2023/06/18 のログ
エヴィータ >  
「―――――通りでは出来ないこと、って、どんなことでしょう?」

わからないわ、と問い返すのは、もちろん単なるポーズに過ぎない。
暗がりに慣れた目が、相手の顔を、眼差しを、恐らく相手が想像するより明確に視認していたし、
向けられる視線に含まれた意図にも、―――――この見た目になってから、そんな目で見られるのは結構、慣れてもいるし。

それはそれとして、がっちりと肩を掴まれたら、演技では無く顔を顰めてしまった。
重い、そして、流石に痛い。
顔を近づけられれば、反射的にこちらは顔を背けてしまうから、
無防備な首筋を相手の鼻先へ晒す羽目に。

「っ、――――――…い、い、がかりですわ……、
 もし、そうだとしたら、貴方が、乱暴なことをなさるから、です。
 か弱い女が、怯えたり、緊張したりするのも当たり前でしょう、――――― っ!」

至近距離で喉など鳴らされて、無意識に肩が跳ね上がる。
壁際に追い詰められつつあるのは気づいていたが、膂力で敵う筈も無い。
心臓の音が煩くて、呼吸を整えるのもそろそろ限界か。
それでも、ギリギリのところで踏み止まるように。
眦にせいいっぱい力を込めて、男の顔をじっと見据え、

「………仰りたいことがあるのなら、はっきり、仰ったらどうでしょう?
 ほのめかしでは、なにも伝わりませんわ、
 ―――――― 貴方、私になにを言わせたいんですの?」

ベア > 女性を壁際に押し、外からの視線が通らない位置へと移動する。
言いがかりと言われるのも予想内なのか、それも気にした様子は無くて。

「乱暴って、まだ軽くつかんでるだけでしょうに、いやそっちにはそう感じないかもですがね。
緊張の度合いが当たり前のレベルを超えてるっていう意味なんですけどね、こういう外見だし、怖がられたりはよくあるんでさ」

肩が跳ねるのにつれ、女性の体も当然揺れる。
その様子をみながら、何度か頷いて。
喉を鳴らしながら、見据える瞳を見つめ返す、金の瞳が光って。

「本当は判ってるんじゃないんですかね。
さっきよりも匂いが…いやこれは、まぁ抑えてるからって言われるとそれまでかね」

少し考えてから、今度は正面から顔を近づけると。

「ここで誰かと会ってたんだろ、お嬢さん。
黙っておくから…その分のお代が欲しいんだよ、金には困ってないからお嬢さんていう旨そうなお代がね」

片手を肩から離して、その手を女性の顔近くへ持ってくる。
何かあればすぐに口を押えられる位置に。

「で、どうするかねお嬢さん…こっちははっきり言ったんだけど。
その返事次第でこっちの動きもかわるけど…ここの奴らの尋問だか拷問を受けるか、それとも」

女性の目の前で牙をむいた笑顔のまま、その答えを待ち受ける。

エヴィータ >  
本当にギリギリのところで、演技を通そうとしているが。
掴まれた肩はやはり痛い、加えて、腹の探り合いは不得手である。
もう少しで、男丸出しの罵詈雑言が口をついて出そうだった。

「――――――――――…見た目は、ともかく。 貴方、目つきが良くないわ」

そっと息を吐いて、低く掠れた声が、それだけ。
そのくらいは言っても許されるだろうと判断して、けれど視線が交われば、
きっと暗がりの中、蒼い瞳が微かに揺れているのがわかるだろう。
得意ではない、そう、全くもって、得意ではない。
けれどもう、これは、どうしたって――――――

「……… やっと、本音を仰ったわね、貴方」

今更、大声を上げて人を呼び、分の悪い賭けをもっと引き伸ばす気にはなれなかった。
目の前の男が『取引』を望んでいるのなら、もう、この辺りが手の打ちどころかと。

一度、俯いて目を伏せ、ほう、と細く溜め息を逃がし。
ゆっくりと顔を上げながら、己が身に巻きつけていた右腕を解き、
鎧に包まれた男の胸板へ、掌を触れさせて。

「遅くても夜が明ける前には、戻っていなくてはなりませんの。
 だからそれまでは、………良いわ、貴方の、好きになさって。
 でも、約束よ、…―――― 夜が明けたら、私のことも。
 ここで今夜、貴方が見聞きしたことすべて、忘れて頂戴」

それが最低条件、飲むも飲まぬも男次第だが。
しかし、もしも飲むというのなら、今宵ひと夜、己は男のためだけの娼婦になるだろう。
人目につかぬ暗がりで、どんな蜜事が繰り広げられるか、
知る者はただ、己と男、二人きりと――――――。

ご案内:「神聖都市 街はずれ」からエヴィータさんが去りました。
ご案内:「神聖都市 街はずれ」からベアさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 布都の工房」に布都さんが現れました。
布都 >  
 森の奥深くに作られた、和風の建築物、庵と東邦で呼ばれるような建築物は、森の中、木々の中に隠れるように作られている。
 しかし、その場所は秘密と云うには少々騒がしい場所でもあった。

  ―――カーン。
    ――――カァァン―――

 金属が、金属を打ち付ける音が森の中に響き渡り、木々がそれを吸収している。
 その庵は、鍛冶師が持つ庵であり、工房であった。
 庵の中には、一人の女が居て、唯々、黙々と目の前にある刀に鎚を振るっている。
 金床にある刀は完成直前なのだろう、最後の調整、とばかりに鎚を振るい、金属を打ち付ける。
 その度に、鉄を打つ音が森の中に響き渡り、消え去っていく。
 どれだけの時間を費やしたのかは、この刀を打つ鍛冶師にしか、知り様の無い事だろう。

「――フン。」

 最後の一振り。
 火花を散らし、それが消えてゆく、全てが終わった後に、完成した刀を見やる。
 完成の度合いは、其れなりに満足の行く物で、今、打ち終えた刃をしげしげと見やる。
 重厚な刃は飾り気などは無く、只人を斬るために作り上げられた人殺しの道具だ。
 バランス、刃の鋭さ、背の厚さに、反りの状態、刀の全てを鑑定し、精査した刀鍛冶は、それを一つの作品と認める。

 その刀を最後に、作っておいた柄に嵌めて、鍔を付け、目抜きを打って固定し。
 柄に柄巻きを巻いたうえに鮫革を張り、柄頭に鵐目を嵌める。
 刀の形にしたのちに、視線をゆるりと上げて、黒い眼差しで工房の一部を見やる。
 作った刀を試し切りするための場所。

 刀の性能を見るために、鉄柱を立てている場所が、其処に有った。
 この刀匠が己で作った場所だ。

布都 >  
 鉄柱に向かい、刀を振り上げる。
 刀という物は同じ重量の剣に比べて細く薄い物であり、耐久性的には低めである。
 刃で切り裂く、切れ味に特化した武器であり、剣のように叩き切る武器では無いのだ。
 鍛冶師や、侍など、刀を使う物が見ればそれは、愚か者の、若しくは狂人と言って良い所業だ。

 ―斬鉄―

 鉄を切り裂く技と言って良いだろうそれは、基本的に試し切りで行う物ではない。
 しかし、鍛冶師は、刀を振り上げて。


 ―――kin――――

 と、涼やかな音が響き。
 次に、ごとり、と重たい音が、土の地面に響いて消えていく。
 鉄の塊が、鉄の柱が、見事な断面を残して斬られていた。

「ハン。まぁまぁ。か。」

 鍛冶師の矜持として、鉄を打って強くし、刀を作り上げるのだから。
 鉄で作った刀が、鉄を斬れなくてどうする、という感覚だった。
 その時点で、狂気に片足突っ込んでいるが、それを気にすることも、振り返る事もない。
 当然として捉えている。
 其処に、何かを言うような人が居なければ、指摘が無ければ認識すらない。
 出来上がった刀は、漸く売りものとして、工房の隅の樽に放り込まれる。

 買い手が来るかどうかすら、定かではないこの場所で、売る気があるかどうか問われれば知らんと答えるしかない。

 一刀を作り、満足したから。
 鍛冶師は次の刀を作りに、炉の火を強くする。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 布都の工房」から布都さんが去りました。
ご案内:「城塞都市アスピダ 周辺」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。