2023/09/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/図書館」にネリさんが現れました。
ネリ > 王都の平民地区内に位置する図書館の中。
昼下がりの時間帯、利用者の姿は疎らであったけれども、身分を問わずに利用が許可されている為かその装いは様々に見えた。
傍らの椅子に腰掛けて手許の本の頁を捲る平民階級と思しき人物に、机に向かいながら声を潜めて会話をしているのは学院の制服を身に纏った二人組、その少し離れた場所で何やら真剣な面持ちで図鑑と向き合うのは冒険者であろうか。
微かな話し声と頁の捲られる音だけが響くその空間の中を、当て所も無く歩を進める修道女もまた、その内の一人だった。

「 ............ 」

菫色の双眸が、目の前の書架に規則正しく並べられた背表紙のタイトルを順番になぞってゆく。
今居る区画の書架に収められているのは、大衆向けの小説や詩歌集などが殆ど。
そうした分野の書物に造詣が深い訳では無く、どちらかと言えば歴史書や宗教書を中心とした神聖都市の図書館とはあまりにも異なるその様相に目を見張るように、修道女の視線は書架へと向けられていた。

ネリ > 時折、何気なく目に留まった本を手に取っては、白い指先が静かにページを捲ってゆく。
今しがた手に取ったそれは、どうやら大衆向けの恋愛小説のようだった。

ある日出会った平民階級の少女と貴族階級の青年が、幾つもの苦難や周囲で渦巻く陰謀を共に乗り越えながらいつしか互いに惹かれ合ってゆく―――といったような筋書きの物語らしい。
そういえば以前、知り合いの修道女が似たような物語を読んで甚く感銘を受けたといった風な事を話していたのを思い出す。

「 ............ 」

静かに閉じたその本を、書架の元在った位置へと戻す。
憧れるように瞳を輝かせながら語っていた件の修道女の感想を否定するつもりは一切無いけれども。
あまり、今の自分が読んで楽しめるような内容である風には思えなかった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/図書館」にレヴェリィさんが現れました。
レヴェリィ > 「───恋物語はお嫌い?」

すっと横から白い手が伸びて、戻したばかりの表紙に指を掛けた。
いつのまにか、音もなく魔女のような少女が隣に立っている。
ページをぱらぱらとめくると、すぐに顔を上げてあなたを見る。

「王都でもそれなりに人気のある作品だったと思うけれど。
あなたの好みではなかったかしら」

小さな声で問いかけながら、不思議そうに首をかしげる。
わざわざ図書館に来ているのだから、きっと本好きなのだろう。
そう思った故の質問なのだろうけど。
初対面の相手に随分と距離感の近い少女であった。

ネリ > 「 ............ ? 」

思いがけず、横から投げ掛けられた声と伸ばされた白い手に、僅かばかり驚いた風に修道女の肩が小さく跳ねる。
視線を向ければ、すぐ傍に立って居た魔女のような装いをした、けれども未だあどけなさを感じさせる少女の姿に、菫色の双眸を瞬かせながら。

「 ... 嫌い ... という訳では御座いません。
 ですが、わたくしにはどうしても遠く無縁の出来事のように思えてしまって ... 」

不思議そうに首を傾げながら、此方を見詰めて投げ掛けられる相手の問いに、少し考える素振りを見せてから、周囲に響かぬ程度の声量で答えを返す。
己とは遠く無縁の出来事。そのような物語に心を躍らせ、時には自分を投影して楽しむものである事は、理解しているつもりだけれども。

「 ... 恐らく ... 恋というものが理解出来ずに、憧れを抱けないのかも知れません ... 」

レヴェリィ > 「遠く、無縁」

そんな答えに、少女はますます首をかしげる。
ずり落ちそうになったトンガリ帽子を抑え、その下で同じように目を瞬かせる。

「おかしなことを言うのね。
お姉さんは綺麗だし、まだまだ若そうに見えるのに」

亜人や魔族が蔓延る現在のマグメールにおいて、見た目の年齢ほど宛てにならないものもないが。
そういった存在でも、心ある限り恋愛事と縁遠いということはない。

それとも、あなたの纏う修道衣、その立場上の理由であろうか。
……けれども。

「そうかしら。理解できないから……わからないからこそ憧れる、ということもあると思うけれど」

「お姉さんは、そうではないの?」

真っ直ぐ見つめる瞳は、純粋無垢なもの。
そこに何か特別な意図は見えず、ただ不思議だからこそ質問を重ねているのだろう。

ネリ > 修道女の返した答えに、ますます不思議そうに首を傾げる少女。
改めて彼女の方へと向き直ると、瞬くその青色の双眸の目線の高さに合わせるように身を屈めてから、しかし次いで投げ掛けられた思わぬ賛辞に、今度は修道女の方が菫色の双眸を瞬かせる番。

「 ... ありがとう、御座います ... ですが、生憎そのような経験をした事は、本当に一度も無く。」

それは少女が思う通り、修道衣を身に纏った立場故でもあったかも知れないし、もっと別の理由があったのかも知れない。
ただ、特別な意図は感じられず、真っ直ぐに己を見詰めながら投げ掛けられる純粋な少女の問い掛けにも、言葉を選ぶように答えを返す修道女の表情は至って真剣なもので。

「 ... そう、ですね ... 憧れを抱くのはきっと、いつかそんな出来事が自分にも起こって欲しい、起こったら良いなと心の何処かで願っているから ... なのだと思います。
  ... きっと、わたくしはそう願う事を、心の何処かで諦めてしまっているのかも知れません ... 」

そのような後ろ向きな胸の内を、目の前のあどけない少女に語って良いものかどうか、僅かに躊躇いの色を見え隠れさせたけれども。
気が付けばまるで告解のように、修道女はぽつりぽつりとその口を開いていた。

レヴェリィ > 「そっか、お姉さんはまだ恋を知らないだけなのね」

こくり、と。あなたの答えに納得したように、少女は頷く。
きっと自分には縁のないことだと諦めているから、憧れることはしない。
それとも、『憧れないようにしている』のか。

少しだけ残念そうにしていたが、やがて小さく笑みを浮かべる。

「でも、大丈夫よ。恋をするのに遅すぎるということはないもの」

いつの間にやら、立場が反転してしまったような不思議な立ち位置。
あどけなく無垢に見える少女ではあるが、その落ち着いた語り口はどこか大人びていた。

「お姉さんは魅力的な人だもの。
きっとその深い『諦め』を取り払ってくれるくらい、素敵な出会いが待っていると信じて?
現は残酷な場所だけれど───『夢』はいつでもあなたに寄り添ってくれるのだから」

身をかがめてくれるあなたに、一歩近づく。
広げられる両の腕、それは「ハグしてもいいかしら」と言っているよう。

ネリ > まだ恋を知らない。少女が紡いだその言葉は紛れもない事実であった為に、修道女は静かに頷く。
まだ知らないし、きっとこれからも知る事は無いだろうと信じているが故に、憧れも抱かない。
少女の納得は、きっと正しいものだったのだろう。

「 ... 或いは、そうなのかも知れません ...
 貴女の仰るような魅力が、わたくしに備わっているかは判りませんが ... えぇ ... 有難う、御座います ...
  ...... 夢 ...... で御座いますか ...... ? 」

それでも、あどけない少女の風貌とは似つかわしく無い程に大人びた声音で語られるその言葉に、修道女は礼を述べると同時にほんの少しだけ、柔らかな笑みの色を浮かべて。

その最後の言葉に小さく首を傾げながらも、抱擁を求めるように広げられた両の腕を拒む事は無く、こちらも静かに両腕を広げて少女の抱擁を受け入れようとするだろう。

レヴェリィ > 「ふふ、そうよ。『憧れ』は『夢』」

少女が身を寄せ、ふわりとあなたを抱きしめる。
固い抱擁、というよりは包み込むような柔らかなハグだ。
回された腕がぽんぽんとあなたの背を軽く叩く。

「夢は目覚めれば消えてしまい、何も残らない。
お姉さんはそれを無意味な、虚しいものと思っているのでしょう?

でも、夢は明日を生きる人の希望になるの。
夢もなく現を生きれば、人の心は簡単に死んでしまう。
『諦め』で捨ててしまうには勿体ないわ」

少女があなたの耳元に唇を寄せる。

「お姉さんは、どんな夢が見たいのかしら」

ネリ > 「 ...... 憧れは、夢 ...... 」

囁くような少女の言葉を、夢の中の譫言のように反芻する。

相手の視線の位置に合わせるように身を屈めた侭、修道衣の肩を抱き寄せるように回されてゆく少女の腕。
修道女の方もまたそれに応えるように、少女の小さな身体へと両腕を回してそっと抱こうとするのだけれども。

「 ... わたくしのような者でも ... 夢を ... 憧れを、持っても良いのでしょうか ... ?
 でも ... 今更、どのような夢を見れば ... 良い、のか ...... 」

まるで小さな子供を寝かしつけるかのように、規則的に優しく叩かれる背中。
いつしかその菫色の双眸は微睡むように細められてゆきながら、耳元で囁きかける少女の言葉に疑問や疑念を抱く事なく胸の内を吐き出してゆく。

どんな夢が見たいのか。それすらも自分自身では判らない。
きっと、落ち着いて思考を巡らせる時間と余裕があったのであれば、色恋よりもただ平穏で、穏やかな日常を願ったのかも知れない。
けれども、そうした思いの更に奥底には、当人すら気付いていない別の願いがあったのかも知れなかった―――。

レヴェリィ > 「人は誰でも───いえ、心ある者なら、誰でも夢を見る権利があるわ」

腕の中で微睡む幼子のような修道女に、慈しむように微笑み掛ける。
魅力的だ、と言ったことに世辞は一切含まれていない。
あなたは自分が擦り切れてしまっていると思っているようだけれど、心はまだこんなにも澄んでいて、美しい。

「それでも、あなたが自分に夢を見る資格があるかわからないと言うなら。
わたしが許してあげる。わたしが夢を見せてあげる。

だから、少しだけ覗かせて頂戴ね。あなたの本当の夢、本当の望みを───」

こつり、と。額同士が優しく触れ合う。
あなたの微睡んだ意識に、重ねるように、潜り込むように。

少女は───夢魔は、あなたの夢へと深く同調してゆく。

あなたが何かを求めたならば、夢魔はそれを叶え。
あなたが何かを願ったなら、世界は願いのままに形を変えるだろう。

……例え、それがあなた自身が認識していないものであったとしても。

ネリ > 瞼が重い。

昼下がりの図書館の立ち並ぶ書架の陰で、少女の腕に抱き留められながら。
このような場所で眠ってはいけないと抗おうとする心さえも意味を成さず、修道女の意識は少しずつ、少しずつ微睡みの中へと沈んでゆく。

「 ...... は ... ぃ ...... 」

耳元で囁かれる少女の言葉に対しても、最早短い肯定を紡いで見せるばかりで、薄められた菫色の双眸はゆっくりと閉ざされてゆきながら、眼前の少女へと凭れるようにその腕に加わる重さは増してゆく。

その間際、互いの額がこつりと優しく触れられたならば、修道女の意識は自身の望む―――或いは認識すらしていない願いを具現化した世界の中へと向かってゆくのだろう。
それから先の光景はきっと、夢の持ち主である修道女自身と、其処へ同調するように潜り込んでいった少女のみぞ知る世界。

レヴェリィ > 【部屋移動致します】
ご案内:「王都マグメール 平民地区/図書館」からレヴェリィさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/図書館」からネリさんが去りました。