2015/10/11 のログ
■オーベ > (日暮れ近くまで採取をし、逸れた老犬が戻ってくれば採取を切り上げて小屋へと帰っていくのだった)
ご案内:「森」からオーベさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区(路地裏)」にティネさんが現れました。
■ティネ > 「よいしょ……っと」
平民地区に立ち並ぶ酒場の一つ――その裏口、
少しだけ開いたその扉の隙間から、小さな影が現れる。
果物や干し肉などの革袋を、紐で自分の身体に縛り付けた小さな妖精が這い出してきたのだ。
「用心深くなくて助かるなぁ~」
といっても、妖精のような存在に対するセキュリティ意識の高い店舗など稀であろう。
文無しのティネが食料を得る手段はこのようなこそ泥が主であった。
「……飛べない……」
食料の詰まった革袋は、ヒトにとっては片手て持てる程度だが
ティネにとってはそれなりの重さのようで、ひいこら引きずってるのが見て取れる。
あきらかに盗りすぎであった。
■ティネ > このような間抜けな事態は何もはじめてではないのだが、ティネは学ぶ気配を見せなかった。
どんぐり程度の脳の大きさでは覚えきれないのかもしれない。
食料を盗むのに成功しても、それをどうするか、という問題がある。
近くの空き家や馬小屋あたりに隠す、あたりだろうか。
馬小屋は藁が敷いてあって、潜り込んで眠るにはなかなかちょうどいい。
臭いけど。
そこまでたどり着けるかどうかがすでに怪しいが。
なにしろ荷物が多すぎる。
かといって一度盗んだものを置いていくというのも気が進まない。
近くの物陰で消費してしまってもいいのかもしれないな……とか考え始める。
小さな路地裏も小人の身にははてなく広く感じられた。
■ティネ > ……結局、
少しだけ消費していくことにした。
袋から小さな果物を取り出して、両手で掴んで頬張る。
甘酸っぱくてそれなりにおいしい。
疲労した身体に染み渡り、顔がほころぶ。
(……のはいいんだけど、全然文明的じゃないな……)
この身体になってからというものの、手づかみだったり丸かじりだったりばかりだ。
自分用の食器なんてあるはずもないのだからしかたないのだが。
それにいただきますをともに言う相手だっていない。
ロンリーに生きていけるほど少女の心はまだハードボイルドではない。
「ん……」
食べ進めていると、なんだか暖かくなってくるのを感じた。
……身体が火照ってきた。顔が赤くなる。
アルコール成分の含まれる果実だったのだろうか。
■ティネ > 人間と妖精では当然からだのしくみが違う。
人間にとっては微弱すぎて毒にはならなくても、
妖精の身体ではそうではないかもしれない。
足元がふらつく。
重くて飛べない上に歩くことすらままならなくなってきた。
食料を縛った紐を解こうとしたが……指先の動きもおぼつかない。
「あ、あ……」
もし今、悪意ある誰かに見つかったら……逃げることすらままならない。
それどころか、鼠か何かでさえ恐ろしい。
「ふぁっ……」
情けなさに泣きそうになってくる。
どうして毎日食べ物を見つけるだけで命の綱渡りをしているのだろう。
ぐるぐると目が回る。下半身が熱くなるのを感じる。
きっと、さっき食べた果物のせいだ、そうに違いない。
ほとんど躊躇うこともなく、誰の姿もない路地裏で、
震える指が服の下へと潜りこむ……
ご案内:「王都マグメール 平民地区(路地裏)」にツァリエルさんが現れました。
■ツァリエル > 王都へと年上の司祭に着き従って奉仕活動へ訪れたその帰り。
少しだけ散策をしてもよいと言われて訪れた路地裏で
何やら袋が転がっているのに気付いた。
誰かの落とし物だろうかと近寄ってみてみるとそのそばに
何か人形のようなものがもがいていて目を見張った。
ネズミかもと思ったが違うようだ。
それがおとぎ話に聞く妖精であると気づけたのは彼女の蝶の羽だ。
初めて目にした妖精の姿に息をのむも、どうやら相手は顔を真っ赤にしてぐったりと力がない。
「どうしました……っ!」
何か病気だろうかと慌てて声をかけるも、その手が服の下にもぞりと入り込むと踏み出しかけた足を止めてしまった。
■ティネ > 「わ……!」
現れたヒトと、かけられる声に行為は中断される。
反射的に蝶の羽根を広げて飛び立とうとするも、
革袋が枷のように働いてかなわず、べしゃりと顔面から墜落する。
「え、えへへ……よ、よっぱらっちゃって……
お、おかまいなく……」
緩んだ笑い。
這いつくばって彼を見上げ、言葉を繕う。
先ほど、何をしていたか見られただろうか。
元々赤らんでいた顔がますます上気する。
無害そうな少年だが聖職者の服装をしている。
魔物扱いされて駆除されるかもしれない……
そんな考えが浮かび、わずかな恐怖もあった。
■ツァリエル > 話ができる相手だということにほっと息を吐いてそろそろと近づいた。
顔面から倒れこんでは痛いだろう。
それに服の下に手を伸ばしていたのだから
もしかしたら見えないところに怪我でもしていたのかもしれない。
「おかまいなくと言われても……そのような危なっかしい姿では野犬に食べられてしまうかも……。
酔ってしまった……?妖精さんも酔うのですね」
奉仕活動の一つには裏路地に転がっている酔っ払いやアルコールに依存する人々の介抱も含まれる。
少ない手荷物の一つから水筒を取り出し、蓋をあけてそのまま渡そうとするが……
大きすぎると判断して蓋に水を注ぎ、ティネへ差し出す。
「まずは水をたくさん飲んでください。体のお酒を抜かないと……
もしもひどいようなら薬草を煎じたものも少しありますから」
■ティネ > 「野犬……」
起こりうる末路を想像して恐怖したのか、ぶるりと身を震わせる。
ティネは人間の世話を受けることを拒みがちな性分だったが、
そうも言っていられない立場でもあることも確かだった。
水の注がれた蓋を差し出されれば、身を起こしておぼつかない足取りで近づき、
上半身を突っ込むようにしてぴちゃぴちゃと水を舐めて飲む。
ゆっくりと顔を上げたティネの表情は
まだ朱が差しているものの、精彩は戻っていた。
「ふう……
ありがと、ちょっとはましになったよ。
ごはん調達するだけでこんなざまって、情けないなあ、えへへ……」
何か礼でもしたいところだが、目の前の修道士に渡せるようなものはない。
腰につないでいる革袋は盗品である。
罪の意識などいちいち覚えないが、いかにもな聖職者に介抱されてはさすがに気まずい。
照れたような笑顔に後ろめたさからの陰りが差した。
■ツァリエル > 水をひとしきり飲んだ妖精の姿にほっとして、傍で膝をついてその様子をうかがう。
特にほかに怪我などはなさそうだ。ならばさっき衣服の下に手を下ろしたのはなんだったのだろう?
「いえ、気分がよくなったのならよかったです。
ごはん調達……?」
空になった蓋を受けとって水筒をしめると、妖精のそばにある革袋に目をとめた。
「それは……誰かから頂いたものですか?それとも……」
確かな言葉にしては言わないが、盗品ではないかという考え。
ティネの陰った表情からもなんとなくそれは伺えた。
「……生きることに必死なのはわかりますが、できればその品は返したほうがいいと思います。
謝って返すのが恐ろしいなら、こっそりと元の場所に戻すとか……
代わりに私のような炊き出しの奉仕もしている修道士にお願いするのはだめでしょうか?
少しばかりなら施すこともできるでしょうし」
そうは言うもののそれも現実的ではないかもしれない。
聖職者のなかには妖精を毛嫌いする人もいるだろう。
だが、それでも彼女だって生きているのだろうし、食わなければ生き物は死んでしまうのだ。
■ティネ > 彼の言葉に対する反発心と、助けてもらったことに対するありがたさや申し訳無さが
ティネの中で複雑に入り混じった。
「ボク、施されるの、……やだ」
こうして、行きずりの間柄に助けられるのはともかく、
ただ聖職者の責務として、恒常的にそうされるのは、彼女にとってはまっぴらだった。
「それに……
ボク、ずーっとこうやって暮らしてるし、
いまさらこれっぽっち返したって、なんも意味ないよ」
地面に立ったまま、挑戦的な薄い笑みを浮かべて
膝をついた彼を見上げる。
「それとも、お仕置きしてみる?
この卑しい泥棒ねずみをさ……」
恐れを知らないような、人を舐めた口ぶりだった。
■ツァリエル > 施しという言葉が彼女の中のプライドを傷つけてしまったことをその表情から悟る。
ずっとこうして暮らしているという言葉にそれまでに重ねてきたものの重みが含まれている。
しばし言葉を失って小さな彼女を見下ろした。
挑発的な言葉を投げかけられてあっけにとられるも、目を伏せ首を横に振った。
「仕置などと……それが真にできるのは神だけです。
人が人を罰するのは社会の仕組みとして必要ですが……
本当に何かを罰することができるのはあなたの心とその中に住まう神だけですよ。」
ひどく悲しそうな口ぶりでそう告げた。
だが彼女の施しを受けるのが嫌という気持ちもなんとなくはわかる。
それはとても情けないことだから。
しばし考えて、それから何かを思いついたように手を打った。
「ではこうしましょう。
僕とあなたで友達になりましょう。友達になったのなら助け合いが必要です。
あなたが困っているのなら僕が助けになります。
たとえばそう、おなかが空いているときにごはんをあげるのも助け合いならおかしくはないでしょう?」
そうして手荷物の中から今度は固いパンを取り出して半分にちぎって差し出した。
ツァリエルの少ない今日の食事だったが、自分はそれほど空腹ではない。
全部渡してもよかったのだが、それではティネが食べきれなくて困るだろう。
■ティネ > 「ともだち……」
少年修道士の悲しげな声に、肩をすかされたように単語を繰り返す。
顔には出さなかったが、挑発した後で万一向こうがその気になったら
大変なことになってしまうと戦々恐々していたのだ。
盗みを働いてその日暮らしを続けることと、
施しに甘んじることのどちらが誇り高いのか、それはわからない。
ただ、一度施しを受ける立場になってしまえば、
きっとそこから抜け出すことはできないだろうということを、
ティネは心の奥底で理解していた……。
負けたよ、と、肩をすくめてため息をつく。
「わかったよ。じゃあ、そうしよう。
助け合い……なんて言っても、ボクがキミの助けになれることなんてあるかどうか、
わかんないけどね」
パンを両手で受け取り、固くて食べにくいだのせめて小さくちぎれだの
立場を弁えずいろいろ注文をつけつつも、
その身体のどこに入るのかという勢いで食べ尽くしてしまう。
小動物に近いからか、燃費が良くないのかもしれない。
「……とりあえずこの食べ物たちは、キミに免じて返してくるよ。
……ボクはティネ。たぶん妖精、根なし草。キミは?」
いかにも不承不承といった調子でそう約束して、自己紹介を求めた。
■ツァリエル > 自分の言葉を繰り返すティネに微笑みかける。
ええ、友達ですとしっかりと頷いた。
「友達とはいてくれるだけで助けになる存在です。
目に見えるものだけが与えられるものではありません」
文句を言いつつパンにかじりつくティネを眺めながら
見る見るうちにパンが平らげられていくことに驚いた。
妖精とはもっと幻想的な存在かと思っていたが実によく食べる生き物らしい。
もう半分もとりあえず渡してみる。
「ありがとうございます。
僕の名前はツァリエル。ツァーリとお呼びください。
神聖都市ヤルダバオートのとある教会に身を寄せています。
ティネさんですね、もしお近くにいらしたときはぜひお越しください」
そう微笑んで人差し指を握手代わりに差し出した。
■ティネ > 渡されそうになったもう半分は、それはキミの分でしょと
押し返してしまった。
善良すぎるこの少年は、この荒廃した国できれいなまま生きていけるのか、
それが少しだけ心配になる。
差し出された人差し指に両手を添えて、口づけをする。
小さすぎる感触は、何をされたか伝わらないかもしれない。
「借りは見える形で返したいから。
なんなら、ボクのこと“使って”くれてもいいよ。
な――んて。じゃーね、ツァーリ」
どう使うのか、とは言わず。
見かけにはそぐわなく思える、艶のある笑みを残し。
もたもたと革袋を引きずって、路地の向こうへと去っていく……
■ツァリエル > 押し返されたパンと、差し出された人差し指にされた口づけ。
微かな感触に驚いて、慌てて指を引っ込めるが何をされたのか一瞬訳が分からなかった。
「使う……?」
ティネの借りの返し方と言葉の意味がわからず戸惑って首を傾げる。
だがそうぼんやりとしているうちに彼女はもたもたとその場を去って行ってしまった。
ただ、色香の残るような笑みが目に焼き付いたが
邪な感情だと慌てて頭を振って追い出した。
やがて彼女が路地から去ってその姿が見えなくなると自分も立ち上がり、待っているであろう修道士たちの集合場所へと去って行った。
ご案内:「王都マグメール 平民地区(路地裏)」からツァリエルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区(路地裏)」からティネさんが去りました。