2022/12/17 のログ
ご案内:「九頭龍山脈「湯治場跡地」」にミメシスさんが現れました。
ミメシス > 九頭竜山脈の山賊街道付近には温泉の出る地が無数に有り、同じ数だけ温泉宿や宿泊施設があるが、此処はそんな栄華を誇った夢の跡地でだった。

随分と古くから存在するが、遺跡と呼ばれるには新しい作りの湯治場跡地であり、今も当時の魔術師が色々と付与魔法と魔導人形を使って整備をしていた御蔭で、温泉はどれも稼働中であり、脱衣所もその湯殿も休憩所もどれもが清潔に保たれ、何時でも使用可能となっている。

だが、その何処にも人の気配はない。
気配を感じようとすれば主無き魔導人形が刻まれた命令を未だに実行し続けて、施設の中を清掃してまわり、明かりが切れればそれを灯しと忙しなく稼動しているだろう。

普通そんな状態であれば、誰かしらが所有権を主張する、誰かが乗り込んできて占拠する事もあるだろう、が不思議なことに未だにこの湯治場跡地を占有するものはいない。

何故なら此処は付近に山賊や魔物が多く、魔物が温泉を利用していると言う噂があり、誰もが知っておきながら、誰もが近づかない場所となっているのだ。

――噂は半分が事実で半分は事実ではない。
人型の魔物、例えばゴブリンやオークなどは入ろうとすれば魔導人形が排除して清掃する為、近づくことは無く、無断で物を持ち出そうとする山賊たちですら、魔導人形は敵と判断して排除するため比較的安全な場所なのだ。

だが半分は事実。
人型ではない、物を持ち出すことが無い魔物。
例えば不定形の魔物や触手型の魔物は跡地をうろつく事もあり、ゴーストタイプの魔物も魔導人形に感知されない為に出没することすらある。

そんな中で今宵は湯治場跡地の脱衣所に不定形に近しいミミック種の魔物が擬態化して獲物を待っていた。

脱衣籠のある棚に、或いは衣服をしまう大きな縦型のロッカーに、備え付けの木製のベンチにと、広い範囲にわたってミメシスと呼ばれるそのミミック種の魔物が擬態しており、脱衣所にはほんのりとだが、温泉の特有の香りの中に腐った果実のような甘い香りが混じっている。

穴場と知って温泉を堪能にするくるか。
占有したい誰かが調査を依頼し、その調査にくるか。
山賊から夜の闇から逃げてきた一般人が迷う込むか。
今宵は湯治場跡地自体がまるで無名遺跡の迷宮の如く犠牲者を待ちわびている。

ミメシス > 脱衣所に誰か迷い込んでこなければ、聞こえるのは湯船にお湯の溜まる音、魔導人形が清掃する音、時折籠を取り替えたり、湯船近くの清掃などと、魔導人形が忙しなく跡地を常に清潔に保つための音が続く。

ミメシスもまた生きている人間が近づかない限り、この場でじっと擬態したままの姿で微動だにせずに……。

温泉の特有の香りにミメシスの放つ香り。
不思議な香りが辺りに広がり続けるのだった。

ご案内:「九頭龍山脈「湯治場跡地」」からミメシスさんが去りました。