2025/04/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に平民地区・教会の周囲の住宅地さんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」から平民地区・教会の周囲の住宅地さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に影時さんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフォンティーンさんが現れました。
■影時 > 昼間を回った頃合いの冒険者ギルドは、がらりと――してもいない。
人はそれなりに居るし、居ない時もある。
殊に季節の変わり目のような時期については、人の出入りの変化は著しいと思うのは、この街に腰を据えて長くなってきたからだろうか。
「……――まぁ、春だからなあ」
平民地区にある冒険者ギルド、その受付の列に並ぶ一人の男が横目に周囲を眺め遣りながら嘯く。
季節が変われば人の動きが変わる。魔物の動きも活発化する。
被害が出ればその対応に追われるし、経験則として対策したいと思うなら、それを見込んだ依頼も増える。
戦いが想定される依頼の類で此れなのだ。採取の類の仕事もまた、同様に変化がある。季節が変わって芽吹く植物の採取の依頼も増える。
であるなら、遣わされる人間もまた、悲喜こもごもな有様で対応と変化に迫られるというわけ、だ。
列が進み、男の順番が来る。この国から見れば余所者な装束もまた、この街では時偶に見られる類でもある。
それなりに顔馴染みになり、それなりに仕事をこなし、信用と業績を培っていれば仕出かさなければ白い目で見られることもない。
「依頼の品だ。間違いは無ぇハズだが、検品は依頼主に頼むか場所を改めてやるのをお勧めするぞ」
ただ、奇異な目はあるだろう。受付嬢が向けてくる顔がまさにそれだ。
男の纏う白い羽織の肩、そして頭上に鎮座した茶黒の毛玉な生き物達が、そうさせてくる。
奇妙な取り合わせを乗せた男が、ごとりとカウンターに出す瓶詰と書類が今回の依頼の品、納品すべきものだ。
瓶の中身は一塊のキノコ。キノコと言えば大体が食用か有毒かだが、今回の品は後者だ。薬用としても使える有毒さだ。
ある迷宮の暗がりに群生するものを持ち帰り、納品せよという依頼の報告を済ませれば、報酬が入った革袋を受け取り、受付から離れよう。
男の雰囲気とはミスマッチな生き物たちは、暇そうに欠伸をしたり、顔を洗う仕草を見せたりと気侭そのもの。
ぺたんぺたんと尻尾で叩いてくる主張が言わんとするのは、この時間だとひとつ。
「腹減ったか?……そういや、昼の鐘も鳴ってたな。飯にでもするかねェ」
身入りが入ったなら、食事にしてもいいだろう。そう思いながら、ギルドに隣接する酒場兼食事処に足を向けてみよう。
こちらはギルド側の様子に関係なく、だいたい人が居る印象がある。
事情は様々。知らない顔があれば、知った顔も居る。今日はどうだろうか。
■フォンティーン > 方角を間違った――等という冒険者の端くれとしては穴を掘って埋めるレベルの失態から数日。
元々が伝手を辿った街で到着間も無く仕事を入れる予定だったとは言え、
懐が寂しい状態でこんな場所(食事処)いるのも又生存能力という意味で非常に拙い事だろう。
「とはいえ、なぁ……」
傍らにいる精霊たちを発現したらもう片っ端から怒られるだろう為体。
――然るにこの様にギルドの端っこで温野菜を突いている。
活気ある食事時だとは思われぬ湿った空気に肩と頭を垂れた一見人間にしか見えぬ者が座するのは、
物や人の影になり余り目立たないだろう一角。
旅装は解いている物の、状況から来る馴染の悪さが微妙に悪目立ちをしている状態で、
時折思い出した様に自分の前にある皿を突きはするものの如何も進みが悪い様子で息を一つ吐く、という事を繰り返していた。
物思いがある時というのは近視眼がちになる所。
況して行きかう人が引っ切り無しに音を立てる扉の方なぞ気に掛ける余裕もない。
当然、其処に一人新手がいたところで――。
■影時 > 飯と云っても――兎に角沢山食べたい、と言うほどでもない。
冒険者は身体が資本、もりもりバクバク食べないと、というような肩に嵌めた印象は否定しないが、個々人に寄るだろう。
だが、だからといって粗食では力が出ないのも確か。幾つか揃えて頼むかな、と思っていれば。
「……ン? あ、おい。どうしたヒテン、スクナ?」
酒場に踏み込み、空いた席の一つでも陣取ろうかなと思っていれば、不意に。そう、不意に。
肩と頭の上で鎮座していた二匹の毛玉が、ぴこっと耳と長い髭を震わせて飼い主から飛び降りる。あるいは伝い降りる。
何を感じたのか。あるいは何を聞いたのだろうか。
行き交う人の流れを慣れた風情で、縫い躱し、どこかのテーブルの上へと攀じ登って上がってゆくのだ。
人様に紹介するときは子分と呼ぶ毛玉たちだが、この辺りの気侭さ、不思議さ加減は言い聞かせようもない。
何か興味を引いたのだろうか。
くしゃくしゃと髪を掻き、二匹が向かった方にある一角へと歩を向ける。
「って、――……よぅ、久しいなぁ」
そこはこの時間、このような風情であればあまり目立たないかもしれない、死角的なあたりだ。
その卓に攀じ登った、白い法被を着た茶黒の毛玉たちが、不思議そうな眼差しで息を吐く素振りを見せる顔を見上げ、覗き込む。
そんな子分たちの様子を見遣りつつも件の卓の傍へと寄り、声をかけようとすれば、目を瞬かせる己を自覚する。
知らない顔ではない。久方振りと呼べる顔と姿がそこにある。目尻を下げつつ、声をかける先は己を覚えているかどうか。
■フォンティーン > 樹の鉢に盛られた緑の山。
春先の恵みと言わんばかりに青々と輝く其れを漸く一つ木のカトラリで突き刺して口の中に放り込んだ所、
狭い視界の中――序でに言うと聊か縁の緩んだ、所謂涙目がちの目の端にちょこまかと動く影があった。
其れはもう如何やってこの荒くれ者達が点在する中を無事に、粗相無く渡ってきたのか。
一歩踏み出せば危険地帯とも言え兼ねない所を器用に――
「…いやでもあぶな、わ……え、――?」
危うさと紙一重の芸を見るような心持から我に返ると伏せていた睫毛を上げて数度瞬き。
影達はと云えば慣れた風に泳ぎ渡った後で何故か自身の卓にちょこんとおわす。
魔力で操られた風はない。惚けた状態と云えど瞬時にその確認はとりつつ、小さな身体に纏う衣服に野生の其れでないのも理解した。
ちょこんと居る毛玉と視線を合わせたところでかかる声に、更に上へと顔を上げた。
瞬きの動きに目が零れ落ちそうな風。
「え、トキ――か?」
覚えていないとは到底言わせない所作がそこにあり――
■影時 > 毛玉と雑に呼ばれるシマリスとモモンガたちが、何を嗅ぎ取り、感じ取ったのか。
それこそ二匹に聞かなければ分かるまい。
二匹が言葉を話すことは無いが、少なくとも人の言葉は分かる素振りを見せる時点で、ただの毛玉ではない。
飼い主に引っ付いて迷宮や危険地帯に潜り、死線の空気を幾つも吸ってレベルを上げた毛玉だ。
人混みの雑踏は行く気がしないにしても、酒場の人の流れ位ならば、ひょいひょいと縫って進めるらしい。
――その上で結局何を感じて、引かれたのだろう。
進んだ先にある卓の上にある木鉢に盛られた新鮮な野菜の匂いか。
故郷の森とは違うとはいえ、嗅ぎ馴染みのある種族の者のの匂いであるか。それともか。
嗚呼、もっと単純かもしれない。毛玉達は感情の匂いに敏感なところがある。
何かお困り?お困り?と言わんばかりに、好物の野菜の匂いよりも先に、物思いに耽ってそうな姿の顔をつぶらな瞳で見上げて。
「おうとも。覚えてくれてたか、フォンティーン。相席良いかね?」
そして、もちろん。覚えている。忘れもしない。
いよう、と手を振って見せながら相席を求めつつ――許可を得る前に先に動く。
腰の刀を鞘ごと外し、羽織の裾を払って卓の反対側の椅子を引く姿の装いは、いくらか変わっている。
変わっていても凡その全体の意匠は、以前とはそう変わっていない。
大きく変わっているとすれば、卓上におすわりしてみせる二匹の存在だろうか。
■フォンティーン > 記憶を掘り起こすよりも、当然の様に滑り出た当時の呼び名に明朗な回答があれば、
それ迄の鬱々とした空気に晴れ間が差す様に頬笑んだ。
「少し間が空いたな、友よ。会いたかったぞ。
――嗚呼、勿論良いのだが…」
少し――とは長命種である娘の感覚。
見てくれを変えている身、人に紛れて暮らす事を選んだ身としては、
人の感覚と大分違いがある事を認識し擦り合わせるべきだが、今は忘れて其の儘だ。
という迂闊さも、会話相手が相手である証左。
自身が腰かけていた卓は所謂2人分の椅子しかなく、其れ相応に天板も小ぶりだった。
相席を請われれば是非も無しと頷けど、周囲に視線を巡らせ近くに4人卓の空きがあるのを見ると、視線で店の人間に問うた。
簡単に許可を得るとそちらを指さし、
「そちらの席を借りるのはどうかな。
小さなお客様方に狭い思いをさせてしまうもの。
――この子達はトキの子?昼餉でも食べにきたのかね?」
人間達ならば、特に相手ならば器用に何処でも過ごしそうだが、
先程の器用な人渡りの術を見せた毛玉殿達に不自由はさせたくないとの提案。
聊か語弊のある問い掛けをしながら、自分に懸念気な視線を向けてくれた毛玉殿達へとお礼を兼ねて手を差し伸べた。
卓移動の乗り物と、受け入れて貰えるかは果たして。踏み台にされてもそれはそれで本望。
■影時 > 「少し、ね。諸々健勝そうで何よりだ、と。ン?」
あの時はどうだったか。その時はこうだったか。思い返し、思い起こすことは色々ある。
冒険者を長くやっていると云える頃合いになれば、出会いと別れは幾度も繰り返すものだ。
長命種じみた体質こそあっても、十年、百年といったスパンの年月を少し、と扱うにはまだ至っていない。
とはいえ、だ。暫く会っていなかった知己が健勝であるというのは、とても喜ばしいことである。
脳裏に微かに覚えた時世的なずれ、引っ掛かりよりも、胸中に起こる感情こそを今は優先する。
鼻が利く毛玉たちは、何か気付いたかもしれない。
彼らが棲まっていた森は、元は長命種たちが住んでいた森でもあった。
知己にもエルフが居れば知った匂いに近かった、というのも若しかすれば――あったのだろうか。
そんな小さな生き物の胸中にある何かまでは、男もまた察しようもない。
ただ、件の死角的なエリアの席は二人で使うには手狭、小振りであった。二匹も居れば尚更に。
「良いとも。異存ない。
……子、というか、子は子でも俺の子分って奴さ。
こっちがヒテンマル、で、こっちがスクナマル、だ。以前仕事で踏み込んだ森で逢った処を、連れ帰ってな」
うろちょろする、じっとしていられない時もある二匹には、手狭よりも広い方がいい。
手を差し伸べられれば、二匹の毛玉たちはわぁと前足を挙げて、ぴょいっと気軽な素振りで手に乗る。
掌のうえをきょろきょろと見回し、歩き回り、親分=飼い主の紹介を聞けば、よろしくとばかりに尻尾を立ててみせる。
卓を移る間、掌に載せてもらう間は大人しく。
椅子に座って落ち着きを得れば、勢いよく肩上まで登ったりもして見せることだろう。
その様子を眺めつつ、隣席のテーブルに腰のエモノを立てかけ、先程の卓に合った皿をひょいと移そう。
それが済めば、男は自分の食事を頼む。
黒パンに厚切りベーコンのステーキ、野菜の盛り合わせ、それと塩をかけていないナッツ類と。
多すぎず、さりとて少なすぎず。塩含めた刺激物をかけていない種類は勿論、二匹に与える分だ。
■フォンティーン > 「連絡もせずに街を空けてしまって申し訳なかった
――……いや、うん、申し訳なかった。」
少しと表現しただけあり命の流れが違う身にとっては感情の揺れを齎すものごと以外、適度に流す癖が身についている。
逆に、感情の揺れがあった事柄はまるでその時を切り取ったかの様で、日の流れを無視したかの様に明らか。
諸々事情があったとはいえあの振舞は反省頻りと、一度謝罪し、何か口籠った後に改めて謝罪し直した。
一つ気に掛かっていた不義理を少し果たせたような心持で鬱々と抱えていた空気は更に一段薄くなった事かと。
「ありがとう。一人で広い卓を占領するのは少々気が引ける故。
――なるほど。然し少し目を離してる間に2人の子持ちとは驚いた。
ひてんまる、すくなまる、…君の名前寄りは幾らかよびやすいな。まるは兄弟分の証とかか?
―――……~~、」
目立たぬ席に陣取っていたのは、この街で一人で活動するからには変に目立たぬ方が良いという過去の知識と、
7割自身の心持ちに引っ張られての事ではあったが、周囲や店の迷惑を気にして仕舞うのも一つ。
成程と相手の言葉を受け止めた割に語弊を重ねる様な口を利きつつ、教わった名前を口にしてみた。
まるで名前に反応したかの様に反応する2匹を見て一瞬胸が締め付けられたように呻き、
危うく上に掲げた平を揺らしてしまいそうなのを耐えて移動先の卓へと運んだ。
彼等が何故自分を見付けてくれたのか。
――賢げで人の言葉を理解している様子を見てもやや落ち着かぬ所はあったが、
何しろ仕種が愛らしくてぬくもりが愛い。
料理の移動を済ませて椅子に座ると肩まで登ってくれるのに木漏れ日の様に笑い、
「ふは、――可愛すぎないだろうか。トキ、ずるいぞ君。」
髪が下手に毛玉殿達の小さな手足に絡まぬ様に項を出す様にして裾を絡げると、
編み込みを解いて逆側の肩に流した。彼の注文する料理を聞いた後で、
嘗ての趣味じゃないサイドメニューにはてと首を傾げ。
■影時 > 「そう気にすンな。……気にして無ぇよ。そういう時もある、だ。」
何せ、冒険者だ。何が起こるか分からぬ不安定な身分とも良識ぶった他人は云う。
文を交わしたり、伝言を頼んだりなどしている相手が不意に、ということはあり得ないことではない。
ただ、以前の付き合いでも向こうの種族が何か、という事項までは知らない。知る由もない。
顔を合わせる度、お前はニンゲンか?と聞くような人間至上主義を掲げた気もなく。
率直に、素直に、気にしていないと。そう伝える。
冒険者や旅人をしていれば、出会いも分かれもある。
――知己とまた会えて、元気であった。それだけが何よりも喜ばしい。
「そういうモン、でもあるか。ガラガラな時はあンまり気にしてなかったからなあ。
子分と言ったろう? ああいや、子のようなモンと言われたらそれまでだが。
それなら、名付ける時にちぃと頭捻った甲斐があったな。
……なん、というかな。
俺の故郷での名づけで、大事なものとかに付ける魔除け、のようなものとでも思ってくれや」
起床時間も定まらない冒険者だけではなく、教師の仕事をしていれば、ギルドに顔を出す時間はまちまちだ。
遅い時に来てしまうと、酒場が空席ばかりな時に遭うこともしばしばで。
だが、向こうの言葉がどちらかと言えば良識的には違いあるまい。
とはいえ、だ。子持ちと言われると、ついつい首を捻ってしまう。子のようなものになる、のか。
何せ云うこと聞かせているつもりといっても、振り回されるのが子の存在ではないか。
ちいさな生き物に、どのような感動を覚えているのか。
手に乗り、肩に登って。
毛玉たちがぺたぺたと前足で触ったり、首や耳の辺りをすんすん、と鼻先を近づけて嗅いだり。
何か不思議そうに小首を傾げたりする姿を見遣りつつ。
「ずるいと云われても困るンだがなぁ。
……こっちは俺の、此れはこいつらの、だ。与えてみるかね?」
毛玉達の仕草に笑う姿が放つ言葉に、色々大変なんだがな、と肩を竦め。
程なく運ばれてくる品々を己の前に並べてゆく。
パンと肉は己の分。野菜の小鉢とナッツ類は自分でも食えるが、どちらかといえば与える先が別にある。
ぴょんこぴょこんこと、肩上で跳ねる小さな獣たちの分である。
■フォンティーン > 「まぁ何――と言うかな、君は多分そう言うだろうと理解しながら
紡ぐ謝罪の居た堪れなさというのを甘んじて受けていた所、というか。」
鷹揚な相手は気にしないだろうと理解して紡ぐ、詰まり己の為の謝罪だ。
彼にとっては何も益体の無い、自分が言わずに居られないだけのもの。
もっと言うと忘れ去られていると手前勝手に受け止めていただけに、
さながら晴れと曇りが交互に去来する空。
「――ん、
……其処を律儀に訂正したり気に掛けたりする所は相変わらず愛らしいな、トキ。」
気にしないのかとは逆に目を瞬きつつ、逆に真当な昼時間に来る身としては常に混雑ばかりの印象。
毛玉殿達が首筋や肩を調べるように前足を当てたり、術に間近い耳元に鼻を寄せられると、
そわと背筋が震える心地して一人擽ったげに身を竦めつつ。
想定通りの彼の反応を味わって満足げ。
恵体持ち渋みを漂わせる人物に貼り付ける形容としては如何なものか。
形容した当人としては至極適当な形容として、そして幾ばくかの揶揄を込めて笑っており。
幾らか、擽ったみや小さな痛みがあれどこの可愛らしさに咎める事ができようか。
と、突如心の中に生まれる毛玉殿弁護団。過去の彼には無かった注文が、
彼等の為のものであったと知れば成程と理解しつつ、誘いに目を輝かせ。
「良いのか?……――いやでも、降ろすのも推し…否、惜しいというか、勿体ないというか。
…まるまる、ご飯がきたぞ。食べるか?」
思考能力型落ちの上、言葉を尽くしているようで同じ事しか言えていない有様。
指を肩の上で跳ねる子達の前で揺らしつつ、2匹まとめての呼び名で呼び掛け。
■影時 > 「然様か。まぁ、あれだ。
謝ってくれた以上、俺としてもとやかく云うつもりは無ぇさ。俺とて同じことあれば、気にも病む」
謝罪することで得られる気持ちは色々あるが、この感覚は恐らくお互い共通だろう。
相手が気に病んでいないというだろうとしても、自分にとっては言わないと気が済まない、という類のもの。
理由や経緯が何であれ、組んだ相手のことを忘れるわけがない。
そうした記憶は何よりも得難く、手放したくはないものだ。
「そう云うお前さんも、な。
愛らしいと云われると、なンつぅか。俺がガキだったら頭の一つや二つ、撫でられそうな心地になるのは気のせいかねえ」
大の男に対して云うことばかねぇ、と。さて、この感覚は何に由来しているやらしていないやら。
思わず顔を顰めながら、二匹が何か言いたげな素振りが視界に入ってしまうと、嘆息と共に天井を仰ぐ。
子供だったら、と口にしても、撫でて貰えた――という温かい記憶はない。もしあるとするなら、生まれた頃あたりか?
形容としては大人が子を慈しむよう、という喩えが若しかしたら合うかもしれない。
そう認識しつつも、飲み物を頼み忘れていたことに気づく。水か。それとも麦酒か。
「……その呼び方は新しいなぁ。
ははは。お前さんの顔みてると、こう云うと喰い付きそうな気がしてな?
普段はあんまりやらねぇようにしてるが、今日くらいは、ま、いいだろう。ついでに何か飲み物も頼むか?」
だが、其れよりも前に、だ。毛玉達を傍にしてある意味魅入られたような有様の姿が気にかかる。
気を許したらしい素振りの二匹は、殻付きであっても貰えれば、ちょこんとお座りしながら剥いて齧ってみせよう。
まるまるかー、まるまるでやんすねー、とばかりに、初めて聞く呼び方に二匹が顔を見合わせ、尻尾をくるんと振って。
飼い主もまた、そう来たか、とばかりに目を瞬かせつつ、ナッツが乗った皿を向こうに押しやろう。
皿の上には、既に剝かれているクルミやカボチャの種が乗っている。
そのままで食べると人間には物足りないかもしれないが、彼らにとっては其れ位が良い。
■フォンティーン > ――此方の心情を理解して同意迄示して貰って仕舞ってはもう降参だ。
フードを脱ぐ心地とはこのこと。毛玉殿達に影響のない側の片手をあげて降参の意。
斯くなる上は無為に経込まぬ様自分の側の感情を制御するしかない。
「全く、君の性質も早々変わらないのだなぁ。
……童でなくとも撫でるが?ちょっとしゃがんで貰えれば何時でも。」
ほぅ、と一息。
どちらが長く生きているのだか――相手にはその実情測られて居らずとも、
知っている側が幻惑される様なこの状況。
数日見なければ性質を変える様な人間も居る中でと感嘆し。
子供だったらと前置きする彼にきょんと瞼を一つ跳ねさせると、
彼に比べれば細い手を揺らして笑って応じて見せた。
丈に差があり過ぎて、撫でるに彼の意志を待たねばならぬのが少し惜しい所。
「大事な相手への名前の集約と理解したのでな。
……故郷にいたころを思い出すのだもの、仕方がない。抗いがたい。ずるい。
余りやらないということは普段は何を食べているんだ?
……嗚呼。果汁を貰おう。今日は何があるかな。」
ずるい発言2回目。
互いの持つ森の空気感が和むのか初めて触れ合う気がしない。
呼び名もすぐに自分等の事と理解している2匹の仕種に、舌を巻きつつ
此方側へ押しやられたナッツの皿からクルミを2つとって差し出した。
序でに小さな欠片を唇で拾うと噛み砕き、塩分がなく、
ナッツ本来の滋味のみがする理由を受け止めた。
如何やら薄らと柑橘と塩を散らした自分の野菜は献上できないらしい。
■影時 > 知己との間で、長く続くような恨み辛みの類は、願い下げだ。からりとしてる方がいい。
それ位には気を許していたつもりだが、向こうにとってはどうだったろうか。
「こういう歳でありゃ、そうそうに根っこは変わらねェなあ。
とは言え、身も心もジジイになると――さて、どう変わるかは分からんが。
……しゃがむのはちと、こそばゆいな。膝でも借りることがあったら、か」
人間、成熟してしまうとそうそう変わりそうにない。
真っ当と言える少年時代の記憶は持ち合わせていないが、現状の性分は過去よりも大きく変わってはいない。
その筈だ。その筈とは思うが、はてさて、付き合いの長い知己等の視点によるとまた違うかもしれないか。
そう思いながら、響く相手の言の葉に本気か、とばかりに眉を上げ、頬を掻く。
童という言の葉についてはやや気にかかるにしても、自分はそう思える対象にあるらしい。
脳裏にふと描く構図は――いやいやいや。
愉快ともユーモラスともどうとも言いうる図柄を吐息で打ち消し、ぼそりと言い足そう。
「成る、ほど、ねぇ。
……それか、あるいはヒテンやらスクナやら呼んでやってもいい。こいつらはちゃんと分かるらしい。
そっちの故郷は深く聞いたことはなかったように思うが、森が近いのかね?
餌は、一応色々気ぃつけて与えてるな。
野菜に茹でた鶏肉、チーズに果物。絞れば油が出る類の種は、好んでいても加減は必要だろ?
果汁か。柑橘のでいいかね。俺は、あー。これにするか」
他所の国、土地の住人なら、己がやった説明をそう解し、返すか。面白いと笑いつつ、呼び方を補足する。
聞いていれば出てくる言の葉があれば、問うてみつつ品書きを眺め遣る。
二匹は差し出されるものを、前足で器用にキャッチし、支えて――かりかりかりかり。
無心に齧り出す。かかっていたら過剰になる塩分がなければ、沢山与えない限りは問題ない。
聞いていれば癒し効果さえし出しかねない咀嚼音を間近で聞くだろう姿を見遣りつつ、普段与えるものを口に出す。
単一ではないのは、少なからず大事にしていることの証左だ。
ウェイトレスを呼び止め、果汁と共に頼むのは男にしては珍しく、甘い蜂蜜酒。
目につき、興が湧いたのなら悩みはしない。程なく運ばれて来れば乾杯でもしてみようか。
■フォンティーン > 「頑なになるのは考えものだが、大概にして芯があるのは良いことだ。
爺――そういえばトキは全く見掛けが変わらないな。
……――ふむ、撫でられる心算はあると。承知した。
しゃがむのは嫌か、寄り掛かるでもいいし、君の希望であれば膝も貸そう。」
不意に目を細めるのは幾つもの命を見送ってきた長命の種としての視線か。
美点が美点とだけあれば良い物を大抵の気性は裏表一体。
何気ない風の一はためきで運命の変わる事象を何度見たものか。
とはいえ、大勢にして美点であるのは間違いがなくゆっくりと頷きつつ、
思いを馳せて気付いた相手の外見の変化無さに視点当て。
此方の提案を満更でないように受け止めれば機嫌良く。
愉快気な姿勢を却下されれば代案を出す様子は本気も本気、違和感を感じている様子はない。
ポンと膝を叩けば肩に乗るまるまる殿がぴょいと反動で跳ねた。
「君は人を許容し過ぎる所があるから偶には甘える位がいい。
……だいじな所を外すのか?…あ、嗚呼話題に出したことはなかったか?
森に程近くあったし、遊び場と云えば森が多かった、かな。
………父だなぁ。」
まるは大事な者に付ける部分だと学習したばかり。
学びたての融通の無さで不満げに首を捻り、
何気なく出した故郷の話に一瞬口ごもった。
実態そのままというよりは嘘でない程度に緩めた回答をしつつ、
彼是と栄養を考えて食事を用意する姿に、なんだやはり「子」ではないかと独り言ち、
傍らで聞こえ出す咀嚼音に耳を傾ける。
鼓膜が擽ったいのに癒されるとはどういうことか。
彼が頼んでくれた柑橘果汁に否応なく頷き、歓迎の意を示しつつ。
余り待たせずして並ぶ盃2つ、漂う甘い香りに鼻をそよがせ。
「ん…これは、何だ。ミードか?」
■影時 > 「そうでなきゃぁ、こういう生活は続けてられねぇし、始めてもいねぇなあ。
……久々に会った奴が、思いっきり老けてた、という程経ってないと思うがね?
服は仕立て直したりはしてるが、まぁ、その、なんだ。
そうあんまり、外面が老け辛い体質とでも思ってくれたら良い。
こいつらとは違って、撫でられるには心の準備が要る――って云やぁいいのかねえ。
心身滅入って、疲れ果てる様なコトとかあれば、そんときには、な?」
安定やら諦めやら、色々と割り切れないことが多くあり過ぎたが故に、故郷を出た。
それが全ての始まりだ。今は幾つかのしがらみを得ても尚、旅と刺激を求める気質は変わらず続いている。
ただ金を稼ぎたいのなら、もう少し職業を選ぶ方がずっと安定する。
それでは飽き足らぬからこそ冒険者を続けている。己が今の在り方は変えず、枉げていない。そのつもりだ。
さて、見た目は、どうだろう。仕立て直したと嘯く白い羽織は、知り合った頃は着ていなかったと思うが。
――云わんとするところは勿論、別の所にあるだろう。
髪の長さ、伸びは抜きにして、肉体的なものの方だろう。
数年で嘘のように老いる者も居るだろうが、己はそうではない。韜晦はするが体質というのも間違いではない。
膝を貸すのも満更ではないらしい姿が、膝を叩けば揺れる二匹の様子に目を細めつつ、その時には、と頷いて。
「甘え下手でね、俺は。
大事とは言っても、毎回付けなきゃならんものじゃない。ちゃんと全部呼ばなきゃならん時に付ける、と言った位だ。
身辺のあれこれはとやかく聞かないのが、この辺りの作法、らしい。
……ふむ。じゃぁ、こいつら、じゃなくとも、こいつらの仲間や近種と逢う機会も多かったろうなァ。
子でも拵えたら、近しい心地にでもなンのかねこりゃ」
さて、どういうべきか。覚えたてほやほやの後の反応に少し頭を悩ませつつ、言い足してみよう。
故郷に対するコメントについては、どうだろうか。深く追求するにはまだ早い、か。
プライベートを聞き過ぎるのも、時と場合による。ともあれ、毛玉の親戚、同類と触れる機会はきっと多かったのだろう。
なかま?ナカーマ?と食べかけのクルミを抱え、二匹が首を傾げて、シマリスがくるんと尻尾を「?」のように撓らせる。
また食べだす姿で、平べったい尾をぱたぱたとモモンガが動かすのは、ちゃんと食べさせてくれるんでやんす、と言いたげなのか。
住処の宿部屋の費用は雇い主持ちだが、金貨数枚を毎月自費で払うのは、彼らの餌含む世話賃だ。
「おうとも。……味見するかね?」
運ばれてくる杯のうち、片方から漂う匂いが気になるのか。
取り敢えず乾杯でもする前に、問うてみる。己が口を付ける前なら、先に向こうが呑んでも困りはしない。
■フォンティーン > 「――ふむ、確かにそこ迄ではないのだが…まぁ、私の勘違いであろ。」
先の言葉は意気や良しと言わんばかりだが、それに続くのが少々相手らしく無い。
此方が言葉を遅らせるだけで、つと視線を彼の面立ちをなぞるように動かすだけで、
微妙に言葉の滑りが傾いたのを聞いて自身の唇に片手の人差し指を這わせると、
綻びる様に微笑った。言葉を全面的に受け入れる形で気の所為と思い直す様にして頷き。
視線を向けるがてら改めて服に目を止めれば、新しく仕立て直したという其れを似合っていると評し、
――とはいえあの頃も不意に洋風の衣服等身に纏って現れていたから、
変化、というと又然程ではない感覚か。
「何を言う。この子達も選んで撫でられてるに決まっている。
…――まぁ無理にさせようという物でも無いよ。
望めば撫でる手があると心に留め置いてくれれば問題ない。」
俄かに毛玉様擁護団。
歯切れが悪いながらも、此方の言葉が弾かれずに幾らか透ったのを見れば、無理強いはせずに言葉を引いた。
甘え下手との表現は的確だなと受入つつ、毛玉殿達の進めるペースを見て、
その小さな手があいた時のため、自分の野菜鉢から慎重に味の付いていない所を選り出した。
最早自分の食事等そっち除けだ。
「逃げるのが下手な者は逃げ場を、
狩るのが苦手なものは狩り場を用意するものだ。そういうことだよ、トキ。
まぁ、君なら頼れる人間が幾人かいるだろうけれども。
……まるまるも可愛らしいのになぁ。
うん、確かに。――懐かしい気もするし新鮮な気もする。
一緒に眠りたいが、精々ご一緒如何ですかと乞うてみるくらいか。
良い父には為ると思うな。なんだかんだ世話焼きだし放っておけないもの、君。」
本音が2つ程転げ出た。
覚えたての知識を笠に着て呼びやすいのと可愛いのとで押し通さんとした様子。
まるで淑女に情けを乞うような事を言い出しつつ、しっぽくるんの様子に眼元を緩めて見守り。
食事に関する信頼を示すモモンガとまるで会話をするように相槌を一つ。
其処迄して、断言する評価。
「――ん-……余り酒精には強くない、らしいのだけれども、
ミードはご馳走だからなぁ。
……少しだけ、これに入れて貰うのはどうだろう。」
暫く呻き声と共に悩む。
味は好ましいのだが、言い聞かせがある様子。
暫く悩んだ後で果汁で満たされた盃を相手方に押しやり、駄目かと自信なさげに提案。
■影時 > 「そうそう、勘違いだ。……多分な?」
以前に逢って、今また会った。その間の年月をさらに倍にしたような再会であったなら、どうだろうか。
赤子が幼子になる位の年月の経過とは、大人もまた老けざるをえない。
時間の経過とは何者にも平等、ではない。種が違えば。個が違えば。それぞれに応じた影響をもたらす。
己にとっては、どうだろうか。同じ位の年月を経た者同士が並べば顕著にはなるだろう。
だが、都合よくそんなものが居合わせないお陰でまだ隠しておける。
羽織袴といういで立ちは変えていないなら、草臥れ具合や新調の有無の方が恐らくより際立つだろうか。
評して貰えれば、有難いね、と目元を細める。鞄の中に収めた着物姿なら、また違うかもしれないかもしれないが。
「……っ、クク。そりゃ違いねぇわな。
分かった分かった。少なくとも、お前さんの手なら撫でられてみてもきっと悪くないだろう」
選ぶのか? ……選びそうだ。向こうの肩に乗った二匹を見遣れば、こてんと首を傾げるのはどう解すべきか。
「選ぶかな?」「選ぶ、かな?」――か。いやいや、どっちだ。はっきりしねぇか。
毛玉達は言葉を話さないが、自己主張が何となくわかるような気がする。
油含めドレッシングがかかってない野菜なら、塩分の摂り過ぎの心配は恐らくない。
ぱくんとクルミの欠片を全部飲み干せば、せがむように前足を振り上げてみせる。それを見つつ、応えよう。
「追い込み狩りでも遣るときの心得だなぁ、そりゃ。
その手の心当たりは何人かいても、沢山じゃあない。フォンティーン、お前さんの方はどうだね?
……言い方と抑揚のつけ方次第で、名を伏せたい時の言い草にも聞こえるなぁ。まるまる。
あー。だ、そうだが。匂いを辿っていけるか?
出かけたいなら俺は止めやしねぇが、ちゃんと行けなきゃ無駄足になっちまう。
だと、良いんだが。ただ、放っておけん点については、全くその通りだ。
こいつらを元の住処から連れ出した以上、生命に責任を持たなきゃならなくなったからなあ」
その喩えはどうなんだ、と。吹き出し笑いながら、ったくと肩を上下させてみせよう・
可愛いはすべてに優先されるという理屈は、世の中の理じみているが、押し通すのは――否、敢えて皆まで云うまい。
乞われてみれば、先ずは当人(?)たちに聞いてみよう。
乙女のお屋敷訪問、という業績をこなした二匹だ。匂いを覚えさえすれば、ただの毛玉じゃない処を見せてくれるらしい。
ごはんくれるならー、と言わんばかりに耳をぴんと揺らし、ぢーと相手を見上げつつ首を傾げる毛玉達が見える。
そんな二匹がちゃんと帰ってくるのは、飼い主の性分も大いに在るのだろう。
「ほう。……じゃあ、ちと試してみるつもりで、と。此れ位でいいか?」
弱いのか強いのかは、恐らく前者、と見立てよう。
押しやられた杯を見遣り、取り敢えず己の杯を傾け、中身を少しずつ垂らす。
蜂蜜酒の柑橘果汁割りになり過ぎないように気を付けたいが、向こうが良いと云えばそこでその手を止める。
■フォンティーン > 「嗚呼、もちろん勘違いだとも。」
辛うじて未だ、双方の間に流れた時間は気の所為で済む範囲。
己とて一期一会のこの街だからこそ誤魔化し生きていられる節。
突っ込み返されれば痛い胎が此方にもあった故、突けば何かが零れたかもしれない綻びを埋めた。
胎を寛げ切らずに気を許すと云うのも厄介なもの。
変わらぬが故に可笑しいと、そんな些細な違和感はひとの生に疎い人外であれば考えもしないのに。
「本当だぞ。――肩に乗っかってくれているのも
屹度、乗っかってやっても良いと選んで乗ってくれたに違いない。」
笑われて向きになったか、大分、
分の悪い言い方を「ね」とまるで人の子に言って聞かせる様に傍らの毛玉殿達へと向ける。
何か顔を見合わせながら「どうだろー?」みたいな仕種してるのはさておき。
毛玉殿達の主殿を見遣れなくなるのでさておき。
此方の仕種を理解したように両手を空けるいとし子達に、選り分けた野菜を半分に分けて手渡す。
数時間前、無為な食事を進める前にこの状況を予知できていたなら、
調味料等一滴もかけなかっただろうのにとちまい野菜を悔いつつ。
序でに眉間の少し上あたりを力の入らぬ薬指で突く様に撫でた。
「そうか?郷里だと狩りを覚える前に説かれる。
――そうだな、……求めた所からは得られなくて、以降は逃げていると云ったところか。
何だ、トキのことを言えないな?
……匂いで来れるのか、否辿られるのは聊か気恥ずかしくもないが。
確かに迷ってしまうと申し訳ないな。
この子達限定で私の居場所を辿れる何かでも作ろうか。」
持ち出すのが適切であったかは兎も角、白々と特殊例の郷里を持ち出して反論。
とはいえ、逆に問われて思い返してみれば、首を傾いで自身の状況呟き、
甘え下手を自称した彼より逃げ場が無い所を理解。困ったと眉を下げ。
先程彼方此方と匂いを嗅いでくれていた毛玉殿達に今更、一寸目の端を赤らめつつも、
真剣に考え事をする一呼吸。まずは許可取る前の技術面、出来るかな等と思い馳せ。
ふと眼差しに気付いて視軸を合わせると、つい指で擽った後で、主殿への視線。
円らな瞳が大変可愛らしいが何を言われてるのかと狼狽がちに。
「嗚呼、うん、香りづけだけでもうれしい。――と、と、それ位で。」
久々に会うた相手に迷惑をかける訳にもいかない。
程々の量で停止をかけると柑橘と混ざる蜜の香りに満悦示し。
■影時 > お互いにそう願いたい……、と。今はそう思っておけば良い事項、ということにしておこう。
仮に真相を知ったら――なんて、この時点でとやかく考えるべくもない。
確定的と言える材料が揃わない限り、脳裏に過るあれやこれやとは、予測の範疇を超えはしないのだ。
「……と、こちらの御仁は宣っておいでだが、お前らはどうなんだね。ン?」
さて。問いの矛先をひとならぬ毛玉に向けるというのは、どうなのだろう。しっかりとした解が得られるや否や。
もちろん、普通の毛玉には意味がない。ただ、ちょっと普通じゃない毛玉なら違うかもしれない。
飼い主からの問いの声に、耳ぴこぴこ。お髭ふるふる。
つぶらな瞳を考え込――んでるように視線を中空に泳がせている処に、はい、と手渡される野菜をわぁいとばかりに受け取る。
それを器用に前足で保持して食べにかかりつつ、撫でられたらそれが決め手だ。
サムズアップよろしく尻尾を立ててみせてくるのは、その通り、といった意図なのだろう。
……餌付けされたなぁ、と呆れたように虚空を仰ぎ、大袈裟に両肩を竦めて。
「狩りを教える、ああいや、覚える…………ふむ。
もしかするとお互いに似たよーな毛筋の処から出てきた、のかもしれねぇなあ。恐らくだが。
犬や狼には負けるとは思うが、どうも鼻が利くらしいんだよなあこいつら。
お前さんがもしナッツでも持ってたら、おねだりしにきてもおかしくないから、気を付けると良い。
……ああ、いいね。分かり易い目印でもあれば、それが一番良い」
教える、否、覚える。言の葉を捉え、吟味しながら思考を回す。
教えられて覚えるのか、自ずと体得するのか。説かれるならば少なくとも教授者は居る。
森が近いとなれば、狩場と成りうる場所は幾つもあり得るだろうが。
廻り出す思考を一旦は止めつつ、匂いを辿れると云えば、えへん、と胸を張るような二匹を見遣る。
向こうの宿がどこかは知らないが、子分たちが行く気であるなら、二匹に通じる分かり易い目印があれば一番良い。
親分がナッツを呉れないなら、タカりに行く気満々――といった目だろう。あるよね?あるよね?とばかりに。
二匹の言いたげなところを察し、全くと苦笑を滲ませて。
「心得た。ではこの位で――、乾杯、だ」
ではと。傾ける酒杯を引き戻し、一息。音頭を取りつつ杯を掲げよう。
■フォンティーン > 初対面の自分等よりは余程彼等の意に詳しいだろう御仁、
彼から差し向けられた問いに一拍無言になって様子を伺った。
震える耳や御髭に一々反応するのは差し詰め此方も獣の一種か何か。
まるで人が考えこむ様な動作の空白を埋めるように、
野菜を手渡してしまったのは賄賂――のつもりはなかった。
無かったのだけれど結果は――勝ちといって良い物か、どうか。
然して肯定は肯定。同意は同意。
自分でも迷いを見せつつ、なけなしの虚勢をかき集めて堂々と頷いた。
突っ込まれたら今にも崩れそうな虚勢ではあったけれども。
「覚える。
――教える部分も零とは言わないが、口で言うて伝わるものでもなくてな。
…――如何だろう。
否、うん、だがな、そういうレベルの話じゃないのは分かってるが、
自身の匂いを辿られるというのは仮にも女の端くれとしては…うん。面はゆいというか。
ナッツは今の所ないが、これはあるかな。
今度素材に空きが出たら作ってみよう。」
他の全ての同種が同じかは知らぬ。
寿命から術の彼是迄其れこそ所属に寄って、守る者に拠って、
千差万別に異なる進化をしたであろうから。
然し殊、己の属する所に寄れば全て教えるという悠長な施策は取られて居なかった。
子は少なく貴重な存在故、捨て置かれる事もまた無かったが。
鼻がきく、辿ると繰り返されては聊か人心地付かず、自身の羞恥する所を告げて水を差し。
代わりにと取り出すのは素材として郷里より持参した、人は食べないけれど毒性はない木の実だとか、
郷里で食されている果物の干したのとかをざらりと置いた。
彼等に持たせてはきっと動きの邪魔だろう。特殊な香り袋でも作ろうかと思案しつつ――
「ん、――変わらぬ友情に。」
音頭に合わせ、笑みを添えて杯を掲げ。
■影時 > 寝て起きて。働いて。また寝るまで。
共に過ごすようになって、見覚えること、気づくことなど、観察する機会には事欠かない。
何せ、出会った時点で随分と頭がいい個体たちだった。連れ帰ってから、さらに磨きがかかったともいう。
故郷での言い伝え、迷信の類だろうが、長く生きていたら、その内ひとに化ける術でも覚えかねない。
専用に誂えて貰ったとはいえ、貰い物のマジックアイテムを使いこなせる知性が間違いなく、ある。
この時期は鳴くらしいが、余程の事がない限りは鳴かない二匹が、話し込むように顔を見合わせる。
咀嚼の合間に見せる口パクは、二匹同士で伝わる何かで話し合って………いるようにも見える。
ただ、最終的に見せる尻尾アップが決め手だろう。少なくとも勝利、同意には違いあるまい。
二匹は子分であり、同時に齧歯類の冒険者だ。冒険したいから生まれ故郷を出てきた。
「ふむ。習って覚える……だけでも、なさそうだなァ。
生きようが死のうが、兎に角叩き込ませる、というよりは、きっとマシだな。
俺の故郷に出向くより、そっちの方に向かう方が現実的そうだ。良けりゃいつか教えてくれ。
……――はははは。
っ、すまんすまん。言われたら、確かにそりゃぁそーだ。
お前らだから笑って許してもらえることだからな?自慢しても良いぞヒテン、スクナ。
喰い付き良いな……何の果物だ? こっちで手に入るなら、ちと興味あるぞ」
忍者と同類が――ないわけではないだろうが、死ぬことも是として教え込むよりはきっとマシだろう。
そんなことを覚えつつ、興味を覚える。興味は大事だ。次の旅先を定めるきっかけとなる。
だが、今のこの場でもっと大事なのは、匂いという言葉に対して感じる恥ずかしさ、らしい。
男ならまだしも、女性ならばむべなるかな。
己がやると殺されかねないワードも、愛らしい毛玉達だからこそ、という点は大いにある。
置かれる品々を見れば、わーい!とばかりに、野菜を銜えたままテーブルへと降りてゆく。
何か拵えてくれるらしい様を聞けば、是非に、と頷こう。何か入り用なら提供することも吝かではなく。
「ああ、絶えぬ友誼に。――さて、最近どうだ?金策の手立てとか……」
そして、乾杯。二匹もまた二人に倣うように野菜を掲げて、ぐいと。そして、ぱくりと。
二者二匹それぞれの仕草をしながら、色々と話し込んでゆこう。
近況と、路銀に困るなら手頃な稼ぎ口等、話し出せばきっと絶えることがない――。
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