも……シスター……にしては、その聊か扇情的つーか、なんだ、一晩いくら女にゃ見えないし、何もんだ?」

うむ、視線の先で聊か無理をしている布が浮かび上がらせるアレこれは大変美味そうであるが、あえて言葉を濁したのちに、何者かと…教会の関係者だろうが、訪ねてみる、訪ねてみながら火薬の香りに少々鼻が痛いが、美人さんとの距離を詰めるために一歩だけ前へ、だって美人は間近で見るにかぎるだろう。

ナラン > 酒瓶が階下で割れる音までは女に聞こえない。だが彼のちょっとした表情から(あと、ちょっとした自然の摂理から)、彼の元々の『要件』がどうなったのか
察した女は、更にまたくすくすと肩を震わせた。

「…そうですね、済んでしまったみたいで。
 代わりに告解をしたくても、今日は皆さんお出かけで私が留守番なんです」

遠慮のない視線は冒険者生活でだいぶ慣れた。あとはシスター服を纏っているせいだろうか。どことなくシスターを演じる気分になっているようで、その彼の視線を許しているようでもある。

「ちょっと、今日は急遽交代で……」

正体を探るような男の言葉に、女は少し視線を伏せて言いよどむ。相手が踏み込むのが見える。女は風が吹いて耳を打つシスターベールを片手で押さえると、再び視線を上げた。

「…… 隠しても仕方がないですね。 ここのシスターにお留守番の代わりを頼まれたんです。私自身はしがない …冒険者ですよ」

近寄られれば一層解るだろう。日がな神のために祈りをささげているかよわいシスターとは思えない、手の傷や、やや短い寸足らずのスカートから覗く野性的に引き締まった足。
胸元は黒い服だからきっと凹凸までは解らない…はず、と女は思っている。
何となく、名乗ることはしなかった。近づいた彼を必然的に見上げるようにして、女は首をかしげて見せる。

「本当に本物の留守番なら、侵入者は出ていってもらわなくてはならないと思うんですけど、生憎そこまでは頼まれていなくて。
 ここには残念ながら代わりの『要件』は無いですけど…水なら、あります。折角ですから飲んでから戻られますか?」

相手に他の目的があるようには思えない。もしそう見えたら、頼まれていなくても『つまみだし』たろうが
そうではない相手に、いちいち事を荒立てる必要は無いだろう。そこまで考えたら、ここまで登ってきて『要件』が消えた相手が急に苦労性に思えた。
女は腰の後ろに吊るしておいた水袋を探って差し出す。何の変哲もない水だが、この教会の井戸で組んだばかりだから変なものではないはずだ。

また遠く、女の背後で夜空が明るくなって少し遅れてドン、と震える音が轟く。
女は思わずそちらを振り向く。拍子に差し出していた水袋から水が少しこぼれて、慌ててごめんなさい、と謝った。
頭上では巨大な鐘が吊られているが、月明りと夜風を受けてほんの少し少しゆれるだけ。音のない映像のようだ。

ヴァーゲスト > 月の女神と見紛うた美しい(好みな)シスターとの距離が縮まる、警戒されれば踏み止まるだけの緩やかな動作で、拒まれればピタリと止まるつもりで、ゆるり、と一歩だけ距離を詰めて、改めて風に悪戯されて揺れるベールを抑える姿がグっと来る美人さんを隻眼で見据える。

言葉よりも何よりも黒を基調とした地味な衣装の中に好奇心が誘われて仕方がないが、確かに美人さんが言う通りに、その手は美しいだけではなく冒険者らしい傷が見えるし、捲りたくなる裾から見える引き締まったそのおみ足も、確かに【冒険者】に相応しい足に見えた。

「こんな祭りの日に……いや祭りの日だからこそ留守番ってわけか、ご苦労さん。」

隻眼の視線はその手からスカートから覗く足へと移し、労いの言葉を向ける頃には留守番役をしている女の相貌へ鳶色の瞳へと落ち着かせると、見上げるような視線の角度から首をかしげる女からの提案に自分のあご先に添えていた手をそのままに、また、「んー」と小さく唸り悩んだ表情を浮かべ。

「要件がなきゃアンタの邪魔をしないように帰るか、何て普通なら考えるんだが、折角の女神さんのお誘いだし、水くらい頂いてから帰る事にするわ。」

そうせっかくの美人の誘いを断る、何て勿体無いことはしない、水でも何でも喉を潤すついでに、もう少しこの美人さんとの絡みを楽しんでいこう――…どうせパトロンの男も同じようなことをしてるんだろうし、と、好意にのることにしたのだが、一瞬だけ警戒を。

この美人さんが悪いわけではないのだが、井戸水。
ここの教会は真っ当なハズであれば普通の水だが、まあ、変なものではないだろう、生活用水までお祭り仕様にする必要はないはずだ。

だから素直に水を受け取るために。
もう少しだけ女との距離を、もう一歩だけその距離を詰めた刹那に――…花火の音。

空気が震えて
水が少しこぼれて
彼女の唇から謝罪の言葉が紡がれて
釣鐘がゆらりと少しだけ揺れて

音のない映像のような一瞬。

乾いた唇で思わず呟く。

「……綺麗だな……。」

と。

月の輝きだけではなく、夜空に咲く花火の眩い色すら背負った女を見て、つい、そんな一言を紡いでしまうのだった。

ナラン > 隻眼の視線が、自分が思っているような位置にちょっと無いような気もしたが、隻眼だと焦点が少し違うのかもしれない。些細なことだ。
相手も冒険者なら、この都市には何か依頼があってきたのだろう。聞きたい気もするが、楽し気なお祭りをフイにしてお酒を嗜もうという相手には野暮な質問のように思う。

「苦労、というほどのことは無いのですけど。
 …そうですね。かわいらしいお嬢さんの恋を応援できたなら、依頼料を受け取ってする仕事より上等、という気がしませんか?」

苦労、と言葉にされるとなんだか重々しい。ここの少女の頼みはそれにそぐわない気がして、女は悪戯っぽく笑って言葉を返す。
差し出した水袋に一瞬警戒されるような気配を感じると、女は笑みを困ったようなものに変えた。信用されていないのかもしれないが、それはそれだ。

その頃にドンと音がして、水がこぼれて、慌てて謝って―――…

「…はい?」

女は思わずきょとんと問い返し、それから聞こえた音を頭が解釈していく。そうしてああ、と吐息のような声を漏らして、今度は水を零さないように後ろを振り返る。

「奇麗ですよね。 わたし、あまり見たこともないので、珍しくて。
 お話に聞くのと、直接見るのでは随分 感じが違いますね。 こう…音とか」

それから、あなたもキレイだと思うでしょう?という満面の笑顔で男を見上げる。 気持ちが共有出来る相手がいるのは楽しい。それが文字となって見えるような笑みだ。
風が聊か強くなってくる。祭りの音楽も、遠く細く途切れたり近く低い音になったりと揺らぐ波のように聞こえてくる。

「きっと『要件』がなくなってがっかりしたでしょう。階段の下のお酒は、私が片付けておきますから」

相手もきっと、依頼の前後で疲れているか明日疲れたくないかどちらかだ。それなら、と女は片づけを申し出て
彼が水を飲んだなら水袋を受け取って、足元に気を付けてくださいね、と帰りを見送る姿勢になるだろう。

(―――それにしても、相手が強盗などでなくてよかった。ちょっと気を引き締めないと)

内心、そんなことを考えながら。

ヴァーゲスト > 言葉の半分も聞き取れていない。
隻眼に映るシスターの格好をした美人の言葉だというのに。
ちゃんと聞いていたら、その唇より紡がれた言葉に同意をしていた――が、聞こえてやしない。

一瞬、どれもが偶然に重なり絡み合った一瞬。
その瞬間に、視線の先の彼女に確かに全てを奪われた。
視線も言葉も何もかも。

我に返る。
そう我に返るのはそんな美しい彼女が見せる愛らしい満面の笑みを隻眼で捉えてから、ん、と今宵三度目の咳払いで一つ誤魔化して、反芻するように投げかけられた言葉を思い出して、乾いた唇で答えよう。
――少々はにかんだ感じの笑みを浮かべながら。

「ああ、花火、そう、そうそう、花火な。
 オレもあんまり花火を見る機会なんてなくて。」

【そうではない】が、笑みに負けて、祭りの音が風で波間のように揺れたように、気持ちがある種揺れ動き、口説く、よりも気持ちを共有するように言葉を傾けて、答えてから水袋を受け取り、一口だけ口をつけると水袋を返しながら服の袖で自分の口元をぬぐう。

「ご馳走様、と、何『要件』よりいい思いをしたから良し。
 あとオレの名前はヴァーゲスト、女神さまの名前を聞いてもいいかい?なんなら、これからベッドの上でじっくりと良いんだが。」

見送る姿勢の美人さんに冗談半分の言葉を返しながら、一応先に自分の名前を名乗るのだった。

ナラン > 何か自分が聞き違いをしたろうか?少し口ごもったような返答に女は不思議そうに瞬くが、あまり花火を見る機会がない、という答えに一緒ですね、とまた微笑った。

水袋を彼から受け取ると帯の後ろの元の場所へ付け直しながら、また彼の言葉で女はくすくすと笑う。

「確かに、ここからの眺めはふつうならきっと中々見られないと思います。高いお酒でなかったならいいですけど…
 …そうですね。では女神様らしく、夢の中で教えてあげましょうか。
 ――――…冗談ですよ。 私は『ナラン』と言います」

身体の大きな相手だし、一見して自分より手練れの冒険者であろうと思うのに、なんだか弟のような気がしてきてしまった。
なのでつい、女も軽口をたたいて片目をつぶって見せる。上手に出来たろうか。

そんな相手が何となく心配になって、女は一緒になって階段を下りて彼を出口まで見送るだろう。
それから階段の下の片づけをして、空が白むまでか依頼主である少女が戻るまで 律儀に礼拝堂で番についたことだろう―――

ヴァーゲスト > ナランと名乗った彼女の冗談に喉を鳴らし口角を持ち上げて笑いながら、「あー冗談か、残念。」と付け加えたのちに今宵は素直に宿へを戻ることにする。

軽口たたいて片目をつぶって見せるナランを脳裏に焼き付けながら、彼女に見送られるがままに出口へと向かい、最後にまた笑ってからナランに背を向けて宿へ向けて歩き出す。

「ああ、…次は冗談ではなく、上手に夢の中に誘ってみるわ。」

何て、肩越しに手を振りながら……。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からヴァーゲストさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からナランさんが去りました。