2019/01/18 のログ
ご案内:「ハイブラゼール 高級ホテルの一室」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
ご案内:「ハイブラゼール 高級ホテルの一室」にナインさんが現れました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > ハイブラゼールで開催された新造船の進水式。カジノ経営者達との懇談会。海軍将校達との晩餐会。その他諸々エトセトラ。

数日に渡って多忙なスケジュールをこなし、漸く一段落といったところ。
だが、身体は一つだが仕事は二つ以上で襲ってくるもの。
結局、礼服から着替える間もなく書類の山脈を掘削している真っ最中。

そんな中、室内に静かなノックの音が響くと同時に、来客を伴ったホテルマンの声が聞こえる。
曰く、此方に用件のある客を案内しているが入室させても良いか、とのこと。

「…ああ、構わない。そのまま部屋に通してくれ」

どうせ挨拶回りで愛想を振りまいた貴族か商人だろう。王族である自分がこのホテルに滞在している事は特段隠している訳でも無し。
己の為だけに置かれた執務机で書類に目を通しながら、ドアの外にいるホテルマンに聞こえる様に言葉を返す。
彼と共にいる筈の来客が一体誰なのか、と僅かに視線を其方へ向けながら――

ナイン > (係の者がドアを開けば、其処に立つのは一人の女。さも、つい先程迄。当の晩餐会にも参加していた客の一人だ…と。そう言わんばかりのドレス姿。
深く帽子に顔を隠し、紅を引かれた口元だけを覗かせて。小さな手荷物を携えたのみ。
…ただ、夜の華めいた淑女としては。些か、背丈が足りない…やもしれず。

ドアを開けてくれた者を片手でいらえて室内へ。背後、扉が閉じ、鍵がひとりでに落ちた所で――)

 ――――っ、ぁあ。…らしくもなく、我が身を偽るというのは。…思った以上に気を遣うもの――だ、な…

(さも、疲れた。そう言わんばかりに声を投げ出し、帽子を取れば。
先日の貴族邸以来…いや、その後様々に取り決めを行っただろうから、それ以来か。
そんな、少女の姿が有った。)

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 部屋に足を踏み入れたのは、黒いドレスを身に纏った女性。
深く傾けられた帽子によって顔立ちは見えないが、何処かの晩餐会で顔を合わせた貴族か、或いはその息女か。

何方にせよ、早々に追い返して仕事に取り掛かろうと決意した矢先、帽子を取って声を上げた女性――いや、少女の姿に、少し驚いた様に瞳を見開いた。

「…誰かと思えば、まさか貴様が此処を訪れるとはな。驚いたぞ」

椅子から立ち上がり、彼女を出迎える様に其方へと足を進める。
とはいえ、その表情は歓迎している、というよりも怪訝そうなものだろう。

「特段無碍にする訳でも無いが、一体何用だ?大まかな顔合わせと打ち合わせは先日行った筈だが」

獣の様な蜜事を交わし、その後互いに貴族として為すべき取り決めを成した。
それ故に、一体何の用だろうかと訝しんでしまうのも致し方ないというもの。金の無心なら別に王都でも出来るだろうに、なぜわざわざ他の者のいない此の場所に滞在している時を狙うのか。
何かを探る様な瞳で、彼女の碧眼を見つめるだろう。

ナイン > (実際、そういう装いだった。
船を買った貴族の娘なり。将校達の配下なりが。宴の縁を語り、一人、出資者の下に送られたかのような。
詰まる所…至極分かり易い色仕掛けとして送り込まれたような。
そういう風に見せ掛けたから、ホテルマン達も、大凡事情を察したとばかり。安易に通してくれたのだろう。

が。実際の所、出会うのは王都以来。無論この街での諸々には同席していない。
それでも、出来得る限り早く。少年に会う必要が有ったのだ。それは…)

 失礼するよ。どうにも――折角諸々決めたというのに。煮詰め直す必要が出て来てしまった。それも早急に。

(失礼、というのなら。ぶしつけな来訪もだが、その侭直ぐ様、本題に移らんとする様もだろうか。
顔を隠していた帽子を。部屋主の了解も得ず、勝手に帽子掛けへと放り投げれば。
万が一の聞き耳を警戒でもしたか。真っ直ぐに、足早に。扉から離れ少年の傍らへ。
差程声を大きくせずとも、きちんと互いに会話出来る所迄。机を回り、目の前迄赴けば。)

 我がグリューブルム家含め、貴族院の複数で支援を表明する筈だった、第七師団長が戻ってこない。
 …加えて、第三師団長としてグラッドストン大公の秘蔵っ子…あのお嬢様が復帰した。
 正直剰りに宜しくない。…大公殿の方に、力が傾きすぎるんだ。この侭では。

(一気に捲し立てた。暫し少年が王都を離れている間に。軍絡みで大きな動きが有ったのだと。
それは少女を含め貴族等にとっても。大きなうねりになりかねない、と。)

ギュンター・ホーレルヴァッハ > ホテルの従業員達も、彼女の貴族然とした態度――というより、本物の貴族ではあるのだが――を見れば、王族たる自分への来客と言われても違和感無く通してしまったのだろう。
しかし、思考に走る疑問符は消えない。何も身分を隠さずとも、彼女ならばこの部屋に立ち入る事は出来た筈だ。正々堂々と身分を名乗れない理由など――

「…厄介事か。売り飛ばすのは好ましいが、買い取るのは面倒だな」

此方へと傍らへと歩み寄る少女を視線で追い掛けながら、自ずと辿り着いた結論に溜息を零す。
しかし、少女から告げられた言葉を耳にして脳内で咀嚼した後、浮かべるのは考え込む様な真面目な表情。

「……成程。それで私の所へ来た訳か。確かに、グラッドストン大公の権勢は絶大。第三師団は戦功十分な王国軍の有力師団。そして貴様らが推挙する第七師団は、主を失い路頭を彷徨う真っ最中。随分と分の悪い賭けをしたものだな、ナイン?」

第七師団は兎も角、第三師団と言えば貴族間でも有名どころの師団ではある。尤も、かの大公閣下の親類だか何だかの御姫様が復帰したとは意外であったが。

個人的には、第三師団の様な連中が力を蓄えるのは大いに結構な話である。王国の腐敗の象徴であり、貴族達の力の象徴ともなれば、寧ろ何事も無くとも元より己は第三師団に肩入れすべきなのだろう。

「……それで?金か、武器か、兵士か?要望に答えるとは言わん。だが、聞くだけ聞いてやらぬ事も無い。少なくとも、俺の仕事を止めてまで話をしにきたのだ。世間話、で終わる訳ではあるまい?」

少女へ近付き、蛇の様な身のこなしで彼女に近づくと、その耳元で笑みを噛み殺しながら低く囁いた。
傍から見れば、蜜事一歩手前の少年少女。仮に、此の部屋を何者かに覗き込まれていても疑われる事は無いだろう。

ナイン >  あぁその通りだとも。直ぐ様通したかったという事も有るが、それと同じ程に――余計な耳目は避けたかった。

(だから、態々王都で。誰の目が届いてもおかしくない場所で、正式に赴いて人目に付くよりは。
お忍びと言っても良い様ででも、この街で出会う方が。都合が良かったという所。
とはいえその為に、議席だの会食だのといった彼方此方に。仮病を騙って暇を貰い。
諸々を心得たメイドの一人に、人払いの上ベッドに潜り込んでいれば良いから、と影武者を申しつけ。
其処から大急ぎの馬車を飛ばして…駆けつけたのがこの時間。
正直。心底草臥れて、へたり込んでしまいたくはあるのだが。漸く本題に入れるのだ、贅沢は言っていられない。)

 …本当にな。第三師団は大公の後ろ盾が有る分…人も金も潤沢だ。それだけで他を大きく上回る程に。
 世の中士気だの覚悟だのといった精神論で、都合良く覆せる程…甘く無いのは身に滲みている。

(思わず、溜息。第七師団に特別な思い入れがある、という訳ではない。
只、第三師団…正しくはその背後に在る大公の威に対し。賛同しかねる者達が必然的に、真逆の立場たる第七師団寄りとなるだけだ。
寧ろそれこそ。背く者や従わぬ者を一手に纏められているかのようで。大公派の思惑通り、なのかもしれないが。
何れにせよ少女を含め、貴族院の一派にとっては。大公派の朝盛は、到底歓迎出来ない物なのだ。理由は、明白。)

 ――全部だ、と言いたい所だけれども。
 以前通して貰った第七師団への武器供与。あの数を増やして貰いたい。
 …但し送るのは、第八、第十、第十三、の各師団。…第三師団のご命令で、どうやら諸々搾り取られるらしいから。
 一人勝ちされるのは困るからな、何事も――バランスが必要だ。今は未だ。

(詰まりは。第三師団と大公派。それ以外の勢力が。力を奪われるのを避けたいと。
そんな意味では、今正にタナールに詰める第七師団への支援が、最有力だったのだが。直接の関与が難しくなった以上仕方ない。
なら、当のタナール防衛を名目とした搾取に。同じ名目で、逆を張ってやろう。そういう話。

少女自身の思惑としては。只でさえ力を持ちすぎている者に、ますます肥大化されるのは、心底迷惑な話だった。
腐敗した部分が拡がり過ぎてしまえば、それは、熟しすぎた実を落とす事となる。
何れ果実を手にするよりも先、手前勝手に腐り落ち、自滅されてしまうなどまっぴらなのだから。

――そんな。戦と無縁の者からすれば剣呑で。実際に戦の場に立つ者からすれば腹立たしいような謀り事を唇に乗せつつも。
立ち上がった少年に、今にも耳でも食まれんばかりの姿勢と。
ますます声を顰めるかの如く、少女の側からも、少年の肩口へ頬を預ける素振り。
よしんば誰かが居たとしても。ドアの向こうから盗み見るだけなら…逢瀬か、はたまた、不徳の密会か。)

ギュンター・ホーレルヴァッハ > ふむ、と少女の言葉に納得した様な首肯を返す。
しかし、彼女とて貴族の一員。それなりに王都でも所要があるだろうに、よくもまあ此処迄来たものだと内心感心する。
感心するだけで、それを言葉にも態度にも出す事は無いのだが。

「兵站と兵力が充実している、ということは軍隊において基本だがな。そういった戦い方が出来ていた、という点において、師団長の功績は多大なものだろう。寧ろ、有力な師団と敵対する国内の師団があることの方が、憂慮すべき事だと思うがね」

溜息を零す少女に、愉快そうな声色で言葉を返す。
此方とて、特別第三師団にも、まして第七師団にも思い入れ等ある訳がない。そもそも、ホーレルヴァッハ家は軍事と宮中政争からは一歩引いた政商として名を成した家門。
物資を浪費するだけの戦争も、時間の浪費でしかない醜い貴族同士の争いも、どうぞ好きにしろというのが此方の立場である。
個人的には、王国が衰退するなら第三師団を応援したいところではあるが――

「…まあ、それでも。貴様の言わんとするところは分からぬでもない。その憂慮も、危惧も理解出来る。
――しかし、しかしだ。それで俺が…いや、ホーレルヴァッハ家が得られる利が無い。そもそも、我々は大公閣下との親交こそあれ、第七師団等知った事ではない。武器供与は魔族との戦争に必要だと判断したから融通したまで。政争の為にその量を増やして、グラッドストン家と敵対するメリットが無い。
寧ろ、嘗ての師団長を得て活気を取り戻す第三師団にこそ、投資するメリットがある様に思えるがな」

うっすらと浮かべた笑みと共に告げるのは、少女の願いを否定する言葉。
王国の腐敗も、大公が得る権勢も関係ない。己の利益を追い求める一族の嫡男として、告げるべき言葉を囁いた。
肩口へ頬擦りする少女の腰を抱き、場面だけ切り取れば情事の前の一時ではあるのだが、互いに交わす言葉は甘い空気など欠片も無い、薄暗い陰謀と利益を求める貴族のモノでしかなかった。

ナイン > (さりとて。無理をしている事は間違いないだろう。
何時迄誤魔化しが続くのか。…例え病欠が疑われる事が無かったにしろ。不在はそれだけで、不利となる。
その事実も。少女の言葉を、仕草を、急かせているのかもしれず。)

 それが人の世の常だろう?一人勝ちというのは、得てして、歓迎されない物だ。
 …妬む側、やっかむ側、であるという事自体は。恥ずべき事として自覚しているけれど。
 とはいえ時と場合によるという物さ、それこそ希有で有力な師団の力を――国を護る為じゃない、私利私欲で暴走させられるのは、堪った物じゃない。

(少年の声音に滲んだ愉悦が、如何なる感情に起因する物なのか。――常なら、其処に疑いを抱けていたかもしれない。
だが、今のように。前回のように。少年との邂逅は得てして、平常心で居られない、そんな宿命にでもあるかの如く。
何より己が事だけに急いた、手一杯になってしまう少女の思考は。疑う、という所迄回らずに。)

 勿論、ホーレルヴァッハ家の立場を崩すつもりはないさ。
 貴方は、グリューブルム家に品を売った。それだけだ――買った後の融通は此方の責任。それを違えるつもりはない。
 …買うだけの金が無いから、其処は無心してくれ、オッズの大きな賭けだと思ってくれ…等というつもりも無いし、な。

 ……ただ、私は。貴方が――ギュンター・ホーレルヴァッハ、貴方も…この国を。変えねばならない…と。
 そう考えている一人だと思うから。信じるから。
 だから今は手を貸して欲しい。そう願うんだ――我々なりの、貴族なりの戦い方という物に。

(実際。過分に増すであろう経費は。少年やその生家ではなく、余所への具申を図っている。
他師団との接触にも、自らで…必要以上の者を巻き込むのは避けている。
それが。善ではないと自認しつつも。愚で在ってはならないと律する、少女なりのケジメめいた物。

抱かれた躰を此方も寄せた。頬と頬を擦り合わせ、面持ちを伏せ囁くように。細腕を少年の背へと回して、掻き抱くように。
戦その物の是非はともあれ、その前に内輪揉めで自滅してしまうなど、以ての外と。
所詮、貴族同士の権力闘争でしかないのだとしても。自らの足場を崩すような真似はしたくないと。
…解りきった腐敗を。致死性の患部を。拡げすぎる訳にはいかないと。…頭不在の此の国を、今は生き長らえさせねばならないと。

――吐露した声は、言葉通り、少年への信による物だ。
何せ、少女は知らない、気付いていない。「国を変える」、その思惑が。一見重なり合っているようで…
作り変えるか。すげ替えるか。そんな、全く別物なのだという事を。)