2023/09/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/大ホール」にリュシアスさんが現れました。
リュシアス > 楽団の奏でる管弦の優雅な調べに、其処彼処から聞こえて来る談笑の声。
王城の中でも取り分け広大な大ホールは今宵、然る王族の主催する夜会の只中にあった。

テラスに続く窓際に一人佇む男も、辺境伯家の名代としてこうした場に出席する事は珍しく無いのだが、
今宵に限っては賓客では無く警護としての列だ。故に正装こそしているが腰には剣を帯びた侭だ。

「(それにしても、よくもまぁこれだけ集まったものだ………。)」

賓客達が思い思いに談笑や食事を愉しむ大ホールの中を一瞥しながら、胸の内で舌を巻く。
装いや立ち居振る舞いから類推する限りだが、今宵集まった賓客達は王侯貴族のみに留まらず、
商人に聖職者、冒険者ギルドや学院の要職に果てはシェンヤンからの客人と思わしき人物まで見える。

主催である王族は己の人脈の広さを誇示する為。
賓客である彼らもまた、それを利用して新たな人脈や情報を獲得する為。
夜会の規模が此処まで大きくなった理由としては、大方そんな所だろう。

リュシアス > 大ホールの光景は遠目から見れば華やかなものであったが、内側までそうであるとは決して限らない。

例えば、男の立つ場所から少し離れた窓際で声を潜めて言葉を交わす貴族と商人の二人組。
得意先の貴族に対して商人が次の取引の相談を持ち掛けているものと思われるが、
断片的に聞こえて来る会話の中に“若い娘”や“奴隷”といった単語が混じっていたのが確かに聞き取る事が出来た。

とは言え、その程度は王都の中では日常茶飯事。
取引の現場に居合わせたのであればともかく、成立もしていない商談に対して一介の騎士が態々介入する事では無い。
向こうもそれを判っているからこそ、男に聞かれていたとした所で意に介する事はしないのだろう。

「(しかし、どうせやるならばもう少しひっそりとやって欲しいものだ………。)」

内心辟易した様子で、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたのはほんの一瞬。
聞こえているぞ――と警告の意味を兼ねて、彼らに聞こえる音量で咳払いをひとつしてから男はその場を離れる。
そうして何気なく足を向けた先のテラスでは、幾人かの人影が大分暑さも和らいできた夜の風を愉しんている様が見て取れた。

ご案内:「王都マグメール 王城/大ホール」にタピオカさんが現れました。
タピオカ > 会場に怪しい動きはない。
せいぜい、淑女に言い寄る紳士の手先が開いたドレスの背中に伸びているのを見た程度。
時々廊下に出て、夜会を楽しむ以外の目的を持っていそうな視線の主を探すが胡乱げな気配もない。
……ひとまずは、ただ賑やかな夜になりそう。
褐色肌、小さなメイド姿の人影は張り付けた笑顔のまま一時気を緩める。片手に銀盆。

――最近身辺が騒がしい。念のため秘密裏に護衛についてはくれないか。
後宮の胸元を飾る装飾品を卸す宝石商から、冒険者ギルドへの依頼があった。引き受けた褐色肌の冒険者は、手引によって女給へ。
夜会を渡り歩いて給仕しながら警戒し、有事があれば商人の身の安全を確保する。今夜はそんな護衛の仕事についていた。

最初のうちは人の多さと艶やかな夜の宴に圧倒されつつも緊張していたが、騒ぎの起きる様子は無い。……時々、やや不穏な商談のこぼれ話は聞く程度で。

お得意さんらしき人影でにこやかに談笑している依頼主の脇を目配せひとつ交わして。細く片目を瞑った。……異常なし。その意。

――と、咳払いが聞こえる。
見れば、貴族らしき商人らしき人物がバツの悪い表情で肩をひっそりとすくめていた。何かしら引け目でもあったのか。その先を通ってテラスへ向かった、白のサーコート姿の騎士らしき姿。
特に問題もなさそうだ。
でも、探りを入れてもよさそうな。

「警邏のお努め、お疲れ様です。騎士様。
一息入れませんか?お飲み物をどうぞ」

何人かが散っているテラス。
相手の後ろからゆっくりと追いつくと、正面にそっと回って。
女給は騎士に声をかける。
自分は彼と同じく、会場の裏方。
そんな意味を持つような、気さくな笑みを浮かべて。
片手に持つ銀盆を相手に見えるように差し伸ばす。
宴の混沌さを示すように、赤ワイン白ワイン。アルコールを含まないフルーツフレーバーにスパイスを加えたカクテルのグラスがいくつか。

リュシアス > 今しがたのような些事は、夜会のあちこちで疎らに見受ける事が出来た。
精々が、酒の勢いでちょっとした口論になった二人組を男とは別の護衛騎士が仲裁に入った程度。

男がその腰に帯びた剣を抜く必要に迫られる事態など、そう起きる筈も無く。
この夜会がお開きになるまでの残りの時間をどう過ごしたものか――そんな事を茫然と考えていると。
緩やかな足取りで男の前へと回り込むように姿を現わした女給姿の少女に、明後日の方向に投げられていた男の視線は其方へと向く。
王城の侍女にしては見覚えの無い姿だ。無論、彼女らすべての顔と名前を憶えている訳では無いのだが―――。

「―――……そちらもお疲れ様です。それでは、お言葉に甘えて。」

掛けられた声に応えるように、騎士の作法に則った会釈を差し向けてから、差し出された銀盆に乗せられたグラスへと手を伸ばす。
流石に職務中故、手に取ったのは酒精の入って居ない果実のカクテル。
グラスの口に鼻を近付けながら、中の液体を転がして立ち昇る果実の香りを愉しむ所作を見せる。

タピオカ > 正式な騎士の作法を間近に見て、心の中で感嘆する。
白銀の軽鎧もその作法も、自分がいつも居住まう世界ではなかなかお目見えしないものだからだ。

グラスの縁から漂う香を楽しむ姿にほんのりと頬を緩めて。

「ふふ、いい香りでしょう?
お仕事中に鎧を脱ぐ事は出来ないでしょうから、せめて香りでリラックスしてくださいな。
――それでは、どうぞ良い夜を」

旬の果物。ひとつ買うのに、庶子では手が出ない高値の。
スパイスにしても同じく、ひとつまみがひとつまみの銀粉と同じ価値のもの。この宴の厨房にどれだけの資本が注ぎ込まれているか、相手のとったグラスがよく証明している。

口論になりかけた二人組を止めに入る護衛騎士の様子を横目に見た。

探りを入れる必要性を思い直してから、相手へと視線を向け。

「それでは失礼しますね。
どうぞ良い秋の夜長を」

顔を伏せ、空いている片手で長いスカートの裾を摘んで。
銀盆片手に、夜会に紛れていく――。

ご案内:「王都マグメール 王城/大ホール」からタピオカさんが去りました。
リュシアス > 「あぁ………確かに、良い香りだ。」

グラスの中の液体を揺らせば鼻腔を擽るのは、その価値故に馴染みは薄いが確かに上質な果物と香辛料の香り。
それ以外の不純物――例えば毒物のような――が入っていない事を確認してから、男はその中身を口許へと運んでゆく。
甘やかな果実と、その中でアクセントとなる香辛料の刺激は成程確かに、先の出来事で辟易していた気を落ち着けるには効果的だった。

「………有難う。貴殿もどうか、良き夜を。」

残りのグラスの載った銀盆を手に、一礼を残して夜会の中へと紛れてゆく少女の姿が見えなくなるまで見送ってから。
男は警護に戻るまでのもう少しの間、手許のカクテルと夜の風を愉しむ事にするのだった―――。

ご案内:「王都マグメール 王城/大ホール」からリュシアスさんが去りました。