2020/02/16 のログ
エルディア >     
「貴方ではリハビリ相手としては力不足。
 ……って”  ”ナら言ったカなぁ?」

遠ざかろうとするソレを敢えて追わず、散らばった魔力反応にきっちりと止めを刺す。
この場所程度の広さで遠ざかろうと近づかれようと、本気で詰めれば僅かな違いですらない。
何処も手が届く範囲であることに変わりがないのだから。

「……魔族は皆似た様な手がスき」

そういえば似たような場面が前にあったなと思い出す。
確か小隊をいくつか召喚してきたような覚えがある。
そもそもどんな顔をしていたかすら思い出せない。
……いや、確か貌が無かった。
そのくせ言い回しがコメディそのものだった気がする。
記憶が断片化されている事が酷くもどかしい。
何かを思い出さなければいけなかったはずなのだけれどそれを思い出せない。

「……」

射出され体を掠めた破片がまるで重金属同士をこすり合わせた様な音を響かせ
火花を上げて地面へと突き刺さるがその音すら耳には届かず。
思い出せない煩わしさを振り払うように剣を振るい、その切っ先が地面に数条の線を刻む。
そのままサイドステップを踏み、壁に手を軽く当てると同時に宝珠を潰し雷撃を引き起こす。
ほぼ暗闇に満たされた風洞内にアーク放電のような光が満ちる。
暗順応があれば視界が塗りつぶされる恐れがあるが元々視界が死んでいるので無問題。
ドロドロに溶けた物体を地面に振るい落とす。ああ、手が汚れた。
ため息をつこうとして息を吸い込んだ瞬間僅かにマナの乱れを自覚する。
昏睡系のガスと思しきそれはなかなかの濃度のようだ。
はた目から見れば少しふらついたように見えたかもしれない。

「体を動かサナければ、なんて
 ……肉の体は本当に不便ダね」

引き寄せられるエレメントの流れ、収束するエネルギー
そして恐らく実体化して現実に作用しているであろう物体。
往々にして魔術式によって引き起こされるそれらはその流れにも癖がある。
彼女にとってはそれは一種の音のようなもので……。
同時に術者の声でもある。

「ぁー」

ああ、少しだけ思い出した。
それは酷く雄弁にその形を謳う。
其れを織り、正しい流れへと戻すのが役目だったような気がする。
僅かに構えを変える。それに呼応して大剣の輪郭がぼやけた。
少し思い出した分、これぐらいなら簡単に縫える。

「”愁いを縫え、災華”」

そのまま空を薙ぐ。
刹那、影のような刀身が細く伸び、
その延長線上の地面と壁に刀傷を残しながら
大風洞を真っ二つに切り裂いた。

ヴェンディ > 「そうか。だが、お前は遊んでいる。力不足ならさっさと壊せばいいだろう?」

圧縮言語でも尚、意味の分からない事を言う相手に、戦闘…というより様々な手で童女を抑え込みながら、男は嗤う。
貶されているのだろうが、こんな状況では仕方が無いだろう。
何せ相手もまだ底が見えない。
寝ぼけているような、雑に力を振るっているような、そんな感覚がある。

目覚めさせる前に、退くか、徹底的に破壊するか。
その2つに1つだ。

巨大風洞の中に、放電のような跡が散っていく。
五感を奪い続けても尚、術式によって魔法抵抗すら突破し、魔鋼を打ち落としていく。
放電によって撃ち落されたそれらは、どろどろの粘液のようになって洞窟の床を濡らしていき。
ただ、存外ガスの方は効き目があったようだ。
相手の耐性に関しては、しっかり見ていかなければならない。

「!」

ただ、そんな見の状態の中、振り上げられた刀身からはあり得ないほどの力が籠っているのを感じ。
咄嗟に再びの回避行動。一振りするだけで大風洞を両断する威力。
それを今度は、風洞の外…丁度、身体を透過させて最初に入ってきた辺りに転移。
大地の魔法を使い、大風洞を真っ二つに切り裂いたその衝撃を緩和せず、むしろ後押しさせ、大風洞を崩壊させていく。
白瞳に魔力を集め、岩や石、土、草。
それら風洞を構成していたもの全てを、童女に向けて崩壊するように。
まるで鉄を集める磁石のように、洞窟内のあらゆるものが童女に向かっていく。

「……あれなら死にはしないし、傷も負わないだろうよ」

その様子を、外から呟き、崩壊を助長させていく。
童女の寝床だったならば激昂させるかもしれないが、それはそれで一興だ。

「全く。なんなのだあれは。…直接聞けば、その口から答えは出るか?」

まるで壊れていないことは想定済み。
少し声を張って圧縮言語にてどういった存在であるかを尋ねよう。
これほどの相手でありながら、まだ童女の姿だ。
これから成長するのであれば、まるで勝ち目はないだろう。

白瞳に疲労を感じつつ、崩壊した洞穴を見つめており。

エルディア >   
少女はそんな中に只立ち尽くし空を見上げていた。
崩落する天井が、切り裂かれた岩が、自身の体を傷つけていく。
魔術性の誘導こそかかっているがそれそのもの自体は理内の存在だ。
”魔術師の天敵”でこそあれ、それらは物理的に避けるしかない。
それ自体は容易だけれど……

「くふ」

コンマ数秒刻みの世界がはっきりと感じられる。
なんて静かな世界だろう。
なんて綺麗な世界だろう。
感覚というものがいかに自分を縛り付けているかがよくわかる。
無意識化に身体を縛る感覚もない。
きっと轟音が鳴り響いているだろうけれど、
いつも付きまとうように鳴り続けている耳障りな音はなく、
何処を向いても目に付く眼を背けたくなるほど穢れたものも見えない。
受肉という呪いから僅かな時解放されただけでこうも心が躍る。
ああ、このまま溶けてしまおうか。何もない、何もかもがある世界に。

「……嗚呼、駄目。
 戻らナきゃ」

精霊側に引きずられる思考を無理やり引き戻す。
この形ある体はまだ必要だ。
壊れるまでの間、罪を禊続けるために作られたものだから。
……そして“  ”を見つけるために。
頭上に落ちてきた一際大きながれきに手を伸ばし、少女はうっすらと笑みを浮かべる。

「”空間指定”」

風洞のあった場所を中心に四方に光の柱が立ち上った。
小さな町なら容易に呑み込めるほどの広さの四方にある
それらを繋ぐように薄い光の幕が現れると
同時にまるで時間が止まったかのように岩や土が動きを止める。

「時間軸固定。指定領域の演算開始。
 ……クリア。
 警告:当領域は生物に多大な影響を与えます。
 0.03秒後、領域を閉鎖します」

その中に、決して大きくもない、小さなか細い声が響き渡る。
感情のこもらないそれは少し前に事件となった機械人形の声色とよく似ていた。

ヴェンディ > 少女が何を感じているかは、彼にはわからない。
そもそもが、偶発的にその気配を感じ取っただけであり。
相手の全てを魔法によって暴くことを良しとしない彼としては、不気味さを感じるほどであった。

崩壊が止まったことは、少し予想外であった。
あの暴威ならば、こちらに飛んできてもおかしくは無かったが。
何かの思惑があるのか、それとも単なる気まぐれか。
観察している限り、後者の方が可能性が濃そうではある。

「単なるつぶやきからでは、何もわからんな」

時が止まったような光の膜の内側。
少女から見てみれば上空だろうが、未だ空間の指定の中に彼は居る。
生物に影響を与えるというのなら、どのような影響か。
それが、彼には気になった。

刹那とも言い難い思考の時間。
呼吸阻害や、毒、それとも、あの岩などのように時間を止めての殺害か。
けれど、それをあの少女は手品だと一蹴していた。
それ故に、また別の手段だろうと考えており。

「俺はまだ壊れてはいないぞ。先にお前が壊れたか」

恐らく聞こえているであろう、挑発の言葉を投げかける。
余人から見れば一瞬でしかない時間の間にやり取りを行い。

同時に白瞳を通して防御を再展開。
魔法、物理に対する障壁を張り、精神支配耐性、即死耐性を重ね掛けていく。

「――――…」

何かが始まるのならその前に。
自分が吐き気を催しそうなほど、聖の力を凝縮した魔法を練り上げ、一条の光を放つ。
世捨て人などがこの山に居れば、神が地上に神罰を下したと思われんばかりの、太い光の柱を…機械人形に叩きつける。

どうやらアレは、こちら側の性質を持ったモノらしい。
これもまた、どれだけ有効かは不明だが。
手をこまねいて、検証を怠るのは愚者だ。
どちらにしろ、彼にとって魔力は膨大ではあるが有限である。
ただし、戦いを愉しんでいる身としては…様々な手法を持ってしても貫けない相手と言うのは、実験のしがいがあった。
膨大だった魔力は概念武装や感覚消失の維持等で明らかに減っているが、それもまた一興と彼は笑っている。

エルディア >  
「“我らは理に非ず
  理は我らに在らず“」

その瞳は琥珀色に輝き、背中で淡く緋に発光する黒曜の翼が羽ばたき
それでいて酷く優しげな、街角で戯れる幼子を眺めるような笑みを浮かべ朗々と歌う。

「“世界を廻れ尊き河よ、
 灰を灰に、塵は塵に
 幼き願いも星へと還せ
 
月光に照らされる銀糸の髪は真珠のような色を湛え周囲に光が舞う。
それが次第に光を強くし、周囲に多面体の障壁が幾重にも作り上げられていく。
空間内の魔力の流れも回路化され、固定化されていくのを感じるかもしれない。
固定されてしまえばそれらは他の形には発現しない。
つまりその領域内で魔力を使用できなくなることは容易に想像できるだろう。
枯渇というよりもその全てを貪っているというのが近いかもしれない。
同時にそれほどの空間領域を使用する術式が紡がれている事も。
障壁がその余波による副産物だという事も。

「”夢見は終わり、幼子は新たな夢を視る
  全き巡りはその御元に“」

神代の魔導士達による大戦もかくやといった閃光が九頭竜山脈を照らす。
それは確かに魔の王たるものを称するにふさわしい一撃であり、その衝撃の余波ですら
軍勢を屠るには十分なものであっただろう。
大風洞があった場所は吹き飛び、土砂崩れでも起きたかのような土煙が立ち上り
雷鳴のような轟音が遅れて響き渡る。

「”我は落とし児
  世界の胤”」

その中に凛と声が響いた。
土煙の僅かな隙間、ほんのわずか晴れた隙間で
上空の魔王と視線が交錯する。
直撃を受けたはずのそれは、
誰かを抱きとめるように両手を広げ空を見上げ確かに笑っていた。
周囲には砕けた障壁の残滓と、波のような流れ。
障壁を凹硝子の様に活用し、余波を球体の表面に流れる水のように流したとそれを視て気が付くかもしれない。
そしてその魔王の耳にも届くだろう。

「理なんか捻じ曲げないでも
 誰でもない、ヒトリ(自分)で居られたらよかったのにね。
 貴方も、私も。
 くふ……今ならまだ、”逃げれる”よ?」

そんな呟きが。

ヴェンディ > 詠唱と言うには、あまりに暴虐となるその言葉の群れ。
少女が言葉を発するたびに、周囲から魔力が奪われていく。
最早最低限の防御しか編めないほどしか、魔力を得ることができない。

言ってしまえば、少女が乱暴に貪った魔力のほんんお残りカス、だろう。
その程度では、指定された空間全てを食らいつくし、発動しようとする何かを受け止められるとは思えない。
転移程度は、問題ない。
指定された範囲外に移動するだけなら、得られた魔力で叶う。

しかし、少女の言葉を受けて、ふ、と嬉しそうに彼は嗤う。

「逃げてほしいのか。…遊び相手が欲しかったのだろう?」

彼が飛行の魔法を解き、少女の眼前に再び降り立つ。
逃げることはできない。
少女から見れば、つまらない矜持であろう。
貴族服のポケットに両手を突っ込み、力を抜いて。

防御自体は、周囲の魔力に加え、自身の生命力すら使い、使える魔力に変換しており。

「やってみろ。…壊せるなら壊してみろ、と言ったのは俺だ。
俺は、言葉は曲げん。好きにしろ」

あろうことか、防御は作成したものの。
崩壊した風洞の壁にもたれかかり、何でもない事のように少女の行動を見つめる。

「魔族の国にすら、これほどの強者はいなかった。
それ故の敬意だ。そのまま解き放て、人形。俺が耐えられるか、試すがいい」

相手がこちらをどう思っているかはわからない。
けれど、魔王と呼ばれていた以上、詠唱と魔力量におびえ、逃げることなどあり得ない。

魔法を放った感触から、詠唱は完了するまで邪魔できないことを悟っている。
ならば、男としては少女と語り合うことを選んだ。
言葉を交わし合いながら戦う喜悦を感じられたことを少し感謝しながら。

眼を其方に向け、その破壊の術式が発動するのを待つ。

エルディア >   
空間固定と同時に見上げた空から人影が一つ、間近に降った。
先ほどまで明確に害意をぶつけていた相手は随分と穏やかな顔で地に降り立つ。
逃げる時間は与えたつもりだったがどうやらその予定もないらしい。
こういうタイプはたまにいる。好きでもないが嫌いでもない。

「”眠りの淵に揺蕩えば、
  やがて太古の夢を視る”」

魔術や魔法とは理の中にあるものを理外に抽出するものだ。
紡がれるこれは捻じ曲げられた理を“そうならなかった”形に戻す法。
空間を固定し、その中の時間の流れを捻じ曲げられる前のエレメント法則で再現するもの。
当然、その間に振るった“理外の術”はすべてその術者へと降りかかる。
指定範囲とはいえ、世界の一部を切り取って時間操作再現するのだからその魔力消費は莫大になるが
魔術を使っていればいるほど反動が反転するこれは”まさに魔術師殺し”の術式。

「目が覚める程度には、遊び相手だったよ?」

屈託なく笑う。
この術式の対象には勿論自分も含まれる。
実際のところ、決して軽くは無いダメージが内積している。
発動すれば深刻なダメージを自分も受けるだろう。
けれどそれがなんだというのだろう。
蹂躙するものはその罪と誇りを背負う。
強者としての義務であり、争いの作法でもある。
だから笑う。どんな戦場であっても。

「”永き眠りのその先は”」

自分にとってこれが存在意義であり、日常だ。
怖くもなんともない。大事なのはただ、”調律”し続ける事だけ。
怖くはない。もう傷つくことに慣れきってしまっているから。
しいて言うなら……静かな世界が少しだけ惜しいと思う。
術が解けてしまえばまた、世界が見えてしまうから。

『”全て世は事もなし”』

それは閃光も爆音も伴わず、
領域内の全てを包み込み酷く静かに発動した。

ヴェンディ > その魔法は、正に魔によって法を作るものだった。
とはいっても、彼にもその全容は、発動するまでわからなかったが。
自分自身の魔法がそのまま跳ね返るのであれば。

彼の身体は感覚を奪われ、切り刻まれ、縛られ。
この空間で行った全ての行動が、一挙に再現される。

「―――――――――……」

そのまま反転するのなら、彼の白瞳を通した魔法が彼自身に襲い掛かり。
防護を無力化するその性質まで、彼を貫いていく。

その性質故、防御も回避も叶わず閃光に飲まれ。
静かに発動したその詠唱の結果、彼の優美な姿は見る影もなく。

ただその場には、勝者と敗者が居る。

術は既に解け、少女には、静寂ではなく喧騒が戻ってくる。

その後、人間の山師が見たところによれば。
地崩れではなく、さりとて人間の仕業でもない。
何か、理解できぬ超常的な出来事があったその場が、残されていた。

エルディア >   
五感が戻ると同時に壮絶な痛みが全身を貫き、
同時に雷にうたれたように手足を痙攣が走る。
極力抑えたといえ、自分も術式を使った上に
この術を発動すること自体がだいぶ負荷になる……が
体内を貫き、肺腑を焼く痛みに悲鳴はこぼさない。
どれだけ傷を負っても、膝をつくことは許されない。
此処で膝をつくなど自分の矜持が許さない。

「まぁ、……死なないし」

致死性がないという点もこれは実にグッドだと思う。
そこにその存在が”在った”ことは理内の事なのだから。
勿論反動のショックで死ぬことはあるが……少なくとも今は止めを刺す気分ではない。
地面に伏す姿の首元に大剣を添え、トンっと肩に充てると剣を消す。
眼前の相手は才にあふれる分、反動も大きかったのだろう。

「……ただの”反動”だかラそのうち動けるよーになるよぅ?
 まぁ、今は聞こえてるかどーかわかんなイけど」

それが無ければ彼は幸せだったのだろう。
それがあったから彼は強者で居られたのだろう。
けれど、世界を測れると思ってしまうのは酷く孤独で退屈だ。
彼の魔術はあまりにも、乾いていた。
孤独を、退屈を叫んでいた。

「ほら、これで、貴方も世界の内の一人。
 もう、絶対強者(孤独)ではないよ」

それは姿形とは似つかぬ、ひどく大人びた穏やかで優しい声で。
……目が覚めてからこっち、黒星の方が多いくらいだがそこはまぁ置いておこう。
そのまま数歩、後ろに引くと倒れるように自身の影の中へと落ちていく。
さぁ、あの場所に帰らなくては。
……きっとあの人が待っているから。

ご案内:「大風穴」からエルディアさんが去りました。
ご案内:「大風穴」からヴェンディさんが去りました。