2020/05/08 のログ
ゼナ > そんな彼女ではあるけれど、ゼナの大声に跳ねる肩やら、大慌てで本を閉じる所作は場違いな可愛らしさが感じられた。それだけでもう、なんだか憎めない感じになるのは、ゼナが甘すぎるのか、それとも女魔族の人徳の様な物なのか。

「残念ながら反論はできません。実際、貴女が何物で、一体何をしているのか全く分からないまま、このまま放っておいたら面倒な事になりそうだという直感に従って思わず姿を晒してしまったのですから。私は魔法の事とかよくわかりませんし」

こちらが彼女の同族ではなく、本来この地にはいないはずの人間であると知った途端、周囲の温度が若干下がったかの様な錯覚を覚えた。
続いて発せられたのは、挑発的で嘲るような言葉と、どこまでも冷淡な眼差し。
しかし、それに対するゼナの言葉は、いっそ彼女の意見に同調するようなものだった。とはいえ、それが敵対の意思の無さを示しての物でないことは、巨大剣を担ぐ八相からも見て取れよう。
こちらの警告を無視した彼女が妙な動きを見せたなら、次の瞬間には大上段からの斬り下しが柔らかそうな白躯を一刀のもとに両断してのけるだろう即応の姿勢に欠片の揺るぎも見られぬからだ。

「そうですね、必要とあればそうせざるを得ません。ですけど、私は貴女が魔族だという一点だけを理由に斬りつけるつもりもありません。貴女の行っていた先の行為が、私にとって邪悪と断じるべきものであるなら容赦はしませんが、そうでなければ話し合いの余地もあると考えています」

相手の苛立ちを小麦の肌にちりちりと感じながらも、発する言葉に気負いや気後れは無い。瞳孔をきゅっと絞った蒼の眼光もまた、戦士としての彼女の力量を肉の付き方やちょっとした所作から掬い取ろうとする怜悧さに満ちている。

ルヴィルクイン >  
「話し合い?……ぷっ、あははははっ。ちょっと、笑わせないでよ」

ゼナの言葉を聞けば、赤髪の魔族は吹き出したように笑い始める

「アンタ、虫けらとお話とかする?
 あー、面白い…人間って身の程を本当に知らないんだから。
 とっとと斬りかかっとけば良かったのに、バカな人間」

さっさと焼き払ってしまおうか、と思ったところで、ふと邪なアイデアが頭を過ぎる

「…そう、じゃあ危険かどうかアンタが調べてみたら?」

そう言って、手にした禍々しい装丁のされた一冊の本を、剣を構えるゼナの足元へと放り投げた

──高位魔族以外が手にすれば、おそらくは危険のある書物

ゼナ > 「―――ふふっ、分かりやすいですね。それでこそ魔族です。そんな貴女であれば、わたしも安心して剣を振るう事が………え?」

こうして言葉を交わす事が出来るのに、それでも相手を虫けらと断じる彼女に対し、ゼナもまたにっこりと微笑み応えた。しかし、その笑みはこの戦士娘が日頃浮かべる屈託のないそれではなく、口端はつり上がっていても瞳奥に潜む冷淡さを更に一段冷え込ませての物。
この時点で眼前の娘は『とっても綺麗でおっぱいの大きな魅力的な女の子』ではなく、『無辜の人々を害してきた山賊同然の害悪』となった。そうした相手であれば、情けの一切も持たずに剣を振るう事が出来る。それこそ、虫けらを潰す程度の無感情のままに。
そのままジリ…と間合いを詰めつつあったゼナだったが、続く彼女の言葉には少しだけ虚をつかれた。雲一つない真夏の青空を思わせる蒼瞳を思わずぱちくりと瞬かせ、無造作に足元へと放られた本からバッと飛びのいて距離を取る。

しばらく黙って地面に落ちた不気味な本と、彼女の間に蒼瞳を彷徨わせて

「――――ハァッ!」

高く掲げたその巨剣を、いきなりゾンッと振り下ろした。
一瞬で練り込まれた気が数歩離れた場所に落ちている本へと斬撃を飛ばす。
風の刃の魔法の如く不可視の斬撃は、それがただの本であれば枯れ葉の如く粉砕し、更には乾いた地面にも深々と切れ込みを穿つ事となるはずだ。
先程にも口にした通り、ゼナは魔法という物にまるっきり造詣が無い。見るからに危険そうなその本に迂闊に触れては何が起こるか分かった物では無いし、彼女の行っていた儀式めいた行為にその本が関わっている事は間違いがない。
であれば、とりあえずはその肝となる本を破壊してしまえばいいのではないか。そんな直感任せで粗雑な考えな元に行われた突然の暴挙。

ルヴィルクイン >  
さて放り投げた本をどうするのか

拾って封印を施すか、それとも中身を確認するか

前者はとても人間の魔力で出来るものではないし、
後者を選べば本に蓄積された不浄の魂による呪いに襲われるだろう

どの道危険すぎて、自分の持つアーティファクトで焚する以外叶わぬ代物だった
それでどう動くのかを薄ら笑いを浮かべて眺めていたのだが……

「あっ、バカっ」

予想もしなかった行動に思わず素っ頓狂な声をあげてしまったが…

巨剣に分断された魔本
まるで生物を分断したかのように返り血をゼナへと返し、地面に大きな血溜まりを作る
血文字であらゆる呪詛が書き記されたページがバラバラに散らばって──

その瞬間、血に濡れた地面から大人の腕ほどもあろうかという胴回りの異界の生物…触手と言い換えてもいいだろう
それが無数に飛び出し、目の前にいた獲物──ゼナの手足、そしてその身体へと巻き付き動きを封じようとしていた

ゼナ > 「――――ッやはり、罠の類でしたかっ!」

場合によっては魔術的な力で弾かれる事もあるだろうと考えていたゼナは、思いのほかあっさりと破砕された本の行く末には軽い驚きを感じるも、次の瞬間中身のパンパンに詰め込んだ血袋を破裂させたかの様にぶち撒けられた血流を目にして忌々し気に舌打ちを漏らした。
とはいえ、剣を振るった直後に聞こえてきた驚きの声音は、この現象が彼女の仕掛けた罠、という訳でもなさそうにゼナに感じさせたのだが。

ともあれ、見るからに大きな呪いを帯びていそうなアーティファクトへの攻撃であればこそ、何が起きても即応できるようにしていた下肢が、巨大剣を携える鎧姿とは思えぬ舞踏めいて軽やかな動きで飛び散る血しぶきを回避する。
血の一滴さえ浴びぬ様に細心の注意を払っての回避行動はその目的を果たす事こそ出来た物の、大地を濡らしたドス黒い血が次の瞬間にはのたうちくねる触手めいて無数の腕を伸ばしてくる事までは止められない。

「ハァァァッ! いヤァッ! ちぇぇぇぇえいィッ!!」

向かい来る触手群を横薙ぎ、逆袈裟に切り上げ、叩き付け、時にはソードバッシュめいて巨剣の腹にて野太い肉胴をぶっ叩く。その手が携えるのは、重量任せの鉄塊ではなく、最愛の竜娘により授けられた竜大剣。
霊体さえも霧散させるその斬撃であれば、蠢く血蛇の要訣にもある程度のダメージを与えられるはず――――という考えの元での反撃ではあるが、実際の所それがどれだけの効果を発揮するのかは分かっていない。
いかなゼナとて滝を割るのはせいぜい数瞬が良いところ。自然現象さえも斬殺してのける程の域には達していないのだから。

ルヴィルクイン >  
バラバラにページの落ちた血溜まりはまるで心臓の鼓動のように脈動し、次々の新たな触手を生み出してゆく
おそらくこれまで喰らった魂の質量の、その数だけ生み出されるのだろう、が──

「へえ…ああなるんだ。破壊すると」

女剣士の健闘も他所に、目の前で起きた現象を興味深げに眺める女魔族

「ほら、頑張って。まだまだ出てくるみたいよ?」

別に罠というわけでもなかったのだが、本を破壊した者に向かって伸びてゆく大量の触手を眺めて、煽るように手を叩く

「(…にしても多いわね。どれだけの呪詛を溜め込んだ本だったのかしら…こわこわ)」

物持ちの良い姉が自分に焚書を命じたのだから余程のものだろうとは思っていたが
そんな間にも、切り伏せられるたびに新しい触手は生え伸びてゆく──

ゼナ > 「――――ック、高みの見物とは良いご身分ですねっ。見ているだけではヒマ、でしょう? おすそ分け、ですっ!」

雷めいてジグザグな軌道を描いて降り注ぐ血蛇を回避して、対岸の火事を眺める野次馬の様に気楽な見学を決め込む彼女に迫る。

―――時間を掛けて気を練れば、刀身に纏いつかせたその力で城門を粉砕する事さえ出来るゼナではあるが、基本的にその戦い方はどこまでいっても泥臭く愚直な代物。
相手の攻撃を出来る限り回避して、受けるにしても致命となりうる物は急所をずらし、後は力いっぱい武器を振るって相手に叩き付けるというただそれだけ。
竜娘から贈られた武器のおかげである程度は魔法的な物への対応力も手に入れたが、『やられる前にぶった斬る』事しか出来ないゼナは、基本的には魔法に対して非常に相性が悪いのである。

そんなゼナに出来るのは、この血流が動きを止めるまで斬って斬って斬り刻む事だけ。ただの鉄塊ならいざしらず、希少鉱石と古龍素材をふんだんに用いて作った竜剣なれば、全くのノーダメージという事はないだろうが、それでもそれがどれだけの効果を上げているのかさえ分からないのだ。
だったら、少なくとも自分よりもこの現象に対する知識を持っているだろう女魔族も巻き込んで、せいぜい効果的な対策を講じてもらおうという心積もりが、するりと彼女の背に回り込み、煽情的な下着姿を血蛇に対する遮蔽物として利用し始める。

これが彼女の仕掛けた罠であるなら、この乱戦に紛れた死角からの斬撃でその半裸を狙っただろう。しかし、彼女の言動を聞く限りではそういったわけでは無さそうなので、とりあえずはこの現象が収まるまでは遮蔽物として利用しようという動き。
とはいえ、既にゼナの中で敵認定されている相手である。血蛇に対する攻撃の刃圏に偶然彼女の身体があったとしても、わざわざ剣の軌道を変えようとは思わない。

ルヴィルクイン >  
「は?身分も何も虫が蛆虫と戯れてるだけじゃない。…ってなんでこっち来んのよ!?」

女戦士の動きが変わったことを見れば、それに追随するようにして触手もまたこちらへ向かって来る

「くっ…面倒なことさせないでよ…ねっ!!」

振り払うように右腕を薙ぎ払う
文字通りの身振り手振り
しかしその動きに合わせて地面に魔法陣がいくつも浮かび上がり…

爆音と共に焔の柱が壁のように立ち昇る
女戦士…ゼナと、自身を阻むように──

「妙なこと考えてないで、さっさとヤられちゃいなさいよっ」

ゼナ > 「――――……ッ!!」

ビロードのマントの如く赤の艶髪に隠された彼女の背に、トンッと己の背を触れさせて数匹の大蛇の軌道をそちらに向ける。
逆側に回り込んだ蛇を頭上からの斬り下しで両断して地面にぶち撒けつつ、肩越しに彼女の様子を伺い見れば、細腕の一振りに対して地表に浮かぶ無数の陣円。
次の瞬間、火山でも噴火したのかと思える程の業焔が天を焦がした。
その炎風に重い毛皮のマントをたなびかせ、のたうちながら蒸発する血蛇の様にニッと口端を釣り上げる。

「ふふっ、流石ですね。わたしの攻撃よりも余程に効果的な様です。その調子で暴れて下さい。 ――――……っと、また来ましたよっ!」

まるで戦友の如く背と背を合わせたまま囁くゼナが、炎の城壁を迂回して飛び掛かってくる血蛇をソードバッシュで弾けさせ、続く数匹を叩き斬った後、さばききれない程の量が来たことを知らせる様な言葉と共にそこから飛びのく。
一応の誘導性能は持ち合わせていても、あまり小回りの利かないらしい血蛇の奔流が、飛びのいたゼナに取り残された魔族娘の背に迫る。

ルヴィルクイン >  
「ちょっ…ふざけんなあ!!」

こちらにまで迫ってくる触手を自身もまた飛び退きながら避ける
…が、軽やかに立ち回る女戦士ほど身のこなしが良いわけではないのか──

「この…!! ──きゃうッッ?!」

後ろから迫る触手にも気づかずに背を打たれ、地へと伏せる
体つきも含めて見ても、近接戦闘が得意なようには見えなかった

「ムカつく…っ!! もういいわ、この辺り全部灰にしてやる…!!」

身を起こしながら、怒りに燃える女の周囲に焔が逆巻き、周囲の温度が激情の発露に同調するように、上昇してゆく──

ゼナ > 人に対する精神性はともかく、素の彼女はもしかしたら存外に、それこそ見た目相応に幼いのかも知れない。
ゼナに回り込まれてあっさりと遮蔽物として利用された彼女が漏らす悔し気な声音には、愛嬌さえ感じてしまった。
軽く合図を送ったにも関わらず、血蛇の突進に対応出来ずに地面に転がる様子には、思わずその手を取って立ち上がらせてあげたくなる。

「…………ッ! これは……、流石、魔族といった所ですか。いくら何でもこれを喰らってはひとたまりもないでしょうね」

血だまりの泥濘に倒れ込んだ彼女の赤髪が、炎の様にざわざわと蠢いたかの様に感じられた。はっきりと魔力という物を感じ取れないゼナではあるが、彼女を中心としてかなりの広範囲に途轍もない危険が近付いてきている事は分かる。
恐らくは彼女が次に発動しようとしている魔術による物なのだろう。
ジリジリと強まっていく危険の気配。これまで幾度も死線を潜り抜けてきた戦士の勘が、後どれくらいの内に離脱せねばならないかのタイムリミットを大雑把に算出する。そして当然その間も血蛇の襲撃は止まらない。
どうやら何もかもを巻き込んで灰燼に帰そうとする彼女の意思を感じ取ったらしく、先程まではゼナだけを狙っていた血流の触手群が、明確に女魔族をも狙い始めた。

彼女の近接戦闘能力は控えめに評してもへっぽこそのもの。
大魔術を練りあげながら、殺到する血蛇を回避し続けるなんて事は不可能だろう。

「――――手が焼けますねッ! これくらいの攻撃っ、回避できないんですかっ? ほら、今度は右からッ!」

改めて彼女に近付き、全方位から襲い来る蛇群を巨大剣で叩き斬り、弾き飛ばし、時にグイッと彼女を引き寄せて触手の攻撃からその身を守ろうとする。
そうしてギリギリまでその場にとどまり、彼女の魔法詠唱の時間を稼いだ後

「後は任せますッ! ここまで来て発動に失敗したりしないでくださいねっ!」

元はといえば、ゼナの短絡的な斬撃から始まった災禍であり、ただの見物人であった彼女を巻き込んだのもまたゼナである。そんな女戦士が好き勝手なセリフを残して一目散にその場から離れていく。
ゼナの危険予知で言えばギリギリで大魔術の攻撃圏内から逃れられるはずではあるが……

ルヴィルクイン >  
「手が焼けるも何もアンタが本ぶった切ったせいでしょうが!!…っの…!!」

思うようにもいかなければ、
想定外にも巻き込まれ、
あまつさえ守られる

虫螻と見下し続ける人間に、である

余りの腹立たしさから冷静の欠片もない激情の発露は、
彼女を中心として天まで逆巻く業炎となって薄暗い魔族の国の空を照らした

──血溜まりの上に散らばっていた本のページがすべてその焔に巻き上げられ、灰となって消え失せれば…
蒸発した血溜まりと共に湧き続けていた触手消え失せる──

「……はぁ、どうせこうなるならさっさと梵書にしておけば良かったわ…」

そして遠くに退避している女戦士を改めて、恨みがましく睨めつけるのだった

ゼナ > 「――――っふぅ~……。どうやら何とかなったみたいですね」

爆風に巻き込まれて吹き飛ばされたゼナが、受け身を取って大地を転がった後に起き上がって目を向ければ、朽ちかけの墓場からガラス質の地面を有するクレーターへと変貌したその中心部に、火山地帯の如き熱気を物ともしない半裸姿を確認する事が出来た。
先程まで彼女と己に纏わりついてきていた血蛇も、大地を黒く濡らしていた血だまり諸共消え失せて、ゼナの危険予知からしても危難が去った事は間違いなさそうだ。

ただ立っているだけでも汗が滲むどころか、砂漠の灼光の如く体力を奪う熱域の中心部へとのんびりとした歩調で近付くゼナに向けられるのは、愛らしく整った美貌からの恨みがましい視線。
初めて見た際には下手に魅入られればそのまま地獄へと連れていかれそうな禍々しさばかりを感じた物の、こうしてみれば癇癪を起した少女の様な可愛らしささえ感じられる。
思わずふっと口元を綻ばせつつ

「お見事でした。流石は魔族。口先だけではないという事ですね」

しれっと彼女の奮戦を褒めたたえる。
彼女が牙を剥くのなら、躊躇なく叩き斬れるだけの意識の切り替えは済んでしまっている物の、それでも今のゼナから戦意は感じ取れぬはず。
少なくとも今この場で続けて殺し合いを始めるつもりはないというのは、種族の異なる彼女にも伝わるだろう。

ルヴィルクイン >  
「…ちょっと、偉そうな口効かないで頂戴。人間のクセに。……はぁ」

溜息を吐きながら、悠然と歩み寄る女戦士へと言葉を向ける
敵意なく近づく様子には僅かながら毒気は抜かれたか、その細い肩から力が抜けたように項垂れている

「て、いうか…」

けれどそんな様子もすぐに鳴りを潜めて…

「封印指定の禁書をいきなり斬り捨てるなんて何考えてるわけ?!
 アタシが盆書しなかったら多分永遠にあのきっしょくわるい触手が生まれ続けてこの辺りが大変なことになってたとこよ!
 せめてねぇ、調べてから斬りなさいよ!!調べてから!!」

自分が女戦士…ゼナを使って本の呪詛の具合を確かめようとしたことは棚に上げ、機関銃のように捲し立て始めるのだった

ゼナ > 「ふふっ、貴女の態度も少し前に流行ったつんでれという物だと思えば、存外に可愛らしい物ですね」

つい先程、その身が有する危険性を見せつけられたばかりではあるが、それでもゼナは出会った直後程の警戒心を彼女に抱けなくなっていた。成り行き上の―――というよりはゼナが無理矢理巻き込んだ形ではあったが、それでもしばしの間共闘した相手である。戦意が抜けるのも不思議ではあるまい。
そういった感性は魔族たる彼女にも備わっていたらしく、その事にゼナは少しだけ安心した。その結果が魔族娘をつんでれ呼ばわりする軽口である。
そして憤懣やるかたないといった様子の彼女の言葉に対しては、こちらの方こそ心外であるといった顔をして言ってのける。

「だから言ったじゃないですか。わたしは魔法とかそういうのには本当に弱いんです。とりあえず危険そうだっていうのは分かりましたし、放っておくのはまずいって思いましたし、この場で斬りつければなんとかなりそうだって思ったからやってみただけです。現に、そのおかげでこうして事なきを得たじゃないですか」

魔族娘との共闘というあやふやな幸運を引き寄せたからこその解決ではあったが、それは同時に『"この場"で斬りつければなんとかなる』というゼナの直感の正しさも証明していた。
罠も魔術もそうした動物的な直感でしのいで生き延びてきたゼナは、ちょくちょくこうして無謀としか思えない直感任せの行動に出る事があるのだ。

「ですが、わたしだけではあれの討滅にどれほどの時間が掛かったか分かりません。場合によっては返り討ちにあっていた可能性もあるでしょうし、貴女のおかげで助かりました。わたしの名前はゼナと言います。礼の言葉はきちんと名を呼びながら口にしたんですけど、名前を教えてもらえますか?」

先程までの彼女の言を考えるなら、それこそ羽虫に対して名乗りを上げる様な物。しかし、直前までは殺し合う未来以外見られなくなっていたゼナが、先の共闘によって意識を変えたのと同様に、彼女もまたそうした奇行に出ても良いと思える程度には気変わりをしているかも知れない。それを期待しての問い。

ルヴィルクイン >  
「…あのねえ。私は仕事で危険な魔本の処理を任されていたの。
 その前に本の呪詛の種別を調べようと思って此処で…はぁ、もういいわ…」

つんでれ、とか言われてしまってはもう何を言って良いのかわからない
といったように片手を否定に添えて項垂れる

「別に人間の名前なんて知っても知らなくてもどーでもいいんだけど?」

じっとりとした視線を向け直すものの、大魔法を使った後でこれ以上なにかするつもりも起こらず
その態度は相変わらず気に入らないといった感じなものの

「なんで人間なんかが魔族の国にいるのかしらないけれど。
 ゾヴィアホルン魔法書院赤の司書ルヴィルクインの名前ぐらい知っておきなさい」

人間なら知らなくても無理はないけれどね、とフイッと顔を背ける
…元々知る人ぞ知る図書院なので魔族のほうが知らない者のほうが多いのだが

ゼナ > 「………へ? あ……あの、それじゃあまさか、邪悪な目的を持って行われている怪しげな儀式とかじゃ……い、いや、貴女がもういいと言うなら、ヘンにほじくり返さない方がいいですよねっ。わたしの直感もそういっていますし!」

不意打ちでいきなりぶった斬らなくてよかった……と心底感じるゼナである。
こちらの名乗りに対してまずはつれない言葉を向けつつ、結局はきちんと名を返してくれる彼女へのつんでれ疑惑が強まる。
思わず優し気な微笑みを浮かべてしまいつつ

「ルヴィルクイン……。それが貴女の名前なんですね。ありがとうございます、ルヴィルクインさん。おかげで助かりました」

馴染みのない名前の響きをしばらくの間舌の上で転がした後、改めて彼女に向けた蒼瞳が真摯に礼を言う。そこにあるのは、相手を害悪と断じて油断なく実力を測り、隙を伺う、どこまでも冷徹な戦士の眼ではない。普段安全な街中で知人に向ける様な、裏表のない澄んだ瞳。

「わたしがここにいるのは、砦からの単独斥候任務の途上だったからです。そこで不穏な気配を感じてこっそり近付いてみれば、いやらしい格好をした魔族――――いえ、ルヴィルクインさんがぎしk……えぇと、本を調べている所に出くわしたというわけです」

幾度か口ごもりつつ、こちらもまた彼女の問いとも言えぬ問いに言葉を返す。
そして、剥き身のまま下げていた巨剣に気付けば、改めてそれを持ち上げて背にした帯鞘に納めてみせた。

ルヴィルクイン >  
「ところどころ本音らしきものが漏れているところは眼を瞑ってあげるわ。ありがたく思いなさい」

いやらしい格好だの、不穏な気配だの
人間から見ればまあ当然の感性なのだけれど

「随分迷惑な早とちりだわ。…まぁアタシが迂闊だったのもあるけど。
 ……ところで随分派手にやったしそのうち他の魔族が来るわよ。ぼんやりしてていいのかしら?」

人間にこんな忠告をするのもらしくないと思いつつ、敵意がないなら疲れたしもういいか、といった風情である

ゼナ > 「―――っと、そうですね。魔族が皆貴女の様な人だとは限りませんし、忠告をありがたく受け取ってわたしは戻る事にします」

彼女の言葉に頷き背を向ける。
ちらりちらりと肩越しに蒼瞳を向けたのは、魔族である彼女に対する警戒ゆえではなく、このまま別れてしまう事に奇妙な名残惜しさを感じたから。
しかし、彼女の言葉通り、ここが人にとって危険な敵地である事は確かであり、あまり長くとどまるべきではないのだ。そんな考えの元歩き続ければ、互いの姿が確認出来なくなる程の距離に離れるのに然程時間はかからない。

そうして一人になったゼナは改めて考える。
殺し合いにこそならなかったとはいえ、人を虫と断じた彼女の言葉がつんでれを患う者に特有のポーズに過ぎないとは言い切れない。となれば、あれだけの魔術を操る彼女の存在は、砦を守る兵にとっては脅威以外の何物でもなく、本来であれば黙って見逃がして良い相手ではないはずだ。
とはいえ、ゼナが受けたのはあくまでも斥候任務。
回避できる戦いは回避して、出来るだけ多くの情報を持ち帰るのが仕事である。そして、得た情報の何を報告するかは全てゼナの采配次第。
魔族の娘と出会い、なんだかんだあって彼女と共闘した後、互いに名乗りあって平和裏に別れたなんて情報は、わざわざ砦に伝える必要もない―――という事にしておいた。

ご案内:「魔族の国・墓地(過激描写注意)」からゼナさんが去りました。
ご案内:「魔族の国・墓地(過激描写注意)」からルヴィルクインさんが去りました。
ご案内:「魔族の国(過激描写注意)」にグラウ・ブレックさんが現れました。
グラウ・ブレック > ―――――――……

あらゆる魔族や人間を食らうスライムが、今日も魔族の国内の森をさまよっている。
が、スライムは、今日はスライムではなかった。
その体組成を変化させ…この辺りでは雑魚とされている魔物に身を変えている。

肉食ではあるが、単体ではそれほど強くなく。
どちらかと言えば、こそこそと隠れる側だ。
大型の魔物や、ある程度の強さの冒険者や魔族であれば、余裕で討伐できる強さだ。

―――――――……

どこかで戦乱の気配も感じるが…本能はあそこを避けろと囁く。
だからこそ、慣れ親しんだ魔族の国で『釣り』をしており。
一匹でのこのこと歩くバカな魔物を演じて…
何か騒ぎがあればそれに乗じるか。
あるいは、誰かが憂さ晴らしに討伐しようとするか。
そんな相手を、自身を餌として釣ろうとしている。