2024/04/22 のログ
■オーク > しばらくオークは物書きに勤しんでいた。
一段落するとふぅ、と小さな――彼基準でだが――息をついて、周囲を眺めた。
「どこか落ち着いた場所で推敲をするとしましょう。
手頃な洞窟はこのあたりには……」
周囲の地理を思い出しながら、のしのしとその場を立ち去っていく。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からオークさんが去りました。
ご案内:「布都の工房」に布都さんが現れました。
ご案内:「布都の工房」に影時さんが現れました。
■布都 > 炉が、炯々と朱い焔を維持し、部屋全体が肌寒い周囲の空気を温めている。
その中で一人、鎚を振るい、刀を打つ鍛冶師がいる。
作務衣のままで、鎚を振り上げ、打ちおろす。金属の声が工房の中に響き渡る。
一心不乱、一所懸命、其処に、振り返りもせずに、刀を打ち、整える鍛冶師。
工程としては、既に仕上げの状態。
刀身の赤味も取れ掛けて射て、鏡のような艶のある刃渡りを持った刃が其処に有る。
最後の一つ、鎚を振るい、それは刃の完成。
その後は、その刃の為に作り上げた柄を嵌め――――語るほどの作業ではない行為は、終わる。
「んで。」
作業をすべて終えてから、待たせきっていた来客の方に視線を向ける。
不機嫌そうに見えるのは、何時もの事、じろり、と睨み見据えるような視線が捕らえるのは今日の来客。
声をかけてここに来れるのは、鍛冶師の客であり。
―――今現状、唯一の固定の客と言える存在だ。
要件に関しては、まだ、聞いていない。
と言うか、手紙なども届かないような場所故に、来客があるとしても基本は唐突となる。
あらかじめ言って置けなどは言わないのは最後の常識。
だから、此処で、問う。
■影時 > ――その男が来るときは、往々にして唐突だ。
どうしても事前予約などでもしたいのであれば、術で手紙を鳥にでも化けさせて送ることだろう。
そうでないときは?大体土産の一つか二つは携えてふらりと現れる。
そんな勝手知った付き合いのつもりだ。余程の何かがあるのであれば、向こうとて気兼ねはするまい。
敢えて現状の不文律と言える事項は、ただ一つ。作業の邪魔はするな、ということだろうか。
「この前、鬼と遣り合ってな。ちぃと診てもらいにきた」
端的に用件を切り出す声が、ある。
引き戸を開いた向こうの土間に隣接した板の間に腰掛ける、勝手知った風情をした羽織袴姿がその声の主だ。
持参した土産と思しい風呂敷包みを傍らに置き、傍らに立てかけた鞘込めの刀をちらと見る。
固定客として、頼む用件はおのずと定められてくる。仕事道具に関して、刃物のほぼすべてはこの鍛冶師に頼んでいると言っても過言ではない。
もそもそと揺れる羽織に縫い付けられたフードの中から、二匹の毛玉が顔を出して、眠たげに顔を洗う気配を感じる。
つい先ほどまで立ち込めていた作業に伴う集中の気配、言葉を駆けるも憚られるような緊張が失せたからだろう。
■布都 >
「莫迦か。馬鹿だな。」
竜を斬るために打った刀で、鬼を斬る。道具の扱い方を知っている男かと思ったが違うらしい。
鬼を斬るために作られてないのだから、性能的には自分の打つ並の刀を少し超える程度だ。
布都の打つ刀は、並の刀よりは強靭だが、刀は刀なのだ、此方の騎士剣と比べれば、切れ味に富むが耐久性は劣る。
高耐久=不壊では無いのだ、その刀は、並の騎士剣よりも頑丈であるのは間違いないけれども。
だからこそ、折々適度に手入れや確認を必要とする。
不壊は、―――それこそ、封護の役割。
彼の事だ、選択肢を消して、嬉々として向かったに違いない、今現状の彼の様子がそれを物語る。
―――ただし、彼は客であり、その刀は自分の傑作品だ。
生み出したものとして、その調整は、修繕は自分の仕事となる。
溜息を一つ吐き出しながら、刀を出せ、と手を出す。
「で、所見は?」
診るだけ、修復するだけという訳ではない。
鬼と打ち合ったのだ、その際に感じた事、考えた事、それを問う。
一度やったなら、二度がある、二度があるなら三度。
つまり、それも見据えて調整の必要を吟味する必要がある。
同じように使われて、折られるのは、癪でしかない。
折った日にゃ、同じく折る積りだ。何処とは言わないが。
■影時 > 「おぅよ、奴さんにも宣われたなァ。莫迦だとも」
本来の用途、仮想敵ではない筈の対象に対して刃を向ける。確かに愚かしいと云えば愚かしい。
だが、こうも言える。そんな使い方が出来る程に基礎性能が優れているのだ、とも。
所有者として最低限求めるのは、全力を篭めるに足る刃だ。よく斬れ、よく氣を伝え、なおかつ頑丈であること。
仕損じれば刃毀れを通り越して折れ、最悪砕けるのは道具として至極当然だ。
しかし、そうならないように扱ってみせてこそ、剣士の本領とも言いうる。
――その点のみを言えば、呵々と笑う男の忍びであり剣士としての技量は優れているだろう。
魁夷にして怪異たる鬼を前に喜々として立ち合い、生還してみせたのだから。
「斬れはした。だが、軽かったらしい。
ざっくりイケた時は向こうの力と勢いを合力してトントン、と言ったところか。
それこそ常に、鋼鉄を斬る心づもりでなけりゃいかんな、ありゃ。
……刃の圧を常に抑えるために氣を遣うなら、その分も専心できるようにしたい」
鎧、甲羅、甲殻の堅さ任せではない。鎧らしい鎧も纏わぬ過日の強敵の恐ろしさはその肉体にあった。
正に人外そのものの筋骨の密度は、それだけで剛体を為し、爆発的な原動力となる。
内臓まで氣で徹す手妻もありはするが、ごちゃごちゃと考えるよりは刃に訴える方が恐らくは一番早い。
忍術を使うにしても、それは例えば滅殺、封滅といった最終的な一手にこそ用いるべきだろう。
(まともに鬼と戦った経験を持ち、伝えている手合いと言えば、都の衛士位だろうからなぁ……)
妖怪変化と戦った経験は皆無ではないが、鬼らしい鬼と呼べるものとはとんと遭ったことがなかった。
そんなことを思い返しつつ所見を述べ、差し出される手に傍に置いた刀を立ち上がりつつ渡そう。
例えば、氣の配分を変えれば――もっと斬り込めないだろうか。
この屠龍の太刀は、平時より圧を放つ。それを相殺、またはマスキングするために氣を使う。
己が四肢の延長となるよう氣を流し、巡らせば為せるが、余分と言えば余分だ。
武器を弄るだけが全てではないが、都度道具は手入れをし、調整をするもの。それでどうにかできるならそれに越したことはない。
ついでに風呂敷包みを板の間の向こう、畳敷きの座敷の卓袱台に置く。
土産に牡丹餅を拵えてきた。作業を終えた後に食べるには、きっと丁度いいだろう。
■布都 > 「歳食ったジジィが莫迦とは、救えンな。」
年齢とともに経験は増えて、経験と共に技術を磨くものだという考え、そう言う思考だから年功序列と言う物ができる。
生きた分だけ、のそれが無いのは、莫迦と言って良いだろう。
序に、鬼にまで言われてるのか、と、それはもう、口を閉じるしかない、呆れて物も言えないとはこのことか。
余生では、野菜でも切って満足してほしいものだ。
包丁でも刃物だから、それは鍛冶師の仕事になるから、食い扶持になる。
「心づもりって、斬鉄ぐらい普通にやンな。
出来ねぇってのは、手前ぇの腕が悪いんだろ。」
作るならば、素材よりも強固に、最低限斬鉄が出来る刀を打っている、確かに打ち合う武器を斬るのは容易くはない。
鬼の鉄棒の強度や素材などもあるだろうが、その位は出来て当たり前と思っている。
そう言う相手だからこそ、故郷を離れたこの場でさえ、腕を認めて振るっているのだ。
かく言う、刀鍛冶の傍らで剣を振っている鍛冶師も、普通に斬鉄が出来る、専門家が出来ない訳が無いという理論。
刀を受け取り、鞘から抜き出して、其の様子、刃毀れなどはないが、少しばかり柄と刀身の辺りにガタが来ている。
刃毀れは無いとしても鍛冶師的に僅かではない歪みも確認できる。
それこそ、鬼の金棒が、並ではない物だと、理解できた。
「……成程、成程。
まぁ、この国だから、と言うのも有るか。」
最初の作りでは、必要が無かった。
ただ、この国では沢山の竜種が居る、敵対せずにいるのもある。
無用な争いの為に、気を張り続けるのは労力か、ひしり、ひしりと感じる圧。
挑発は必要ない、それならば、武器として、切れ味を、強度をと言う事なのだろう。
実務的に、実用的には、其方の方が、布都の性に合う。
「良いだろう、やってやンよ。預かる。」
ただ、その調整をするならば流石に、直ぐとは言わない。
大幅な調整が必要だ、だからこそ、鞘と刀を見て。
先ずは、刀身を柄から外して、火にくべる。
歪みを直すところから始める為に。
コークスで燃え上がる炉の中、鉄の熱が、上がり始める。
■影時 > 「はっはっは、死んでも治らねェだろうさ。とはいえ、死ぬに潔くってのも収まりが悪い」
老成するには早く、外面ばかりは老成しようにも見目はそうそう老いもしない。
であれば、酔狂である位が退屈しない人生を送るにきっと丁度良い。
若しかしたら、いつ死んでもおかしくない。そうと思えば、弟子に預けた苦無は早めの形見分けとも言える。
忍びは死ぬまで忍びであろうが、隠居らしくするなら、甘味処でもやろうか。
限った人間、知り合いにしか振る舞っていないが、作った菓子は存外に受けが良かったなら、そんな気にもなる。
「そうは言うがな、お前さん。常にやンねぇんだよ、斬鉄なんぞ。
俺の目が節穴だったと云われたらそれまでだが……肉体が鋼鉄そのもの、とはよく言ったもんだ」
鋼鉄が斬れる刃であるというのは、分かっている。
並の刀でもちゃんと刃筋を立てて振れば細い鉄棒なぞ容易く斬れようが、この鍛冶師の作品は前提がそれを超えている。
介者剣術で考えると、下手に打つと刃が曲がる甲冑に切り込むより、守られていない部位を狙うのが自然だ。
にも拘らず、破壊されないように鍛えられた鎧ごと断ち切るというのは、言葉以上に気/氣を遣う。
若しかすると認識が異なっているかもしれない事項を、補足しつつ肩を竦める。
鬼のステレオタイプと言える金棒に斬り込んだだけなら、こうはならない。鬼の剛体こそ凄まじかったのだ、と。
「若しかしたら、災厄をもたらす龍――が跋扈してるのかもしンねぇが、力の入れ処は相対した時だけで良いだろ」
屠龍の太刀の設計思想、本来の用途は知っている。当の作成者から過去に聞いた。
在るだけで畏怖する、抑止となり、災厄にして災害たりうる龍を鎮めるといった用途も込みだったのだろう。
この刀は、特殊な撚り方をした呪索や注連縄の類でもないと、殺気めいた圧を放つ。
奉納すべき社がないこの国、この土地で持ち歩くには少々余分が過ぎる。
故に然るべきときに然るべき分だけ、チカラを使えるようになってくれれば、それでいい。
「悪りぃ、手間ぁかける。その間、ちょいと待たせてもらうぜ」
ちょちょいのちょい、と調整作業が済むものではあるまい。草鞋を脱ぎ、奥の座敷に座し直しながら羽織の下を漁る。
刀を差すために巻いた腰帯をベルト代わりに、忍装束の時に携行する雑嚢が腰裏に固定されている。
風呂敷包みが乗った卓袱台のうえに飛び移った二匹の小動物に、取り出した小袋から餌を与え、さらに別の布包みを引き出す。
畳の上に広げれば、包まれていた中身が見える。
黒檀色の苦無と鈍色、漆黒の苦無状の手裏剣、鉄色の棒手裏剣や十字手裏剣、刀以外の仕事道具をついでに手入れしようと。
■布都 >
「――――。
死ぬときゃ、屠龍をぶっ壊してから死ねよ。」
臆面もなく言う。
その刀の主は、今は、目の前の男だからだ。
縁があり、運があり良き主の手に渡った、それがもし、碌でもない者に渡されたら、作品を穢されるだけではすまない。
彼の死にざま、生死感に同調することもなく、それが持ち手の義務だとばかりに言い渡す。
方法に関しては問う積りもないから、何も言わない。
「あっちなら、日常だろ。
とはいえ……こっちじゃ、人同士よりゃ、化け物相手が基本か。
童子切など、見せてもらえりゃ参考になったンだがね。」
鬼と言うのは竜とは違う怪異、人の形をしている、人外だからこそ、竜とは違い鱗がなく、骨がある。
そして、筋力も鋼以上に固いとなれば、柔らかくて硬いという難物と考えられる。
鬼の肉体と言う物をあまり知らない、童子切のような鬼を斬って有名な刀などを見れば、それに合わせて作れるだろう。
ないものは仕方がないと、彼の言い分に、それ以上の文句は出さない。
元々、実力に関しては、一流であることは、認めているのだ。
「使い手がそう言うなら、そう言うもンなンだろ。
知らねぇよ、世の事なンざ。」
世捨て人になる気満々の鍛冶師、まだ、一人での生活の基盤が整っていないから、街に出る事が有る。
ただそれだけであり、それ以外は余分と感じる、国がどうだ、とか、世界がどうだ、とか。
鍛冶師は神の剣を、神剣を作れればいい、神器に足る刀を作れればいいだけなのだ。
高みを目指す、それだけの為に。
―――鍛冶師は生きている。
「あぁ、そうだ。」
奥に移動する彼。
そして、まだ、コークスでも刀の熱は上がり切っておらず、時間はまだある。
だから、同じように座敷に移動し、尺で飲料水用のツボから、水を汲んで一口煽り、喉を潤す。
それから、台所に置いてあるつづらから、革袋を取り出す。
男性の握りこぶし大の大きさの袋につまったそれを、男の顔面にストレートに投げつける。
「ジジィの取り分だ。」
それは、何時しか預けられた豆で出来た、大豆。
畑はちゃんと機能しているようだ。
■影時 > 「戦り合って死ぬとすりゃ、云われずとも自ずとそうなろうよ。
畳だか布団の上で死ぬなら、……そうさなぁ。予め壊すか封ずか、か」
武器が凶器たりうるように、祭器たる刀は災器たりうる。
仮に己が誰彼構わない殺戮者であるとすれば、この女鍛冶師は呵責なくその大剣を振るってくるだろう。
微塵も残らぬ程の全壊を経ぬ限り、己は所持者として一切の責を負う。
刃金の罪悪を定めるのは、担い手以外の何物でもない。
御伽噺で名高き、抜けば災いをもたらす魔剣を抜くのは、当の所持者たる人間の意思によるのと同じく。
「侍を相手取るときは、な? 身体弄った忍びと相まみえた時も結局は同じか。
――がっちり武装した人間を相手取るのは、傭兵として参陣した位しかねぇなぁ、ここだと」
斬鉄を常に行う、狙う時はそれこそ隙がない、一撃必殺を狙うような時ぐらいなものだ。
分厚い甲冑に身を包んだ侍は持ち得る技故に恐ろしいが、先日相まみえた鬼は別方向の恐ろしさがある。あった。
技と同じかそれ以上に脅威なりうるは、怪力乱神を語り得る暴力。だが、それももしかすると表層でしかないのかどうか。
鬼を斬ったと名高い刀を検分する機会が、己も鍛冶師も互いに在ればまた、もっと別のアプローチもあっただろう。
だが、今は此れで良いかもしれない。
鬼に妻子を殺された――などのような動機は己にはない。ただ、強敵ともっと心ゆくまで戦いたい。
そのためにこそ技を見直しもするし、手持ちの道具も相応に整えもする。それだけのことだ。
「それに竜の一属に雇われ、禄を得てる以上は敬意を払うさ。
もう少し世間に目を向けろ、とはいえ、俺だってそンなもんだぞ?
……何かあると聞きゃ確かめに行くが、それだけで世の全てを知れるわけがねえや」
何より、現状の雇い主が竜である。竜に雇われたものが竜殺しの刀を持つのは何の諧謔か。
一属の中から災厄たりうるものが生まれた際、掣肘する役でも担っている――でもあるまいし。
驕るつもりはなくとも、技を伝え、術を授けた弟子たちが居る以上、その行く末を見守る責もまた持ち合わせる。
そのうえで、好きにしたい。数寄にも生きるし、旅もしたい。死闘に身も焦がしたい。世捨て人にはなれそうにない。
「ン、と。……悪ぃなあ。ちゃんと成ったか」
火の熱が増すまで、まだ時があるか。そんな合間に向こうの気配と音を聞き、手を挙げる。
向こうの作品である黒檀色の苦無を右手に持ちつつ、ノールックで左手を持ち上げれば、ぱしっとその手に収まるものがある。
刃を置き、手にした袋の中身を改めて見れば、嗚呼、と口元が緩むのを自覚する。
いつぞや持ち込み、栽培を委託した大豆だ。麹やら仕込み場やらは考える必要はあるが、色々使い出がある。
有難い、とばかりに掲げて見せて、雑嚢の中に放り込もう。
食うなよと卓袱台の上の二匹に目配せすれば、二匹が身震いして小さく何度も頷く。食べ物の恨みは――怖いのだ。
■布都 >
「その辺は、ジジィの判断でいいさ。」
作ったのは自分だ、しかし、所有しているのは彼だ。
それをどうするかは、彼次第、作った責任と言うのもあるが―――それは、自分が生きているならの話。
自分が先に死ねば、その後はどうにもできなくなるし彼が先に死ぬなら、作り手としての責を負う。
武器とは道具で、道具は力で、力には責任が残るものだ。
処分を正しくするというなら、それで良いと。
それこそ、一子相伝にして渡していく事さえも、責任さえとるならばいいのだ。
「だろうな。」
武器と言うのは、特色がある、その地域に根付いた武器が一番よくなる。
だから、此処に刀が出回りにくい、刀はどちらかと云えば、こっちで言う細剣だ。
対人ならある程度、対鎧なら金棒、対人外なら、騎士剣の方が有効だ。
左無頼があまりいないのも、此方に流れてきた存在ばかりなのも。
国柄に武器が合わないから、出回らないから、修理もしづらいし、手にも入らないので一層武器に対して億秒にもなろう。
彼のような一流が、国で言うなら大業物と言われるレベルの刀を、修理に持って来るレベルなのだし。
刀鍛冶がもっといれば、こんな所まで来ることも無いと、判っている。
「面白れぇ事に成ってんな?
竜に雇われんのかい、竜殺しおっ下げて!
雇ってる方も相当キてんなぁ!?」
その刀は、対竜に特化している刀だ、詰まるところ、彼等の守りを打ち破るための刀。
鱗など守りに成らず、目の前の男がその気になれば、サクッと首をはねられるだろう。
それを雇う、殺してくださいと言っているのか、と、腹を抱えて鍛冶師は嗤う。
ひとしきり笑いを終えた後に、マジで?ともう一度問いかける。
正直、信じられるレベルではない、自殺願望のある竜とか。
「そりゃ、育てりゃ育つ。
他に畑もねぇンだ、土に栄養もあるだろうさ」
鍛冶師をする前は農家でもあった、だからこそ、作物の育て方などの知識はある。
受け取って、予想外だったとも聞こえる返答に、鼻を鳴らす。
一人で生きていくのだから、その程度できらぁ、と。
毛玉に釘をさす彼らを背に、鍛冶場へと戻る。
丁度良く、刀に焔が通り、紅くなっていた。
平箸を手にして、刀身を掴んで金床へ。
―――そして、金属を打つ音が、始まる―――
■影時 > 「じゃあそうさせてもらうか。まっとうな誰かに譲るかも含めて、な。
とはいえ……向こうと同じように、色々と見直すには良い機会だったかもしれねェか」
弟子に譲るか、あるいは、と言うことも考えられる。
例えば雑嚢の向こうの倉庫に仕舞い、己が死んだら対応する鍵がない限り、倉庫の扉は開かなくなる。
封印するだけの一点のみを考え、論じるとすれば、これが一番手っ取り早い。
魔法仕掛けの倉庫を開錠し、暴くならば、竜たる創造者と同等かそれ以上の術者の力量が必要となるだろう。
だが、それは後々考えてもいいことでもあるだろう。仕舞うならば然るべき場所に。そう心掛ければ良い。
――しかし、刀も時期、世代によっては色々変化があるものだ。
騎馬で使うものから、徒歩で使うものに変遷し、威力を求めて長大化するのと似たように、時世に適した何かを考えることになる。
己が鎖帷子ではなく、工夫したとはいえ板金鎧を纏うのと同じだ。
斬撃ではなく、刺突もある当地の剣法、戦術を踏まえれば、身の守りに鎖よりも堅固さを求める。
人外たる対敵にも方向性は違うとはいえ、ただでは斬れぬものがあるなら、同様にそれに即した対処を凝らす。
その点、この鍛冶師がこの地に根を下ろしているのは僥倖だった。そう思わずにはいられない。
「前にも云って無ェかな? 云ってなかったかもしンねぇか!
屠龍の片割れを竜にして弟子に預けた位までだったか? 故に屋敷に出入りするにゃ、都度きっちり預けて入ってるぞ」
云ったような云っていなかったような。否、云っていなかったか恐らく。
真剣だ、と。腹を抱えて笑う女鍛冶師が真顔になった後に、肩を竦めながら頷いて見せよう。
自殺願望は――どうだろう。なさそうとは思うが。護身として即死を避ける仕掛けも、そもそもの礼儀も兼ねた対策も凝らしていそうだ。
「それもそうだが、土地によっては成る成らないの相性もある臭ぇんだよ。まあ、相性が良かったか」
農業の心得はある。里に居た時は、自分とて鍬を振い、土いじりを行う機会には事欠かなかった。
その経験を踏まえながらも意外そうな風情を見せたのは、植物学的な知識の片鱗だ。
土の相性によって、根付かない、生長しないという事例を踏まえれば、見慣れた作物が他所の国で見当たらないことにも一応の納得は付く。
言葉を返しつつ、火事場に戻る背を見遣り、座したまま会釈するように頭を下げよう。
やがて響き出す槌音を聞きつつ、男もまた手持ちの刃を磨く。
事が済めば若しかすると客が来るかもしれない、と言った言葉も土産を振る舞いつつ告げて――。
ご案内:「布都の工房」から布都さんが去りました。
ご案内:「布都の工房」から影時さんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 洞窟」にラギさんが現れました。
■ラギ > 王都から少し離れた洞窟を進む重装の少年が一人。
松明を片手に周囲を警戒しながら深層目指して進む足取りは慎重さを放ちつつも勇ましい。
「何度か既に踏破してるけど、不意打ちが得意なのばっか潜んでるんだよなここは。
目当ての鉱石ちっとも掘り出せねぇから採掘得意な奴と組めばよかったか?」
今回は装備品をより強固にするための素材集めにやってきたところだ。
この辺りの魔物ならだいたい物理攻撃が通じる相手なら何とかなる。
そうでない魔物もいるが、太刀打ちできないならそもそも挑まない、もしくは撃破できずとも
退散させる事が出来れば充分だ。
「……お、現金落ちてんじゃん。ラッキー」
おおかた、道中で犠牲になった冒険者の遺失物だが生きてるのか死んでるかも分からない者の
落とし物なんて、魔物のコレクションになるぐらいなら別の冒険者が有効活用した方がずっといい。
麻袋の中に入っていた額は……
【すっからかん:1 水も買えない:2 消耗品代にはなる:3 一日分食費が浮く:4 いい宿に泊まれる:5 高級娼館に通えるぞ!:6】 [1d6→3=3]
■ラギ > 可もなく不可もなく、といったところ。
これだけで劇的に何かが変わる訳ではないが、わざわざ売買の手間も省ける。
武具の整備に使う打ち粉や防錆剤、使い捨ての各種サバイバル道具などを買い足せそうだ。
少年は素直に喜ぶ一方、この程度の持ち合わせしか残さず倒された冒険者の力量を推し量る。
「この辺にイイ感じの装備がなければ、ペーペーが無茶したんだろな」
冒険者はたくさんいる。
そして、たくさん消える。
時には本人の無謀さや愚かさによって。
時には覆せない理不尽の連続によって。
如何に初級冒険者でも立入しているとはいえ、既に何千人もの忘れ去られた死人を輩出しているダンジョン。
警戒するに越したことはない。
「マジで最近出土しねぇよな……あの鉱石。採られ続けてレアもんになったのか?」
■ラギ > しばらく、同じような光景のデコボコとした道を進んで行く。
たまに見かける、戦闘の痕跡らしい不自然に欠けた壁や道。
折れた矢などが転がっており、冒険者のものかゴブリンが放ったものか。
後者の可能性も捨てきれない中、慎重に不安定な道を進んで行く。
鉄の矢程度なら打ち込まれても平気で弾く程の強固な兜。顔面から矢を貰わない限りは平気だ。
だが、魔法攻撃ともなれば話は別。
「見通しも悪ぃし、とっとと帰りてぇ。採掘できそうな鉱石は……」
ふと、周囲を見回してみると
【大型の魔物がいる…!:1 小型の魔物が数体いる:2~3 色の異なる盛り上がった岩がある:4~5 宝石のようにキラキラ光るものが!:6】 [1d6→4=4]
■ラギ > 他と比べて、明らかに色の異なる岩がある。
地質学などの知識はないが、近づいてよく観察し始める。
他の岩壁に比べると質感まで異なっており、力のある者ならこれだけ岩から引き剥がせそうである。
「……何色だったっけ」
メモを記した手帳を開き、ぱらぱらと眺めて目当ての鉱石の特徴を思い出す。
【突如、目の前の岩が動き始めた!:1~4 この岩ではない:5 ビンゴ:6】 [1d6→6=6]
■ラギ > 「あ!!!これだ!!オレが探してたやつっ!!」
目を光らせて眼前の岩に見入る……が、物理的に引き剥がせたとしても持ち帰りに難儀する。
荷物袋にはそれなりの道具類が入っている。
「くっそー……入りきらねぇし、こいつを丸々持って帰るのは無理があるな。
しょうがねぇか……」
少年はハンドサイズのつるはしを取り出し、輪郭から少しずつ目当ての鉱石を引きはがそうと
作業に入る。
それなりにカンカンと金属音が鳴り響き、魔物や別の誰かに気付かれる恐れもある。
「さっさと仕上げて引き上げればこっちのもん……っと」
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 洞窟」からラギさんが去りました。