2018/06/30 のログ
ご案内:「水晶の渓谷近辺」にゲイゼリクさんが現れました。
ゲイゼリク > 「――あー…始まっちまったねぇ…ったく。」

そう一人の青年が遠くの戦場を眺めながら一人呟く。とある魔王からの警告は第七師団充てに打診はしたが…。
矢張り自分の意見があっさり聞き届けられる事は当然無かった訳だ。溜息と共に頭を掻いて。

「クラリッサちゃんの言う略奪行為だけは止めたい所だけど…ま、それも第七師団の進退次第、か。
…さーてさて。オーギュストの旦那が勝つか、あっちの…ロザリアだっけ?巨乳吸血姫さんが勝つか」

ちなみに、堂々と魔族の領域に居る青年だが来た方法は至極単純だ。
――”剣に乗って飛んできた”。それだけである。途中、何か何者かに撃ち落されそうになる事、実に32回…全部回避したが危なかった、ウン。

「まー、第六の師団長が単独で来てるとは他の連中も思わないだろうしねぇ」

しかし、こっち側は懐かしい。”本来のゲイゼリク”が死んだのはそもそもこちら側だったのだ。
それを思い返しつつも、視線はジーッと戦場に向けられている。

ご案内:「水晶の渓谷近辺」にアザリーさんが現れました。
ゲイゼリク > さて、出来る限り気配や匂いは消しているが…ここは魔族の領域だ。当然、この男に気付いている者も少なくは無い。
だが、こちらがただ戦場を静観しているだけならば周りも変に手を出しては来ないようで。

(…つまり、俺が下手に動いたら…うーん、参ったねぇ。さっき撃ち落されそうになっただけに)

こちらは別に魔族と事を荒立てるつもりはまったく欠片も無いのだけども。
ただ、第七師団の出方次第では流石に立場が危うくなれど介入するしかあるまい。

(…ま、旦那達の決戦に横槍を入れる気は無いんだけどねぇ)

あくまで、青年が注視しているのは略奪行為だ。それにより、周囲の…修道女の魔王さん含めた連中が同時に報復に移りかねない。
むしろ、警告と伝言を頼まれたからこそそれが事実だと分かるのだけども。

アザリー > 王城まで案内をされたはずなのに。気が付いたならば足を踏み入れていたのは元の魔族の国。流石にこの深度の魔界の空気では人間体では耐え切れず、即座に魔族体に自らを組み立て直していた。

「もぉ~。すぐ客人を追い払うなんて~。」

アポイントも無しに王城に入ろうとした結果、衛兵に至極当然の様に拒まれ。
それでも通ろうとした自分を慌てた様に案内すると言い出した結果、体よく城の外に追い出されて今にいたる。
うん、平たく言えば迷子なのである。空間跳躍もした結果だったが。

「あら~?そちらにいらっしゃるのはどなたでしょう~?」

カコン、カツン、と。不規則にミュールが水晶に躓くようにしながら何かの、誰かの気配を察知して近付いていく。
黒い髪はふわふわと揺れ踊り、香水の香りが立ち込め始めた死の臭いを和らげるように周囲に展開されていた。
男性の近くまで歩み寄るまでに何度躓いたかは判らないが、目は閉じられている筈なのに温厚な笑顔を浮かべ着実に迫り来る。
ホラー映画とも取れるような光景を繰り広げていた。

ゲイゼリク > そして、その深度に”生身で居ながら何とも無い”青年。勿論、特殊な魔具もなければ魔術でも異能力でもない。
強いて言うなら、彼が腰や背中に帯びている計7本の刀剣だが…。

「……ありゃ?」

何か自分に近付いてくる誰かを感じ取る。気配や足音や魔力ではない。それ以外の何かで判断しているかのような青年の態度。
…で、何となく顔だけを後ろに振り向いたら――うん、もう10メートルを切った所まで迫り来る?目を閉じた温厚そうな笑顔を浮かべた美女さんだ。

(…うーん、魔族さんなのは間違いないとして。何か俺はヘマしたっけかなぁ?)

既にここに来るまでに32回消し飛ばされそうになった事は棚に上げつつ。
取りあえず、敵意とか別に無いのでヘラリ、と笑顔で右手をヒラヒラと振ってみたりする。

アザリー > 「あら~涼やかな声音ですね~。それに~香水の臭いと死臭のどちらでもない匂い~。うふふ~格好良い方ですね~。」

身長差が有る分、彼を見上げてしまう形になる。段々と目が慣れる――というよりフルに回転を始めた並列思考が追いついてきたのか、足取りがしっかりと水晶や小石の類を避けながら青年のほうに歩み寄る。
何かの癖なのか、白く細長い指先で自分の顎を持ち上げるようにしながら、少しだけ男性の香りを確かめるように形の良い鼻を持ち上げ加減にして、スンスンと鼻を鳴らす。

「えぇっとー。おはようございます、でしょうか~?人間さん…みたいですけど何だか色々な匂いしますねぇ。同族さんの匂いも少ししますし~。なんだか違う良い匂いもします~。」

のんびりと。同族の臭いについては32回も消し飛ばされそうになった結果、浸み込んでしまった魔族の臭い。
人間のガワの臭い。そしてその中の本質の臭いを嗅ぎ分けてから、美味しそうな匂いという意味の良い匂いという単語が出ていた。
ドラゴンステーキ。

「旅人さんでしょうか~?それとも、迷子さんでしょうか~。もしくは~観客さんかな~?」

振られた手には、ニコニコと温和に笑顔で返しながらひらひら手を振っている。もしも観客さんであれば、取り敢えず保護でもしましょうか~などとズレた考えを口に出してしまっていた。

ゲイゼリク > 「いやいや、俺は香水とかはあまり使わんし、死臭は…んー、まぁ今は無いだろうねぇ。カッコイイかは分からんけどどーもありがとさん」

と、初対面の相手にも動じずマイペース。気さくに笑顔でヘラリと答える。
こちらに歩み寄る美女さんを眺めつつ、考えるのは…うん、いきなり消し飛ばされたらどうしようかという事。
そうなったら都合33回目になる…しかもこの至近距離だ。流石に死にそうだなぁ、と他人事のように思いつつ。

「んーーこっちの国の時間間隔って王国側と同じだっけ?まぁ、こんにちは辺りでいーんじゃない?
…って、匂いねぇ。…うーん、匂い消しはちゃんと使ってるんだけどなぁ」

スンスン、と自分の衣服やなどの匂いを嗅いで見るが特に彼女の言うような匂いとは思えず。
”中身”についてドラゴンステーキ…の、更に”内側”にまた別の匂いがあるかもしれない。
ただ、その匂いまでは流石に判別は難しいだろう。ドラゴンステーキ、というのもあくまで中身がそう例えられているだけの…いわば”偶像”みたいなもの。

「そうだねぇ……あっちのドンパチ見える?あれの王国軍側の関係者ってトコかなぁ。
まー、俺があっちの戦いに介入するつもりは無いんだけどさぁ。
もし、王国軍側がほら…勝ち負けは兎も角、略奪行為をしたら困るんだよねぇ。
…まー、だからそれを監視する目的、みたいな?」

既に魔王級の一人から警告は受けている。伝言は第七師団に伝えたが届いていないだろう。
それに、略奪行為になれば周囲の魔族が黙っていないだろうし…ついでに自分もヤバい。

(……タナールは確かまだ膠着状態だっけ?第八の師団長代理さん頑張ってくれてるし…さて)

そして、意識を改めて美女さんへと戻しまして。

「で、俺はゲイゼリクっていうんだけど、そちらのお名前は?」

まぁ、これも何かの縁だろうし、お互いの名前くらいは知っておいてもいいのではないかと。

アザリー > 「もったいないですね~。ほんの少し、香水を使うだけで~若い魔族の子に大人気になりそうな気がします~。ここまで来るのに~死臭をさせない時点で~。多分相当な腕利きなんでしょうね~」

そもそも戦闘なんて頭の片隅にすら無く、気軽に数千度程度の熱量を幾重にも重ねて生み出すことしか出来ない非力な魔族。
相手の気さくな笑顔に、元から笑顔だった自分の笑顔がさらに輝いた。
受け答えからして魔族では中々感じ得ない、良い男の気配が漂っている。

「うーん、匂いっていっても~私の場合だと~嗅覚の基本情報から並列的に色々探っちゃうので~。世界はやっぱり広いんですね~。未知の事だらけです~。」

もう1つの匂いには触れるだけ。中身を暴くことは失礼にも当たるかも知れないと思えば、漸く鼻を鳴らす事も止めている。
その後であっち、という言葉に惹かれた様にドンパチ…なにやら怪しげな結界みたいなものが覆われているが、煙や魔術光が見える。
どうやら人間と魔族の戦争のようだが――。

「介入してあげないんですか~?人間さんが~魔族を倒せるっていうのは~とても喜ばしい事ですのに~?あ、略奪なんてした瞬間灰塵に帰さしめますけど。」

応援をしているのか良く判らない相手の言動に首を傾げてしまう。
ただし、だ。略奪の単語には底冷えするほどの殺意が込められていた。
間延びはさせず、そして略奪行為に明け暮れるような者は進歩とは認めない。

魔族は大好きだ。だが、魔族は人間への優位性から進歩をとめてしまい、自分の知的好奇心を刺激してくれなくなっている。
人間が魔族を打ち破るなら、それは人間が進歩をしたと言う事。
そして魔族が次は進歩をする番なのだから――それはどれほど胸が踊ることだろう。歪な考えを頭に浮かべながら会話は続いた。

「そうですね~。お兄さんは~。調停というより裁定者って感じでしょうか~。すみません~!どうにも名乗るタイミングがつかめなくて~!私、アザリーといいます~。魔族のお姉ちゃんですよ~。」

慌てた様子で頭を下げるのは、相手に先に名乗らせてしまった罪悪感からか。空気が読めないからなのか。
何度も頭を下げているとどうも水晶の谷から魔力が吸い上げられている様にも思う。
それも、正規外のルートだ。…これは略奪なのかどうなのか線引きが難しい。

「ゲイゼリクさんですか~。人間さんっぽいのに~。ここまでこれるなんてすごいですね~……。もし~今攻めてる彼らが略奪するなら~。ゲイゼリクさんのお手を借りるかもしれませんがいいですか~?」

ゲイゼリク > 「うーーん、魔族さんとは色々お近付きになってみたいけど香水の類は疎いからなぁ。男性向きの香水とかサッパリでさぁ…あ、腕利きかは分からんよ?」

そこは苦笑気味に申しておく。単純に、今ここで彼女と戦闘になったらまず勝てないだろう。
…と、いうかそもそもこちらがドンパチする気は無いのだ。あくまで向こうの戦場の行く末を確認したいだけなのだし。

「あーー…いわゆる並列同時思考とかの類?…と、なると…あーー…参ったなぁ。」

苦笑い。そうなるとこちらの”中身”はほぼバレているのは間違いない。
勿論、その正体までは彼女の思考能力でもそう簡単には到達はしないだろうが…。
とはいえ、今の自分が”人間”である事に変わりは無いのだ…そういう契約を過去にしている。

まぁ、自分の事はさて置き。どうやら”風向き”が変わったらしく、彼女から一度戦場に視線を向けて。

「……ありゃ、これは隠し玉ってヤツかな?……俺?俺は介入はしないよーー。
まぁ、第七師団が略奪行為をしたら取りあえずしばき倒すくらいかなぁ…他の魔族さんから警告もされてるんでねぇ」

あと、隣の美女さんの声色に一瞬凄い殺意が篭っていた。うん、この美女凄い強いわぁ、と遠い目になりつつ。

「あいよーよろしくアザリー。…って、調停者でも裁定者でもねーって。そんな偉くも強くもねーし?
ただ、まぁ…そうだねぇ。略奪行為が始まったら魔族(そっち)に手を貸すさぁ」

この男にとって、人間だ魔族だという種族の括りや隔たりは正直「何それ?美味しいの?」的な違いでしかない。
故に、略奪行為を止める側に回る事に、つまり魔族に手を貸すことに別に忌憚も何も無い。

「…とはいえ、俺みたいなのがどんだけ力になれるか分からんけどなぁ。」

苦笑気味に。正直、隣のアザリーや向こうの連中含めて…自分が一番”弱い”ような気がしてくる。

アザリー > 「うふふ~。ゲイゼリクさんなら~魔族からも~人間さんからも~モテモテになれると思いますよ~。」

腕利きと言う所を流す、流せる余裕が有る分彼も又『強く』『好ましい』類の人間のようだ。やはり旅は良い、好ましい人や新しい物事に出会えるのだから。
ちょこっと、彼が避けないならばその額の近辺に指先を触れさせてみようと、腕を伸ばす。殺意は全くない。
ただ、周辺の魔力と塵を混ぜた欺瞞の簡易結界を彼の周囲に展開させようとしている。
――人間であれば、魔族と話をしている所を見られ、報告されてもそれは肩身が狭かろう。余計なお世話かも知れないが――念のためである。

「大丈夫ですよ~。お姉ちゃんは口が固いので~。今も脳内会議で、ケーキは何が最高なのかとかお話し合いの最中と次元間論争が始まってる程度ですし~。」

話せる人間というのも理解力のある人間というのも。
何より――種族に拘らないというのも。総てが面白い。自分に近い親和性を僅かに感じながら、戦況の推移を見守る。気分は授業参観の母親気分でもあるか。どちら側に肩入れするのか等はせず、淡々と見守るばかり。

「隠し球ですね~。でも、最初から使わないなら隠し球っていうより、見せる為の煙幕、偽装、欺瞞でしょうか~。
ゲイゼリクさんみたいな人が沢山増えるなら~もう少し面白い世の中になるかもしれませんね~。人魔対抗競技会とか~。」

人間の進歩と、だからといって何をしても許されると言うのではない。
其処の線引きは極端に、鋭く。例えば肥えてはならないラインを超えてしまえば末梢にいたるまで抹消させる極端さを端々ににじませていた。

「う~ん……。ゲイゼリクさんは、私よりは人の心っていうのが判ると思います~。お話すればわかってくれるかもしれませんし~。
判らなければツブすだけ。
偉いとか、強いとかじゃないと思うんですよね~。どれだけ、心に言葉を届けさせられるか、じゃないでしょうか~。力の強弱なんて、どれだけの意味があるのか~」

ゲイゼリク > 「モテモテ……あんまし縁が無い言葉だなぁ…いちおー、これでも師団長なんだけども。」

勿論、立場や肩書きという意味合いで彼女は言っていないだろう。こちらの振る舞いや性格を指して評しているのかもしれない。
そして、避ける素振りも無く額の辺りに彼女の指先が触れる。…殺意やその類は無い。
…ただ、”魔力が全く無い”彼でも己の周囲の変化を感じ取れた。これは…。

「…もしかして、結解張ってくれてる?やーーありがたいねぇ。俺、そういうの張れないし…。あ、俺はチョコレート系が好みかなぁ、ケーキは」

と、彼女の本気か冗談かの発言にもしっかり乗りつつ感謝の言葉を。そして改めて戦場を眺め。

「――まぁ、正直…勝ち負けはどちらでもいーんだよ俺としてはさ。
ただ、その後のお互いの出方…っつーか俺の場合は第七師団の出方は確認しないといけないんだよねぇ」

壊滅的な打撃を受けるにしろ、仮に敗走しても途上、略奪行為を働くなら諌めるしかあるまい。

(――や、諌めるどころか”潰さないと”いかんのかもなぁ。味方殺しはしたくないんだけどねぇ)

王国に思い入れは無いが、本来のゲイゼリクの遺言と契約もある…出来れば。

「…ま、第七師団には勝つにしろ負けるにしろ”余計に奪うのは”自重して貰いたいって事で。
と、いうか人魔対抗の競技会ねぇ。何か裏で駆け引きとか不正とか凄そうだねぇ」

と、けらけら笑いながらも人の心、という言葉に首を横に振る。

「人の心も魔族の心も…言い方失礼かもだけど、俺から言わせりゃどっちもかわんねーさ。
喜んで怒って哀しんで楽しむ。勿論無感情だったりそういう機微が無い連中も当然多いさ。
……まーーアレだ。…お互い、殺し合いでも何でも白黒付くまでやりたいならそうすればいいって。
…ただ、それで余計に波風広げるなら相応の報復は覚悟しとかないとなぁ」

王国側の人間だが、それはそれとして彼個人はどちらでも無いしどちらにも肩入れする。

「それに、俺はサボリ魔というか傍観主義なんで。誰かの心に響く言葉なんてとても言えたりしねーさ。…あと、ガラじゃないしねぇ」

と、付け加えるようにあっけらかんとした笑顔で口にする。

アザリー > 「あらあら~。縁が無いなんて謙遜ばかり~。うふふ~。師団長さんなのは、今知りましたけど~。見られては困るモノっていうのもあるでしょうから~。ちょっとだけ、サービスします~。
チョコレートも~……」

その後出てくるのは多次元ステレオの様だった。
チョコレートとは何事かチーズだという声やチョコ派でもそれは貴様生チョコかそれともフォンデュ派かだとか凡そ数十秒で1000を超えたケーキ論争の矛先が青年に向っていた。

「私は~。人間さんが人間さんを超えて行く姿は興味ありますけどね~。お仲間さんが減っちゃうのは悲しいですけど~。
それでも、進歩とかそういう単語には心が惹かれちゃうお年頃なので~。
もし、貴方が手を血で染める事に気が咎めるなら。それは私が引き受けましょう。私はそこには頓着しない。
私が~力でくちゃっとつぶして~。援軍にきた体で~ゲイゼリクさんが7師団の皆さんを~安全に連れ帰るか~略奪をさせないように誘導してあげる形でしょうか~。お姉ちゃんあんまり暴力ふるいたくないんですけどね~。」

言葉の端々に感じる義務感は、彼の心に起因するものだろうか。
何かをしないといけない、というのは本心では違う事を考えている場合に用いられる事が多い。彼が師団長であるなら、尚更その心理も理解出来るし、そう考えていても不思議ではない。
――だから言葉の途中で、本質の自分が口を挟む。彼は彼の手を汚す必要はないのだ、と。

「そうですね~。審判の買収なんて日常茶飯事でしょうし~。……ふふ。どちらもかわらないって、堂々と言えるゲイゼリクさんは~とっても素敵な人だと思いますよ~。
ゲイゼリクさんの様な人は~人間の皆さんにとってはきっと必要な存在になると思いますよ~。
大体、サボる人っていうのは~必要以外の場面でしかサボらないって~思考の100%総同意してますけど~。何か反論はあります~?」

クスクスとした笑みは悪戯を思いついた子供の様。年齢考えろ年増という声も聞こえそうだが。
戦況の推移を見守りながら、一応準備だけするべきかと。一欠けらの水晶を指で磨り潰し、空間跳躍の準備を始める。
本来補助情報が必要になる技能だが、まぁ、歩いていくよりは迷子のリスクは圧倒的に低いだろう。多分きっと。

ご案内:「水晶の渓谷近辺」にゲイゼリクさんが現れました。
ゲイゼリク > 「ちなみに、あちらで派手にやってる第七師団の一つ前の第六師団が俺の率いる師団ですよーー、と。通称【便利屋師団】…ま、雑用係さ。」

見られて困る、というのもあるが彼女のように卓越したナニカで中身を悟られるのがむしろ一番困る。
…あと、何か矛先が全部こちらに向かってきたのだが。1,000を超えるケーキ論争に「むしろ、それぞれが好きなケーキが一番でしょ」と言っておく。

「…そうだなぁ。俺としてもまぁ、人の可能性やその先っつーのは好奇心はあるけども。
…んーー、そだなぁ。いや、やる時は俺がやるって。あ、でも俺だと向こうに悟られないように偽装系の魔術だけ施してくれるとありがたいかなぁ」

何せ、”中身”の性質でこの世界の魔術は使えず魔力そのものを持っていない。
逆に言えば、それらを一切用いずにここまで来たりしているという事でもあるのだが。

「ま、アザリーの気遣いだけはしっかり受け取らせて貰うさぁ…うん、やっぱいいねぇ」

何が、と言われたら美女な魔族さんとの会話が、と答えようか。
矢張り人も魔族も、自分からすれば大した違いではない。だからどっち付かずでどちらにも肩入れしたい。
…調停者、とか裁定者を気取るつもりは毛頭無いが、先ほど彼女が評したのはそういう所なのだろう。

「…うへぇ、そういう駆け引きの類はウンザリするほど見てきたから、もう腹一杯なんだよなぁ俺。
…んーー、俺が必要とされるかどうかは分からんけど。個人的にはアザリー含めた魔族さんとも色々交友してみたいんだよねぇ」

それが、どんな残虐だろうが無慈悲だろうが。意志の疎通がまともに出来なかろうが一切合財構わない。
殺し合いなんて何時でも出来るのだから、なら会話やそれから付随するモノを楽しんでもいいではないか。

あと、何か悪戯っぽい笑顔でクスクスとそう言われたら反論出来ないではないか。

「…ったく、こっちの内面とか何か色々見透かされてる気分になるねぇ」

そう軽口を返すに留める辺り、まぁ彼女の意見が正鵠を射ているのだろうけども。
と、この会話も楽しいが戦場の推移にも意識を向けていなければならない。

「……んーー…。」

右目に掛けた片眼鏡を軽く弄る。何か芳しくないのか眉を潜めて。溜息と共にソレを一度右目から外して。

「アザリー、あの城の中の様子とかって見えたりする?」

アザリー > 「便利屋さんですか~。なるほど~。でも、それは~何をしても上手くいく要素を持っている~期待の裏返しなのでは~。」

ちなみにケーキ論争は彼の放った爆弾発言により次元間論争が白熱してしまった。
今は夫々の好きなケーキのアピールや美味しさ素晴らしさの発表会の様相を呈していた。この辺り、彼の判断の賜物だろう。これ以降ケーキ論争の言葉の砲撃が彼には向わなくなったのだから。

「ん~。ガワだけ造っちゃっても良いですか~?元は結合と分解が得意なので~。ゲイゼリクさんそのものを分解して~デーモンさんに組みなおすのが楽ではあるんですが~。
それだと~色々見えちゃって~。後々のお楽しみが減っちゃうので~。人としてのガワの表側に~昔の魔王のガワを貼り付ける感じでいいなら~。」

美女、といわれたら背中をどつかれていただろう、例えば城がまるごと突進してくる様な衝撃とともに、全力の照れ隠しの様に背中をだ。
さて、談笑も楽しいのだが――珍しく彼からの問い掛けだ。それも、比較的に真面目さを伺わせる声音。
即座に彼が気にしていた片眼鏡に自分の次元思考の一部をリンクさせ、自分が見えているのと同様。はっきりとした上空俯瞰図から、城内の様子に至るまでを自分が見えているのと同じ様に、そのレンズに集束。そして同調させていく。

彼の意識と自分の次元にある意識は同調こそ出来ないが、彼が何を望んでいるのかの解答さえ得られれば良い。
結界、妨害すら飛び越えるのが自分の力の強みであり、便利さの一つ。

「一応~私の能力をレンズに一部反映させてますけど~。不足があれば仰ってください~。」

介入は出来ずとも、彼が望めばその場にいるかのように物事が見えるだろう。時折視界に文字列が浮かび上がるのは、拡大、視点変更、縮小、解析の文字列。

ご案内:「水晶の渓谷近辺」にゲイゼリクさんが現れました。
ゲイゼリク > 「いやぁ、ウチは少数精鋭、という裏を返せば人材難の状態だからねぇ。
ま、他の師団の援護とかパシリとかよくやらされてるさー。お陰でコネは広がったけどねぇ」

様々な師団に顔が通る様になったのは有り難い反面、何かあれば無茶を頼まれるリスクも上がるという事だ。
そして、優秀な者は多いが絶対数が少ない第六師団…師団長である男が自らあれこれこなす羽目にもなる。

「…え、何かサラリと恐ろしい事を口にしてない?…あ、ならちょうど良い”ガワ”が一つあるぜ。
……よいしょ。」

と、背中の刀剣を引き抜く。藍色の片刃の刀身を持つソレ。そこに指を滑らせてトントンと叩く。…と、急に刀身から拳大の黒い宝石のような玉が飛び出して。

「これ、”本来の”ゲイゼリクと相打ちで死んだどっかの魔王さんの”核”。
俺のガワの表側に貼り付けるなら、これを流用してくれたほうが楽だと思うんだよねぇ」

本来のゲイゼリクが命と引き換えに全力で相打ちに持ち込んだ魔王の核。
それを彼女に手渡そうとしつつ。それを彼女の力で分解・結合してガワにしてくれれば話が早い。
ちなみに、そんな力で背中をどつかれていたら中身は良いとしてガワが死ぬ。
さて、気になる城内の戦況の推移だ。この片眼鏡の機能では少しばかり厳しかったが…。
何やら、彼女が”同調”させてくれたお陰で急に良く見えるようになった。むしろ情報が多過ぎて取捨選択に困る。

「…うへ、凄いなぁこれ……んーー、戦いは大詰めって所かな?けど、”そっち”は別にいいんだよなぁ。
…アザリー、地下の方見れる?多分、あの城の主の吸血鬼さんの領民さん達とかが匿われてると思うんだよねぇ」

気になるのは”戦えない魔族たち”であり、それ以外の連中は一先ず、状況だけ分かれば青年はいいらしい。
この場合、視点変更や解析を併用すればいいのだろうか。操作はアザリーに任せるしかない。

ご案内:「水晶の渓谷近辺」にゲイゼリクさんが現れました。
アザリー > 「コネは大事ですね~。可愛い可愛い妹とか~可愛い同族さんとかは~是非コネを造りたいです~。皆先に~旅立っちゃうんですけど~。
大丈夫ですよー。結合の部分だけパラっとやっちゃえば~後は繋ぎ直すだけなので~。直ちに危険な事はないと断言できちゃいます~。」

魔王の核といえばとんでもなく貴重な触媒だろう。
これを売りに出すだけで何世代が豪遊したとて尽きぬ資金が手にはいる位には。
その核となった魔王よりも、本来のゲイゼリクという一人の騎士には敬意を抱かざるを得ない。
惜しむらくは、その相打ちとなる魔王が自分であればと思わせるほどに。
手に受け取ると僅かに残された思念と魔力のパターンの解析をしてしまうのが自分の性だ。
そして――良い事を思いついたとばかり、ニンマリとしたずるい笑顔を浮かべて頷く。

「そうですね~。では折角なので~。魔王さんのガワと共に~。魔王さんの力も再現させちゃいますね~。うふふ~。大丈夫~。今のゲイゼリクさんは~力に溺れるような弱い人じゃないですし~。
頑張れ、若人~」

渡してはいけないオモチャを渡してしまった。
但し、特別な何かをするわけではない。黒い核に魔術の経路と文字を刻み込み、それに意味合いを持たせ、彼の意識のままに同調させるだけ。
分解するのは核の極めて表面的な部分のみ。結合は周囲のあらゆる物質を巻き込み、解析や透視といったものを阻害させる。
更にいえば魔王の力そのものを使える様にする事で、『正体が魔王である』と言う意味合いを強固にさせる事でレジストへの強い耐性を持たせることも出来る。

「この世界の魔力は~馴染まないそうなので~。私の28番魔力炉…はこの間つかったので、141番の魔力炉をお貸ししますね~。
地下ですね~。少々お待ちを~。」

地下という声から何かを察したのだろうか、映し出されたのは――あの城の地下の一室。恐らく戦闘能力を持たないか、避難の為に分けられたのだろう民衆が集う場所を見下ろしている視点変更が行なわれた。

「探し物はこちらでしょうか~?」

ご案内:「水晶の渓谷近辺」にゲイゼリクさんが現れました。
ゲイゼリク > 「お、おぅ…と、いうかアザリーって、もしかして……あ、ウン何でもないわ。」

思わず「めっちゃ長生きしてない?」とか聞こうとする所だったが、年を聞くのはタブーな気がしたから止めておいた。
ともあれ、今のゲイゼリクの肉体も何だかんだで愛着はあるので、出来れば分解・再構成は勘弁して貰いたい。

さて、彼女に渡した魔王の核…当然本物だ。死に際のゲイゼリクと契約した際、何かの役に立てばと受け取った物。
まさか、こういう形で役立つとは流石に思わなかったのだけれども…。
…否、それよりも。彼女が何かニンマリとした笑みを浮かべたのが気になる。
例えるなら、何かとても良い事を思いついた悪戯っ子のような――…。

「……あの、アザリーさん?それって、俺の正体が魔王と勘違いされかねない事態に…ねぇ、ちょっと聞いてる?」

あれ、おかしいな?ガワだけ再現して貰えればいい筈だったのだけれど。
彼女の性格をこの短時間で読み切れなかった、というのもあるがそれよりも、だ。

「えーと…あぁ、そうこれこれ。…んー、まぁ誰かしらあの吸血鬼さんの仲間さんが守護してるのは間違いないとして」

片手を顎に当ててふーむ、と唸る。完全にあちらからすれば想定外の闖入者、余計なお節介になりそうだが…。

「ま、最悪の場合だけどあの領民さん達だけでもこっちに脱出させとこうかな、と。
捕虜とか皆殺しにされたら洒落にならんしねぇ…まぁ、ホント最悪の場合だけどさ」

と、アザリーに己の考えを簡潔に口にして。…あと、魔王の核の調整は済んだみたいだが。

(…そうなると、人間で魔王で――…っていう三重存在になるんだろーかなぁ、俺)

アザリー > 「あ、大丈夫ですよ~。一時的な魔王化をするだけです~。
意識的に~魔王になる~って思えば~後は全部やっちゃってくれますよ~。
多分ですけど~。この子…あ、この魔王さん~。空間転移とか防御結界も造れるでしょうし~。目的とは合致すると思います~。解除したい時は~解除したいって思えばいいですし~。
何よりも~、ガワだけだと~魔術的なレジストにもそうなんですが~物理火力で吹飛ばされかねないんですよ~。」

これもゲイゼリクさんを守る為の~必要な事なんです~などと容疑者は述べており。
実際言葉には嘘はない。人間のガワを保護するなら、いっそ魔王化して表層の防護力を引き上げるべきだし、刀だけでは捌けない局面もあるだろう。

「魔王化といっても~本当に一時的ですし~。何よりこの魔王さん、もう~現界も復元も出来ないですから~。ゲイゼリクさんが乗っ取られるというのも~ないですよ~。」

人格の維持も彼なら大丈夫だろう。
目的を見失って暴走するような人物でも無さそうだ。
そういう信頼を込めてのいたず、工夫である。
ぽん、と核を手渡した後で背伸びをする。どうやら頭を頑張って撫でようとしているようだ

「ふふ~。いいこいいこ~。」