2024/04/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区『BAR アメジストセージ』」にコルボさんが現れました。
コルボ > 【待ち合わせ待機中です】
コルボ > 富裕地区に構えるとあるバー。
蓄音魔術を活用したピアノ型の魔道具が演奏者もいないのに落ち着いた雰囲気の曲を奏で続ける中、
男は一人、カウンター席でブランデーのロックを口にしながら。

「代理って誰だよあいつ……。」

嘆息一つ、ただならぬ中の仇敵にして共闘する間柄から届いた知らせは

【私の可愛い恋人を代理人に送るから仲良くなさい】

と。

あの諜報員、ちょっとお互い敵同士なのを忘れてないかと思いつつ。

「しかし、あいつが恋人、ねえ……。」

……知る限りでは、人も魔族も問わず陥れ、洗脳し、己の手駒とする類。
そういう術に”かかれない”己と関わり、数奇な縁があってから
共闘することになってある程度は知ったつもりだが、恋人と言う特定の関係を造らないのは己と同じと思っていただけに。

スルーシャ。
魔族の諜報員。

お互い不干渉の協定を結ぶ相手が送り込む相手を待ち続けて。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区『BAR アメジストセージ』」にレアルナさんが現れました。
レアルナ > ぎぃっ……かつっ。こつっ。
バーの扉が開くとヒールの音を密やかに刻みながらエルフの女が入ってくる。
艶のある白い肌に纏うのは黒いミニドレス。
短いドレスの裾からはすらりとした細い脚が伸びている。
ドレスの上からつけた金のアクセサリがかすかな音でそのゆっくりした歩行のリズムを囃し立てていた。

「……ええと…」

黒いピンヒールを履いた足を止めて長い耳にかかりそうになるプラチナブロンドの髪を後ろに逃がしながら翠色の瞳を左右に動かす。
愛するご主人様から聞いていた男の特徴を思い出しつつ動かした視線の先にその男はいた。
濃い色のルージュを刷いた唇を笑う形に小さく曲げると店のカウンターへと近づいていく。

「隣、よろしいですか?」

カウンターに白い手を置きながらその男に向かって微笑みかける。
普段は占い師として営業しているので表情づくりにはいつも気をつけている。
それは洗脳される前から身についていたことだった。

コルボ > 気配に気づく。ごく自然な所作。
見知らぬバーに足を踏み入れ、周囲の雰囲気を把握しながら、
まずはバーの店員と良く接触できるカウンターに。

そこに先客がいるならば声をかける。
見た目は普通のエルフ。否、知っているエルフの中でも顔立ちの整った稀有なエルフ。
雰囲気こそ普通だが、ミニドレスと豪奢な金のアクセサリは
この国で相応に成功しているように思わせる身なりで。

同時にそれは”共通の知人”が提示した符号でもあり。

「ええ、どうぞ。良かったらいっぱいどうですか? 奢りますよ?」

相手にとっては愛するご主人様。だがこちらからすれば
符号とは言え台詞まで指定されて、あいつの思うように動かされてるように思えて。

「……あいつの尖兵にしちゃ、身なり振舞い自然だな。
 マジでスルーシャの恋人なのか?」

己の奢りで相手がお酒を選んだあと、まるで意気投合した客のように責を隣り合って口にするのは
貴女が洗脳されていることを既知としている見解。

それでいて、自我を奪い洗脳し支配するという、貴女にとってはこの上ない祝福であり
他者の、一般的な倫理観からすれば唾棄すべき洗脳に対しての忌避を一切感じさせない。

「あいつ、恋人とか造らない同類だと思ったんだけどなぁ」

と、まるで気心が知れたように嘆息一つぼやきさえ見せて。
貴女のご主人様のことを知っている。だから恋人と言うことは同性であることも知りえていて。
だからこそ、不思議な印象を受けるだろうか。

同性愛者にも、洗脳が紡ぐ主従関係にも忌避も偏見も持たず、
ただそれ等全てを含めて貴女であると理解している振舞いを見せて。

レアルナ > ご主人様から与えられていた“符号”と合致したやり取り。
間違いない。この男だ。そう、確信して口を開いた。

「ありがとうございます。
 ではお言葉に甘えて」

そう言うと、白い脚を誇示するかのようにゆっくりと椅子に腰を下ろした。
軽めのカクテルで唇を濡らしてからくすりと笑う。

「ふふ、尖兵だなんて…。
 私はご主人様の操り人形ですよ?
 愛玩動物……でも構いませんが♡」

自分が洗脳されていることを自覚しながら当たり前のように答える。
それは常識からは遥かにかけ離れた言動だった。
このエルフの女が元々持っていた価値観は完全に破壊されていた。
ご主人様に隷属することを当たり前のように認識してそれがおかしいことだとは少しも疑っていない。

「恋人として扱うプレイなのかもしれません。
 全てはご主人様のお気に召すままです…」

片目を閉じるとまた男の方に微笑みかけ身体を寄せる。
エルフの女の淫らな身体にふりかけた甘い香水の匂いが微かに漂っていた。

「では、貴方について教えて下さいませんか?
 ご主人様とは色々と複雑な間柄と伺っていますが」

エルフの女がグラスに触れた指先は爪が綺麗に磨かれていた。

コルボ > 良く磨かれた爪を一瞥する。
見た目は化粧も少ない見目の良いエルフだ。だが装飾や己へのケアの行き届いた具合は
およそ森から至った者とは程遠い、王都に馴染んだそれ。
その中に既知の嗜好も見受けられて、嗚呼、一応は洗脳されているのだと理解はする。

「愛玩動物って表現は例えかそりゃ。
 本当にペット扱いなら俺に対しての代理人に送り込みやしないからな。
 ……そう言う意味じゃお前のことを愛してるし、信頼してる動きだぜこれ」

洗脳、というよりは洗礼。新たな己に生まれ変わらせた者への心酔であろうか。
ならば、話せもするし会話もする。助言も含めて。

「香水もあいつ好みのご丁寧に媚薬交じりと来た。
 マージでラブラブだなお前等。

 俺に? んー、その前に自己紹介かな。
 俺はコルボ。情報屋だったり冒険者だったり、学院の臨時講師やってる。
 お前はレアルナ、だろ? 普段占い師やってる。
 ……お前さんは覚えてないだろうけど、その時俺のこと占ってもらった内容が
 スルーシャにも絡んでんだよ。」

 グラスを受け取った貴女と、挨拶がてらグラスを打ち合わせながらぽつりと呟いて。

「……スルーシャは、なんだかんだ、俺と違ってまだまっとうだからな。
 プライドもある。だからお前さんを選べたし、一緒に生きてこうとしてるんだと思う。
 だから、あいつの口から話せないから、俺からお前さんに話して欲しくて、
 今日あんたをよこしたんだろうな」

 スルーシャと出会った(愛し合った)時より少し前、
 言われて思い返せば、確かに目の前の男は客としていた記憶は蘇るだろう。
 男である。記憶に残らないかもしれないはずの相手。
 だが、他の男と違って見目麗しい貴女に色目も使わず、
 そして、占いの結果を聞いて返した反応は、納得の一つ。

 そのことを思い出せるのは、予めご主人様(スルーシャ)が貴女の記憶を読み取り、想起できるように
 細工を施してくれた自覚と共に思い出せるだろう。

 6年後、13日目、7時間6分。
 男は死ぬ。
 異空より刻印(mark)を刻んだ仇敵を打ち屠り、役目を果たして。

「レアルナ。あんたが俺に示した占いは、俺がやり遂げなければ結果は変わる。
 そうなったとき、死ぬのはスルーシャだ。」

レアルナ > 「くすっ、そういうことにしておきましょうか」

口元に手を当ててくすくすっと声を忍ばせて笑った。
ご主人様に認識されているだけで多幸感を感じてしまう感覚はきっと洗脳されてみないと分からないだろう。
愛玩動物にも操り人形にも所有物にも影にもなれる。
それがどれだけ幸せなことなのか、きっと彼には分からないのだろうと思うと彼に対する哀れみすら感じてしまう。

「ごめんなさい。
 たくさんお客さんを占っていましたのですっかり忘れてしまっていました。
 今度は…忘れないようにしますね」

その顔は全然済まなさそうには見えなかった。
軽くグラスを打ち合わせると酒精で軽く唇を湿らせる。

「もう自分の歳が分からなくなるまで生きていますが…
 まさかご主人様のことを男性から聞く日が来ようとは思ってもみませんでした。
 それにご主人様のことを真っ当だなんて言ってくださる方がいらっしゃるなんて。
 いつもは恨み言ばかり聞いておりますので…」

ご主人様の顔を思い浮かべると股間の奥がじんわり熱くなった。
カウンターの椅子の上で少しだけお尻を動かして姿勢を直す。

次の瞬間、ご主人様によって与えられていた条件づけにより必要な情報が頭の中に展開された。
水晶玉の奥に映った星の並びと浮かんできたイメージも同時に再生される。

エルフの女は長いまつげの生えた目をパチパチと瞬かせるともう一度隣に座る男を凝視した。
こうした占いの結果は絶対だ。
この男の代わりにご主人様が死んでしまった場合一般的な蘇生の手法では間に合わない可能性すらある。
そうなった場合の蘇生方法は……

考えかけて小さく頭を振った。
まずはこの男が確実に役目を果たすための方法を練る方が建設的だろう。
エルフにとって6年はすぐに過ぎてしまう時間だ。

「それは是非とも成し遂げていただかなくてはなりませんね」

エルフの女の表情は冷たく冴えていた。

コルボ > 「……多分だけどな、レアルナ。あいつが俺をレアルナに合わせたかったのはこの辺だろうな。
 レアルナ、お前はあいつの手駒だ。あいつの道具だ」

 洗脳されている悦び。それを知らなくとも、目の前の男は貴女を見て、
 洗脳されていることを、世間の倫理を越えて肯定する。その上でそれを尊重する。

「だから、あいつの手駒である以上、今この瞬間抱いてる愉悦は
 あいつの目の前で以外は捨てろ。
 あんたの忠義は目と振舞いを見てれば分かる。

 けどな、あいつの本職が諜報員であることを忘れるな。
 諜報員の道具であることの誇りを、悦びを大事にするなら、
 あいつの目の前以外では”レアルナ”のままでいろ。
 お前自身の意志であいつからの愛情(洗脳)を研ぎ澄ませて常に何が最適解か考えるんだ。」

 その哀れみを感じ取って尚侮辱と思うどころかそう忠告する。
 よからぬ相手、だが共闘する者の大事にする相手。

 自分にはいない相手。だから、愛する人に危険が及ぶような真似をするなと告げもする。
 だが、その後の貴女の顔を見て。

「……うん。なんてんだろうな、分かってたけど、
 レアルナって本当に女が好きなんだな。
 スルーシャもそうだもんなぁ……。

 一応客とのアフターケアでもあるんだからちょっとは気ぃ使えよ……。」

 恨めし気な視線から占い師の観察眼から”客だった俺が気ぃ使ってんのおかしくない?”
 などという目を向けながら、今日俺のおごりだから好きなの頼んでいいよと言う男。

「んー、正確には真っ当だとは思ってないけど、さ。
 ……前に占ってもらった時のあんたと比べて、今のアンタはちゃんと生き生きしてるからな。

 ……洗脳、敵対。そりゃ俺にとっちゃ面倒なことだよ。
 でもさ、あんたにとってはどうだ?」

 瞳が潤んでる辺り、大分知り合い(スルーシャ)に調教されてるなぁという感情は抱きつつも、
 そんな問いかけを投げて。

「洗脳される前の記憶、多分スルーシャなら遺してるだろ? あんたにはさ。
 その時の感覚を思い返して、どうだ?
 今と昔。どっちが幸せだよ。

 ……あんたを見てると、どういう気持ちか、なんとなくわかるからな。

 だからま、あいつも惚れた女に対しては真面目になるんだなって感心した、っていうかな。」

 男にとって、倫理や道徳、善悪の彼岸はさして意味がないのだと分かるだろうか。
 大事なのは、幸せになれるか。穏やかでいられるか。

 そう言う意味では、男にとって貴女はとても幸せに見えて。

「……やるよ、必ずやり遂げる。」

 ぽつりと、呟く。貴女にだけ、闇を見せる。
 憎悪、怨嗟、執念。
 人が抱く負の感情。魔物や魔族が、洗脳される前の貴女であれば抱くと印象していた感情。
 それよりも、よほど強い感情。

 人が、人を越えて、人のまま、呪いそのものと化していくかのような負の激情が
 バーの客に気取られることなく顔を覗かせる。

 ご主人様が目の前の男と共闘する理由。
 魔性さえ凌駕する暗黒が、己に向けることなく共に戦うというのだ。
 ならば、頷く以外の選択があろうかと。

「六年後に、あんたの占い通りにやり遂げる。
 敵と刺し違えて死ぬ。その為に、自分が死なない為にスルーシャも協力している。

 それだけのことだよ。複雑でも何でもない。
 俺は目的を果たせるなら死んでもいいがあいつは何が何でも死にたくない。

 お互いの利害がこの上なく一致してる。それだけなんだ。

 だから、」

 闇が、目の前で消えていく。
 宵闇の魔将。貴女を評したご主人様の言葉。
 人も魔も眠る夜の闇を守る優しい闇。貴女がご主人様より与えられて抱く闇の魔力。

 たとえ闇に堕ちても、悪に染まっても、同胞を庇護する慈悲を残した貴女への賛辞。

 それですら救えない男の闇が、貴女を見て薄れていく。

「だから、あんたはスルーシャと一緒に幸せになれよ。
 俺が死んだ後、あんたとスルーシャは馬鹿な男が自分達の為に死んでくれたって
 笑いながら酒でも飲んでくれりゃ、俺はそれでいい」

 ただのエルフであった頃の価値観。
 宵闇の魔将へ昇華した今の価値観。

 分かれていた二つが、目の前の男に対して合致する。

 この男は、戦い抜いて死ぬことでしか救われない(もう休めない)のだと。

レアルナ > 「ご自分では言いにくいことを貴方に言ってもらいたかったのですね…
 おかしなお方……」

ご主人様は自分を洗脳したのだから、都合の良いように洗脳すれば良いものをこうして迂遠な手段をとってくる。
そこが可笑しくもあり愛しくもあった。
また両脚の間が熱くなってくる。

実はこのエルフの女はご主人様についての情報を必要以上に知っているわけではない。
ご主人様が難しい立場にあるのは分かっている。
そして自分が洗脳されやすく催眠にもかかりやすいことも自覚している。
だから自分を通じてご主人様の情報が漏れるリスクをできるだけ減らしているのだ。

「ふふ、否定はしません。
 けれど、お客様のことを忘れるのは占い師のマナーでもあるのですよ?
 変なことをいつまでも覚えていたらお客様のご迷惑になってしまいますから」

小さく笑うと、少しだけ強めのカクテルをバーテンダーに注文した。
いま言ったことは正確ではなかった。
洗脳される前までは占った客の情報は綺麗に忘れることにしていた。
しかし、洗脳されてからは占った客の情報をご主人様に利用していただくために一つ一つ覚えるようにしている。
特にご主人様に“献上”する相手と決めた客については……

男とのご主人様を話題にした会話が続く。
傍目から見ればイチャイチャしているようにしか見えないだろうし、会話の内容も風の精霊を使って他に漏れないようにしている。

「それはもちろん貴方が思っておられるとおりです。
 私は洗脳していただいてとても幸せになりました。
 ですから、私自身を含めた全てを献上しています」

ご主人様が真面目なのかどうかはよく分からない。
分かっているのはご主人様が自分を使いこなしてくれていること。
そして、ご主人様を愛さずにはいられないように心も身体も作り変えられてしまったということ。

男が過去に占った運命に向かって邁進していることをその言葉から窺い知る。
男の奥底からほの見える闇。
それに対し身じろぎもしないで感情を受け止める。
男が狙う仇敵はイメージでしか見えてこなかった。
それが何者なのかは敢えて尋ねない。
必要であれば自然に知ることになるだろうし、そうでないなら知る必要もないこと。
水晶玉の中に見た星の配列の示す必然へと向かって運命が吸い寄せられるのを幻視した。

エルフの女がひとつ瞬きをすると男の闇は再び隠された。
男の言葉に深く頷いた。

「ええ、貴方のおっしゃるとおり……。
 これからも私はご主人様に所有され続けます」

ご主人様とこの男が共闘関係にあるのであれば、必要となれば自分もまたそれに関わることがあるのかもしれない。
必然に向かって吸い寄せられる運命を妨げる不確定要素があればそれを潰すことがご主人様の所有物である自分のすべきことだろう。
だから口で協力するとは告げない。
告げる代わりに微笑を浮かべて深く頷いた。

コルボ > 「レアルナってスルーシャ絡まないと急に普通になるな……。」

 己の為になることを他人を使ってまで諭そうとする一方で
 占い師としての本分としては明確かつ理知的な見解を返す。

 自信の意志で洗脳されたことを理解し、享受し、その上で
 不要なことはご主人様を理解する、更なる寵愛を得るものであって斬り捨てる。

 スルーシャが気に入るわけだと、納得もするが、
 それ以上に己の欲がない。人形としては理想だが、
 ……どうやら自分という一応は信用できる人間との接触で、
 レアルナに更なる人形としての進化を試みようとしたことは伺えて。

「多分スルーシャは、レアルナのことを都合の良い駒以上の存在に昇華をしようとしてるんだと思う。
 それだけお前のことを愛でてるんだろうな。
 だからお前に、洗脳の更に先へ行ってほしい……。

 もっと洗脳の深度を深めて、お前さん自身がスルーシャの為に進化する。
 そういう他の洗脳された手駒とは一線を画する領域に。

 要は、お前ともっとあいつは愛しあいたいんだろうよ」

 愛と言う言葉を務めて使う。
 それは相手が使っている術、音声阻害の魔術を認識する一方で、
 それを看破してまで聞き耳を立てる誰かへの対応。

 レアルナは洗脳されようともされずとも同性愛者だ。
 だが、男にとってそれはどうでもいいと、同性愛を異常と決めつけて
 自分なら”正常にしてやれる”とはき違えている奴もいる。

 だから、己が防波堤となって、知り合いの大事な人形を毒牙から守る心遣いを見せもする。

「だったら、スルーシャの洗脳を深めるキーワードを一つ教えてやるよ。
 神様を信じて幸せになってる奴と今のお前は何も変わらねえよ。

 洗脳されることが悪いと抜かす奴は放っておけ。
 レアルナ、お前はお前さんの幸せだけを追求しな。

 そしたらその倍スルーシャも幸せになれるからな。」

 ご主人様の術式の外から、ご主人様が望む認識の変化を助けるように
 男は洗脳された貴女の存在を肯定した上で強く掲げよという。

 腐敗したこの国で調教されて倫理が歪む者など吐いて捨てるほどいる。
 それこそ己を喪う者さえ。

 彼等と、彼女らと比べて、貴女と何が違うのかと。
 幸福で、己の意志で主に仕える。その在り方に敬意を示す。

 ……貴女を愛でて大事に扱う主と、敵対する男の影がだぶっても見えるだろうか。

「それでいい。だが、死ぬなよ。お前はスルーシャにとって大事な一部だ。
 不測の事態でも何があっても二人が生き残ることを考えろ。
 主のことを考えるならな。

 あと、そうだな」

 倫理を越えた洗脳を受けて生きる貴女にだから言える道徳を排した生存戦略を告げて、
 共闘関係の相手以外にも伝えるべきことがあろうかと、
 己の着衣に指をかけ、肩口を見せる。

 そこには痣と言うには明確な、そしてエルフの長い知識にも当てはまらぬいびつな刻印(mark)が刻まれていて。

「レアルナお前、スルーシャと愛し合う時、向かい合ってるか背中向けてんじゃないか?
 だったら、あいつの背中とか後ろの方にあるらしいこの刻印見たことないだろ?
 一度わがまま言ってスルーシャに見せてもらえ。

 ……俺が死んで、この刻印がスルーシャから消えてたら、あいつは助かったことになる。
 やり遂げた時、スルーシャが助かったことを、あいつにお前が教えてやりな」

 共闘相手の遺言。それを、仇敵でもない洗脳相手に託す。
 それは腐れ縁である貴女のご主人様への贈り物。

 貴女が更に洗脳の深淵の先に至れるように。