2020/11/22 のログ
エルディア >  
最近ずっと半分眠っているような状態だった。
お腹が空いて、喉が渇いて……目につくもの全てが餌のように感じた。
砦辺りで戦闘、それも大規模な戦闘が日夜起きていることにも関係しているだろう。
命が沢山零れ落ちていく感覚で酷くお腹がすいて仕方がない。
きっと精霊術師や魔術師、死霊の類もたくさん、そう沢山いるだろう。
そいつらを全部平らげてしまいたい欲求に駆られる。
食べてしまいたかったけれど我慢した。我慢する度に声が聞こえる。
きっとそれが凄く煩わしかったから、此処に逃げてきたのかもしれない。

「……んー?」

だとするとここだと静かだと自分は知っていたのだろうか。
記憶の欠落は観測している。飢餓状態に陥っている事から維持にリソースが割かれているのだろう。

「まいっかぁ……」

溶けていくような倦怠感の中、僅かに身じろいだ。
髪に絡む泥の感触。冷気で僅かに凍り付いたそれがぱりぱりと音を立てる。
薄く凍り付いた泥の中に半分埋もれているような状態。けれど今、どこか温かさすら感じる。
静か。とても静か。
思考を蝕む声がこの場所では自分の中からしか聞こえてこない。
この程度なら、まだ無視していられる。
こんな声よりも今はただ、眠りたい。

ご案内:「九頭龍山脈の山間」にヴェンディさんが現れました。
ヴェンディ > 人界を気ままに彷徨う魔族の男。
たまたま山の上空を飛んでいた男が感じ取ったのは…かつて"遊んだ"相手の気配。
遊びとしてはかなり手酷くやられ、大層驚いたものだ。
受けた傷は自分の魔力故か完治が遅く、魔力も相当に消耗した。

しかし…最後にかけられた言葉。
孤独ではない、という言葉が気にかかっている。
嵐を思わせる攻撃から一転した言葉は…いくら魔王と言えど、記憶に残るものである。

…ただ…相変わらず、奇妙な気配だ。
男の眼をもってしても、判然としない。
そんな相手と一度遊んだ後、しばらくその存在は感知できなかったため…せっかくだから様子見でもしようとその気配の場所に転移する。

「……全く。気配を辿ってみれば。また眠っているのか?」

一定以上の大きさの生物が居なかったそこに、最初から居たかのように男が現れ。
湖側から声をかける。当然、浮遊しており…水面につま先が触れるか触れないかの位置だ。

そして声をかければ。
涼やかな声とはいえ相手の眠りを妨げることになろうか。

「私を遊び相手としたものが泥濘に塗れているのはどうにも落ち着かんな。起きているか?死んでいるわけではないだろう」

そのまま、相手を覗き込むように背を曲げる。
彼は魔王と呼ばれる者たちの例にもれず、プライドが高い。
自分を負かした者が、泥に埋もれている姿というのは看過しがたいものではあるが。
そもそも、出会った時からよくわからない相手だ。
その行動を測ることなどできないのだろうと、呆れた声をかける。
精霊たちも、ざわざわと囁き…彼が常に纏っている、濃密な魔法の気配が感じられるだろう。

エルディア >  
次に目が覚めるのは何処だろう。
嗚呼、まかり間違ってもここを汚してしまわないように意識があるうちにどこかに行かなければ。
けれど、どうしようもなく、眠い。
もう少しだけ眠っていたいなぁと目を瞑り

「……。」

すうっと意識の覚醒レベルを引き戻す。
無数の流れの中、その中の一つの意識の流れがこちらに向かうのを感じて。
これはこちらに用があるタイプの意識だ。
普段なら攻撃していたかもしれない。けれどここはお気に入り。
なにも、何も壊したくないし汚したくない。
どこか覚えのある感触だったからかもしれない。
それ以上にそう、眠たかったから。
自分が攻撃しない理由を無意識に創り出しながら目を閉じたまま空の音に耳を澄ましてかの者を待つ。
それは、程なくして近くに降り立つ。

「んー……」

投げかけられた言葉にはらはらと粉雪が舞う空を見上げ、こちらを覗き込む白眼に焦点を合わせた。
圧縮言語、魔力の質感……少なくとも知らない相手ではなさそうだ。
そのまま僅かに身を起こしぼんやりとした表情で来訪者を見つめるとくしくしと目元をこすりながら数秒首を傾げ

「……――――?(何か用?)」

その口から古い古い言葉がこぼれた。

ヴェンディ > 一見、穏やかではあるが…この相手が正に暴虐の嵐と化すことを男は知っている。
転移の予兆は察知されていたのか、声をかける前に彼女の視点がこちらに合い…
一応…防御に魔力を割いてはいたがどうやら微睡んでいるまま、はっきりと覚醒する様子はない。

「―――――――……(用が無くては、来てはいけないか)」

相手から発された古い言葉。
比較的新しい魔王である彼にとっては…知っていてぎりぎり、といった言語だ。
しかし、付き合うのもまた一興だ。
相手が止めない限りは、彼も古代言語で返していこう。

「――――――。(今日は遊ぶつもりはあまりない)」

「――――――、…。――…?(あれから、お前の気配を感じれなかったが久々に感じたのでな。
…人間らしく言うなら、何となくだ。
…しかし、何をしている?)」

圧縮した古代言語。
デバガメが居たとしても…わかり得ないであろう会話。
それを返しつつ…空中に豪奢な椅子を造り出して座り、様子を見る。

「―――。(眠るなら、もっと良い場所もあるだろう。)」

椅子の肘置きに頬杖を突き。
少なくとも、下等な生物と違い…酷く、興味をそそられる相手だ。
襲いかかってこないのならば、会話を交わしてみるのも面白い。
穏やかな声で、語り掛け続けよう。

エルディア >  
「……―――(それはそう)」

コテンと首を傾げたままぱちくりと瞬かせ、あー、そういうのもあるのかぁと軽ーく納得する。
そうだった。これらはそういう生き物だった。
そっか。”用がなくても動いて良いんだ。”
……忘れていた。

「―――?(何故この言語?)」

ぽつりとつぶやきどこからそうだったか記憶をさかのぼること数秒……
あ、これ自分からだ。寝ぼけていたなぁとようやっと思い至る。
別に言語自体はこれでも良いのだけれど……
一部”作動システム”を再起動。リソース分配の優先順位を一時的に変更。
最低限と思える会話ができる状態までは意識レベルを引き上げる。
バックグラウンドデータに明らかな欠損が多く観測されておりデバックが必要な状態のそれに依存するとリソースを多く喰われてしまうけれど……。

「その魔力……煩わしい。精霊が怯える。魔装の解除を要求する。
 ……どれすこーど、への配慮、大事」

とりあえず周囲の精霊を優先するのは最早無意識。
相手がこちらを知らない以上、いきなり武装解除を要求するようなものだがそんな事は意にも介さず無表情ながらも若干ジト目気味で改めて視線を向ける。

「…?泥も、……岩も変わらない、でしょ」

死体の山の上でも切り立った岩肌の上でも、そしてたとえ深い泥の中でも大した違いはない。丸くなって眠る分には一緒だ。
けれど何かお気に入りがあった気がすると頭を何かが過る。
何だったかな。人の使うふかふかした寝床……ああ名前を思い出せない。

「魔族はそうじゃない……の?」

別にお肌に寝床の跡が付くような柔さでもなさそうだけどコレ。と疑問符を浮かべながら問い返す。

ヴェンディ > 「――――(お前が話した言語だろうが)」

目を細める男。
掴みどころがないというか。
本人でも意識していないような部分がある印象を受ける。
彼女から感じる不安定さも、それが所以かと考えながら。

更に…段々と、相手の雰囲気が更に鮮明にこちらを認識したことを感じる。
少なくとも、以前と同じく…目覚めるくらいには遊び相手なのだろう。
全く、自分がこれほど"気を遣う"ことになるとは思わなかった。

「は。…不意打ちをするようなモノでもないか。
精霊などに気を使った事も無いが…ドレスコードと言われては仕方ないな」

たどたどしい、説得の言葉。
それが意識的であろうと無意識であろうと。
話をしようとしているのに、刺激をするほど馬鹿ではない。
それが、自分以上の強者であるなら猶更だ。彼が生まれてからこれほどの相手とは出会ったことは無いが。

言葉の後、自身を包んでいる多重防壁を解く。
久しぶりに感じた自身の生身に、ふん、と鼻を鳴らし。

「これでいいのか。この程度なら覗いている者共の気を引くこともあるまい」

ただ、彼自身は魔力を調節し…凪いだ水面のように静かに浮遊魔法を行使し続け。
若干不満そうにしながらも、周囲の精霊の様子を伺い。
まだおびえているのなら…更にか細く、魔力を絞っていく。
魔法の扱いについては一家言はある…そんな自信の表れである行動。

「さあな。少なくとも俺は泥濘よりは柔らかなベッドで眠るのを好む。
だが、変わらないというならそれはお前の感覚だ。俺が口出しすることではない。
…あれほど頑丈であれば、石など気にならんだろうしな」

かつて彼女と遊んだことを思い出しつつ。
彼女自身の考えを聞いていこうとする。
それは、相手を知ろうとする興味。
問答をしながらも、白瞳は細められ、観察を続けていて。

エルディア >  
「不意打ち……わざわざ必要?」

警戒される理由に関しては心当たりの塊だが、不意打ちを意識して行うとなるとそれなりの関係性があったということだろうか。
ああ、思い出した。

「……あの、泣いてたヒト」

リカバリの為に瘴気帯と化している風洞で戦った相手だった。
確か殺してはないはずだった。あの後どうなったかまでは知らないけれど……
どれくらい前だっただろうか。何年も前かもしれないし昨日だったかもしれない。

「そーぃう、とこ。
 ……覗いてるわけ、じゃない。
 私達、が此処、にいる。後から。
 邪魔者、は私達」
 
少々不機嫌さをにじませながらやんわり抗議しつつ、貴族の様に椅子に座り、こちらを眺める相手に改めて目を向ける。
そこそこ怪我をした気がするが……思った以上に元気そうだ。”お互い”に。
少なくともこちらに対して無防備で居られる程度には。
……いや、今残っているだけでも大抵のヒト一部隊程度なら迎撃できるだろうけれど。
そんなことよりも少し気になる言葉に意識を向ける。

「ベッド……?」

それだ。あの人間が大好きな寝床。
おっきくてふわふわで……あれ?どこでそれに寝たのだったか。
過去の思い出がぽっかりと欠落している。
けれどそう、大事な何かと一緒だったようなきがしてずきりと何処かが痛んだ。
……ふかふかよりも、ぽかぽかよりも、ソレと一緒だったことが一番うれしかった。
その感触だけは覚えている。

「……魔族、らしいね」

その僅かな痛みを振り切るように言葉を吐き出す。
魔族というのは強さとプライドを至上とすると思われがちだが彼らにはもう一つ大きな不治の病がある。

「こーきしん」

命の危険性があってもなお好奇心を抑えられないという不治の病が。
まかり間違って私が”寝ている”時だったらどうするつもりだったのだろう。と疑問に思いつつもその幸運を引き当てる自信があったのだろうな……とも思う。

ヴェンディ > 自身の魔法が通らず、更に返してくる相手。
前回会った時は防御を敷いていたにも関わらず…人間で言えば大怪我とも言うべき怪我を負わされたこと。
そんな存在に対して、防御を解くことには本能的に警戒してしまうが…

「確かにな。……泣いていた?俺がか?、お前が泣いているのは見た記憶はあるが…」

この相手がその気であれば彼の防御すらあっさりと壊されることは体験済みだ。
ふむ、と頷きながら…涙を流した記憶は無いため、ぽつりと呟く。


「存外、慈悲があるのか。それほどの力を持つのなら暴君のようにふるまうこともできるだろうに
……ああ、ベッドだ。香を焚いて眠るのは心地よい。…ん?、……相変わらず言葉が足りないな…」

精霊を気遣っているように見える言葉に、また頷いて。
単語に興味を示せば、受け答えしていく。

ただ、圧縮されているとはいえ、それでも相手の言葉は端的だ。
ある程度類推を入れながら、話しを続けていく。

「…そうだな。俺はお前に興味がある。
力があるのにそれらしく振舞わない。歯向かってきた者を殺さない。
更に、その力の出どころもか。後は…予想外過ぎて、話すのも心地よい、という部分もあるか
俺にとっては、出会ったことのない相手だ。だからこそ…お前を知りたいと、そう思う。」

嘘を吐く理由もない。
思考を整理しながら、できるだけ文節を区切って相手に伝えていこう。

「ああ。そういう意味では先ほどは嘘を吐いてしまったか。
様子を見に来ただけではなく…話ができればいいと思っていたからな。
こんな気分を味わったことは無い。俺も戸惑うばかりだ」

外面だけ見れば、戸惑っているようには見えないが。
彼自身、自分以上の強者を前にして…どうしたいのかを測りかねており。
それを自覚するために、話しかけに来たと言っても過言ではない。

「…名を聞くのを忘れていたか。名はあるか?
俺にはヴェンディと言う名がある。好きに呼ぶがいい」

横柄な態度ではあるが、知りたいと思っているのは真実だ。
手始めに名を聞き出そうとしようか。
前回はそのまま遊んでしまったためだ。
もちろん、色々な意味で不透明な相手だからこそ、名づけすらされていない可能性も多少あるが。
それはそれで、名が無い事を知れる、と考えていて。

エルディア >  
良くも悪くも警戒され慣れている。というより、自分の一端にでも触れた相手で自分を警戒しない存在の方が珍しい。
ヒトと魔族を除いては。

「今、は、泣いてない。
 ……寂しく、なくなった?」

確かに彼は泣いていたと思うけれど、それはきっと皆が思う泣くではないのかもしれない。
伝わらないかもしれないけれどそれは別に仕方がない。
発する言葉はいつだって半分近く現世に向いていない。
……本人が思っている以上に意思伝達が致命的というのもある。

「ほんとに怖い、相手は……見えないもの。
 ……ふぅん。べっど、……べっど。
 そっか。ベッドっていうのがあるん、だ」

人も魔族も不思議だと思う。
力というものにどこまでも依存すると同時に信仰も尽きない。
そのくせ、それで一番不幸になっていると叫んでいる。
眼前の彼も例外ではないのだろう。
……その波にのまれて泣いていたというのに。

「エルは、エルだよ。
 エルは……きょーみ、は、ないよ。
 へん、だとは思う、けど。」

そっけなく一言返すと頬についたままの泥をぬぐう。
こうして言葉を交わしている彼はそれこそ人とか、魔なるものの王の一端として名乗るにふさわしいかのようなたたずまいで
対してこちらは石を枕にしているような存在なわけで

「……理解はできる。きょーかんはできない
 だから不思議」

きっとこの人も自分の中での答えが出ていないのだろうなぁと思う。
今自分の記憶の大半を思い出せない自分の様に

ヴェンディ > 警戒は、一応、という程度は続けている。
相手の様子は穏やかだが…急変した際に対応できるようにする程度だ。
いつもの彼と比べれば、あまりに緩い状態だが。

「…寂しい、か。どうだろうな。
少なくとも"遊び相手"は出来た分、寂しさというなら紛れたのだろうよ」

ふ、と自嘲的に笑い。
ふらふらと彷徨う言葉と、会話を続けていく。
この意思疎通が行い辛いような状態も、興味深いと。

「ふむ。覚えておこう。
…エル、か。ならばエルと呼ぼう」

名を聞けばそれを繰り返し、記憶していく。
死にかけたせいか、相手の姿を見た記憶も薄いが…向かい合っていればそれも鮮明となってくる。

「俺の方が興味があるだけだ。特に気にすることも無い。
だが…ベッドには妙に反応したな。知っているのか」

魔王にも色々と居るが…
誇りを重視する者もいれば、力を重視する者もいる。
彼の方はどちらかといえば後者の側だ。
それ故に…相手の寝姿故、中々表には出ないが。
興味と共にある種の敬意を抱いていている。

「私たちが邪魔ものだとも言っていたな。
…敢えて伝えるなら、俺を負かせた者が石を枕にしているなど…俺は不満に思う。
だからこそ、1つ提案しよう。…ベッドで眠ってみるか?」

帰ってくる言葉は圧縮され、短くなっている。
それを受け取り…彼なりに言葉を返していき。

「俺に興味はなくとも…寝床には興味がありそうな口ぶりだったのでな。
俺の城なら、例えお前が暴れても迷惑はかかるまい。逃げたくなれば俺と遊んでから出ていくがいい
俺も…近くに居れば、この戸惑いの訳がわかる可能性がある」

つらつらと提案を述べていく男。
そこに照れなどはなく、淡淡とではあるが相手を自身の住居へと誘おう。
とはいっても、自分以外に魔族が居ないただの寂しい城ではあるが。
彼も、答えを探すため…相手が反応を示した単語を元に、言葉を続けていく。

力を得ようとしているのも当然だが…童女のその成り立ちにも、酷く興味をそそられたからだ。
軽く手を差し出し、ダンスのエスコートの様に誘ってみよう

エルディア >  
お互いに今の状況で相手がその気になるかは理解していることを判っている。
だからこそある意味この場において言えば信頼しているともいえるのだろう。
脅威であることは間違いない。自分だけならともかく。

「……良かったね。」

少なくとも泣いてはいない。相変わらずこの世界は退屈かもしれないけれど。
それでも泣いてはいない。それをどこかでよかったと思う。
興味の在る無い、というよりも、その感情を理解できるとは思うから。
……本人がどう思うかは別として。そもそも他人に興味がないという点もある。 
基本的にはその他大勢としか認識していないからだ。
一応目の前の彼は”識別”しているだけ興味がある側に含まれる。
だからこそ、”あんなことを言われても攻撃していない”とも言える。
とはいえ……

「すき、呼べばいい。
 ……覚える必要、無い」

それこそ呼び名なんて幾らでもあったからどう呼ばれても関係ない。
致命的なまでに誰かが自分にどう思うかということに関しては摩耗しきっている。
だからこそ

「……きょ―みない。」

大抵の場合善意も悪意も等しく区別できず、また興味を持てない。
差し伸べられた手を一瞥するもすげなく視線を移す。
どこかに行かなければならないことを覚えている。
それが何処だったかも、誰だったかも覚えていないけれど、それでも……
どこかに行かなくちゃと思っていたはずだから自分は行かない。
それに……

「もう一人、違う、でしょ。」

僅かにうかがうような色を瞳に宿して首をかしげる。

ヴェンディ > 「そういった風に声をかけられるのは初めてだな」

良かったと言われれば。
今まで彼にそんな事を言った者は居なかったため。
新鮮さを感じ、緩く口元が歪む。
機微に聡いのかそうでないのか、やはりそこさえも掴みどころのない印象だ。

「そうか。」

名前に関することと、ベッドに関すること。
それぞれの返答に、短く頷く。
差し出した手はそのまま肘置きに戻す。
提案を断られるというのも久しくなかった展開だ。
大抵のものは、彼の言葉にひれ伏すことが多いからだ。

未だ相手にどのような事情があるかは図り切れない。
魔法を構築する白瞳も…相手に刺激は与えたくないため、使用せずに。
こうまで彼にとって不自由な会話は初めてだ。

「ああ。確かに一人ではないが…。まあいい。
石の枕に飽きたら、呼ぶがいい。一時の寝床くらいは、遊びの敗者として勝者に提供しよう?」

そんな機会があるかはわからないが、伝えて置く。
興味と共に、彼にも負けたという事実がある。
誰に言われたわけでもないが…やはり、石の枕で寝るというのは彼には想像しづらい。

「しかし…一人ではないからと言って興味を持ってはいけないわけではあるまい?
また見かければ、様子を見に来るさ」

ただ…興味が無いと言われても彼からは興味を持っている。
だから、諦めるわけではないと。
豪奢な椅子を消して、ゆったりと立ち上がり。
実りが多いとは言えなかった、少なくとも話はできた。
周りの精霊を騒がせないよう…少ない魔力で転移の魔法を組んでいく。

エルディア >  
「綺麗で、よかった。
 ……灰色だけ、なくて、よかった」

随分と満足げな相手に首を傾げつつもぽつぽつと言葉を吐き出す。
矛盾するといわれるかもしれない。狂っていると言われるかもしれない。
本当に他者に興味がないと同時に、だからこそ、幸せであれとも願う。
身勝手で、残酷であることもわかっている。けれど

「そういうもの、でしょ」

勝者とはそういうものだ。
もう一度戦えば負けるかもしれない。
今度こそ殺すかもしれない。それはわからないし興味がない。
そもそも……独りでないということも気まぐれに過ぎない。
そう、ただ、それは気まぐれな機会に過ぎないのだから。
あとは世界が流れるまま、必要なときに”流れ”が教えてくれるはずだから。

「……どっちでも、い、よ。」

手元の凍りかけた泥をゆっくりと指先で掬い上げる。
指先からゆっくりと腕を伝い落下していくそれを眺めた後
ふと視線を合わせて

「これ、も、きもちいよ?」

感情の乗らない口調のまま瞬きする。
それがどういう意味かは……一つではないし、一つでも良い。
そのまま立ち去ろうとする気配を見せる相手をじっと見つめて

ヴェンディ > 「…。慣れ始めると、饒舌に感じる。不思議なものだ」

狂っている、おかしい、と評することは簡単だろう。
ただそれで相手の事を片付けたくは無いと、彼は思っていて。
緩んでいた頬が、徐々に元に戻っていき。

相変わらず相手の顔は何にを考えているか読み取れない。

「そうか。なら俺の好きにしよう」

そう。もしかすると今度は気まぐれで前回のようになるかもしれない。
しかし…それでも男は相手の気配を感じれば転移でやってくるだろう。
更に、泥を纏う相手のことを見てから。

「ふむ。ならば―――」

す、と手を伸ばし。相手の傍から泥を人差し指に掬いあげ。
親指と人差し指でそれを捏ねる。
貴族の格好をしている彼の手に泥が広がっていき

「またの機会があれば、その泥と石の寝心地も確かめるとしよう」

潔癖というわけでもない。
あくまで、勧めてくれるのなら乗ってみようと思える程度には既にあまりプライドも残ってはいない。
そのまま、転移の魔法を使用するかと思ったが。
術式が大きくなり…またもや精霊を刺激するかと考えれば。
より魔力の発散が少ない飛行魔法に力を入れ、ふわりと高く浮き上がる。

「邪魔をしたな、エル。」

にこやかに…とまではいかないが。
言葉の端に僅かに喜びを滲ませ…特に声などかけられなければ。
そのまま、王都の方角へとゆっくりと飛行していく。

エルディア >  
「貴方が望む、からそう、聞こえる
 ……または、きのせ」

顔をピクリとも動かさず、けれど僅かに突き放すように小さく返す。
自分の言葉が色々な意味で受け取られることは知っている。
自分が伝える事が得意なわけではないことも知っているから。
そしてそれが伝える事はいつも、その時必要な意味だけだから

「ん。
 ……じゃね」

再会を願う言葉も口するわけでもなく
話は終わったと言わんばかりに再び朧な境界へと思考を飛ばす。
耳に聞こえる音はいつも重なったまま同じ願いを伝えてくる。

「……」

立ち去っていく姿に視線は向けない。
既に彼女の興味は此処にはない。話、は終わった。後はそれぞれの道を歩くだけ。

「……遠い、ね」

彼には向かうべき先はわかっているのだろう。少なくとも今、心が向かう先は。
”私”は何処に行けばいいのかも、誰に会おうと思っていたかもわからない。
それでも、それでも心だけはきっとそこに向かっている。

「待って、て」

そう呟くとゆっくりと傾ぎ、パシャリと軽い音とともに再び目を閉じる。
だからもう少し、もう少しだけ眠らせてほしい。
少しだけ眠ったなら、そうしたならまた、あてどない旅を続けるから。

ご案内:「九頭龍山脈の山間」からエルディアさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈の山間」からヴェンディさんが去りました。