2025/03/29 のログ
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ご案内:「王都マグメール 王城 宴席のバルコニー」にアイシャさんが現れました。
アイシャ > (……疲れちゃった)

とある夜、王城の一角を占めるその一角は自邸ではない。
春の訪れを祝う宴席と招待状にはあったので、規模のことを考えずに招待を受ける返事をしたのが今宵の運の尽きか。
春の訪れならば、花を愛でたりするようなこともあるかと思ったのに、庭園どころか宴席は春の空気を追い出すかのように大広間で行われている。
勿論、広間のあちこちに春らしい華やかさはあるものの、王女が期待していたものとはだいぶ違っていた。

(まぁ、これも社会勉強の一つかしら)

けれど唇から溢れるため息を隠すことはできない。
それに、長い引きこもり期間を拗らせ続けていた身には余りに超過し過ぎている許容人数や、その人数に比例して入り混じる香の匂いに辟易し──つまり、完全に人酔いしているような状態だった。
少し涼みたいからとバルコニーへと足を向ければ、人の気配もなく、新鮮で軽やかなその空気を胸いっぱいに吸いこんで深呼吸を繰り返す。
いつもより聊かきついコルセットのせいで多少苦しくはあったけれど、それでも宴席独特の人いきれに似た蒸れた空気を吸い続けているよりはよほどいい。

「…そうだわ、アスティにまた近いうちにお願いしないと」

上の妹にいつも頼んで調合してもらっている自分だけの香水、やっぱりこの菫香が一番落ち着く。
そろそろ壜の底が見え始めていることを思い出す。
ちょうど今が盛りの花の中でも飛び切りいいものを精霊に見繕ってもらわなくては。

とはいえ、ここは自邸の庭ではないのだから、今から庭園に出て菫を乱獲する気はないのだけれど。

ご案内:「王都マグメール 王城 宴席のバルコニー」にカミュさんが現れました。
カミュ > 役割は宴席の中で体調を崩した人物への手当の為に出席させられたが、そういった対応は王城の中の政治にかかわり生き抜く医師たちが奪い合う様を横目に、城内の政治等に興味のない男は存在感を消し、宴席の隅へといたのだが、ふと目に着いたのは女性が一人、賑々しい宴席から外れバルコニーへと向かう後ろ姿。

給仕からよく冷やされた果実酒の入ったグラスを一つ受け取り、男はその後を追う様に歩き始める。

バルコニーへと相手を追い出ればそこには深呼吸を繰り返すその後ろ姿。

相手の呟きの内容までは聞こえなかったが、緩やかに流れるやや冷えた風が運ぶ菫香に鼻孔を擽られながら男はゆったりと声をかける事として。

「ご休憩の所失礼いたします。 御加減が優れぬように見えましたので声を掛けさせていただきました。」

と、男はバルコニーの入口を過ぎた所で足を止め穏やかな調子で声をかけた。

振り返る相手が見るのは落ち着いた服に身を包む長身の男、王城の中でも政治から身を引いている変わり者である為に相手も男の顔と名前を知っているかもしれないが…。逆に王族の耳にまでは届いていないやもしれない。

アイシャ > (でも……やっぱり、お庭だけでも見せていただきたかったわ)

そもそも、王女が今回の大宴席に足を向けようとした切欠はこの邸が所有する庭園が見事だと有名だからだ。
何かとあまりいい話を聞かない今の世間に置いて比較的明るい話題ともいえる。
季節ごとに様々な花が咲き乱れるその庭園は今よりも平穏な時代の遺産なのだそうだが、自邸の書庫から様々に引っぱりだしては読み耽る本のなかにも記述がある程に名高い庭園は、引きこもり王女の綽名をほしいままにしてきたこの王女ですら憧れる外の風景の一つだった。

「!」

危うく招かれた身であることも忘れて、憂鬱な気持ちは丁寧に磨かれたバルコニーの手摺に肘をつく。
庭園へと続く低い階段を降りて、この憂鬱な宴席から逃げ出してしまおうか。
そんなことを画策し始めている背にかかった声に、驚いた小動物よろしくあまり大柄ではない体は小さく背を震わせて驚く様を言外に伝えるだろう。

何事も落ち着きが大事だ。
んん、と、小さく咳払いをして、なるべく落ち着いて振り返るように心掛ける。

「…気遣いに感謝します。
少しのぼせてしまったので、こちらで涼んでいるところです」

そこまで言い終えて、一仕事終えられたとばかり息をゆっくり吐きだした。
相手が誰であるかを確認するために銀色の瞳を持ち上げれば、かなり持ち上げる必要があった。
幸いにして自邸には王女よりも背の高い家族が何人かいるので見上げることには慣れているが、それでもやはり疲れるものは疲れるものだ。

政治から身を引いている宮廷医と、引きこもり歴15年を超える王女。
だから顔を見たことがないのはきっとお互い様だろう。

カミュ > 声を掛けようとした相手の後ろ姿は何とも気鬱気なようなものを感じるやや疲れた背中。

声を掛ければその小さな体は小さく震えながらも、咳払いをして振り返る相手に男は穏やかな笑みを向けている。

相手が王女とは思っていないまでも貴族の娘であることは明白で、少し上せたという言葉に小さく頷き応えて。

「そうでしたか、確かに宴席の場所は人の熱気や喧騒で疲れてしまうものですからね。失礼、私、医師でしてね、具合の悪そうな方を放ってはおけませんでした。」

こちらを見上げる相手の顔色や調子をさらりと流し見ながら言葉のように少し多人数の熱気に当てられたものだろうと診察をしながら相手の前まで進み互いが手を伸ばせば触れ合う程度の距離まで近づくと男は手に持っていた果実酒を相手に差し出し、言葉を交わす相手に穏やかに言葉と、自身の職業を告げて。

「のぼせた体には冷たい飲み物と冷たい空気が一番の薬です。 先ずはお飲み物でも如何ですか?」

透明なグラスの中には口当たりの甘い酒を黄色の柑橘の果汁で割ったさっぱりとした口当たりの果実酒が注がれており、グラスの中でゆらゆらと揺れている。
ちらりと視線を相手の背後に向ければそこには様々な花が咲き乱れる庭園。

「お一人で歩くのは危ないですからね…。 エスコートさせて頂いても? そうすれば御嬢様は庭園を見に行けて、私も宴席から逃げられるので…」

等と告げる言葉はやや茶目っ気を持たせ悪戯を楽しむような表情を相手に向けそんな提案をした。

アイシャ > 初見の相手には、どうしても身構えてしまう。
それは見知らぬ相手に慣れていないということも事実だし、王女の過去に起因するトラウマに寄るのもまた事実。
だから、落ち着き払ったような顔をどうにか整えはするものの若干の不安げな気配も纏っていたか。

「お医者様?
そう、それなら仰ることも尤もだわ」

だからバルコニーの手摺についていた肘を持ち上げた後はずっと鳩尾の上で組み合わせていた掌は、長身の男が近づいてくるほどに少しずつ指先が白くなっていく。
ある程度近づいたところで震えそうになった呼吸を抑えたのとちょうど同じ頃合。
宮廷医と、王女のちょうど真ん中に現れるグラスの存在に、緊張していた表情は少しばかり面食らって、瞬きを二度、三度。
ちらりと、髪と対比するような色の男の眼を近しい色のグラス越しに見上げてからそろりとグラスに指を伸ばす。

「ありがとう、頂きます」

グラスを口元に近づければ、憂鬱が解けていくような爽やかでほのかに甘い香りがする。
そして、少しだけ口に含めば甘い香りが先に広がり、ふんわりと柑橘の軽やかな香りが抜けていく。
何よりその冷たさが心地よくて、もう一口、更にもう一口と飲み進めてしまった。
酒を飲みなれていない王女には、その口当たりがよい甘味が酒であることもわからなかったのだけれど。

疲れもあったし、やはり逆上せてもいたのだろう。
勢い任せにグラスの中を空にする頃には、石膏の頬にふんわりと春めいた色がのぼっていた。

「……まぁ、それは、素敵なお誘いだわ?
宜しくてよ、連れて行って下さるかしら」

空になったグラスの細い首を持たないほうの指先を、悪戯っぽい表情で提案してくれる医師へと差し出すのはエスコートする権利を与える証。

カミュ > ゆるりと相手の身体全体を視界に納める男。
会話しながらも相手の様子を見る事は辞めない為に、落ち着き払ったような顔をしながらも不安や恐れを感じている気がしていたが、それは近づいた拍子にはっきりとしてくる。
細くしなやかな指先はさらに白く緊張の色を男に見せ。
相手と自分の今の距離の限界の場所で足を止め、かわりにグラスを差し出して見せる男。

緊張して男以外への注意が散漫となっていたのであろうか、面食らい、取り繕った表情に生まれたほころびを眺めつつ相手の反応をマテバそろりと上がる指とグラスに近づいてくるその手、相手がグラスを持てば男はそのグラスの首から指を離し相手が飲むのを急かすわけでもなく、待っていて…。

それでも小さな唇、グラスの縁を寄せくいくいと中々の勢いで飲み干す様には、お酒入りであった事を告げ忘れていたことに思い至るも、緊張のせいかもともとか、染み一つない斥候めいた頬に春めいた色が昇れば小さく頷き悪戯なお誘い。

相手が男の提案を受け入れたと示す様に開いている指先を差し出されれば男は一度相手の前で膝を折り、その小さな手に自身の手を添えるように柔らかく包み込めば、緊張と夜風で冷えていたであろう指先を男の穏やかな熱が包み込んでいく。

「それでは、エスコートを務めさせていただきます。 なにかあれば何なりとお申し付けくださいませ、お嬢様。」

相手の前で屈んでいれば低くなる男の頭、戯れを楽しむかのように穏やかな笑みで相手を見上げながら小さく頷き、相手の手の中で遊ぶ空になったグラスを受け取ればそれをバルコニーの片隅に置かれたテーブルへと魔法によって宙を浮かし移動させれば、ふわふわと漂う空のグラスは宴席の会場から差し込む光の中で踊りを踊るかのようにキラキラとした光の雫を残しながら緩やかにテーブルの上に着地した。

「それでは参りましょうか、お嬢様。」

等と囁きながら男はゆったりと立ち上がり、相手をエスコートしながらゆっくりと歩き始める。

「もし夜の階段、足元が不安でしたら、私がお運びいたしますが、任せて頂いても?」

庭園へと続く低い階段、しかしながら会場から差し込む明かりによってその階段を隠すかのように闇が濃くなってしまっており、一段降りたところで足を止め、振り返ってから穏やかな表情のままそんな提案をしてみて…。

アイシャ > 酒精で体が少し温まったことで、少女の肌から控えめに香っていた菫香がほんの少しだけその爽やかで澄んだ甘い花の香りを濃くしてゆく。
それと同時に、人酔いで疲労を濃くしていた思考を少しだけ朗らかにしたのか、随分と背の高い男が差し出した指先を恭しく取ってくれる様がまるで古い物語の一説を思い起こさせて王女の機嫌を取るのにも一役買うことになった。
自邸で顔を合わせる家族達が世に比べて顔立ちが整っているのはわかっているけれど、今目の前に膝を折ってくれている宮廷医もよく見れば随分と端正な顔だち。
そんな男からエスコートを申し出を受けているのだから、その顔立ちに色めき立つつもりはないけれど、少女向けの宮廷小説を片っ端から読み耽っているような王女には効果覿面といったところ。

「…すごいわ、魔法が使えるお医者様なのね?」

王女自身には一般的な魔法の素養は殆どない。
だから、まるで羽が生えたように軽やかに踊りながら宙を舞って見事に着地するグラスの軌跡を興味深そうに見上げ、やがて見送ることになった。

足元が不安なら、と聞こえた言葉に少しばっかり頬を膨らませ、自分で歩けると主張するために一歩踏み出そうとしたものの

「ひゃんっ?!」

裾が床の上を撫でるように少しばかり長くデザインされたドレスの裾を見事に銀色の細い踵が踏み絡めてしまい、あとは推して知るべしとばかりにショールの白が描く軌跡と共にも連れて転びかける。
顔や膝を打たずに済んだものの、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら姿勢を正すと同時、小さく咳払い一つして落ち着きを取り返す。

「んん。
……よろしくてよ」

もう一つ咳払い。
別に足元が不安なわけではない、そんな顔をいまさらながら取り繕って医師の提案を受け入れ、任せることにした。

カミュ > 酒精と人酔いからの解放によってリラックスし始めた事が濃くなる菫の香りによって男にも伝わる。

恭しくも丁寧に、古い物語や少女達が読むような小説の様にエスコートを申し出る男、空になったガラスを受け取ればそのグラスに宙を舞わせ相手を楽しませて。

「ふふ。使えると便利なものですから。」

等とさらりと答えながらバルコニーを進む二人。
階段に差し掛かったところで一段降りてから振り返り告げた言葉に少女の頬が僅かに膨れれば男は小さく悪戯を楽しむような笑みを向けるが、やや長くデザインされたドレスの裾を踏み体勢を崩しそうになれば、男はさっと相手の体を支え、落ち着きを取り戻すのを待ち。

「畏まりました。それでは御嬢様触れる事をお許しくださいませ。」

等と囁いてから相手の手に僅かに男の熱を残しながらも手を離し、かわりに相手の細い足の膝裏に腕を添え、背中にもう片手を添えて相手を抱き上げれば其れはお姫様抱っこ。
自然と近づく二人の距離、手だけで感じていた互いの熱も今は服越しながらも触れ合う面積を増し、じんわりと互いの体を温めて。

お姫様抱っこをすれば自然と相手の足は地面から離れ、長くデザインされた裾ももちろん地面から離れていく。
相手を抱く男の身体、優男のようにも見えるが以外にも鍛えられており、服ごしにやや硬い感触を相手に与えるだろう。

「それでは、お嬢様、庭園へお連れ致します。」

等と相手を見下ろしながら穏やかな笑みを相手に向け囁きかけてからゆっくりと歩き始める。
それは階段を降りても、尚相手を下ろすことはなく、バルコニーから庭園へと続く道をゆっくりと歩きはじめる。
抱きかかえる男の腕はその中の小さな体を包み、がっちりと支えており不安定感等も一切あたえず、歩く度の振動が緩やかに相手に伝わりまるで雲の上か先程のグラスのように宙を舞う感覚を相手に与えるかもしれない。

アイシャ > 宮廷医がきちんと抱き上げることを宣言してくれたことで、王女はちゃんとその事象を受け入れることが出来た。
これが、前置きもなく急に抱き上げられるようなことでもあればきっと半狂乱になって泣き叫ぶところだったに違いない。
幼い頃のトラウマというものは、深ければ深いほどいつまでも残るものだ。

「便利、ええ、お医者様なら猶更でしょうね。
………ええと、そうだわ、何とお呼びしたらいいのかしら」

漸く気が付いたように、先程よりも随分と距離が縮まった端正な男の顔を見上げながら問いかける。
いつまでも職業名で呼ぶのは流石に失礼だろうと思ったからだ。

話している間にも物語の登場人物のように王女を抱き上げて庭園へと進みゆく足取りは安定していた。
抱き上げられた体は確かに彼よりも小さいけれど、その実持て余すような質量を胸に抱えるているのだからあまり軽くもないだろう。
それでも何の不安もなく抱えられているし、男を見上げる限りでは王女の重みに耐えるような気配もない。抱き上げられていることで結果的に男の胸に寄りかかるような体勢になっているのだけれど、しっかりとした胸板の厚みのようなものを感じてただただ控えめに驚いてしまうばかり。

「凄いわ……なんて綺麗なの…」

庭園に差し掛かれば噎せるような春花の香りに迎えられる。
咲き誇る春咲きの大輪、零れるような紫。
甘く濃厚な香りを放つ真っ白い花々、春らしい柔らかい色合いの中に淡い青が可憐な姿で趣を添える。
中でも地に零れ落ちたかのような黄金色の小花がたわわに咲き誇る枝が夜の風に揺らめけば、なんともいえない幻想的な美しさを醸し出していた。
歩いているときには背伸びをしないと届かないような高さの花も、背の高い男に抱えてもらうことで間近にじっくりと楽しむことが出来るのが有難い。

「嬉しいわ。
古い本で読んでから、ずうっと見てみたかったの。
…本物は、こんなに綺麗なのね」

様々な本の中で称賛される程美しい庭園。
かつての姿ではないのかもしれないけれど、それは王女にしてみれば十分胸を打つに値した。
嬉しさと酒精で頬を染める様はまだ少女と呼ぶに十分な年頃そのもの。

カミュ > 何処までも穏やかに、ゆっくりと声を掛けながら男は少女の体を抱き上げる男。
相手のトラウマまでは知らぬ画素の穏やかさと丁寧さは人酔いだけではなく、男の登場に僅かに見せた緊張から、見て取ったもので。

「ふふ。えぇ中々に便利なものです。 そうですね、名を知らぬままも面白いかと思いましたが、カミュと申します。 御嬢様はなんとお呼びすれば?」

等と穏やかに問いかけながら安定した足取りで少女をお姫様抱っこのまま庭園へと運ぶ男。
歩く度に柔らかく動く胸を持っていても、いざとなれば鎧を着けた騎士でも運べる男にとっては負担にもならず、少女の体を男の腕ががっちりと支え包み込んでいる。

そして、庭園へと差し掛かれば来い貼る花の香りに包まれる二人、邸から離れたため窓から零れる庭園を照らす明かりも月明かりを邪魔せぬ柔らかなものとなり、庭園を闇から浮き上がらせる。


間近に見る春の花々に見惚れるように大きな瞳を向ける相手に男は穏やかな笑みを向け。

「夜の庭園というのもまた花を引き立てるようで美しいものですね。」

高い場所の鼻をよく見たそうにすれば相手を持ち上げ。
逆に低い鼻に興味が惹かれたように舌へと向けば、膝を降り、視線の高さを相手の望むままに変えていく。
男の腕の中でうれしそうにする相手と、本物はという言葉に小さく頷き。

「喜んでいただいたようで私も嬉しいですよ。
それに、出会ったときよりも柔らかく微笑む御嬢様の笑顔もとてもお綺麗ですよ。さて、近くから見るのもいいですが、少し離れた所からも眺めて見ましょうか。」

等と注げると男は相手を抱えたまま庭園の片隅に立てられた六本の彫刻が施された緑の蔦と小さな花で飾られた柱が屋根を支えている四阿へと進んでいく。
薄い蒼にも見える月明りに映し出されたその四阿は長いことそこにあったことを示す様な風格や歴史を感じさせるもので、少女が読んだ幾つもの本の作者がそこにいて眺めていたと容易に想像できてしまうだろう。

白磁のベンチに腰を下ろせば先程まで間近で見ていた草花も少し離れ個々の美しさから全体の調和された美しさへと視点が変わる。
ベンチに腰を下ろせば自然と少女のお尻は男の太腿の上に、自由になった腕は夜風に晒されていた相手の肩や腕を摩る様に優しく撫で始めて。

「寒くはありませんか?」

等と抱き上げていた時よりも近づいた距離、相手の耳元を擽る様にどこか甘やかに男の低い声が響いた。

アイシャ > 「まあ、面白いことを仰るのね?
でもお医者様とお呼びするのはちょっと長いんだもの。

…そう、カミュさま。わたくしはアイシャよ」

あくまで公の場の延長線だから、普段よりも少しだけ畏まった一人称を選ぶ。
職業柄なのか緊張をほぐしてくれるのが上手いらしい男に丁寧に抱えられて進む名残のように医師の銀髪が夜風に流れるのが時折垣間見えてその様も物語のように美しく王女の目に映った。

「ええ、夜でこの美しさなら、昼もきっと素敵なんでしょうね。
いつかまた伺ってみたいわ……あ、でも、宴のお誘いはちょっと遠慮したいけれど」

社交慣れしていないこともあるが、今回はことのほか人の多さに辟易してしまったから。
こじんまりとした少人数での茶会のお誘いなら歓迎できそうだと思う。
自分の視線の先を追ってくれるのか、依頼するよりも先に近くでじっくり見たい花の近くへと誘ってくれる様には素直に感心すると同時に、機嫌がよくなる心のあたりを程よく擽ってくれるかのような配慮が有難く、緊張していた最初から比べたらその表情は随分と朗らかになっていただろう。

「まぁ、カミュ様は御上手だわ。
勿論構わなくてよ、ずっと抱き上げて貰っていたんだもの。
それにカミュさまだって、流石にお疲れでしょう」

視線の先にやがて現れるのは綺麗に整えられた四阿の姿。
これも古い本の中で称賛の言葉と共に描写されるものの一つだ。
成程白いベンチからは、より一層庭園を広く、そして庭師たちが丹精込めて手入れしてきたのだろう傑作の姿が視界一杯に広がって見える。
その美しさは夢のようだと描写される庭。
目線が低く、そして一定の高さになったことでまるで花の海のなかに揺蕩うかのような錯覚すら覚えるほど。

「そうね、少し…肌寒い気はするわ。
…あの、でも、もう降ろしていただいても大丈夫よ?重たいでしょう?」

庭に興味が向いていた時には少しも寒さは感じなかったけれど、確かに今となっては少し肌寒さがあった。
確かに布越しに伝わる医師の体温は温かいのだけれど、だからと言って大人の膝の上に座っているのが嬉しい年頃はとっくに過ぎている。
耳元近くに落ちてくる、まるで含めるかのような低い声に背筋が僅かに泡立つのを感じた王女の表情は僅かな戸惑いを含んでいた。

カミュ > 「ふふ、名も知れぬ相手との夜の散策も楽しいかと。
アイシャ様。」

腕の中緊張や疲れがほどけ次第に朗らかな表情へと変わっていく相手を男も楽しむ様に眺めながら、2人で夜の庭園の散策を楽しんでいる。
相手の視線の先を追いつつ二人で花を眺め。

四阿へと誘えば相手の軽やかな言葉にクスリと小さく笑みを零して。

「ふふ。 鎧を身に着けた筋骨たくましい騎士を抱えるのに比べれば羽毛のような軽さですよ。 軽すぎて風に攫われない様にしっかりと抱きしめていなければいけないと思う程にね。」

等と言葉を軽く返しながら四阿の中の白いベンチへと腰下ろせば夜の庭園に浮かぶ美しい庭園。
腰を下ろし、相手の体を冷えぬように摩ってしまえば降ろしても大丈夫という言葉に小さく頷き。

「確かにいつまでも抱き上げていては失礼でしたね。
実は私も少し肌寒かったのでアイシャ様の温もりと抱き心地が心地よかったのと、庭園を眺めるアイシャ様の横顔もお綺麗だったのでして失念しておりました。
アイシャ様がお嫌でなければこのままでいて頂きたいのですが…。」

男の膝の上に座る相手自然と近くなる距離、男の金の瞳が相手の銀の瞳をのぞき込む様に真っすぐに見つめ、そんな事を囁きながら、酒精により春花めいた淡い色のさす頬に手のひらを添えようとする。
相手が拒否をすればその手は宙を泳ぎ、元の場所へと戻り相手を抱えて隣へと下ろすように動く事になるが、
相手がその手を受け入れれば、一度頬を掌で包み込んでから夜風に晒された春の花のように淡く色づく頬を撫で、細くしなやかな指先で目尻を擽る様に撫で男の熱を伝えていくだろう。
そして、そんな光景は男は少女がそのような本を読んでいるとは知らないが、男女の甘やかなそういったシチュエーションをも思い浮かべさせてしまうかもしれない。

アイシャ > 「騎士を…?
抱える……?

……冗談で、仰っているのよね?」

羽のような軽さというのはきっと世辞だと思うが、流石にその前の言葉に首を捻る。
頭の中で、医師の言葉をもう一度反芻して、今度は反対側に首を傾げた。

筋骨隆々の騎士を抱える、と聞けば流石に驚きで目を瞠るだろう。
王女の頭の中では、目の前の医師が己の父を軽々と姫抱きにするという想像が過り、慌ててぷるぷると首を横に振った。
だが、男が今の状況と比べようとしているのは想像したような状況。
本当に力があるのだと、思わずまじまじと男の腕を見てしまった。
バランスが取れているように見える腕は、どう見ても剛腕には見えづらい。

「…カミュさまがそう仰るのなら、構わないけれど、……でも…」

こちらを覗き込むような金色があまりに美しくて、頬に触れようとする男の掌を見過ごしてしまった。
確かに頬をなぞる掌から、目元に触れられる男の指先から伝わるぬくもりは温かい。

けれど、心地いいからといってこのまま流されるままにしていいのだろうか。
きっと、良くないはずなのだ。
王女が秘かに書庫で隠れて読んでいるような本の小節がいくつも頭をよぎる。
それの文章たちが、警告するかのように繰り返されているのに。

「でも、わ、わたし…」

戸惑いのあまり、薄っぺらく取り繕った社交の顔が脆くも剥離していく。
金色から目を逸らして、膝の上からおろしてもらって、連れてきてもらった礼を伝えたら宴に戻らずに今日はもう帰ってしまえばいいのだ。

それなのに、どうしても見上げる男の金色から目を逸らすことが出来ない。

カミュ > 「傷ついた騎士を抱えて後ろに下がったり、怪我をして移動するのを難儀な相手を抱えて移動したり。 まれにあるので、魔法で身体を強化するにも、1を10倍と10を10倍では変わってきますからね。」

等と男の腕をまじまじと見つめる相手に語り掛けながら嘘か真か男は楽しげに笑いながら応えつつも、降りたいと意思を表示した相手、それまでの様にすんなりと下ろさずに、むしろ言葉を重ね温もりで少女を混乱させていく。

さらりと白磁のような、磨かれなめらかな斥候の様な頬を包み込み柔らかく撫でながら指先は惑う目尻を擽ったり、さらりと流れた顔の横の艶やかな銀糸に指を絡ませながら蟀谷から頬のラインを擽る様に撫でていく。

「でも…?」

流されてはいけないと頭でわかっていても、揺らぐその心に翻弄される少女
覗き込む銀の瞳は揺らぎながらも男の瞳から目を反らせない様子を笑うでもなく穏やかな笑みのまま、その銀の瞳の視線を男の金の瞳の視線で縛るかのように真っすぐに見つめながらゆっくりと顔を近づけていく。

垂らされた前髪を指に絡めながら頬をなぞった指先は少女の形のいい顎先に添えられ、言葉をうまく紡げずにいる唇に男の親指が触れ、その唇を撫でてからその手はするりと滑り、頭と首の付け根に指先を添え、横顔に掌を添えるように包み込み、背に回した腕で包み込む様に抱きしめ、鼻先が触れあう程の距離で一度止まり。

「アイシャ…」

ぽつりと、ただ相手を求めるように名前を甘く熱を孕ませながら囁きかけてから、少女の小さな唇に自身の唇を先ずは触れさせるように重ねてから、その下唇を甘く啄んでしまおうとする。

夜の庭園、初めて出会い言葉を交わした男と身分を知らせず王女であることを隠している女、2人を包むのは周囲で咲き誇り乱れ、香り立つ春花と、四阿の天窓から差し込む月光、互いの作る深い影、そして、遠くの邸宅から漏れ聞こえてくる賑やかな喧騒と音楽が物語の様に少女の現実感を奪っていくが、互いの感じる熱や呼吸が、これが現実だとより強く意識させ、その相反する感覚がまた少女を惑わす事となるか…。