2024/04/30 のログ
メル > 「お届け物ですー
 またのご利用をお待ちしております。」

とある貴族邸の裏口
そこを訪ねた少女が使用人に手渡したのは、王都でも有数のパティスリーの紋章が描かれた小箱
いかに貴族の遣いであろうとも、その人気故に滅多には手に入らないと言われる品であれば、
その光景にも、さほど違和感は感じないかもしれない。

強いて言うなら、裏口に現れた人物が下働きの使用人ではなく、立派な服を着ていたとか、
代金が入っているらしい封筒を少女が受け取っていたとか、そのくらいのもの。
丁寧な礼をしてから屋敷を辞した少女は、のんびりとした足取りで富裕地区の通りを歩き。

「尻尾はなし……かな。
 とりあえず、次はこれを届けて―――」

ちらりと周囲を確認してから、先程受け取った封筒を陽に翳す。
中にはもう一枚封筒が入っている様子が見て取れるけれど、取り出すようなことはせず。
胸のポケットに収め。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にリーベンさんが現れました。
リーベン > のんびりとした馬の歩み。
一頭立ての馬車の手綱を握り、ゆったりとした表情で大男は富裕地区を移動していた。

男が操る魔導機械は王都市街に乗り入れるには大きすぎる。荷物の大半は途中で馬車に積み替えて運ぶ。
普段それらは別の業者がやるのだが、男の目の前で本来の運び屋が急病で倒れてしまった。
馴染みのある相手だったので、代わりに運んでやっているのがこのお人よしだ。

「……おや? メルちゃんじゃないか? これから西の方に行くんだが、乗ってくかい?」

視界に入ったのは時折出入りするギルドで見かける少女の背中。そのギルドはこの馬車の持ち主でもある。
酒場での呼びかけなどで男は少女の名前を覚えていたが、はて逆はどうだったか。
少女も男同様、仕事以外でこの界隈には好んで顔を出さないだろうという、若干失礼な想像をする。
乗る乗らないは彼女次第だ。男と違い少女は道なき道も進めるし、のんびり歩く馬よりも早く歩けるだろう。

メル > 背後からの馬の足音には気づいていたけれど、さすがに御者が誰かまでは振り返って見るまでは分からない。
自身の境遇とは天と地ほども差のある街角で名前を呼ばれることになるとは思わずに、振り返ったその表情は少し驚いたもので。

「――誰かと思ったら、リーベンさんかぁー…驚いて損しちゃいました。
 馬車なんて、珍しいですね?」

常連とまではいかずとも、酒場によく顔を出す相手のことはよく覚えている。
何をと訊かれれば、その輝かしいばかりの後光なのだけれど。
それはともかく。
仕事柄、同業だということくらいは把握しているし、その相棒のことも噂には聞き及んでいる。
だからこそ、のんびりとポクポク歩く馬に引かれたソレには首を傾げ。

「いいんですか? それじゃあ、遠慮なく失礼しちゃいます。」

軽い身のこなしで御者台へと昇ってくると、ちょこんと相手の隣へと納まって。

リーベン > 「あぁ……ジョンの奴が急に倒れてミミズみたいに這いずり回りだしたんでな。
医者は呼んだからまぁ大丈夫だとは思うんだが……」

ジョンとは少女が所属するギルドメンバーの一人。歳は男と同じくらいか。
馬車を使っている理由を簡単に説明しつつ、乗りこめる程度に馬車の歩みを緩める。
身体が接触しないように気を遣っているのか何なのか、座る位置を若干ずらした。

「メルちゃんも本当に運送の仕事をしてたんだねぇ……てっきりあの店内限定かと思ってたよ。
そういやぁ……ダイラスの北の方で大きな市が立つってのは聞いたかい?」

冗談めいた言葉を挟みつつ、隣の少女にだけ聞こえる程度の雑談。
“ダイラスの北の方”とは、バフートの婉曲表現。同業者のちょっとした情報交換だ。
男は正面を向きつつ、やや厳めしい顔をしている。バフートにあまりいい印象を持っていないらしい。

メル > 田舎道とは違い、綺麗に舗装された石畳みは、馬車の乗っていてもお尻は痛くならない。
けれど、王都内であってもそんな道ばかりではなく。
腰をやってしまうのは、職業病とも言え。

「えぇーっ ジョンさんってば大丈夫なんですか?
 持病の腰をやっちゃったかなぁ……
 それでリーベンさんが代わりに馬車を? どこまでお人好しなのかな。」

男が馬車に乗っている理由を聞けば、まさかのそれだった。
医者を呼んでくれて、仕事まで肩代わりをしてくれているというのだから、思わず本音がぽろりと口を突いた。

「失礼ですね、ちゃんと『運び屋』だって名乗ったと思いますよ?
 そんなこと言ってると、今度、リーベンさんのおうちに、もつ煮込みをお届けしちゃうよ?
 あー、うん。らしいですねぇ……うちのギルドでも何かと話題になってました。
 リーベンさんの方にも、そっち関係のお仕事が?」

本音はともかく、本来ならばギルドで代役を手配すべき案件
それ相応の謝礼はギルドの方からも出るだろうけれど、同僚に代わって感謝を述べる。
挟み込まれた冗談に、これからの季節には嫌がらせでしかない酒場の通には人気のメニューで応え。
お仕事に関連しそうな話題に対しては、我関せずといった態度を見せ。
けれど相手が険しい顔をしているのを見れば、少し突っ込んでみることに。

リーベン > 「俺達は積荷の荷下ろしをするからなぁ。上半身だけ動かすとすぐ腰をやっちまう。
……とはいえ、北の大門からギルドに連絡して、替えの御者が来るまでを考えるたらね。赤の他人とも言えないし」

門番からは何とかしろという目で見られるし、当人からも頼まれるし、今日はこの後の予定はないし。
人を助ければ回りまわって自分の所に来る、と男は信じていた。

「あぁいや、それはそうなんだが……もつ煮込みかぁ。操縦席ならまぁ、何とか……。荷台の方はダメだな。
んー……というより、黒猫さん所から過去に何度かそういう依頼があったんだ。
何回かやったけど、なぁ。『乗客』を運ぶのはいいけど『積荷』は断ることにするよ」

男の魔導機械は大量輸送に適していた。速度は馬の10倍以上。
魔術鉱石を使う分コストはかかるが、馬の飼葉代と比べると一概に高いという訳でもない。
奴隷を効率的に運ぶため木材で五段ベッドを作り、とにかく詰め込んでいく。
そんな状況に詰め込み百近い人間を運ぶとどうなるか。何人かは生理的欲求に耐えられなくなる。

「ともあれ、メルちゃんは関わらない方がいいよ」

男は少女が隠している耳には気付いていないし、出自も知らない。今運んでいる物の中身だって当然知らない。
何も知らないからこそ言える、呑気な台詞ともいえた。

メル > 「――ほんとに、人が好過ぎだし。心配になっちゃうレベルだよ?
 うちのもつ煮込みは、新鮮食材だし、人気なんだよ。
 まぁ、そんなお人好しのリーベンさんになら、今度、オマケしちゃうね。」

経緯を聞けば、ちょっとばかり生暖かい瞳を向けることになる。
人を助けた善行が回りまわって、もつ煮込みになりそうな運命ではある。

「そうなんですね。じゃあ、うちの人にはそう伝えておきます。
 ――まぁ、市で取り扱う品が何だとしても、人が集まれば物は動くしね。
 お互い、お仕事は増えそうな感じかな。」

相手の流儀は、当然、ギルドの方でも把握はしているだろう。
けれど、過去には依頼したこともあるというなら、改めて釘を刺しておいたほうが良いだろう。
そうして改まった口調を敢えて砕いて、相手の忠告を煙に巻く。
先程受け取った封筒を仕舞った胸ポケットを軽く押さえ。

「さてっと……『私』は、ここで失礼しますね。
 まだちょっと寄るところがあるので。乗せてくれて、ありがとうございました。」

ちょうど富裕地区の外れに差し掛かったところで、立ち上がる。
相手が馬車を止めるよりも、一足早く、帽子が飛ばないように手で押さえながら、ぴょんと飛び降りる。
スカートが捲れて、健康そうな太腿が露わになったのは、男の目にも映るだろう。
危なげなく着地すると車上の相手に手を振って、路地の奥へと消えていき―――

リーベン > 「ははは……こんなオッサンに付け込んで得られるもんなんてたかが知れているさ」

心配には及ばない、と手をひらひらとさせてみる。
街道で行く方向が一緒だからと女子供をタダで載せていったことがあるが、何割かは善意につけこんでいるだろう。

「あぁ、助かるよ。 荷台の掃除は結構骨が折れてね……。
お、ここでいいかい? それじゃあ」

馬車は徒歩とそう変わらないペースで移動を続けていたが、ゆっくりと停止した。
その時にはもう少女の姿は隣にはいない。スカートが捲れ見えたものに目を見開いたが、慌てて正面に向き直る。
視界の端で少女が手を振るのに応えるように手を振った。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からメルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からリーベンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/ある貴族の屋敷」にルース・コールフィールドさんが現れました。
ルース・コールフィールド > 平民地区のとある大貴族といえる立場の者が有する屋敷。
今も大広間ではパーティーで盛り上がり、酒池肉林で楽しんでいる騒動が聞こえる。

そんな中、会場を抜け出しては人気のない屋敷内をさ迷い歩く。
目的地はこの屋敷の主人が貯め込んでいる貴重品が納められた部屋か、立場を利用し本来なら他に回る金を着服したという記録の在りか。
前者はともかく、後者は下手をすれば残っていない可能性もあるが、そこは賭け。

屋敷内をそれとなく迷ったように歩き、使用人に遭遇すれば会場への帰り道を問い。
如何にもという警備がいればそこを避けるようにして迂回。
そうして屋敷内を歩き、会場以外で厳重な一角を割り出し、そこの部屋に警備が離れたタイミングで入り込み。

「これは予想以上ってやつか?
案外一緒においてたりしてな」

部屋に入るなり置かれた数々の貴重品、宝石や絵画、そして無造作に箱に投げ込まれたゴルドを見てはそう口にし。
これが正規非正規で集められたかは二の次、この部屋を探り探し物がないかと早速探し始める。

ルース・コールフィールド > そうして無事に探し物を見つければ、適当な理由をつけて屋敷を後にした。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/ある貴族の屋敷」からルース・コールフィールドさんが去りました。