2020/09/25 のログ
シンディ・オーネ > 「――!」

アーネストの名前が出るとああコイツ殺さなきゃダメだなと、
またシンプルな意思に思考が染め上げられて、何度目かの死線を魔術で描きそうになる。
…いや彼のお芝居だと言い聞かせるには、彼の言動はあまりにも私のものの見方と一致していて。

だから近付く少女に膝を折りながら、こいつも私に何か宣告的な事をするつもりなのだろうと予感してた。

…のに、乾いた音が響くのはマレクの方から。

「…は? …? ……???」

何度も何度も振るわれる羽扇に、大量の疑問符が止まらない。
…心、伝わるの? あれで?

私に貴族の従者は一生務まるまいと痛感して、
ヴィルア様は庶民なのじゃあるまいかと知人にぼんやり失礼な事を思う。現実逃避だ。

――これはつまり、ひとまず娼婦でなく冒険者として見てくれるという事で良いんだよねと、
少女をおそるおそる見送っていたら… 初めて明瞭に聞いた彼女の声は、やはりわけがわからなかった。

それはつまり、遺跡探索に支障が出るから身体検査の嫌がらせ枠は免除で良いという事か?
…こんなに準備しておいて?

まさかこの流れで『ではバフートのお薬を』とはならないと思うのだが… 読めない。

…悪くすると、マレクの発言内容は何も間違っておらず、
ただ表現方法が気に入らなかったなんていうのもありそうな話だが、
これも解決に向かうと思いたくて、そうは考えたくないところ。

マレク > 『2人とも、下がってよろしい。24号遺跡の探索準備をお願いします』

さらに言った少女は、手元のハンドベルを1回鳴らした。室外に控えていた護衛の女戦士が執務室の扉を開く。

「有難うございます、子爵夫人」

滅多打ちにされていた男が眉一つ動かさず立ち上がり、少女に背中を向けて部屋を出て行った。退室する寸前、念の為に後ろを振り返ってシンディを見遣る。早く来て、と無言の求め。
そのまま2人してメイドに案内され、辿り着いたのは邸宅内の武器庫。武器庫と言っても武器防具だけでなく、カンテラやロープなど、探索に必要な道具が一通り揃っており、準備を整えるには丁度良いだろう。

「……最後にお会いした時、シンディさんはこう仰いましたね。今更私を憎んで見せるなんて、と……どうです?そんなに難しくなかったでしょう」

 木製の鎧掛けからダークグレーの布鎧を外し、近くの棚からサーベルとソードブレイカーを手に取った男は、メイドが去ったのを見届けた後、シンディに笑いかけた。

シンディ・オーネ > 「――は…? あっはい!」

少女の言葉に呆けたようになっており、間の抜けた調子でようやくそれだけ答えられた。
助かったのか?と目を白黒させながら、言われるまでも無い、マレクに続いて部屋を出る。

…武器庫に通されてメイドが傍を離れると、突っ立ったまま浅く長いため息をつく。
聞きとがめられないよう、そわそわしながら。

「わけがわからない。
 私には、マレクが言った事の方が全て理にかなっているように思えた。
 そうでないなら、あの準備は何だ? 夫人の心って…?」

口調を改められないままヒソヒソと。
とりあえず探索道具を見繕いはじめるが、いかにも初心者らしくリュックはどんどん膨らんでいく。

「…難しくないどころか、あなたを殺そうとまで考えた――
 ん? マレクさん?」

鎧やらサーベルを手に取るマレクは、何をしているのかなと。

…応急処置キットを手に取れば、とりあえずマレクの顔を処置しておこうかと思うけど、ここではマズイのか。
手に取り悩む。

「…あの―― ありがとうございました。
 当然、あそこのあれらが使われる事もありえましたよね。」

マレク > 「どの部分が分からなかったのです? ……殺そうと? フ、怖い冗談だなあ」

ランタンを持ち上げ中身の油が入っているかどうか確かめていたマレクは、そう訊ねた後肩をゆすった。先程までシンディを嘲り、彼女の恋人まで貶めていた男は、傷ついた顔に穏やかな微笑を浮かべている。

「子爵夫人は激しやすいが、愚者ではない。シンディさんに愛し合っている男性がいると知って怒りをぶつけてしまったものの、来るたびに裸に剥いたり媚薬を塗りたくったりすることが良い結果を生むわけもない、ということはご存知だ。ところが……何です?」

武器と鎧を確保し、シンディと同じように探索道具を整え小さなバックパックへ詰めていた男は、名前を呼ばれて振りむいた。

「私も同行するのですから、準備しなければ。……そう、さっきのことでしたね。ところが、シンディさんは契約に乗り気でなく、乗り気だという演技さえせず、かつ一歩も引かなかった。それゆえ、夫人は振り上げた拳を下ろすことが出来なかったのです……何ですか?」

説明の途中だったが、キットを手にしたシンディを見て首を傾げる。その拍子に頬の傷が開き、少しの間顔を顰める。

シンディ・オーネ > 「…ああ、お目付け。そうか、冒険者をしていたんでしたね。」

準備を始めるマレクに首を傾げていたが、聞けば納得。
そもそも私に手軽な相方がいないだけで、遺跡探索などは最低でも二人一組が理想だ。

子爵夫人の解説には、なるほどと思う。
やるしかないとは思っていたが、どうしてもやらされる感が先に立ち。
成功を願われているとは聞いても、媚薬など使われてはこちらも頑なになるしかなかった。

「…ええ、今は遺跡探索出来てホッとしてるわ。
 でもそのつもりが無いなら、あの子… 子爵夫人も、マレクさんが娼婦とか言い出した時点で――
 いやあの時点では、それも本当に視野に入っていたという事?
 私があんまり可愛くない調子だったら。」

…でもそう考えてみると。

「…マレクさんが私に心変わりさせるためというか自覚させるためというか、
 そういう事を考えて、ああいう風に振舞って見せたところまで、子爵夫人は分かっているのでは…」

…でも、じゃあなんで叩いたよと眉間に皺が寄る。

「…ああいや、手当てが必要かなと思いましたが、手当てなどしたら機嫌を損ねますか?」

子爵夫人ファースト。ここで出来ないなら遺跡でしようかと、キットを持ったまま。

なお防具はちょっと窮屈だけど着慣れたレザースーツのまま、武器は自前のナイフで良いというスタンスで、
探索道具は丸々持って行くつもりだが、不要なものまで手に取ろうとするがめつさは無い。

「24号遺跡でしたか、どんな所か分かっている事は?」

重点を置くべき装備とかは分かるかなと、少しずつ娼婦予備軍から冒険者モードへ。

マレク > 「はい。あそこまで数々の酷い無礼を働いたシンディさんを罰するとなると、それこそ奴隷紛いの娼婦に堕としてバフートに売るしかありません。ですが、それでは計画が台無しだ。さりとて、彼女は人の上に立つ者です。過ちを正すことはあっても、過ちを犯したと認めることは許されない。

そこで、急遽私が罰せられる役を引き受けたのです。夫人に便乗するフリをして、彼女の過ちをなじりになじった。だからこそ、夫人は矛先を私に変えることが出来たのです。勿論、貴女の……演技の、矛先もね」

シンディの問いに肯定を返した男は、そう説明を締め括った。この態度を見れば、メイド達の嘲りにあった「そもそもお前に心があるのか」という言葉の意味が理解できるだろうか。他人から何を思われようと、何も感じない。そういう印象を与える振舞いだった。

「私1人が活躍したなどと言うつもりはありません。決め手になったのはやはりシンディさんです。せめて自分を試して欲しい、と仰ったでしょう?契約を前向きに考えていると解釈できる言葉です。良かったですよ、とても」

続いて、手当すると良くないかと問われれば少し間を置き、首を横に振る。

「問題ありません。もう、夫人は私達の思いなど気に留めていないでしょう。事が思い通りに運んだので。24号遺跡に関しては、まず大きく上層と下層に分かれています。本命は下層で、構築する建材が全くの正体不明。上層については、どうやら下層部が……は?」

王国軍工兵隊からの報告書を手に取って読み上げていた男は、間の抜けた声を上げてシンディを見遣る。

「手当を……しようとして下さるのですか?この私を?」

頬から滲んだ血すら放置していた男が、ぽかんと口を開けて。シンディが手当てをしようとしているという言葉の意味を、酷く遅れて把握したのだった。常識の外の考えだったため。

シンディ・オーネ > 「…そうか。そうなんですね。」

言葉遣いとか、諸々。
不承不承だろうと脅迫されていようと、貴族を前にしたら態度を考えなければいけない。
直接言葉を交わした事のある貴族がずいぶんフランクなのもあり、甘く見ていると言われればそれまで。
脅迫に屈すると決めたのなら、つまらない意地で中途半端にしてしまうのは損だ。

しみじみ頷いて、教訓にできるといいなと思う。

「…演技ならいいですが、ほとんど本気でした。
 夫人の本心を思うのなら、マレクさんの事も分かっていて、悪いようにはしないといい。」

決して悪くは思われていないから、扱いはヒドイ気がするけれど
使える奴として傍に置かれているのかなとぼんやり思う。そうだといいなと。

――遺跡の報告には正体不明!と心が躍りはじめるが、ひとまず手当てである。
夫人はもうそれを気にしないという事なら、しておこうかな? でも医務室があるかな? と迷う姿勢。

「…? 何か、変な事を言いましたか?
 …あ、医務室というか、心得のある人がいるならもちろんそちらの方が。
 ああ、私は治療とか上手く出来ないので―― あれ、魔術師だとは言いましたっけ?」

ぽかんとした顔の意味するところが分からずに、考えられる原因を探る。
冒険者ギルドに顔を出しているのなら、シンディオーネの能力については概要を把握出来そうだけど、
自分で名乗ってはいなかったなと思い出し、でも治療の魔術に期待しているのならそれは得意でないのだと。

マレク > 「本気?本気で私に怒っていたのですか? 何故?……打ち合わせをしましたよね?」

そこでようやく殺そうとしていた、という相手の言葉が冗談でなかったことに気付いた男は、肩を揺すって笑った。夫人の本心、と言われれば曖昧に首を横に振る。そもそも、男は「本心」という概念を信じていない。

「ああいや、失礼しました。……良い方なのですね。シンディさんは」

自分が手当をしてくれと頼んだわけではなく、男を手当てしなければ自分が危ないというわけでもないこの状況で、いわば自発的に手助けを申し出た女性をまじまじと見返し、男は微笑んだ。

「はい、魔術師であり格闘術にも長けていると伺いました。どちらかが得意な方は多いですが、両方というのは中々お目にかかったことがないですね」

手当を受けつつそんなことを話す男。やがて準備が整い、邸宅の前に停まった馬車へと乗り込んだ2人は、子爵領で発見された遺跡へと向かうのだった。

シンディ・オーネ > 「…いや打ち合わせはしたが!
 もっともらしかったので… そのう… すごくもっともらしかったので…」

それまでがお芝居で、あそこで開始されたお芝居が真実なのではと、本気で考えてしまった。
…魔術師は事の本質を見るのだと、偉そうに言ったのは誰に対してだっけ。
バカと思われたんじゃあるまいかと、ごにょごにょ。

「……? いいや?」

良い人かなあ?と真顔で首を傾げて、手当てを任されるならちょっと綺麗にしてから出かけよう。

送迎の馬車には、またついほっとしたため息をついてしまいながら、遺跡へ向かう。

ご案内:「ある貴族の邸宅」からシンディ・オーネさんが去りました。
ご案内:「ある貴族の邸宅」からマレクさんが去りました。
ご案内:「小川」にさんが現れました。
> 王都郊外を流れる清らかな川は、空気と水の冷たさはそのままに、穏やかなせせらぎを繰り返していた。

寒くなりはじめた昼時、この川の水質や魚・蟹などの味見を兼ねた釣りに訪れた料理人の青年は、
暖を取り、釣れた獲物に火を通すための焚火の面倒を見ながら釣り糸を垂らしていた。

焚火には、すでに大ぶりとはいえない川魚が2本ほど、離れた位置で炙られている。
軽く塩を振られ、絶妙な火加減で香ばしい匂いが辺りに漂っていた。

「…この地域の川魚は、この時期、
どう脂がのってるんだったか…
おっと、おぉ…?」

焚火を背に川と向き合っていた男の指先に、クン、と反応。
ぐいと引っ張っても簡単に弾き上がらないその重みに、
やっと釣果らしい釣果かと、腰を浮かせて、じっくり魚と向き合う。

「よーし、よし、コゲねぇうちに、ウマイ奴、釣れてくださいよ…っと!」

ご案内:「小川」からさんが去りました。
ご案内:「貴族領内の遺跡」にマレクさんが現れました。
マレク > 【お約束につき待機します】
ご案内:「貴族領内の遺跡」にシンディ・オーネさんが現れました。
マレク > 「フッ……ンッフッハハハッ! そうか。あれは本気だったのですね。本気で私を、殺そうと……ックク、ふふふ」

正に悪役といった笑い声が子爵領地を走る馬車の中で上がったのは、これで3度目。灰色の布鎧と、左肩および左腕を覆う深緑色のハーフマントを身に着けた優男が、目元を右手で覆いながら肩を震わせる。
向かい合って座る冒険者の正直さが、嘘と隠し事で生きてきた男には面白いのだ。いわゆる「ツボに入った」状態で、絶賛思い出し笑い中である。

「まあ此方としても、何もかも嘘だったわけではない。私も男です。率直に言えば、シンディさんのような素敵な女性は欲しいですよ。ただ貴女の場合、無理矢理奪い取るより応援する方が楽しめそうだ」

左手を上げ、ハーフマントを翻す。円を描く蛇と目玉を縦方向に重ねた紋様が窓からの日差しに照らされた。

「そうだ。例えばこういうのは如何です?ご領地を出る時の身体検査で、私がシンディさんをこれ以上ないほど敏感に仕立て上げる。その後、貴女は宿へ帰って愛しいあの方と熱い一夜を過ごす。私はそれを想像しながら、独りの夜の慰めとする……というのは?
全員が喜ぶ、素晴らしい思い付きでしょう……」

肘置きに右腕を預けて若干身体を傾けた男が、口の片端を持ち上げる。そんなことをしている内にも、2人を乗せた馬車は目的地へ近付きつつあった。つい最近広大な未踏査地域が発見された24号遺跡。シンディにとっては、ある意味で因縁の地と言えるだろう。

シンディ・オーネ > 「――いや結局! 実際にやってはいないんだから、本気ではなかったのよ。」

深刻に物騒な話なので笑ってくれて何よりなのだが、あまり笑われても恥ずかしい。
実行された事以外は何をどう思っていようと本物の本気ではないと弁明し、
馬車の外を「わー外だー」とわざとらしく熱心に見ている。

「…礼儀と思ってるのかもしれないけどそういうのいらない。
 あと別に媚薬とか、必要無いでしょう好きな人と一緒なのに。
 ――もう、要らないんですよね? 検査は必要かもしれないけどクスリとかは。」

褒めてくれなくていいよとそっぽを向き続け、
構想の話には、そんなの無くてもアーネストは満足させてくれるから!と少し意地を張るトーン。
実際にはトイレで自慰して帰ったあの日、毎晩求めてくれるはずのアーネストはこちらの体調を気遣って
なんとなく何もせずに眠る流れてなってしまい、寂しかったりしたのだが。

――そんな話になってふと、身体検査の方法はマレクに一任されたのだから、もう媚薬の出番は無いな?と念を押す。

「…そういえばここに研究室を構えてた学者先生は、何の研究してたのかしら。」

一度は侵入した遺跡が見えてくると、深呼吸一つ、未踏査区画は初めてだなと気合を入れる。

マレク > 「本気だけど、本気じゃなかった?中々難しいことを仰る」

目を見開き、わざとらしく首を捻った男は、「わー外だー」の視線を何気なく追った。こんもりと盛り上がった丘が車窓に移り込む。反対側へ回り込めば、朽ちかけた石造りのアーチが見えてくるだろう。遺跡まで、もう間もなくだ。

「礼儀などとんでもない。率直な感想です。それと、今後、検査に媚薬は用いませんよ。行きも帰りもです。立て続けにお呼びする日が来ないとは言い切れませんので」

首肯とともに請け負った。元々は幼い子爵夫人の思い付きだし、命令されたという言い訳を元にシンディの肉感的な身体を弄びたい、という欲求はあるのだが、いかんせん依頼遂行を考えると不利な点が多過ぎる。

恋人はちゃんと満足させてくれる!と主張するシンディにはついつい気味悪い程穏やかな笑顔。邪心は勿論あれど、それ以上に微笑ましいのだ。愛情や真心を信じ込んで、それで結ばれていると思い込んでいる2人が。

「シンディさんが依頼を受けた魔導学者は、古文書で情報を得ていたようですね。何でも、知識の伝承あるいは教育に関する何かが、あの遺跡に眠っているということを掴んだのだとか」

未踏査遺跡ゆえ、構造は勿論、収蔵された物品の正体など知る由もない。男の情報もまた聞きの域を出ないものだった。やがて馬車が遺跡の前で停まり、男は二振りの剣を手に扉を開けて降車した。今度は、エスコートはしない。

シンディ・オーネ > 「未遂で終わったら自殺者ではないのよ、絶対に。」

例えとしてどうかというところだが、魔術の発動を堪え切った以上、本気でなどありえないと、気まずさを紛らわせるように。
媚薬が使われないと聞けば一安心。あとできれば、内臓の中まで検査するのは止めて頂きたいのだが、
そこまで求めるとそこに隠せなくも無さそうなサイズの物品を紛失したとか主張される可能性が面倒くさい。
判断は任せる事にして、聞くのも怖いのでその時になれば分かる事と黙っておいた。

「――知識、教育… 学校でしたか?あそこは。」

地下構造体に学校のイメージはまるで湧かないが、外周に地上の建造物が並ぶ中の地下施設と捉えればそんな事もあるのか。
マレクの言葉にいつの間にそこまで調べたのかと目を丸くして… ふと、自分の調査能力を不安に思う。
強度はゴーレムが確認してくれたという。
もしゴーレムにマッピングやら遺物の回収が出来たら、私の仕事残っているだろうか。

メルド子爵夫人に私を試せと言っておいて、特技は破壊的な魔術。
大丈夫かねと、難しい顔になった。

「そういえばさっき言っていた、24号遺跡の上層部分に、下層部が何かしている?というのは?」

手当てだ何だの話の流れで途切れさせてしまったが、何か言いかけて止めませんでしたっけと思い出し。
――馬車が止まれば、今度こそ素早く自分で降車する。
エスコートするつもりは無かったとなると、急いだ自分がちょっと恥ずかしい。

マレク > 学校か?という問いには男も首を捻る。

「既にそこが分かっていないのです。何となれば、未踏査なので。そしてこういう遺跡が喜びヶ原の南部、王都北部には結構多いのですよ。貴族の領地が点在していますからね。
勿論、子爵夫人の後ろ盾を得たシンディさんなら、そういう遺跡の探索もやりやすくなるでしょう」

何故男が学者の意図を知っているかといえば、それはシンディが回収した彼の私物を検査したからなのだが、それに加え子爵夫人が王国軍工兵隊へ要請してゴーレム操者を連れて来た、という点も大きい。
ここだけでも、冒険者だけでやるような、手探りから始まる探索とは一線を画すということが分かるだろう。

「ゴーレムによる調査結果で、遺跡の大体の構造が分かりました。……こういうことなのだそうです」

ソードブレイカーを女性の目の前に突き出した男は、短剣の柄にロープを巻き付けた。

「輪状の構造体が比較的浅い場所にあり、その……円の内側を、筒の形をした別の構造が深い場所まで貫いているのです。共に先史文明のものと考えて、まず間違いないとのこと」

そう説明した後、男はロープをバックパックに戻し、二振りの剣を腰の左右につるした後、石造りのアーチに向かって歩き出した。

シンディ・オーネ > 「…未踏査区画の探索なんて、普通にやってたらまず無い機会ですね。」

力不足に違いない、という言葉は飲み込んでおくが、危険度も相応と考えると不安も首をもたげる。
しかし学校と考えればそんな危険など多くなさそうだし、何よりチャンスには違いない。

色々あったが今度こそせっかくの機会は利用すべきと言い聞かせて、装具点検。

…説明を聞くと、それ学校か?と分からなくなった。

「…筒、何かを運ぶか、収納していた? 建材は未知の素材でしたね。
 ただの学校よりは、高等教育機関の研究所、とかかしら。」

リュックを揺すってイイ位置に直し、歩き出すマレクを追っていく。

「マレクさんは、剣士ですか?
 私の魔術は、声の届く範囲に、声を発している間、主に火をつけるとか風を起こすとかの外的作用で色々できます。」

先ほど伝えたように治療は出来ない、移動なんかもオマケだと、一時の相棒にざっと自己紹介を。
そしてマレクの装備を見ればその通りの戦い方なのだろうと考えるが、
見る度に気になる瞳の同心円が、何か特殊能力でもあるのだろうかと思わせていて、あなたは何かと。

マレク > 「そうですね……輪の形をした上層と、筒型の下層が接続されていて、上層の開口部付近には家具らしきものの残骸があったそうです。事前情報に目を通す限りは、学校よりは研究所、かも……」

女性に淡い同意をしつつ、男はアーチを潜った。その先で王国軍が空けた穴を見つけてカンテラの火を灯し、斜面を下って暗く口を開けた地下へ降りていく。

「音声を媒体にした魔術ということですか?それは……お目にかかったことがないかもしれません。
私は何かの専門家という訳ではありませんよ。ただ、剣は使えますね。それと……」

右手に提げたランタンを掲げた男が、左手の袖を振った。するとそこから浮遊する目玉が飛び出し、進行方向の暗闇へ視線を合わせる。

「この、映像と音声を記録する魔道具を持っています。これが中々、色々と役に立つのです」

 少しの間シンディを振り返って笑った男が、正面へ向き直って闇の中を先導する。ひんやりとした、そして微かに湿り気を帯びた空気が漂う中、光が揺れて足音が響く。

シンディ・オーネ > あれ?こっち?ときょろきょろしながら、新たに開通された入り口から内部へ踏み入る。

一度は侵入した遺跡だが、別方面からで、そちらは出がらしもいいところな探索済み。
そんな場所にも新たな住人や忘れ物があったりして冒険者稼業を潤すのだが、今回は冒険者なら誰もが夢見る一番乗り。
厳密には一番でないとしても、こんな形で良いのかなあと、だんだん後ろめたい気持ちにすらなるありがたみ。

ランタンに火を入れて、新米らしく長い棒で進路の床をコンコンしながら進もうとするが、
ゴーレムによる確認済みならこれは良いのかなとまごついている。

「ええ、儀式魔術の呪文とは違うので、声を届けられれば動物の鳴き真似なんかでも。
 ――ゴーレムが見回った範囲では、適性存在や罠も無しですか?」

マレクの袖から何かが飛び出せば、なんだ魔術師じゃないかと思うが…

「魔導機械!? 映像と音声… は、その目で?」

魔導機械に接続されて、目に同心円が現れているのかなと。
リアルタイムで遠隔地を見聞きできるのは心強い。
高そうだなあといくらくらいの価値になるか考えながら、後に続く足取りは「じゃあ安心」って感じに幾分軽く。