2019/02/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 路地裏」にジードさんが現れました。
■ジード > 貧民地区の路地裏の一つ。大通りの裏側に位置するちょっとした裏道に、
ふらりと一人の男が無造作に姿を現す。路地の中でも少し広くなった場所を探し当て陣取り、
手にしたカバンを地面に置く。すると機械仕掛けの玩具の様に
パタンパタンとカバンが開いて大小二つの陳列棚を持つ小さな露店が姿を現した。
棚の上に薬瓶やアクセサリーなど商品を陳列し店としての体裁を整えれば胡坐をかいて店の奥に座り込む。
「よし、それじゃあ開店だ。場所の選択が間違って無きゃいいが」
露天の常として場所選びが悪ければ商品以前に目に留まらないのはよくある事である。
若干不安を感じながらも時折人の流れる道行を眺め。
■ジード > 時折訪れる人影は娼婦が中心である。
媚薬や体調を整えるための薬などは偶に売れるものの
メインの商材と見込んだ代物はとんと売れない有様である。
アクセサリやら高額の媚薬の類やら、ここを好んで通る様な客には受けが良いのだが
残念ながら今日はそれを買い付ける客が通らない。
その様子に息を吐き出しながら頬杖をついて本格的に人気の消え始めた通りを眺め。
「娼婦はお得意様っちゃお得意様だけど…な。
世間話でだいたい終わっちゃうのが困りもんだ」
■ジード > 「よし、そろそろ切り上げ時だな。次はどこにだすか考えにいこうかね」
さて、次はどこに店を出そうか。
そう考えながら立ち上がると、そのまま軽く荷物を整えてから、
路地の裏へと消えていくのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 路地裏」からジードさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミンティさんが現れました。
■ミンティ > 西の空に見えていた太陽がそろそろ完全に隠れてしまいそうな時間。あちこちの店先に明かりが灯されて夜の雰囲気に変わりつつある大通りを、背中を丸くしながら歩いている。身を縮こまらせていても冬の寒さからは逃れられず、風がふくたびに肩をすくめた。
腕の中には大判の本を一冊抱いている。図書館で借りてきた本を帰ってから読むのを楽しみにしていたけど、今はあたたかい場所に逃げこみたい欲求の方が強くなってきている。楽しそうに話しながら酒場へ入っていく冒険者らしい一団を眺めて、白く霞んだ溜息をこぼした。
「…えと」
財布の中にどれくらい入っていたか思い出してみる。たぶん、食事をとるくらいの金額はいつも持ち歩いているから、寄り道自体は問題ない。
けれど一度どこかに入ってしまうと、もう外に出たくなくなってしまうかもしれない。それなら早足で帰るべきか、なんて考えている間にも歩くのが遅くなってしまっていた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にグラムヴァルトさんが現れました。
■グラムヴァルト > 「――――よォ、ミンティ。てめェは相変わらず苛めてオーラぷんぷんさせてやがンなぁ」
足音どころか気配もなく背後に近付き、いきなり肩へと回した長腕で彼女の小躯をぐいっと抱き寄せる暴挙。その上、低く掠れた声音は耳朶に唇が触れる程の至近距離から流し込まれるのだから、気弱そうな少女を驚かせるに十分な仕儀と言えるだろう。
それでも、抱き寄せられた体躯が押し付けられるのは、着衣越しにも筋骨のうねりがはっきりと感じられる岩壁の如き硬さと、代謝機能の高さを感じさせる熱い体温。自然、凍える寒さもいくらか和らごうという物だ。
■ミンティ > なにかに躓いて転んでしまったかと思ったけれど、足に違和感はない。それなのに目の前の景色が急に傾いたから、反射的に身を竦めていた。
身体がぶつかったのは地面ではなく、痛みはないけれど、硬いものに触れている。なにが起きたかわからなくて、おそるおそる顔を上げようとすると、耳のすぐそばで声がした。くすぐったくて、今度は首を縮めるような姿勢になって。
「……こんばんは」
自分が抱き寄せられた事と、長い腕を伸ばしてきたのが誰だかを知ると、すこしの間を作ってから愛嬌のない声で挨拶をする。いきなりすぎて、他の言葉が出てこなかった。けれどそれだけだと不愛想だと思えて、目を伏せる。
「…苛めてほしいわけではないですし、こういう顔なのは生まれつきです」
そう答えて顔を背ける。付け足したところで可愛げのない台詞になってしまった。
しかし身体は、寒風を遮ってくれている大柄な彼の方へ、そろそろと寄っていく。、
■グラムヴァルト > 少女の小顔が見上げた先にあるのは剥き出しにした犬歯も猛悪な、野生の狼を思わせる男臭い笑み。
「――――ハ、可愛げのねェ尼だな、てめェは。そこはもっと嬉しそうに『グラム様っ!』とかなんとか言いやがれ。」
そんな男が返す言葉もまた、少女の気持ちを沈ませる類のデリカシーに欠けた物言い。しかし、それは本心からの言葉というより、好ましく思う少女を苛めて表情変化を引き出したいなどという子供じみた嗜虐による物。意地の悪いニヤニヤ笑いに細めた双眸。高い眉庇と彫り深い眼窩が形作る色濃い影の中でギラつく三白眼のその奥に、出会ったばかりの頃には存在しなかった情愛の気配を感じ取る事が出来たのならば、意地の悪い物言いの裏にも気付く事が出来るだろう。
「ま、そんな可愛げのねェ小娘に惚れちまったオレだからな。生まれつきのてめぇの顔も、まぁ……アレだ。………嫌いじゃねェ」
『好きだ』などという犬歯のむずむず来るセリフは口に出来なかった。代わりに一旦回した腕を離し、外套の裾を引っ掴んで己の着衣の中に冷えた小躯をすっぽりと包み込む事で好意を示す。
■ミンティ > 「そう反応してほしいのでしたら、驚かさないでください」
表情が硬いのはいつもどおりだけれど、今は硬いというより固まってしまっている。いきなり抱き寄せられた時の驚きで鼓動も乱れていたから、落としかけていた本を抱え直し、胸元にぎゅっと押し当てる。
つい文句ばかりが口をついてしまうけれど、悪い気分ではない。寒さがすこし和らいだのも助かっているし、口調こそ乱暴ながら、彼が本気で罵っているわけでもないのは伝わっている。
「……はい」
もうちょっとくらい可愛げのある反応ができないのかなと、自分の態度に溜息がこぼれる。褒めてもらえて嬉しいのに、こんな時にどう答えたらいいのかがわからなかった。
困ったような顔で溜息をこぼしていると、大きな手が離れていく。怒らせてしまったかと顔をあげるより先に、彼の外套に身体ごと包まれた。照れくさくて、口元が緩んでしまう。
■グラムヴァルト > 「ハ、そいつァ無理だ。てめェの驚き顔が見たくてヤッてンだからな。」
ゾロリと生えた牙も剥き出しに大口を開いて笑う様には、少年めいた愛嬌すら覗く。が、口にしている事は気弱な少女にしてみれば迷惑極まりない内容だろう。
グラムヴァルトにしてみれば、人間など面白い声で鳴く玩具の様にしか思っていなかった己を惚れさせた女である。そんな少女の自己評価が妙に低い事は単純に不思議でならない。この辺り、人の世に存在するあれこれやら、人間の感情の機微やらに疎いキメラには理解しがたい物なのだろう。
何やらしゅんと肩を落とした少女の気配を上向かせようと、冷えた体躯を温めるという手段を取ったのだが、どうやらそれは正解だったらしい。
包み込んだ小躯の桃色髪の下、彼女の口元が小さく綻んだ事に何やら妙に安心する。
「――――で? てめェ、さっきから何抱え込んでやがンだよ。」
言いながら、彼女の胸元にずぼっと浅黒い大手を差し込む。それはいきなり少女の淡い膨らみを揉むかの様な動きだが、実際には彼女が大事そうに胸元に抱えた本をつまみ上げようとしての事。とはいえ、気遣いのない雑な動き。手指の一部は彼女の柔肉にも触れるだろう。
■ミンティ > 「…………毛虫を捕まえてきて見せたりはしないでくださいね」
悪戯好きな男の子たちにそうやって泣かされたのを思い出す。孤児院にいた子どものころ、臆病で泣き虫な自分なんかは、いい的だったのだろう。笑う彼の顔は、あの時の彼らによく似ている気がしたから釘をさしておいた。
自分の体温と誰かのぬくもりが封じこめられた外套の中はあたたかい。寒さで強張っていた身体もほぐれていくように感じて、丸めがちだった背中もすこし歩く間に、まっすぐに伸びて。
「っ。
……図書館で、借りた本です。
いろんなところを旅してきた人が、描いた絵をまとめた…画集。
……わたしは、王都から出る機会もないので。だから」
大きな手が胸元に寄せられる。ようやく解けかけた緊張が戻ったのも一瞬の事。まさぐるような動きをする手を抓ってやろうかと思ったけれど、抱いていた本を取り上げようとしているのだと気がつくと、素直に受け渡す。
王都を出た事もない。出たところで悪い人に捕まってしまうか、魔物に襲われて命を落とすかのどちらかだろう。そんな自分と違って、彼なら好きなところへ行けるんだろうかと見上げて、羨むような視線を向ける。
■グラムヴァルト > 「――――ハハッ、いいな、それ!」
釘刺す目的はまるっきりの逆効果だったらしく、呆れた様な少女の言葉を聞いたグラムヴァルトは、それは面白そうだとばかりに表情を輝かせる。『蛇やら蛙やらを捕まえて見せびらかすのもいいかも知れん…』なんて事まで本気で考えているのが分かる顔。
物心付いた時には既に今と大差の無い身体で、拷問と大差のない"実験"に晒されていた人造キメラには、子供時代というものが存在しない。人並みの心がようやく芽生え始めた今は、まさに悪戯盛りの悪ガキと変わらないのだろう。
こんな問題児と付き合う事になった少女の未来に暗雲が立ち込めていた。
「へぇ……、はァ……? また妙な事に興味を持ってンだな、てめェは。」
この時代、街の外は冗談抜きに無法地帯。野生の獣が彷徨いているというだけでも十分に危険だと言うのに、山賊、追い剥ぎ、人攫いまでもが悪意たっぷりに跋扈して、その上街にいたのでは目にすることすらほぼ無いだろうモンスター共まで居るのだ。一般的な街人は、行商人などを除けば一生を街の中で過ごすなんて事も珍しくない。
対するグラムは好むと好まざるとに関わらず、王都に辿り着くまでは外で生き抜く事を余儀なくされた旅暮らし。少女が小さな胸の奥で抱く"外"への憧れなどまるっきり想像出来ぬ話であった。
―――それでも心の隅の方に、その情報を留めたのは、それを口にしたのが他ならぬ彼女であったから。
奪った本を片手で開き、適当にぱらぱら捲って
「―――――ンじゃ、行くか。」
閉じた本を彼女の胸元に突き返し、足の向く先をぐるりと変えて一方的に歩き出す。狂狼の外套内に捉えられた少女は、否応もなくそれに付き合わされる事となろう。
■ミンティ > 「……こども」
見上げる角度のまま、精一杯のジト目をつくるとともに、嫌味と伝わるように声をできるかぎり低くした。なんとなく、そうしたところで面白がられるだけだという気はしていたけれど、抵抗の意思くらいは示しておきた。いつもの、不特定の誰かに対する諦めのよさも、彼にだけは使わないでおこうと。
それから小さく溜息をこぼして表情を崩す。また嫌がらせされそうだという予感は困ったものだけれど、楽しそうな彼を見ていると絆されてしまって、不機嫌そうな顔も長くは続かず。
「……わたしは、弱いですから」
理解や共感がほしかったわけじゃない。それなのに不貞腐れたような口調になってしまうのは、ただ羨ましかったから。せめて逃げ足だけでも早かったら、捕まってしまいそうになっても切り抜けるくらいの勇気があったらと、ないものねだりをしそうになって首を振る。
知らない景色を絵で楽しむのも、けしてつまらないわけじゃないから、それでいいんだと胸に言い聞かせるように目を伏せて。
「…っ。え、…い、いいですけど……どこに?」
返された本をあわてて抱え直して、どこかへ連れていこうとする彼にあわせて、すこし早足になった。同行を拒否する理由はないから拒みはしないけれど、行先がわからないのは不安で。