2018/06/06 のログ
■ラボラス > (必要は無い、必要なのは兵である事だ
兵士と言う肩書は無用、ただ、戦場に於いて覚悟と刃を携えるなら
其れは正しく兵であり、戦士で在るのだから。
誰が、今の娘を「ただの護衛」等と嘯くだろうか
命を賭して、他の命を守り切った誇り高き砦兵達と何ら変わらぬ
魔の将たる己に一太刀を浴びせんとする其の姿は、尊ぶべきですら在る
二撃目で足りぬ、けれど決して絶望を宿さぬ其の瞳に、笑みが深まる
ならば、己とて遊んでいるばかりでは無い、敵として刃を振るうまでだ。)
―――――……そうか、其れが貴様の。
(嗚呼、と、小さく呟いた。
目の前に翻るのは、更に速度を増した太刀の煌めき。
二撃目ですら届かぬ先へ、届かせんとした娘が為せる最大の一撃
重力すらも味方につけ、愚直に一撃を叩き込まんとした其の太刀に対して
先に振るい、そして叩き込んだのは、己の方。
――嗚呼、今の一撃を予感で終わらせて仕舞ったのは余りにも惜しい。
惜しいが、だが、此処は戦場なのだ。 己が個人の欲望を果たして、斬られる訳にもいくまい。
地面へと、叩き付けられた娘から、潰れた様な声が絞り出される
肺の中に在る空気なぞ、今の一撃で全て吐き出されたろうか。
決して、慈悲を以て手刀を振るった訳では無い、相手の剣よりも早い一撃は、他に無かっただけだ
寧ろ、砕けなかった骨も、潰れなかった肺も、止まらなかった心臓も
結果的に、娘の身体が思ったより頑強であったと言うだけに過ぎない。
間違いなく其れは、あわよくば娘の命を奪わんとした、冷徹な一撃。)
…………良い覚悟だ。 全てを賭けた其の一撃ならば、俺へと届いたかも知れん。
……だが、此処が戦場で在る以上、勝利をくれてやる心算もない。
(――ゆっくりと、地面に叩き付けられた娘へと距離を詰めて行く。
未だ、隙を見せる事は無い。 娘がいつ起き上がり、再び剣を振るうか知れぬからだ。
代わりに、賛辞めいた言葉を投げかけながら、娘の持つ刀を踏み付けて仕舞おうとしつつ
己が片腕で、娘の其の首根っこを掴んで、ゆっくりと持ち上げようとしては
――其の瞳を、覗き込もうとする、か。)
―――――………名は在るか、娘。
■ネーヴェ > (そして人達は皆。最期迄、その必要を貫き通した。
得物を、手脚を、首を、心臓を。落とされ命果てるその時迄、ずっと。
兵士ではない己は、其処迄殉ずる事が出来たか――解らない。
だが、どうやら。何も失わずに済む事は無い。
大きく吹き飛ばされ。男から遠離り。地の上を跳ねて、橋の袂へ押し返され。
仰ぎ見る事になる砦は――きっと。今正に、魔の為の物となる、瞬間。)
っは――――か、は …! ぁ゛ っぎ…
(嗚咽も、嘆息も出なかった。
唇から、喉から吐き出すべき物を皆纏めて、男の一撃に圧し出されてしまったから。
衝撃が未だ内腑を揺さぶり続け。残滓のような咳と共に、泡立ち溢れた胃液が垂れる。
視界と意識が平衡を根刮ぎ奪われ、四肢が痺れ、大の字に投げ出され…それでも。)
っ、っ…!
ぁ――く そ、 未だ…
(それでも未だ。太刀を握る手は離していなかった。
ゆるりと再び距離が詰められれば。入りきらない力の残りを総動員して、
片手なりでも、横たわった侭に男を切り上げようとしては――
浮かせた、直後。刃の腹を押さえ込む男の全体重。
改めて知るのは、体格差に比例した重量差であり、同時に、彼の者の纏った鎧の重さ。
流石の娘も、それを覆す事は侭成らない。
まして、直後に。無理矢理太刀から引っぺがされ、猫の如くに吊るし上げられてしまっては。)
そ――ぅ それなら、何…っげほ、けふ …っ…!
何な ――ら、くれる…?
…こっちから、あげる物は …もぅ。 無いけ――ど…
(垂直にされた喉が。何処からの出血だか、漸く取り返した呼吸に合わせ、血泡を吐いた。
…が、中身が弾け潰れなかっただけ、幸いなのだ、という事は。娘にも自覚出来ている。
バランスを失い、支えきれず、受け止め切れなかった事は。
こうなれば寧ろ、不幸中の幸いだったのかもしれない――丸毎吹き飛ばされるという形で、
男の一撃が運動エネルギーに変換され消費されたからこそ。破壊されきらずに済んだのだから。
が、それ以外の幸運は、望むべくもないだろう。
先程迄太刀を握り続けていた、力を籠めすぎ、酷く擦り剥けて血を滲ます掌が。
べちゃり、と濡れた感触を伴いながら、男の手首を掴み返しつつ。)
――――教え て、あげなぃ……
(兵は尽きた。砦は墜ちた。刃は封じられ、躰は囚われ…
もう、何を奪わせろというのか。せめてその位は、と言わんばかり、名を問われれば首を振り。
掴んだ手首に力を籠める――罅の入ったとはいえ、籠手に包まれたそれを、壊せるとは思えないが。)
■ラボラス > (――いつの間にか、砦から人の声は無くなって居た。
趨勢は決した、砦内に居た最後の勇士は、きっと最早。
故に、この戦場に於いて唯一の生き残りとも言うべきは
今、この娘だけなのだろう。
何処か食道か器官か、傷と為ったのだろう出血が唇を濡らす。
其の姿を眺め見ながら、この期に及んでも未だその瞳に
隙在らば一太刀くれてやらんとする様な剛さが垣間見えれば
罅の入った手甲を掴まれ、血濡れにされようと
或いは娘が咳き込む度に、自らの鎧や頬へと、血の滴を張り付けられようと
まるで気に留める様子も無く、ふ、と口端を吊り上げ。)
――――……俺からくれてやる物など何も無い。 第一、貴様にそんな物は必要無い筈だ。
だが…、……貴様の様に先を愉しめるなら、其の首を撥ねずに居てやる。
(其れは、恩情では無い。
生かす、と言う選択肢は、何よりも己の私欲の為だ。
だが、其れを果たして娘が如何受け取るだろうか
戦場で敗北し、囚われて、何をも奪われぬ筈はない
命を奪われぬと言う事は、異なる何かを奪われると言う事だ
此れ以上、奪われるべき物は無いと嘯く娘を、そっと、地面に降ろしては
右手に構えた黒き剣を、娘の眼前へと静かに突きつけて。)
―――……貴様を捕虜とする。
砦を陥落とした報酬変わりだ、勝利には然るべき褒賞が必要だからな。
(そう、一言宣告すれば。
剣の切っ先を、娘の喉元を戒める首輪へと突き付けた
其の首輪が意味する物など、さして多くは無い。
――さて、どれだけの力を持つ魔具かは知らぬが
誰かの所有を示すらしき其の首輪を、断ち切って、仕舞おうか、と)。
■ネーヴェ > (最早、人と呼べる生存者は己一人…獣の証を身に備える種族も、人、に加えられるのならだが。
それとも、魔と敵対するという意味では、同じ人として纏められたのか。
…最早答えは返ってこない。同胞と呼べる者達は皆、その役割を全うしたのだから。
「次」を約束する、その為の「今」は、此処に終わりを告げた。
そんな「今」に取り残されてしまった、己は、さて…)
ない――ね、 確かに。っは、 けほ…ぅ ぇ゛――
先?先が有る、なら それは勿論――――
(娘と男の答えは、間違いなく相反する。
先程の、続きを。契機さえ見出せるなら、娘はそれを諦めていない。
宙に浮かされた爪先が刃に届けば。
この手指に、もう少し力を籠める事が出来れば。
いや、より端的に――生きてさえいれば、と。
そうすれば、未だ、闘う事は出来る筈だから、と。
……だが。)
奴隷から 捕虜な んて。……良いんだか、悪いんだ か。
判別 付きかねるか も―― …っ、て ぁ、 あ ………!?
(命さえ奪われなければ、何れは、次の機会が…という意思は。
有る意味、力尽きた兵達と真逆のようで、似通っている。
他者ではなく己を、次に繋げる事さえ出来るなら、今を犠牲にしても…と。
そんな決意なのだから。
だが、何の為に、繋げたいのか、そう問われれば。
恐らくは飼い犬の矜持。飼い主への忠義。
突き付けられた剣が切り落としたのは、何という事はない、頑丈ではあるが…
それだけの。決して魔力等が籠められている訳ではない、単なる首輪だ。
飼い主の存在を示す、飼い犬であるという証拠なだけだ。
だが、それだからこそ。斬られた首輪、落ちた名札は。
存在意義を否定されたに等しかった。
殺意一辺倒に満ちていた瞳が、始めて大きく見開かれ、揺れる。)
何、を 何てこ と、っして ぁ、あ あ、 嫌 だ、嫌っ …
……うぁ ぁあ、あ、あぁっ!?
(獣が泣いた。転げ落ちたそれ等を拾おうと手を伸ばす。
…寄る辺を。産んでくれた、育ててくれた、養ってくれた、
――抱いてくれた、愛してくれた、そんな人達の、銘を。)
■ラボラス > (己と言う将を狙い、そして敗れた。
最早無名として死ぬ事は能わず、代わりに与えられる――立場。
虜囚と言う立場が娘の首へと新たに嵌められた楔となり
其れが、己へと向けられた殺意を、僅かでも削ぐ結果となるなら。
――其れこそが、まさに。 この戦場に於いて、唯命を奪うよりも余程重き
娘の存在理由を、奪う、と言う事に他ならない。)
…………貴様が何の為に剣を取るのかは知らぬ。
だが、貴様が最も大切にしているのは、命ではないようだ。
……だから、奪ってやろう。 踏み躙ってやろう。 貴様の寄る辺と為るモノを消し去って、其の顔を、其の絶望を、俺の杯としてやる。
(――其の動揺が、勝者たる己にとっての、一つの報酬だ。
首輪を拾おうとするのなら、其れを止めはしないだろう
其れでも、ただ壊れて仕舞ったと言うだけでも、軛から解き放たれた事には違いない
そして其れは、娘の、其れまでの生き方を否定したと同じ事だ。
其の上で、其の心を絶望と悔恨が埋め尽くすならば、其れまでだ
だが――或いは、其れまでよりも余程大きな怒りと殺意に転換されるのならば
其れこそを望んで、娘の様子を見下ろすだろう。)
――――……名乗らないのなら、貴様に名など要らんのだろう?
敗北者よ、貴様に首輪を纏う資格など与えてやらん。
此れより貴様は俺の虜囚だ――決して、俺からは逃れられん。
そして、繋いだ其の命を以て、再び俺の前に現れろ。
(―――そして俺を、殺して見せろ、と。
呟いた言葉は、きっと娘だけが聞き取る事の出来た、呪いにも似た言葉
そうして――再び、其の首根っこを掴んでは、己が肩へと抱え上げ
ゆっくりと、砦へと向けて歩みを進めれば――魔族が占拠したその要塞内へ。
敗残兵として、虜囚として――一時的に、連れて行こうとする、か)。
■ネーヴェ > (――そう、敗れた。
死していった者達は有る意味、目的を果たしたのだから、敗北ではない。
だが娘は違う。意義を、価値を、踏み躙られ否定された。
目的と願いを奪われた。寄る辺なき立場に落とされ囚われた。
…斬られて、撲たれて、ではなく。
縁を奪われ、始めて。娘は敗れたのだ。)
っぎ、ぅ、ぅ゛………!!
赦さ ない、絶対 赦さ――な ぁ、 ぁ゛っ !?
(伸ばした手は、欲した物を掴みはした。
だが、断ち切れてしまった首輪は、それこそ…縁を断ち切られた、と。
錯覚してしまいそうになる。
牙を剥き唸りを上げ、叶うなら再び殴りかかろうとすらするのだが。
その前に、もう一度掴み上げられる。
有無を言わさず、抱え上げられ運ばれる…虜囚というより、獲得されたモノの様。
…それは、それで。勝者が敗者を物として扱う、奴隷、の在り方の一つだが。
…そ、ぅ――…精々。付き合い 短いと 良い…――な。
いや、 長くな んてして、やらな ぃ――――
(言われるまでもない、そのつもりだ。
隙あらば、機会あらば、何時でも終わりにしてくれる。
再び砦に人類の軍が訪れる頃にはか…それ迄には、か。
だが、今は。今この時の砦は、彼等魔族の物だ。
そして、魔の領土に運び込まれる敗者の憂き目は、決まっている。
やがて、閉ざされた門の内から、次に響く獣の声は。
如何なる鳴き声と化す事か――)
ご案内:「◆タナール砦(過激描写注意)」からネーヴェさんが去りました。
ご案内:「◆タナール砦(過激描写注意)」からラボラスさんが去りました。