2020/09/26 のログ
■マレク > 「敵はいなかったそうです。罠も。ただそれはゴーレムだけが調べた結果に過ぎません。人類である私達が来れば、調べきれなかったものが飛び出すかもしれませんよ」
この辺りはまだ、踏査済みの自然洞窟。シンディに依頼した魔導学者が調べていた所。
「何故動物の鳴き真似を?……ああ、なるほど。奇襲の手段ですか。
……いやあ、残念ながらそこまでは。あくまで記録です。碑文を画像として保存したり、遺跡のスケッチをする手間が省けるだけですね」
その目で、と言われれば首を横に振る。勿論、肉体に施した偽装処置を消し去り、王都から遠く離れてアイオーン神の加護の残滓も無くなれば、視聴覚の同調以上のことをやってのけられるのだが、勿論、そんなことを明かすわけもない。
「……さて、此処からが遺跡の上層です」
大きく裂け目の入った岩陰の前に立った男が、シンディを振り返って言葉を続ける。
「まず私が踏み込みます。シンディさんは私から3歩以上離れて付いてきてください。そうすれば、私が罠にかかったり、不意を打たれても、一緒に驚かずに済みます。どうやら戦闘は貴女の方が余程得意のようですから、アテにしていますよ?」
男は喉を鳴らして笑うと、空飛ぶ目玉を伴って裂け目に身体を割り込ませた。そして天然の隘路を抜けると、そこには緩やかなカーブを描く通路が伸びていた。
壁も床も滑らかな乳白色で、敢えてたとえるなら丹念に丹念に磨き抜いた石で出来ているかのよう。輪状の構造体の一部だということが想像できるだろう。
外側の壁には複数のプレートが掛けられ、簡略化された沢山の人体と、模様のような文字が記されている。
■シンディ・オーネ > 「ええ、ここでは鳴くものもいなさそうですが。」
生物に襲い掛かる敵、ゴーレムの挙動には反応しなかった罠、あるいはガスとか出ているかもしれない。
油断はできないが、踏査済みというのがどれほどの安心感を与えてくれるものかと改めて思う。
機会を頂いておいてなんだが、そう考えると少し炭鉱のカナリヤみたいな気分になってきた。
リアルタイムの映像音声共有ができないと聞くと、安心材料が一つ減。
…じゃあその目は?と思うが今ここで聞く話でもない気がして、自然洞窟を足元に注意して進もう。
無理矢理開けられたものだろうか、裂け目に辿り着くと、
映像音声通信の代わりというわけではないかもしれないが、先に行くと言ってくれるマレク。
しばし考えて…
「…はい、職業戦士と比べれば見劣りするかもしれませんが、
体術も鍛え方の足りない冒険者程度には負けないつもりです。
なので、私が先に行った方が…?」
経験が違うかもしれないし、差し出がましいかもしれない、
何よりエスコートしてくれる紳士に女性が言って良い事ではないかもしれないが、
しかしマレクはあまり肉体派の印象が無く、戦闘はこちらが得意と評してくれるなら
私が前に立ちましょうかと、遠慮がちに。
その話が通るまでは、言われた通り三歩後ろをついていく。
「…わあ――」
裂け目を通り切り替わった乳白色の世界に、なるほどこれは素材不明と、つんつんつつく。
「こう滑らかだと見ようによっては何かの内臓みたいにも… あれ、これは。」
つい周囲への警戒がおろそかになりながら、掛けられたプレートに何ぞとランタンをかざす。
■マレク > 自分が先に立つべきでは、という提案には苦笑いし、もう一度首を横に振った。
「有難うございます、シンディさん。ですが子爵夫人はあくまで、貴女のご成功を御所望です。勿論、私も。ですから、この身は囮、あるいは棒の先くらいにお考え下さい」
冗談めかして言った男は、乳白色の通路を数歩進んで辺りを見回した。外側の壁については把握した。そして内側の壁には、一定間隔で六角形の大穴が開いている。……いや、これは。
「内臓とはまた不安になることを……内側の壁には窓が付いていますよ。恐らく……ああ、やはりね。下層部を見下ろせるようになっている」
内側の窓枠に手を突いた男はランタンを持った手を伸ばす。暗がりの向こうに大きな円盤状の床が、すなわち筒型の構造体の頭頂部が浮かび上がっていた。その後、シンディがランタンを掲げたプレートへ視線を戻す。
「これは、壁画……いや先史文明が遺した絵画にしては稚拙過ぎる。この施設の案内板でしょうね。それぞれのプレートの左上を見て下さい。1、2、3……という文字です。何らかの順番、手順を描いたものかと」
目玉型の魔道具でそれらを記録しながら、プレートを指差す。
1.大勢の人々が円盤上に立つ。
2.人々の上から多くの、細長い雨粒のようなものが降る。
3.円盤に整列した人々の上に同じ記号が描かれる。
概ね、こういった具合だった。
■シンディ・オーネ > 「…成功して、夫人に感謝感激雨あられな私を?」
気持ちは嬉しいが、アプローチを思うと今後にも不安が先に立つ。
子供のように輝き始めていた顔を半眼に戻すが、それは後で考えようと首を振った。
囮なんて言われたらますますマレクを先に立たせにくいけれど、
即応がいささか苦手な魔術師が後方に控えるというのも悪手ではないと思う。
「仲間をそういう風に考えたら長生きできなさそうだわ。なので冗談でも。」
棒の先なら棒を使うからと言い、散歩後ろをキープして大穴。
落ちるなよと、マレクのベルトでも掴みたくてうずうずするがディスタンス。
マレクの灯りで見える向こう側の円盤へは、窓から飛び移れるかな?
「――案内板、なら指示に従えば良いんでしょうけど。」
円盤に立つ人に降り注ぐそれは何だ?
振られた人の頭上に現れるお揃いの記号は何を意味する?
「…何かこう、先へ進むための手続き? 濡れた人が入場券を持っている扱いみたいな。」
研究所だとして滅菌的な装置だろうかと頭を捻り、でも濡れるのは怖いなあと、むむむな表情。
「ゴーレムは、円盤に乗りました? これこそ動物実験が欲しいけど。」
■マレク > 「シンディさん。子爵夫人に感謝を表す必要はあります。ですが本当にありがたく思う必要はないのですよ? そもそも、脅迫されて連れて来られた挙句、支配する為に媚薬まで使われたのですから。
……いい加減しつこいとお思いでしょうが、くれぐれもご自身のご成功と、アーネストさんとの幸せな暮らしだけをお考え下さい。大体、私達が此処から生きて出られる保証はまだないのです」
無理もないが、先の不安を口にするシンディをたしなめようと。そして、自分を仲間と呼んだ彼女をまじまじと見つめ、笑みを深くした。
良い人なんだよなあ、というのが彼女に対する率直な感想。しかし慌てて頭を振った。駄目だ。善意ある人間と相対すると、能力の副作用の所為で雑念ばかり浮かんでくる。
「ゴーレムは円盤、すなわち筒型施設の頭頂部を観察したのみだったそうです。そしてこの3つの板ですが……先へ進む為だとすると、これは筒から円盤へ出てくる人の為の案内と思われます。しかし、プレートは此処にある。……先へ進みましょう」
中央に見える円盤状の土台を、ぐるりと囲むように造られた廊下。それをしばらく進んでいくと、目指すものが現れた。輪状の廊下と円盤を繋ぐ、人が3人は通れそうな渡し板が闇の向こうに垣間見える。手摺がところどころ朽ちているものの、歩けそうではある。
「……女性の方に、力仕事をお願いするのは心苦しいのですが」
そんなことを言いながら、男はカンテラを置いてロープを取り出し自分の腰へ巻き付け始めた。渡し板は恐らく使える。が、万一途中で崩落した場合はシンディに助けて貰おうと。
■シンディ・オーネ > 「…いいえ、わがまま娘には困ったものだけど、感謝も本当なのよ、困った事に。」
非常に素直になり難い条件・状況ではあるが、成功を期待されてここにいる事は、
それだけを見れば善意だし、私がそう受け取っても全く差し支えない。
…綺麗だなあ、と通路を見回して、生還の保証も無いと聞けばなるほどのん気な発言だった。
ふんすと気を引き締めるように息をつき、先を目指す。
「筒から円盤に? いやここにあるプレートなんだから…
――もし出て来るものに対しての注意書きなら、これが何かの加工施設で…
下に搬入口? 仕上げに雨? ええと…」
そう、プレートがここにあるのだから、入るための案内ではないのかと。
しかし私が読めない文字とか記号とか、そういう部分で判断できるのかなと首を傾げながら、辿り着くのは渡し板。
板か、と朽ちた手すりを見やり。
「…あのこれこそ、私の方が軽そうだし?」
落ちたらと思えばマレクに引き上げてもらう方がスムーズではと、
言いながらロープの端を結ぶ先を探すけれど、自分の腰くらいしか無いだろうか?
立ち位置交換しませんか?とチラッチラしながら、結び目チェック。
■マレク > 「私も古代文字は殆ど読めません。解読は戻り次第ということになるでしょうね。今回はともかく、帰って来られる所まで行くとしましょう」
それらしい場所を撮影してはいるものの、自分も彼女も遺跡の内容がほぼ分かっていない。事前に軍から情報を貰っていたとしても、結局はこういう手探りな部分は出てくるものだ。
「まあ……そう仰るのであれば」
結び目の先をシンディに差し出していた男は、私の方がという彼女に渋々頷いた。もしシンディを死なせてしまうようなことがあれば自分も社会的に生きていられないのだが、この状況では適材適所という言葉に従うべきだろう。
通路に並ぶ机に身体を押し付けて固定させ、急に力がかかっても一緒に落ちたりしないだろう位置を見つけた後、相手に大きく頷く。
「どうか、お気をつけて」
■シンディ・オーネ > 「解読の余地があるなら今、もう引き返すのも手かと思いますけど。」
…私有地でありじっくり進める余地があるのなら、とも思うが、それではあまりに慎重か。
基本、マレクをリーダーのように思ってしまって、やはりマレクが行くと言うならその判断に従うが、
ここでは折れてもらえれば、そうですよ!と嬉しそうに先に立つ。
おんぶにだっこの成功など気まずいだけだ。
これでは功績が上げられたとして、先頭に来るのはマレクの名前が相応しいと思うし。
「マレクさんはこういう事してて、冒険者として本格的にやっていこう、みたいに思う事はありませんか?」
遺跡に魅せられたりしませんかと、言ってそっと渡し板に踏み出した。
板、木か? 常識で考えれば朽ちていそうなものだが。
「落下したとして、地面が見えればタイミングを合わせて衝撃を殺すくらい出来ます。
…逆に魔術を編んでいられないほどの短距離で、でも重傷を負う程度の微妙な高さは苦手だけど――」
底は深そうねと覗き込みつつ、比較的無事な手すりの多い側を、おそらく中央より頑丈そうな端を渡って行こう。
「――落ちるより、何か降って来る心配をした方が良いかしら。」
頭に外套でもかぶるべきかと、立ち止まって頭上にランタンを翳してみたり。
そろりそろり、円盤を目指す。
■マレク > 「記録漏れはありませんから……もう少し進みましょう」
渡し板を見つつ、躊躇いがちに促した。シンディの言葉は一理ある。本当に安全第一で行くならば、未知の存在を発見する度、報告しに戻るのが良い。
ただ男も子爵夫人から、相談役としての成果を期待されている。散歩感覚で遺跡に出たり入ったりして遅々として探索が進まないというのは、彼の価値に関わるのだ。だからこそ、ある程度まとまった手柄が欲しい。正確には、シンディに手柄を立てて貰いたい。
「……そう、ですね。貴族の世界の騙し合いや隠し事を捨て去って、未知の存在をひたすら追いかけるような、そんな暮らしを夢見たことが、無いわけでは……」
シンディが渡し板に足を乗せれば、歯を食い縛り踏ん張って姿勢を固定する。彼女が進む通路は、鱗のように何枚もの板を重ね合わせたもの。硬質だが、体重をかければ僅かにしなる。
そしてシンディが渡り切り、巨大な円盤状の足場に着いた次の瞬間、低い唸りと共に中央部分が沈み込んだ。歯車の噛み合う音が連続し、その部分が割れる。現れたのは螺旋階段だった。
遺跡下層の内部が口を開け、暗い底から噴き出た冷気が円盤に立つ女性を撫でる。
■シンディ・オーネ > 【継続】
ご案内:「貴族領内の遺跡」からシンディ・オーネさんが去りました。
■マレク > 【継続】
ご案内:「貴族領内の遺跡」からマレクさんが去りました。
ご案内:「九頭竜の水浴び場 マッサージ室」にエレイさんが現れました。
■エレイ > ──温泉旅籠内の、主に宿泊客向けに用意されたサービスの一つが、このマッサージ室である。
その施術室はいくつかの個室に分かれており、客は専用のカウンターで受付を済ませた後、各個室で待機しているスタッフと
一対一でマッサージを受けることになる。
なお、客にどのような施術を行うかは、スタッフの判断にすべて委ねる、というあたりはこの旅籠らしいといった所。
ついでに、各個室内には客に安心感を与え、施術への抵抗感を知らず知らずのうちに薄れさせてゆく効果を持った、
ほのかな香りのアロマが炊かれていたりもする。効果がどれほど出るかはその客次第なのだが。
「──はーいお疲れチャン。また来てくれたまへ」
そんな中の一室から、満足げに出ていく宿泊客を笑顔で見送る、スタッフ用の作務衣姿の金髪の男が一人。
今日も今日とて知り合いからの依頼で、臨時のマッサージ師として仕事に精を出しているのだった。
「ふぃー……こういう普通のマッサージも悪くはないのだが、そろそろ一発エロマッサージでもしたいところであるなぁ」
個室内に戻り、施術用のベッド脇の椅子に腰掛けながらそんな詮無い独り言を漏らす。
今日は現状、立て続けに男の『標的』にならない客の来訪が続いたため、男はごく普通のマッサージ師として
仕事をこなすばかりであった。
男としてはそれもそれでやりがいを感じなくはないのだが、やはり役得の一つぐらいは欲しいところであった。
「まああそれも時の運というヤツなのだが……──おっとと一息つく暇もなさそうだったな」
ボヤキを続けようとしたところで、閉じたばかりのカーテンが開く。
さて、やってきたのは男の『標的』になりうる客か、それとも……。