2016/06/26 のログ
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院」にツァリエルさんが現れました。
ツァリエル > 王子のひとりとして王宮に召し上げられたあとのツァリエルは
当然王族としての嗜みとして礼儀作法や一般教養、高貴なものが当然として身に着けている
この国の知識や政策、軍事や地理などを学ばなければならない。

学院へは週に何日かお付きのものとともに通い、王族専用の個室に一流の教師をあてがわれている。
贅沢この上ない学びの場である。

そしてついこの間までどうにも消極的な意欲を見せていた彼が
ここ最近意欲を見せ、しっかりと勉学に励む様子を見せていた。

もともと修道士として読み書き程度はなんとかできるし
本を読むことも苦ではない性分であるから武術の稽古などよりずっと
成果が上がっていた。

今日も講義が終わり、教師ができの良い生徒をしっかりと褒めた後
一礼してから個室を出てゆく。

緊張と集中力に張り詰めていた体をほぐし、ほっとツァリエルはため息を付いて机と椅子に深く座り直した。

ツァリエル > 侍従たちが帰り支度を整え始め、教科書や筆記具の類をしまう。
促されるように席を立ち、個室を出てゆく。

王立の最高学府であるだけあって、学院の敷地内は広い。
王族専用の個人用教室棟から屋外に伸びる一般教室棟への道を
供を連れ立って歩く姿に、すれ違う学生たちが振り向いてはひそひそと話す。

なんだかひどく悪目立ちをしているようでいつまでたっても慣れなかった。
恥ずかしそうに身を縮め、なるべく好奇の目から避けるように静かに歩いてゆくが
それが逆に他人から視線を注がれる結果になる。

あ、と思い出したことがあって声を上げた。
この間図書館から借りた本を今日返そうと思っていたのだ。
その旨を侍従に告げると
「そのような用事は私に言いつけてくださればよかったのに。
 すぐ返却してまいりますよ」
と、かって出てくれたのだが他に借りたい本もあるのでと
自分一人で図書館へと赴くことにした。

侍従には玄関口で待っていてもらうようお願いして、
途中の道で別れて歩いてゆく。

ツァリエル > 図書館の入口から、受付にて借りていた本の返却手続きを受けると
ワクワクした様子で目的の書棚の方へと脚を進めていく。

分類は文学、特にツァリエルは子供らしく英雄譚を好む子だった。
自分の背丈の倍以上ある書架にぎっしりと本が詰まっている。
古めかしい紙の匂いは決して嫌いではなかった。

それにここは人通りが少ない。それほど好奇の目に晒されることもなく
ツァリエルが一息つける場所でもあった。

背表紙の文字を追いながらどれにしようかと楽しそうに本を選ぶ。

ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院」にテルヴェさんが現れました。
テルヴェ > 冒険者でありながら、ここ半年は剣盾を携え遺跡に潜るような仕事は一切受けず、宿の小間使いめいた役回りに徹していたテルヴェ。
当然、そんな仕事がいつまでもあり続け、あるいは彼に回され続けるわけもなく。不作の時期もある。
宿の主人曰く、「遺跡に行く気がないならせめて遺跡の情報集めてこいや」と。
宿には、旅人や他の冒険者からもたらされる遺跡の報せが数多くキープされているが、いずれも詳細な情報が少ない。
そのままでは価値の低い情報のままであるため、冒険者の宿はいくつかの情報筋を用い、遺跡の作られた年代や詳しい位置、深さ、難易度、想定される見返りの度合いを煮詰める。
……テルヴェは今回、その役割を押し付けられ、慣れない図書館へと来ることとなったわけだ。

平民も出入りする場所とはいえ、基本的には王族・貴族の多く屯する場所。
さすがのテルヴェも普段の薄汚れた布服ではなく、真っ白に染め上げられた綺麗な上下を着込んでいる。宿から押し付けられるように貸されたものだ。
慣れぬ装いもあいまって、図書館に踏み入るテルヴェは元々小柄な体躯をさらにちぢこまらせ、まるで借りてきた猫のよう。

「……うー、そもそも遺跡の情報とか手がかりなんてどこにあるんだろう…」

幸い時間は充分ある。いきなり人に聞くのも怖い。とりあえずはこの広い図書館をざっと歩きつくし、どういう場所かを把握するところからスタートである。
なおテルヴェは一応識字能力はある。一応程度であるが。

「…この辺は、物語とかの棚かな? きちんとした歴史や地理の本は別の所なのかな……あっ!」

棚に並ぶ背表紙を舐めるように眺めながらトボトボと歩くテルヴェ。うっかり、同様に書物を吟味していた褐色の少年にぶつかってしまう。

「……あ、ご、ごめんなさい……」

相手の顔や身なりも改めず、とっさに頭を下げて謝るテルヴェ。金の短髪が勢い良くなびく。

ツァリエル > こちらも背表紙を追うのに夢中でつい向かいからやってくる相手に気づかなかった。
軽くお互いの体がぶつかった拍子に手をかけていた本が何冊かばさばさと書棚から落ちてしまった。

「あ、いえ、こちらこそ……ごめんなさい」

どうやら自分と近しい年の相手らしい。頭をしきりに下げる相手にこちらも同じように頭を下げる。
落ちた本を拾い上げようと屈み込み、横目でちらりと相手を見やる。

場馴れしているようにも見えないし、ここの生徒にしては制服ではないし衣服も真新しい。
比較的開放された学校ではあるのだから普通の子供が珍しがって入ってくることもあるだろうとは思う。

(……迷子?)

すこしだけ不安な考えがよぎった。

テルヴェ > 幼い体格に変声期前の声色、おどおどした態度。そして飾り気の欠片も見られない質素な着衣。
初対面であれば、平民の子供と見受けられてもまず不思議ではない出で立ちだ(冒険者装備を着込んでても同じかもしれないが……)。

「あ、拾いますよ」

そして小柄で服装もゆったりな分、動作は早い。先んじて相手が落とした本に向けて屈み込み、拾い上げる。
そうして顔を上げて、テルヴェはようやく、相手の全身像を朱色の瞳に映した。

(……豪華な服装……貴族、いや王族のひと??)

こくりと一つ唾を飲み、しばし目の前の少年をじっと眺めるテルヴェ。
平民地区での暮らしが板についた身である。貴族の類を目にすることはそれほど多くない。ましてや王族など。当然王城になど足を運んだこともない。

やんごとなき身分の者を凝視するのも失礼か。数瞬のちにそのことにようやく気づき、ふるふると首を軽く振ると、再び深く一礼。
そして、やや強張った肩肘を懸命に曲げて拾った本を差し出しながら、焦りの含まれた声を発する。

「ご、ごめんなさい僕の不注意で! ……あの、その、僕、冒険者のテルヴェといいます。えと、その……貴方は王族の方で……?」

ここは図書館、静粛が原則。すぐに声のトーンを落としつつも、テルヴェは問いかける。

ツァリエル > 手早く本を拾いあげて手伝ってくれる相手にありがとう、と微笑みかける。

だが彼がじっとこちらを見ていれば何かおかしなことでもあったのかと
戸惑うように顔を曇らせた。
拾い上げてもらった本を受け取り、

「い、いえ僕も本に気を取られていたから別に……。
 冒険者のテルヴェくん、ですね。ええと僕はツァラトゥ……」

そこまで言いかけて自分の本名よりも普段から使い慣れている方を選んで告げる。

「ツァリエル、っていいます。王族というか王子というか……
 でもあの、あまり人前では言わないでください……。目立っちゃうから」

どうにも居心地が悪そうに身を縮めながら、受け取った本を丁寧に書架へと戻してゆく。

「それにしても、冒険者の方がどうして図書館に?何かお探しのものでもあるのですか」

テルヴェ > 「ツァリエルさん……いや、ツァリエル様、でしょうか? ごめんなさい、僕あまり礼儀作法も知らず……」

名前を一瞬言い淀んだところも、軽く首をかしげつつも、位の高い者には名前一つにも色々と事情があるのだろうと察し、流す。
ましてやこの国は未だ燻り続ける戦火もあり、色々と後ろ暗い所も多い。そんな王都にて位を高く置き、高くあり続けることの苦労も…。
…実のところ、想像だにできない世界ではあるが。

「はい、探しものです。大昔に造られたと思われる遺跡について情報を集めろ、と頼まれたもので。
 歴史や地理の書架に行けば見つかるだろうとか言われたんですが……その、僕、図書館自体ほとんど来たことがなくて」

目を伏せ、もじもじと両手の指をすり合わせながら説明するテルヴェ。しかし、初対面の相手なのに珍しく、不思議と言葉が湧いてくる。
いかな身分が違いすぎるとはいえ、近しい年代の同性が相手だからか。

「勉強を兼ねてと思って、しばらく色んな書架を見て回ろうかなって思ってたところでした。
 ……ツァリエル様は、その、冒険者とか、冒険みたいな泥臭い真似なんて、きっと無縁なお暮らしをされてるんでしょうけど」

そして舌が軽くなりすぎてしまったか、揶揄とも取れる言葉を紡いでしまう。
きっとそれは相手の身なりや物腰から安穏な生活を想起し、羨んでしまったがゆえか。

ツァリエル > 「あの、ええと……そんなかしこまらないでください。
 学院では皆が平等に学ぶ生徒なのですから」

とはいえ、自分の身分を考えればこうして敬称をつけなければ
咎められるのはテルヴェの方だろう。
無茶難題を言って困らせてはいけないのだが、どうにも未だに敬われてもむず痒いのである。

「遺跡の情報ですか……えっと、それならここじゃなくて……
 案内します。ついてきてください」

テルヴェに手招きをしながら書棚の間を歩いてゆく。
何度かここに来たことがあるので、大体の分類は頭に入っているのだ。

テルヴェが揶揄に似たことを言っても、特に怒ったりはしない。
ただただ苦笑して困ったように

「確かに冒険はしたことがないのですが……遺跡には赴いたことがありますよ。
 この国に幾つかあるうちの名前もない遺跡でしたけれど。
 素人の僕ではとてもじゃないけれどあんなところには一人で行きたくはないです……。
 でもテルヴェさんは冒険者としてきちんと準備をして乗り込むのですね。
 勇気がお有りだと思います」

どうも会った時から気弱でもじもじと覇気のないテルヴェではあるが、
もしかしたら遺跡などに行った時には勇敢さが現れるのかもしれない。
そうでなくとも冒険者としてやっていくのならいくらかはそういった心がなければ続けられないだろうとも。

テルヴェ > 「冒険ではなく、遺跡に赴く……? 調査か何かでしょうか。……あ、申し訳ありません案内させてしまって……」

ツァリエルさんが手招きするのに合わせ、へこへこと軽くお礼のお辞儀をしながらも付いて行くテルヴェ。

「名もない遺跡……というより、この辺りには名前のない遺跡のほうが多いですよね。
 ちゃんとした名前が付いてるところとか、だいたい荒らしつくされちゃってるでしょうし……アハハ」

案内されるがままに褐色少年の後を付いて行く。
周囲の大人から比べれば小柄ではあるが、それに輪をかけて小柄……というより全くもって児童と呼ぶべき体格のテルヴェからすれば、プラチナブロンドの艶やかな頭を追いかけるにしてもやや見上げるような視線になる。
そして、その道すがら、このツァリエルさんが遺跡に潜ったという時の情景を思い浮かべる…。
…華奢な身体と優しげな瞳。武器はもちろん、鎧でさえも似合わなさそうな出で立ち。自分のことは棚に上げ、テルヴェにはどうしても想像できなかった。
草花の整えられた庭で白いテーブルにくつろぎ、紅茶片手に書物を開いているような光景のほうがずっとお似合い……かなりステレオタイプな想像ではあったが。

「い、いえ。僕が乗り込むわけじゃないです。ただ、他の人に渡るであろう遺跡の情報を、より精確にするよう頼まれただけでして。
 ……ほんとは僕だって、まだ誰も行ったことのない遺跡を見つけて、漁って、一攫千金は狙いたいと思ってますけど。
 でも……」

自分がこれまで潜った遺跡。その体験を思い出そうとして……その身が凍りつく。
スライムに数日に渡り籠絡された記憶。
ローパーや脳を吸う洗脳怪物に捕らわれ、異形の責め苦を受け苗床と化した記憶。
口にするのはもちろん、思い出すことさえ躊躇われるトラウマの数々。それらが、テルヴェを遺跡探索から遠ざけていた。

「……僕、遺跡でいろいろ嫌なことがあって。もう二度と、そういった場所には行ける気がしないんです。
 だからせめて、他の冒険者には同じような目には遭ってほしくないって思って、この情報収集の依頼を受けたんです。
 勇気なんて、そんな……僕にはそんなもの、全然ないです。冒険者失格ですよね……アハハ……」

笑っていない、むしろ半泣きに近い潤んだ瞳でツァリエルさんを見上げながら、乾いた声で自嘲するテルヴェ。

ツァリエル > 「ええと、うーんと…知り合いのお手伝い…みたいなもので……」

以前知り合いの魔族に王族にしか解けない封印を開けるよう頼まれて
連れて行かれただけでツァリエル自身はあまり役に立っていなかったのだが。
あまり良くない記憶であるし詳細については言葉を濁す。

時折振り返りながらテルヴェが自分の後ろをついているか確かめながら歩いているが
段々とテルヴェの語る言葉が重くなり、顔色も悪くなっている気がすれば心配そうに顔を覗き込む。

「テルヴェさん……。よほど怖い思いをされたのですね」

苦しそうな表情のテルヴェに立ち止まって向かい合い
その肩に手をのせて慰めようとする。

「冒険者がどんな仕事をしているのかをすべて知っているわけではありませんが
 でも、そうやってもう二度と怖い思いをする人を出さないために情報を集めて危険を減らすことは
 大事なことだし、テルヴェさんはとても優しいと思います。
 
 何も剣を振って、蛮勇を示すだけが冒険者ではないでしょう。
 皆がみんな、そうすべきとは思いませんし小さなことでも日陰で働いていても
 同じように役立つ、大事な役目だと思います」

自分よりも小さな背丈のテルヴェがここまで落ち込んでいるのは見ている方も辛かった。

「僕は、テルヴェさんはとても立派な冒険者だと思いますよ」