2022/09/06 のログ
ご案内:「娼館の前」にイブキさんが現れました。
ご案内:「娼館の前」にザイヴァーさんが現れました。
■ザイヴァー > 身バレ防止のため、深くフードをかぶった冒険者……に偽装した将軍、ザイヴァーことグランフォードは腕を組んで、目を瞑り、「護衛対象」に背を向けながら立っていた。
今回、冒険者ギルドからの依頼でとある娼館の護衛に当たることになったグランフォード以下数名。
しかし、他の者たちは護衛対象の娼婦たちと、既に「いいこと」をするためにこの場にはいない。
全く、嘆かわしいものだな。とも思いつつ後ろの籬に入っている護衛対象を、ちらり、横を向きつつ薄目を開け見る。
なるほど、美しい。高級娼婦だというのも頷ける……100万という法外な高値がついていることには疑問があるが。
だが、何故だろうか。どこか、記憶の奥。そこを刺激する不快感があるのは。
そう、どこかで、彼女に会ったことがあるのだろうか。俺は。
そう疑問に思いつつ。じっと、立ったまま、目を開けて彼女を見る。
二人の間には、水と籬。
その間で、目があった気がして。
■イブキ > 黒と黄の美しく飾った着物をまとう小柄な童とも言っていい少女。
額には亜人であることを示す一本の立派な角があり。
その所作の一つ一つが仕込まれているのであろう教養の美しさがあった。
美しく長い銀色の髪を簪で結って、その肌は白く、玉のように美しかった。
その宝石のような桃色の瞳は、それらの美しさとは真逆の濁りのようなものがある。
ひどく退廃的なその視線が、自身の護衛という名の客に等しい冒険者に目が合った。
煙管をふかして、煙管を持っていない方の手で体を支えながら横座りでその男へと声を掛ける。
「もし、あんさん。妾の顔に何かついているのかえ?」
と、どこか力のない笑みを向けて鈴のような声が響く。
そんな声をかけられれば、大半の男はすぐにその娼婦へと飛びつくような魅力があった。
■ザイヴァー > ザイヴァーとしては、今回の娼館護衛の仕事はあまり乗り気ではなかった。
というのも、この娼館は色々と「噂」があり、国と癒着しているのでは、そう思っていたため。
とはいえ、断罪する気はない。そういう清濁の濁の部分も、あってこその国や、娼館という仕事だろう。
そう自分に言い聞かせてこの場にいるのだが……
目が合い、鈴のような声が、鼓膜を振るわせた。
その瞬間、男の目が見開かれたのが分かっただろうか。
この声、つの、桃色の瞳、銀髪……
それらの、パズルのピースが、記憶の中で合致したのが分かって
「いや、「何も」ついていないよ」
だが、ああ……そんな、そういう事もあるのか。そう、内心うなだれつつ。
その、何も映していないような瞳を受け、表面上は平静を保ちつつ、そう返した。
だが、たらり、と、汗が一筋垂れて。
そうだ、彼女は……
「……水仙さん……」
そう、聞こえるか聞こえないかの、ぎりぎりの声が漏れた。
ああ、何という事だろう。40年ほど前の面影は、姿形にしかぎりぎり残っていない、その様子に。
空を見上げて、世の無常を嘆く様子を見せたあと、再び、今度は真っ直ぐ向かい合おうと。
■イブキ > 確かに、この娼館には後ろ暗い噂はたくさんあるのは有名だった。
実際、規模としては大きく、そして娼婦たちの値段はかなり高い、その金の使い先は……。
そのような背景がありながら人気を誇るのは、ひとえに所属する娼婦たちのレベルが高いが故だった。
そんな娼館において、100万という法外な額を担うこのイブキと呼ばれる娼婦。
それはそれはかなりのレベルなのだろうと、実際に一部の豪族に太い客がいるとの話だった。
その彼女が、自分を見て驚くザイヴァーを、可愛らしくも美しく小首を傾げて見て。
「…………あぁ、懐かしい名前じゃのう」
彼の口から聞こえた、聞き覚えのある”単語”。
自分を見て、それを言うものは限られており、それが指す意味はただ一つ。
「どこかで、会ったようじゃなぁ。妾にとっては、遠い昔じゃが」
一度顔を上げて、虚空へとその濁った眼を向ける。
力ない笑みをそのままに、喉奥で”くっくっ”と笑い声を挙げて。
煙管から一口吸って、その口から息を吐きながら。
「そこそこ時間は経つが、そなたのような男には見覚えはないのぅ。
はて、その名前を知るそなた、今はいくつになるのかえ?人間にしか見えぬが」
そう、その名前を知るという事は相応に年を食っていなければならない。
”イブキ”となってからは、かなりの年月が過ぎている。
であれば、どこからか入手したかである可能性か、まだ”イブキ”ではない頃の知り合いでしかありえない。
反応から察するに後者である可能性の方が高いが……。
■ザイヴァー > 「懐かしい……か。全く。時間というのは、何とも……」
そう吐き捨てるように言いながら、自分のフードに手をかける。
「40年位前だったか……とある村に、赤髪のガキ大将がいた。
そいつは、その年齢では腕っぷしが強く、けんかっ早く……とある亜人に挑み、
ぼこぼこにされた」
ゆっくりとフードを取れば、精悍な顔立ちの、赤髪の「青年」がいた。
「それから、しばらく付きまとって、軽い戦いの手ほどきじみたことを教えてもらったり……
飯を共に食べたり。確かに、懐かしい記憶だ。
……久しいな、水仙、いや……今は、イブキだったか」
その目には、深い悲しみと、戸惑いがありながらも……
しっかりと、相手の目を見つめ。
「ザイヴァーという悪ガキだった時の記憶……貴方にとっては遠くとも、俺にとっては、忘れられぬ記憶だ……
まあ、その様子では。覚えていないほうが幸せなのかもしれんがな」
そう言いながら、腕を組み、苦々しい表情で。
「50年……以上は生きたが。全く、時間とは呪いだな。再会を、喜ばせてもくれんとは」
そう吐き捨てる。
生きていたことを喜べばいいのか……
それとも、現状の彼女を嘆けばいいのか、わからない。
いや、彼女にとっては、生は悲劇なのだろうか……
兵士になり、将兵になり、将軍になって、彼女のもとに集まった人々が作った村が、焼き払われたのは知った。
その時、死んだと思っていた。
「ふ、感動の再会に、酒も飲めんとはな……」
そう、皮肉るのが精いっぱいで。
■イブキ > フードから見えた赤髮の青年の姿に、余計に疑問が浮かぶ。
やはり人間にしか見えないが、何か長寿の術を使っているのか。
異種族のハーフならそれはそれである程度の”におい”や気配を感じるのだが。
「赤髪の生意気な小童か…………記憶にあるような、ないような」
昔を思い出そうとしても、嫌な記憶ばかりしか今では思い出せない。
その中で良い記憶を少しでも引き出そうとしても、要らぬ記憶ばかりを思い出してしまう。
いつの間にか昔を思うことも忘れて日々をただ意味もなく過ごしていた。
だから、おそらくはあったのであろう昔の話をされても、記憶から引き出せず。
「そのような昔の姿を覚えていたのか、そなたは……。
嬉しいというべきか、それともすまないというべきか、妾には判断がつかぬのぅ」
自身を強く見つめるその瞳に、変わらぬ光の薄い眼を向けて。
すぐに、力ない笑みを深めて。その顔には先ほどよりもずっと強い諦観が浮かべられており。
「昔の栄光など、それこそ、とうの昔に忘れておったが……。
不思議な感じじゃのぅ。他人に”自分”を覚えられていたと思うと」
ほんの少しだけ、諦観ではなく、悲しむような声をしたが。すぐに顔を上げて。
「その末路がこれじゃよ。いっそ笑われたほうがいいかもしれぬなぁ?
……ま、あまり酷なことを言うつもりはないがの……」
そこまで告げると一度言葉を切り、今度は自らその青年へと視線を返して。
「妾を買ってみるか?そなたの語る妾の姿、もっと詳しく、ゆっくりと聞きたいものでなぁ……」
■ザイヴァー > 覚えられていなかったことは、悲しい。
だが、それでいいのかもしれない。少なくとも、自分が覚えている「水仙」は陽の人だった。
その記憶が、今、陰の人である「イブキ」にとって、辛いものになるのかもしれない。
だから、記憶になくてもいい。そう自分に言い聞かせて。
「いや、俺が勝手に覚えていただけのことだ。気にする必要はない」
目にあった、悲しみや、戸惑いは消え……
紅の瞳に、力強い、炎が再び灯る。
「ふん。昔の栄光か……確かに。笑い話かもしれんな。
人を助け、笑って、酒をあおっていた貴女の末路が、こんな籬の中とは。
しかも、当時のことなど忘れてしまうほどに、弱ってしまったとは。
……笑うかよ……笑えるかよ……っ!」
そう、押さえつけるように。怒りを、悲しみを言葉にし……
ぎりっと、歯をかみしめて。目の前の「イブキ」を……ではなく、その周囲の鳥籠……籬をにらみつけ。
「貴女の世界は、広かった。それを、こんな狭い世界に閉じ込めて……
名も、名誉も、何もかも奪われた貴女を……どうやったら笑える……?」
そう嘆くのが精いっぱい。何が将軍だ、何が王国の剣だ。
こんな、檻の中の知人すら助けられず……っ!
そう、内心叫びつつも、声には出さない、出せない。
今は、将軍ザイヴァ―ではなく。
冒険者「グランフォード」なのだから。
買ってみるか、そう聞かれれば。怒りもやや落ち着いて。
「……ふ、俺の姿を見ろ。こんな安い装備しかできぬ冒険者が、100万も金を持っているように見えるか?」
そう吐き捨て。
「それに俺は、娼婦との「会話」は許可を取っているが、「行為」は契約に入っていないのでな……残念だが、丁重に断ろう」
――――――だが。
「もし、俺がこの国の将軍にでもなったら。その時は買いに来てやるよ。
その時は……他の男では濡れなくなるくらいの、夢を見せてやる」
そう言い張って。
■イブキ > 青年のその怒気を強く、ビリビリとすら感じる。
彼の瞳にあるその炎はとても熱く、そして燃え上がっていた。
それが自分に向けられていないとわかっていても
並みの人間なら怯えを感じるか、あるいは気絶すらしてもおかしくない。
そんな怒気を見つめながら、イブキはその顔から表情を消して。
「……益荒男を見るのも、久々じゃのぅ」
涼しい顔……というには、少々毛色が違う気がする。
受け止めるような、どこか”楽”のある声を出しながら目をつぶって。
遠い、遠い記憶を久しぶりに引き出す。この小童をほんの少しの間だけ揉んでやった記憶を。
自身がこの鳥籠に入れられる前の、外へと、自由を満喫していたころの記憶を。
山に腰をしばらく据えて、そこで暮らし、笑い、呑み合った者らの姿を。
ゆっくりと開いていく目には、僅かに光が戻っていて。
しかし、すぐに自嘲する笑みを浮かべて光が消えていく。
「……妾は笑えるよ。……堕ちた自分の姿を、な」
もう、鳥籠から抜け出そうとすら思えなくなった。人形なのだと。
そんな風に、自分を思いながら。
「そうか。……そなたとの夜伽は、さぞ酒が進むと思ったんだがな。残念じゃよ」
断られれば、そんな言葉と共に……確かな落胆と共に息を吐く。
しかし、彼の続けざまの言葉には顔を上げて、どこか子供のような笑みを浮かべて。
「それは、楽しみじゃのぅ。―――あの時の小便小僧が吠えよるわ、カカっ!」
本当に楽しそうな笑い声と共にセンスを広げて、口元の笑みを隠した。
■ザイヴァー > 「貴女が嗤えても……俺は笑えん……」
そう、瞼を閉じ、怒気を孕んだ瞳を裏に隠し。
目に光が、戻った気もするが、それが、本当に良い事なのかもわからない。
何故なら。すぐに、きっと曇ってしまうものだから。
だから、彼女が流せない、もう、流そうともできない涙を。
俺は、流そう。
つー、っと。両側の瞳から、涙を流し。唇をかんで。
そして、相手が、かつてのように笑えば。
かつての、記憶の中にいたとわかれば。
喜んで、何が悪いか!
「……っ。ああ、なるさ。将軍に!」
その言葉は奇しくも、かつて彼女と別れた時に言った言葉と全く同じで。
こんな、水と、籬だけで遮られた世界が、あまりにも、近いのに遠い。
「……話は、もういいか? そろそろ、人足が増えてくる。
あまり話していると、営業妨害だ何だとうるさいからな……」
そう呟いて、再び、彼女を背に、瞼を閉じ、腕を組み、フードをかぶる。
みしり、と、握りしめたコテが鳴る……
そうでもしなければ、今にも、籬を破壊しそうだから。
きっと、彼女は……自分が手を差し伸べても、とらないだろう。
50年以上、人間をやってきたのだ。多少、人間の心もわかる。
なら、身分も何もかも捨てて、その手を、無理やり握ることもあるかもしれないが……
恐らく、自分はその道を選ばない。
何故なら、自分は王国の剣であり、盾だから。
自分が無くなる事で、失われる命がある。だから……
「女々しい、言い訳よな。高級娼婦一人も抱けぬ安い男が、何を……」
そう吐くように呟き、そして……
護衛契約終了の時間になった。そろそろ、潮時だろう。
「……ではな、今度会うとき、俺は将軍だ」
そう言って、彼女の前から、姿を消そう……
その今度。は、恐らく……遠い未来では、無いだろう。
■イブキ > 「―――嗤ってくれた方が、楽なのにぅ」
それは誰に向けた言葉なのか。あるいは、自分自身なのかもしれない。
自身の中の、自分自身で作ってしまった枷を壊すことはできない。
例え自分に自由になる権利をいきなり与えられたとしても、果たして自分は外に出ることを選択するだろうか。
それすら、今の自分には答えることも出来なかった。
「……なって見せろよ、男の子」
涙を流す彼の姿を、自分は笑う事は出来なかった。
”昔”も、夢を語る彼のことを、自分は笑う事は出来なかった。
きっとその意味は、両方ともおなじなのだろう。
「あぁ、久しぶりに昔を話せて楽しかったとも」
背を向ける彼の姿を見て、座っていた状態から立ち上がる。
その麗しい着物を持ち上げて、籬のすぐ近くまで彼へと歩み寄る。
彼の中の内情は自分には知る由もないし、知ろうともしない。
彼が歩んできた道はきっと、想像を絶するものなのだろう。
そんな彼のことを、今の自分は笑う権利などない……。
ただ、久しぶりに、”人を待つ”ことにしよう。
また会いに来る”将軍”の姿を夢見て。
「あぁ。―――またな」
そんな、身勝手なまた会う言葉をその背中に投げかけて。
去っていく彼の姿を最後まで見送った。
ご案内:「娼館の前」からザイヴァーさんが去りました。
ご案内:「娼館の前」からイブキさんが去りました。