2022/08/05 のログ
■影時 > 「まぁな。ナンタラ家の家紋が入った盾――とかよりも、見た目としても分かりやすい」
冒険者としての目線で言うと、もう一つの特徴がある。
迷宮や魔獣の巣窟などに潜って、限界などを考えずに活動して、不慮の事故などを迎えた学生の探索、捜索の面だ。
一目してどこの所属であると察しやすいのは、最近の冒険者がよく携行する身分証の類を調べるより、楽ではある。
だが、あまり見たくないものである。
無理、無茶はしないように口を酸っぱく言っても、状況判断に失敗して最悪のケースを迎えた実例は、何度見ても嫌なものだ。
――閑話休題。
まずはセミの声が止まぬ現実と、今己が前に立つ姿に意識と顔を向け直す。
「分かった分かった。後で軽く杖術を触り程度だが手ほどきしよう。
その杖はフィリ、お前さんに贈るつもりの教材として買っておいたモンだ。
暇なときに振っておくといい。本を運ぶのも運動にゃ違いないが、棒を振り回すのとは違う筋を使うからなあ……」
持ててはいる。匙やフォークの類よりはずっと重いけれども、構えらしい姿を見せてくれてはいる。
素人丸出し云々は今は敢えて言わない。初心者でありニュービーであり、未経験者である。
教えを乞うその心意気を買っているのだ。身体に沁み込んでない動きを為そうとするのだから、荒さや甘さなどは当然事。
基礎を体得するには、反復訓練は不可欠。槌以外の道具がないなら、用意すればいいだけ。
一瞬、何とも言い難い面持ちを浮かべたのは束の間。心得たとばかりに頷き。
「あーいよ、と、ッ」
杖の良い処は剣のようにも触れて、槍のようにも突ける点である。応用が利く点だ。
見慣れた袈裟懸けめいた一振りを軽く踏み込み、掲げた右手の手甲で受けよう。
魔力や氣を動かすまでもなく、硬い手ごたえが杖越しにしっかりと、打ち手の手のひらや背筋まで響き、届こうか。
りぃぃ、と。微かに、微かに。装甲が震える響きは鉄とは違う残響を残して。
■フィリ > 「家紋……紋付き……」
先日の会話というか、ネタというか。未だ覚えていたようである。
そうした格好に着替えた彼の姿を想像し。次いで、眼前の忍装束と比較して。さてどちらが似合うのか、等と考え込み…かける所までいって、やっと。
ぶんぶんと頭を振り、余所へとすっ飛びかけた思考に軌道修正を掛けた。
暑さ真っ盛りの中で無駄に振り回された頭の中身が。この侭だと何時も以上のスピードで、熱暴走カッコ物理を起こしかねないので。
――不慮の事故。確かに、その可能性は決して零ではないだろう。
迷宮等でも、例え浅い階層だろうが――人間達がその全貌を知るには到らない、未知の場所である事には変わりない。
絶対に安全だ等と過信する事は出来ないし、まして油断すれば例え経験者であろうとも、手痛いしっぺ返しを喰らう事になるのだろう。
……流石に。仮にも別荘地である此処で。突如として未知の怪物が出現する、等という緊急事態が起こる事は……無いと、思いたいのだが。
寧ろ今回危険性を想定しておかねばならないのは。少女自身の問題であり、魔鎚の引き起こしかねないトラブルである、筈。
「ぁ。はぃ、ぁぁりがとぅ…ござぃます。ぉ言葉に、甘ぇさせてぃただきます。笠木様。
そっ、そぅ――です、ね。…振り回す為の、杖、とぃぅのは――矢張り。魔術の為の物、とは。色々勝手も違ぅよぅですし――」
杖の代金に関してだの、細かい所を。敢えて混ぜっ返す事はせず。素直に受け取っておく。
人の行為は素直に受け止めるべきだし、求められたらきちんとお返しすべきだと。それが少女の考えだった。
その上で、さて…構えてみて感じるのは。質実剛健な、打撃武器としての杖と。儀礼的な魔術用のそれとの違い。
……一応。少女にとって前から師匠と仰いでいるのは、もう一人の叔母であり…魔術に長ける竜胆である。
彼女の手伝い等をしていれば。自然、そうした品物の方に。触れる機会が有るのだろう。
さて。先日来もう一人の師匠と、呼ぶべきか。はたまた師匠の師匠になる――にしては、ラファルが自由すぎるのだが。
そんな彼に対しての、第一撃。というか、誰かに対して物理的に攻撃をしてみるという、人生初体験。
寧ろ相手が同意の上の練習であるというのなら。初めての共同作業と呼ぶべきか。
相手の側からも距離が詰まり、その分、振り下ろしの距離は短くなった。速さも重さも中途半端になってしまえば。それはもうあっさり受けられてしまうのだろう。
「と、とっ……わ、うわ…」
寧ろ殴った側、少女の方が。杖から返ってくる衝撃、何かを打ち据えたという反動に。しびしびと震えのような物を実感してしまう。
流石に取り落としたりはしないものの。押し付けた侭とは行かずに力が抜け。するりと自然に杖が退かれていくだるか。
「ぉぉ゛……ぅ。…ひ、肘の所を…ぶっつけた、よぅな……痺れなの、です――
それに――しましても。…笠木様、其方は、もしかします…と…同じ、よぅな?」
流石に足の小指程ではなかったが。痛点から生じる痺れにも似た初体験に。唯でさえ下がり気味の繭が、ますます情けない角度を描きつつ…も。
矢張り、間接的に一度でも触れてみれば。気付かざるを得ないのだろう。
仮にも鎚に選ばれた結果。その性質に触れた結果――近しい物が、彼の身を守っているのだと。
即ち。魔の骸、其処から生じた鉱石を用いて。作られた具足であるという事に、だ。
■影時 > 「……――フィリ?」
何考えているのか。何を思い返したのか。
過日の会話やらネタやらを思い返していると思しい姿に、腰に右手を当てては苦笑交じりに息を吐く。
変な妄想やら何やらに思いを馳せるのは、良くも悪くも「らしさ」「個性」でもあろう。
ほどなく、思考を引き戻す姿にほっとする。
今はまだ兎も角、仮にあの戦槌を引っ提げて戦闘訓練に混じることがあれば、この瞬間は命取りだ。
命取りと言えば、この場所でも不慮の何やらが何もない、とは言えない。
己にとってもまだまだ未知の要素が大きすぎる道具、武器の試しの機会でもある。
この先、同様、同系列の武具の使い手と会敵する機会がない――とも言えない。
今はまだ、様々な可能性を考慮しつつ試せるうちに、粗方試す必要があるのは己もまた同じ。
「最悪、使い道に困ったら物干し竿やつっかえ棒にでもしてくれりゃあイイ。
突けば槍、振れば剣の如く――というのが、俺の知る杖術の謳い文句だが、しっかりと“らしく”振るタネになるだろうさ」
代金云々は、気にしないでほしい。此れも必要な経費として納得できる。
この手の棒や杖の類は簡素な分、金に困った駆け出し中の駆け出しの冒険者が、即製の武器を作る素材にもする。
売る側としても、鍬や鋤の柄のストックとして転用できるメリットもあるとかないとか。
何より、剣をあえて選ばなかった理由は明白だ。最悪折れても、刃毀れする心配がない。これに尽きる。
そうした道具を初めて振る、打ち込む経験は、自分から受け止めに行くことを選ぶ。
掲げる腕で受け止める手ごたえは、己には軽く。されども、むこうにはきっと巌を打つかのように――。
「よく覚えとくといい。岩を打ってもらうか、丸太でも叩いてもらうかは悩んだが――この先何度も覚える感覚だ。
そして、今からも向き合い、慣れてもらう感覚でもある。
然り。純度はわずかに落ちるが、あの槌と同じだ。同じ材質でできた手甲よ」
その感覚はやはり、不慣れで心地よいとはまた違うだろう。
如何にもな反応と表情に目尻を下げつつ、続く言葉に頷いてみせながら片腕を挙げて見せる。
氣を籠めれば、その分だけ硬くなってみせるもの。それが己が腕を守っている。
「次は道具を変えようか。その杖を置いて、さっきの槌を出してくれ」
――と、指示を出そう。
■フィリ > 【継続いたします】
ご案内:「山中の別荘地」からフィリさんが去りました。
■影時 > 【次回継続にて。】
ご案内:「山中の別荘地」から影時さんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 裏路地」にシスター・パッサーさんが現れました。