2023/08/19 のログ
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にルプランさんが現れました。
■ルプラン >
王都近郊、水遊場と呼ばれる施設。
安全に、少なくとも建前上は安全に、水遊びが楽しめます、というのを謳い文句に、
今日も優雅な休日を楽しむ人々で賑わう場所。
女の身分ではとても入れない、上層階の片隅で。
バーカウンターに行儀悪く片肘を乗せて頬杖をつき、女はわかりやすい仏頂面で、
目の前で作り上げられてゆく、色とりどりの美しいカクテルを眺めていた。
今日の依頼人は、プールサイドのデッキチェアあたり。
お金の匂いに釣られて群がった美女たちを両腕に抱えて、
にやにやと鼻の下を伸ばしているところか。
女に依頼された仕事は確か、ここへの案内だけのはず。
ここへ到着した時点で、はいさようなら、だったはずなのだが。
「なんか飲み物もってこい、とか、舐めてんのかな、あのボンボン」
借り物の水着が落ち着かない、上着を羽織っていても視線が気になる。
その上、ウエイトレスかメイドの真似事まで押しつけられて、
女の機嫌は下降の一途を辿っている。
何より腹が立つのは、報酬が後払いだということだ。
もういっそ、素知らぬ顔で行方不明にでもなってやろうかと、
そんなことまで考え始めているのだった。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にエズラさんが現れました。
■エズラ > もこの水遊場を訪れる時は、もっぱら水練が目的であるため、上層階に足を踏み入れることは滅多にない。
そもそも男の身分では入場自体が困難であったが、貴族の護衛に雇われることもあり、今日はその滅多にない一日。
しかし――
「暇だぜ」
入場の段階で身体検査や所持品検査が繰り返されているので、実質的な仕事は「鍛え上げられた肉体を持つ半裸の厳めしい男が立っている」という「攻撃的な見た目」が重視されてのこと。
日当の実入りは馬鹿にならない額を先払いで貰っているのだが、自分以外にも雇われた屈強な男達が数名周囲を固めている以上、既に男のやる気は目一杯削がれている。
「んお……――」
そんな耐え難い時間を過ごしていた折、ふとバーカウンターに目を向ける。
一瞬、体躯が小柄なのもあって「子供か?」と頭をよぎるが次の瞬間には、男の口元に笑みが浮かぶ。
「ムッフフ……――」
助平心を隠そうともしない。
思い立った頃には歩みを進め、隣へ。
「よう、お嬢さん――えらく機嫌が悪そうじゃねぇか、この金持ちの園じゃそういうツラしてるのは大概雇われだよな――オレみてぇなよう」
■ルプラン >
バーカウンターに頬杖をつき、頬っぺたを膨らませて、
カウンターの向こうでカクテルを作るスタッフを睨んでいたところ。
目の前にはボンボンの注文の品が、ずらり、既に三品ほど並んでいる。
女にとっても、この階層は普段なら門前払いされるところだが、
入れたことにも、強引に押しつけられた水着にも、まったくもって不満しかないので、
とてもではないけれど、遊びに来られてラッキー、とはならなかった。
ふ、と、傍らに影が差す。
振り返った先には分厚い男の腹筋あたり、眉間に皺を寄せて首を擡げ、
見上げる角度でようやく、相手の顔が視界に入った。
表情を取り繕う必要も感じない、仏頂面のままで口を開き、
「アンタがどうなのか知らないけど、あたしはここに、
居たくて居るわけじゃないからね。
機嫌も悪くなろーってもんだわ、……アンタ、暇にしてるんなら、
このお酒、あっちのデッキチェアまで運んでやってくれない?」
明らかにこの男、そういう仕事に向いているように見えないが。
向いていないのは女自身も同じなので、適性の面は完全に無視。
くん、と顎で指し示したあたり、水着姿の女の人だかりがあるあたりから、
タイミング良く、黄色い声があがった。
ボンボンはどうやら、水にも入らず水遊びを堪能しているようだった。
■エズラ > こちらに向けられた仏頂面を見るに、やはりここらに居る貴族のお追従ではなさそうである。
顎で示された先を見れば、ははぁなるほど、という光景。
「ま、そいつを運んでもいいんだがよ、ここに居たくて居るわけじゃねぇのはオレも同じでな――」
間近に来れば、やはり小柄なだけで、成熟した女の肉体を持っていることが知れた。
しかも、周囲できらびやかな水着を身につけてはしゃいでいる上級階級の女とは異なる、鍛えられていると思しきもの。
「つうことで、仕事に不満を持つ者同士、ストレス解消が必要だと思うんだよな――」
それは誘い文句であったが、相手の反応を待つ前に、既に男の腕は相手の腰へ伸びている。
多少の抵抗を受けても、構わずに腰を抱いて、施設の脇に据え付けられた汗を落とすための個室シャワー施設の方へ連れ去る算段――
■ルプラン >
上衣を羽織っているとは言え、やや前かがみの姿勢では、
水着姿の臀部は裾から完全に露出しているし、
振り返って頬杖をとき、上体を起こしてみれば、
襟元からは豊かな膨らみと、くっきりとした谷間が覗く。
それらを見る眼差しに鈍感なわけではないけれど、
こんなところでは、いちいち気にしても居られないというか―――――、
「あ、そう、じゃあここはアンタに任せ、―――――… ちょっ、」
ストレス解消がどうとか、女が反応するより早く。
当然のように腰へ回された男の腕に、ぎょっとして身を強張らせ、
「なっ、なに、してんのよ、っ……
馴れ馴れしい、ちょっと、離しなさいってば!」
振り解こう、身を捩って逃れようとしたのだが、
その気になってしまった男の膂力に敵うはずもなく。
小柄な女は軽々と、腰を絡げて抱えられるようにして、
抵抗虚しくバーカウンターから引き剥がされ、連れ去られてゆくことになり―――――。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からエズラさんが去りました。
■ルプラン >
≪移動します≫
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からルプランさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 「あぁ……昔水練場だったとこか。変わったな」
馬車から降り、目の前にそびえる円錐形の建物を見上げる銀髪の男は陽射しに目を細めた。
この男、好んで外に遊びに行くタイプではない。生来がインドア派なのだ。
なぜこんなことになったかと言うと、話は1週間ほど前に遡る。
借金の取り立てに赴いた時、不足分を水遊場のゴールドチケット2枚で埋め合わせられないかと債務者から泣きつかれたのだ。
売り捌けば数百ゴルド程度の利益がとれると考え、受け取ったのが間違いだった。
仕事が急に忙しくなり現金化する暇がなく、気付けば有効期限は間近。紙切れにするよりは――と、馬車に揺られて2人でここにいる。
入口へと向かいながら、紙切れ寸前のチケットをしげしげと眺める。
「最上層以外は入場可能、往復の馬車代無料、専用更衣室・シャワー室有り、水着貸出などサービス多数……」
いわゆるVIP用チケットなのだろう。特典がずらずらと列挙されている。
入場口へとゆっくりと歩きながら、隣の女性へと顔を向ける。そういえば彼女はどれくらい泳げるのだろう?
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にマーシュさんが現れました。
■マーシュ > 「…………もともとは訓練施設なのでしたか」
懐かしそうともいえる言葉に対して、追従する女はこの場所に訪れること自体も初めてなのか、少しだけ物珍しそうに視線を流す。
建物の外観など手が入れられて、元の面影を探す方が難しいのかもしれないが以前とどう違っているかというのは己ではわからない。
相手に連れられるまま、訪うことになった場所は、相手の思考から考えると少々意外ではあったのだけれど。
何故、と問うならおそらくは彼が手にしているチケットを見せられたことで納得はした。
───手に入れ方に関してはこう、静かに問うような眼差しは向けたかもしれない。
「…………何とも贅沢なお話、なのですが、その………」
とりあえず連れだって馬車を降りて。その贅沢さに眩暈がしそうなのは己の性分であるから仕方ないとする。
ただ、相手に向けられた視線に対して、若干不安そうな表情を浮かべるのは。
「……沐浴などで多少水には親しんでおりますが。……泳いだりはあまりしないので…?」
禊などの儀式は行うことがある、が、こうして泳ぐことを楽しむためにしているわけではない。
だから、そもそも楽しみ方がわからない。物おじししているわけではないが、全く未知の場所過ぎていまいち想像がついていなかった。
■ヴァン > 「あぁ。騎士見習いの頃に訓練で使ったことがあるきりだな……」
はるか昔の不確かな記憶。下地があるとはいえ、ここまで豪勢にできるものか、と感心した様子。
見慣れていないのは2人揃ってで、おのぼりさんのようにも見える。
「一度試してみる、ってのはいいことさ。そうだなぁ……泳ぐというよりは騒ぐ楽しさなのかな。
ま、中に入って実際に見てみるといい。そういう俺も来るのは初めてだが」
チケットの入手方法については仕事で、と軽く濁す程度にした。債務者から申し出てきた話なので何ら後ろ暗いことは本来ないはずだが。
入口でチケットを見せると、2人に金色の糸で編まれたタグつきの腕輪が渡された。
タグは魔力を帯びており、装着者の行動履歴を記録できるようだ。男は左腕につける。
右手にはいつの間にか、黒い金属製の腕輪がつけられていた。馬車に乗る時にはなかった筈だが。
水着の貸出コーナーで平凡なハーフパンツタイプを頼んだ後、女性下着のサンプルへと視線を向ける。
効率化のためだろう、レンタル水着の種類は限られているようだった。チューブトップの黒いビキニに目が留まる。
普段から露出が控えめな彼女はワンピース型を選ぶかもしれない。その時は指でバッテンを作るつもりだった。
■マーシュ > 「ヴァン様の騎士見習い……は少し見てみたかったですね?」
ふ、と口元を綻ばせる。今現在は、練兵場で教官として指南している姿を時折見かけたことがあるきりだ。
それが指南される側だったころ、というのはなかなか想像しづらくはある。
気圧されてるわけではないのだが、そんなふうにたたずんでいたら、そうみられてしまっても仕方ないのかもしれない。
そうはいってもそこで立ち止まっているわけにもいかないし、と入り口に向かいながら。
様々な人々が訪れているのだろう。
漏れ聞こえてくる歓声は遠いが賑やかで、楽しそうだ。
泳げなくとも場の雰囲気を楽しむ、というのでも十分楽しめそうではあったが───。
渡された腕輪を素直に手首に装着する。普段装飾の類を身に着けないからそういった行為も新鮮で。
物珍しそうに手首を引き上げ、腕輪を眺めていたが、ふと相手の手首にある腕輪に気づいて訝しそうな視線を向ける。
「それは?」
端的な言葉は、けれど視線の動きと共に相手には知れると思う。
自分と同じ金の腕輪ではなく、黒金のそれへ向けられた純粋な興味の言葉。
それに対して答えが返ってくるかどうかは相手次第なのだろう。
そんな会話を交わしながら、道すがらにある水着の貸し出し区画。
………女にとってはそちらの方がある種試練と言えた。
…二の腕を晒すことにも抵抗があるのに水着とか着られるのだろうか、と自分自身思うのだ。
比較的おとなしいデザインのものを手にしたら、すでに水着を選び終えた相手から却下の仕草にぐ、と詰まる。
「う……」
残された選択肢はあまりない。
相手が目にとめた水着を手に取って、せめて、羽織り物の許可を請うように薄手の上着も手にして伺いを立てる。
■ヴァン > 「どこにでもいる普通のやつだったよ」
肩を竦めて笑う。当時のことはもうほとんど記憶にない。碌なことをしなかったのだけは確かだ。
質問と視線から、見慣れぬ黒い腕輪についてだとわかる。
答え方が難しい。下手な説明をすると入場前に彼女が発熱して倒れてしまうだろう。
「これか?施設内に武器は持ちこめないからな。無害なものに変わってもらった。
貴重品だから、こんな場所でも手元に置いておきたいんだ」
そう言うと自分の腰のあたりを軽く2度叩いた。腰骨のあたりにナイフを二振り差していることを彼女は知っている。
どういう経緯で身に着けているかまでは話したことはないが、この説明でひとまずは十分だろうか。
薄手の上着については頷いてみせる。貸出コーナーの従業員が、失礼にならぬ程度にくすくすと笑った。
従業員はタグを見て口頭と手ぶりで専用更衣室の場所を示す。
専用更衣室はロッカーとシャワールームがついた4㎡ほどの空間。家族などが使うのに良さそうだ。
今更気にすることでもないと思ったが、交代で着替えをする。バンダナを外しオールバックに。
周囲を行き交う人達に比べると、2人とも明らかに白い。
男の腹筋は薄く浮いて見える程度で、体格自慢の冒険者やボディガード達に比べるとその違いは顕著だ。
歩幅を揃えながら遊泳場区画へと向かう。
「まずは低階層を一通り見て回ろうか。それから、低階層にいるか、上の方に行くかを決めよう」
川のように流れるプールもあれば、海のように波が寄せては返すタイプもある。
滑り台、水深が浅いキッズプール、本格的な水泳用のプール、飛び込み台……
遊ぶ者達は大人も子供も騒いでいる。何が楽しいのかはわからずとも、彼等が楽しんでいることは伝わるだろう。
■マーシュ > 「それでも。………そういうことを知ってゆくのは楽しく思いますから」
相手の笑みに対して小さく言い募る。そういった戯れめいた会話自体も楽しんでいるうちではあるのだが。
己の言葉と視線の動きを正しく汲み取ったらしい相手が、思案するように押し黙るのに首を傾ける。
何か問題のある質問だったのだろうかと、続く言葉を待っていたのだが。
「……ん、……?」
変わってもらった、と意思のある存在に対するような言葉に首を傾げる。
欲はわからないが、それが本来は武器であること、といつも腰のあたりに携えている二振りのナイフであることを仕草で察し。
それでも疑問のすべては解決はしないが、今はそれが腕輪の正体である、ということについては納得した。
「形の変わる、というのは珍しい気がしますけど。……錆びたりもしないのですか」
刃は水を嫌うと思っていたから、そんな言葉を投げかけつつ。
ついで、己の情けないやり取りに、貸出コーナーで対応してくれた従業員に笑われてしまったのにひっそり頬を染めた。
……慣れてないのだからしょうがない。慣れることもないような気がするけれど──。
とりあえず比較的平和的に水着選びが終わったのなら、示された更衣室に向かう。
複数人で使うことを想定している広さ。必要な機能のみに絞ってはあるが、と興味深そうに眺める己に先んじて相手が着替えるのを待った。
相手が終われば、次は己が。気遣ってくれたことに感謝しつつ。
袖を通す、というほどの布面積もない、その露出の多さに、上着を羽織っても落ち着かない。相手よりは多少時間をかけて着替え終える。
水場ということもあって、髪は緩くまとめ、ようやく更衣室を出たが動きがぎこちないのは、体のラインをここまではっきり出すことに慣れていないから。
日に焼けていない白さの肌は目立つのだろうか。相手もあまり肌が日に焼けている方ではないから──二人並んでいると浮いているように見えるのかもしれない。
「──……」
もそ、とできるだけ羽織の前を掻き寄せたり、裾を引っ張る悪あがきをしながら進みつつ。
「ふ、あ、わ、………、───ええと、はい」
己の状態に気を取られすぎていたから、不意の言葉に背筋を震わせる。
改めて視線を周囲に向けると──それなりに人はいて、それぞれ楽しそう。初めて目にするものも多くて、情報量に混乱してしまいそうだったが─。
楽しそうな人の姿を見ると少しだけ緊張もほぐれた笑みを浮かべた。
「水遊び、なのですね」
己が水場で行う様な潔斎とは違う。水場でたわむれあう姿に改めて納得したようにつぶやいた。
■ヴァン > 先程鞘ごと銀色のナイフを入口に預けていたから、刀身が黒い方が形を変えているのだろう。
続いた質問に若干の間を空けた後、特殊な金属だから大丈夫と返した。その不自然さは伝言ゲームを想起させるか。
水着に着替えた姿を眺めると、うんうんと納得したように頷いた。先程の場所で似合うと確信していたのだろう。
肌の露出を抑えようと悪戦苦闘している姿も微笑ましい。
「そうだな。最近は色がついた水を出す杖を使って人と浴びせ合う、という遊びも流行っているらしい。
洗濯すればすぐ落ちる程度の染料らしいけど」
水に濡れると溶ける服を着てやるのが大人の遊びだ、ということは黙っておいた。
緊張がとけ、普段通りの彼女になったようで一安心したが、周囲に目をやるとまた緊張するかもしれない。
マーシュの姿は羽織り物で多少隠しても人目を引く。みとれる少年達、にやつく男達、そんな男達の頬や耳を抓る女達。
晒される素肌と隠された部分に、じろじろと無遠慮な視線が注がれる。
男はそれについて何も反応しない。目で追いかけるのは自然なことだし、いちいち咎めるわけにもいかない。
芋洗いとはよく言ったものだ。今年はセレネルの海にリゾートができたというのに低階層の人入りは多い。
落ち着く暇すらなさそうだ。上層階へ向かう階段を見つけ、手を繋ぐ。
「ゴールドチケットは専用のフロアがあるみたいだ。そこに向かおう」
低階層はナンパ目的の者達の他、人混みをよいことに痴漢行為に勤しむ下種が出没すると聞いたことがある。
いずれそういう手合いはマーシュの存在に気付き、遅かれ早かれ行動を起こすだろう。
不埒な行為を阻止することはできても、その後に冷静でいられる自信はなかった。そんな場所に長居する気は起きない。
高階層になると高級ホテルにあるような落ち着いた空間へと変わっていく。
平民はぐっと減って、王侯貴族やその関係者が増える。とはいえ、それは客層が良くなることを必ずしも意味しない。
■マーシュ > 特殊、と言われてすんなり頷けるかどうかといわれると難しいものはあるのだけれども。
実際に形を変えている姿がそこにあるのなら、そういった特殊性を呑み込むほかはない。
それについての秘密があるのだとしても、それを無理やり詳らかにしたいわけでもなかったから。
「───……」
向けられる視線に対して、そうみられるのは恥ずかしいのですが、と素直な言を告げるわけにもいかない。
慣れない姿が物珍しいのは事実だろうし。……己も相手の水着姿は珍しいから視線が自然と向いてしまったからおあいこでもある。
脚線をすべて隠す、なんてことは難しい形状にようやくあきらめを得始めたところで。
「……せっかくの水が汚れてしまいそうですが」
循環施設としてはそうでもないのかな、とプールに視線を流す。
勝敗をわかりやすくするためなのだろうかと思いつつ、でもそうやって複数人で遊ぶのは楽しい?のかもしれない。
はしゃいだり、喜んだり。……感情を波立たせる行為にはまだ少し慣れないけれど。
告げられなかった大人の遊びについてだって、思い至らないので少し訝し気。
それでも最初の緊張はややほぐれてきたところではあった。
自分の状態になれるので精いっぱいだったから、向けられる視線には最初気を向ける、なんて余裕はないに等しい。
視線を向けられるのは、慣れない水着姿も相まって自分がどこか変なのかと思うくらいで。
実際露出を隠そうとする己の行動は、こういった場所だと滑稽に映るだろうなとは思う。客観視はできても、実際の振る舞いを変えられるかといわれると難しい。
季節がそうさせるのもあるのだろう。
こういった遊び場所は夏の暑い陽射しを受けながら興じるにはとても心地よい場所のように思えたし、だから人の多さも納得。
近頃は海辺にもそう言った場所ができたのだろう。夜、浜辺に打ち上げられる花火が己が時折散歩する海辺からも見かけることはできた。
あちらもきっと盛況だろうと思う。
それ故に、ゆっくりするような場所はあまりない。手をつながれるまま歩き出して。
泳ぐことはなくてもこうしていろんなものを見られるのはそれだけで女にとっては楽しいことでもあった。
「其方で少し落ち着けるといいですね?」
痴漢被害を未然に防がれているようではあるのだが、己の容姿を特段特別視したことのない女はそう告げられたとてきっと不思議そうにする。
己もそうだが、あまりはしゃぐといった風情でもない相手だから。もう少し落ち着いた場所の方を好むだろうから、そういった場所があるといい。
階層が上がると、格段に雰囲気が変わってくる。
必然出入りする人間も限られているのか、喧騒というほどのものは薄くなった。
こちらはもう少し裕福な人々が使用する階層なのだろう。チケットの内容から鑑みても万人が訪れることのできる場所ではなさそうだった。
───聖堂の様な荘厳と静謐の場所とはまた違う、そんな場所特有の持つ圧に若干気後れはあるけれど──でもそういった場所を垣間見ることのできる経験はあまりないから、少し好奇心の天秤も傾いた。
■ヴァン > 「どうかな。思ってるほどには染料を使っていないのかも。
ちなみにここの水は今、魔法で綺麗な状態を保ってるらしい。どれだけ魔術師を雇ってるんだろうな……」
聞きかじった内容をそのまま伝える。魔導機械を活用しているのかもしれない。
これだけ人がいても長年運営できて悪い噂も経っていないことに、改めて大きな施設だと感じ入る。
周囲の視線に彼女自身はあまり気付いていないようだった。それが一番かもしれない。
歩きながら、落ち着けると良いという言葉には深く頷く。
階段を上り通路を進む。ガタイが良い者達とすれ違うことが多かったが、彼等はきっと護衛なのだろう。
階層を移るたびにその姿は減り、代わりに従業員の数が増える。ガードマン、ポーター、コンシェルジュ……。徐々に喧騒の声は遠くなっていった。
「……ここか」
施設内は広い。案内板に従って数分歩いた後、専用フロアへとたどり着いた。入口の係員に金色の腕輪を見せる。
専用フロアは平民地区の2区画程度の広さがあった。デッキチェアやパラソルが等間隔で設置されている。
入口付近にはバーカウンターもあり、何組かで共用するプライベートプールといったところだろうか。
騒がしくはなく、さりとて静寂が支配する訳ではなく。入口近くのスペースが何人かに使用されている他は客の姿はない。
「俺達のスペースは一番奥だそうだ。……ん? マーシュ、先に行ってて」
子供と呼んでいいぐらいに背が低い従業員から呼び止められ、ヴァンは瓶を受け取った。
身振り手振りで子供は瓶の内容をアピールしている。
入口近くのスペースは若い男3人が酒を片手にしゃべっていた。若い貴族のボンボンがつるんでいるのだろう。
彼等の背後にはパラソルがいくつか重なっている。まるで矢の雨から身を守る兵士たちの盾のようだ。
ボンボンの1人がマーシュに気付くと、他の2人に顎でその存在を伝える。
口笛を吹いたり、下卑た笑みを浮かべたり。好色さを隠そうともしない。
――よく耳を澄ませれば、パラソルの向う側から声が聞こえてくる。
声の主は女。そして、肉をうつ音が複数。パラソルの陰で何が行われているかは見ずともわかるだろう。
ボンボンが立ち上がり、ゆっくりとマーシュに近づいていく。
にたにたと笑いながら口を開き――声が発せられることはなかった。
子供の話を聞き終え、追いついた銀髪の男と視線が合ったからだ。
■マーシュ > 「もしくは大掛かりな魔導装置があるとか、でしょうか。どちらにせよ……貴重なものであることは変わりませんが」
それを運営している水遊場の母体はそれを管理しうるだけの権力と、資金があるのだろう。
それだけここに投資をしているとみるべきだろうし、それはある意味成功しているのはよくわかった。
──水に触れるだけでなくとも十分楽しい雰囲気は伝わってくるし──喧騒がその証だ。
今はそんな喧騒は遠い。時折すれ違うのは利用客、というよりは利用客の護衛を負っている者たちにも見える。
階下の人々と違って単に楽しんでいるというよりは──こちらを見やる視線の鋭さの種類が違う。
とはいえ、傍目から見ても鍛えているようには見えない己は警戒対象からは外れてしまうのだろう。
他にも案内をしてくれる従業員等。
軽装ではあるが水着姿ではない彼らの案内に従うように歩を進めた。
頭を下げると逆に恐縮されてしまうのは──何とも普段とは違いすぎて、こちらも戸惑ってしまう。
たどり着いた場所は、基本の構造はおそらく変わらないのだろうが、寛げる空間を作ることに特化しているよう。
目を惹く遊具などはなりを潜めて、代わりに点在するパラソルが、落ち着ける場所を演出していた。
それぞれの位置からはそれぞれの姿が見えづらいようにそれらが配されているのも工夫の一つだろう。
特別な場所としての演出に余念がなく、事実そのようで、利用客はいるようだが───賑やかさは感じなかった。
「あ、はい……、一番奥……」
従業員に呼び止められた相手の言葉に頷くと、歩き出す。
これくらいの場所であれば迷うこともないだろうし。
改めて作り出されているとはいえ、丁寧に演出されているリゾート感を楽しむように視線を巡らせ指示された場所に向かっていたのだが。
「─────」
ちょうど入り口のあたりを利用している客人たちの前を通ることになる。
それ自体は問題がないように思ったのだが──。
聞こえた口笛に視線を上げて、そしてすぐにそれを後悔した。
向けられた視線があまり好意的でない部類のものであることにはさすがに気が付くし、足を止めたことも失敗に感じた。
……こちらが死角になるようにされた場所から聞こえる音に、ぴくりと肩を跳ねさせる。
生々しい、肉を穿つ音。くぐもった声は女のそれだろうか、よく聞き取れはしない。
それが無理やりなのか、合意の末なのかは判然とはしないものだったが──。
獲物を見つけたような眼差しを向けられてしまったら、己もまたその対象の内に入れられていることは嫌でも自覚する。
ぎゅ、と羽織った上着の裾をつかみ、どう切り抜けるべきかを考え。
ただ逃げるだけでは、きっと意味がないのも分かるから。
……じり、と後ずさった己に、若い貴族が甚振るような視線を向けてくるのにわずかに顎を引いた、が。
その背中に僅かに触れた感触と、それから近づこうとしていた貴族の男の表情の変化に少し肩の力を抜いた。
背後を振り仰ぐと、連れがいるのに少しだけほ、と眦を緩めた。
■ヴァン > 2人がいる階層は護衛を必要としない、あるいはお忍びで遊びたい者達が滞在する場所。
自然とその利用者の安全を確保する者や、彼等の無理難題に応える従業員達が増えてくる。
――そして、低階層で見繕ったカモを誰にも邪魔されず美味しくいただく場所。
合意の上でか、違うのか。どちらにせよ、入場許可のない存在に対して従業員が関心を払うことはない。それは彼等の仕事ではない。
女が口笛に気付き、視線を向けるとボンボン達の唇はことさらに歪んだ。マグゴブリンのような笑み。
ひときわ高く響いた嬌声にびくりと肩を跳ねさえたのを見て、男達は互いの顔を見合わせながら笑う。
不埒な行いの気配を感じたか、入口に立っていた大男が歩き出す。“客同士”のトラブルはご法度だ。
「……俺の恋人に、何か用かな?」
とん、と胸元に背中があたる。女が体勢を崩さないように両手で支えを作った。
マーシュの背後でにこり、歯を見せて一団に笑いかける。笑顔といえば聞こえはいいが、犬歯まで見える威嚇、警告のそれ。
話しかけようとした若者は視線を彷徨わせ、興が削がれたとばかりに自分達のスペースに戻っていく。
「さて、一番奥だったな」
何事もなかったように手を繋ぎ、歩き出す。
背後からは敵意、害意、嫉妬といったネガティブな視線が突き刺さるが、慣れたものとばかり男は気にもとめない。
2人のスペースにたどり着いた後、従業員からウェルカムドリンクが届けられ、用があれば呼び鈴を鳴らすように告げられる。
男はドリンクに軽く口をつけた後、そういえば、と切り出した。
「さっき、試供品のサービスだとかでサンオイルを貰った。薄く塗ることで強い日差しを防ぎ、適度な日焼けができるそうだ。
他のプールはダメだが、このプールに限っては塗ったまま入っても大丈夫らしい……」
そう言って目の前のプールを指さす。魔術的な処置を施してあるようだ。
試供品ということで渡し、効果を実感させて商機に繋げるのか。王侯貴族が集まる高階層ならば、口コミもあって効果は十分あるだろう。
男自身は日焼けを気にしない。さりとてそのまま持ち帰るのも荷物になる。周囲を一瞥する。
デッキチェアの前方には弾力のあるマットが敷かれてある。寝転んで肌を焼くための空間だろう。
考えようによってはサンオイルを塗るのにちょうど良い場所ともいえる。
「マーシュが日焼けして真っ黒になったら職場で噂されそうだし、塗るよ。
上着をそこのチェアにかけて、マットの上でうつぶせになって」
まずは背中など自分自身では塗りにくい所をヴァンが手伝って、その後に顔や腕・腹など塗りやすい場所はマーシュに任せる、といったことだろうか。
瓶を開けて、中に入ったとろみのある液体を両手にまぶした。
■マーシュ > 背後の動きには気づかなかったが、監視役として常駐していた従業員も動いてはいたらしい。
とりあえず追いついてきてくれたおかげで何事もなく済んだのだ。安堵するほかはない。
威嚇めいた言葉に少しだけ目を瞠り、次いで視線を若干泳がせた。
支えてくれた腕が、実は逃がさないためなんじゃないかとも思ったが───彼はそんなことをする必要がないのもまたわかっている。
態度は悪いが諦めてはくれたようで、元のスペースへと身をひるがえす3人。
悪態は耳を打ったが──直接何かをしてくるといったことはないのだろう。
気がかりだったのは、連れ込まれていると思しき女性の存在ではあるが。……その在り方を否定することは、己には許されてはいないのを先ほどの従業員の動きで知る。
あれはこの場で許されていることの一つなのだと、言外に知らされたようなもの。
己の手を引く相手もそれについてはなにも言及しないのに視線は一度流したが、歩き出した。
あまり留まっていると、一度は引き下がった彼らがまた不穏なことをしでかさないとも限らないからだ。
そんな視線はまだ少し背後からチクリと刺さる。
奥まったスペースにたどり着けばそんな視線も途絶え、代わりに迎えてくれた従業員から渡されたグラスを受け取る。
──普段水か葡萄酒か、な極端な選択肢しかないがそういって断るのも野暮な話だ。
こちらも受け取ったグラスを傾ける。よく冷やされた味わいがのどを通るのは心地よい。
「………なるほど。………やはり肌を晒す、というのはそういったことも考えないといけないのですね」
グラスを手に、いささか間の抜けた感想。
貴婦人たちのように己の容色に手を入れる発想がさほどない。肌の色が白いのも、屋内の作業や、普段の装束が陽の光を遮っているおかげだ。
痛まないようにある程度手は入れるが、それも自分たちで手製の香草を使ったもので済ませるから、効能を聞くと興味深そうではある。
それは、それとして。
「………いや、でもそれは」
どうしてそこで己が彼にそれを塗られないといけないのか、等。
主に自身の羞恥心からくる抵抗の言葉を、若干長めに訴えた。訴えた、のに。
「どうしてもう瓶の中味をだしてるんですか───…!?」
指示された言葉にぐ、と詰まる。
気遣いだと言われてしまえばそれを拒絶する己が悪のようにも感じる。
…………グラスをテーブルに戻すと、最後の砦だった上着を解く。
チューブトップスタイルの水着だからある程度の面積はあるが、肩や首筋は無防備。
指示されたマットの上にゆる、とうつぶせに寝そべると、項のあたりでまとめた髪を邪魔にならないように横に流した。
横たわった体躯は背筋から腰に掛けてなだらかな稜線を描き、普段は晒すことのない脚線へとつながってゆく。
少し染まった肌を隠す様にマットに頬を押し付けて──。
「……よろしくお願いします」
声音が上ずらなかったのは褒められていいと思う。
■ヴァン > 「肌が弱い人は赤くなって痛くなるから。俺は……どうだったかな」
男の肌が白いのも女と理由はまったく同じだ。図書館から出ることがほぼなく、通勤で日に晒されるのは短時間。
でもそれは、という質問に不思議そうな顔をする。
「今日迎えにいった際に上司の人に遭ってさ。用件はぼかしたんだけど。
で、日焼けしてたら……同僚にすごい詮索されるんじゃないかな、と」
上司というのは、男が王城を訪れる際によく話す年配の修道女だろう。彼女にとって歳の離れた先輩なのか上役なのかは聞いたことがない。
男はそういった面倒事に彼女が遭わないよう気を遣っているようだった。
上司に見られた時点でマーシュが詮索される運命になっていることに、男はまだ気づいていない。
「とは言ったものの……」
サンオイルをどう塗るのが正しいのか、男は知らない。先程聞いたのは薄く伸ばすようにまんべんなく塗る事くらい。
まずは足だろうか。指先でとんとん、と太腿同士が触れあっている所を押して、足を広げるように促す。
まずは左脚。太腿から膝を何往復か掌を滑らせる。しっかりと塗り残しがないように丁寧に。何往復か後にふくらはぎ。
流石に足裏は擽ったいだろうと思って自重する。続いて右脚も、芸術品を愛でるように丁寧に塗っていく。
「……くすぐったくないか?」
背中へと指先を滑らせる。サンオイルを垂らし、伸ばし、ムラがないように撫でる。
その様は夜、寝所でする愛撫のよう。右腕、左腕……。肩や首筋へのそれは一層睦言を連想させるだろうか。
一通り塗り終わった頃、入口付近の一団から向けられる視線に気が付いた。美味そうな餌を取り上げられた犬達のような目をしている。
若者たちの数は5人。ひそひそと話しては、憎々しげな目つきを向ける。視線が合うと逸らされるが、散ったそれはまた戻ってくる。
男は鼻で笑うと、己の下でうつぶせになっている女を見下ろした。悪戯っぽい想いが鎌首をもたげる。
瓶から油を取り出して、脇の下からマットと身体の間に手を滑らせ、豊かな乳房を掴む。――ホックはいつの間にか外れている。
■マーシュ > 「それは、確かに……あとで炎症用の膏薬を用意しておいた方がいいのかも……しれないですけれど」
強すぎる陽射しは、確かにそうだ。焼ける前に肌が負けてしまうのも自覚はあるが。
あるのだが。
「────────……っ、………いつのまに」
呻くように応じた。確かに彼女は、取りまとめ役というか。年配な分そういった立ち位置にある修道女の一人だ。
長く王城に努めているらしいから──なかなかに気の抜けない先輩格。
日焼けについては日々の勤めもあるし、だがそれ以前にどんな会話をしたにせよ。
……きっと後でいろいろ聞かれるのだろうなあ、と俯せのままマットに顔を沈めた。
脱力を諦観とみるか、身を委ねたとみられるかは謎だ。
水着とはいえ薄い布一枚で肌を晒している事実は変わらない。白日の下に自身の肌身を晒す羞恥に時折呻きつつ。
指先で示唆されると観念したようにする、と足を開く。マットに沿わしたつま先がわずかに揺れ、相手に身を委ねる。
その不確かさやくすぐったさに、顔は沈んだまま上げられないが、耳のあたりがほんのり染まっていた。
丁寧な手つき。薄く延ばされるオイルが肌身を覆うのと同時に掌の体温も感じる。
それ自体は心地よいマッサージを受けているようで、少しづつ緊張がほぐれてくたりとしてくる。
太ももから膝、ふくらはぎの張りの上を適度な圧で往復されるのは、純粋に気持ち良いのに吐息が零れた。
「………くすぐったくは、ない、です」
問いかけに応じる声音は、どちらかというと心地よさからの微睡みを帯びたもの。
だから手が背中に移動しても、穏やかな身じろぎを返すのみで強い強張りはもうなかった。
背筋の溝に沿うように、垂らされたオイルが流れを描き、溜まる。
時折塗りやすいように腕を取られ、伸ばされるのもされるがまま。
────近い距離と触れ合いは、夜の睦言を思い起こされる動きでもあったのに気づいて少しだけ呼気が揺れ。
首筋を撫でる手に、くすぐったく喉を震わせた。
「──────、……っ、ヴァ、ン、様……っ?」
それだけだったらまだくすぐったいだけ。夜の熱を思わせるだけの行為だったのに。
する、ともぐりこんだ手が包み込むのは、無防備な胸元。
びくりと背筋が揺れて、その拍子にホックの外れていた水着の布地が肌身からずり落ちるのに息をのんだ。
相手の意図がどこにあったとしても、体温が触れ合っている位置は変わらないのに、声音は上ずる。
「ひ、と、が……っ」
パタン、としどけなく伸ばされていたつま先が揺れて、抗議の声。
利用者は自分たちだけじゃなかったのは先ほどのやり取りで嫌でもわかっている。
■ヴァン > 「王城に行く度に出会うんだけど。俺、あの人から監視されてるのかな?」
他愛もない言葉を紡ぎつつ、油を塗りながら撫で回し続ける。うつぶせなので表情は伺えないが、耳は雄弁だ。
オイルを肌で温めるのは効果があるのか、普段耳にしない吐息を聞いた。
時折指先を押して、凝りがないかを確認する。ここに来なければおそらく体験しなかったこと。
首筋に触れた時は既に悪戯する気持ちが芽生えていたのか、人差し指で、ちょん、と耳朶を震わせた。
抗議の声に、顔を近づける。
「人……?どうかした?」
パラソルやデッキチェアの位置は丁寧に計算されていて、仕切りや観葉植物で他の利用者の視線を隠すようにできている。
しかし、その前に置かれたマットは元々日焼けをするためのものだ。視線を切るようにはできていない。
地面に寝そべっているから男の手の動きを知ることはできない。
それでも体勢からただサンオイルを塗っているのではないことは若者たちにも伝わったようだ。注視するような視線が向けられる。
マーシュが顔をあげ、入口付近へと視線を向けたならば彼等と視線が合うだろう。
オイルを乳房全体に塗り込めるように手を大きく動かした後、親指や中指を使って横や下乳も撫で回す。
指先で乳首を擽り、摘まみ、捏ね回す。更に不満を言いそうなら抓りさえするだろう。
油が塗られているからか、触れられる感触はいつもとは違う。
滑りが強く刺激が強いこともあれば、なかなか得られる刺激が得られずにもどかしく感じもする。
臀部には硬く熱もつ存在が伝わってくるだろう。ひくひくと震えている。
とん、とん、とん。水着の上からノックするように秘所に押し付けられるのは先端だと伝わる。
男物の水着はボタンを外せば簡単にまろび出るようになっているのだろう。
先端を水着越しに触れさせて、止める。
「俺のだ、ってのを奴らにわからせようかと思ってさ。あいつらもあれ以上近づいてはこない。
この格好なら肝心の場所は見えないさ。ただ戯れてるだけ……に、見えないこともない。どうする?」
最後の質問は押し当てられた先端について。許可が出れば男は彼女の水着をずらすだろう。
■マーシュ > 「しら、ないです……っ」
でも目端のきく人だ。だからこそ王城内で勤め上げられているのだとも思う。
時には修道女たちの盾にもなってくれるが、けれどだからと言って完全に自分たちを守ってくれるわけでもない。
それぞれに宗派があり、そのパワーバランスによって立ち居振る舞いを変える。貴族たちや、軍属の人間がそうであるように。
教会にもそう言ったものは存在する。───己の属する宗派はさほど力を持っているわけでも、そういったことに興味があるわけでもないようだが。
さりとて無力なままで中立を保てるわけでもない。
……でも今は、そんな真面目な思考もとけてゆく。
最初は心地よさに。いまは───羞恥に。
耳朶をつつかれると手で耳元を抑えて、そこにある熱に気恥ずかしそうな仕草。
頬の熱さから自覚してないわけじゃない。
何よりも難なく水着の中に滑り込んだ手のもたらす刺激に小さく声が零れる。
「ど、うか、って、──、…っぅ、く」
オイルを纏った指は、滑る。柔肉を捏ねる動きは意図的なものもあれば、意図せず滑る動きも交えられ。
都度肩が戦慄いた。
ソロ、と視線を軽く動かすと────居る。
彼らの不埒な遊びは終わったのか、なぜか人数が増えている。若干感じる眩暈にきゅ、と目を伏せて自分から視線を切った。
「───だ、だか、っ、……っ、ひ……───、ン……っ」
掌が胸元の肉を持ち上げ、指先が沈む。柔らかな其処は捏ねられるまま形を歪め、塗り込められるオイルに艶を帯びる。
己の言葉にあわせる様に熱を帯びた胸先を抓られると、声が跳ね、身を震わせた。
甘くとも容赦のない刺激に、フル、と頭を振る。そんなことをしても逃れえないのに。
「は、っ、───、……っ、あ、ぅ……、う」
声、言葉。何を言おうとしていたのか。
窘めようとすると、嬲る様にいじめられるのに舌先が戦慄いて言葉を失わせた。
そんな中で触れる熱が自分のものではないのに気が付く。
戯れ、触れ合い、そんな中で言い訳のできない熱が、薄い生地越しに伝えられるのにまた熱が上がってゆくよう。
じりじりと己の中の熱に焙られて、浮かぶ汗が染まった肌の上を滑り落ちてゆく。
「…………、………っ、ばか、………」
座りのいい理由。でもおそらくは拒めばそのまま許してくれもするのだろう。
答えはないようなものだ。でもどうしたも言いたかった詰りを伝えてから───許可の言葉を差し出した。
こんな場所で、彼らのように隠れもしないでなんて羞恥にどうにかなってしまいそう。
水着を脱がすでなく、ずらすだけ。すでに熱を帯びた場所がさらされるのに喉が戦慄く。
────せめて声だけは殺したくて、手の甲に歯を立てた。
■ヴァン > 「何事も経験さ。――昔、温泉で似たようなことをしたっけ」
湯気に紛れた媚薬を吸った者達が近づいてこないように、2人で協力して演じていた。
乳房を捏ねるのも、膣を満たすのも、すべてが演技。その後のことはあるけれど――。
薬で朦朧となった男達の代わりに、性欲旺盛で意識のはっきりした若者たち。
湯煙漂う湯船の中ではなく、白昼陽光の下。
身体の中から湧き上がる熱、照り付ける陽射しの熱、重なる肌から伝わる熱。
詰るような、でも許可の言葉。頭では愚かなことだとわかっていても、欲望が優先する。
「……すまないな」
右手を秘所に近づけると、水着をずらす。伸びたら弁償しなきゃな、と愚かな考え。
ず、ず、ず……と、腰を尻に押し付ける。時間をかけて男の剛直が女の蜜壺へと呑み込まれていく。
痛みを感じない程度に十分濡れているかどうか――触らずとも、男にはわかっている。
羞恥を含んだ声色で告げられた言葉に、かってないほどに昂っていた。
亀のように遅く、だが休まることのない抽迭を繰り返す。
亀頭が奥へ向かう際、襞と擦れあい、割りいっていく。抜く時は雁首が膣壁を刺激する。
ゆっくりとした分、襞の一枚一枚や絡みつく蜜の存在を強く意識しながらの交わり。
鈴口が最奥とキスする度に、ぐりぐりと押し付けて。くちゅ……くちゅ、と、淫らな音が耳に届く。
もし男がいつも通りに動いていたら、室内全体に水音は響いていただろう。
女の顎に指を添えると、くい、と向けさせるのは前方、入口付近。
10の瞳が向けられ、逸らされることはない。実際に挿入されているかどうかはこの距離ではわからないだろう。
親指が唇に触れた。もし大きな声を出しそうになったら噛むなり何なりして良い、過去何度か行ったこと。
「マーシュ、見るんだ。俺達は互いに互いのものだと、目で伝えてやれ」
背後で男も彼等を見つめ返しているのだろう。触れ合う身体と声の発せられる位置からわかる。
右手を重ね、指を交互にして握る。油で少しぬかるんでいるが、しっかりと握った。
限界が近づいてきたのか、右耳に顔を近づけると、掠れた声で囁いた。
「もう出そうだ……しっかり、受け止めてくれ」
■マーシュ > 「……、───ん、っ、ん」
相手の言葉に、記憶が揺さぶられる。遠いようで、まだ近い。
あの時は演技だった。────でも、今は。
じわ、と羞恥に双眸が潤む。視界が赤く染まりそうな錯覚を同時に感じていた。
───今はどれもが。白日にさらされている。
重ねられる肌に感じる熱もまた、嘘じゃないと理解してはいる。
己もまた、この熱に狂わされてしまったのだろうか。────己の詰りに対して返されたのは謝罪の、でも止まらない動き。
露にされる秘部と、そこに触れる先端。
ぐち、と胎内に響く蜜音を感じて、眼を閉じた。重なり合う体躯と、熱と。溶けあうように、そのために。
痛みがないのは───知れたことだ。己もまた欲しているのだということを、心より先に体の反応で知らしめられる。
緩慢とすらいえる挿入が、己の羞恥を必要以上に焙らないための男なりの気遣いでもあり───より長く性感を引きずり出す苛みでもある。
背反した思いが行為によって示されるのに、ひく、と喉を震わせる。
「ふ、……ぅ、く、っ、ぅ、ぁ───…っ」
手の甲を口許から外される。零れた声が一瞬鮮明になり、代わりに触れる指先がその代わりを担うのに、唇が戦慄く。
頤を捕らえた指が、そのままうつむきがちな顔を上げさせる。視線の先には先ほど視線を切った5人の眼差し。
否応もなくぶつかるそれにわずかにもがこうとしたのが抑えられて、手が重なった。
互いのモノだと告げる言葉に、眦から熱が零れる。
「っ、ん、く、……っ、────、ふ」
ぬかるむ指を絡めるのに自分からも力を添える。
づ、と胎内の熱が己の中で蠢きをやめることなく、その最奥を訪い続けるのに柔らかな襞が絡み、戦慄く。
じくりと疼くそこから溢れるものが、より蜜音を爆ぜさせるのを自覚させられながら、その熱を抱き。
覆いかぶさるようにして伏せた己の背を包む相手の唇が耳朶に触れて言葉が注がれるのに、わずかな首肯で応じた。
「──────、つ、……む」
己の手の甲とは違い、歯を立てないように唇で挟むだけだった相手の親指を軽く唇が締め付ける。
ぱた、と零れ落ちるそれが何なのかすら認識できないまま───、相手の熱を求めるよう。
■ヴァン > 温泉でのことは不可抗力――危険から回避するためのことだった。
今は違う。欲に従うというよりは溺れながら、男は動いている。
零された涙に微かに男が震える。過激な事をし過ぎて、悲しませてしまったか。
指の重なり、滑りでそうではなさそうだと判るが、毎度男は己の暴走を自覚するのが少し遅い。
男の言葉に対し微かに頷いた後、唇で親指を甘噛みされる。
指に触れた感触は男が好む口淫を想起させ、限界がすぐに訪れた。
「ん……っ、……は、……ぁっ」
剛直を全て吞み込ませた状態で最奥に精を放つ。粘度の高い白濁液がびゅる、びゅく、と跳ねる度に満たしていく。
何度の吐精の後、精液が零れぬように萎えぬ男根で蓋をする。
精が膣壁に染みわたり、男自身の形をしっかりと覚えさせる。まるで獣がマーキングをするように。
若者たちは相当に毒気を抜かれたのであろう、互いに互いの顔を見回して、何を行うべきか迷っているようだった。
1人の若者が入口に顎をしゃくると、ぞろぞろと立ち去っていく。
嫉妬と羨望の入り混じった瞳、理解の範疇を超えたものを見る目、屈辱と憤怒に染まった双眸。
胸中は彼等1人1人異なっただろうが、『関わるべきではない』という点において正しい判断を下せたと言えよう。
男は――相手が去ったからか、溜めていたものがなくなったからか、冷静さを取り戻していた。
夏なのに冷汗が背筋を滑り落ちる。やってしまった。
ゆっくりと身体を離しつつ、まろび出ていたものをしまい、ずらしたものを元に戻す。
女の手をとり、手の甲に歯型を認めると回復呪文を唱えた。その後は……
「とりあえず……シャワーを浴びるか?今のままだと泳げないし」
頬を抓られても文句は言えない。
■マーシュ > あの時と、今と、違うことを数え上げたとて。
あまり、違いはなかったりするのかもしれない。ただ決定的に違う点はあるのだろうけれど。
────己の涙の理由を勘違いしているあたりは、まだきっと寄り添える部分があるのだろう。
臆したように震えた相手に、唇をきゅ、と強く押し付けてやった。
「────…、つ、……ぅ」
胎内に、感じる熱。戦慄き。注がれる熱に、熱をからめとる肉襞がうねる。
濡れた音が響くのを聞きながら。己を満たし、染めるもの、を自覚させられる。
自然逃げようとした腰を抑えられて、逃げることは許されなかった。注ぎきるまで、そのあとも深く重ねられたまま。
「────…っ、───……!」
戦慄く指先が、絡み合ったままの手指にすがる。
…そんな自分たちを最後まで見届けることになってしまった外野、というか不埒な遊びに興じていた彼らと同じことを結局してしまったことに気がついて後で壁でも見つめながら自省するのはもう少し後のことだ。
彼らが興を削がれきっていなくなったことにも半ば気づいてなかったが──…。
ややあって体を離した相手に身づくろいされて、回復魔法までかけられて──。
「………………」
向けられた言葉に眇めた眼差しを向けたのは許されたい、と思う。
「…………………………………連れていってください」
腰が立たない、とは言わないかわりに、相手の望み通りに頬を抓って差し上げた。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からマーシュさんが去りました。