2022/12/16 のログ
アッシュ > 「お、おお。……おじさんの中ではもう今の印象で定着しつつあるんだが――
 なんかこう、若者らしくキラキラした子だなぁって……そう言えば何と呼べばいいかな、ずっとお嬢さんと呼ぶのもな?」

少女を、猫日和の誰それ――と呼ぼうとして、呼ぶべき名前が解らず。
仕事でもなければあまり人の名を気にしないで居るような気もするが。
戯れる仔猫を気にしながら隣に座る姿を見ていると、何となく久しぶりに、生きている人間、と言うのをそのまま感じられた気がして惹かれるものがあったのかもしれない。

「自称と言えば自称なのかもしれんが、一応それなりに依頼はこなしているよ。
 アッシュ、と言うおじさん探偵の名前をもしどこかで聞くことがあったら、多分それが俺だね」

探偵、と言う所に思いの外反応する少女に、少し照れくさいような気持ちにもなって首の後ろを掻く。
文字通りの怪盗では無いものの、そっちの話もあながち無関係と言うわけでもなかったから、複雑な心境にもまたなるけれど。

「んんー、おじさんが飼うには色々難題があるからなぁ。なにせ何日も帰らないなんてこともよくあるし……居る時になら、遊びに来るのは歓迎できるんだがねぇ。
 誰かを雇っているわけでもないから、居ない間の世話も頼めないし、ね。……ま、独りじゃ大変な所も他に無くはないし、誰か頼める相手を探すのも悪くはないのか……?」

少し真剣に考えなくも、ない。裏家業の方をどう隠すかが結局問題なのだが、そこを口には出さないが。

リア > 「あ、私ったら名乗りも忘れていたなんて。猫って罪ですね。
 リアです。リア・マロリー。きらきらなんて初めて言われたけど……
 アッシュさんも私のことを変だなんて言えないのでは」

きらきらという形容に笑ってしまって仔猫を撫でる手が震える。

「ふふ、探偵さんは変装して尾行して張り込みしなきゃですもんね。
 雇うというと――それは、た……たんてい助手……!? …………アッシュさん!!」

探偵助手という言葉の響きに高揚する。
少々声を張り上げて、猫をびくっとさせてしまいつつ。

「アッシュさん! それ、私にやらせていただけませんか!
 この子、引き取りますし! あと、ええと、寝かしつけは得意ですし!
 翌日に疲れを残さないとっておきの癒しグッズでお仕事場を彩りますから!」

早口で言ったあと、はっとして声のトーンを落とし白黒猫を撫でる……

「は……いえあの、私、先ほど冒険者ギルドへ見学に行って来たんですけれど、私のレベルで務まるような依頼は無いって言われてしまったし、社会勉強をしたくて受付のお仕事でも良いからやらせてくださいって言ったのですけど親の許可が無いとだめだと言われてしまい……そんなタイミングだったのでつい興奮してしまい……」

アッシュ > 「リア、か、いい名前じゃないか――おじさんが多少変なのは歳のせいだ、最近あちこちガタが来てなぁ」

歳、と言うほどまだ老人と言うわけでもないのだが、平均的寿命が果たしてどのぐらいなのか、と言う意味でならわりともう長生きした方なような、そんな程ではある。
わざとらしく顔をしかめて腰やら肩やらが痛いフリをしてみせるのは、いかにもわざとらしく、なのだが。
そんな事をしていれば、ふと妙に真剣な、と言うかまた随分と勢いよく前のめりな少女の様子に、なんだなんだと少々気圧されて。

「んん? ……探偵助手と言うか事務職と言うか、いやそこは余り変わらんのか。
 そりゃまぁ、おじさんは頑張りたい子に親の許可もらってこい、なんて言う性分じゃあないが、ね」

仔猫のせいなのか、探偵と言う言葉に憧れがあるのか、勢いでそんな事を言い始めたようにも思えるが。
しかし、真剣にそう言っているのなら、それは真面目に考えてやらないといけなかろう、とも思う。まだ若すぎるとも思える少女に対してでも、自ら何かしようとするのを誰も馬鹿になどする権利はないのだ。

はてさて。事務所の手入れと猫の世話、ぐらいは誰かに任せても確かに問題はない、ような気もするのだが。
一つ、これは覚悟してやれるのだろうか、と先刻までとは明らかに違う、真面目な顔で男は人差し指をまっすぐ立てて。

「もし、本気で助手をやりたいのなら、まぁ、危険な仕事なんかはハナからさせる気はないが……
 探偵なんてのは、人同士のどろどろを見ながら依頼をこなす仕事だぞ。それこそ――時には誰かの死を見ることもあるような仕事だ。おじさんは喧嘩は苦手だが……それでもそうなることもある。それは覚悟できるのかい?」

リア > 「肩も叩きますし!」

力を込めてアピールに余念が無い。
はたから見れば若さと勢いでしかないのかもしれないけれど、自分に足りないものを埋めるために足掻いていたところに糸が垂らされたようだった。

「事務職でも何でも、できるだけ色んなものを見たいし、してみたいんです。ご迷惑をおかけすることがあればそれまででも良いのです。
 私にできることなら何でもするし、覚えます。お願い、アッシュさん」

話を聞いてくれる様子を見てとると、少し落ち着いて背筋を正す。

「……父は奴隷売買で成り上がった人です。それで稼いだお金で私は生かされていて、人の死だろうが悪徳だろうが、私はそこから目を背けて良い立場ではありません。
 この先、父の手駒として生きていくつもりはないし、家の名を利用して避けられる危険は避けますし、避けられないならそれが私の限界ということです。
 自分の力で生きていくためにアッシュさんのそばに置いてもらうのであって、目を背けたくなるようなものから庇っていただく必要はありません」

アッシュ > 肩たたき券は真面目に魅力的な申し出だと、つい頷いてしまう。
隠すように露出の少ない格好をしているせいで見た目にはわからないが、元が鍛えてあるものだから身体は締まっているし一般的同年代よりは遥かに丈夫、それでも流石に歳を感じるのは事実なのだ。

「……迷惑ってのは、かけて初めて気づいて経験になるものだろう。それこそ失敗しても平気な所から始めていけばいいのさ。何でも……は、ちと大げさだがね」

相手が悪い輩ならろくでもない事をさせられそうな言い回しだな、と思うが幸いにもそんな悪人ではない。
――本当に悪人ではないのか?と自問自答すると、少し胸の内に痛い部分もありはする、が。善人じゃぁないのはよくよく自分でわかってはいるのだ。
冗談めいて笑ってみたくはなったが。少女の方が至って真面目なものだから、変に誤解させても良くない
、と顔には出さずに。

続く言葉をじっと聞いていれば、思っていたよりもずっと深い事情が紡がれる。
暫し黙し、ただ静かにそれを聞いていた。ほんの少しだけ、寂しいような悲しいような色を目に浮かべるけれど、それ以上に優しく見ている――のが伝わるかどうかは男には自信はなかったが。

「……おう。そいつは……俺も一人の大人として真面目に応えにゃならんな。
 仕事を手伝うにあたって、危ないから駄目、と言った場合は素直に従うこと。頑張るのと、身の丈に合わず無理をするのとは全く違う。
 次に、自分の力で生きるために、一人でなんでも出来る必要はない、ってことをよく考えてみること。堂々と誰かを頼るのも、自分の力の内だからな。
 あとは――おじさんはリアよりずっと大人なんだから、多少庇うぐらいさせておく方が、かえって自尊心とかプライドとかが傷つかなくて済むってもんだぞ?」

最後の一つだけは、にやり、と笑ってみせて。それを自分でも切り替えに使ったのか、後はそれ以前までのどこかだらけた雰囲気に戻りながら。

「では、リア君。助手として最初の仕事を任せようじゃないか。
 ……そこの毛玉の名前を決めたまえ。ま、急がず焦らず何日も悩んで、いい名前をな」

そんな事を言いながら、空気も読まずうねうねぺしぺし動いていた仔猫へ指をさすのだ。

リア > 「できることなら、ですよ。できないことも、実は割と、ありますよ」

生活の部分でも常識の部分でも、自分でやったことのないこと・知らなかったことの多さに日々気づく寮生活である。
たくさん売り込んだあとに、少しばかり値段を下げてしまう。

アッシュの目をじっと見ていてふと微笑んでしまったのは、そこに自分を見守ってくれていた誰かの面影が思い出されたのかもしれない。
肉親を信用できずとも、そのときそのときそばにいてくれた人たちのおかげで今、きらきらと言ってもらえるくらいには日なたを見て生きてこられたのだ。たぶん。

「――はい。お約束します。
 私、すでに今、アッシュさんにとっても頼っていますよ。ふふふ。やったー! よろしくお願いします」

猫を指さす人差し指を両手で包み、ぶんぶん揺らした。

「男性を立てる可愛げは苦手分野なので、よそにお求めください。
 名前名前、何にしようかなあ。この子はアッシュさんが好きだと思うんですよね。
 何かアッシュさんにちなんだ感じにしようかしら――あ、その前にこの子を飼う諸々のものをリストアップしなくては」

取引材料のごとく扱った仔猫に手を戻し、浮かれる気持ちを抑えて現実を考える。

「あ、それに、アッシュさんのご都合のよろしい時に、お仕事場案内してくださいねっ」

やることも考えることも盛りだくさんで忙しい。
遊び疲れてそろそろ動きが鈍くなってきた仔猫の頭に手を載せる。

アッシュ > 「まぁな。できることでいいのさ、おじさんも苦手分野は多いしなぁ」

目立ちすぎないようひっそりと生活しているものだから、自分から賑やかにするのはそれは間違いなく苦手分野のひとつ。
ゆえに、暗くなりがちな所に、どこか空元気が混じっているのかもしれずとも、明るくしてくれる相手が居るのはそれだけでも助かるのかもしれないな、とふと思う。

「よし、じゃあ宜しくだな。
 ……ああ、ちなみに人を雇おうと思えば雇えるぐらいだからな、そいつ用の最低限必要な買い物ぐらいは資金の心配はしなくていいぞ。リストアップだけで充分だ、まぁ手持ちがあるんなら買った後で言ってくれりゃいい」

指をぶんぶんされながら、可愛げは充分にあると思うんだがなぁ、とも小さくつぶやくが、それはそれ。
もう一匹、まだ名前のない可愛らしいのが居るが……そう言えばこいつはどっちだ?と気にして見てみれば、どうやらそっちも女の子らしいのが判明することだろう。

「おお、そうだな……ひとまずの連絡は学院の寮にでも宛てればいいのかね?
 見られると恥ずかしいようなものぐらいは片付けてから案内することにしようさ」

少女の手の下で、今度は本格的に寝こけ始めた仔猫に気づけば、今日の所はそろそろ帰ろうか、と促して。
この辺りは少々まだ不安だから、安全な所までは送って行くことだろう。

リア > 「はあい。連絡は、寮宛てでお願いいたします。
 お前の将来は安泰だね……」

貢ぐ気満々の人間をすでに二人捕まえた白黒仔猫のお嬢さんの眠りを妨げぬよう、そうっと抱き上げる。

「見られると恥ずかしいもの……? お片付けは私のお仕事では? 片付けなくても大丈夫ですよ」

恥ずかしいものを見たいだけでそんなことを言いながら、帰途につく。
そしてその途中、悲鳴から始まる殺人事件に巻き込まれることになる――のは、娘の脳内だけの話であった。

ご案内:「王都平民地区/公園」からリアさんが去りました。
ご案内:「王都平民地区/公園」からアッシュさんが去りました。
ご案内:「街道沿いの森の中」にエリサさんが現れました。
エリサ > それは全くの偶然、であったのだろう。

馬車で運ばれていたところ、不意に馬車が激しく揺れて、
四肢を縛られた『女』は何が何だかわからないうち、
投げ出されてあっさり意識を奪われた。

そうして、肌寒さに目覚めたとき。
己の躰は柔らかな地面の上に投げ出され、辺りには誰の気配も無かった。
両手首、両足首を縛る縄はそのままだったが、目許を覆っていた布は解け、
靴はどこにも見当たらなかったが、賊の姿も見当たらない。
―――――つまりは、きっと、これはチャンスなのだ、と思った。

手首の戒めは後回しに、足首の縄を解き、轡を外し、
素足をものともせず、闇に紛れて歩き始めた。
仰ぎ見た月の位置、瞬く星々から、方角だけは辛うじて知れる。
けれどここがどの辺りなのか、街道はどちらなのか、それはわからなかった。
だから今、己が探しているのは―――――ひとまず、夜露を凌ぐ場所。

王都へ戻る算段は、朝を迎えてからでも遅くない。
そう考えて歩き続ける己の吐く呼気が、白く、闇の中に棚引いていた。

ご案内:「街道沿いの森の中」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 闇深き夜の森の中。
天幕を立てて焚き火を灯して、暖を取る冒険者の姿がある。
凍てつく空気が肌を刺すような寒さを堪えるように身を縮こまらせて、
両手を擦り合わせると手の間に握り締める革袋の酒に口を付け、
咽喉を焼き尽くすかのような酒精の強さに双眸を細めながら、
焚き火にくべた薪が、水分を蒸発させてパチッと爆ぜる音を立てるのを眺め。

「……、大人しく街に引き篭もってるべきだったかも知れないな。
 騒々しい連中に出くわす事もなかったろうに」

冒険の依頼を果たして、本来ならば、今頃は街に戻っている予定であった。
それが未だに森の中で野営をする羽目に陥ったのは、この界隈を根城にする山賊に遭遇したため。
曰く、探し物をしている最中だという彼らは、冒険者の彼に突っ掛かってきたものの、
一人二人を制圧した辺りで、お互いに争い合うのに益がないと手を打ち合って和解した。
尤も、探し物を継続しているのか、或いは、彼の寝込みを襲おうとしているのか、
森の中を行き交う人の足音や気配は絶えず、騒々しい夜に辟易した顔を覗かせて。

エリサ > 寒いか寒くないかと問われれば、勿論寒いと答えるだろう。
端から野営など想定してはいなかった上、防寒具の類も無い。
加えて、恐らくは半日以上、何も口にしてはいなかった。

更に悪いことには、向かうべき方角を間違えたようだ。
パキリ、と足許の小枝を踏み折ったとき、鋭い声が、さほど遠くない所から聞こえ、
どうやら見つかってしまったらしいと気づく。
瞬く間に幾つもの声が、揺らめく松明の火が、己を追い立て始めて、
チ、と軽い舌打ちを洩らし、痛む足を叱咤して駆け出した。

伸びた枝に服を引っ掛け、あちこちにかぎ裂きを作りながら、
両手を戒められたまま、不案内な森の中を逃げ惑う『女』が一人。
追い立てる賊たちに捕らえられるのと、男が野営する場へ女が辿り着くのと、
いったいどちらが先になるだろうか。

トーラス > 女にとって幸運であったのは、山賊と冒険者の間に一悶着あった事であろう。
積み荷に逃げられて憤る山賊達は、中年の冴えない風貌の冒険者を軽んじて、
結果、痛い目に合わされて、面子を保つためにも手打ちにする事で退かざるを得なかった。
荒くれ者の山賊と言っても、ドラゴンを相手取るようなベテラン冒険者相手では分が悪い。
その和解の関係で、山賊達は男の天幕に近寄る事を忌避して、
女を追い掛ける包囲網には不自然な孔が生まれる事になる。

「んっ、……、――――、成る程。連中が騒々しい訳だ。」

結果、焚き火の傍を避けようとする山賊達よりが追い付くよりも一足早く、
彼女は冒険者が野営する場所に辿り着いた事だろう。
だが、女にとって不運であったのは、その男が一筋縄に救いの手を差し伸べるような人物ではないという事で。

エリサ > ガサ、と丈高い茂みが揺れて、『女』が姿を現した。
間の悪いことに、初めからストレートに視線がかち合う格好で。

瞬間、凍りついたように足を止めたけれど、
弾む呼吸を抑えるよう、胸元へ戒められた両手を押しつけ、
乱れた銀糸の髪を、鋭く頭部を振ることで打ち払い。
蒼褪めて色を失くした唇を引き結び、火の傍に陣取る男を睨むように見据えて、
一歩、一歩、慎重に距離を削りながら、

「……山賊よりは、少し身綺麗に見えるけれど。
 貴殿も、彼らの仲間なのか?」

だとしたら、近づこうとするのは愚策だろうが。
赤々と燃える火に誘われて、足を止めることはできなかった。

トーラス > 衣服のあちらこちらは裂かれて、肌の色が露出させて、
冬の寒空の下、素足の上に御丁寧に手首を縄で縛られた女。
誰の目から見ても、山賊達の元から彼女が逃げてきたと分かる事だろう。
睥睨しながら、距離を詰めてくる女を見返しながら、口端を弛め。

「あの喧しい連中とは、お互いに安眠妨害をしないと約束した間柄さ。
 まァ、中立だが、……、今、連中にアンタを差し出すか否かで悩んでいる」

手近な木の枝をパキっと音を鳴らして折り、焚き火に投げ入れながら女を眺める。
乱れているが美しい銀色の髪に、甘めに整った容貌、そして、身体の曲線。
欲情するに十分な女に舌なめずりをすると、口角を持ち上げ。

「連中に差し出せば、懐は温まるだろうが、今晩は冷え込むからなァ。
 アンタが一晩、温めてくれるならば、匿うのも吝かじゃないが、如何する?」

エリサ > 男の前に進み出るうち、ふと気づいたことがある。
あれほど暴力的に迫ってきていた怒声や、荒々しい靴音が鎮まっている。
まるで、事の成り行きを、息をひそめて見守っているような。

「――――…紳士協定を気取るには、どちらも、品が足りないように見えるが」

だが、成る程、彼らと目の前の男との間には、何某かの約束事があるのだろう。
それはそれとして、―――――男が女を品定めする時の眼差しというのは、
何度浴びせられても、背筋がぞくりと寒くなる。
恐らく慣れることなど無いのではないか、慣れたくもない、などと、
いささか現実逃避じみた思考を巡らせながら。
細く弧を描く眉を深く寄せ、不機嫌そうな表情を隠さずに、

「提案、なのだろうか、それは。
 どうにも、脅しに聞こえてならないのだが」

応じたくはない、提案、なのだとしても。
けれども、―――――溜め息、ひとつ。

「………わたしは、王都の人間なのだ。
 明日、道案内と護衛をつとめてくれる、というのなら」

ただで、屈するつもりは無い。
どうせなら、こちらも利用してやるまでだ。
蒼い瞳がほんの少し、不穏な光をきらめかせた。

ご案内:「街道沿いの森の中」からトーラスさんが去りました。
エリサ > 【移動します】
ご案内:「街道沿いの森の中」からエリサさんが去りました。