2017/01/10 のログ
■テイア > ごぷっと口腔内に血が溢れてくる。
あぁ…魔力が枯渇する。
生命力ともいうか…細胞と細胞とをつなぎ止めるだけの力がもう、ない。
霞む視界にうつるサロメの瞳は閉じられたまま、賭けは負けだろうか…。
『声』は彼女に届かなかったのだろうか。
「………。」
サロメが瞳を開いた。
掠れる声が、その唇から出る。
ああ、彼女は戻ってきた。
優しい優しい流れの中を抗って、この醜い世界に彼女は帰ってきた。
視線を巡らせれば、すぐそばに血に濡れた女が座しているのが見えるだろう。
しかし、聞こえた声はその女の声ではなかった。
はっきりとした肉声が、彼女へと届けられる。
■サロメ > 聞こえた声に目線を動かし、声の主を探し
───倒れている二人を、その眼に収める
「───っ…う…──!」
状況はさっぱりと把握できていない
けれど、自分がこの二人に助けられたのだということだけは、理解る
そしてその二人ともが、大きな代償を支払っていることも
気怠いなどと甘えたことを言えるものか
腕を突っ張り、歯噛みしてその上体を起こしてゆく
そして振り絞るように、声を投げかける
「──オーギュスト、将軍…それに、テイア……」
薄布が貼り付いただけの自分の身体を気にする程の余裕もない
ただ応じてくれることを願って二人に呼びかける
■オーギュスト > どうやら、無事なようだ。
名前を呼ばれるのが心地良い。
そうか、本当に――帰って、来たのか。
「――黙って寝てろ」
こちらも限界だ。
抱きしめてやる余裕もない。
魔力の反動で、内臓がボロボロだ。
口の端からは血が漏れている。胃から逆流したか。
だが――まぁ、死ぬ事はなさそうだ。
「はぁ――」
大きく息を吐きながら、こちらも寝転がり、頭上の月を見つめる。
■テイア > 「…………」
女は座したまま、声を出すことはなかった。
しかし唇が微かに動く
『 お か え り 』
幽世の門の内側へ干渉した代償は大きく、声も出ない。
二色の瞳には今は宝石のような煌きはなく、淀み視力を伴わない。
今動けば、細胞と細胞が瓦解して体が崩れてしまいそうだ。
それをなんとか食い止めてくれているのが、夫からの贈り物である薬指の指輪の存在だった。
■サロメ >
「寝ている、わけに、いくか───」
そのまま、身体を起こし立ち上がろうとする
「察しの悪い私にだって、二人が私に何をしてくれたかぐらいは、わかる……」
どうしてここまで
その疑問は浮かんで、すぐに消えた
この二人にとって自分が尊い存在だった、それ以上の理由があるものか
「……すまない…ありがとう───」
自分が自分に絶望している間に、
自身の身を削り横たえてまで、自分を救おうとしてくれる存在が在ったなんて
悔いもあれば、責も感じる。しかしそれよりも、感謝の言葉が、先に漏れた───
"主よ。妾のことを忘れておるじゃろう"
不満げに、剣の宝玉が小さく煌めいた
■オーギュスト > 「――――」
己にとって何が大事か。
決まっている。
己の生きている理由。野心。それこそが最も大事なモノだった。
だが。
「――帰ったら、こき使ってやるからな」
だが、こいつは。
こいつだけは。
失いたくないと、思ってしまった。
(俺も、ヤキが回ったか……)
寝転んだままで憮然とする。
死んでも言葉にはしないが。
■テイア > 全く、どこまで頑固なのやら…。
命を賭けた甲斐がないというもの。
体が動けば、拳骨の一つでも見舞っていたところだが、残念ながら体はまともに動かないし、声も出ない。
座した女の、力なく垂れた腕の先…
指先がある方向をサロメへと示す。
その先にあるのは、ビー玉ほどの大きさに圧縮され封じられた二種類の魔力の塊だった。
それを呪いを受けた本人が持つのが対価。
肌に触れるだけで、悍ましい感覚と不快感を齎すそれを、サロメは身につけなければならない。
女は言葉を話すことができないが、氷でそれを封じたゼルキエルはその事を理解していよう。
説明は、彼女の魔剣に任せるとしよう。
■サロメ >
「…私も、貴殿が留守の間の小言が山ほど溜まっていますので」
素直な言葉の応酬とはならない
負けず嫌いが伝染ったとでも思っておこう
「………」
魔剣の宝玉が光を灯せば、2つの魔力の塊は同じ色の光に包まれ、宙を浮遊しながらサロメの元へ
「…そうか、これが対価…。私に遺った、最後の罪なんだな」
自分が生み出したあらゆる負の感情も、きっとこの中に囚われている
この先これをどうするのか──それも考えていかねばならないのだろう
「……ところで、どうやって帰ります?将軍。テイア。
───もうしばらく、寝ていますか」
■オーギュスト > 「――帰るに決まってるだろ」
ずるずると身体を引き起こす。
まったく、あの技まで使う羽目になるとは思わなかった。
しばらくは休息が欲しいが、状況は待ってくれない。
そうだ、もうひとつの目的。
宵闇の城の攻略。それが迫っている。
「……おら、帰る、ぞ」
何とか立ち上がるが、体がふらつく。
まともに歩くには、もう少し回復してからでないときつそうだ。
■テイア > 「…げほっ…歩けるならば、帰るといい……帰還を喜ぶ、ものも…多いだろう…」
咳き込めば、それだけで喉から血が溢れてくる。
しかし、漸く指輪の魔力が体を巡り掠れた声がでるまでになった。
とはいえ、貯蔵していた魔力もほとんど底をついている。
しばらくはこの場から動けそうもない。
「好きな場所へ帰り…己の人生を再び歩み出せばいい。」
記憶をもったまま、戻ってこれたのは奇跡といっていいだろう。
しかし、二人共もうすこし素直になってほしいものだ。
そう心の中でひとりごちると、澱んだ瞳を閉じていく。
■サロメ > 「──了解です。ですが」
まるで命令として聞くように、力を振り絞り立ち上がる
立てかけてあった愛剣を手に、地面に突き支えにする
杖変わりにするなと文句を言われそうだが、この際である
「テイアをこのままにしてはおけません」
ゆっくりと、歩み寄る
■オーギュスト > 「――そうだな」
いくらこの男でも、恩人を放っておくわけではない。
ずるずると身体を引きずるようにして、テイアの元へと向かう。
ちなみに剣を杖代わりにする事に文句はない。
戦場では、騎士の誇りとか愛剣への誓いとか、クソ食らえである。
「運んでやらんとな……っつつ」
体が鉛のように重い。
■テイア > 「……私のことは、気にする、必要は…ない…」
二人共、他人を気遣っている余裕はないだろう。
全く、声をひとつだすだけでも激痛が走る。
「今動けば…体が…崩れてしまい、そうなんでな…放っておいてくれる、ほうが…助かるんだ…」
闇に沈んだ視界の中で、サロメとオーギュストが己に近寄ってくる気配を感じる。
ここはルミナスの森、女にとって母なる森であり、そしてこの場は女の力を高める相性のいい場所である。
危険はない。
ならば、この場でしばらくは休んで失った血と魔力を回復させるのが一番だ。
説明を行えるだけの言葉をもたないのが歯がゆいところだが、女の様子は決して強がっているようには見えないだろう。
■サロメ > 「……では、約束してくれ。──再会を」
まだ自分は、この人に何も報いていない
自分が騎士の道を選ぶ切欠にもなったこの人に、何も
踵を返す
置いていくことに気が引けるのは、勝手な感情だ
テイアの言葉信じることこそが、自分にとっては正しいことだと言い聞かせた
「帰りましょう、将軍
…とはいえ私は此処が何処か知らないのですが」
動くのもしんどそうだが、オーギュストに先導していただくしかない
まぁこの男のこと、
この場所には入れなくとも可能な範囲、距離まで部下に待機させているのかもしれないが
■オーギュスト > 「――礼はいずれする」
流石に、ここまでしてもらった。
彼女の望む事ならば、なるべく叶えてやるとしよう。
もっとも、この男が提供できるものなど、たかが知れているのだが。
「――あぁ、帰ろう」
森の出口へ向けて、よろよろと進みはじめる。
外には師団の将校が二人ほど居る、あいつらに帰路を準備させればいいだろう。
――長い夜が、終わろうとしている。
■テイア > 「ああ…また会おう…」
去ってゆく二人に、掠れた声が確かにそう告げた。
ゆっくりと時間をかけて、二人の気配が遠ざかっていく。
二人が回復すれば、第七師団はその機能を正常なものへと戻すだろう。
それは魔族の侵攻に歯止めをかける。
人間同士の小競り合いも相変わらず多いが、やはりこの国にとって現在の驚異は魔族といって過言ではないだろう。
内側から崩壊するのが早ければ、魔族の侵攻が防がれたとしてもこの国は滅びの運命を辿ることになるだろうけれど。
それでも、一つのまっすぐな魂が戻ってきた。
それは、たとえ小さな小さな、吹けば消えるようなものでも女にとっては希望だった。
ご案内:「ルミナスの森」からサロメさんが去りました。
ご案内:「ルミナスの森」からオーギュストさんが去りました。
■テイア > しん…と静寂が戻る
キィン…コォーーン…
水琴のように、雫が水晶へと落ちて高い音を出し、それは音叉のように響いていく。
ばしゃり…
静寂の中に大きな水音が響き渡る。
座していた女の体が、前へと倒れサロメが浸かっていた清水の中へと沈む。
透明な澄んだ水は、女から流れ出る血にみるみるまに紅く染まっていく。
(…水に入るだけで…一苦労だな…)
身をよじることもできずに、うつ伏せのまま水の中に沈む。
けれど、息苦しさはない。
地脈に繋がったそこから溢れる力は、空気に触れているよりも体の負担を和らげてくれる。
今はこのまま、眠りにつこう。
ご案内:「ルミナスの森」からテイアさんが去りました。