2017/05/03 のログ
■エアルナ > 「はい。障壁用に魔力を充填した石を使ってますから、大丈夫です」
予備の石。あらかじめ魔力を込めておいたものも、今回はちゃんと持参している――うち一つは、狼の首輪に嵌めてある。
怪しいガスをうっかり深く吸い込めば、それだけでも撤退する羽目になりかねない。
ねちょ、と嫌な音のする足元は動きも阻害されそうだ。
そして。
「あれは…多頭蛇。ヒュドラ、の種族ですか」
首は5本。かつて英雄と呼ばれた男が退治したのは、たしか9本首だったから、あれでもまだかわいい方か。
いや、こちらを獲物としか見ていない態度を見ると、まったくかわいいなんて縁がなさそうだけど。
特徴は毒と、そして驚異の再生能力。英雄の倒したそれは、一つ首を落とせばそこから二本の首が再生した、という。
「…首を減らす、ことからですね?」
ともあれ、作戦はそこからか。
青年の剣が首を落とすなら、即座にその、断面をなんとかするのがセオリーか。
それでいいか、と。視線は蛇から離さず、確認する。
■マティアス > 「成る程、準備がいいね」
行く場所が定まっていれば、準備をする。冒険者のみならず、どのような身分の者でもそうだろう。
目的地の様相が明確であれば、それに沿った準備をするのは当たり前だろう。
死にに行くために、戦う訳でではないのだから。
素質は折紙付きである。だが、経験が足りない。死地に塗れるようなそれが足りない。
危惧すべきはそれだ。
「如何にも。――正直言うと、この手の相手は苦手でね」
単純なパワーと尋常なさざる再生力。それらの組み合わせは下手な小細工をも、容易く打ち破る。
故に戦い辛いと評する。必要なのは再生を阻害するための備え。だが、それよりも圧倒的な破壊力も必要だ。
「それもあるけど、一気に首を落とせるほど、滅ぼせる程の力も必要かもしれないね。
あと、エアルナ嬢。予め言っておく。まずいと思ったら即時、全力を以て撤退するよ? ――良いね!」
魔力を剣に流せば、強い白銀の光芒がその刃に宿る。
口の中に紡ぐ呪句を以て高めた魔力を人頭大の光球として固め、己の周囲に浮かべる。衛星の如く周回するその数は四つ。
強い語調を以て、同行者に告げたところに魔物が襲い来る。
地を蛇行し、5本の首を束ねて喰らい付く姿はまさに、怒涛の如く。
強く地を蹴って、泥を蹴立てながら横手へと飛びのこう。其処に切りつければ、毒血が舞う。
――それもまた、吸い込むだけで肺腑を侵す猛毒である。咄嗟に口元を抑えながら、吸い込まないように気を付けて。
■エアルナ > 『マティアスさんにも、苦手ってあるんですか」
意外だ、というニュアンス。たいていの相手は、正面・からめ手を素早く切り替え余計な力は使わないで対処してしまうだろうに。
もちろんそれは、自分よりはるかに深い経験の積み重ねがあっての上、熟練さがなせる業だが。
「ん、…承知しました。あれ一匹だけならいいですが――もしも、の時は。」
あれが複数いるのはあまり考えたくないし、縄張りを持つ怪物ならそうそう何匹もの群れを作ったりしないものだが。
例外はある、例えば、春先の牝熊が生んだ子熊を引き連れているように。
…子蛇がうぞうぞ出てきたりしたら、最悪だ。
一匹のこさず掃討するには、ギルドからも相当の人数がでなくてはならない。
青年が光の球体を生み出すなら、こちらが生み出すのは氷の礫。
蛇は低温には弱いもの、斬り落とした首の断面にすかさずそれを打ち込み氷結させてやろうと考えて…
「氷よ 礫となりかの蛇を打ち据えよ」
白銀の剣が蛇を切り付ければ、即座に――その傷口めがけ、氷の魔法を放つ。
再生する前に、傷の回復を阻害し、毒の血の被害も抑えようと。
白狼はまだ動かず、周囲を警戒している――
■マティアス > 「小細工でどうにかならないものほど、面倒極まりないものはないよ」
余分な力を使わないというのは、どこをどう転がせば、うまく操れるかということを知っているからだ。
しかし、転がすにしても、ちょっと押すだけでは済まないものをどうすればいいのか。
それこそ、例えて言うのなら、梃子をつかっても動かないモノとの付き合い方を考えるににも似る。
真っ向からの正攻法も無論、それに相応しい作法を心得てはいるが、この少女はどうか。
「多分、それはないと思うけどねぇ。
しかし……はっきり言うよ? 多分、君には手に余る類のモノだ」
もう一体の多頭蛇の心配はないだろう。そうであるならば、この辺りはより荒廃しているに違いない。
問題は、この手の怪物に対する経験がこの同行者たちにあるのかどうか、である。
何故ならば――。
『――――!!!』
「まずい、ッ。奔り――穿てッ!!」
蛇やトカゲに対する低温に晒されても、さほど痛痒としないということである。
切り裂かれた部位に霜が落ち、霧状に散った毒血が凍る。しかし、動きが鈍る様子はない。
何故ならば、臓腑の温度は人間よりも熱い上に、体液自体も低温化でもその流動性を失わない。
そんな氷の術の使い手に対し、首の一つを向けて魔物は大きく開いた口腔から毒気の塊を吐き出す。
直撃させまい、と周囲に浮かべた光の塊の一つを飛ばし、顎下を叩きあげる。
そうすれば直撃はしない。しかし、それた毒のブレスは吐き出される勢いだけでも、衝撃を生む。
腐った地面を穿ち、衝撃波と共に着弾位置に居るものたちを吹き飛ばすほどのインパクトを。
■エアルナ > 「あれを実際に見たのは、初めてですが――」
はっきり言われ、いぶかし気な表情が顔をよぎる。魔法が効かない相手でもなさそうだが、と。
が、その答えは、すぐにでた。傷から零れた毒の血は凍結したが、本体の動きが鈍る様子はない?!
それだけ元の体温が高いのか、皮膚が分厚いのかなんなのか。
ようは、さほどこたえていないのだ。
さらに、こちらに向かい開いた口の中には――
「えっ!?」
直撃を避けようと、とっさに横に動く。蛇の顎を叩いてくれたのも見えた。
が。直撃ではないが、わりとちかくに落ちたその衝撃は…
どろどろの地面ごと、自分と狼を吹き飛ばした。
数メートルは軽く後ろに飛ばされ、思い切り泥に突っ込み、転がる。
「痛…っ」
一瞬、息がとまるほどの衝撃。
威勢よく飛ばされた衝撃に、派手にあちこちぶつけたらしい。
風の障壁を張っていなければ、骨も何本か折れていただろう。
うめいて、何とか立ち上がろうとするが、潤滑には動けない。
■マティアス > 「……!」
そう、そうなのだ。蛇や蜥蜴の類に凍結や低温に由来する魔法は確かに有効だろう。
しかし、常に有効であるとは限らない。
まして、正真のヒュドラではなく、その眷属の類であったとしても、竜と呼べる類のモノだ。
毒血をその身に巡らせ、巨大であり、さらにその上耐久力もある。
つまりは――見聞きする全てが脅威であることが分かる。
開いた口は声無く相手の名を呼び、脳裏で思考を巡らせる。左手を剣指に結び、指先に魔力の光を乗せる。
ぴっと指を縦横に動かし、光の軌跡を以て描くのは複雑な魔法陣。
「全く……! 退くよ、エアルナ。此の侭じゃあ駄目だ」
魔力を呼び起こし、魔法陣より放つのは白い光の連弾。
弾幕と形容できる指先大の光の礫を連射し、それらを多頭蛇の顔に殺到させながら倒れた姿への傍へ
寄る。
しゃがみ込めば牽制の弾幕を止め、倒れた姿を左手で抱きあげよう。
■エアルナ > そうか、と痛みとともに思い知る。
あれはただの蛇ではなく、むしろ――竜、に分類されるものだったと。
体力も身体の大きさも、同族の中では小さいかもしれないが、十分脅威だ。
この付近をすっかり毒の沼地へ変えてしまった、それだけの力を持っている。
「クッ…ペロ、」
大丈夫かと呼べば、泥の中から何とか起き上がる狼。
よかった、と安堵したものの、自分は脚をどこか痛めたのか。
旨く起き上がれずにいるところを、抱き上げられる――
『マティアスさん――すみません、くじいたみたい、です…」
片腕だけで抱きあげられるのは、さすがだ。
だがここは、自分の足が効かない以上、無理はできない。
撤退しかない、とその言葉に頷いて。
ペロ、と呼べば狼もまた、すこし足を引きずりながらも。
沼から離れ、安全な方向へと誘導するかのように走り出す――
ヒュドラとの対戦は、撤退に終わった。
大いに反省する点をいくつも残して…
■マティアス > 然り――高位の智慧ある、翼ある竜でなくとも、これもまた竜の類に分類されるものだ。
生半可な装備と力量、そして何よりも経験がなければ無造作に自分たちが駆逐されてもおかしくない。
周囲の生態系を貪り、支配し、果てには自分に都合のいいように変えてしまう。
現状の痛手で済んだのが、恐らくは不幸中の幸いであろう。
しゃがみ込み、倒れた姿を抱き上げてゆけば足元の泥が服や装備に付く。構うものか。
「……――分かっているよ。この場を離れ次第治療しよう。今は少し、我慢しておくれ」
厳しい面差しながらも優しく声をかけ、迫るヒュドラを前に手にする剣を足元に突き立てる。
紡ぐ呪句が魔力を導き、組み上げるのは淀んだ汚泥を固めて作る壁だ。
一枚の壁とはいえ、高く、広く、そして分厚い。巨体がぶち当たっても少しは耐える位に。
得た隙に、全速を以て撤退を果たす。近いうちに討ち果たす。そのために――。
ご案内:「瘴気溢れる沼地」からエアルナさんが去りました。
ご案内:「瘴気溢れる沼地」からマティアスさんが去りました。