2019/01/19 のログ
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「王位継承権を争う私にそれを問うのか、ナイン。余り熱心では無いとはいえ、一人勝ちする為に努力しているつもりなのだがね」

揶揄う様な口調の言葉。だが、続いて発した言葉は先程よりは幾分愉悦を抑えたもの。
流石に、何時までも笑い話に出来る様な内容でもない。分が悪いどころではない賭けの為に、彼女は遠路遥々疲労をおして此処迄やってきたのだ。その願いに応えるかは兎も角――

「…確かに、国軍が一部の貴族の私有軍と化している現状は愉快なものではない。その腐敗は、俺が王に成った時に邪魔になる」

それは建前であり本音でもある。
自身は王となるつもりは更々無いのだが、腐敗した有力な大貴族を抱えたまま理想の国を作れるとは思っていない。
それ故に、発した言葉に愉悦の色は無い。真摯に、真面目に、しかし真意を隠して、彼女の言葉に頷いた。

「随分と過大な評価だな、ナイン。国家ではなく、経済に基盤を持つ我等が一族に投げかける言葉ではない。我々は、ホーレルヴァッハは、例え王国が滅びようと、明日此処が違う国家に成り果てようと、生き永らえる資本がある。
……が、しかし。それはあくまでホーレルヴァッハ家の意向。俺個人としては、貴様の憂慮に同意すべき点もある。良いだろう。先程貴様が告げた師団に、望むだけの武器を供与しよう。それとは別に、兵站を支える馬車や荷車も。兵糧を得る為の資金も、十二分に用意しよう。名目は幾らでも立つ。何せ、魔族との最前線に立つ第七師団があの様ではな」

捲し立てる様に淡々と、しかし次々と告げるのは、彼女が望む通り。寧ろ、それ以上の支援の約束。
各師団を介して、第七師団には膨大な武具と輸送車両。そして潤沢な資金が流れ込むだろう。
――だがそれは、勿論彼女の理想に突き動かされたからでも、憂国の思いに目覚めた訳でもない。
潰し合わせた方が早いのだ。貴族と平民。大貴族と諸侯連合。互いに武器を取り、謀略を尽くし、そして疲弊していく。そうなれば良いな、程度の宛ら新しい玩具を得た子供の様な歪んだ思考。

「……さりとて、空手形を抱える訳にもいかんな。賭けに勝てば投資した分を回収するのは当然だが…投資した金額に見合った担保が欲しい。さあ、ナイン。グリューブルムの当主。貴様が差し出せるモノはなんだ?一族の名か。諸侯を売り飛ばすか。なけなしの領地や家臣か。好きなものを選べ。無論、強制はしないがな」

それは、覚悟を見せてみろという余興を愉しむ様な一声。
彼女には、今は何も差し出せないと断る権利がある。そして、担保が何もなくとも此方は援助はする。だが、そうなれば対等ではない。ただ、此方がパトロンになるだけ。それでは期待外れだ。

果たして、貴族なりの戦い方と告げた彼女に、貴族として何処までの覚悟があるのか。ただそれを見たいだけ。
再び浮かべた愉快そうな声色と笑みと共に、腕に抱く少女の瞳を覗き込み、僅かに首を傾げた。

ナイン >  っ、は。――私は寧ろ。一人勝ちをさせない為に努力しているんだ。それとも、私の準備が出来る迄は、勝ち馬を引き摺り堕としてやる為かな。
 ……貴方に勝ちが見えてきたのなら、その時は――

(どうするか。どうしてやろうか。今は、それを口にはしなかった。いや、形に出来るだけの物が、未だ無いのかもしれないが。
何れにせよ。仮に、少女の家が。同じく、継承権に近付くような事にでもなれば…その時は、その時か。
今は未だ。現実的な。目の前に横たわる問題、当座のそれに目を向け乍ら。)

 まぁ、第三師団以外が、結託してくれるというのなら。それもそれで、足並みが揃っている…と。言えない事もないだろう?
 凶状持ちのお嬢様には、出る杭を演じていただくという事になる…けれど。
 あぁそうとも。誰かが就くその前に、玉座その物が腐ってしまえば意味がない。

(隠された物を知る由もなく頷いた。実際、最終的な結果が異なるとしても。過程に於いては大凡が被ると言って良い。
何れ袂を分かつのだとしても、今は同じ国、同じ貴族、…同じ道行き。
必要悪と、不必要な悪とは。両立させる訳にはいかない、混じり合えば双方が腐ってしまう。
――自身は前者なのだと信じる辺りは。形はどうあれ、少女らしい夢見がち、なのかもしれないが。
ともあれ、少年は。聞き流すでも、言下に断るのでもなく。話を聞いてはくれるらしい。ならば、と一度貌を上げ。)

 国土国領だけではなく、議席と財とが、爵位を成り立たせてしまうのだから…それは、過言という物だろう?ホーレルヴァッハ殿。
 生き延びる事が出来るか否かと、我等が我等として在るか否かは――亦、別問題だ。

 ……それは。…それ、は――嗚呼。感謝する。
 貴方なら、それが出来ると信じていたし――汲んでくれるとも、思っていたんだ。私は…

(斯くして。過日の取り決めに、大きく上乗せされた物品、兵站、その他諸々の申し出に目を丸く。
少なくとも、この供給が上手く行ったなら。各師団が、諸々の理由で第三師団からの要請に応えきらない、応えきれないのだとしても。
国防への不義理、国家への背信だ、等と。大公派から余計な難癖を付けられる事はないだろう。
その上で各師団と――表から、裏から、彼等の側に立つ貴族の派閥も、立場を弱めずに済みそうだ――己を含めて。
冷戦めいた潰し合いではあるのかもしれないが。それはそれ、一方的な蹂躙となっては困る。少なくとも今は。
柔く安堵にも似た笑みを浮かべた後に…直ぐ様、表情を正してみせた。ギブと、テイク。取引だというのなら、今は未だ、半分でしかない為に。
そう。勿論。信用とは、信頼とは。一方的に成り立つ物ではないのだと。その事も解っている。)

 そうだな。一方的に施されるだけでは、示しが付かないという物だ。解っているよ…でも。
 差し出せる物は限られている。若輩で、愚昧な…そんな私にも。縋ってくれる者は差し出せない。
 くく、腐った者の名や思惑なら、私の知る分は売れるけど――それは。私にも、貴方にも。危うい物だろう?
 その辺りは、然るべき時が来る迄。使い所が出来る迄は、温存せねばならない代物だ。

 ――だから。今此処で、私が持ち得る物なんて。

(真っ直ぐに重ね合わせた瞳を。閉じた。微かに震えた指先が、少年の両肩へと力を籠める。
その侭僅かに踵を浮かせ、肢体を、体重を。己を抱く両腕へと委ねきり――唇に、唇を。
差し出すのは、血。或いは、同じ継承権と言うべきか。…否、もっと分かり易く。レーヴェナインという少女の存在、その物だった。)

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…俺に勝ち筋が見えたのなら、引き摺り落とすが良い。闘争こそ、純粋で対等な取引であり駆け引きだ。…まあ、今はまだ、互いに仮定の話に過ぎないが」

肩を竦めつつ少女の言葉に嗤う。
彼女は果たして、己の真の目的を知った時、己の理想を知った時、どんな顔をするのだろうか。
ほんの少しだけ、ソレを見てみたい気がした。

「とはいえ、各師団の連帯や結託に過度な期待を持たぬ事だ。曲がりなりにも王国の正規軍が大公の私軍と成り果てたのは、それ相応の貴族達の連帯と連合あってこそなのだからな。
…そう。腐った玉座等、座る価値も無い。自分が座る前には、丁寧に掃除しておきたいものだしな」

少女の理想と己の理想は違う。先ず何より、己の中では此の国の玉座は既に腐り落ち、腐臭を発する遺物。
それ故に、僅かな疑問を覚えるのだ。何故この少女は、未だ此の国に、この体制に希望を持っているのかと。或いは、己ならば変えられるという強い思いがあるのだろうか。
己は知る由も無いが、彼女が己の行いを必要悪だと思うのなら、此方はそもそも悪だとすら感じていないのだ。
古く腐敗した国が亡ぶのは当然であり、その時計の針を己が幾分早くしてやろうという傲慢な傍観者の様なものである。

「分の悪い賭けに乗るのは嫌いでは無いからな。とはいえ、乗るからには勝って貰わねば困る。魔族との戦争も、宮廷内の政争も、投資した金額に見合った結果を出して貰わねばな」

彼女の言葉に釘を刺す様に言葉を放つ。あくまで善意では無く、結果を求めて此方は投資したのだと。
理想に共感して投資したと彼女が思うのなら、その理想を実現する為に動いて貰わねばならない。それがどれだけ彼女にとって苦難の道徳であるのか――それはそれで、愉快ではあるのだが。

そんな思いを抱きつつ、果たして彼女が何を差し出すのかと、愉悦の色を含んだ瞳で見下ろしていた。安堵の笑みを浮かべた彼女が表情を正したのは、少しだけ勿体無いと思わなくもなかったが。

「……貴様も難儀だな。そうやって、己の身を捧げ続けるつもりか。あの晩、貴様がどうやって犯されたのか。何をされたのか。忘れた訳ではあるまいに」

予想はしていた。彼女には、自分自身そのものしか差し出すものが無いのではないかと。
だが、瞳を閉じて此方に身を預ける少女を視界に捉えながら、淡々と。さながら契約書の中身を精査する商人の様に。それで良いのかと問い掛ける。
尤も、言葉を発した直後に重ね合わせられた彼女の唇に、己の奥に潜む獣の様な支配欲と嗜虐心は頭を擡げる。
自分自身全てを差し出す様な彼女に対して、先ずはその唇を甘噛みした後、ねじ込む様に己の舌を彼女の口内に侵入させる事で答えるのだろう。

ナイン > -後日へ継続にて-
ご案内:「ハイブラゼール 高級ホテルの一室」からナインさんが去りました。
ご案内:「ハイブラゼール 高級ホテルの一室」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。